<ゲブラー編> 184.集結
184.集結
勲章を持ったヘクトルの手がゆっくりとスノウの胸のあたりにのびる。
バルカン、ワサン、ヒーン、フランシア、マインは作戦通りの戦闘体勢を取る。
バルカンはレンスの助けもあり、あらかじめ自分の跪く位置の地中に剣を埋めておいたのだが、それに手をかけた。
ワサンはブーツの中に仕込んでいるファングと短刀に手を添えている。
全員に緊張が走る。
そして、スノウの胸に勲章がつけられた瞬間、ヘクトルから驚くべき言葉が発せられる。
「フハハ‥‥今にも余を殺そうという殺意が爆発しそうではないかアノマリーよ」
「!!!」
スノウはヘクトルの言葉に驚愕しつつも、攻撃を仕掛ける限界と感じ体に力を込め半ば反射的に体が動いた。
足先、脳天から全身で練られた螺旋がスノウの右手に集中し凝縮される。
と同時にバルカン、ワサンが凄まじい勢いで跳躍し、ヒーンは上空に向かって炎魔法の結界バリアを張るために魔法弾を放つ。
そしてフランシアが闘技場内に突入した。
(限界だ)
バッゴォォォォォォォォォォォォン!!! バララァァァン!!
スノウの右手が凄まじい速さの突きとなってヘクトルの鳩尾に打ち込まれた。
ヘクトルの全身を覆っている鎧が粉々に砕け散る。
直後、闇虎とゲントウが動き出す。
スノウとスイッチするようにバルカンとワサンがヘクトルに向かって攻撃を繰り出す。
バッゴォォォォォォォォォォォォン!!ドッゴン!!ガカカン!!
スノウに向かって闇虎の凄まじい蹴りが飛んでくたが、スノウはそれを両腕でガードする。
あまりの勢いでスノウは大きく後方へ吹き飛ばされる。
それに怒りを露わにしたフランシアは戦いの矛先をゲントウから闇虎へ変更し凄まじい勢いで詰め寄る。
一方バルカンとワサンの放った攻撃は凄まじい速さで割り込んできたゲントウによって阻まれた。
バルカンの剣とワサンの短刀の攻撃を割り込んできたゲントウが右腕で防ぐ。
ガキン!!
腕を斬ったはずが異様な金属音がする。
同時に闇虎が突如手に槍を出現させてそれを一振りした後に横振りし、5色の炎玉を出現させるが、凄まじい速さで闇虎に向かって近づいたフランシアが右手のひらにリゾーマタの氷と水のバリアと思われるの氷水の塊を纏わせて闇虎の繰り出した5色の炎玉をいっぺんにこそぎ取るようにして消しとばした。
「!」
闇虎の驚く顔を横目にみながら放たれたフランシアの重たく素早い蹴りが闇虎のこめかみに強烈に打ちち込まれ闇虎は頭から回転しながら十数メートル先に飛ばされた。
一方ヘクトルはスノウによって砕かれた鎧のかけらと共に兜を脱ぎ捨てると、ヘクトル専用の軽装の武闘技の姿に鬼神の仮面を被った状態となり、凄まじい勢いでバルカンとワサンにダブルラリアートを食らわせる。
ドッゴォォォン!
そのままバルカンとワサンの顔面をそれぞれの手で掴むと、そのまま地面に凄まじいパワーで叩きつけた。
バッゴォォォォォォン!!
その衝撃で地面は大きくめり込んだが、バルカンとワサンはそれを両手を後頭部に当ててうまく受け身を取ると、そのままヘクトルの腕に足を絡ませて腕十字の体勢をとり一気に締め上げる。
しかしヘクトルは軽々と二人を持ち上げたかと思うと、そのまま回転し始めてバルカンとワサンをそのまま放り投げた。
スタタタン!!
スノウが吹き飛ばされた場所から戻り、バルカン、ワサンと三人で並ぶ。
それに対してヘクトルとゲントウが対峙する。
フランシアは自身の蹴りで吹き飛ばした闇虎を追って更に追い討ちの攻撃を加えているが、闇虎の鉄壁ガードでダメージを与えられないどころか、隙をついた強烈な蹴りによって今度はフランシアが吹き飛ばされるという応酬状態となっていた。
「余に歯向かうことを知らないとでも思ったか」
ヘクトルが腰に手を当てて悠然と立ち言った。
それに対してスノウが答える。
「さぁな。だが、知っていても知らなくても結局最後にお前の喉元に刃を突き立てて斬り裂いてしまえばいい。おれたちを相手にして勝つ見込みがあるのか?」
「ふふ‥‥フハハ‥‥フハハハハ!!面白い!余を本気で倒すというのだな!やってみるがよい。そして余を本気にさせてみよ!」
ヘクトルは手をあげた。
「だが、余にそう簡単に近づけるほどゾルグ王国は甘くない。エクサクロスの実力を今一度示すのだ」
「反乱である!出あえ!」
シファールがヘクトルの命を受けて脳に響く声で指示を出すと、方々から大勢の兵が闘技場内に侵入してきた。
スノウはヒーンの顔を見るが、ヒーンは苦い顔をしている。
(ヒーンの張った不可侵バリアをくぐり抜けてきた戦闘力を有した兵達ということか‥‥。しかしこれほどの数とは一体ゾルグはそんな兵力をどこに隠し持っていたんだ‥‥)
スノウは自分の詰めの甘さに苛立った。
ドォォォォン!!
