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<ゲブラー編> 182.ヘクトル

182.ヘクトル



 「みなさん、そろそろ良いかしら?マスターはお疲れですし、明日に控えている決戦の時までに回復する必要があります」


 涙してスノウの生還を喜んでいるバルカンやナージャたちに突然ピシャリと言い放つフランシアに一同は泣くのをやめて一斉に振り向く。

 ワサンは額を触りながらやれやれといった表情で見ている。


 (全く空気を読むっていう機能をどこかに置き忘れて生まれてきたな、この女‥‥)


 フランシアとワサンはロゴスの生命感知魔法ライフソナーでスノウが生きていることを確認していたため、焦ることなくここまで運んできたのだ。

 そして闇虎の槍に串刺された背中の傷も、闇虎によって槍が消えた直後にスノウ自らの魔法によって治癒されていた。

 ただし、疲労は限界に達しているためフランシアの言う通り療養は必要だったが、なに分言い方がまずかった。

ナージャがフランシアにくってかかっている。


 「お前一体何様だよクソアマが!スノウがあんな激闘の末生きてたってのに喜んで何が悪りぃんだよボケが!」


 「あっあー!それはもしかして、自分はマスターが死ぬかもしれないと思っていたのに生きていたという喜びを感じているのに対して、既にマスターはご自身でちゃんと治癒して問題なく対処していることを知っている私に向けた嫉妬めいた苛立ちという気持ちね!分かる!分かるわ!」


「?‥‥‥」


 ナージャたちは一瞬何を言われたの分からずフリーズした。


 「お、お前一体何いってんだよこのクソアマが!」


 フランシアに殴りかかろうとしているナージャをマインとバルカンが止める。


 それを楽しそうに見ているヒーンとやれやれといった表情のワサン。

 そして煩いなといった苦い表情をしているスノウは耳を塞いでいた。


 (しかし、あの時の闇虎、試合終了をレンスに急かしたのは何故だ?)


 ワサンは試合最後の闇虎の行動に違和感を感じていた。


 (起き上がってくるかもしれないスノウに危機感を感じてさっさと終わらせるために言ったのか‥‥それとも、早くスノウを治療させるために言ったのか‥‥)


 本人に聞くしかないと結論づけたワサンは自分の控室に戻り、ソファに座って腕を組んでそのまま仮眠をとることにした。

 空気の読めないフランシアにナージャだけじゃなくバルカンも入って言い合いしているため、うんざりしたため自室に戻ったのだった。


 ガチャ‥‥


 ワサンの控室のドアを開けた者がいる。


 「スノウ!」


 スノウだった。


 「大丈夫なのか?」


 「ああ」


 「しかしよく気づかれずにこの部屋に来れたな」


 「ああ。おれをそっちのけで言い合いだ。あっちにいる方がおかしくなるよ」


 「ははは‥‥確かに」


 「ワサン‥‥」


 「?」


 改まったようなスノウの自分を呼ぶ言い方に少し驚くワサン。


 「この世界での戦いが終わったらどうするんだ?」


 「決まっている。オレはあんたと行動を共にする。マスターであるあんたの手足となってな。だが‥‥」


 「だが?」


 「ああ。可能であればホドに戻りたい。戻ってアレックスたちがどうなったかを知りたい。そしてもし、困っているようなら助けたい」


 「そうか‥‥。それを聞いて安心したよ。同じ気持ちだ。あの蒼市ダンジョンからの突然の越界以降随分と時が経ってしまったからな。当然、三足烏サンズウーとの戦いも何らかの決着がついているだろうし、あのホウゲキ相手に全員無事なのかどうかも想像できない。いや、きっと無事なはずだよな‥‥。だけど、もし危機に瀕していておれたちが戻ることで彼らを救えるなら救いたい‥‥」


