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<ゲブラー編> 171.大正解だよ

171.大正解だよ



 両腕剣の男の腹からは血が滴っているが、その出血量は傷口の深さに対して明らかに少なく違和感があった。

 被っている仮面は先ほどの爆風でところどころ焼けて破損したのか、隠れていた髪の毛が部分的に露になっている。

 かなりのダメージがあるようで、その足取りはユラユラと不安定なものだったが、着実にザラメスの方に向かって歩いてきている。


 ガチャ・・・


 ザラメスは剣を構えて両腕剣の男の隙を伺っている。


 (隙だらけ・・・に見えるが・・・揺さぶってみるか)


 「ザナルース!」


 ブワン!!・・・・バシュゥゥン!


 ザラメスの放った炎魔法を乗せた斬撃を軽々と腕剣ではじいた。


 (隙はないか・・ならば攻撃あるのみ!)


 バシュン!!


 ザラメスは剣を構えて突進する。


 ガキキン!!キキカカン!!


 凄まじい剣の応酬が繰り広げられる。

 グラディファイスで荒くれ剣・グレンとして名を馳せた剣技の真髄は荒っぽく無闇矢鱈に剣を振り回しているように見えて、実は高等テクニックで読みづらい剣の軌道変更を剣振りの威力が損なわれることなく行えるところだ。

 ザラメスの剣の軌道は両腕剣の男の首元を狙っている軌道を描きながら突如向きを変えてアキレス腱を狙う。

 普通ならほぼ間違いなく斬られるところを異常な角度で曲がる体の構造とそれを支える体幹の強さから両腕剣の男をそれを異常な姿勢で避ける。

 だが、避けられたザラメスの剣の軌道は威力を損なうことなく向きを変えて両腕剣の男の脇腹を狙う。

 両腕剣の男は流石に体勢を崩している状態のまま避けることは出来ずに脇腹を斬られてしまうが、痛みを感じる様子のない両腕剣の男は脇腹を斬られながらザラメスに腕剣を振り下ろす。

 それを横に仰け反りながら腕剣を避けてそのまま炎魔法を放ちながら側転を繰り返して距離を取る。

 だが、両腕剣の男はその動きに合わせて距離を離させずに更に腕剣を横振りする。

 その軌道は側転するザラメスの首を狙っていた。


 (まずい!)


 ザラメスは剣を地面に刺して側転を止めてかろうじて腕剣を避けた。

 そしてザラメスは体をブレークダンスのように回転させながら起き上がり、両腕剣の男の背後に回る。


 (もらった!)


 ザラメスは起き上がりざまに剣を振り上げて、両腕剣の右肩目掛けて振り下ろそうとする。


 シュゥゥン!グザァ!


 「!!」


 突如両腕剣の男の左脇から剣を出して背後にいるザラメスを刺してきたのだ。

 背後にいるザラメスを見ることなく、突如左脇から剣がスッと突き出てきたトリッキーな剣技だった。

 だが、驚いたのはそのトリッキーな剣技を繰り出した両腕剣の男の戦闘力の高さではなく、そのトリッキーな剣技そのものに対してだった。



・・・・・


・・・


―――ザラメス幼少期―――



 カン!カカカン!カン!ドス!


