＜ゲブラー編＞ １８７．ふたりの鬼神
１８７．ふたりの鬼神
「おや、また会いましたね。カムスさん。いや、今は例のお面を被っていないからスノウさんでよいのですかな？」
アルマロスがヘクトルの前に立ち不敵な笑みを浮かべながら言った。
「お前‥‥ヘクトルとはどういう繋がりだ？」
「繋がり？それは義理人情とか友情とかってことでしょうか？‥‥そんなもの悪魔には存在しませんよ。仮にあっても私が八つ裂きにしますがねぇ。‥‥悪魔にあるのは契約のみ。まぁちょっとだけお教えすると、このニンゲンとの契約ではありません。ですから私がこのニンゲンの指示に従う縛りはありません。あしからず‥‥‥フフフ。ただ、契約によって動く過程の中でこの場にこうしていることが必要だから来たのです」
「じゃぁヘクトルの前からどいてくれ。関係ないんだろう？」
「そうもいきません。まもなく面倒なのもやって来ますからねぇ」
「面倒なの‥‥？！」
「ほら」
ズズザザァァァァン‥‥
突如スノウの背後で砂吹き出したようになったと思った瞬間、巨大なハサミのような鋭利なものがスノウの背中に向かって迫って来た。
ジャッ！！ブワン！！ゴォォォォン！！
スノウはそれをジャンプで避けたあと、そのまま足刀蹴りで弾き返した。
「良い勘をしているな。いや、余計なやつが教えたせいか」
「お、お前は‥‥サルガタナスか！！」
スノウの背後から現れたのはサルガタナスだった。
ジオウガ王国でオーガロードのズイホウの体を乗っ取りディアボロス、亜心善 夢と共にジオウガ王国を支配していた悪魔であり、その際に一度戦っている。
だた、その時の容姿からは大分変わっている。
スノウがサルガタナスと分かったのは、サルガタナスの顔の部分がズイホウのそれであった事とサルガタナスの異様で独特のオーラを感じ取ったからだ。
「フハハ！！余の前に人が一人に悪魔が2体。面白い展開ではないか！今回のグランヘクサリオスは大収穫だ！フハハ！」
悪魔２体を前にヘクトルは全く動じることなく、むしろこの異常な状況を楽しんでいるようだった。
「アルマロス、邪魔はしないでくれよ」
「おや、随分な言い様じゃないですか。地下ではヤマラージャの暴走から救ってあげたと言うのにね」
「いつまでも恩着せがましいからはぐれ悪魔だと揶揄される」
「ははは。なんと言われても気になりませんよ。貴方もいつまでも腐りかけた忠義というマヤカシから早く目を覚ました方がいい。それより、それ‥‥」
アルマロスが指をさした先にスノウの螺旋を練り込んだ正拳がサルガタナスの鳩尾に打ち込まれようとしていた。
ドッゴォォォォォォォン！！！ドッパァァァァ！！
スノウはアルマロスとサルガタナスが会話している最中の隙をついてしゃがみ込んで死角に入り、そのまま飛び跳ねるようにして勢いをつけて正拳突きを叩き込んだのだ。
「あ‥‥」
サルガタナスは自身の腹部に大穴が空いたのを見たにも関わらず、虫刺されでも見つけたかのような反応だ。
所詮は人間の攻撃ですぐさま修復できる上、物理攻撃そのものによる外傷では痛みを感じないため、そのような鈍い反応になっている。
「サルガタナス。早く吹き飛ばされた断面を抉り取ることをお勧めするよ」
「何？」
アルマロスの言葉に少し驚いて反応するサルガタナス。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥
スノウに吹き飛ばされた腹部の穴の断面から煙が出始めている。
「痛い‥‥だとぉ？！」
ズザァァン！！ガバァァン！‥‥ズッパァン！！
サルガタナスは右手の蛇で穴の断面にある肉片を食い、尾のハサミでその蛇の腕を切断した。
バタバタバタ‥‥
切断された蛇の腕が、まるで切られたトカゲの尻尾のようにウネウネと動いているが、しばらくすると表面が焦げ出して煙を発し、そのまま跡形もなく消え去った。
「スノウ、貴様‥‥聖なる力を宿した拳を打って来たか。小賢しい！」
ドッゴォォォン！！
サルガタナスはスノウに蹴りを繰り出した。
不意をつかれたスノウはそのまま後方に吹き飛んだが、すぐに堪えて元の位置に戻り構える。
そのころには既にサルガタナスの腹部に空いた穴も切断された蛇の腕も元通り回復していた。
「お前ら悪魔はそういうのに弱いっておれの仲間が教えてくれたからな」
（エスティ‥‥）
「そうか。ならもう一度打ってくると‥」
ドッゴォォォォン！！‥‥ドッパァァァ
サルガタナスが言い終える前にスノウが再度鳩尾に先ほどと同様の螺旋に聖なる力を込めた正拳突きを放った。
エントワ直伝の聖なる力を宿した退魔斬・聖ダンディズムの応用で、剣に込める聖力を拳の中に込めたのだ。
低い体制でサルガタナスの腹部に打ち込んだ後、すぐさま手を引き、その後手刀に変えて、そのまま螺旋と聖力を込めた拳の斬撃をサルガタナスの腹部の穴の上部から振り上げるようにして放つ。
ザザザン！！
「あばばばばばばばばばばァァァァ！！」
スノウの腕が高らかに天に向かって振り上げられた。
サルガタナスは腹から頭部まで一気に縦に斬られ上半身が縦に真っ二つの状態になる。
「！！」
スノウは凄まじい殺意を感じて体が勝手に後方に素早く跳躍して距離をとった。
