<ゲブラー編> 159.ヤマの激昂
159.ヤマの激昂
―――アムラセウム―――
闘技場内では既に準々決勝第4戦が始まっていた。
キンキンカカカキン!!
激しい撃ち合いで金属音が鳴り響く。
その金属音を発生させているのは、槍神・闇虎の槍と神殺し・ジヌークの巨大な大剣だった。
「あんたやるなぁ!流石は1番の男だ!」
「‥‥‥」
ジヌークが闇虎に話しかけるが、それを無視して闇虎は技を繰り出す。
「アータル」
ブワン!!
闇虎は槍を横に振ると、その軌道上に様々色の炎の玉が現れた。
赤・蒼・黄・緑・白の炎の玉が目の前でゆらゆらと揺れている。
「その技は見たぜぇ!」
ジヌークは凄まじい速さで後方に飛び退いて壁沿いにある盾を続けて3つ取り、自分のめの前の地面に刺すようにして立てる。
ガン!ガン!ガン!
一方の闇虎は我関せずといった表情で淡々と技を繰り出そうとしている。
「グメーズィシュン‥‥」
闇虎は槍を肩に載せるように構えた。
「放出・シ」
闇虎が呪文のような言葉を発したと同時に蒼い炎が凄まじい勢いでジヌークのところへ飛んでいく。
「オラァ!この盾を超えてみろぉ!」
ジヌークは前進に力を溜め込んで盾をおさている。
「来いやぁ!」
ブゥゥゥゥン‥‥‥シュワン!
「何ぃ!?」
蒼火はまるで何かに操られているように盾を飛び越える動きをしてジヌークに襲いかかった。
ジュワン!!
「ぐあぁぁぁぁぁ!!ひ、皮膚がぁ‥‥くそ!皮膚が焼ける!!」
ダメージを受けて動きが鈍くなっているジヌークに対して一方闇虎は次々に攻撃を繰り返す。
「放出・カ!」
闇虎は続けて何かを唱えた。
「放出・ゼ!」
白い炎玉と緑の炎玉が作られてジヌークのところへ飛んでいく。
ジュアァァァァァァァ‥‥
「ぎぃやあぁぁぁぁぁ!」
ジヌークの悲鳴が上がった。
炎がジヌークの目と鼻で激しく燃えている。
視覚と臭覚が失われたようだった。
「放出・ラ!」
「放出・ド!」
黄色の炎と赤い炎の玉がジヌークに向かって飛んでいく。
ジュワァァァァァ‥‥ドッゴォォン!!
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジヌークは体勢を崩しながらかろうじて立っている状態で叫んでいる。
どうやら身体中が燃え上がりそうなほどの温度上昇を受けているようだ。
放出・ラは体の内臓を焼き尽くし、放出・ドは血管を焼き尽くす技のようで、耐えきれない熱さによって地面をのたうちまわっている。
ガシィ‥‥
ジヌークは大剣を片手で大きく振り上げたかと思うと思い切り剣の腹で自分の胸を叩いた。
バァァァン!!
すると直撃していた様々な色の炎の玉がジヌークの魂が抜けでるように、空中で消えた。
「がはぁ!!」
ズザァ‥‥
膝をつくジヌーク。
どうやら剣の衝撃で、体内で燃え盛っている炎を吹き飛ばして消したようだ。
「策なく単純に突っ込んでくるのは単なる自滅行為だ。雑魚には効果があったやも知れぬが‥‥身の程を知れ」
そう言うと、闇虎は槍を横に振る。
「アータル‥‥」
槍の先から赤、蒼、黄、緑の色の火の玉が出現し、闇虎の目の前で浮かび燃えている。
「!‥‥この瞬間を待っていたぜぇ!倒神!」
ジヌークは闇虎が武技魔法発動に向けて魔力を練っている状態を見計らい巨大な大剣を軽々と横振りする。
ズヴァァァ‥‥
剣の腹で4色の玉をまるでテニスボールを打つように弾く。
弾かれた炎はそのまま闇虎に向かって飛んでいく。
「自らの炎に焼かれて死ねぇや!」
闇虎はその状況に眉一つ動かさずに槍を肩に乗せた状態で目の前に左手の人差し指と中指を揃えて立てたポーズを取る。
「ウィザーリシュン」
闇虎が何やら呪文のような言葉を唱えた瞬間、4つの火の玉は無数に分散した。
まるで分散した4色の火の粉がそれぞれ生きているかのように縦横無尽に動く。
そしてそれらは闇虎の二本指に操られるように収束しながらジヌークに向かって進んでいく。
「何ぃ?!」
ジヌークは怯みながらも大剣を構える。
「滅神!」
大剣を地面に押し付けるように振り下ろす。
その衝撃で周囲のものも押しつぶされていく。
シャババババン!!
