<ゲブラー編> 186.動く戦況
186.動く戦況
「面白いことになってきましたねぇ、ククク」
クアンタムは奥の瓦礫の上に座って見物している。
「さてと。そろそろあの目障りなアノマリーをあの根源種の生き残りの前でブチブチと引き裂いて殺してあげるとするかなぁ。喜んでくれるといいなぁ」
瓦礫の上から降りると、急に空を見上げた。
「あっはぁ。ちょっと覗いてみるか」
するとその場に立ち尽くしたまま、突如クアンタムの目が左右不規則にくるくると回り出した。
無表情のまま、左右の眼球が別々に不規則に不気味に動いている。
しばらくすると突如両目の位置が突如正面で止まった。
同時に口が裂けるほど広がって異様な笑みを見せた。
「ホホホ‥‥なるほど!そうなりますか!そちらの方が楽しそうだ!‥‥であれば僕は先に行ってようかな」
そう言うとクアンタムは立ち上がった。
「だけどその前にちょっとだけ味見しておこうかな」
ピョォォォォン‥‥
スタ‥‥
「誰?」
「僕は‥‥この世界ではクアンタムと呼んでもらってるよ」
クアンタムがアニメのようなジャンプ音を放ちながら飛んで着地した先はフランシアの前だった。
フランシアは知り合いに声でもかけられたかのような反応だった。
それに対して丁寧に自己紹介するクアンタム。
「クアンタム。あぁ、血も涙もない殺戮を息をするようにやってのけるというピエロさんですか」
「ホホホ!!随分な言われようだなぁ!僕は決して楽しんでなんかいないよ?僕が行動する先にいろんな生き物が現れて勝手に踊って勝手に死んでいくだけなんだから!」
「貴方との会話は面白くないわね。人の感情の変化や抑揚に対する気づきが面白いのに貴方にはそれが感じられない。つまらないからさっさと何処かへいってくれる?」
「人の感情の変化や抑揚‥‥そんなものに何の楽しみがあるんだろう。君こそ変わっているね。まぁいいや。ちょっとだけ付き合ってよ。僕の暇つぶしに」
バゴォォォォォォン!!
クアンタムの頭部が突如吹き飛んだ。
フランシアが裏拳で軽々と吹き飛ばしたのだ。
「ハハハハハ!!いいねぇ!君こそ感情がないみたいだ!君は僕と同じ匂いがするねぇ!」
シャシャシャ!!ザザザン!!
残されたクアンタムの体もフランシアの手刀によって細かく斬り刻まれた。
「さぁ、もういいでしょう?分かったらささっとどこへでも行きなさい。私は忙しいの」
そう言うとフランシアはスノウの方へ歩き出すが、足が何かに引っかかっている。
「もう少し遊ぼうよ」
地面に落ちているクアンタムの頭部が普通に語りかけた。
フランシアの足をクアンタムの手が掴んでいるのだが、その手は先ほど斬られたものにも関わらずまるで地面から生えているかのようだった。
「仕方ないわね」
ズザン!グチャリ!!
フランシアは足を掴んでいるクアンタムの手を踏みつけて潰しながら構えた。
「ウホホ!そうこなくっちゃ!そう時間は取らせないから安心してよね」
・・・・・
・・・
一方、ワサンはセクトと死闘を繰り返していた。
(おかしいな‥‥以前一度だけこいつの戦いぶりを見たことがあるが、これほどまでに強くはなかったはずだが‥‥)
セクトは明らかにワサンの凄まじい速さに反応している。
ワサンは短剣をブーツから取り出すとそれをセクトに放つ。
当然それを剣で弾くセクトだったが、その隙をついてワサンはセクトの背後に回り込み、ファングを突き立てるが、セクトはそれを体勢を逸らせて避ける。
「!!」
(なんだあれは?!)