攻撃で大ダメージを与えたはずのスノウがこめかみから汗を滴らせて警戒している。
「ハハハハハハハハハハハァ！！面白い！確かに強いなスノウ・ウルスラグナ！」
サルガタナスは左右に引き裂かれた状態にも関わらず普通に話しかけた。
「よい反応でしたねぇ、スノウ。あそこで飛び退かなければ貴方‥‥下半身を見上げる結果になってましたよ。ククク」
アルマロスは楽しんでいるかのように言った。
スノウはそのような脅し文句も耳に入らないほど何かに集中していた。
（なぜおれの放った聖力が効かない‥‥？！）
「なぜ聖なる力が効かないとでも言いたげな顔だな。簡単なことだ。魔力の膜を張ればいい。まぁ、俺様ほどの上級悪魔にならないとできない芸当だがな」
「なるほど‥‥ありがとうよ、わざわざからくりを教えてくれるとはな！」
スノウの言葉は負け惜しみのように聞こえた。
「さて、そろそろ大人しくしてもうことにしましょうか」
「邪魔するなといっただろう？聞こえなかったかアルマロス」
「まぁまぁ。まずはスノウを黙らせてからやりあえばいいでしょう？」
「なるほど。それもいい」
アルマロスとサルガタナスはスノウに顔を向けた。
「ちっ！」
（どうする‥‥？！流石に上級悪魔2体を相手に勝てるのか？！まともにやりあうのは今回が初めてだ。ウィリウォーを放ってもいいが効果があるかどうかもわからない。ここは一旦引いてフランシアやバルカンたちと連携した方がいい！）
スノウは地面を抉り砂をアルマロスたちに浴びせてそのまま攻撃すると見せかけてそこから一旦、後方に下がることにした。
「甘いですね」
ドゴン！！
「がはっ！」
スノウは背中をアルマロスの膝で蹴られて前に吹き飛ばされたところをサルガタナスの蛇の腕が襲いかかる。
ガバァァン！！
スノウは腕をクロスにしてサルガタナスの攻撃を受けた。
リゾーマタのバリアオブアースウォールを部分的に発動し、更にエル・ウルソーのバイオニックソーマで体を超人化させた上でジノ・ソリッドスキンで腕の皮膚を超強化して防ぎ切ったのだ。
バゴン！！
スノウはローキックを繰り出してサルガタナスの体勢を崩す。
だが、直ぐに体勢を整える。
スノウは低い体勢で構えて次の攻撃に備える。
目の前にはマスターデーモンのアルマロスとデーモンロードのサルガタナスが立ちはだかっている。
「すごい素質ですね。一瞬で３つの魔法を同時に無詠唱で発現させた」
「ああ。だが、こういうヤツは早死にすると相場が決まっている。賢いニンゲンはこのような素質を持っていても目立つ行動は起こさない。貴様の敗因は自分の力に驕って反乱共闘軍などと様々なニンゲンを巻き込んで目立ったことだ。100年前にも同じようなことをしたニンゲンがいたが、見事に背後にいるヘクトルに敗北した。そいつから何も学ばずに無謀にも稚拙な策を弄して挑んだ結果がこの状況だ。貴様の敗北の影響はお前だけに止まらず、報いは関わった全ての者に等しく降りかかる。この場にいるニンゲンどもやゲブラー全土に散らばってる貴様に関わったあらゆる種族にだ。その罪をどう償うのだ？貴様にその重すぎる罪を償えるのか？」
精神的に追い詰めるのも悪魔の常套手段だった。
分かっているスノウではあったが、圧倒的な悪魔の強さと、あと一歩というところでヘクトルの喉元にヤイバを突きつけられないこの状況に心が折れそうになっている。
（あんな目の前にいるのに‥‥ここまで遠いか‥‥）
アルマロスとサルガタナスの間から見えるヘクトルは悠然と玉座に座って見物している。
「さて、そろそろ大人しくしてもらいましょう」
アルマロスとサルガタナスは腕に何やら黒い稲妻を発生させている。
どうやら見たこともない魔法のようだ。
その腕を振り上げた腕から逃れられないと悟ったスノウは、リゾーマタのクラス５魔法ウィリウォーを唱え始める。
「自暴自棄になるな、友よ」
ドォォォォォォォォォォォォン！！
アルマロスとサルガタナスの背後に巨大な影が二つ現れた。
２体の悪魔は顔を少し振り向かせて背後に目をやる。
そこには目を光らせた大男がふたり。
鬼神のごとき表情で両腕を広げて恐るべき殺意で襲い掛かろうとしている。
ガジィィィィィ！！グギギァァン！！
背後のふたりの大男は広げた両腕を一気に悪魔を挟み込むようにして閉じ、そのまま抱き抱えるようにして凄まじい力で締め上げた。
「ぐぬぬぬぬぬ！！！」
「うごぉぉぉぉぉぉ！！」
アルマロスとサルガタナスは初めて苦しそうな表情と声をあげている。
バジュルゥゥゥァァァン！！
そして強烈な締め上げの力は限界を超えてアルマロス、サルガタナスの上半身を潰しちぎった。
アルマロスとサルガタナスの潰し千切られた上半身が宙を舞う。
2体の悪魔の背後から現れたのは、シャナゼンとヤマラージャだった。
「随分と苦戦しているじゃないか友よ」
「待たせたな」
スノウの心に希望の光が芽生える。
「お前ら‥‥！」
スノウの拳に自然と力がみなぎってきた。
いよいよ次の話で大きく状況が動くことになります。
次のアップは日曜日の予定です。
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