<ゲブラー編> 164.罠
164.罠
―――とある革命軍の作戦会議室―――
ここは革命軍幹部でも限られた者しか知らない会議室で、周囲は防音対策が施されているため声が漏れることはない。
その場所に今、スノウ、バルカン、マイン、エスカ、コウガ、そして新たな協力者となったワサンとフランシアが集まっている。
手狭な会議室であるため、皆少し窮屈そうにしているが何よりエスカのイライラの圧が部屋に熱気を呼んでいる。
それもそのはず、フランシアがスノウと腕を組んで座り密着しているからだ。
「なんつーか、状況が読めないんだが一体どういう経緯でこうなった?」
なんとなくギスギスしている室内の雰囲気を変えたいという思いからバルカンが切り出した。
気まずい雰囲気に耐えきれないスノウは、待ってましたと言わんばかりに席を立ち説明し始めた。
流石のフランシアも、説明の最中にくっついてくることはないだろうと思って立ち上がったのだが、一緒に立ち上がってくっついてくる。
「ちょ、ちょっと座っててくれ。頼む。」
気まずい雰囲気に耐え切れずにスノウはフランシアに離れるようにお願いした後、自分が越界者であり前の世界で仲間だったが越界時にはぐれてしまったことを説明した。
「!!ちょっと待ってくれ。それはこのゲブラーを取り巻く海の向こうに別の大陸があるって話かい?」
マインが質問する。
そもそもこの世界では、別世界が存在するという概念そのものが基本的に浸透していないのだ。
フランシアはこの世界の閉ざされた認識に少し呆れているようだったが、スノウは丁寧に説明した。
そもそもスノウ自身もよく理解はしていないので、 “分かる範囲で” という形で説明した。
ソニアについてもスノウ同様越界者であることも告げている。
「なるほど・・・・。納得がいく。スノウがこっそりエスカや私の傷を治したりしたのもスノウにはこのゲブラーの炎魔法に限定された使用魔法の制約がないからということか」
珍しく頭の冴えているマインが理解したのか鋭い反応を見せた。
エスカは静かに頷いている。
バルカンやコウガは未だ理解できていないようだったが、2人とも分からないことを引きずる性格ではないので、そういうものだと納得したようだった。
そしてバルカンが割って入る。
「つまり、スノウたちがこの世界に来たこのタイミングこそ、ヘクトル支配から脱却する最大のチャンスだってことだよな?」
エスカたちは納得した表情を浮かべた。
「確かにそうね。シルバーファング・・いや、ワサンね・・。彼だってエクサクロスだしスノウたちがいない現時点の状況は想像ができないわ」
「ああ、そうだ」
エスカのコメントにバルカンが納得して答える。
気恥ずかしいところもあるがスノウは割って入って話を切り替えた。
「それでだ。ヘクトルを倒すかところまで後少し・・というところまで来ているはずなんだが、ここで一度現状は把握しておく必要があると思っている。ここで判断を間違えると大きく方向がずれて目的が果たせなくなる可能性があるからな」
「確かに必要だ」
バルカンが頷く。
スノウたちは各地から送られてきた鳥による情報や、フォックスのヤガトのサポートで得られた情報を整理してまとめた。
「今おれたちはこの通り、ゲブラーで5つ戦いを同時に展開している」
1)グランヘクサリオス
・表彰式に共闘反乱軍から4名以上参加するように勝ち抜いて、登場するヘクトルを討つ
・現時点でスノウ、バルカン、ワサン(シルバーファング)、ヒーンが残っているため計画通り進行中
2)ナラカ戦闘
・ヘクトリオンによるヤマラージャ討伐への対応。ヘクトリオン軍の殲滅。
・ヘクトリオン・レティスを討ったが、マスターデーモン・アルマロス、デーモンロード・
サルガタナスとヤマラージャ交戦となったが、アルマロスはシミョウ、シロクを殺害し
地上へ出ている。現在エミロクが追跡中。
・ヤマラージャはサルガタナスと交戦中につき、ヒーンが援護に向かっている。
3)ゼーガン帝国討伐
・共闘反乱軍によるゾルグ王国への侵攻に対してゼーガン帝国による妨害への対処
・ゼーガン前皇帝側の取り込み及びガザド公告の裏切りへの早期対処によりレグリア王国軍の壊滅を回避
・現在ヘクトリオン・セクト率いるゾルグ改造生物軍と交戦中
4)ゼネレス侵攻
・ゼネレスによる共闘反乱軍の活動の妨害工作を排除するためにジオウガ軍によるゼネレス侵攻
・ゾルグ改造生物軍の攻勢に対し、ハーポネス金剛の旋風七星頭領のトウメイ率いる獣人軍の援護
もあり拮抗中。
5)ハーポネス軍のゾルグ侵攻
