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<ホド編> 15.誤解

15.誤解



 「うまく行ったようねぇ。流石はエントワボウヤ」


 「ええ、ただしもう一仕事残っていますがね」


 (もう一仕事?‥‥まだおれに何かやらせる気か‥‥)



 一行はヴィマナな帰還していた。

 皆無事に世界竜の加護が得られたことを喜んでいるようだったが、スノウは椅子に力なく座り込んで事前のやりとりを思い返していた。 

 交渉には3つのステップがあった。

 全てエントワが考えたものだ。


ーーーーーー


<ステップ1>

 まず、スノウがヨルムンガンドに加護をくれと頼み込む。

 そこでわざと “世界蛇” と呼びかける。

 事前に黒服女からくれぐれも世界蛇と呼ばないようにってアドバイスがあったのだが、それを逆手にとって相手の性格を読むために敢えて “世界蛇” と名を呼んだのだ。

 牢に閉じ込められているわけだからある程度怒らせようとこちらに危害は与えられないと考えてのことだ。


<ステップ2>

 次にエントワが相手の性格を読んだ上での交渉に入る。

 この後はエントワ任せだったが、どんな性格にしろ必ず条件を出してくるはずで、牢の鍵を取ってくる事を条件として提示してくるのは間違いない。

 それ以外の追加条件が出る可能性もあったがそこは臨機応変に対応する。


<ステップ3>

 うまく世界竜との交渉を進めて加護を入手する。

 鍵の在処を聞いた後、探しに行くと言い残してその場を去る。



ーーーーー


 

 今回は加護に呪詛というのが付いていて、それに耐えられるかどうかが追加条件だったわけだが、話の展開上その呪詛を受け取るのがスノウになったというのは想定外はだった。


 (想定外?‥‥いやいや、よくよく考えたら想定内の話だったということだ‥‥‥交渉しているエントワ自身が呪詛を受け取るって選択もあったし、一番魔法力高く呪詛耐性高そうなニンフィーが受け取る選択肢もあったはずだ‥‥‥だが、元々そういう展開にするはずもなかったという事だ‥‥なぜならリスクはおれが試して安全かどうかを確認する。おれはそのためにここに連れてこられたのだから‥‥)


 元々自分がそういう役割だったからだとスノウは思った。 


 (もうひと仕事‥‥どうせ今回おれが死ななかったから‥‥別の危険な内容をおれに押し付けるつもりなんだろう‥‥)


 完全にエントワ達を信用できない状態になっている。


 「いや、 “もう一仕事” はまた後にしましょう。それよりもスノウ殿、無事でなにより」


 「‥‥‥‥」


 スノウは無表情のまま答えなかった。

 そして椅子に座ったまま、エントワたちとは反対方向を向いている。


 その様子を見て何かを感じ取ったのかロムロナが話しかけてきた。


 「なになにぃー?何か楽しいことでもあったのぉ?エントワボウヤがスノウボウヤを虐めちゃったとかぁ?見たかったわぁ!」


 (煩い‥‥イルカ女‥‥)


 スノウは近寄って来て煽る様な事を言ったロムロナに露骨に嫌な表情を向けた。


 「あらあらご立腹ぅ」


 そのスノウの様子を見て心配そうな表情を浮かべたニンフィーが急いで話しかけた。


 「スノウ‥‥私が念話でエントワにお願いしたの」


 スノウの普通ではない様子を見て、明らかに慌てている。



 「‥‥‥‥‥‥‥」 



 スノウは相変わらず無言だった。


 「スノウ?」


 ニンフィーが歩み寄る。


 「来るな‥‥」


 「え?」 


 「おれをあの蛇の呪詛で殺そうとしたんだよな‥‥。そんなやつと話したくないよ‥‥」


 「殺そうだなんて‥‥」


 ニンフィーは涙をこぼし始めた。


 「スノウ殿。どうやら誤解があるようです」


 「‥‥‥‥‥」 


 エントワの言葉を無視して立ち上がったスノウは、この場所にはいられないとばかりにブリッジから立ち去ろうとする。


 「スノウ殿。どうか話だけでも聞いてくれませんか?」


 「騙されないよ‥‥ほっといてくれ‥‥」


 「違うよスノウ‥‥うぅぅ」


 泣き崩れるニンフィー。

 とても泣き崩れるような雰囲気は感じられない女性だったが意外だった。

 だが、今のスノウはそんなことを感じる心境には無かった。

 