 「いで!!」


 ドデェ‥‥


 ザラメスはメザナと木剣で剣術稽古をしていたが、毎度の如く数分で木剣を持つ手を叩かれて木剣を落として鳩尾にパンチを食らってうずくまって倒れた。


 「351戦351勝!またあたしの勝ち!」


 「ずるいよ。いつも手ばっかり狙ってきて!」


 「ずるくないわよ!それも立派な剣技だってグレン様も言ってたもん!」


 「お父様が?ずるい!なんで僕には教えてくれないだ!それじゃぁメザナが勝つに決まってるじゃないか!」


 「違う違う!手に剣を当てると剣が持てなくなるから勝てるけど、手を狙うのはとても難しいから練習してごらん?って言われただけだもん!」


 「メザナばっかり教えてもらってずるいじゃんか!」


 「じゃぁあんたもあたしの手を狙ってきなさいよ!やれるもんなら!」


 「そりゃメザナはもうたくさん練習しちゃってるから勝てるわけないじゃんか!」


 「ダッサ!男らしくないわね!」


 「まだ子供だらか男じゃないもんね!」


 「ダッサ!続けるの?やめるの?どっち?」


 「もうやめた!今日はもう帰る!」


 「そんなんじゃいつまで経っても強くならなわよ!」


 「うるさい!」


 ザラメス少年は不貞腐れて家に帰った。



 夜、食事中―。

 膨れっ面で無言で夕食を食べているザラメス少年を見たグレンが興味津々とばかりに話しかけた。


 「どうしたんだいザラメス?何か嫌なことでもあったのかい?」


 「ふん!」


 「おお、随分とご機嫌斜めだねぇ。またメザナに負けたのかい?」


 「!」


 図星をつかれて余計に膨れっ面になるザラメス少年。


 「どうやらまた負けてしまったみたいだね」


 「だって!お父様がメザナにばっかり必殺技を教えて僕には教えてくれないからですよ!」


 「必殺技?‥‥‥そんなの教えたかな」


 「相手の手を狙って打つとか!」


 「あっはっは!そう言えばそんなことも話したかもしれないね。でもザラメス?それは必殺技とは言わないよ?」


 「嘘です!」


 腕を組んで横を向いて膨れっ面になり完全に起こってしまったザラメス少年を見ながらグレンは微笑んでいた。

 そんな一連のやり取りをみて母のシルビアは嬉しそうにザラメスを眺めていた。


 (こうやって少しずつ成長していくのね)


 横で見ているゼーゼルヘンが何かを促すような表情でグレンを見た。

 それを見て意図を汲み取ったのか、軽く微笑んでグレンは席を立った。


 「よしザラメス。君も使えるとっておきの必殺技ってのを教えてあげるよ」


 「!」


 突如思ってもいなかった提案を受けて思わず喜ぶザラメス少年だったが、ここで引き下がっては格好がつかないとばかりにまた膨れっ面に戻ってみせた。


 「ザラメス様。今がチャンスかと思いますよ。グレン様は明日よりしばらく出張で家を空けられますからね。メザナさんに勝ちたくはないのですか?」


 ゼーゼルヘンが優しく諭す。

 ザラメス少年は仕方ないなという表情を浮かべて渋々席をたつ演技をした。

 だが、内心は嬉しさでドキドキしていた。


 「ゼーゼルヘンさん。木剣を持ってきてくれますか?」


 グレンはゼーゼルヘンに木剣を用意するように言いながら柔軟を始めた。

 記憶を失ってからは、いつ記憶が戻ってもいいように常にベストな自分で居続けようと日々の稽古やストレッチなどを欠かすことなく行っていたため、非常にしなやかで柔らかい体を維持していた。

 グレンはゼーゼルヘンから子供用の短い木剣を2本受け取ると、ザラメス少年にも木剣を渡した。


 「いいかいザラメス。剣を打つときは剣を見てはいけないよ?」


 「どうして?剣を見ないと危ないじゃないですか!」


 「はっはっは!そうだね。でも剣を見ていると疲れないかい?」


 「疲れます‥‥。そればっかり見てしまって自分が何をすればいいかわからなくなります‥‥」


 「素直でよろしい。じゃぁどこを見ればいいと思う?」


 「顔?」


 「はっはっは!新しい解釈だね。そうだね、確かに顔で読み取れるところもあるかもしれないな。それは私が稽古で学ぶとするよ。それで、どこを見ればいいかと言うと‥‥」


 ブン!


 グレンは軽く木剣を振った。


 「どうだい?剣以外でどこが動いたかな?」


 「腕と手?」


 「正解だ!素晴らしいね。そしてもう一つあるよ?もう一回振るからよく見てみるんだよ?」


 ブン!ブン!


