<ゲブラー編> 178.追撃
178.追撃
サルガタナス、アガリアレプト、ネビロスは荒野を西へ向かって走っていた。
ザムザの鱗粉の効果によって魔力のほとんどを吸い込まれてしまっていたため、空間移動や空中浮遊などの移動手段が取れないためだ。
「全く忌々しい虫だな」
「流石にここまで真面目に走ったのは数百年ぶりだの」
「‥‥」
3体とも息を切らすことなく平然と会話している。
「!」
突如、サルガタナスが前方に何かを感じて止まった。
それに釣られる様にしてアガリアレプト、ネビロスも止まった。
「なんだ‥‥?何かが来るぞ‥‥」
「凄まじい熱量だの」
サルガタナスたちは構える。
徐々に近づいてくる存在が何かに気づいたようでサルガタナスはニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほど。お前さんにリベンジと来たかい」
「奴は手強いぞ。アルマロスですら仕留められなかったからな」
「それほどか!わしに譲れ」
「どうする?ここで別れるか?あれもミトラの呪詛に侵された身とはいえ、所詮はニンゲンだ。我ら総出でかかる相手でもあるまい。我は先に目的の場所へ向かうぞ」
「好きにしろ」
ディアボロスの命に忠実に動くネビロスは先を急ぎたいようで、サルガタナスはそれを了承し、腕を組んで一歩下がった。
そしてその前にアガリアレプトが剣を構えて立った。
ネビロスは先を急ぐため、戦闘をさけるように迂回する形で再度走り出した。
パカラッ!パカラッ!パカラッ!パカラッ!パカラッ!
馬の蹄の音が徐々に大きくなる。
「来たぞ!」
やって来たのはヤマラージャだった。
ヤマラージャは馬の鞍上に立ち軽く跳躍した後、炎魔法でまるでロケットブースターのように勢いよく上昇した。
シュウウゥゥゥゥゥゥ‥‥
大きく跳躍しながら右手を振り上げている。
その拳には炎が宿り高音で燃え盛っている。
ドオオオオオオオオン!!
ヤマラージャが振り下ろした凄まじい煮えたぎる正拳がアガリアレプトの剣とぶつかり超爆発が巻き起こった。
凄まじい爆風にも関わらず、そのすぐ後ろで腕を組んで様子を見ているサルガタナスは全く動じることも、爆風に押されることもなく立っていた。
「凄まじい力じゃ!これは、ニンゲンが繰り出せる代物ではない!長年超高熱の何かの影響を受け、それを憎悪で閉じ込め凝縮されたものが溢れ出ている感じだ!」
アガリアレプトは剣で支えるきることができずに押し潰されて、地面に埋まった。
ブゥゥゥン‥‥ブワン!!
そのまま次の動作に移り挙列な鉄拳を繰り出すヤマラージャの攻撃は流石のサルガタナスも危険と捉えたのか、そのまま後方に避けた。
だが、依然腕は組んだままだ。
「相変わらずの馬鹿力と熱量だな」
「貴様のことはわかるぞ。ナラカにいた悪魔だな」
間近で見ると3倍はあろうかと思うほどの大きさに見えるヤマラージャは胸から錫杖を取り出してサルガタナスに向かって思いきり振り下ろす。
バゴオォォォォォォォォン!!ビギギイン!!
「お前の相手はこのわしだ!」
そういって錫杖攻撃を受けたのはアガリアレプトだった。
バリン!!
だが、ヤマラージャの攻撃があまりにも強力であったため、アガリアレプトの剣は折れて粉々になってしまった。
「むむ!剣を折られるとは何たる不覚!」
そう言うとアガリアレプトはすぐ真横の空間に異空間への小ゲートを開き手を入れた。
そして取り出したのは刀だった。
それもかなりの業物に見える代物だった。
ズワン!!
アガリアレプトは刀を思い切りヤマラージャに向かって振り下ろす。
その素早く力強い一振りによって、ヤマラージャの腕が服飛ばされる。
シュルシュルシュルシュルシュル‥‥
ヤマラージャの切断された腕は、切断面からすぐさま生える様に腕が再生された。
「出鱈目な回復力だな!」
アガリアレプトの凄まじい斬撃が続くが、ヤマラージャは斬られながらも徐々にアガリアレプトに近づいていく。
「再生は我ら悪魔の専売特許だぞ!」
「囀るな。ここは貴様らの来ていい世界ではないぞ。素直に還るなら見逃してやろう」
「冗談が言えるのか。これでは驚きだ。堅物だと思っていたがな」
サルガタナスが挑発している隙にアガリアレプトが裏から刀を振り下ろす。
ザガガガガガガァァァァァン!