 立ち去ろうとするスノウの腕を掴むエントワ。


 「スノウ殿。ニンフィーには分かっていたのですよ。あの呪詛に耐えられるのはスノウ殿だけだとね」


 「それもニンフィーの念話で示し合わせた言い訳かよ‥‥」


 「違います。きちんと理由があるのです」


 振り払おうとするも力では敵わないため振り解けずに、スノウは苛立ちを覚えた。


 (ひとりにもしてくれないのかよ‥‥)


 「スノウ殿」


 「だからもういいって!分かったよ!利用されてやるよ!好きに使えよ、おれの事を。だがな!‥‥‥次はなるべく死ねる生贄にしてくれよ。もう疲れたんだわ‥‥こういうの‥‥」


 自然と涙がこぼれ落ちて来た。

 言い訳されると騙されるための説得のようで余計に惨めになっていったからだった。


 パシィン!!!


 ロムロナの平手がスノウの頬を打った。

 スノウは一瞬何が起こったのか分からなかった。

 呆然とするスノウ。


 「スノウボウヤ、あんたはまだ子供ね」


 「ロムロナ、いいんですよ。スノウ殿、ヨルムンガンドの呪詛を貸していただけますか?」


 エントワがロムロナを制して左手をスノウに向かって差し出す。


 「何のつもりだよ‥‥おれが問題なかったから自分も触ってみたいってか‥‥好きにしろよ‥‥」


 スノウはポケットに忍ばせていたヨルムンガンドの牙をエントワに投げた。


 パスッ‥‥ドゴン!!


 「がはっ!!!」


 投げた牙がエントワの左手に乗った瞬間、エントワの手は地面に吸い寄せられるように叩きつけられた。

 左手から血管が黒く浮き出て徐々に腕に広がっている。


 「エントワ、もうやばいよ!」


 ニンフィーが焦ってエントワの右腕を掴み、エル・ウルソーと言われる新聖活性精霊魔法のヒエロパージを唱える。

 絶対浄化魔法にもかかわらず改善が見られない。


 「ぐは‥‥」


 呪文の効果は見られずニンフィーの腕にも黒く血管が浮き出る症状が出始め、その顔は苦痛に歪んでいる。

 すかさずロムロナがエントワの左手に乗っている牙を足で蹴って弾く。


 カランコロン‥‥


 ヨルムンガンドの牙は床に転がった。

 

 バタン‥‥ 


 エントワとニンフィーは床に倒れ込んだ。

 ロムロナは急ぎ体力回復魔法を唱える。


 「これが答えだよスノウボウヤ」


 「どういうことだよ‥‥何だよこれ‥‥」


 「世界竜の呪詛は‥‥越界できる者にしか耐えられないの‥‥」


 徐々に黒く浮き出た血管の侵食が治っていくが苦しい表情は変わらず、ニンフィーは声を捻り出すように答える。

 ”しゃべってはだめ” と言わんばかりにニンフィーの口に手を当ててロムロナが代わりに説明し始める。


 「世界竜は知っての通り様々な世界にまたがって存在するほどの竜だから呪詛も最低でも複数世界に影響を及ぼす力を持っているのね。つまり越界する力を持っていないエントワやニンフィー、あたしでは耐えられずに消滅していたってことなのよぉ」


 「‥‥‥‥」


 目の前の一瞬にして命を蝕むような光景を目の当たりにし、ロムロナの話が真実だと理解する。


 「だ、だけどおれが消えないって保証もなかったんじゃないか?」


 「スノウボウヤ。あんたは大丈夫なの」


 ロムロナの服を掴み、”私に説明させて” と言わんばかりにニンフィーが苦痛に歪んだ顔で話始める。


 「私が‥‥あなたに還した精霊の力は世界竜の呪詛をはるかに超える力を持っているの‥‥私は預かっていたから‥‥分かるわ‥‥‥だから‥‥賭けでも押し付けでもなく、確実な作戦としてスノウ、あなたに呪詛を受け取ってもらったのよ‥‥‥それに精霊を還さなかったとしても‥‥‥あなたは別世界から越界してきたでしょう?‥‥‥つまり越界に耐えられるだけの力を‥‥‥元々持っていたって事でもあるのよ‥」


 「い‥‥」


 (いや、違う‥‥おれは‥‥おれは、みんなが思うスノウじゃぁない!おれは単なる中年サラリーマンで目立つのが苦手の、人と接するのが苦手の、単なるおっさんだ!英雄神だかなんだか知らないが、おれに過度な期待はやめてくれ!)