突如スノウたちの前に何者かが現れた。
「ヘクトル王は我らがお守りする‥‥」
「!!‥‥お前‥‥セクトか」
顔を部分的に覆っているマスクをつけているが、隠れていない部分は明らかにセクトだった。
「其方はもはやヘクトリオンではない。弱き者にヘクトリオンを名乗る資格はない。生きたくば此奴らを殺せ。殺せなければ其方がここで死ね」
「御意‥‥」
セクトとはスノウがカムスとしてゲブラー全土を周遊する前に会ったきりであった。
その際のセクトはヘクトリオン5、そして国防長官として威厳あるオーラを放っていたし、スノウにその強さを見せつけていた。
だが、目の前にいるセクトは見た目が大きく変わった以上にかつての威厳あるオーラから異様なというより異形なオーラに変わっていた事だった。
痺れを切らしたバルカンがセクトに向かって剣を構え突進する。
「業識‥‥業因業果」
バルカンは業魔剣を発動した。
「カルマン・毘楼博叉」
ザン!
横からゲントウが剣を持ってバルカンを阻止した。
「またお前か!」
バルカンは剣の向きを変えた。
「カルマン・毘沙門」
バルカンの視界が何重にも重なって見える。
ゲントウの攻撃の2秒先を見ているためだ。
バルカンは剣をあらぬ方向に振り抜く。
ガカン!!
「!!」
ゲントウ何が起こったのか理解できない表情だったが、バルカンの剣がゲントウの右腕に振り下ろされた。
周囲の者たちにはまるでバルカンの振り下ろした剣の軌道にわざわざゲントウが右腕を差し出したかのように見ていた。
「!‥‥な、何だよその腕は?!」
バルカンによって斬られるはずのゲントウの右腕は斬られず、巻いていた包帯が解けた中から出てきたのは鋼鉄でできた腕だった。
「‥‥‥」
ゲントウは無言でバルカンに攻撃を繰り出す。
シュウゥゥン‥‥ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴゴゴォン!
突如上空から超高熱の相手をどこまでも追いかける超高熱の赤い液体が降り出し、ゲントウもその影響を受けて攻撃を受けて後方に下がる。
「アザゼルの憂い」
ヒーンが唱えた炎魔法だった。
無数の赤い液体が、現れた兵達に降り注ぐ。
ドゴォン!ドゴン!ドゴゴン!ドッゴォォン!
ヒーンの炎魔法の攻撃によって何かが焼けるような匂いと煙が充満する。
それが消えると現れた者を見てスノウたちは驚愕する。
「!!」
「改造生物‥‥か?!」
現れた兵達は纏っていた衣服がヒーンの炎魔法で焼かれたのだが、そこから露わになったのは鋼鉄でできた外殻を纏った甲殻類のような人型の生物だった。
「ハッハッハッハァ!!どうだ!私の編み出した究極生物!昆虫をヒントに皮膚を鋼鉄化した兵達だ!貴様らの攻撃など寄せ付けない最強兵団だぁ!お前らのようなド低脳の脳筋どもには思い付かない発想と為し得ない発明だぁ!!」
バリアの外から喚いているのはマッドサイエンティスト・ゲルグだった。
「さぁ貴様ら!反乱を起こしたド低脳どもを殺せぇ!!」
鋼鉄改造兵の1体がバルカンに襲いかかる。
「なるほどなぁ。オレが斬ってやったゲントウの右腕も同じ要領で復活させたってことか」
バルカンは腰を落として剣を肩に担ぐような構えを取った。
「ヴァーク・カルマン・アパパディア!」
凄まじい速さでバルカンは跳躍し剣を鋼鉄改造兵に向かって振り下ろす。
ズババン!!‥‥‥ドッバァ!!