 「じゃぁ決まりだ!この世界の戦いが終わったら、ホドに戻る!そしてレヴルストラの仲間に会いに行こう」


 「ああ」


 かつてのワサンからは想像できない変化に相変わらず戸惑うスノウだったが、その芯にあるものは間違いなくワサンだった。


 「それで明日の作戦は?」


 「後で皆と話そう」


 「了解した」


・・・・・


・・・



―――革命軍アジト―――


 尾行されない様に革命軍アジトに集まった一連のメンバーたちはそれぞれ席について食事をしている。


 そこにいたのは、革命軍からはバルカン、ヒーン、マインの3名、そしてスノウ、フランシア、ワサン、ナージャ、アンジュロだった。


 ヤマラージャ、エスカ、コウガ、ソニア、ザラメスはまだ帰還していない。

 それぞれの役割を果たしているのだとスノウたちは理解していた。

 マシュは来ることも可能だったが、ヤマラージャや悪魔たちによって破壊されたナラカ内の整理と出入り口、階段の修復に当たっており、明日の表彰式の決戦にも参加しないため今日のところは欠席となっている。

 エミロクやシミョウ、シロクについてはヒーンから報告があり、エミロクはアルマロスを追っているという事と、シミョウ、シロクについては残念だったと告げられていた。

 そしてゼラについては裏切り者として結論づけられていた。


 一同はこれまでの各国での激闘で命を落としたであろう仲間たちへの黙祷が行われた。

 明日の決戦に勝った暁には必ず勝利をもぎ取った上で弔うことを皆心に誓った。

 黙祷が終わるとバルカンが口火を切った。


 「明日はどのような作戦でいく?」


 バルカンの質問に対してスノウが答える。


 「作戦もなにもないよ。前回の表彰式の状況からヘクトルは入賞者10名に対して下位から順番に一人一人に何か褒美を渡すに違いない。一旦ヘクトルを油断させるためにバルカン、ワサンまではそれを受け取ってもらう」


 「ということはスノウの番になったら攻撃を仕掛けるということだな」


 「そうだ。おれが攻撃を仕掛けるからそれを合図と思って一斉にヘクトルに襲いかかる」


 「うまくいくのか?」


 最もな疑問を投げかけるバルカン。


 「注意すべきは内と外。外は観客たちが巻き込まれないようにするのと、余計な敵方の応援が入ってこないようにすること‥‥ここはまかせてほしい。僕が出入りできないバリアを張るよ。まぁ僕の力を超える存在だったら軽々と出入り出来てしまうけどね」


 ヒーンが答えた。


 「分かった。それで内側は?」


 「ここはおれが話そう」


 再度スノウが話を始める。


 「おれの見立てはこうだ。敵方で注意すべきは、ヘクトル、宰相のシファール、そして闇虎とゲントウだ。おれはヘクトルに一発お見舞いする。おれの一撃で死ぬ相手じゃないことは分かっているから、これは敵方を驚かせて隙を作る一撃だ。そのタイミングでおれは闇虎を討つべく相手を変える。そしてバルカンとワサンはヘクトルに集中してほしい」


 「分かったぜ!」


 バルカンはヘクトルを討てるとあってガッツポーズをしながら了解した。


 「そして、ゲントウだがフランシアに頼みたい。おれの合図と共に観客席からヒーンの張るバリアを抜けて闘技場内に入りゲントウを倒してほしい。君の未知数の強さならもしかすると瞬殺かもしれないが、ゲントウを抑えることもまた重要だ。頼めるか?」


 「もちろんですマスター。ターゲット一人でも良いですし、全員殺せと仰って頂ければそうします」


 一同はやりかねないといったオーラを感じてゾッとした。

 その中でヒーンは自分のバリアがフランシアには破られる前提で話をされていることに少しだけムッとしていた。


 「そして、シファールだが‥‥」


 次に自分に指名が来るのだと思っているマインは目を輝かせている。


 「誰も近づくな」


 ズル!


 一人ずっこけるマイン。


 「おいおいスノウ!私が抜‥‥いやなぜ宰相だけ誰も近づいてはならんのだ?」


 「あれはやばい。直感だが、あれは今のおれたちが、いやシャナゼンたち含めて総出でかかってもおそらく勝てない。おれの細胞がそう訴えている」


 真剣な表情で語るスノウのその言葉を聞いてマインは大人しく引き下がった。

 そしてバルカンが割って入る。


 「お前が言うならそうなのだろう。だとしたら、宰相が何か行動を起こしたらどうするんだ?」


 「その時はその時だが、何故か感覚的にだが‥‥おれたちがヘクトルを攻撃してもそれを阻む様な行動には出ない気がする‥‥。このゲブラーの足元や近未来を見ているというよりもっと先というか別の方向を見ている感覚だ‥‥。そして時折見せている冷たく荘厳なオーラを放つ目‥‥。あれは誰かに仕えている者の目じゃなかった」