 今度は縦に振った後、斜め上に向けて木剣を振ってみた。


 「あ!‥‥腕と手と‥‥目!」


 「正解だ!いいぞザラメス!これから相手の腕と手、そして目を見ながら戦う練習をするといいよ。ほら、ちょうど手と腕と目は近くに見えるだろう?‥‥腕と手でどれくらいの力と速さで剣を振っているかが見える。そして目は剣を次にどこへ振ろうかって確認するから剣を振ろうとしているところを目で追うんだよ。つまり目を見ていれば次どっちへ剣を振るかがわかっちゃうって寸法だ」


 「ヘェ‥‥」


 ザラメスは感心している。

 しかし見惚れている表情から急に我に帰ったように質問する。


 「でもこれは必殺技じゃありません!」


 「はっはっは!そうだね。でも、基本を知っておくことは大事だよ?なんでか分かるかい?」


 「だって、基本ができないと焦ったら間違えるからでしょう?」


 「おお、正解だ!ザラメスは頭がいいんだね。‥‥そして相手、例えばメザナはどうかな?」


 「基本を知っててそれで戦っていると思います‥‥」


 「そうだね。相手もまた焦ったりした時、間違えないようにしたいもんね」


 「そっか!」


 「そう。それでここからが必殺技だ」


 ザラメス少年は目をキラキラさせながら必殺技の説明を待っている。


 「相手が自分の腕や手、目が見えない状態になったらどうする?」


 「困る!」


 「はっはっは!いい答えだ。そう困ってしまって動きが止まっちゃうんだよ。その隙をついて勝つっていう必殺技だ」


 ザラメス少年はワクワクしている。


 「まず、戦いの中であくまで自然にだけど、背中を見せる。戦いながらだからさりげなくだよ?相手の動きも見ながらだけどね。例えばこんなふうにね」


 グレンは剣を数回振った後、流れるような動きでザラメスに背中を見せた」


 「?!背中見せたら背中斬ってしまいますよ?」


 「だけど?」


 スルーッ!‥‥トン‥‥


 「!」


 突如グレンの脇から木剣がヌッと出てきてザラメス少年の頭の上に剣先が伸びてきて軽く当てた。


 「イテ‥」


 大して痛くはなかったが思わず反射的に痛いと口走ってザラメスは驚きの表情を浮かべた。


 「剣の動きは見えたかい?」


 「背中に夢中になって叩かれるギリギリまで見えてなかった‥‥何でですか?」


 「それは君が私の背中を集中して見ていて周囲の視界を気にしなかったからだね。そして君の立ち位置からだと、木剣は剣先から見たこんな形で見えて少し錯覚気味になるだよ。木剣も横から見ればわかりやすいけど、突きのような剣先の形状しか見えないような攻撃はわかりづらいんだ。ましてや僕の背中を攻撃し倒すチャンスだって思ったら背中しか見てないだろう?」


 「うん‥!」


 「そしてこれは思わぬところから剣が伸びてきて驚くのと同時に斬りつける効果もあるから、相手に大きな隙を作ることができるんだね。その隙をついて振り向いてから相手を攻撃して倒す‥‥これが必殺技だよ」


 「ほぁ‥‥は!父上!ありがとうございます!早速あとで練習します!」


 ひたすらグレンから受け取った必殺技を個人で鍛錬して1週間後、ザラメス少年は初めてメザナに勝った。

その日、家に帰ったザラメスはグレンに報告すべく急いでグレンの書斎に向かった。


 「父上!」


 だが、グレンの姿はなかった。


 「あ、そうか‥‥。父上は出張でまだ帰られていなかったんだ‥‥ん?」


 グレンの机の上にザラメス宛のメモが置いてあった。


 “これを見ていると言うことは、初めてメザナに勝てたということだね。おめでとう!それでは宿題だよ。教えた必殺技を相手に使われた時にどうすればいいか?考えて稽古をしてごらん。いつか答え合わせをしようね”


 ザラメスは嬉しくなった。



・・・・・


・・・





 (なぜこの技を?!‥‥なぜ?!)


 それはザラメスが幼少期にグレンから必殺技と称して教えてもらった初めての剣技だった。

 ザラメスは、咄嗟の動きで背中を見せながら左脇からスッと飛びてきた腕剣によって左脇腹を刺されてしまう。

だが、反射的にその剣を左腕で挟み込むようにして押さえ込み抜けない状態を作り出した。

 そしてそこから背面を見せたまま身動きが取れない両腕剣の男の背中に剣を突き刺した。


 グザァァァァァ‥‥


 ゆっくりと剣が心臓を捉える形で突き刺さっていく。


 サバァン!