ワサンは死角に入ったはずの自分の動きを背後から睨みつける視線を感じた。
そしてその視線の先に目をやる。
セクトの後頭部だった。
髪の毛の間から光るものが一瞬見えたのだが、見逃さなかったワサンが見たものは目玉だった。
あるはずのない場所に目玉があった。
(‥‥改造か。何でも有りだな。だが手品も種が明かされればどうということじゃない!)
セクトの凄まじい剣技がワサンを襲う。
「どうしたシルバーファング!貴様の実力はこんなものか!つまらんぞ!貴様を殺し、その後はスノウを殺し、そしてあの憎きソニアとスレインを殺してやる」
息を切らすことなく凄まじい剣技を繰り出すセクトは、ワサンの避ける方向に剣を繰り出す、まるで先を読んでいるかのような攻撃にワサンは所々体を斬られていく。
ガカカカカン!!キキカンカカン!!
さらに剣の応酬が続く。
「よし!」
ワサンはバイオニックソーマを唱えて腰を落として構えた。
「お前の手品もそろそろ見納めだ。狼塵限爪」
低い体勢のまま短刀の刃を外側に向けて持った左手は剣先を下にして前にだし、それを右手のひらで抑えるように両手を前に出して構える。
そしてそのまま短刀を持つ両手を右脇腹の奥へと回し、一気に前方に振り切る。
シュヴァン!!
何も見えないが空を斬り裂く音だけが聞こえた。
「?‥‥何も起こらんではないか!何だ?!やぶれかぶれで完成途上の技でも使って不発に終わったか?!哀れだなシルバーファングよ!」
シュルシュルシュルシュルシュル
セクトは至る所から小さな空を斬る音に気づく。
「なんだ?!」
ワサンは構えを解いて立つ。
「戦意喪失か?本当に哀‥」
シャ!
「ぐぁ!」
突如セクトは悲鳴をあげる。
セクトの後頭部から血が噴き出る。
「目がぁ!目がぁぁ!」
セクトが声を裏返しながら叫ぶ。
後頭部にあった目がどういうわけか突如つぶされたようだった。
「わ、私の目にき、気づいたか!!ハァ‥ハァ‥だ、だが、お前の負けは変わらない!!
シャ!シャ!
「ぎぃやぁぁ!」
セクトの両肩から血が噴き出る。
シャシャシャシャシャ!!
背中、両腿、両手の甲から血が噴き出る。
「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!」
シャ!!
そして最後に両目から血が吹き出した。
「オレがお前の手品の全てに気づいていないとでも思ったのか?さぁ、続けようか。視界を失っては、お前の言う通りつまらん戦いになるかもしれないがな」
・・・・・
・・・
少し離れた場所ではバルカンとゲントウの戦いが続いている。
バルカンの凄まじい速さの剣の連撃をゲントウは寸分の狂いなく剣で防いでいる。
「貴様の力は既に戦って理解している。我は一度勝った相手に負けることはない。つまり貴様に勝ち目はない」
息を切らすことなく剣技を繰り出しながら話すゲントウ。
「ああそうかい!」
バルカンの剣技はさらに速さを増しゲントウに襲いかかる。
だが、それをまるで知っているかのように的確に受け切っている。
「そろそろ終わらせるか。セクトが窮地に陥っているようだ。我らはここで戦力を落とすわけにはいかなぬ」
「させるかよ!」
「無駄だ。受怨焦我」
ゲントウの体が急激に赤く染まっていく。
(くそ!例のエネルギー放出魔法か!)
バルカンは間に合わないと悟りその場で体勢を低くして、剣を地面にさした。
「業識・カルマン・ヴァーク!‥‥・カルマン・ドゥリタラーシュトラ!」
ゲントウの体に周囲から光が集まり真っ赤に光った瞬間、突如ゲントウの周囲に炎の筒状のバリアが張られる。
「マグマラフィードシールド!」
ソニアが凄まじい劫火が渦巻いている筒状のバリアでゲントウを覆っている。
「は!」
ゲントウから凄まじいエネルギー放出による超高熱爆裂波が発生した。
ガガガァァァァァァァァァァン!!ジャジャジャアァガガガガガァァァン!!
