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<ケテル編> 9.砂嵐の衝突(ヴァルカジュラ)

9.砂嵐の衝突ヴァルカジュラ



 ゾゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‥‥‥


 「予想以上にでかいな‥‥」


 アカルが心の声を漏らすように言った。

 そして少し考え込んだ後、指示を出す。


 「カルナ!こいつは少し骨が折れる。失敗する可能性はゼロに近いが、念の為だ。マパヴェへ戻って万が一のために備えろ。ラザ、グインガ域長と連携して人々の安全を最優先にして対応するのだ」


 「はい!」


 カルナは凄まじい勢いでマパヴェへ戻っていった。


 風が砂嵐ヴァールカの方から吹き寄せてき始めたのか、風が激しくなってきている。

 アルジュナは大きな皮袋を右肩に担ぎ、異様に長い鉄杭を3本ほど左肩に担いで立っている。


 「師匠!」


 「ああ、わかっている」


 アカルは腕を組んだまま双方の砂嵐ヴァールカを見ている。


 「右だな」


 「東ですねー。でも何で?!」


 「チッ!‥向こうの方が早い。あいつを動かせれば砂嵐の衝突ヴァルカジュラをマパヴェの手前にずらせる。ワサン、シンザ、お前たちはここで見ていろ。ジュナがヘマをしたらシメておいてくれ。ジュナ、準備はいいな。ちゃんと受け止めるのだぞ!」


 「随分な言われようだわー‥‥わかってますって!大丈夫ですよー」


 アカルは笑みを見せると凄まじい勢いで砂嵐ヴァールカの間の方へ飛んでいくように進んでいった。

 同時にアルジュナは東の方へ進んでいった。


 「何をしようって言うんだ?!」


 「さぁ、わかりません。あの人たち半分神なんですよね。ほら、何て言いましたっけ‥‥神技シンギっての使ったりするんですかね。越界者たちが使える天技とは何が違うんですかね」


 「オレが知るわけないだろう。って言うよりお前、結構物覚えがいいよな」


 「ありがとうございます」


 そんな会話している最中、砂嵐ヴァールカが両方向から迫ってきている。

 風の強さが増し、普通の人間なら完全に吹き飛んでいる状態となっている。


 「僕らここにいていいんですよね‥‥?」


 「ああ。ここでアルジュナをシバけと言われたろう?」


 「シメろ‥‥ですけどね」


 徐々に不安になってくるワサンとシンザ。


 「!!‥‥あれ!あれ見てください!」


 シンザが指差したのはアルジュナの方だった。

 アルジュナは抱えていた鉄杭を3本とも、自分の周りに斜めに地面に刺して自分が弾き飛ばされないように固定している。

 手際よく固定した後、口に加えていた大きな皮袋を手に持って口の部分を持った。


 「おい!あっちもだ!」


 ワサンはアカルが向かった方向を見ている。


 彼女のいる場所あたりから光の柱が立ち上っているのが見えた。


 「神技‥‥ヒノアラシ」


 アカルの体が眩く光始めた。

 周囲の空気が急激に暖められる。

 アカルは真上を見ながら両手を広げた。


 「立ち登る気よ‥‥嵐を巻き起こせ」


 そう言うと、アカルは回転し始める。


 ブワンブワンブワン‥‥‥・


 空気が暖められて上昇しながら渦を巻いている。

 アカルは数分回ると動きを止めたが、周囲の空気の流れは渦を巻いたまま止まらずに周囲の空気をさらに巻き込んでいる。

 東の砂嵐ヴァールカが、アカルの生み出した台風に少しずつ取り込まれ始めている。


 「風の流れが‥‥変わった?!」


 ワサンは、自分たちに吹いていた風の流れが徐々に変わっていることに気づく。

 北西から押し寄せる砂嵐ヴァールカには変化はないが、東から押し寄せるそれの風は徐々に北へ流れ込んでいる。


 ブワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!


 アカルのいた場所に巨大な台風のようなものが出来上がっている。

 ワサンの周囲の風も凄まじい畝りを生じ始めて流石のふたりも地面に打った杭に掴まらないと飛ばされる状態となっている。


 「あのアカルと言う女!まさか東から来る砂嵐ヴァールカを自分の方に引き込もうとしているのか?」


 「どうやら!そのようです!ですが、あの超巨大な砂嵐ヴァールカは動かしきれませんよ!」


 その時だった。

 東の砂嵐ヴァールカの向かって右側に陣取り大きな皮袋の口を持って構えているアルジュナは皮袋の口を大きく開いた。


 ブギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!