 「それはオレも理解できる」


 ワサンが賛同した。

 恐らくは、越界者としてそれぞれの世界毎に起こっている事に加えて、全世界に跨って存在し、何か大きな目的のために動いているような組織や思想があると理解しているためワサンはスノウの言葉を感覚として理解できたのだろう。


 「分かった。お前を信じるよ」


 バルカンがそう言うと、その場の全員が頷いた。


 「後はこの力が尽きるギリギリまで戦い続ける。だが、約束だ、みんな!」


 スノウの改まった言葉に一同は目を向けた。


 「絶対に死ぬな!死んだらそこで終わりだ。自己犠牲とか、誰かのために死んでチャンスを作るとかは無しだ!その先には勝利があるかもしれないが、残るのは、後悔と苦痛だ。おれたちは全員生きて勝つ!生きるために盾になれるし、生きるために攻撃のチャンスを繋ぐ。死んで成し得るものはない!これだけは約束だ!」


 一同は拳に力を込めて頷いた。


 ぐぅぅぅぅ〜〜‥‥


 「よ、よし!じゃぁ食うぜ!」


 『お前なぁ!』


 腹ペコ大将のナージャが折角の鼓舞された雰囲気を絶妙なタイミングでお腹を鳴らして壊し、恥ずかしさのあまり大声で台無しにする発言をした。


 「いいじゃないか。さぁ、みんな食おう!」


 スノウがそう言うと皆笑いながら食べ始めた。


 (これでいい。リラックスと仲間を感じられるこの雰囲気がいい)


 「レヴルストラもこんな感じだったな」


 ワサンがスノウに耳打ちした。


 「ああ」


 スノウは笑顔で答えた。



・・・・・


・・・



―――翌日―――



 ドーン!ドドーン!


 大会のフィナーレを飾る表彰式が執り行われる日が来た。

 表彰式を予定通り行うことを知らせる空音の花火が鳴る。


 毎度、表彰式は派手な演出となっているようで、それを見ようと沢山の観客が観客席に押し寄せて立ち見もできているほどだった。


 突如、アムラセウムの外壁の上に等間隔で赤いローブを着た者たちが現れる。


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 最早些細な変化ですら大歓声が沸き起こるほど観客たちは興奮状態となっている。


 そしてローブを着た者たちは片手を上にあげた。


 シュウンシュウンシュウン‥‥‥ドドドドドドォォォォォォォン!!!


 上げられた手からいくつもの炎魔法が放たれて、空中で爆発した。

 そこから発せられる黒煙はアムラセウムの空を覆い、辺り一帯がまるで夜になったかの様に暗くなる。


 バァァァン!!


 すると突如闘技場内の扉が開く。


 ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ‥ボッ


 地面に炎玉がまるで入場ロードを示す様に連続して点灯する。


 ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッ


 入場ロードを示す2本の炎玉の線は闘技場中央に至ったところで楕円に広がって点灯する。



 パッパラパーパパパ、パッパラッパーパパパパパー!!


 ファンファーレが鳴り響く。

 そして炎玉で楕円が作られた中心から突如地面が隆起して円柱上の台が登場する。


 バァン!


 そこから蓋が開く様に円柱の上面が開くと、グランヘクサリオス総合プロデューサーのレンス・ジャニーンが登場した。


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 バッ!


 レンスは観客たちに静かにする様に指示を出す。

 静まるアムラセウム。

 暗闇の中の静寂。


 ササッ!!


 レンスが手をあげると、外周の赤いローブの者たちは再度手を上げて炎魔法を放つ。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥン‥‥‥‥ドドドドォォォォォォォォン!!!!


 太陽が既に高く登っている昼にも関わらず、暗い曇天に美しい花火が咲き、アムラセウムの観客たちの顔を色とりどりに変える。


 そしてレンスが再度手を真上にあげると、そこから一筋の炎魔法のレーザーが天に向かって放たれる。


 「さぁみなさん!グランヘクサリオス・フィナーレ!激戦を戦い抜いた勇者たちの入場です!」


 パァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!