 両腕剣の男は左腕の剣をザラメス目掛けて横振りするが、ザラメスは剣を離してそのまま後方へ仰け反ってかわすが、その際に両腕剣の男の仮面を掴んでおりそのまま剥ぎ取った。

 仰け反ったままバク転を繰り返して少し距離をとり、両腕剣の男を見た瞬間ザラメスは凍りつく。


 「!!‥‥」


 体を全く動かせないほどの衝撃をうけつつも心臓だけは速く強く脈打っているため、鼓動が爆音のように頭に響いた。

 なぜならー。


 「ち、父上‥‥」


 目の前の両腕剣の男の顔は、ザラメスが片時も忘れたことのない父、グレン・バーン・エヴァリオスだったのだ。

 ザラメスの目に涙が溢れる。


 フラ‥‥


 ザラメスの一撃が致命傷になったのか、よろめきながら後方へ倒れていくグレン。


 ガシィ!


 「父上!」


 それを支えるザラメス。


 ザザザザザザザ!!!


 「!!」


 突如ザラメスの周囲を兵が囲む。

 その兵はマルトスが従えてきたクリアテ軍だった。

 どうやらマルトスの命令で、万が一両腕剣の男が倒されるようなことがあれば、ザラメス共々殺すようにと命令を受けていたようだ。


 「くっ‥‥ここまでか」


 マルトス兵たちは一斉にザラメスとグレンに向かって矢を放とうと構えた。

 隊長と思われる兵が手を上げる。


 「放て!」


 一斉に弓が引っ張られる。


 「待ちなさい!」


 突如優しくも鋭く頭に響くような女性の声が聞こえ、マルトス兵たちの動きが止まった。


 一斉に振り向くとそこには、ゼネレス評議会評議長であるイーリス・バーン・シャグレアが立っていた。

 その横には数人の兵と共にゼーゼルヘンとディルの姿もあった。


 「イーリス評議長‥‥ゼーゼルヘンさんにディルさんまで‥‥」


 ザラメスの目から更に涙が溢れる。


 「父上‥‥です!」


 イーリスはゼーゼルヘンとディルに目配せした。

 軽く頷いた二人はザラメスとグレンの元へ駆け寄る。


 「グレン様!」


 「グレン様なんですね!」


 その顔はかつての若々しいものではなく、シワが増えて老けていたが、二人もまたすぐにグレンだと分かった。

 ゼーゼルヘンとディルもまた目から涙を溢れさせている。


 「‥‥な‥なつかしい‥匂いがします‥ね‥」


 「父上!」

 「グレン様!」


 ザラメスの最後の一撃によって封じ込められていたグレンの意識が蘇ったようだ。


 「何も‥‥見えない‥‥何も‥‥聞こえない‥‥でも匂いと温もりは‥‥感じられる‥‥ゼーゼルヘンさんにディル‥‥そして‥私のかわいい息子‥‥ザラメスだね‥‥」



 三人は一斉にグレンの体を掴んだ。


 「どうして‥‥こうなったのか‥‥わからない‥‥けど‥‥きっと‥‥止まっていた時が‥‥動き出したんだね‥‥よかった‥私の死は無駄にならずに‥‥済んだのかな‥‥」


 「そうですとも!グレン様!あなた様の紡いだ思いは立派に花咲いてもうすぐこの世界に勝利をもたらします!モウハンと共にあなた様が目指した世がもうそこまできているのです!」


 「グレン様!そうですぞ!」


 「もう‥‥感覚も‥‥なくなってきた‥‥ディル‥‥ラガンデのみなを‥‥頼むよ‥‥そしてゼーゼルヘンさん‥‥こんな私のそばに‥‥いてくれてありがとう‥‥。シルビアと‥‥息子を頼みます‥‥」


 シルビアが既に亡くなっていることを知らないグレンを思うと胸が苦しくなるゼーゼルヘンだった。


 「そして‥‥ザラメス‥‥見事だった‥よ‥‥大正解‥‥だ。あれで‥‥正解‥‥本当に‥‥強くなったね‥‥うれし‥‥」


 そこでグレンの体から一気に力が失われてただただ動かなくなった体の重さがザラメスの腕に感じられた。



 ザザザ!!!


