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<ケブラー編> 165.卑怯などとは言うまいね?

165.卑怯などとは言うまいね?



 ザバン!シャバババン!!


 パラディン・スレインの剣撃とソニアの音熱魔法攻撃がセクトを襲う。

 一方のセクトも凄まじい速さと緻密さのグラディウス二刀流捌きで二人を相手に一歩も引かない攻防が続いている。


 「ソニアさん一瞬お任せします!」


 「了解」


 スレインは一歩下がって力を溜める。

 その間、ソニアは複数の炎魔法を繰り出す。

 セクトはそれを2本のグラディウスを振り回してかき消すようにしながら攻撃を受けており、ダメージはほとんどなし。


 「灼熱の鞭! ヒートウェイブ!」


 ソニアが炎の鞭で片方のグラディウスを捉えて抑え込んでいると同時に超高熱熱波を放つ。


 ザッバァァ!!


 「フレイムフォール!」


 セクトは炎魔法に流動の気を流した炎魔法の滝のような壁を作り、ソニアの熱波は地面に流し落とした。

 その直後、鞭を斬りちぎり大きく跳躍してグラディウス二刀流の攻撃をソニアに向けて繰り出す。


 「ツインテールシャウト!」


 「!!・・・炎豪球!」


 ソニアはセクトから恐ろしい技が繰り出される予感からその攻撃を崩すために無数の超高熱球を放つ。


 「ちっ!」


 セクトは異常な身体能力で空中で体をそらせてソニアの放った火の玉を全て避けて着地する。

 そのタイミングを逃さず、力を溜めたスレインがソニアとスイッチして凄まじい力を込めた剣撃を振りかざす。


 「エクスカリウス!」


 スレインが放った剣撃は剣から20メートルほどの光の線が伸びており、その光の線に触れたものすべてが一瞬で焼け焦げた。

 セクトはのけ反ってかろうじてその光の長剣攻撃を避けその直後バク転を繰り返して後方に逃げて距離をとった。


 「あなた達を侮っていたようですね・・・」


 セクトの鎧は腹から胸にかけて溶けてなくなっている。


 ガララン・・・


 セクトは鎧を脱いだ。


 トン・・トン・・トン・・


 「さて、じゃぁ行きますよ」


 ビュゥゥン!!


 シャキン!!


 「ぐぅっ!」


 スレインはかろうじて剣でセクトの攻撃を受けるがそれは片方のグラディウスだけでもう片方のグラディウスの攻撃を避けることができずに脇腹に剣撃を食らってしまった。


 「おやおや、先ほどまでの威勢のよさはどうしましたか?」


 スレインの脇腹から血が滴る。


 「速いですね・・・」


 「大丈夫?」


 「ええ」


 スレインは炎魔法で傷口を焼いて止血したようだ。


 「でもこっちは二人。連携でカバーね」


 「ええ!」


 スレインとソニアは二人でセクトに向かって突進する。


 「エクスカット!」


 スレインは凄まじい速さの剣の連撃を繰り出す。

 光を帯びた剣は超高熱であり、グラディウスで受けるセクトは、スレインの振りかざす剣との接触時に発生する火花や超高熱ではじける熱線によって一瞬ひるむ。

 その隙をついてソニアは炎魔法を繰り出す。


 「焦熱音破!」


 ブワワワワワワン!


 「こざかしい!」


 セクトはスレインの剣を受けながらもう一方のグラディウスを回転させてソニアの放つ超高熱の音熱魔法をかき消そうとする。


 シャシャシャ・・・ボワッ!!


 「何?!」


 セクトが回転させているグラディウスではかき消す事の出来ない超高熱の波動がセクトを襲う。


 「ぐぁぁぁぁ!!」


 全身を炎が襲っているため、セクトは思わず地面に転げまわって火を消している。

 ソニアがスレインの前に立って構える。


 「炎で剣を防げないと言ったわね。同様に剣じゃ炎は防げないのよ!」


 セクトの体で燃え盛っていた炎が消える。

 そしてゆっくりと立ち上がる。


 「確かにそうですね。なるほど、空気を伝って刺激を与えると超高熱爆発を巻き起こす魔法。音か何かに乗せているようだ。訂正しましょう・・・あなた達は強い。2対1で勝つのは難しそうだ・・・」


 「観念したようだな!大人しく降参すれば、命は奪わない。しかるべき捌きは別途受けてもらう事になるがな」


 スレインが警戒を解かずに説明した。


 「降参?・・・ふふふ・・・フハハハハハ!だぁれが負けると言ったぁ?!」


 シュゥゥゥゥゥン


 (まさか逃げる気?!)


