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<ケテル編> 10.珍道中

10.珍道中



 ガゴゴゴォォォォォォォォン‥‥‥‥

 ドッゴォォォォォォァァァァァン‥‥‥‥


 「何だあれは?!」


 ノトス国を東に向かって歩いているバルカンたちは背後から凄まじい爆音が響いてきたため振り返ると凄まじい光景に思わず足を止めて見入ってしまっていた。


 「あれは‥‥」


 フランが驚きの表情で遠くの光景に釘付けになった。


 「砂嵐の衝突ヴァルカジュラ‥‥」


 「なんだよそれは?!」


 どす黒い巨大な積乱雲のような塊がもう一つの塊とぶつかり合ってまるで巨大火山の噴火のような光景を見せている。

 まさに自然の脅威だった。


 「覚えていないのおじさん?‥‥まぁいいや。ここでは空の上の方から降ってくる風‥‥神の息吹デヴァプラーナ恩恵マニフィセを貰ってるの4つの国と貰ってない4つの否国があるのは知ってるでしょ?あれは貰ってない否国でおこる怒った風だよ」


 バルカンは理解に苦しんでいる。

 シアが理解できたとドヤ顔で自分が理解した内容を話始めた。


 「あっあー!フランこういうことでしょ?東西南北の4つの国は神の息吹デヴァプラーナ恩恵マニフィセとして吹き注ぐために常に一方向の風の向きによってあの異常な規模の砂嵐は発生しない。でも神の息吹デヴァプラーナが届かない否国には行き場をなくした神の息吹デヴァプラーナがどこかで集積し砂を巻き上げて更なる風の畝りを発生させて、あのような巨大な砂嵐を発生させる。その巨大な砂嵐同士が衝突を起こしたのがあの砂嵐の衝突ヴァルカジュラと言うこと‥‥で合ってるかしら」


 「うん!


 「嘘だろ!おいフラン!嘘だろ!今の難しい説明、お前絶対理解していないよな?!おい!」


 バルカンに肩を揺すられるフランはバルカンを無視してシアの方を見て笑みを浮かべている。

 そしてバルカンの方を向いた瞬間に不敵な笑みへと変化したのをバルカンは見逃さなかった。


 (このガキ‥‥恐ろしい男になるやもしれん‥‥)


 バルカンはフランの行く末に一抹の不安を感じた。


 「それよりあんなのに巻き込まれたら流石にオレたちもひとたまりもないからな。その否国ってところに入る際は気をつけよう」


 「大丈夫だよ。滅多にないってカレンおばさんが言ってた」


 「本当か?!何でわかる?!い、いやカレンを信用していない訳じゃないんだがな」


 「バルカン。私も大丈夫だと思う。神の息吹デヴァプラーナは普通の風と違って、その勢いが衰えづらいのはあるけど、流石にいつまでも勢いを失わずに吹き続けることはないはず。これは人智を超えた技であろうと、物理限界や自然の法則を完全に無視はできないという理屈からね」


 「??」


 バルカンはシアが何を言っているのか理解に苦しんだが、当の本人はそのようなことはお構いなしとばかりに話を続ける。


 「それに海へ流れ込んだ風は上昇気流となってさらに風を巻き上げる。つまり地上に残り続ける神の息吹デヴァプラーナの風力量はそう簡単に蓄積しないの。そして稀に蓄積した風溜まりから生まれる畝りが砂を巻き上げてあのような砂嵐になるんだわ。あの砂嵐そのものが稀だからあの衝突自体は頻繁には起こらない‥‥おそらくは40〜50年に一度くらいのペースじゃないからしら。あくまで私の簡単な計算からだけど。でも確かにあの砂嵐、単体で動いているものもあるでしょうから一応の警戒は必要ね。砂嵐単体でも十分な破壊力があるし、フランを守らなければならないから」


 「その通りだよお姉ちゃん!そんで僕お姉ちゃんに守ってもらう!」


 「ありがとうフラン。あなたはとても賢いのね。もちろんよ、あなたは私が守ってあげるわ」


 「えへへ」


 (嘘だろおい!お前は分かってないだろ!ええ?!オレもついて行くのがやっと、いやついていけてないんだからよ!お前はもっとついていけてないだろ!ええ?!フランよ!)


 そんなバルカンの心の声を見透かしたかのようにフランはゆっくりと振り向いて横顔を見せた状態でほくそ笑んでみせた。


 「!!」 


 (くそー!くそ!くそ!くそ!あのガキ!一体なんなんだ!全くよー!連れてこなければやかったぜ!)