「ソニア!オレの後ろに来い!」
バルカンがソニアに向かって叫ぶ。
ソニアはすぐさまバルカンの背後に回る。
ソニアの放った炎の渦によるバリアでゲントウのエネルギー放出超高熱爆裂波は周囲への拡散が妨げられて上空に伸びていたが、あまりの威力でバリアも持たずに弾けるように周囲に拡散した。
ドッバアァァァァァァァン!!
凄まじい爆裂波がバルカンとソニアを襲う。
ソニアのバリアで抑えられていたとはいえ、周囲10メートルにあるものは皆吹き飛ばされ、鋼鉄改造兵の死体や砕かれた彼らの外殻がまるで弾丸のように周囲に吹き飛んだ。
その弾丸の拡散を方々で戦っているものたちは戦いを続けながら弾き返していた。
シュゥゥゥゥゥゥン‥‥
爆裂波が収束する。
バルカンとソニアはバルカンの張った見えないバリアによって攻撃を免れた。
ソニアはバルカンの背後にいたためほとんど傷を負わなかったが、バルカンは所々傷や火傷を負っている。
「ちっ!やっぱりこの剣じゃぁ本来の力を出しけれねぇみたいだ。だが、力は溜まったぜ。すまないなソニア。あんたはオレの命の恩人だ」
「礼は後!それよりあのゲントウを倒すわよ!この場はプライドで勝つなんてくだならい感情は捨て去って、何としても生きて勝つ!なのでしょ?」
「その通りだ!なんでわかった?それはスノウの言葉だぞ」
「スノウは私のマスター。マスターの言うことは心で感じるからね!」
スノウは嬉しそうに笑みを浮かべると、ゲントウの左側に向かって跳躍した。
一方のバルカンは右側に向かって跳躍する。
ガシィィィン!!
左右から挟み撃ちにしているが、ゲントウは右手に炎魔法のバリアを張り、左手には持ち替えた剣でバルカンの攻撃を受けている。
「予想外だったが次は殺す。まずは女からだ。貴様がいなければ我の放つエネルギー波は遮られることなく全てを焼き尽くす!」
「よそ見すんじゃねぇぞ!」
バルカンは剣で防がれた直後に蹴りを放ちゲントウの体勢を崩す。
体勢を崩しながらもバルカンの攻撃を受け切るゲントウ。
だが、ソニアの放った打撃と蹴撃の連携に流石のゲントウも片手では防ぎ切れないようで、剣を振り回した。
スワン!!
ソニアはそれを屈んで避けるとそのまま拳に炎魔法を凝縮して放つ。
ゲントウはそれを体を反らせて避けると倒れながら剣をソニアに向けて放つ。
ソニアはそれをギリギリでかわすが、その太刀筋に何かを感じた。
ズザァ!
ババッ!
ソニアとバルカンは少し距離をとって構える。
「貴方‥‥トゥラクスね!」
「!!‥‥やはりな‥‥」
ソニアの指摘に踊りたバルカンだったが、バルカンも同様に違和感を感じていたようで納得の表情を浮かべた。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォ‥‥
下を向いて表情が見えない状態のゲントウを前に緊張が走る。
「よくぞ見抜いたなソニア。そしてバルカンよ」
「貴方の剣技には癖がないのよ。おそらく基本に忠実に鍛錬を繰り返したのね。あまりに綺麗すぎる剣技には通常誰しもが持つ剣の癖がなかった。こういうのできるのはほとんどいないのよ。だから貴方は姿は違うけどトゥラクスだわ。わかってもらえない感覚かもしれないけど」
「いや、ソニア。お前の感覚は正しい。そもそもゲントウは剣など使わない」
「ふふ‥‥ふはは‥‥フハハハハ!!目の前のゲントウは突然笑い出した。
「いかにも私はトゥラクスだ。お前とパラディン・スレインによって敗れ去った男だ」
ゲントウは顔をあげた。
その顔には自信に満ち溢れた表情があった。
「貴様らの見事な連携に一度はやぶされったが、私は新たな力を得た。貴様らが知るゲントウの力と私の力!この二つが融合した今の私はバルカン!貴様を倒したゲントウよりはるかに強い!貴様らが束になってかかってきたところで私を倒すことは不可能ということだ」
ザン!