 レンスの言葉の直後、放たれているレーザーが黒煙の雲の中で破裂する様に空に大きな空洞を作り、日の光を一気に取り込んだ。

 日の光が差し込んだ闘技場内には既に歴戦を戦い抜いて、上位8名に入った最強グラディファイサーたちが並んでいた。



  槍神・闇虎


  雷帝・スノウ


  神速牙・シルバーファング


  死魂斬波・ゲントウ


  紅炎鬼・ヒーン


  嵐を呼ぶピエロ・クアンタム(急遽名付けられた)


  業魔剣・バルカン


  神殺し・ジヌーク(死亡のため、遺品の武具が置かれている)



 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


 派手な演出と日の光に当てられて輝く入賞者たちを見て観客たちは狂気とも言えるほどの歓喜の声を上げた。

 アムラセウムの壁や闘技場の地面、そして空気、あらゆるものがビリビリと揺れた。

 トーナメントの上位という括りで入賞者を決める必要があったため、急遽8名が入賞者となっている。

 予想外にも表彰式に来ているクアンタムを見たシルバーファングは、彼に対して鋭い眼光を向けていた。


 「そして!!」


 さらにレンスは手を上げた。

 その指した先はアムラセウムでゾルグ最高権力者しか入ることのできない最高VIP観覧席を指していた。


 「いよいよ来るぞ」


 「ああ」


 バルカンがスノウに小声で話かけてスノウは軽く答えた。



 ババ!ババババ!‥‥ババババババババババババババババババババババ!!!


 最高VIP観覧席から炎の階段が闘技場内に向けて一気に発火して形成された。

 そして観覧席の前の壁と窓が中心から左右に自動で開き始めた。


 ゴゴゴゴゴゴ‥‥


 「皆様!!我らがゾルグ王国の偉大なる最高権力者であらせられるヘクトル王のご降臨です!」


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


 悲鳴にも聞こえる大歓声がさらにアムラセウムや地面、そして空気を振動させる。


 ファンファーレと共に登場したのは豪華な兜に鬼神のような黄金の面を被り、荘厳な鎧と共に鮮やかな刺繍の入ったマントをつけた人物だった。


 キィィィィィィィィィィィン‥‥


 闘技場内にいる8名や観客席にいるフランシア、マインやその他グラディファイサー、その経験者たち戦いに身を置いた事のある者全員が、激しい耳鳴りと共に凄まじい荘厳かつ異様なオーラを感じ取った。

 そして戦闘力の弱い剣士はオーラに毒されて泡を吹いて倒れる者までいた。

 一般の観客たちには感じ得ないオーラのため倒れるものはいなかった。



 その人物は誰もがヘクトル本人だと感覚で理解した。



 バッ!


 ヘクトルが片手をあげると、そこから光の玉が空中に飛んでいく。

 そしてレンスが開けた黒煙雲の空洞の中心に飛んでいくと、一瞬にして凄まじい光を放った。


 パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‥‥‥‥


 それはまるで太陽などは自分の光に比べれば大したものではない、太陽すら従えるほどの力を持っているというメッセージに見えた。



 スタッ!!‥‥シュウゥゥゥゥゥゥン‥‥タタン‥‥


 そして軽々と飛び、表彰台の前に設置された高台の上の玉座の前に降り立った。


 バァッ!!


 そして両腕を広げる。



 「我 が! ヘ ク ト ル で あ る !」



 心の奥に突き刺さるような声で囁いている様な感じにも聞こえるが大音量で響く声でヘクトルは言葉を発した。


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 大歓声の中、スノウたちは拳に力を込めていよいよやってきたチャンスを活かし勝利をもぎ取る決意を新たにした。







次のアップは火曜日の予定ですが、1日遅れる可能性があります。


いよいよ最終局面でそれぞれの勢力の思惑が交錯する展開が始まります。

共闘反乱軍がヘクトル勢力を倒すのか、それともヘクトルが勝つのか、暗躍する悪魔たちの動向は‥‥

など楽しんでいただけたら嬉しいです。

もし楽しんでいただけたら高評価やレビューなどをいただけるとさらにモチベーションが上がります!

どうぞよろしくお願いいたします!

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