 ソニアはだめ押しのダメージを与えようと前に出て構えようとするがスレインに止められる。


 ドォォォォォォォン・・・


 突如、スレイン、ソニアとセクトとの間に何者かが現れた。

 あまりの速さと衝撃で砂埃が舞いその姿がぼやけて見える。


 ブワン!


 突如現れた者が剣のようなものを一振りするとその姿が現れた。


 「トゥラクス・・!!」


 スレインが驚きの表情を浮かべながら彼の名を口にした。

 その名に驚くソニア。


 (トゥラクスはハーポネスと交戦中ではなかったの・・・?ま、まさか?!ハーポネス軍が全滅?!)


 (姉さん。まずは目の前の敵に専念だよ。いくらヘクトリオンが強いからといって、金剛の旋風七星がそう簡単にやられるはずはないから。それよりトゥラクスがここにいるという事は、トゥラクスの軍もここに来ているという事だよ)


 (そ、そうね!ゼーガンの何とかっていう騎士に任せるしかないわ)


 頭の中でソニアとソニックが会話した。

 そして意識を切り替えてソニアは身構える。

 

 「どうやら間に合ったようだな」


 トゥラクスが周囲を確認しながらセクトに話しかけた。


 「これからいいところでしたのに」


 「無理するな。ひどいやけどに見えるがな」


 「ははは。愛嬌ですよ。でもまぁこれはこれで面白い戦いができますね」


 「さて・・・」


 「2対2・・・卑怯などとは言うまいね?」


 トゥラクスとセクトが構えるのに合わせて、スレインとソニアも構えた。



―――ゼーガン帝国軍―――


 「報告!」


 「わかっている!既に見えている!」


 ムーンライトはトゥラクス軍の到着を確認しており、戦況を判断しようとしていた。

 セクト軍と交戦中なのはレグリア王国軍で、拮抗している。

 一方ガザド公国軍はスレインとソニアがセクトと交戦中のため、十分な指揮系統を持てずにいると判断し、彼らにトゥラクス軍を任せるのは厳しいと読んだ。


 「帝国軍全軍に告ぐ!これより、ゾルグ王国トゥラクス軍と交戦に入る!すべからく準備を怠る事なく戦闘準備に入れ!これよりトゥラクス軍に向かって進軍開始する!」


 ムーンライトはゾルグ王国トゥラクス軍との交戦に入る決意をした。

 これはこの共闘反乱軍がゾルグ王国の現ヘクトル王政を倒す事に賭ける重大な決断だった。

 ゾルグの属国であるゼーガン帝国の長い歴史を一介の騎士長風情が覆すというありえない判断であったからだ。

 このまま軍を停滞させていればあるいはゼーガン帝国はゾルグを裏切っていないと主張し通す事も出来なくはなかっただろう。

 だが、ゾルグの軍を攻撃した瞬間にいかなる言い訳も聞かなくなる。

 仮に言い訳できる環境が作れるとしたら、この場にいるトゥラクス軍とセクト軍の全兵一人残らず生きて帰さないことだ。

 だが、そんなことは不可能であり、仮に可能性があったとしても現実的ではない。

 かといって、ゾルグ側に寝返る選択肢はムーンライトにはなかった。

 つまり、ゼーガン帝国軍はこの場でゾルグの2つの軍に攻撃を仕掛けて勝つしかないのだ。

 そしていよいよゼーガン帝国軍はトゥラクス軍との交戦に入った。



―――ゼネレス グムーン自治区より東へ20キロ地点―――



 「間も無くクリアテ軍と交戦になります!」


 ジオウガ軍の偵察隊が報告した。

 それを受けてギーザナは号令を出す。


 「これよりゼネレス・クリアテ軍と戦闘に入る!全員戦闘体勢!」


 ジオウガ軍はクリアテ軍と戦闘に入った。

 力が最大の武器であるオーガたちの得意な戦闘スタイルは肉弾戦であり、歩兵であっても騎馬であっても、凄まじい突破力や制圧力がある。

 一方のエルフは弓矢と炎魔法力だ。

 つまり遠距離攻撃を得意とするため、基本的には適切な距離を取る戦術となるが、最大の強みはその合わせ技による遠距離攻撃の破壊力だ。