4色の火の粉も押しつぶされるような動きをとるが、それは一瞬で解かれ再度生きているかのような動きでジヌークに向かって飛んでいく。
「くそ!‥消神!」
ブワン!シャシャシャシャン!シャシャン!!」
肉眼では軌道が追えないほどのスピードで大剣を振るジヌーク。
空間を凄まじい速さで斬り刻む。
だが、火の粉を切ることはできずに、いよいよ火の粉がジヌークを捕らえた。
「がはぁ!‥‥ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
赤い火の粉は血液を燃やし、
蒼い火の粉は皮膚を焼き、
黄色い火の粉は内臓を焼き、
緑の火の粉は臭覚を焼き尽くした。
斬れない炎の攻撃。
消し飛ばせない炎の攻撃。
防げない炎の攻撃。
単なる火の粉の集まりである攻撃がじわりと迫り来て、凄まじい苦痛と恐怖をもたらす最も恐ろしいものだった。
ズザァ!!
「ぐあぁぁぁ!」
闇虎の槍がジヌークの心臓を貫く。
もはや視覚すら失ったジヌークの目は眼球がなくなった状態となり、その場で息絶えた。
レンスが急いで駆け寄ってジヌークの状態を確認する。
そして俯き小さく首を横に振った。
「勝者‥‥槍神・闇虎!」
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
大歓声が沸き起こった。
一人の屈強なグラディファイサーが命を落としたことより、ランク一位の闇虎の凄まじい攻撃に沸いているという異常な興奮状態がアムラセウムを包んでいた。
・・・・・
・・・
キィィィィン‥‥
(なんだ?!)
エンブダイのナラカ入り口に来ていたヒーンに耳鳴りが襲った。
(この感覚‥‥)
ヒーンは遠くに見える美しい装飾が施されたアムラセウムを見て悟った。
(ジヌーク‥‥。随分とあっけない最後だったねぇ‥‥。我が師イズンの仇がこんな形で世を去るとは‥‥。戦いに身を置く者の宿命ってやつかねぇ‥。でも‥‥どんなやつでも乱暴に命を奪われるのはいい気持ちがしないな‥‥いつものことだけど‥‥)
しばらくアムラセウムを見つめていたヒーンだったが、思い出したかのようにナラカに続く入り口に進んでいった。
しばらく階段を降りていくとあるはずの屋敷がほぼ跡形もなく崩れている状況に出くわした。
「‥‥何があった?!」
瓦礫の山と化したかつての守護神の宮殿を見渡し、足場の悪いところを飛び越えながら下を目指すヒーンは何かに気づいた。
「シ、シロク!」
ヒーンは柱に押しつぶされているシロクを発見し急ぎ詰め寄る。
ガタタン‥‥ドスン!!
「シロク!しっかりするんだ!」
「ぶぶぁ‥‥」
大量の血を吐くシロク。
その量は明らかに助からないことを示していた。
「ヒ、ヒーン‥‥」
「シロク!い、いやもう喋らなくていい!」
シロクは震える手をヒーンの額に当てる。
キュィィィィィィィン‥‥
「!!」
シロクの特殊な炎魔法である温度に思念を乗せて起こった出来事を脳へ視覚情報として送り、情報伝達する能力によって起こった状況がヒーンに知らされる。
「ヤマ‥‥様を‥‥頼む‥‥」
サワ‥‥
シロクは息絶えた。
ヤマラージャの分影となっているシロクは不老の力を得ているが、ヤマラージャと違い不死ではないため、彼に死が訪れたのだった。
「シロク‥‥」
ヒーンはその場にシロクをそっと寝かせた。
「後で必ず戻ってくるよ」
そういうとヒーンは下に降りる階段を探した。
シロクから送られた映像はー。
・・・・・
・・・
目の前にゴッシとアッシュの頭部が転がっている光景を目の当たりにしたヤマラージャの表情が驚きのそれから鬼神のような怒りの面へと変わる。
「き、貴様ら‥‥!!」
ヤマラージャの体が赫黒く変わっていく。
「許さん!許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ヤマラージャが叫ぶ。
「おっと、これは流石に危険ですね」
そう言うとアルマロスは瞬時にサルガタナスの頭部を掴み凄まじい速さでナラカの地上へ出る階段を登り守護神の屋敷が見える踊り場へと移動した。
「おいおい!私の頭を気安く掴むんじゃない」
サルガタナスがアルマロスに頭部を掴まれたまま話しかけた。
「おや、この状況でそんな恩知らずな言葉が出るとは」
「悪魔に恩も怨もないだろうに。人じゃあるまいし。ニンゲン生活が長くて人ボケしたのかい?」
「勘違いしてもらっては困りますね。貴方はディアボロスからここを任せると託されたのでしょう?それを汲んで救ってあげたのですよ?」
「あんたとの言い合いは疲れる。一応感謝だけはしておこう」
「素直さが足りませんね。まぁいいでしょう。それよりこれから凄まじい波動がきますがご自分で防げますね?」
「もちろんだ」
「じゃぁ後はよろしく。私はディアボロスの見物に行きます」
「見物だって?あんたの目的は何だ?‥‥まぁいいか。どうせ邪魔なら還されるだけだ」
アルマロスによって放られたサルガタナスは膝をついた腕をクロスにして構え、魔法を唱えている。
「バリアオブオールエレメンツ」
サルガタナスの周りにリゾーマタの複合バリアが張られた。
その直後、ヤマラージャからとてつもない熱量の波動が発せられた。
凄まじい熱量の波動はナラカの第1層 トウカツにあるあらゆるものを消滅させる。
サルガタナスがバリアを張っている地上へ続く階段付近にまでその超高熱爆発の波動が襲う。
ドゴゴォォォォォォォォ‥‥
「全く‥どれだけマグマの熱を溜め込んだんだ?あの不死は」
一方のアルマロスは、階段を登っている。
そして守護神の屋敷の中に入った。
コツ‥コツ‥コツ‥
アルマロスは屋敷のとある部屋で足を止めた。
「隠れる必要はありませんよ。逃げたいならそれもいいでしょう。あいにく今は忙しいので見逃してあげます」
アルマロスは誰もいない空間に話しかけた。
ボワン!!
