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<ゲブラー編> 147.ゲントウ

147.ゲントウ



 「光槍のコウガ 対 死魂斬波しこんざんぱゲントウ!試合開始!」


 死魂斬破。

 これは彼が現役最後の一年間で呼ばれていた二つ名だった。

 その前までは流斬拳と呼ばれていたルデアス下位の正統派拳法の使い手だった。

 しかし、とある試合で同じ流派の兄弟弟子との対決で相手を自分の手で殺めてしまった時から戦い方が劇的に変わってしまい、それまでの流れるような動きで相手を翻弄して急所を狙う憲法スタイルから、圧倒的力で相手を叩き潰し、手刀で相手を斬り刻む戦闘スタイルに変わってしまったのだ。

 特に相手を圧倒し、戦意を喪失した相手の顔面を掴んで持ち上げて体の中心に貫手を放ち体の中心に大穴をあける倒し方が定番となっていた頃、まるで魂まで死に追いやる斬手刀というところから付けられたのが死魂斬破という二つ名だった。

 そして開かれたグランヘクサリオスでほとんどの相手を圧倒し続け優勝しエンカルジスとなった。

 その直後、引退を宣言して姿を消したのだが、なぜこのタイミングで突如姿を現したのかは不明だった。



 そして今、コウガはその恐るべき力と残忍さを持った強者ゲントウに対峙している。

 こめかみから汗が滴っている。

 理由はゲントウに隙がなく攻めあぐねているからだ。

 素手のゲントウに対し、槍の方がリーチは長いため有利に見えるがコウガには自身の攻撃が当たるイメージを持てずにいた。



 「流砂流渦ルサールカ


 そう言うと、コウガは槍を地面に向けて高速に回し始め砂を巻き上げ竜巻を発生させる。

 凄まじい砂埃で周囲の視界が悪化した。


 (流星光槍)


 コウガは声に出さずゲントウの背後に周り流星光槍を繰り出した。


 ジャジャジャジャ!!


 槍の刃先が何かを指している感覚が伝わってきた。


 「!!」


 砂埃が風に流されて消え徐々にその対象が露わになっていき、その姿を確認した瞬間にコウガは驚愕した。

 なんとゲントウはレンスの部下の運営メンバーの一人をどこから連れてきたのかわからなかったが頭部を掴んでまるで盾のようにしてコウガの流星光槍を受けていたのだ。


 「き、貴様!どこからその人を?!」


 (俺は何を言っているんだ?!人の所業とは思えない、なぜそんなことができるのかをつきつけたかったのに!)


 コウガは自分が恐怖しているのだと気づいた。


 (この男の何に恐怖を感じているというのだ?!)



 「下らん質問をするな。攻撃はもう終わりか?今度はこっちからいくぞ」


 バシュ!


 考え事をしていたコウガは後悔した。

 集中が途切れた一瞬でゲントウは姿を消し、自分の背後に回ったのだ。


 「虞城蝕牙ぐじょうしょくが


 「!」


 過去何人もの相手が胸に大穴を開けられたゲントウの貫手が背後からコウガを襲う。

 コウガは咄嗟に体を横に倒し、同時に槍を自身の背後に向けて突き刺した。


 ガショアァァァ!!


 「ぐはぁ!」


 コウガは避けきれず脇腹をゲントウの貫手によって抉られてしまう。

 一方のゲントウはコウガの槍を軽々ともう片方の手で掴んでいる。


 「小細工!」


 ゲントウはコウガから槍を取り上げるとコウガに突き立てる。


 ガシァ!


 コウガはそれを体を反らせながら避け、バク転を繰り返して後方に飛びのいて距離を取るが、ゲントウはそれを許さずコウガを追ってくる。


 「しつこいぞ!」


 コウガは両手の平を前に押し当てるようにゲントウに向けて攻撃を放つ。




・・・・・


・・・




―――とある訓練場―――


 ガタタン‥‥‥


 「いつつ‥‥やっぱりお前は強いなスノウ。槍使いの俺をここまで押さえ込むのだからな」


 「勘違いするなよコウガ。俺は槍使いのお前と戦っている認識はないよ」


 スノウは地面に座り込んでいるコウガの手を取り立たせた。


 「どういうことだ?!槍はリーチが長く、先端に刃をもち振って斬るもよし、突いて刺すもよし、柄の部分で攻撃を受けてもよしの万能武器だと思っているんだが、俺にはその利点が活かせていないとでも言うのか?」


 「武器を見て戦うから槍使いと戦っていると認識したり、剣使いと戦っていると認識したりする。でも戦っている相手は槍でもなければ剣でもない。そういう道具を使っている相手だ」


 「どう言う意味だ?」


 「お前は戦闘センスはいいんだが相変わらず感が鈍いな‥‥」


 スノウは少し離れた。


 「よし、突いて来い」


 「??」


 「いいから思いっきり突いて来い」


 「わ、わかった。行くぞ!」


 ズバァ!!


 コウガは思いっきり槍をスノウに向けて突きつけた。


 ドゴン!