 そしてオーガ軍対エルフ軍。

 結果は明らかにエルフ軍が優勢である。

 オーガから適度に距離を取りながら強力な炎魔法を付与した弓矢攻撃を放つことによって5割から7割ほどの戦力を削ぐことができる。

 だが、逆に言えばそれほどの兵力を減らさなければ肉弾戦の時点でオーガに押し負けてしまう。

 故にエルフは最後の最後まで距離を取って戦う。


 しかし、シャナゼンによる戦術を取り入れた軍力強化により、オーガの軍の中にも弓矢隊と炎魔法隊が配備されている。

 しかもオーガの弓はエルフの2倍の大きさがあり飛距離も1.5倍近くを飛ばすことが可能であるため、エルフにとっては距離のアドバンテージがなくなる。

 しかも今回、ギーザナはゼネレス・クリアテ軍を殲滅することを目的としていない。

 グムーン自治区の制圧だ。

 そしてグムーン自治区を制圧されることをエルフは阻止しなければならないというエルフにとっては2重のディスアドバンテージがあるのだった。



―――クリアテ軍本陣―――



 「小賢しい野蛮種族どもめ!」


 ペルセネスは特殊な魔法でカムフラージュしている巨大な騎馬車の上の豪華な椅子に腰掛けて腕を組みながらイラついている。


 ガン!ガン!ガン!


 ペルセネスは椅子に座ったまま床を思い切り何度も踏みつけている。


 「ど、どうなされますか?!」


 「うるさい!今考えているのだ!」


 ペルセネスがイラついている理由。

 それはクリアテ軍を二手に分けていたのに対し、ギーザナ率いるジオウガ軍が迷いなく自分が陣取っている西側のクリアテ軍目掛けて進軍してきたからだ。

 そして現在、炎の矢を放ちながら後退を余儀なくされている。

 しかし、通常なら距離はエルフが支配するのだが、今その距離をオーガが支配している。


 「東のクリアテ軍はどうしているのだ?!」


 「ジオウガ軍の炎の矢の攻撃で距離を縮められずに背後からの攻撃ができておりません」


 ドゴアン!!


 側近たちに緊張が走る。


 「北のネザレン軍はマルトス卿の倅だったな。期待はできないだろう。仕方ない。このまま奴らをグムーンにぶつける。グムーン自治区の下民たちも流石に自分たちの街がオーガに襲われるとあれば、必死に守るだろう。そこで挟み撃ちにして追い込めばいい。要はやつらの弓隊を削ればいいわけだからな」


 「そ、それが‥‥」


 側近の一人が怯えながら言葉を挟んだ。


 「なんだ。言ってみよ」


 「じ、実はグムーン自治区の兵はほぼ出兵しており、街には警護する兵はおりません」


 ガタン!


 ペルセネスは思わず立ち上がった。


 「なんだと?!どういうことだ?下民たちが勝手に兵を出したというのか?」


 「い、いえ‥‥。情報ではマルトス卿の御子息ルシウス卿が指揮して2万5千の兵を全て出兵させたと‥‥」


 「それは野蛮種族と戦うための出兵か?」


 「そ、それがわからないのです。なぜか兵を西へ動かしております」


 「どういうことだ?街を放棄したのか?それとも野蛮種族どもの援軍でも来るというのか?」


 「い、いえ‥‥。そのような情報は入ってきておりません‥‥」


 ドッゴアァァァァァン!!


 「何を考えているのだ?!これは懲罰委員会にかけられるほどの行動だぞ。ルシウスは正気を失ったのか?」


 「ほ、報告!」


 「なんだ?!」


 「ジオウガ軍の騎馬隊およそ300がこちらへ向かってきます!」


 「何?!指揮をしているのだ何者だ?」


 「は!敵の指揮官ギーザナと思われます!」


 「!!」


 ドカン!


 驚きの表情を浮かべたペルセネスは椅子に深く思い切り腰掛けた。

 そして爪を噛んでいる。


 (これは願ってもないチャンスか‥‥あの憎き野蛮種族の心臓をこの私の矢で射抜きこの戦いを一気に終わらせることができる!)