シュヴァァ‥‥
突如アルマロスの後方から炎魔法攻撃が飛んできたが、軽く手をあげて人差し指を少しだけ動かすと炎魔法は消えた。
「お前‥悪魔か。それもかなり上級な悪魔だな」
「同感」
シミョウとシロクがアルマロスの背後に現れた。
「ヤマ様と戦っていて恐れを成して逃げ出したって感じか。残念だがここで冥府に還ってもらう」
「同感」
「ククク‥‥あなた方如きが私をあの薄汚い地の底へ還すというのですか。それは聞き捨てなりませんねぇ。私、あそこ嫌いなんです。弱いくせに威張り腐っている虚勢を張った魔王が幅をきかせてましてね。何体か八つ裂きにしてやったのですが、ああいう群れないと戦えない輩は徒党を組んで仕返しに来るんです。だからそんな面倒な薄汚い場所に戻るなど、私の選択肢にはないのであなた方にはここで文字通り死んでもらいましょう」
「潰れなさい」
グオォォン‥‥
シミョウとシロクはプネウマ(言霊)を受けても平然としている。
「おっと、忘れていました。あなた方もヤマラージャの分影でしたか。ミトラのせいで色々と手間がかかって鬱陶しいですね」
「アスフィクシア」
辺りの空気が変化していく。
「!!‥‥い、息が‥‥」
シミョウとシロクは呼吸困難に陥っている。
「呼吸しないと生きられない生物とは面倒なものですねぇ」
アルマロスはリゾーマタのクラス4魔法、アスフィクシアを唱え周囲の空気の構成を変化させて呼吸困難に陥らせたのだ。
「さて、そろそろ死にましょうか」
アルマロスは口の中から剣を取り出した。
ヌウゥゥゥゥゥゥゥ‥‥
「あぁ。毎度気持ち悪いですねこれ。いやね、昔殺した大道芸人がやっていたんですよ。剣を飲み込む芸をね。そこで私、閃いたんです。剣を持ち歩くの面倒なので大道芸人みたいに体の中に入れておいて使う時だけ取り出せばいいじゃないかってね」
訳のわからない話を聞く余裕がないシミョウとシロク。
アルマロスはこの生命をいたぶる時間を楽しんでいるようだった。
「はい、じゃあそろそろ楽にしてあげましょうかね」
スワァン‥‥
ガキン!!
アルマロスが振り下ろした剣が何かに止められる。
「おや、あなたは」
大きな錫杖で剣を止めたのはエミロクだった。
「私の仲間に手をあげるものには浄化の施しを差し上げますわ」
パチン!
エミロクが指を鳴らすと辺りの空気の構成が元に戻った。
「がはー!」
「がはー!」
シミョウとシロクは呼吸を取り戻した。
「どうやらあなたを殺さないとここから先へは進めないようですね」
「そうね。それができればね」
エミロクは錫杖を軽く振り下ろして構えた。
シミョウとシロクはエミロクの両サイドに立った。
「できますよ。だって私、マスターデーモン。最強の悪魔ですからね」
ナラカを出ようとする者を仕留めよというヤマラージャの指示通り、エミロク、シミョウ、シロクはアルマロスの前に立った。
「油断は禁物ですよ」
「もちろん」
「同感」
普段は見られないエミロクの言葉が厳しい戦闘になることを示していた。
だいぶ遅くなりました。次のアップは土曜日の予定です。
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