 バルカンは自分だけ馬鹿にされている気がして年甲斐もなく拗ねた。


 「さて、このまま真っ直ぐ東へ向かえばアペリオという否国に入るわ。あと1時間もすれば日が暮れるはず。今日はここで野営にしましょう」


 そう言うとシアはバルカンが背負っている大きなバックパックを手伝って下ろした。


 「今晩の飯の調達ついでにちょっとこの辺の魔物状況を見てくる。ここがどんな場所かわからないからな!お前たちの安全はオレが確保する!オレがな!」


 バルカンはフランをチラ見しながら言った。


 「了解したわ」


 「お姉ちゃん!僕は周りに警戒しながらテント張りを手伝うよ!お姉ちゃんを守るのは僕だからね!」


 「ありがとう、フラン。頼もしいわ」


 「えへへ」


 そしてお決まりのようになった振り向き様横顔を見せてのほくそ笑み攻撃がバルカンの大ダメージを与える。


 (ぎゃふん!‥‥‥‥このクソガキはどこかでこのねじ曲がった性格を直してやらねばならんな!)


 「じゃぁ行ってくる!」


 バルカンの ”行ってきます” 宣言をまるで聞こえていないかのように無視する二人は仲良くテントを張り出していた。


 「‥‥‥‥」


 無言のままその場を後にしたバルカンは周囲の探索を始めた。

 周囲を足速に散策し魔物等の危険があるかどうかを確認する。

 いくつか魔物の巣らしきものは見つけたが強力な魔物ではなく、意思疎通の図れないいわゆる野生の魔物であり、テント周囲に魔物接近を知らせる罠を仕掛けておけば十分対処できるものと判断した。


 「異常なしか‥‥。なんだか意外と静かな世界なのかもな‥‥このケテルってところは‥‥」


 ふとバルカンは遠くの山に目を止めた。


 「!!」


 よくよく目を凝らして見るとそれは山ではなく巨大な象である事が分かり驚くバルカン。

 距離とそこから見える大きさから推測すると高さ30メートルはある象であり、明らかに普通ではなかった。


 「魔物か?!」


 (い、いや象‥‥‥‥だよな‥‥それにしてもあのデカさ、異常だろ‥‥)


 魔物と見間違えても仕方ない大きさにどうするか思案するバルカンはしばらく様子を見ることにした。


 (向こうからオレの姿は肉眼では見えていない筈だが鼻が効くはずだからオレの存在には気づいている筈だ・・・・どうするか・・・・)


 グゴォォォォォォ・・・・・・


 超巨大な象はゆっくりと鼻を北に向けて一歩一歩歩き始めた。

 バルカンの存在など気にもとめないと言った雰囲気で何の反応もなく去っていったため、取り敢えず一安心だとして、シアによって張られているはずのテントに戻ることにした。

 向かう途中、ウサギのような小動物を捕らえたため今晩の食糧は確保できた。



・・・・・


・・・



 「風の化身だ!」


 食事中の会話に反応したフランが驚いた声で叫んだ。

 バルカンが見た超巨大な象の話をしたのに対しての反応だった。


 「風の化身?何だそりゃ?」


 「風の化身は風の化身だよ!おっきい象は風の化身って決まってるんだぞ!」


 (あぁそうかい!決まってんのかい!)


 口にはださないが、バルカンとフランは子供のような喧嘩状態だった。

 当然、フランのペースに完全にバルカンがハマってしまっているのだが。

 そして物知りな自分を誇示するかのようにドヤ顔で声をはるフランに、子供に説明を求めた自分の配慮が足りなかったと反省してみようと大人ぶってみるバルカンだったがどうにもイライラが治らない。


 「30メートル級の象・・・・風の化身・・・・」


 シアは何かを考えている様子だったが結論に至らなかったようで何も言わずに食事を再開した。

 食事を摂るシアのスプーンの動きが止まった。


 「そう言えばこの料理、なんて言ったっけ・・・・肉鍋?・・・・少し塩辛いわね。私たちの健康も考えて作ることをお勧めするわバルカン。あなたが早死にするかどうかは私には関係のない事だけど、私たちに作るなら私たちの健康は無視しないことね」


 「・・・・・・・・」


 バルカンはスプーンを握る手を止めて沈黙した。

 ”ならば自分で作れ” と言いたかったようだが、最早このメンバーで自分に味方する者がいない現実にせめてスノウと再開するまではに我慢しようと決めたのであった。

 徐々に目が虚ろになっていく。



・・・・・


・・・



ーーー翌日ーーー


 テントを畳んだ3人はフランの歩くスピードに合わせて東へ向かった。


 「次の都市では少し腰を据えてクエストをこなして馬車か馬を調達しよう。かなり進むスピードが遅い」


 「そうね。長距離の徒歩移動は移動手段として適さないわね。体力の消耗もあるし、何より食糧がより多く必要となるから」


 「僕は大丈夫だよ!」


 シアはそう言うフランの前にしゃがんで目線を合わせて言う。


 「フラン。あなたは頑張ってるわ。でも時間がないの。急いで行こうとしたら一日中全力で走っても間に合わないくらいだけど耐えられる?多分私でも無理ね」


 「‥‥そっか‥‥‥‥お姉ちゃんでも無理なら僕も無理だね。じゃぁ馬車か馬を買おう!」


 「いい子ね。そうしましょう」


 (シアのやつ、フランを上手く手懐けてるな・・・・あぁあ、オレこんなに孤独感感じたの久しぶりだわー。早くスノウを救い出さないと・・・・)


