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<ケテル編> 3.アルジュナ

3. アルジュナ



 激しい風の中、辛うじてお互いの腕を掴み吹き飛ばされるのに耐えている2人がいた。

 ワサンとシンザだった。

 ワサンは、バベリアと呼ばれる直径1キロメートル以上もある巨大な変風塔の風の吹き出し口の小さな突起に必死にしがみついておりシンザと自分の2人分の体重を人差し指と中指の2本で支えている状態だったが、30分以上待っても凄まじい勢いの送風が止まらないのと指の力が限界に近づいてきたこともありいよいよ吹き飛ばされる覚悟をした。


 「ワサンさん!吹き飛んでもこの繋いだ手は離さないで!」


 「了解だ!」


 ワサンは超巨大な送風口の小さな突起から指を外した。


 バシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!


 凄まじい風の畝りに2人はまるで洗濯機の中にでも放り込まれたかのような状態でも揉みくちゃになりならがらも掴み合った手は離さずにいた。



 ・・・・・


 ・・・



 「・・・・さん!・・・・さん!」


 誰かの自分を揺り起こすような声が聞こえる。


 「ワサンさん!」


 バッ!!


 ワサンは目を覚ました。


 「よかった!起きて早々申し訳ないんですけど、動けますか?!」


 ワサンは周囲に目をやった。

 

 「!!」


 ワサンは体の至る所に痛みを感じていたがすぐ様起きて戦闘体制をとった。

 何故ならワサンとシンザの周りを何体もの黒い人影が囲んでいたからだ。

 その影一体一体は手に何か武器のような物を持っているように見えた為、攻撃してくるのではと警戒したのだ。

 黒い影は少しずつにじり寄ってくる。

 声を出す事が出来ないのか、まるで何かを訴えるような雰囲気だが好意も敵意も感じられずただ警戒するしかなかった。


 「来たばかりで戦闘とはこの後の行動に響きかねないぞ」


 「そうですね。でも致し方ないでしょう。殺さなければ殺されるならやるしかありません。僕らには目的があるはず。判断の時ですよ」


 シンザの言う事は正しかった。

 目的を見失って今を対処できなければ、そもそも目的を果たすことすらできない。


 「やるしかないか」


 ワサンとシンザは武器に手をかけた。


 バシュン!バシュン!


 突如光る矢が数本飛んできた。

 影たちはその光で消える者もいれば、周囲に拡散するように散った者もいた。

 数秒で周囲に黒い影は居なくなった。


 「?!」


 ワサンとシンザは周囲を警戒する。


 「気を抜くなよシンザ」


 「誰に言ってますかワサンさん」


 シュゥゥゥン・・スタ!!


 「!!」


 突如上空から何者かが降りてきた。

 しゃがんだ状態で着地したがその風圧で埃が舞う。

 ただ埃の中でその者が持つ弓だけが光り輝いて見えた。

 ワサンたちは身構える。

 だが、集中力は切らさずに殺意は見せなかった。


 「いやぁ、驚かせてすまない」


 突如現れた者は立ち上がって歩いてきた。


 「危なかったねー。でももう大丈夫だよ。カゲビトは追い払ったから」


 埃から現れたのは身長180センチメートルほどの痩せ型で褐色肌の男だった。

 見た目は若いが驚いたのはその手足の長さだった。

 普通の人間の手足より1.2倍は長い。

 

 「って俺を知らないのかい?珍しいな。まぁいいや、一応名乗っておこうか。俺の名前はアルジュナ。このベルトのバックルの通りアネモイ剣士協会の者だよ。それで何でまたこんな所に?何してたの?」


 「い、いや思い出せないんです・・・・。と、とりあえず助けていただいてありがとうございます」


 シンザはそう言うとワサンの方を見た。

 明らかにうまく口裏を合わせろと言う合図だ。

 ワサンはこういうプレッシャーが苦手だったが、変に睨まれても嫌なので合わせることにした。


 「オレもどうやら頭部を強打したらしく名前以外は思い出せない・・・・。とにかく有難う。そのカゲビトってのも何なのか思い出せてないんだが・・・・とにかく助けてくれて有難う」