・グランヘクサリオス表彰式でヘクトルを討つため、ゾルグ軍を引き付けるための進軍。
・突如現れた魔王ディアボロス率いるアディシェス軍により苦戦中
「以上が現時点で分かっている状況だ」
スノウが整理して説明した。
「グランヘクサリオスは順調かどうかは分からないが、ナラカの状況によってはヒーンは戻ってこられないかもしれないな」
悪魔の恐ろしさを知っているスノウとしてはナラカの状況を心配している。
「最悪、表彰式は3名で対応という事になるだろう」
ガタ‥
フランシアが立ち上がる。
「マスター。いざとなれば私も加わる事が可能です」
「い、いや女性にお願いすることじゃないぜ」
バルカンが口を挟む。
「あら。貴方は今女性を気遣う優しを見せることで紳士的一面を示して自分のプレゼンスを上げようという感情が働いたのですか?」
「??」
バルカンは何を言っているか理解できない様子だ。
「い、いや違うよシア。バルカンは単純に君を心配しているんだ。君の戦闘力を知らないから単にか弱い女性に見えているんだよ」
スノウが説明する。
「スノウ。その女なら大丈夫だ。おそらくスノウに次いでこの中で強い。もちろんオレよりも」
ワサンが割って入るが、皆驚いている。
エクサクロスのワサンが自分より強いと言っているからだった。
バルカン 「へー!お嬢さん、あんたそんなに強いのか!それだったら助っ人大歓迎だ。事が済んだら一度勝負してくれ」
エスカ 「聞き捨てならないな。今すぐどちらが強いかはっきりさせようじゃないか」
マイン 「人は見かけによらないか。だが、力で負けるとは思えん。一度手合わせ願いたい」
コウガ 「得意な武具はなんだい?俺は槍だが俺の槍を超える実力があるのか一度勝負してくれ!」
「お前らなぁ・・・」
どれだけ緊張感のない戦闘バカの集まりか、とスノウは思った。
「まぁ、いい。とにかくグランヘクサリオスは、シアのサポートも含めて何とか対処するとしよう。だが、注意すべきは闇虎とゲントウだな。決勝戦はどちらかと当たるわけだが、おれは決勝で本気で倒しに行く。どちらが決勝に進んでも恐らくおれたちの敵だ」
「そうなのか?」
バルカンが答える。
一方エスカは黙っている。
「おそらく・・な。次にナラカだが、ナラカについてはヒーンがヤマラージャの援護に向かってくれている。まずは状況を確認する必要があるだろう。気になるのは地上からどこかへ向かったアルマロスだがエミロクが追跡中なんだよな。ひとまず連絡を待つしかないが、突然どこかの戦闘に割り込んでくる可能性がある。そうなると、おれたちサイドは一気に劣勢に立たされるかもしれない。それだけの存在だ、悪魔というのは」
「しかし、気になるのはなぜ、魔王や悪魔が登場しているかだな。それに話を聞いていると裏でかなり情報が洩れているじゃないか?こちらの戦力に見合う、もしくはそれ以上の軍があてがわれているように見える」
ワサンが割って入った。
「確かにその通りだ。だが理由は明白だ。共闘反乱軍の中に裏切り者がいる」
『!!』
一同それぞれ驚きの表情を浮かべる。
その中でいち早く反応したのはバルカンだった。
「ちょっと待ってくれ!オレたちの中に裏切り者がいるってのか?!いい加減な事を言うもんじゃないぜ!特に革命軍の中に裏切り者は絶対にいない!」
「実はな‥」
スノウが切り出す。
「おれは革命軍幹部に今回の作戦を伝えるのと同時に各国の代表に手紙を渡している。おれが直接渡したシャナゼン王やハーポネスの天帝、トウメイ以外はソニアにお願いしている」
「ああ。それは知っているぜ」
バルカンが答える。
「その際におれはいくつかの罠を張ったんだ」
「え?・・・罠?」
「ああ。ひとつはガザドとレグリアの裏切りだ。今回ゾルグに寝返る際に得をする国があるかと言えば、ガザド公国とレグリア王国だけなんだ。レグリアはヘクトリオン・レティスの国中毒で侵されて国力を大幅に落とす事件を受けて国王として国民を守るために完全に隷属国となるという動機があった。それは誰も責めることのできない小国の苦しい判断となる話だ。そしてガザド。ここは南にゾルグの属国のゼーガンがおり、南の国境の防衛で常に警戒しなければならないし、国中に散らばっているゾルグの諜報員たちがいつ裏社会から反乱を起こすか分からない状態であり、ジオウガとの友好関係はあるものの、ジオウガそのものがゼネレスのエルフたちとのいざこざでガザドを守ってくれるような動きは期待できない。となればゾルグの軍門に下ってしまった方が楽だ、という動機が伺えるんだ。それでわざわざ、ソニアと信頼できるジェラルド・フィンツ男爵の力を借りて裏切者をあぶりだした。まぁ裏でワサンたちも同じような動きをとっていたんだがな。結果、ガザドのデュークの裏切りが発覚してゼーガンでの戦いは巻き返す事ができた‥‥」