刀はヤマラージャの頭頂部からまっすぐに振り下ろされて斬られるに連れて重みで左右に裂けていく。
だが、そのまま錫杖を振り下ろす。
ガコォォォォォォォォン!!
アガリアレプトは刀でそれを受ける。
「力に頼りきりおって!」
アガリアレプトは体勢をずらして錫杖を受け流し、そのまま真横に振り切る。
シャワン!
だが、刀は空を斬った。
「!!‥‥面白い!力だけではないとでもいいた様じゃな!」
「力と速さだけじゃないぞ」
ブワン‥‥シュゥゥゥゥゥゥン‥‥ドッゴォォォォン!!
凄まじい速さでアガリアレプトの背後に回ったかと思うと、左手をアガリアレプトの背中に当てた。
その瞬間に赤い光が集積されて、凄まじい爆熱破を放出した。
「なるほどのう‥‥」
アガリアレプトはギリギリのところで避けた様だが、左半身が弾き飛んでいた。
回復していくが、全て回復するだけの魔力がなく、左腕がない状態となった。
「素晴らしい力だ!どうじゃ?わしらと来んか?冥府でお主の抱く怒りを放出すれば魔王になるのも容易いだろう!」
「私は嫌だぞ。こいつとは相性が合わんからな」
まさかのアガリアレプトの冥府への誘いに対して、サルガタナスはあからさまに嫌がっている。
「生憎我の怒りは他人に向けられるものではない。そんな者が冥府で怒りを解放すれば自滅は免れないだろう。そもそも我は悪魔にも魔王にも興味はないがな」
「そうか、残念じゃ」
「もういい。お遊びは終いだ。アガリアレプト、二人で行くぞ。ネビロス一人に任せるには心もと‥」
ドゴゴォォォォン‥‥‥ズザザザァァァァァァァ!!
西の方からネビロスが凄まじい勢いで吹き飛んできた。
ネビロスはかろうじて倒れることなく踏ん張る。
「‥‥貴様何をしているネビロス。血迷ったか」
「我を愚弄するか。貴様らがさっさとそこの分霊を始末しないから追いつかれたではないか」
「ちぃ‥‥」
スゥゥゥゥゥン‥‥スタ‥‥
タタン‥‥
空からふたつの存在が降りて来た。
「逃げられるとでも思ったのかしら?」
現れたのはアールマティとローブの男だ。
後から追いかけたはずがサルガタナスたちを追い越してネビロスを捉え、押し戻す形で吹き飛ばしたのだ。
「全く‥‥囲まれてしまったようじゃぞ」
アガリアレプトは東側の後方に目を向けた。
ファサ‥‥ファサ‥‥ファサ‥‥
ザムザと彼に掴まる形でエスカ、コウガ、リュウソウがやって来た。
「おいおい、これではディアボロス様の命を果たせなくなる可能性が出て来たじゃないか」
「そうはならんぞ。我らでこやつらを滅すれば良い。それだけだ」
サルガタナスの言葉にネビロスが楽観的に答えたため、サルガタナスは舌打ちをしながら露骨に苛立った表情を浮かべた。
「‥‥また現れたか。この隙をついて我らの中で誰か一人は先に進むぞ」
サルガタナスの囁きにアガリアレプトとネビロスのふたりは頷いた。
その言葉の直後、エスカの背後に黒い煙が現れる。
「シャァァァァァ‥‥トウメイを‥‥出せ‥‥」
そして空中に浮いているザムザの影から黒い存在が出現する。
ザムザもエスカもそれらの存在に気づいていない。
ザン!!
突如凄まじい速さでアールマティとローブの者が跳躍する。
アールマティはザムザの影から現れた黒い存在に手刀の突きを繰り出した。
そして同時に白地に紺の稲妻模様の入ったローブをきた者がエスカの背後の黒い煙に刀を抜いて斬りかかる。
ズザザン!!
エスカはローブの者が自身の真横を通る際に一瞬だけ顔を見た。
どこかで見覚えのある顔だと感じたが、背後から聞こえる何かを斬る音で我に返り振り向きながら飛び退いた。
「シャァァァ‥‥貴様はトウメイか」
一瞬吹き飛んだかと思われた黒い煙は移動しながらローブの者の背後に回り耳元で囁いた。
間髪入れずに背後に刀を振り黒い煙を吹き飛ばす。
その瞬間にローブのフードが外れた。
「!」
エスカは驚いた。
どこかで見たことのある顔は気のせいではなかったからだ。
色白でまるで女性のような美しく且つ凛々しい顔をした男だった。
そしてアールマティの方は、放たれた手刀の突きを白い刃を剥き出しにして噛んで止める黒い存在。
バゴン!
