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<ケテル編> 8.アカルヒメノカミ

8.アカルヒメノカミ 



 ワサン、シンザと共に行動しているアルジュナ一行は、南西に位置する否国リプスに入った。

 馬車をしばらく進めたところにある、高い壁に囲われた街に着いた。

 そこはマパヴェと呼ばれる街だが、中に入ってみると街の様相を呈していないことにワサンたちは驚く。

 美しい緑に囲まれゼピュロス第2の都市メイザーとは全く違う景色がそこにあり、廃墟のようになった建物とその影で空な目で呆然としている人々がいたからだ。

 だが、その数も少なく街の住人自体が異常に少なく見えた。


 「この街‥‥異常に人が少ないですね。もしかして砂嵐ヴァールカにやられてしまったとか?」


 「いえ違います。ここにいる人たちは溢れている人か、余所者たちでしょう」


 「??‥‥どういう意味ですか?」


 「このマパヴェには遥か昔に作られた地下空間があるのです。そこに大半の人々が暮らしているのです」


 カルナが説明した。


 「カルの言う通りだが、地下空間もそれほど大きい訳じゃないからねー。住める人数も限られるんだよ。地上に出ている人は言わば、街から追い出された者たちも多いんだ」


 アルジュナが続けて説明した。


 「なるほど。確かに地下なら砂嵐ヴァールカの影響は受けませんね。でも地下だけで生活し続けられるものでもないでしょう?水が必要でしょうし、作物も作らなければならないし‥‥植物には日の光も必要ですよね?」


 「お前詳しいんだなー。その通りだよ。あそこに高い壁の一帯があるだろう?あそこが農業地帯だ。でも壁は持つんだが屋根がね。毎回砂嵐ヴァールカで吹き飛ばされてしまう。その度に地下から出てきて修理するっている繰り返しだ」


 「しんどい生活だな」


 「風と共に生きるってのはそういうことらしいよ。と言っても4国は神の息吹デヴァプラーナに守られているから、否国だけだな。風と共に生きてるってのはなー」


 「それではマパヴェに入りましょう」


 アルジュナたちは地下都市に入る権限があるようで、ワサンとシンザも仲間として地下都市に入れてもらうことができた。

 これもアルジュナが否国と呼ばれる地域を中心に守ってきた功績と信頼があるからだった。


・・・・・


・・・



―――マパヴェ―――


 

 古代文明が切り開いたと言われる1km角の地下空間に街を形成したのがここマパヴェだ。

 砂嵐ヴァールカの影響は受けないものの、決して裕福な生活とは言えなかった。

 それでもマパヴェの住人たちには笑顔があった。


 「おかえりなさいアルジュナ様!」

 「アルジュナ様!今回は長く滞在頂けるんですよね?!」

 「アルジュナ様!」

 「カルナ様もご一緒ですね!」


 どうやらアルジュナたちはこの街では人気者らしい。

 すれ違う人々は皆アルジュナたちに話しかける。


 「流石人気者ですね」


 シンザがアルジュナを持ち上げる。


 「世辞はいらないよー。これは俺たちがこの街にとってちゃんと役に立ち助けになっているかのバラメーターだよ。ニンゲンは打算的でもあるからね。少しでも自分たちの意に沿わないことをされた瞬間に敵視したり拒絶したりするもんだから」


 「随分と冷めてるんだな。ここの人々を嫌っているように聞こえたが?」


 ワサンが鋭い質問で返す。


 「手厳しいな。まぁ好きかどうかと信じているいかどうかは違うということだよ」


 そんな会話をしている中、前方から一人の老人がやってきた。


 「ようこそお越しくださいましたアルジュナ様、カルナ様」


 「おお、グインガ域長」


 グインガ域長と呼ばれた老人は小柄だったが、どこか若々しい感じのある鋭い目を持った人物だった。


 「そちらの方々は?」


 「ああ、紹介しよう。旅先で仲間になったワサンとシンザだ。こちらはこのマパヴェを中心にこのリプスを取りまとめている域長のグインガさんだ」


 「ワサンだ。よろしく」

 「シンザです。以後お見知り置きを」


 「これはこれはご丁寧に。こんな歳ですが一応取りまとめやらしてもろうとるグインガと申します。アルジュナ様とご一緒とあれば、我らにとっても大事なお客様です。この通り雑然としておりますがどうかごゆるりと」


 「ありがとう」


 ワサンとシンザが礼を言った後、一行は域長の住む建物に案内された。

 建物はこの地下の街で最も大きな建物であった。


 「良いタイミングでしたな。アカル様もいらしております」


 「え!!」


 アルジュナの表情が急にオドオドと落ち着きをなくし始める。


 「どうしたんだ?アカル様という名を聞いた瞬間に急にびくつき始めたぞ」


 ワサンはカルナに小声で質問した。

 カルナは小声で返す。


 「お会いすればわかりますよ。あの落ち着きのない様子の理由が」


 ワサンは内心少し楽しみだった。

 アルジュナはワサンから見ても強者であり、そんなアルジュナにオロオロと慌て落ち着きのない態度を取らせるアカル様とはどれほどの者かと思ったからだ。


 ドクン‥‥!!