「・・なるほど。でもガザドのパラディン・スレインはよくオレたち共闘反乱軍に味方してくれたな」
「彼は人格者であり愛国者だ。それは本当に助かっているんだが、何よりジェラルド・フィンツ男爵を信じてくれた。フィンツ家はスレインの一族が没落して以降もサポートし続けた関係があったからっていうのもあるんだがな。これは本当にラッキーだった。いや、フィンツ家に感謝というところだ」
ワサンとフランシアは軽く微笑んだ。
「そうか。それで他の罠とは?」
「ああ、まさか他にも裏切り者がいるってのか?」
マインとバルカンがスノウに問いかける。
「いる。それも革命軍幹部の中に。おそらくだがな」
「!!・・・・ありえねぇ!いくらスノウでもいい加減なことを言っているなら許さないぞ!」
「ああ!私たちは長きに渡って虐げられてきたのだ。だが、その度に結束して奮起してきた。そしてやっと実を結ぶというところまで来たのだ。革命軍に裏切り者などいないと断言する!」
バルカンとマインが反論する。
「ズバリ言おう。なぜヘクトリオン・レティスがナラカに侵攻したと思う?」
「それはオレたちの総司令が事を起こさないわけはないと踏んだんだろう?」
「それもあるかもしれない。だが、今回ヤマラージャの2千の兵力を殲滅できる丁度いい数の兵が派遣されたんだ。おかしくないか?以下にゾルグといえど、西のレグリアや東のハーポネスへの対応がある中、ナラカに避けれられる軍の兵数はできる限り適切に配分したいはずだったんだ。だがヤマラージャの実力も彼らは知っているはずだ。何も知らなければ1~2万の兵は普通に投入していたはずだ。だが、やつらは5千に絞って侵攻してきた。悪魔が混じっていたのは誤算だったがな」
「そんなものたまたまかもしれないじゃないか!」
「そうだな。偶然かもしれない。だがもう一つあるんだ」
「なんだよ!」
「革命軍幹部にだけ伝えた情報。ジオウガのゼネレス侵攻だ」
「それが何だっていうんだ」
「おかしいじゃないか。ジオウガのゼネレス侵攻でエルフたちが対処するのは分かる。・・だが、どうして強力なゾルグの改造生物軍が丁度いいタイミングで登場するんだ?」
「!!・・・そ、それは・・・」
「おれは・・・」
スノウは少し躊躇しながらも話を続ける。
「革命軍幹部の中で攻撃を受けずに傷を負ったり死ぬようなリスクを負っていない者が怪しいと思っている」
「そ、そんなのいる訳がないだろう?」
「いるわね」
エスカが割って入る。
「誰だよ!」
「わかっているでしょうバルカン。マッシュとゼラよ。いや、もしかするとエミロクもそうかもしれないわね」
「!!・・・」
「そこでもう一つ、おれは罠を張った」
「?!罠?・・だと?」
「ああ。今頃その罠にひっかかっているんじゃないかな」
コンコン‥
「おお、すごいタイミングだな」
フランシアがドアを開ける。
入ってきたのはヤガトだった。
「お前は!フォックスの支局長の!」
「ヤガトでございます。最近ではもっぱらスノウさんの下働きのような扱いになっていますよ」
「随分な言い方だな。ところでどうだった?」
「はい。見事に引っかかりました。おい、連れてこい」
奥からヤガトの部下が縄で縛られた者を連れてきた。
見知らぬ男だった。
「おれは、マッシュ、ゼラに対して作戦を変更するために緊急会議を開くが、二人にはその場を守り続けてくれとだけ言ったんだ。そしてここではない場所を伝えた。だが、この男は嘘の会議室に出向いて盗聴していたんだ」
「・・・」
バルカンは黙っている。
いや、裏切者がいるという真実が暴露されることに居ても立っても居られないという状態だった。
「さて、誰に頼まれた?」
「ちっ!誰が言うか!」
「あっあー!もしかしてこれは、本当は言いたいのに言ってしまうと口が軽い男だと思われてプロ意識の低い者という評価になるのを嫌がってわざと抗っているという恰好をつけた態度ですね!でも知っているわ!こういう時は、指と腕の骨を音を立てて折ったり、歯をペンチのようなもので無理やり抜いたり、爪を反対方向にゆっくりと剥いだり、目をくりぬいたりといった拷問が有効なのよね!」
フランシアが割り込んできた。
前半は何を言っているのか分からない感じではあったが、後半は目の前の男を脅すには十分だった。
「待て!・・言う!言うから!」
「誰だ?」
「マ、マシュだ!」
ガタン!!