 「よし!グムーン自治区へ向かえ!」


 「で、ですがそれではグムーン自治区が戦火に染まります!」


 「構わん。致し方なかったといえば良い」


 (マルトス卿にはたんまりと金をもらっているが、忠義を尽くす関係ではないし、そもそもあの下民どもが自治区などと権利を主張していること自体が気に食わなかったのだ)


 ペルセネスの本陣約5千はギーザナ率いる騎馬隊から逃げるようにグムーン自治区へ向かう。

 残された軍は徐々にジオウガ軍に詰め寄られ交戦状態となった。

 肉弾戦に持ち込まれたことによって西側のクリアテ軍残兵たちは瞬く間に倒されて行った。

 だが、若干のジオウガ軍の足止めになったようで、北のネザレン軍と東側クリアテ軍はジオウガ軍との距離を詰めることに成功し、炎魔法を付与した矢の応酬となっていった。



―――ギーザナ率いる300の騎馬隊―――



 「間も無くです!」


 「よし計画通りだ。このまま敵本陣を追ってグムーン自治区へ入る」


 ギーザナたちは敢えて300の騎馬隊で侵攻した。

 ジオウガ軍の炎弓隊の攻撃を防ぎながら突撃してくる300の騎馬兵を撃つことは難しく、しかもオーガロードのギーザナがいるとあれば迎え撃って潰すのは難しいと考えるはず、と踏んだのだ。

 そして街中のような障害物の多い場所に行けば肉弾戦を避けて戦うことが可能となる。

 ましてやグムーンはエルフにとって自国の庭のような場所だ。

 地の利を活かした戦いができると考えるに違いないとギーザナは考えた。

 だが、そうまでしてグムーンで戦う理由があった。


 そして残りの本陣は抜け殻となった西側クリアテ軍の残兵を殲滅し、東のクリアテ軍と北のネザレン軍に対処する。

 これは厳しい戦いであるが、ギーザナが必ず勝利をもたらしてくれるという信念から生まれた覚悟だった。


 (頼んだぞ‥‥皆のもの‥‥)




―――ジーグリーテ 迷いの森の中―――



 凄まじい勢いで馬を走らせる軍があった。

 通常は大きく騎馬隊、歩兵隊の2種類があり、歩兵の移動速度に合わせた進軍となるが、この軍には歩兵がいなかった。

 全て騎馬隊という通常あり得ない構成の軍。

 マルトスが金に物を言わせて組織したエルフ最強の軍隊だ。

 戦闘を牽引しているのはマルトスが絶大な信頼を置いているエルフいちの剣の使い手と言われている男。

 名をシンク・ゼンヴィールと言った。

 彼は顔を青い色の包帯のような布で巻いている姿で、素顔を見たものはここ数十年でほぼいないらしい。

 はるか昔のオーガとの戦争で1人で100人を相手にした際に炎魔法で顔を焼かれつつも倒し斬ったほどの強者と言われている。

 焼かれた火傷を隠すために青い包帯で顔を覆っているらしい。

 そしてその軍の中腹あたりで一際豪華な騎馬車が猛スピードで走っている。

 その中で目を閉じて腕を組んでいるのがマルトス・レーン・ラガナレスだった。


 (ルシウスめ‥‥‥。息子として大目にみていたがここまで私の邪魔をするとは。スレン共々殺すしかあるまい。ゾルグの技術があれば一族の繁栄などもはや関係ない‥‥)


 徐に騎馬車の前の窓を開けて御者に話しかける。


 「順調か」


 「は!シンク殿の的確な誘導により1分1秒の無駄なく最速で前進しております!」


 「そうか。急げ」


 「は!」


 一方のペルセネス率いる東クリアテ軍はグムーンに到着した。

 それと同時に街の至るところに兵を散らばらせて待機させるようにペルセネスは指示をだした。

 おそらくギーザナたちオーガとの戦闘になるだろう際を見越して罠を仕掛けるように不意打ちでオーガを仕留める兵を仕込むためだ。


 そして遅れてギーザナ軍がグムーン自治区の入り口に到着した。


 「いよいよだ!時間がない!一刻も早く敵の指揮官ペルセネスを捕ら私の前へ連れてくるのだ!一騎討ちで瞬殺し、クリアテ軍を黙らせる」


 『おう!!』


 屈強な300のオーガ騎馬兵がギーザナと共にグムーン自治区へ入った。





次のアップは金曜日の夜の予定ですが、日を跨ぐ可能性あります。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!感謝です!

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