 とある扉の前に着いた瞬間、アルジュナの背筋がピンと伸びた。

 気づくとワサンも同じように背筋を伸ばしている。


 「!!」


 (すごい緊張感を抑えきれない荘厳なオーラ‥‥これは一体?!)


 カルナ、ラザも背筋を伸ばしてこめかみから汗を滴らせている。

 カルナはワサンに目を向けて “これが理由です” と言わんばかりの表情を浮かべている。

 グインガ域長とシンザはいつもと変わらない様子だった。


 コンコン‥‥


 「入れ」


 「!!」


 女性の声に驚くワサンとシンザ。


 ガチャ‥‥


 扉を開けると20畳ほどの広い部屋が確認できた。

 中央には大きめのテーブルがあり、そのテーブルの前に立っている女性が見える。

 こちらの背を向けているため顔は見えないが、身長は180センチメートルほどで、髪はポニーテールのようにしているが、髪の色が美しい濃い蒼色に輝くような金色の髪が混じった状態で蒼と金の美しいコントラストに目を奪われた。

 日本の袴のようなものを着ているがその色は髪の色と同様に深く澄んだ蒼色をしている。

 腰には長い刀を携えており、背中には弓と細い矢筒を背負っている。


 その美しさから皆部屋に入るのを忘れてしまっていた。


 「どうした、入れ」


 皆洗脳されているかのように言われるまま部屋に入った。


 「ご、ご機嫌麗しゅう、ございます。師匠」


 「その言葉遣いはやめろ。相変わらず気持ちが悪い」


 「はい!」


 アルジュナが汗だくになりながら応対しているのを見て思わず笑いそうになるワサンとシンザだった。


 ガシィ!!


 「元気そうではないか!」


 目の前の女性は突如アルジュナにヘッドロックをかけて脳天をグリグリゲンコツで抉ってみせた。


 「いでででで!!」


 「あははは!そうだ!お前はそうでなくてはな!」


 「相変わらずのドS師匠だわー」


 「ん?何か言ったか?」


 「いえいえいいえ!」


 アルジュナはブルブルと首を横に振って否定した。


 「その者たちは?お前の客人か?」


 「ワ、ワサンとシンザといってゼピュロスで出会った者たちです。暴風帯で頭を打ったみたいで記憶を失っているらしいのですが、とにかく東に行きたいっていうので一緒に行動しているわけです。こいつらかなり強いんで助かってますがねー」


 女性はヘッドロックを解いてこちら側に振り向く。

 美しいその顔に一瞬見惚れてしまったが、その奥の鋭いオーラで我に返ったワサンとシンザはお辞儀をして挨拶した。


 「ワサンとシンザだ。よろしく」


 「アカルヒメノカミだ。アカルでいい‥‥?‥‥お前‥‥」


 「?」


 ワサンはアカルと名乗った女性が何やら意味深な表情で見つめているのを見て眉を顰めた。


 「いや、何でもない。こいつらは私の弟たちみたいなものだ。仲良くしてやってくれ」


 ワサンとシンザは軽く頷いた。


 「それでジュナ。偶々この地へ寄ったのだろうが都合が良かった。これを見ろ」


 アカルは目の前のテーブルを指し示した。

 そこには大きな長方形の箱の中に敷き詰められた砂が風で何かを形作っている。

 まるでホログラムのように何かを形作っているその姿はケテルの全体像とのことだった。

 その中で動きのある部分がいくつかあった。


 「!!‥‥こ、これは!!」


 「そうだ」


 「お師匠様!これって100年に一度あるかないかと言われる砂嵐ヴァールカ衝突ヴァルカジュラじゃないですか!ついこの間発生したばかりと聞いています。その影響でカイキアの都市ジジギーンが壊滅したと!?」


 カルナが声高に言葉を発した。


 「流石はカルナだな。だが、壊滅はしていない。あそこはエークエス‥‥旧神の生き残りたちがいて彼らがそれを防いだようだ。まぁそれも全てではないが、やつらの作り出した影どもは救えているはずだ」


 (旧神?!‥‥この世界には神がいるのか)

 (これは情報収集をしっかりやらないとこの先の道中厳しいでしょうね)