バルカンとマインが思わず立ち上がる。
「嘘をつくんじゃない!証拠を見せろ!見せないならここで斬って殺す!」
仲間を信じ斬っているバルカンは頭に血が上っているようで筋肉が異様に盛り上がり血管が浮き出ている。
スノウはそんなバルカンを片手で落ち着けと伝えるようにポンと肩を叩いて質問を続けた。
「目的はなんだ?」
「き、決まってんだろ!お前らが作戦変更するって話しだからそれをマ、マシュへ伝えるんだよ!」
「マシュへ伝えたらどうなるのか知っているのか?」
「知るわけねぇだろ!俺は雇われてるだけだぞ?!」
「そうか。わかった。ヤガト、すまないがそいつを牢にぶち込んでおいてくれ」
「全く人使いが荒いですねぇ」
ぶつぶつ言いながらヤガトは男を連れて行った。
バタン‥‥
バルカンとマインは怒りを押さえられないといった表情だ。
「行ったか」
スノウはヤガトとマシュに頼まれたと言って嘘の会議場所を盗聴していた男が出て行ったのを確認して口を開いた。
「スノウ!信じてくれ!マシュはキャラこそあんな感じだが決して裏切ったりはしない!誓っていう!あいつはナラカを、仲間を心底思っているいいやつなんだよ!」
「ああ、わかっている。実は、裏切り者はゼラだ」
「はぁ!?」
バルカンとマインは混乱した表情で驚いている。
「おい!スノウ!説明してくれ!マシュじゃないって主張したからゼラにしたのか?あいつだって仲間思いのいいやつなんだぞ!ちゃんと説明してくれ!オレたちを混乱させるのが目的なら大成功だがな!」
「すまない。これもまた罠だ。実はマシュとゼラにはそれぞれ異なった会議場所を伝えていたんだ。そしてあのスパイが盗聴していた場所はゼラに教えた嘘の場所だ」
「なんだって?!」
「なぜこんなことをしたか?だが、ヤガトはあの後牢屋に入れるがあえてあのスパイが逃げられる環境を使って泳がせる。これによっておれたちがマシュを裏切り者と信じていると思わせることができる」
「‥‥‥‥」
「これ以上おれたちの作戦をゾルグに漏らされるのはまずいからな。そしてゼラの処分はバルカン、お前に任せるよ。裏切り者を突き止めておれたちの目的を達成する活動を阻害する動きを排除できればいい。裏切り者を罰するも許すもおれの権利じゃないからな」
「‥‥わかった。スノウ、お前に従うよ。そしてゼラが本当に裏切ったのならその理由を聞くのはオレの役目だし、どう処分するのかを決めるのもオレたち革命軍の責任だ」
しばらく気まずい雰囲気が続いた。
「ちょといいか?」
エスカが沈黙を破って口を開いた。
「私とコウガはここから離脱してハーポネスの援護に向かいたい。これはグランヘクサリオスで負けて表彰式の決戦に参加できないとわかった時点でコウガと話して出した結論だ。このままここにいて何もできないことが耐えられないし、私はハーポネスの金剛の旋風七聖でもある。マカムやリュウソウを死なせるわけにはいかない」
「俺も同じ気持ちだ!特に悪魔たちが現れたとあっては腕に覚えのある者が一人でも多く必要になる!俺はそこで貢献したい!」
エスカに続いてコウガも意思を示した。
スノウは少し沈黙したが、考えをまとめたような表情で言葉を返した。
「いいだろう。ただし約束してくれ。絶対に死ぬな。ハーポネス軍の戦いが最も過酷な場になるはずだ。彼らはヘクトルを倒すまでの時間稼ぎだが、あのディアボロスとかいう魔王を相手にどれだけもつか、非常に苦しいところだろう。お前たち二人が加われば彼らのミッション達成の可能性も上がる。‥‥だが、絶対に死ぬな。約束だ」
ガシィ!
エスカとコウガはスノウと手を握り合い無言で生きて帰ることを誓った。
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