すぐさまアールマティは膝蹴りを黒い存在の頭部に食らわせて、噛まれている手を引き抜いた。
ドッゴォォォォォォォォォン!!
彼らの後方で凄まじい音が地響きともに鳴った。
「貴様らどこへ行く?!」
ヤマラージャが3体のうち2体の悪魔を後頭部から鷲掴みにして地面に叩きつけたのだ。
押さえつけられているのはアガリアレプトとネビロスだった。
シャバン!!
アガリアレプトは刀でヤマラージャの両腕を切断し、後方に飛び退いた。
それによってネビロスもまたヤマラージャの押さえつけ攻撃から解放され、後方に飛び退いた。
「やつは上手く切り抜けたようじゃの」
「ああ、だが此奴を倒さぬ限り我らはここで足止めになろう」
「ならばさっさと片付けるのみじゃ」
アガリアレプトとネビロスに対峙しているヤマラージャは体の熱を徐々に上げている。
一方アールマティが対峙しているザムザの陰から現れた存在はタローマティだった。
「いいでしょう。ここで決着をつけるのも何か意味があるかもしれないわね」
そう言うとアールマティは構える。
その横にザムザが立ち構える。
「坊やも戦ってくれるのね」
ザムザは軽く頷いた。
そして、もうひと組。
ローブの男は刀を構えた。
「まだ戦えるかい?」
ローブの男は優しい声でエスカたちに問いかけた。
「も、もちろんだ」
エスカは何かが気になりながらも剣を構える。
その直後、エスカの背後から黒い煙が現れた。
「エスカ、しゃがんで」
ローブの男はそう言うと、刀を横振りする。
その横振りの速さに絶妙に合わせてしゃがむエスカの頭のすぐ上をローブの男の刀が流れる様に動いていく。
黒い煙は一瞬で散ってしまうが、しばらくするとまた現れる。
「シャァァァァ‥‥トウメイと雰囲気がにているぞ‥‥貴様‥‥いいだろう、この場は貴様で許してやる‥‥」
黒い煙は次第に実体を顕にした。
「あなたはノウマン将軍だな」
リュウソウが槍を構えて言う。
「いかにも」
次の瞬間、黒い煙ノウマンは実体を現してリュウソウたちに攻撃を仕掛ける。
トン‥‥
「数合わせは必要じゃ」
アガリアレプトが突如リュウソウの背中に手を当てた。
そして首の後ろ部分を爪で引っ掻き傷を作るとそこに何かを流し込む様にかにかの物体を吸い込ませた。
「うぐぁぁぁ!!」
「リュウソウ!」
突如苦しみ出すリュウソウを真横で見ているエスカは驚きの声をあげる。
コウガはアガリアレプトに槍を叩き込もうとするが、寸前で避けられてしまった。
ググググ‥‥ガリガリガリ‥‥ボゴゴ‥‥ジャシャァァァァァ‥‥
リュウソウの姿がみるみるうちに変わっていく。
上半身はリュウソウそのままで下半身は蛇のような姿になった。
シュァン‥‥
ドッバァァァァ‥‥
コウガは突如胸から出血する。
どうやらリュウソウだった存在が攻撃を仕掛けた上で跳躍したようだ。
ストン‥‥
リュウソウだった存在はアガリアレプトの隣に着地する。
「お前の出番はもう少し後じゃったのだが、こんなところで呼んですまんなボティス」
「いえ、我が主人。命とあらばいつ何時でも参りましょう」
ボティスと呼ばれた悪魔はアガリアレプトの横で礼をした。
「さて、数合わせ‥‥とまではいかんが、配下の者を呼んだ。大人しくわしらに殺されろ」
アガリアレプト、ボティス、ネビロスはヤマラージャの前に立った。
「気を抜いてはいけないよ、エスカ。彼を救う手はある。今はこの目の前の怨霊を滅することに集中だ」
そう言うとローブの男はエスカ、コウガとともに怨霊ノウマンに向かって武器を構えた。
一方、サルガタナスは何とか戦いの場から抜け出して一路エンブダイを目指した。
この戦場はエスカたちに任せられると考えたヤマラージャはサルガタナスを追った。
アップ遅くなり申し訳ありません。
あまりの疲労で途中で力尽きてしまいました。
週末巻き返す予定です。次のアップは金曜日の予定です。
いつも読んでくださって本当にありがとうございます!