 ワサンとシンザは目で会話した。


 「あいつらにまだそんな力が‥‥。それはそうと、なぜこんな立て続けに砂嵐の衝突ヴァルカジュラが発生するんですかー?!」


 「その語尾を伸ばす癖、いい加減に止めないと絞めるよ」


 アルジュナは舌を出して申し訳なさそうな仕草をした。


 「なぜかは分からない。だが、砂嵐の衝突ヴァルカジュラがこのままだと明後日にはこのマパヴェを直撃する。流石にこの地下は無事だろうが、地上にある農場区域は壊滅状態になるだろう。農場区域が壊滅状態となればこの地下都市の住人は2ヶ月もあれば餓死することになる」


 「このことはこのマパヴェの住人は知っているんですか?!」


 「いえ、まだ伝えておりませぬ‥‥。というより言えるわけもありません。言えば悪戯に不安を煽るだけ‥‥何せ我らにこの地を出ても行き場所などありません故‥‥」


 「確かにそうだなー‥‥師匠どうしますか?」


 「語尾を伸ばしたな。後で締めるとしよう。それでどうするかだが‥‥協会に援護を頼んでも明後日では間に合うまい。それにお前も知っての通りやつらの否国に対する理解は極めて後ろ向きだ。仮に協力してくれてもアキレスとユディステラくらいだろう」


 「まぁそうですよねー。ヘラクレスが来てくれれば嬉しいけどあいつはゼウス派だからなー。まぁ来ないでしょうね」


 「アキレス様が来てくれたらなぁ」


 「あの人やる気ないからだめだろー」


 「まぁそう言うな。あいつはあいつなりに色々と頑張っているんだ。そしてジュナ、お前の言う通りゼウス派の協力は得られない。となれば我らでなんとかするしかないだろう」


 「はぁ?!無理でしょ!無理無理!‥‥!!」


 アルジュナは手を横に振って明らかに無理であるアピールをしているが、アカルの鋭い眼光に固まった。


 「無理だと言うなら無理となる。言葉には気をつけろ。やるんのだ。やると決めたらやれる。相変わらず楽観主義なくせに臆病だな。いいか?やるのだ。わかったな」


 「はい‥‥でもどうやって?!」


 「こんなこともあろうかと拝借したもがある」


 「え!!まさか!!」


 アルジュナはまるでマンガのようにズリこけた。


 「師匠には敵わないわー。つーか俺死んだかも‥‥」


 どうやらアカルには策があるようだ。

 アルジュナはそれが何かわかったらしいく暗い表情に変わった


・・・・・


・・・


 翌日、アカルとアルジュナは留守にしていた。

 明後日の砂嵐の衝突ヴァルカジュラに備えて何か準備をしているらしかった。

 ワサンとシンザは時間が惜しいとばかりにこの地下都市にもあるフォックスに立ち寄り簡単なクエストを二つこなした。

 そこそこの宿やであれば10日以上は宿泊できるだけの報酬が得られたため、経済的には問題ない状況になったと判断した。


 「そろそろ東へ経つべきか」


 「そうですね。スノウさん‥‥おそらくまだ生かされていると思いますす、あのスノウさんですから簡単にやられることはないでしょうけど、相手はあの大魔王ディアボロスですから急ぐべきかと思います。それに逸れてしまったメンバーももう東の地で待っているかもしれません。僕がビーコンを持っていますがから彼も動けずにいるはず。急ぎましょう」


 「そうだな」


 ワサンとシンザは今回の砂嵐の衝突ヴァルカジュラが去った後にアルジュナと別れて東を目指すことにした。



・・・・・


・・・



―――翌日―――



 アカル、アルジュナ、カルナ、ワサン、シンザの5人はマパヴェから10kmほどケテルの中心に向かって進んでところで待機していた。

 あまりに危険な任務となるためラザはマパヴェの地下都市で待っている。

 ワサンとシンザも地下都市で待っていることを勧められたが、ワサンたちが志願したため許可されこの場に一緒にいることとなった。

 この先でこのような状況に陥った場合、どのように対処すべきかを知っておく必要があると判断したためワサンが同行すると申し出たのだ。

 理由はそれだけではなく、アルジュナが師匠と認めるアカルという女性の強さを見るためでもあった。



 「いよいよだ」


 アカルが言うと、遠く東の空ににどす黒い雲が突如出現した。

 そして遠く北西の空にも同様のどす黒い雲が稲妻を纏って出現した。


 「これが‥‥衝突する‥‥のか?!」


 ワサンは改めて自然の恐ろしさを感じた。








いつも読んでくださって本当にありがとうございます。

楽しんで頂けましたら高評価やレビューを頂けるとモチベーション爆上がりします!

どうぞよろしくお願い致します!

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