 スノウを救い出す動機が不純である事に気づいたバルカンは慌てて首を横に振った。


 「どしたのおじさん。蚊でも飛んでるの?」


 「気にしないでフラン。このおじさんよくやるのよ、変な動作」


 「あはは、変なのー」


 「あははは」


 「あははは」


 「・・・・・・・・」


 (スノォォォォォォォォォォォォォ・・・・)


 バルカンの心の叫びがケテルに響く。

 バルカンは、動機は不純であろうと構わないとばかりにスノウを恋しがって心で泣いた。



・・・・・


・・・



 それから3日ほど歩き続けた3人はいよいよノトスを越えて否国アペリオに入った。

 アペリオにある主要な都市はカイトンだった。

 バルカン一行はその都市を目指す事にした。


 「クレアの話だと次のカイトンという都市は亜人の統べる場所だと聞いたわ」


 「亜人?一言亜人って言っても色々だろう?どんなタイプだ?」


 バルカンが質問する。


 「いい視点だわ。人間から見れば ”人“ という表現は自分たち人間の事を表していると勝手に思っているものね。エルフだってドワーフだって、オーガだって、ドラコニアンだって、ホビットだって、獣人だって ”人“ と言ったらそれぞれ自分の種族を表していると考えている訳だから亜人となれば何を基準とした亜人かという難しい話でもあるわね」


 「ああ、はい‥‥で、その賢いさんのご意見はいいからどんな亜人なんだ?」


 「分かるわけないでしょう?私はそのカイトンという都市には訪れた事ないんだから」


 「ですよねー」


 ケテルに来てからまともな会話が出来ていないバルカンはどんどん気持ちが鬱々ととしてくるのを感じていた。


 (あぁいっそのことひとりになりたい・・・・)


 トントン


 「?」


 背中を優しく叩く感触があり振り向くとフランが心配そうな目を向けている。


 「おじさんも大変だね」


 (おめーが言うなー!!)


 心配してくれてるようなこの表現が、気遣って言ってくれているものではなく、明らかに馬鹿にされているのが分かり、苛立ちが最高潮に達しそうなバルカンだったが、心優しいバルカンはグッと堪えて笑顔で返した。


 「へんな顔」


 (きーーーーーーーーー!!!)



・・・・・


・・・



 そこから更に2日歩き続けた。

 アペリオに入って以降はバルカンがフランを背負って歩いたためかなり進むスピードが上がったがそれでも2日かかる距離だった。

 道中余程疲れたのかフランはバルカンの背中で寝てしまうことが度々あった。


 (寝顔は可愛いんだがなぁ‥‥‥)

 

 心優しく子供好きなバルカンは、フランを憎たらしいと思いながらもどこかで可愛い弟のように思っていた。

 当の本人からはおじさんよばわりされているのだが。

 

 この2日間、特に強力な魔物とも遭遇せずに基本的に安全な旅だといえた。


 そしていよいよ高い外壁に囲まれた大きな街らしきものが見えて来た。


 「あれがカイトンか?」


 「おそらくそうね。位置的にカイトンだと思うわ。そもそもこのアペリオには大きな都市はひとつだけらしいからあの規模であれば間違いないわね」


 亜人の支配する都市カイトン。

 シアの異常な強さは置いておいて、人間である3人はカイトンで受け入れられるのか全くわからない状態だったが、とにかく足を踏み入れる事にした。

 その先のエウロスに向かうために馬か馬車と物資の調達が必須であり、その資金の調達の為にはクエストをこなさなければならなかったからだ。

 

 (クエストは流石に人種的な差別や拒絶対応はないだろうな。あそこは中立中庸のフォックスが管理しているから、彼らの視点でいえば、クエストを受けるに相応しい強さがあるかどうかと、クエストをクリアした者には適切に成果報酬を支払う‥‥この二つは絶対に守るべきルールのはずだからな‥‥)


 バルカンはそんなことを考えながら、最悪街の外で野営をしながらクエストをクリアして成果報酬を得て、馬か馬車、物資の調達を終えたらエウロスへ向けて出発すればよいと考えていた。


 そしてカイトンの門の前に辿り着いた。


 (待ってろよスノウ‥‥必ず助け出すからな!)


 バルカンは決意新たにカイトンへと足を踏み入れた。






珍しくほのぼのストーリーを書いてみました。ケテルはより一層展開が激しいかと思いますので、キャラがよく分からず死にキャラになってしまうかもしれませんので、ちょくちょくキャラの感情を表現するようなストーリーを入れていければと思います。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます。

楽しんでいただけているようでしたら高評価やレビューを頂けると幸甚です!

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