 スノウの心は爆発寸前だった。

 蔑まれて来た人生。

 突如現れた気のいい仲間。

 突然の裏切りとも取れる呪詛の押し付け。

 自分は越界者という呪詛をも跳ね除ける特別な存在。

 全てが自分の中で消化しきれない情報だった。


 「やめてくれ!おれはみんなの知っているスノウなんかじゃない!おれは!確かに別の世界から来たけど元々いた世界は魔法なんてなかったし、あんな巨大な蛇も亀も存在してない!何にもないただの世界なんだよ!そんな何もないただの世界からたまたま飛び越えて来ただけで、飛び越えられたのもおれの力じゃない!光の川ではぐれたけどもう1人いたその人の力なんだよ!おれの力じゃない!おれじゃ‥‥ないんだよ‥‥‥」


 もうどうでもいいと言う諦めもあり、これまで言えなかった自分が元いた世界についても話したスノウ。

 目からは大粒の涙が溢れ、膝をついて項垂れた。

 情けないことに声をあげて泣いた。


 その姿を見たエントワはよろけながらもスノウの前に膝をついて話始めた。


 「スノウ殿。あなたの言う “みんなの知っているスノウ”  とは誰のことですか?我々は英雄神スノウとしてあたなと接しているわけじゃぁありません。どこから来られたか知らないが、そんなことはどうでもよいことです。今我々は目の前にいるスノウ殿と共に旅をし、あなた自身の力を信じ、そして一緒に戦っているのです」


 「嘘だ!みんなおれを実験台にしてあの蛇の呪いがどれくらいかを確かめようとしたんだろう?はっきり言えよ!」



 パシィィン!



 2度目のロムロナの平手打ち。


 「なぁーるほどねぇ、スノウボウヤ、拗ねてるのねぇ‥‥。まだまだガキねぇ。ウジウジ自分の殻に閉じこもって生きて来たんでしょう?誰かと本気でぶつかるのが怖くて怖くてビクビクしながら生きてきたのねぇ!情けないボウヤだぁわ!」


 キッ!


 挑発するようなことを言うロムロナを思わず睨んでしまう。


 「図星ねぇ。さーぁ、なぁにか言って見なさいよぉ!」


 さらに挑発するロムロナに反射的に食ってかかろうとするスノウを見て、服をつかんで引き止めるエントワ。

 その手は先ほどまで浮き出た血管のあとが黒い筋となって残っていた。


 ドスン‥‥


 そのまま膝をつくスノウ。

 地面に手をつき、目からは涙があふれている。

 涙が地面に落ちては染み込んで消える。


 「惨めねぇ。スノウボウヤ。あなたがどんな人生を送ってきたか知らないし、これからも殻にとじこもって生きていこうと関係ないけどねぇ、私の仲間を侮辱するのは許さないよ!」


 悔しくて惨めで顔がグシャグシャになっていた。

 

 ドスン!ドスン!ドスン‥‥ 


 地面を何度も叩いていたからいつの間にか叩いていた右手から血が滴っている。


 分かっていた。

 スノウは頭では分かっていた。

 それなりの理屈と自分に対する信頼があっての行動だったと。


 だが心がそれを理解することを拒んでいる。



 ”どうせまた面倒を押し付けられ裏切られる”



 今スノウは頭の理解と心の不信の大きな溝に嵌ってどうしようもなく、ただただ惨めに涙を流すだけだった。



 「スノウ‥‥あなたは気づいていないかもしれないけど、光の川“カルパ”を渡れるということはとてもすごいことなのよ。私は‥‥この世界にはない豊かな森を探し求めてたくさんのエルフの仲間たちが越界しようとしてなんとかゲートを開き、カルパに飛び込んだ瞬間に蒸発して死んだのを見たわ‥‥‥。その中にはとても魔力の強い大魔法使いもいたの‥‥‥」


