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<ゲブラー編> 157.ゲントウ

157.ゲントウ



―――アムラセウム―――



 闘技場にはゲントウとバルカンが既に登場していた。

 あとは始まりの合図を待つだけだった。

 徐にバルカンがゲントウに話しかける。

 

 「ゲントウ。ひとつ聞かせてくれ。なぜこのタイミングで再び現れた?目的は何だ?」


 「貴様にいう理由が見つからん。黙って我と戦えばよい」


 「あんたそんな性格だったか?オレはあんたを深く知っている訳じゃないが、あんたの弟子だったやつとはグランヘクサリオスで何度か戦い、酒も交わしたことがあるが、そいつが言うにはゲントウという人は情に厚く人を活かすための武を探究し続けている人格者って聞いていた。だがオレの目の前にいるゲントウはまるで別人だ。好き放題殺すし、そのやり方も容赦ない。一体あんたに何があった?」


 「ふん。我に弟子などおらん。情に厚いのは生きる価値ある強き者に対してのみだ。果たして貴様は生きる価値ある強き者か?」


 「さぁな。戦ってみれば分かる」



 そんな会話で既に戦いが始まっているのを見かねて急ぎレンスが手を上げる。


 「さぁ!準々決勝第3試合!死魂斬波ゲントウ 対 業魔剣バルカン!試合始め!!」


 ブォォォォォォォォォォォォン‥‥‥


 試合開始の合図が鳴り響いた。


 ゲントウがいきなり動く。

 凄まじい速さでバルカンに詰め寄り強烈な正拳突きを繰り出す。

 バルカンはそれを軽々と避けると手のひらでゲントウの脇腹を叩く。


 グォォン!


 バルカンの放ったものは練られた螺旋のこもった発勁でゲントウは体を異常な角度に曲げられた状態で内壁まで吹き飛んだ。

 ゲントウは表情ひとつ変えずにすぐさま体勢を整えて再度バルカンに詰め寄り正拳突きを放つ。

 再度バルカンは正拳突きを軽々と避けて発勁を放つ。

 

バグォォォン!!


 再びゲントウは内壁にめり込むほど吹き飛んだ。

 先ほどと同様に表情ひとつ変えずに抜け出し平然と歩いてくる。

 そして凄まじい跳躍を見せたと同時に強烈な正拳突きをバルカンに向けて放つ。

 だが、先ほどと同様にバルカンは軽々とゲントウの正拳突きをかわして深く練り込んだ螺旋を込めた発勁をゲントウの鳩尾に当てる。


 ドッグォォォォン!!


 今度はかなり深く壁面にめり込むほどの衝撃を受けたゲントウはあるはずのダメージを微塵も見せることなくすぐに起き上がりバルカンの方へゆっくりと歩いてくる。


 「そろそろか」


 「何?」

 

 ゲントウが発した言葉の意味が分からずバルカンが怪訝そうな表情を浮かべていると、ゲントウは構わず堂々とバルカンの方へ歩いてくる。

 その不気味な様子からバルカンの警戒心が高まる。

 

 (何を考えている‥‥いやそんなことよりダメージはないのか?)

 

 ある程度近づいてきたところでゲントウは、バルカンに向かって先ほどとは桁違いのスピードで詰め寄る。


 「受怨与獄じゅおんよごく


 「!!」


 バルカンの脳裏に死という文字が浮かんだ。

 どのような攻撃かは分からなかったが体というより細胞が反応している。

 体が無意識に動き剣を抜き、ゲントウの剛腕の正拳突きを剣の腹で受ける。

 

 バガァァァァン!!!


 新しくしつらえた上質な黒曜剣が粉々に砕け散るだけでなく、凄まじい衝撃はによってバルカンは肋骨を2〜3本折られながら後方の壁に激突した。


 ドッゴォォォォォォォォォォォォォン!!


 観客席では何が起こったのか分からない状態で歓声どころか声ひとつ上がらなかった。


 

 「あの技は?!」


 VIP席で戦いを観ているマインが隣に座っているスノウに話しかける。

 マイン表情は驚愕を絵に描いたようなものだった。

 まさかバルカンがあそこまで吹き飛ぶようなことが起こるとは夢にも思っていなかったからだ。


 「あれは恐らく相手の攻撃を吸収して溜め込んで攻撃に変換している‥‥」


 「なんだって?!そ、それじゃぁバルカンは強力な攻撃をすればするほど自分にダメージが返ってくるってことになるじゃないか!ありえない!」


 「そうだ。そのありえない芸当をあのゲントウという男はやってのけた‥‥」



 ゲントウ。

 歳は40歳前後で長髪を後ろで2本に結んだ奇抜な髪型をしている。

 ちょうど三国志の呂布が身につけている兜飾りのようだ。

 そして純白の空手道着のようなものに深緑のラインが入った防具を身につけている。

 かつてゾルグ王国弟子を1千人ほど抱える巨大な道場の館長を務めており、その類稀なる力と鍛え抜かれた武技から人類が到達できる最終地点と称されるほどだった。

 というのも元々は普通の農夫であり、エンブダイ大農場で働いていたのだが、自身や仲間の農場が魔物に荒らされるという事件が頻発した際に、その魔物を傷つきながらもなんとか倒したのがきっかけで武術を志し、5千人の弟子を抱えるまでになったからだ。