 「へぇ!2人とも揃いも揃って記憶喪失?一時的な記憶障害か何か?珍しい事もあるんだな。まぁいいや。そんな状態だとこの後困るんじゃないか?行く当てでもあるのかい?」


 「いえ・・・・正直今言われるまで考える余裕もなく・・・・当てはないです」


 シンザが上手く答えた。

 

 「そうだよな。じゃぁ今日は俺のテントに来ればいいよ。今日はこの後砂嵐が来るから、歩けないだろうしね。なぁに礼なんていらないさ。はっはっはー」


 どうやら上手くこの世界の者と接触が出来たようだと少しだけホッとした2人だったが、悟られないように集中力だけは切らさずにいつ何があっても動ける状態でアルジュナと名乗った男について行くことにした。


 「そう言えば名前は?」


 一瞬偽名を、とも思ったが変に後でバレたりすると一気に怪しまれると判断し、素直に名乗った。


 「オレはワサン。そしてこっちのすばしっこいのはシンザだ。さっきも言った通り2人とも頭を強く打ったらしくて記憶が飛んでしまっているんだが、何か見聞きする事で記憶が戻るかもしれない。こんな状態だからアルジュナのテントに案内してもらえるのはとてもありがたい。改めて礼を言うよ」


 「なぁに、礼なんていらないさ、気にするなって。世の中助け合いだし、そもそもアネモイ剣士協会は困ってる者を助けるのが仕事だからな」


 そんな会話の中、アルジュナはシンザの目線に気づいた。


 「ん?この弓が気になるか?」


 「あ、ええ、すみません。何でしょう・・・・武器とかに興味があるみたいです。特にその弓、光っているのも気になるんですけど、一番気になるのはアルジュナさん矢を持ってないですよね。矢筒も背負ってないし。そこが不思議だなぁと思って」


 「お、少し思い出して来たか?って言うか結構鋭く見てるんだなぁ。なんか緊張しちゃうな。これはガーンディーヴァって言う弓でな。神の弓とも言われてる。1番の特徴は矢を必要としないんだ」


 「どういう事ですか?!」


 「弓を引くとその先に射るべき相手がいると光の矢が現れて飛んでいく。ややこしいのは自分にとって敵じゃなければ矢が現れない事だな。例えば、仲間内で喧嘩して思わずこの弓を引いても矢は現れないって感じだ」


 「良いじゃないか。むやみに傷つけない弓か。理想的だ」


 「そうでもないぜ」


 「例えば仲間の中に裏切り者がいたとするだろ?それでそいつを矢で攻撃しようとするよな?でも矢は出てこない可能性があるんだよ」


 「なるほど、相手を心の中で敵と認めていないとダメなんですね」


 「そうなんだ。こいつは操られてるだけだとか、根はいいやつなんだとか考えてると矢は出てこないんだよ.厄介だろ?」


 「でもまぁ、仲間に裏切り者が出なければ良いんだよな?つまり自分を裏切らない奴だけを仲間にすればいいって事だ」


 「半分正解だけど半分不正解だぜ?・・・・組織ってのぁ人数分だけ複雑になるからな。全てお前・・・・ワサンを中心に双方向で繋がってる関係性なら良いがそれぞれが連関するととんでもない化学反応起こす時があるんだぞ?だから、あまり人とは打ち解けないってのがより正解に近いって感じだな。つまりそのまま警戒心だけは持っておいていいって事だ」


 ワサンは初対面で会ったばかりなのによく話す奴だと少し違和感を持った。


 「さぁ着いたぜ」


 『!』


 2人は驚いた。

 辿り着いたのは5メートルほどの崖になっている場所で半径100メートルくらいの窪んだ場所になっており、その中心当たりに20メートル角の大きなテントが張ってあったのだ。