 アルラウネの叫び声のような甲高い爆音が周囲に響いたと同時に皮袋の口から凄まじい暴風が噴き出した。

 皮袋の大きさとは釣り合わない空気量の凄まじい暴風が東の砂嵐ヴァールカを右端からアカルの作り出した台風の方へ押し込んでいる。

 アルジュナの皮袋を持つ腕には血管が浮き出て筋肉も異常なほど盛り上がっており、この暴風を吐き出している皮袋を持つのが如何に過酷かを物語っていた。



 「砂嵐ヴァールカが‥‥動いている」


 まるで生き物のようにアカルの生み出した台風に襲いかかる東の砂嵐ヴァールカ


 ガッバアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!


 そして凄まじい轟音と共にアカルの作り出した台風を飲み込んだ。

 そのまま進路を変えた東の砂嵐ヴァールカは北西から押し寄せる砂嵐ヴァールカの方へ向かっている。


 「す‥‥すげぇ‥‥あの砂嵐ヴァールカの進路を変えちまいやがった!!」


 驚くワサンとシンザ。

 自然の猛威とでも言うべき超巨大な砂嵐の向きを強引に変えてしまった力の凄まじさにただただ驚くばかりだった。


 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォ!!!

 ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!

 バリババリバリバリバリ!!!!

 ドッゴォォォォォォォォォォン!!!!


 超巨大な砂嵐ヴァールカが衝突した。

 砂嵐の衝突ヴァルカジュラと呼ばれる天変地異はそこにあるものを確実に破壊し尽くすものだった。

 衝突部分からは数えきれないほどの凄まじい稲妻を発しており、集まった稲妻は天に登り天界を破壊し尽くすのではないかと思われるほどの威力を発している。

 そして、衝突と共に方々に散りながらも衰えない風は竜巻となり、周囲を破壊し尽くしている。


 衝突は10分ほど続いたが、消え去るのはあっという間だった。

 大量に運んできた砂を降らせ、巻き上げた様々物が落下してくる。


 「!!」


 ワサンたちがアルジュナの方を見ると、3本の大きな鉄杭がアルジュナの腹や背中に食い込んで血を吹き出している。


 「助けないと!」


 「だ、大丈夫だ!!」


 アルジュナは叫ぶと、皮袋をワサンの方へ投げてよこした。


 「ゴッズアイテムだ!預かっておいてくれー」


 そう言うと、アルジュナはアカルのいた方向に凄まじい勢いで大きく跳躍した。


 「ワサンさん!あれ!」


 はるか上空から落下している人らしきものが見える。


 「アカルか!」


 体は力を失い、風の動きに任せるままに意識のない状態で落下してきている。


 ガシィィィィィィィ!!!


 そこへ大きく跳躍したアルジュナが辿り着き、アカルをキャッチした。


 ドザン!!


 ガシィィィ!!


 地面に着地したアルジュナは力尽きたとばかりにそのまま倒れ込むが、ワサンとシンザによって抱えらた。


 「すまない‥‥地下都市の域長の家まで運んでくれ‥‥」


 そこでアルジュナは意識を失った。



・・・・・


・・・



―――マパヴェ 域長邸―――



 アカルとアルジュナの手当がなされている。

 この地にいる医師が総動員で治療に専念していた。

 この地下都市内にも病院はあるが、アネモイ剣士協会の半神が重傷としれてはよろしくないということで域長邸に運びこんで、そこに医師が集結して手術と治療を行なっているのだった。

 このような状況は過去にもあったようで、域長邸内にもこの地で得られる医療設備が設置されていた。


 「半神だから死なないんだよな」


 ワサンはカルナに問いかけた。

 むしろ、死なないと答えろという確認のようだった。


 「い、いえ‥‥。僕たち半神は神の力を宿したモータルです。ある程度の年齢まで到達したら不老となりますが不死ではありません。人間や長寿のエルフたちほど柔ではありませんが、深傷は負いますし血が足りなければ死にます。病気で死ぬことだってあります」


 「馬鹿な!それじゃぁ!」


 「大丈夫だ。アルジュナはともかく、アカル様は勇気はあるが無謀じゃない。ちゃんと生還する目論見があっての行動だ。これくらいのダメージは覚悟なされていただろうし、これくらいのダメージでは死なないと計算されていたから、今回のような荒技をとられたのだろう」


 ラザが割って入ってきた。

 アカルのことは尊敬しているようで、その強さと判断を完全に信じ切っている様子だった。


 「でも、アルジュナさん、胴体千切れそうでしたよ」


 シンザが身も蓋もないことを言ったため、他の三人は目を見開いて見合った。


 「ア、アカル様が想定されていたのはご自分だけで、アルジュナのことは気にしていないのかもな」


 「ちょっとラザ!不謹慎なこと言わないでよ!」


 「すまん」


 カルナに突っ込まれて流石のラザも言いすぎたと反省したようだ。

 結局手術と治療は一晩続いた。



・・・・・


・・・



―――3日後―――



 アカルとアルジュナは目を覚ました。

 看病に当たっていたカルナがワサンとシンザを呼んだ。

 病室となった部屋には医師数人とラザ、グインガ域長がいる。


 ガタン!