 「感動の再会のところお邪魔かもしれないが、あなたたちにはここで死んでもらう。それが我らが主人の命だからな」


 マルトス兵は一斉に弓矢を構え直す。


 「あなたたちはこれがどう言うことがわかっているのですか?」


 イーリスが怯むことなく兵の前に立ちきっぱりと言った。


 「あなたも殺す対象ですよ評議長!」


 「なんですって?」


 マルトス兵は本気で全員を殺すきのようで、弓を思いっきり引いた。


 「ここにはマルトス卿の悪事の数々の証拠がある!俺たちを殺しても無駄だ!マルトス卿共々お前たちは極刑に処されるぞ!」


 ディルが立ち上がり、イーリスを庇う形で前に出て言い放った。


 「証拠も生きて提示しなければ証拠にはならないのだ!つまりお前たちはここで死に、証拠は既にマルトス様が跡形なく消し去っているという訳だ。故に我らを極刑に処す理由もなくなると言うこと!」


 「なんという卑劣な!」


 イーリスが怒りの言葉を口にする。


 「証拠ならあるわ」

 

 兵達の背後から声が聞こえた。


 「間に合ったか!」


 現れたのはラガンデの諜報員でザラメス、ディルの部下のニーラとウーラだった。

 

 バサバサ‥‥


 二人はいくつかの書面を手に持っておりそれらを振りながら見せた。


 「ここにはご丁寧にこのグムーン自治区で得られた収入がマルトス卿に流れるようになっている仕組みや、その金額が事細かに書かれているわね」


 「そしてこっちには、もっと恐ろしいことが書かれている。マルトス卿がゾルグ王国のゲルグリアス・ガンゾローネ‥‥マッドサイエンティストのゲルグって言った方がわかりやすいかしら。その科学者とのやりとりをしるした文書や、彼に研究材料として差し出した私たちの同胞であるエルフが一人残らず記録されているわ。どうやら人身売買をやっていたようね。お金のやりとりがあるから事細かに記載していた見たいだけど、見ていて吐き気が止まらなかったわ」


 「そ、それがなんだというのだ?!マルトス様が生きておられている限り、我らの身は安泰だ!とにかく貴様ら全員証拠と共に消し去ってやる!」



 ドォォォォォォォォォン!!!!


 突如、ディルたちとマルトス兵の間に何者かが凄まじい衝撃と共に空から着したようだ。

 煙が舞う。


 「マルトスが生きている限りと言ったか?それは最早危うい状況となっているぞ」


 『!!!!』


 一同は驚愕した。

 マルトス兵たちの体がガタガタと震え出す。

 目の前に凄まじい爆音と共に現れたのはジオウガ王国国王あり、オーガ史上最強の男のシャナゼン王だったからだ。

 体格の良さだけでなく、あまりの荘厳なオーラから泡を吹いて気絶するマルトス兵も現れた。

 そしてその片手にはマルトスが鷲掴みにされている。


 「マルトス様!!」


 驚くマルトス兵は、観念したのか一斉にその場にへたり込んだ。


 シャナゼンは周囲を見渡す。

 ジオウガ軍奇兵隊がほぼ全滅していることと、片腕を失った状態で倒れているギーザナを見つけた。


 ドサッ‥‥


 「好きにするがよい」


 シャナゼンはマルトスをディルの前に無造作に放り投げた。

 マルトスはシャナゼンの握力のあまりの強さで絞められていたようで泡を吹いて気絶していた。


 スタ‥スタ‥スタ‥


 シャナゼンは倒れているギーザナの側に膝をついた。

 そして、ギーザナの脈を確認する。

 脈は既に止まっていた。


 「ギーザナ‥‥よくやった。だがここはお前の死に場所ではない」


 シャナゼンは膝をついた体勢のまま右腕を高らかにあげて大きく開いた手のひらをギーザナの背中に押し当てた。

 シャナゼンの全身の筋肉が異様に盛り上がり、光り輝く。

 そしてその光をギーザナに流し込むように手のひらから気を送り込んだ。


 ドクン!!