 弟子にことあるごとに話している物語のようだが、農場を荒らすのをやめさせようと魔物を待ち伏せた際に現れたのは熊のような魔物だった。

 手に持っているクワを無造作に振り回すが全く効かない。

 何とか致命傷はまぬがれたものの魔物の攻撃は凄まじく、まともに喰らっていたら即死だったであろうほどの威力を持っていた。

 生きるか死ぬかの異常な集中力が働いた時、ゲントウには魔物の動きがゆっくり進んでいるように見えた。

そしてクワの鋭利な部分を魔物の鼻の上の部分に刺すように振り下ろし、激痛に悶える魔物の隙をついて急所にクワを突き刺して倒したのだった。

 戦いが終わった後にゲントウは思った。

 日々の農作業で体力と力には自信があったが、自分のようなおよそ武術と言えるものを全く学んでいない者でも集中力と的確な攻撃によって自分の何倍も強い相手でも倒すことができる‥‥それが武術だと。


 それからゲントウは農作業の合間を縫って集中力を高める瞑想と生物の急所について学んだ。

 朝晩には生物の急所を突くための正拳突きや蹴りをその魔物と戦っていることを想像しながらのシャドウ稽古を行った。

 そしてある日実践するために農場を仲間へ譲り冒険者登録を行って魔物と戦うことに身を費やし始めた。

 常に死と隣り合わせの緊張感の中で、瞑想で培った集中力と鍛錬で得た力、そしてシャドウ稽古で体に覚え込ませた効率的な攻撃方法。

 それらをひたすら繰り返した。

 クエストの報奨金も次第に溜まり、ダイヤモンド級を大きく上回る戦士になった頃には冒険者仲間も増えていた。

 ゲントウに師事した仲間達は弱者だった状態から立派に魔物を倒せるだけの実力を身につけた。

 その時にゲントウは思った。

 武術は弱き者のためにこそ使われなければならないと。

 溜まりに溜まった報奨金を元手に道場を作り自ら作り上げた武術を教え始めた。

 そして弟子が3千人を超えたところでグランヘクサリオスへの出場を弟子たちから熱望されることになった。

 自分たちの学んでいる武術こそが最強であることを示してほしいと。


 ゲントウは見事に優勝しエンカルジスとなった。

 その影響もあり短期間で弟子は5千人に達した。

 これから更にゲントウ流武術が世に広まっていくという頃、ゲントウは突然姿を消した。

 自分を鍛え直す旅に出る、という書き置きを残して。



 だが、突如再びグランヘクサリオスに現れたゲントウは、かつてのゲントウではなかった。

 強さのみを追求し、弱き者には生きる価値なしとでも言いたいのか悉く弱者を殲滅する行動を取ってきた。

 そんな異常な強さを持つゲントウをどこか悪役に見立てて、正義の剣士バルカンが倒してくれる、と観客たちは勝手に想像していたのかもしれない。

 だが、今目の前で起こっている状況はバルカンが白目をむいて壁にめり込んでいるという光景だった。


 ガララッ‥‥


 バルカンはゆっくりとめり込んだ壁から出てくる。


 「いつつ‥‥」


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 正義の味方が蘇ったとでも言わんばかりの大歓声が沸き起こる。


 「ゲントウ‥‥新調したばかりの黒曜剣を粉々にしやがって‥‥」


 バルカンは周囲を見渡して目についた剣を手に取る。



 「スノウ‥‥バルカンはゲントウに勝てるのだろうか?!」


 スノウは少し間を置いてマインに言葉を返した。


 「マイン、あんたが信じてあげなくてどうするんだよ。バルカンなら大丈夫だ。ゲントウのあのダメージを返す芸当も万能じゃない。勝算はあるし、バルカンもそれに気づいている」


 「ほ、本当か?!」


 「ああ」


 (あのゲントウが更なる能力を隠し持っていなきゃな‥‥)



 「ちょっと心細い剣だが、剣に自分の弱さを押し付けちゃならないからな。自分の全力を乗せる。あとは剣に頑張ってもらうだけだ」


  そういうとバルカンは剣を構えはじめた。

  剣の柄を両手で持ち、剣先が天に向くように目の前にかざして何かを念じるような構えだった。


 「ヴァーク・カルマン!」


 そういうとバルカンは戦闘の構えに変えてゲントウに向かって凄まじい速さの跳躍を見せた。


 カァァァン!!


 剣をゲントウに向けて振り下ろした。

 ゲントウをそれを最小限の波動気・流動でいなしながらも攻撃威力を吸収している。


 「うおおおお!」


 更にバルカンの剣の連撃が続く。


 カカカカン!カカカン!カカァァン!!