 勢いよく部屋に入ったワサンとシンザにアルジュナが軽く手をあげて笑顔で挨拶した。


 「よーう」


 「大丈夫なのか?」


 「ワサンとシンザ。お前たちも私たちの回復を待っていてくれていたのだな。心配かけてすまない」


 アカルが答えた。

 彼女は全身に包帯を巻かれているが至って元気そうだ。

 一方のアルジュナは全身拘束されている状態で見るからに重傷だった。

 だが、意識が戻ったと聞いてワサンとシンザは安堵の表情を浮かべた。


 「やっぱりアルジュナさん、胴体千切れそうだったんですね」


 「あははは!イテテ‥‥シンザ‥‥お前面白いな。そうだジュナは上半身と下半身が別々になりそうだったんだ。想像力が足りないから面白いことになっているのだ。‥‥そっちの方が強くなるかもな。あははは」


 「あははって、笑いごとじゃないでしょー」


 動けないアルジュナにさほど重傷ではないアカルが揶揄った。


 「アカル様!兄さんは重傷なんですからあまり揶揄わないでください!」


 「カルナぁ‥‥」


 アルジュナは涙ぐんでいる。


 「あはは、すまないなカルナ。面白い状況につい揶揄ってしまった」


 「それにしてもすごい力だな。あの砂嵐ヴァールカの進路を変えて砂嵐の衝突ヴァルかジュラの位置まで変えちまうんだから」


 「ああ、あれなー。すごいのは師匠の方だよ。神技しんぎで台風を巻き起こしちまうんだからなー。俺はただ皮袋持ってただけなんだわー」


 「確かに」


 「おーい!」


 アカルが揶揄ってはいるもののあの凄まじい暴風の勢いに耐えたアルジュナの強靭な肉体とその貢献は皆理解していた。

 もちろん砂嵐の衝突ヴァルカジュラに飲み込まれても生還したアカルのさらに凄まじい強靭な肉体への理解もだが。


 「そういえばアカル様、あの風の皮袋、よくアイオロス様が貸してくださいましたね。流石はアカル様の人徳といいいますか‥‥」


 「ああ、あれはちょっと拝借してきたのだ。悪いがカルナ、今度返しておいてくれ。多少しばかられるかもしれないが、殺されはしないだろう。アルジュナに頼まれたとでも言っておけ」


 「ええええ!!」


 カルナは項垂れた。


 「あの皮袋は一体?」


 「ああ、あれはアネモイ剣士協会の創設者であり風の神であるアイオロス様の持ち物でゴッズアイテムです。あの皮袋には無限に風を取り込んで置けるんです。風量や風速など全てそのままに取り込めるというすごいアイテムで、昨日アカル様と兄さんが暴風帯まで出向かれてそこに吹き荒れる風を大量に取り込んでおいたのです」


 「風を溜めておける袋‥‥確かにすごいな‥‥」


 ワサンは世の中まだまだ知らないことが多いなと思った。

 そんな会話の中、アルジュナが真面目な顔で話し始めた。


 「そうそう、ワサン、シンザ‥‥。俺がこんなになってしまったから‥‥お前たちを東へ案内するのは少し先になりそうだ」


 「なにしろアルジュナは全治1週間らしいからな」


 ラザが付け加えたが、あの重傷で全治1週間とは自然治癒にしては驚異的な回復力だった。


 「まぁそうらしい。お前たちはどうしても急いで東へ行かなければならない理由があったんだろう?地図を渡すからそれを頼りにお前たち二人で東へ行ったらいい。クエストもこなせるようになったようだし、この世界で生きていく術は身につけたよなー?」


 「ああ、大丈夫だ。だが、救ってくれたお前を置いて行くというのも気がひけるな」


 「嬉しいこと言ってくれるじゃないのー。お前とはいい友人になれそうだなー」


 「断れよワサン。こいつと友達になったら碌なことがないぞ」


 「ラぁザぁーお前ほんとに意地悪だよなー」


 『あはははは‥‥‥』


 和やかな感じで会話が終わった。



・・・・・


・・・



 翌日、ワサンとシンザはアカル、アルジュナ、カルナ、ラザ、グインガ域長に別れを告げて東に向けて出発した。







<バルカンたちの居場所>


挿絵(By みてみん)



最後に地図と神の息吹デヴァプラーナによってバラバラになってしまったバルカンたちの居場所を記したものを添付しています。

本編の中ではわかりづらい部分かと思いますのでご参考になればと幸いです。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

楽しんでいただけているようでしたらぜひ高評価、レビューを頂けるとモチベーションが爆上がりします!

どうぞよろしくお願い致します!

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