<ゲブラー編> 175.デーモン・ロード
175.デーモン・ロード
「神楽巳流剣術・奇出没兎」
リュウソウは舞のように体を回転させて、剣を見えない角度から何度も打ち込む。
剣の動きが読めずに食う無数の突きによってアガリアレプトは傷を負い始める。
そしてそのままアガリアレプトの懐に入ってリュウソウは力を貯める。
「神楽巳流剣術・照元抄!」
凄まじい勢いで体と剣を回転させ、ドリルのようにアガリアレプトに突っ込む。
ガガガガガガガガ!!
アガリアレプトは奇出没兎の攻撃は何もせずに受けるだけだったが、リュウソウの放つ照元抄は剣の腹を盾にして受けた。
「ほう!ネビロスの腕をねじ切ったこの攻撃は流石に避けねばのう!」
アガリアレプトはまるで戦いを楽しんでいるかのようにリュウソウの攻撃を受けている。
「竜炎時遇!」
今度は突きのラッシュを食らわせる。
何度も心臓の位置を突いているがアガリアレプトには全く効いていないようで攻撃を受けながらゆっくりと剣を振り上げて何かの構えを撮り始めた。
ザグザグザグザザグザグ!!
「さぁて、今度はこちらかだ。お前さんの全てで争って受け切って見せろ」
アガリアレプトは剣先を真上に上げた。
「アビスカンテ‥‥」
キュルキュルキュル‥‥‥
「!!」
アガリアレプトの剣の周りに黒い稲妻のような怪しい光が出現した瞬間、リュウソウの脳裏に “死” が浮かんだ。
アガリアレプトは一気に剣を振り下ろす。
ジャババババァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
黒い稲妻とともに振り下ろされた剣は周囲の空気ごと倒れた兵や壊れた騎馬車、武具などを巻き込みながら地面にまで達したが、その瞬間地面は大きく割れ、まるで底無しのアビスが何もかも吸い込むように巻き込んだ様々なものを割れた地面の中に引き摺り込んだ。
シュウウウウウウゥゥゥゥゥ‥‥‥
アガリアレプトの桁違いの攻撃によってあたりがまるでこそぎとられたかのように何も無くなってしまった。
「ほう!素晴らしい!あれを食ろうてまだ立つか!気に入った!」
「異常な強さですね、悪魔とは。だが、祖先の叡智に感謝です」
リュウソウはアガリアレプトのアビスカンテを受ける直前に神楽巳流剣術奥義の一つである “流流龍”を繰り出して、アガリアレプトの黒い稲妻の斬撃を受け流し、その勢いで力の限り跳躍して地面に剣を指して地割れで生じたアビスへ引き摺り込まれるのを防ぎ耐えたのだった。
だが。
「じゃが、ただではすまなかったようじゃな」
リュウソウは姿勢正しく凛々し姿で立っているがその左手は引きちぎられた状態となっていた。
剣の鞘を脇に挟み止血しているため、その手からの出血はほとんどない。
そして剣も折られていた。
「大したことはない。両手両足を失っても剣を咥えて戦えばいい。神楽巳流剣術はそういった状況も想定して剣術を作り上げてきた。片手を失うことは万全の体勢とさして変わりはない」
「気に入った!やはりわしのおもちゃとしては最高のニンゲンじゃ!」
アガリアレプトは嬉しそうだった。
「さぁいくぞ!その万全の体とやらでわしを倒して見せろ!」
そう言うとアガリレプトは剣を腰の背後に回して構えた。
「ハディシト‥‥」
アガリアレプトの剣が今度は紫の稲妻を帯びてバチバチと弾け出した。
ブワァァァァァン!!!
アガリアレプトは紫の稲妻を帯びた剣を大きく横振りした。
それに合わせて紫の稲妻を帯びた斬撃波が繰り出される。
ブワワァァァァァァァァァァァン!!
斬撃波は次第に大きくなりその隙間から黒紫に淀んだ異空間を作り出した。
「!!」
リュウソウは咄嗟に地面に向かって照元抄を放ち大穴を開けた。
バジュバジュバジュバジュバジュバジュ!!
黒紫の異空間は触れるものを引き摺り込み消えた。
アガリアレプトは周囲にリュウソウの姿が見えないのを確認してため息をついた。
「闇に飲まれおったか。この力はちとつまらんのう」
「神楽巳流剣術秘奥義・神紅龍」
「!!」
ズッバァァァァァァァァァァァァァァ!!!
アガリアレプト背後からリュウソウの声が聞こえたかと思った瞬間、突如アガリアレプトの腹が一気に破裂して大穴があく。
「ぶっばぁぁぁぁぁ!!」
アガリアレプトは口から大量の血を吐いた。
「平伏せ」
ドン!!
リュウソウは突如地面にうつ伏せになって押しつぶされそうになる。
ダン!
リュウソウは頭を踏みつけられる。
「がっはぁ!!‥‥誰が‥‥邪魔をしてよいと言ったぁ!!」
アガリアレプトは引きちぎれそうな胴体を捻り剣を凄まじい速さで横振りし背後に斬撃を繰り出す。
バシュゥゥゥン!!