 目に涙を浮かべながらニンフィーが切り出す。


 「カルパとは魔力の川。理由はわからないけど、いくつかの世界は魔力で繋がっているの‥‥」


 ロムロナはエントワに目配せした後、少し下がって黙って様子を見ている。


 「この世界の人々は大気中に存在する魔力を自分の魔力の器に溜めて魔法を使うの。つまり自分の魔力の器以上の魔力は取り込めないし、待機中の魔力は濃くないから器がいっぱいになっても特に害はない。‥‥でもね、光の川“カルパ”は違う‥‥‥ほとんどの生き物は魔力の川で溺れてしまうのよ。魔力は必要以上に体に流れ込むと強烈な猛毒と同等。普通の生き物の体はその猛毒に耐えられない‥‥‥」


 「でもスノウ殿は耐えた。耐えて元の世界からこのヴォウルカシャに来た」


 ゆっくりと雰囲気を落ち着かせるような穏やかな声でエントワが続ける。


 「つまり、私たちの中で唯一、純粋で強烈な魔力の濁流にも溺れずに生きられる人、それがあなたなのスノウ。‥‥そしてカルパを渡る力があるという事は如何に世界竜の呪詛とは言え裕に耐える事ができるってこと‥‥‥」


 「我々はね、目の前のスノウ殿しか見ていないのですよ。貴殿の辿って来た事実だけを信じているのです。ニンフィーは全てを理解し、目の前の貴殿を信じて判断したのです」


 「その信頼を自分のちっぽけでくだらない卑屈な感情で返すなら、あなたレヴルストラから消えた方がいいわねぇ‥‥フゥン‥‥‥」


 ロムロナが締めくくるように発したあとため息をついた。



 「‥‥‥‥‥‥‥」



 (自分を信じられず‥‥‥自分から逃げて‥‥‥周りも信じず‥‥‥ただただおれは死んだように生きていただけ‥‥‥生きているふりをしていた死人だった‥‥‥これまでのサラリーマン人生も結局自分を殺して生きて来た。

‥‥‥明日の自分に何一つ期待せず、今の自分を諦め、息を潜めて全てをやり過ごす事が生きる事だと思っていた。‥‥‥そんな自分を信じて関わってくれる他人なんているわけないから、余計に人を遠ざけて‥‥‥)



 「‥‥‥‥‥‥‥」


 

 (分かってるんだよ‥‥全ておれだって‥‥自分をダメにしているのは‥‥)



 だが心の思いを声に出すことはできなかった。



 「す‥‥少し1人にしてくれ‥‥」



 スノウは個室に篭った。



・・・・・


・・・



ーーーダンジョン組ーーー



 「フレイムドオフェール!」


 炎を纏ったフレーレが高速で無数の線を生み出す。

 エストレアの得意とする剣撃だ。

 数体のミノタウルスが一瞬にして倒れる。


 「ホウ、中々ヤルナ」


 「んぁ、だがスピードでワサンに勝てる奴ぁ見たこたーねぇなぁ」


 エスティーは素早い動きでミノタウロスの頚椎を斬り裂いた。

 立っていられなくなったミノタウロス達が次々に地面に倒れこむ。

 あとは冷酷に一体一体トドメを刺していくだけだった。


 「お二人とも流石ですね、途中から動きが見えなくなりましたよ」


 「そうかぁ?」


 素早く動き魔物をなぎ倒していく2人を遠くで座って見物しているアレックスとライジ。


 「ってかよぉ、お前も少しは役に立てって!食べ物取って来るとかよぉ」


 「す、す、すみません!でも流石に僕1人じゃミノタウロスは倒せないんで落ち着いたら弱い草食魔物でも狩ってきます‥‥」


 「頼むよぉ、腹ぁ減ってきたんだしぃ、少しは貢献しなさいよぉ」


 「で‥‥でもアレクサンさん何もしてないじゃないですか!」


 ゴガツン!!


 アレックスがげんこつでライジの頭を小突く。


 「いったぁ!何するんでかぁ!」


 「アレックスでいい。アレクサンサンて呼ばれるとバカにされてる気がするって言わなかったかぁ?!誰がアレクサンサンサンだ!ぶつぶつ‥‥」


 「わかりましたよぉ〜。でも呼び捨てするのも気がひけるんでアレックスさんでいいですか?」


 「んぁ?ああ、まぁいいだろう。それで許してやる」


 「ありがとうございます。そんでもう一回言っておきますけど、アレックスさん何もしてないですよね?」


 「おめぇなぁ!おれはこのチームのキャプテンだぞぉ?キャプテンはみんなに指示を出すんだよぉ。つまりおれは今、2人に支持を出してるってこった。これぁなぁ、頭使うんだよ。だから腹が減る!わかったかぁ?ボウズ」