 ゲントウはそれを華麗な受け技で受け切る。

 

 「血迷ったか?!先の我の技を見ていなかったのか?これだけの威力の剣攻撃はさぞかし痛かろう」


 ゲントウは蹴りを繰り出してバルカンの剣を弾くと、そのまま後方に飛び退いた。


 「受怨与獄!」


 ゲントウは凄まじい速さでバルカンの懐に詰め寄る。


 「来るか!アパパディア!」


 ドッゴオォォォォォォォォォン!!


 ゲントウの受怨与獄をバルカンは剣で受ける。

 凄まじい爆音と共に何故かバルカンは真上に吹き飛ぶ。



 「?!」


 マインはおかしな事が起こっていることに驚いている。


 「バルカンの剣が破壊されていない??」



 シュゥゥゥゥゥ‥‥‥


 剣がまるで強力な磁石で吸い付いていくかのような動きでゲントウに向かって振り下ろされた。


 ズザァァァァァン!!


 凄まじい爆音が鳴り響きあまりの爆風で砂煙が舞い上がる。


 スタン‥‥


 その砂煙から飛び出て着地したのはバルカンだった。

 マインが叫んだ通りバルカンの剣は壊れていない。



 「な、何でだ?!」


 マインが驚きを隠せずに声を発した。


 「さっきはあの黒曜剣が粉々に吹き飛んだっていうのに、あの闘技場に立てかけてある鈍剣が砕けない?!なぜだ?」



 砂煙が風で流される。

 ゲントウの姿が次第に露わになる。


 『!!』


 ゲントウの姿を見てマインやスノウだけでなく観客たちまでもが驚いて絶句している。

 なんと片腕を失って血を滴らせているゲントウがいたからだ。



 「フハハ!貴様、なかなかやるではないか!」


 だが、何故か痛がる様子もなく、むしろバルカンの放った武技に対して喜んでいるようにさえ見えた。


 「腕‥‥なくなってるぜ?気づいていないのか?」


 「ああ、腕など別にどうってことはない。それより自分の心配をしたらどうだ?」


 「??‥‥どういう意味だ?」


 「まぁよい。所詮は人間。事を事前に察知するのに限界があるようだな。いや、やはり学びが足りないと言った方がよいか」


 ズン!!


 するとゲントウは吹き飛ばされた右腕の脇を左手で押さえて止血を施しながら、腰を低くした構えを取った。


 「受怨焦我じゅおんしょうが


 ゲントウの体がみるみるうちに赤く変色していく。

 そして赤みは光を発し始める。



 「まずいぞ!」


 スノウが思わず叫ぶ。



 「ふんぬ!」


 ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!


 ゲントウを中心にして凄まじい爆裂魔法のような超爆発が発生した。

 バルカンはその超爆発に巻き込まれている。

 ギリギリ観客席まで届かない。

 まるで球状のバリアの中で超爆発が起こっているかのような状態になっていたからだ。

 その中にはバルカンが巻き込まれている。


 「バルカン!!」


 思わずマインが叫ぶ。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥


 超爆発は徐々に中心に向かって吸い込まれるように収束していく。


 バタ‥‥


 バルカンがその場に倒れる。

 全身にひどい火傷を負っているようで意識も朦朧している。


 「我の腕を切り落とすほどの威力。炎魔法に変換すればたやすくこの程度のフレアは作り出せるのだ。っと言っても聞こえていないようだな」


 ゲントウはレンスの方に振り返って左手の拳を向けて指示を出す。


 「しょ、勝者!ゲントウ!」



 スタン‥‥


 スノウが闘技場に降りてきた。

 担架で運ばれているバルカンの側に行き、火傷部分や斬られ傷などをウルソーのジノ・レストレーション(重傷修復)とジノ・レストレイティブ(強力な体力回復)の魔法を無詠唱でバルカンに発動した。

 バルカンは控室に戻る頃には傷が完全に癒えた状態となった。




―――バルカンの控え室―――



 「オ、オレは‥‥負けたのか‥‥」


 「ああ」


 付き添いしているスノウが目覚めたバルカンの発した言葉に返答した。


 「そうか‥‥」


 「お前の業魔剣もまた、相手の攻撃を跳ね返す能力があるようだが、それをやつに逆利用されたようだ。あの男の腕が吹き飛ぶほどの強烈な攻撃が超高熱スフィアとなって現れそこに巻き込まれてしまったのだからな」


 「倍返しが倍倍返しになって戻ってきたってことだな」


 「そうなるな‥‥だが表彰式には呼ばれる順位だ。作戦に支障はないから安心してくれ‥‥とにかく今は休むんだ。できるだけ体力を回復しておくんだぞ」



 こうして準々決勝第3戦はゲントウが勝ち残った。





次のアップは木曜日になってしまうかもしれませんがなるべく水曜日にアップしたいと思います。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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