 ドクン!!


 空気が振動しているのでは思うほどの衝撃が周囲を襲う。


 ドクン!!


 ‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥ドクン‥‥


 「う、うぅ‥‥」


 ギーザナは目を覚ました。


 「すごい‥‥これがオーガ史上最強と言われた男‥‥シャナゼン王‥‥」


 ディルたちは何か別の次元の存在をみているような感覚に陥っていた。

 その後、イーリスの指示の下、クリアテ軍は撤退するために準備を整え出した。


 グレンの遺体を抱えたザラメスやゼーゼルヘン、イーリス、そしてマルトスを縛り上げて連行するディル、ニーラ、ウーラはとりあえずグムーン自治区にある区庁に向かった。


 その前にイーリスは、シャナゼンに深々と頭を下げた。


 「シャナゼン王。此度の身を挺しての行動、なんとお礼を申し上げればよいか」


 「イーリス評議長。礼などはよい。だが、これは今後のオーガとエルフの関係をどうするかを話し合う大きな切っ掛けだ。我は門戸を開いておく。まずは内政を整えられよ。そしてその後どうするかは貴殿に任せる」


 「必ずやそちらへお伺いさせて頂きます。もちろん種族の壁を超えた未来を話し合うために」


 シャナゼンは威厳あるオーラを発しながらも優しく微笑んでその場を後にした。

 ギーザナと生き残ったジオウガ軍と共に帰還の途についた。



・・・・・


・・・


 道中シャナゼンとギーザナは同じ騎馬車に乗っていた。


 「王よ‥‥感謝します。悔いなく戦い抜いたので死を恐ることはありませんでしたが、こうしてまたジオウガの地を踏めるのはやはり嬉しいものです」


 「オーガロードはそう簡単に死なない。誇りさえ失わなければな」


 「そうですね」


 「さて。我はフォックに寄っていく」


 「どうされましたか?」


 「我が友に何かが起こる予感がしてな」


 「あのスノウ・ウルスラグナとか申すニンゲンですか」


 「そうだ。手遅れになってはまずい」


 「相変わらず友思いですな」


 「‥‥モウハンを思い出しているのか?」


 「そうですね。悔しいですがあやつの思いが百年経ったいまでもこのゲブラー全土に残り、そして多くのものに紡がれている。モウハンが死に、グレンが死にましたが、次の世代に確実に強き思いが受け継がれている」


 「我らも残さねば‥‥と言いたいのか?」


 「そうですね。ですがまずはご結婚なされないと」


 「お前もだぞ‥‥と言いたいところだが痛いところを突くではないか。だが我のこのオーラに耐えうる女性がおらんのでは仕方ない‥‥」


 「それならば引っ込めればよろしいのでは?」


 「お前、意地悪になったな。一度死んで性格変わったか?」


 「冗談の域を超えてますよ」


 「ぷっ!‥‥わっはっは!」

 「はっはっは!」




 反乱共闘軍がゾルグ王国殲滅のために押さえ込まなければならなかったゼネレスとの戦いは、先を読んで動いたジオウガ王国軍と、トウメイ率いる獣人軍の勝利で幕をおろした。

 だが、ジオウガと獣人の勝利といった単純なものではなく、ジオウガ軍と獣人軍を繋いだのは紛れもなくラガンデのエルフたちだった。

 そしてラガンデのエルフは評議会をも動かした。

 つまり、ゾルグに味方するゼネレスの不穏因子を炙り出して封じ込める作戦をオーガ、エルフ、獣人が協力して行った深い意味のある戦いだったのだ。



 そしてジオウガ王国に帰還したシャナゼンはフォックスからヤガトの導きで各国につながる異次元ゲートを使ってゾルグへ向かった。






アップ遅くなりました。

次のアップは木曜日の予定です。

次はエルフにおける衝撃事実に触れる予定です。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

楽しんでいただけるようでしたら是非高評価をいただけると嬉しくモチベーションも上がりますのでよろしくお願いいたします!

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