 「はぁ‥‥」


 「あーーー!今オメェおれの事怠け者みたいな目ぇで見たなぁ?」


 「見てましたよ!実際さっきまで横になって鼻ほじってたじゃないですか!」


 「あ、あれはなぁ!鼻くそ溜まると集中できないから取り除いてたんだよ!そんで鼻くそが良く取れる姿勢が寝っ転がるやつなんだよ!」


 「子供ですか!うちの犬でも騙されませんよ!まったく」


 そうこうしている内にワサンとエスティが大量のミノタウルスを倒しきって戻って来た。


 「だいぶ敵も強くなって来たわね、流石にここまで下層階までくると」


 「後3階下ガレバイインダッタナ」


 「ええ、そのはずよ」


 「お疲れ様でした。後3階って一体何を探されているんですか?」


 「おめぇには関係ねぇよ。坊主はとっとと餌取って来てくれよ。腹減ったって言ったろう?そこのねーちゃんもさっきから腹ぐぅーぐぅーなってるぞ?」


 と言った瞬間にエスティの放った側頭蹴りがアレックスの顔面に炸裂する。


 「デリカシーない男ね。なんでこんな木偶の坊にエントワおじさまのような紳士が付き従っているのか‥‥ヴォウルカシャの七不思議ね」


 「キャプテン、顎ズレテルゼ」


 アレックスの顎がずれている。

 すると、ライジの頭から髪の毛を数本むしりとった。


 「痛ったー!何するんですか!アレックスさん!」


 それをよじって鼻の穴に入れてこしょこしょしている。


 「ふ‥‥ふ‥‥ふ‥‥フガブショ!!!!」


 くしゃみだった。

 それと同時にものすごい地響きがした。

 遠くでコウモリが一斉に飛び立つのが見えた。


 「ほらな?治ったぜぇ」


 くしゃみとともに顎が元どおりになっている。

 一体どういう人体構造なんだろうかとライジは思った。


 

 ・・・・・


 ・・・



 強い魔物がいなくなった事もあり、ライジは効率よく狩をして獲物をとって戻り手際よく料理を作った。


 「おめぇ、ほんと料理うめぇのなぁ!素直になったら俺のレヴルストラの料理担当にしてやってもいいぜぇ」


 「僕いつでも素直ですよ。でもいいですね!憧れのレズルストラに入れるならめっちゃくちゃ嬉しいです!」


 「あなたねぇ!こんなやつらのいるトライブに入ったらとんでもなくこき使われるわよ?朝から晩まで顎でこき使われて‥‥暇なこの木偶の坊にちょくちょく弄られて老いていくのよ?そして1人寂しく死んでいくの。そんな人生でいいの?あなたは足が早くて料理も上手なんだからそれが活かせる仕事につくべきよ。冒険者を本業にしてはダメ。あなたの能力じゃぁ1年が限界。すぐ魔物の餌になるわ。あなたはその程度の戦闘能力なんだからもっと自分を活かせる仕事につくべき!いい?」


 「あの‥‥総帥は僕のことが嫌いなのでしょうか‥‥」


 「?」


 ライジの言っていることが分からないといった表情のエストレアだった。


 「はっははー、ボウズ、おめぇを一番弄ってるのはこのねーちゃんだなぁ、はっははー、ウケるー」



 ・・・・・


 ・・・

 

 

 翌日、目的の階層まで到着したアレックス一行。

 ダンジョンの奥にあった扉は幾重にも鍵魔法が施されており、通常の冒険者では触れることさえできない代物だったが、事前に受け取っていた解錠魔法の結晶を使ってなんとか開けられた。


 「んぁ、なんだか先をこされちまったようだなぁ」


 足を踏み入れると小さいが明らかに人工的に作られたであろう部屋の奥に黒い箱が置いてあった。

 そして中身は空っぽだった。


 「一体何を探しにきたんですか?」


 「とんでもねぇ神獣を解き放つ鍵だよ。だが、誰かがそれを持って行っちまったらしいなぁ」


 「これって‥‥」


 「アア、俺タチノ動キガ読マレテイルッテ事ダ」


 「これぁちょっと急がねぇとまずいなぁ。直ぐにエントワたちと合流だ」


 アレックスたちは周囲を警戒しながら地上を目指して移動を開始した。

 






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