 そして2人ほどテントの周りで何かをしている者がいた。


 「お帰りなさい!!」


 2人のうち1人が元気よく出迎えた。

 見た目は15歳くらいの少年だ。

 

 「獲物は?!その後ろにいる2人がそうか?」


 もうひとりは無表情で物騒なことを言っている。

 歳の頃としては二十歳前といった感じで、筋肉を程よく纏っている青年だ。


 「どう見ても獲物じゃねぇだろうが!仕留めたのは向こうの丘の上だ。周囲にガシヤニ撒いておいたから他の魔物や動物たちは寄り付かないだろう。明日にでもとってくるさ」


 「仕留めたのは?」


 「ガーバークインだ」


 「!!今すぐ取って来いよバカジュナが!」


 「何でだ?」


 「この後砂嵐が来るだろうが!ガシヤニ撒いたって意味がないじゃないか!しかもガーバークインだぞ?!あれの皮は高く売れるんだからよ!少しは協会の財政も気にしてくれよ、この穀潰しが!」


 随分と上から目線の青年だ。

 アルジュナも二十歳過ぎの見た目な為然程歳も違わないにしても、上下関係は歳とは逆に見えた。


 「取ってくる?」


 「今すぐだ!」


 「仕方ねぇ!えっと、ワサンにシンザ・・だったな、こいつはラザ、そんでもって向こうにいるのはカルナだ。おいラザ、カルナ!こちらはワサンとシンザだ。困ってるみたいだからテントで休ませてやってくれ!」


 そう言うと焦った表情で来た道を戻って行った。


 「ふん!」


 ラザと紹介された不機嫌そうな青年は、ワサンとシンザに目をやって話しかけた。


 「あんたら何処から来た?」


 「それが・・・・記憶を無くしてしまって・・・・物凄い風に吹き飛ばされた拍子に2人とも頭を強打したみたいで記憶障害を起こしているみたいなんだ」


 「それで路頭に迷っている所をアルジュナさんに助けていただいたと言うか親切にもここまで連れて来てもらったと言うわけです」


 「あんたらあいつの事親切だと思ってるかもしれないけど、気をつけろよ?」


 「??」


 ラザの言葉の意味を聞きたかったが、カルナと呼ばれた少年が元気よく割り込んできた為、タイミングを逃してしまった。


 「ようこそ!僕はカルナです。よろしくお願いします。さぁ中へ!間もなく砂嵐が来ますから」


 ワサンとシンザはラザの言った言葉が何処か引っ掛かったが言われるままにテントの中に入った。


 テントに見えたが躯体は太くしっかりしており、中には荷物を運ぶ馬2頭と馬車がとめられていた。

 中央にはテーブルと椅子があり、奥には寝床のようなスペースもある。

 ラザは外で料理をしていたようで、作った料理をテントの中へ運んできてテーブルの上に置いた。

 その後、外にある囲炉裏の一部を中に運んできた。

 色々と揃っているのを見たワサンは、意外と快適だなと思った。


 ドスン!!


 暫くするとアルジュナな戻ってきた。

 もう一つ別の少し小さなテントに倒した魔物の死体を格納した後にテントに入ってきた。

 その直後に凄まじい轟音とテントの厚手の布がバタバタと激しい音を立て始めた。


 「ふぅ・・危なかったねー!ギリギリセーフってやつだな」


 アルジュナが入ってきた後すぐにラザがテントの入り口を閉じた。


 ワサンとシンザはテントの窓から外を見るが何も見えない真っ暗な闇だった。

 ただただテントが暴れている音を出していた。

 ワサンとシンザは外の凄まじさを目の当たりにし、アルジュナにここへ連れてきてもらって幸運だったと思った。




次のアップは火曜日の予定ですが日付跨ぐ可能性あります。


いつも読んで下さって本当にありがとうございます!

楽しんで頂けているようでしたら是非高評価とレビューを頂けるとモチベーション爆上がりで良いアイデアも浮かびます!

どうぞ宜しくお願い致します!!

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