それに何かが斬られて長い何かが吹き飛ぶ。
アガリアレプトは怒りの表情で振り向く。
「貴様一体どういうつもりだ!サルガタナス!」
アガリアレプトが振り向いた先には、言霊でリュウソウを平伏させて頭を踏みつけているサルガタナスがいた。
そのムカデの片腕は先ほどのアガリアレプトの斬撃によって切断されている。
「随分な言われようだ。こやつの次の一手に気づかない貴方ではあるまい?」
「助けたつもりか?わしが勝負事を重んじていることを知っておろう?」
「今は主人の命の遂行が最優先のはずだ。個人的な興味で勝手に冥府に還されては計画が狂う」
「ディアボロス様へは暫定的に従っているということを忘れるな。次余計なことをしたら貴様を冥府へ還してやろうぞ。そうなれば貴様の立場も危うくなろうに」
「出来もしないことを言うな。悪魔らしくもない。それより此奴はどうする?」
「興が醒めた。好きにすればよい」
「全く‥‥多情なやつだ」
そういうとサルガタナスは右腕の蛇の手を伸ばしてリュウソウを噛みつこうとする。
「名もなきニンゲンよ。死ね」
「五芒星」
ザバン!!
サルガタナスの腕が突如吹き飛ぶ。
「!」
「流星光槍!」
無数の槍の突きがサルガタナスを襲う。
ズブズブズブズブズブザザザン!!‥‥ドシュゥゥゥゥン!!
サルガタナスは吹き飛んだ。
「エ、エスカさん!」
リュウソウが叫ぶ。
現れたのはエスカとコウガだった。
隙をついて放たれたエスカの五芒星でサルガタナスの右腕を吹き飛ばした後、スイッチしてコウガが凄まじい速さの槍突きの連打を繰り出してサルガタナスを吹き飛ばしたのだった。
「間に合ったようだな」
「ああ」
コウガがふたりの悪魔を警戒して構えを取る。
その間にエスカがリュウソウを起こす。
「エスカさん‥‥なぜ?」
「この場の戦いを乗り切らねば私たちの勝ちがないからだ。そして大魔王が軍を出したと聞いてかけつけた。間に合ってよかった」
エスカはリュウソウの引きちぎられたような手を見て一瞬心を痛めた。
バシュン!!
突如アガリアレプトが斬撃をコウガに放つ。
それをコウガが大車輪・渦で巻き込んで吸収しようとする。
「コウガ!」
エスカが叫ぶ。
コウガの背後にサルガタナスの再生された蛇の手の頭が噛みつこうと迫っていたからだ。
バシュウ!!ザザン!!
突如サルガタナスの蛇手が切断された。
「ゼラ!!」
現れたのは革命軍幹部のゼラだった。
「危なかったねぇ」
エスカたちは驚く。
(どういう事?!ゼラは裏切り者‥‥のはず。スノウの推測が間違っていたのか?!)
エスカは困惑し心の中で考えを巡らせた。
「どうしたんだい?鳩が豆食らったような顔をしてさぁ。せっかくの美人顔が馬鹿面だよ。どうせあたしが革命軍やあんたらを裏切ってるのに何故助けたとでも思っているんだろう?あたしはねぇ、敵方に与しているふりをした言わばスパイだったんだよ」
「貴様‥‥裏切ったのだな?」
サルガタナスが腕を再生しながらゼラに向かって怒りの声をあげた。
「何を言っているんだい?悪魔のあんたが裏切りとか言っちゃぁ説得力がないじゃないか。さぁて、とっとと立ちな?これからが本番だよ」
既にアガリアレプトの体も再生されている。
上位悪魔は再生魔法も使えるため、簡単に再生してしまうが、かなりの魔力を消費する。
「ふん。こうも飛び入り参加が増えてはつまらんのう」
「まぁそう言うな。さっさと片付けてディアボロス様のところへ行くぞ」
アガリアレプトとサルガタナスはゆっくりと立ち上がって構えた。
一方、エスカ、コウガ、リュウソウ、ゼラの四人も立ち上がった構えをとった。
「数は多いけど圧倒的な劣勢に立っているな。気を抜かずに行くぞ」
エスカはコウガたちに告げた。
バァァァン!!