バルカンは肩に剣を乗せてゲントウを見下すようにして立った。
「哀れなやつだな」
ザン!
ソニアもまた腰に手をあてて見下すようにして立った。
「そうね。気づいていないようだから教えてあげないとね」
「くっ!その言葉忘れんぞ!吠え面かいても知らん。容赦無く殺す」
ゲントウは剣を構えた。
「受怨自武」
ゲントウの動きがゆらゆらと何重にも見える。
突如姿が消える。
ズザザザン!!!
ソニアとバルカンの背後まで一瞬で駆け抜けたゲントウ。
「他愛無い。所詮は私の強さに遠く及ばない弱者の虚勢だったな」
ゲントウの放った居合斬りのような攻撃がソニアとバルカンにヒットしたこともあり、勝利の余韻に浸っていた。
「ぐあはぁぁぁ!!」
血反吐が飛ぶ。
ドサッ!!
膝をつく音が一瞬地面を響かせた。
膝をついたのはゲントウだった。
「馬鹿な‥‥‥?!」
(何が起こった?!)
「油断したなトゥラクス」
バルカンが見下すように言った。
受怨自武。
自らの身体能力を数秒間大きく上昇させる恐ろしい技によって、数倍にもなったスピードはバルカンやソニアの肉眼では捉えられない程になっていた。
そのスピードでソニアとバルカンの間を一気に駆け抜ける。
そして間を過ぎ去る際にバルカンとソニアの胴を凄まじい速さと力で繰り出す斬撃で切断した。
かに見えた。
だが、実際には違った。
ソニアはゲントウに対しトゥラクスと指摘する直前にバルカンに目配せした。
下を向いているトゥラクスの視線が一瞬離れたのを見計らって光を屈折させる音熱魔法を発動させた。
それによってトゥラクスには目の前のソニアとバルカンの立ち位置は実際の立ち位置よりも内側に見えていたのだ。
そして、トゥラクスが受怨自武を放った瞬間、バルカンが予め発動させていたカルマン・ヴァークによってゲントウの受怨焦我によって放出されたエネルギーを吸収して溜め込んだものをカルマン・アパパディアを繰り出し斬撃に乗せてトゥラクスの通過する場所に向けて振り抜いて放ったのだった。
「ぐはぁ!!」
血反吐を吐くトゥラクス。
脇腹が深く抉られており、致命傷となっている。
「な、なぜ斬れた?!私の速さには反応できない‥‥はずだ‥‥」
トゥラクスは口から血を滴らせながら言葉を発した。
「簡単だよ。ソニアが見せた屈折したオレ達の立ち位置はもう少し狭い感覚にあった。つまりお前がオレ達ふたりをいっぺんに斬ってすてるにはその間を通り抜けるしかなかったんだ。通る軌道さえ分かれば斬るのは簡単だ。タイミングを読めばいい。お前がわざわざ身体能力を上げる技を使ってくれたから突進してくるタイミングは分かりやすかったぜ」
「貴方は自分の力を過信した。その時点で既に敗北は決まっていた」
「ゲントウならあんな戦い方はしねぇ。あいつには勝つためには何でもする狡猾さがあった。だが、お前は戦いに素直過ぎるんだよ」
「なるほど‥‥見‥‥事‥だ」
ドサッ!!
トゥラクスはその場に倒れた。
パシィィン!!
バルカンとソニアはハイタッチしてお互いの戦いぶりを称えた。
最終決戦の戦況は少しずつ好転しているように見えた。
体力が限界となりアップが遅れてしまいました。
何とか巻き返したいと思います。
次は本日の夜アップ予定です。
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