鋼鉄改造兵は脳天から縦に真っ二つに斬られた。
血が噴き出る。
鋼鉄の表皮の内側は人間のような生身の生物だった。
「!!」
驚きの表情を浮かべるゲルグ。
バルカンはそのまま後方に飛び退いてスノウの横に着地する。
「貴様!よくも私の可愛い傑作兵を!許さんぞ!許さん!」
一方バルカンはスノウに小声で話しかける。
「スノウ‥‥あいつらはやばいぜ」
「軽々と斬ったじゃないか」
「これまで溜めてた業を一気に吐き出しちまったからな。あれを普通に斬るのは骨が折れるぜ」
「そうなると問題は数か‥‥」
(ちっ!‥‥ヘクトルまでは遠いか‥‥)
「数で圧倒しているんだぁ!一斉にかかれぇ!皆殺しだぁ!」
「やるしかねぇ!行くぞ!」
スノウがバルカン、ワサン、ヒーンに指示をだす。
キィぃぃィィィィィィィィィン‥‥‥
突如スノウは耳鳴りに襲われた。
何かを感じ取ったようだ。
(何だ‥‥?!)
「ヒートウェイブ!」
「神の焼夷」
「神楽巳流剣術奥義・神紅龍・桜吹雪」
「大車輪・渦放」
闘技場に聞き覚えのある声たちが響き渡る。
次の瞬間、天から凄まじい炎と斬撃の入り混じった超高熱斬撃の雨が鋼鉄改造兵に向けて降り注ぐ。
ドバババババババババババババババババババババババババババババババァァァァァン!!!!
300はいたであろう鋼鉄改造兵たちは一瞬で半数まで数を減らした。
ドン!
ドン!!
ドン!
ドン!
フワッ!
スノウたちの前に空から凄まじい勢いで着地した者が4つ。
そしてその後から優雅で荘厳なオーラを放つ存在がゆっくりと降り立った。
「マスター!」
「パラディンの名にかけてあなた達に勝利をもたらしましょう!」
「随分と苦戦しているようだな。まさか弱音でも吐いたか?」
「俺が来たからには誰も傷つけさせない!」
スノウは目を潤ませながら現れた者たちを見つめた。
「お前ら‥‥遅いじゃないか!!」
現れたのは、ソニア、パラディン・スレイン、エスカ、コウガ、そして威霊神ザムザだった。
スノウの表情が活力に満ちたものに変わっていく。
闇虎と戦っているフランシアを含めて11名。
ヘクトルを撃つべくスノウに賛同した者たちがこのタイミングで一同に会した。
11対150。
数では圧倒的に不利だが、現在のこのゲブラーに於いて最強と思われる者たちが集まったことで形勢は一気に5分まで巻き返した。
「フハハハハァ‥‥何と健気で気の毒な者どもよ!わざわざ殺されに来るとはな!誰がどれだけ来ようとも鼠に獅子は討てんのだ!」
ヘクトルが奥で両手を腰に当てながら一蹴した。
そう。
ヘクトルにたどり着くにはまだ、闇虎、ゲントウ、セクトがいるのだ。
だが苦しい戦局にもかかわらずスノウは負ける気がしなかった。
気の知れた仲間とはそれだけ力を与えてくれるものだとスノウは改めて痛感した。
「行くぞ!」
『おう!』
鋼鉄改造兵団との壮絶な戦いが始まった。
・・・・・
・・・
コツ‥コツ‥コツ‥
アムラセウムの中を歩く存在がいた。
先ほどまで闘技場内にいたシファール・ヴェンシャーレだった。
シファールは観客席の中にまぎれいているとある存在に気づくと思念を送った。
しばらくして、そのとある存在がシファールの元へ歩いてきた。
「おや、私を呼ぶ声の主はあなたでしたか」
「私も驚きだ。こんなところでまさか貴様に会うとはな。マイトレーヤ」
シファールの思念に呼ばれてやってきたのはエミロクだった。
シファールにはマイトレーヤと呼ばれている。
「このようなところにいて良いのですか?一応立場的にはあの暴君に加勢しなくてはならないのでは?」
「食えんやつだ。知っていてあえて聞くか」
「いえ、かいかぶり過ぎですよ。あなたほどの存在が考えることをどうして見通せましょうか」
「まぁいい。貴様こそこんなところでのんびり見物していて良いのか?仲間なのだろう?」
「私の介入できるところは地上の営みの範囲を逸脱する領域のみですから。まだ私が出て行く時ではありませんよ」
「どういう意味だ?」
「おや。既に手を打たれているのかと」
「‥‥」
シファールは一瞬何かを思案する表情を浮かべた。
「ふん。まぁいい。好きにしろ」
「言われなくともそうしますよ。どうかあなたも節度を持って」
「ははは!そんなのは操り人形の天使どもに言え。変に感情を手に入れたと勘違いしているからな。あやつらこそ節度が必要だ」
そう言うとシファールはアムラセウムの奥へ消えて行った。
エミロクもまた観客席へ戻っていった。
次のアップは木曜日の予定ですが日付跨ぐ可能性あります。
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