次の瞬間一気に戦いが始まる。
最初から前回モードのエスカたちは奥義、必殺技の類を連発する。
その度にアガリアレプトとサルガタナスは体を再生させる。
エスカは事前にスノウから情報を貰っていた。
・・・・・
・・・
「エスカ」
「ど、どうしたスノウ?」
「ハーポネスへの加勢を買って出てくれてありがとう」
「め、珍しいな。お前が礼をいうなど‥‥」
「茶化すなよ。だが、気をつけろ。あの戦場は今回の反乱共闘軍の戦いの中で最も過酷な状況に置かれる戦場だ。今回、魔王の軍勢が現れたことによって格段に難易度が上がってしまった。これは明らかにおれの想定を超えるものだが、時間まで持ち堪えられなければ負ける可能性が高くなる」
「わかっている。だから買って出たのだ。しかしお前ほどの男が恐る悪魔‥‥どれほどのものだ?」
「悪魔‥‥色々と階級があるようだが、おれたちが束になってかかってやっと倒せるのが中級悪魔レベルだろう。ゲブラーに越界する前に数回戦った事がある。いや、戦いを見ていただけ‥‥といった方が正しいかもしれない。おれの仲間が倒した中級悪魔もいたが、二人掛かりでやっとだった。ゲブラーに来てからは、シャナゼン王と共に戦った上級悪魔だと思われるやつがいたけど、その戦闘力は底知れない感じだったな。おそらく人間とかエルフとかに憑依している状態ならその力は制限されるようだから、勝機がないわけじゃないと思うが、本来の姿で現れている場合はかなり危険だ」
「本来の姿‥‥どうやって見分ける?」
「わからん‥‥」
「おい」
「いや本当にわからないんだ。だが、お前なら直感で理解するはずだ」
「そうか。それで本来の姿で現れた場合の対処方法は?」
「気を付けるべきは2つか。一つは言霊だ。上級悪魔以上が使えるらしいのだが、黙れと言われれば口を閉ざさずにはいられず、平伏せと言われれば平伏せざるを得ない。これには、未だ対処の方法はない。だが、広範囲じゃないということと複数への言霊は効力が薄れる可能性だ。できるだけ、仲間の距離をとって言霊の影響を最小限に押さえながら、言霊を発したら動ける者が攻撃して言霊を解く、それしかないだろうな」
「なるほど。警戒しよう。そしてもう一つは?
「再生能力だ。おそらく斬っても焼いても再生するはずだ。一見倒し様のない相手に見える。だが、自動で何の代償もなく再生はできない。いくら悪魔と言ってもな。おそらく魔力消費が激しいはずだ。魔力はやつらの様々な人智を超えた攻撃の源にもなっている。とにかく、攻撃して再生行為を繰り返させる。そして魔力の底をつかせられれば或いは勝機が見出せるかもしれない」
「わかった。仲間の距離をとりながらとにかく攻撃あるのみ‥‥だな」
「ああ」
「ありがとう、スノウ」
「エスカ‥‥」
「ん?」
「死ぬなよ?絶対に生きて帰ってこい。お前には生きていてもらわないと困る」
・・・・・
・・・
エスカは戦いながらも急に顔を赤らめてしまった。
「おい!戦いに集中しろ!」
コウガがエスカに叫ぶ。
ガカカカキキン!!
アガリアレプトもサルガタナスも防御をすることがほとんどない。
まるで人間が小さな虫を相手にしているかのような感覚なのだろう。
小さな虫相手に防御を取る人間はいない。
斬られても焼かれてもすぐに再生するアガリアレプトとサルガタナス。
「ハァ‥ハァ‥ハァ‥ハァ‥ハァ‥」
エスカたちは流石に疲れがピークに達した様で苦しい表情となっている。
一方悪魔たちは相変わらずの無表情だ。
「おいアガリアレプト。少しは気合を入れて戦ったらどうだ?いい加減蝿を払う行為も疲れた」
「貴様らがあのニンゲンとの一騎打ちを邪魔したからだろう」
ザバン!!
アガリアレプトの右腕が剣ごと吹き飛ぶ。
「ん?」
「おい魔力が尽きたんじゃないだろうな」
「そのようじゃが、それがどうした。何か支障があるのか」
シャババン!!
「ちっ!」
サルガタナスのムカデと蛇の腕が吹き飛ぶが、再生されない。
「そういう貴様も魔力が尽きた様じゃの。他人の心配している場合ではないのじゃないか?」
「問題ない」
(来た!)
エスカは合図をした。
エスカとコウガ、リュウソウ、ゼラは構える。
「神楽巳流奥義・神紅・五芒星‥‥」
「大聖竜・渦放!」
「神楽巳流剣術秘奥義・神紅龍・絶禍!」
「イーブルアイグラビティ!」
四人は一斉に必殺の攻撃体勢を取る。
「ちっ!平伏せ!」
ドォォォン!!
サルガタナスの言霊によって、手前にいるコウガが不思議な力で押しつぶされるようにひれ伏す。
だが、抗えるようで、完全にひれ伏していう状態ではなく徐々に立ち上がる。
その間に他の三人の攻撃が繰り出される。
「ハディシト」
アガリアレプトの異次元へ吹き飛ばす亀裂斬撃が三人を襲う。
「それは一度見ているぞ」
リュウソウの神紅龍・絶禍によって異次元への亀裂が真っ二つに斬られてしまう。
その間をすり抜けるようにエスカがスイッチして、必殺の神紅・五芒星を放つ。
ドォォォォォォォォン!!!!
「何?!」
突如エスカたちは重力で地面に押しつぶされるような状態で技を繰り出せない状態となった。
「お、おい!お前!裏切ったな!」
コウガ叫んだ先にいたのはゼラだった。
次のアップは月曜日の予定です。
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