 「ぶぐはぁ!」


 コウガの鳩尾にスノウの軽度の螺旋が当て込まれる。

 膝をついて痛みを堪えているコウガがスノウに何かを伝えたがっている。


 「‥‥なぜだ?!」


 「お前が相手にしていたのはおれの拳。おれが相手にしていたのはお前の思考と筋肉の動きだ」


 「どういう意味だ?」


 「だからさぁ‥」


 スノウは頭をポリポリとかきながら答えた。


 「お前はおれの拳の動きを追っているだけなんだよ。こうやって拳を微妙に振った動きにお前は反応し、突きを放つ動きに影響をきたした。お前の筋肉の動きとおれの誘いに乗ったお前の思考を読めば槍は自分が避けられる場所に突かれ、おれはお前に予定通り狙った場所に攻撃を加えられる」


 「‥‥俺が単純だと言いたいのか?」


 「ま、まぁそうだ。だが、逆に言えばその戦いの癖で相手を油断させて相手を見た戦いでトドメを刺す、って言うこともできる。例えば、相手に懐を開けさせてそこにあるはずの無い攻撃を繰り出す。槍しか使えないと相手が思っているところにお前が拳闘で螺旋を繰り出すとかな」


 「油断させるっていうのか?好きじゃ無いな。そんな卑怯な戦い方」


 「卑怯じゃない。戦術だ。だがそれもそもそもお前が武器に惑わされず本質をみた戦闘ができるかどうかにかかってる。おれが言いたかったのはそういうことだよ」


 「なんだかよくわからん!」





・・・・・


・・・





 ボゴン!!


 ゲントウは、コウガが放った攻撃・波動気の螺旋を受けた。


 「ぶごぁ!」


 コウガは地を這うように凄まじい速さで自分の槍を拾い距離を取る。


 (スノウ‥‥あいつの言うことを鍛錬しておいてよかった‥‥。だが、ゲントウの動き‥‥やはりスノウの言う通り、俺の槍など見ていない。俺の動きが読まれているとすれば槍でどうにかなる相手じゃ無い‥‥)



 ゲントウはゆっくり立ち上がる。


 「下らんな。そのような騙し打ちは2度とは通じんぞ」


 「な、なんのことだ!」


 (くそ!俺は何を言っている!勝負はここからだ!)



 「地求連装じぐれんそう


 ゲントウは両足を開いて構えた。

 そして思いきり地面を叩いた。

 その瞬間、地面に蛇が這うように何かがコウガに向かっていく。


 「!」


 コウガはそれを飛んで避ける。


 「邪意楼じゃいろ


 飛んで避けているコウガの背後から凄まじい殺気を感じた。


 バシュゥゥ!!


 コウガは背後蹴りを放ちゲントウとの距離を取ろうとするが、ゲントウはそれを軽々と避け強烈な鉄拳を繰り出す。


 ゴドドン!!


 「ぐはぁ!」


 コウガの腹をゲントウの拳が突き破る。


 「がばばぁ‥‥」


 コウガは血反吐を吐いた。


 「さぁトドメだ。死ね」


 ゲントウはゆっくりと腕を上げた。

 腕の筋肉が盛り上がり血管が浮き出る。

 そして凄まじい速さで振り下ろされる。


 ドガガン!!


 「なんだ貴様」


 スノウが割って入りゲントウの攻撃を止めた。


 「勝負はついたはずだ。わざわざ殺すことはないだろう」


 怒りに震えた表情を見せるスノウ。


 「いい目をしているな貴様」


 スノウはゲントウの腕を掴んでおり、そのあまりの力で腕が潰されそうになっているが、ゲントウの表情は変わらない。


 「いいだろう。相手をしてやろう」


 「偉そうに言ってんじゃねぇよ。相手するだと?殺されるんだよお前は」


 スノウが握るゲントウの腕は潰される寸前となっている。


 スタ‥‥。


 「おや‥‥面白いことが始まりましたねぇ」


 クアンタムが闘技場に乱入してきた。

 そしてスノウに向かって攻撃を加えようとしている。


 シャキン!!


 「何をしているてめぇ!」


 シルバーファングがクアンタムの攻撃を防ぐ。


 ガクゥァン!!


 地面が揺れる。

 さらに闇虎が乱入した。


 「うぬらここで決着をつけると言うなら受けて立とう」


 闇虎が攻撃を繰り出す。


 ドゴン!


 「カルマン・ヴィルーダカ」


 シュヴァヴァン!!


 「業魔の波動‥‥面白い。もっと見せてみろ」


 「今、あんたに全ては見せねぇよ。だが、オレの細胞が今ここであんたを殺せと言っているよ」


 バルカンが闇虎の攻撃を防ぎ、燃やし尽くされるようなオーラを発している。


 ビィィィィィィィィィィィィィ‥‥‥


 闘技場内にけたたましいブザーが鳴り響く。


 「試合終了です!勝者!ゲントウ!全グラディファイサーは即刻退場されよ!」


 レンスが叫んだ。


 遅れて入ってきたエスカが瀕死のコウガを背負って医務室へ向かう。

 スノウはエスカにコウガを任せる際にウルソーの回復系ジノ・レストレーションをかけて重症を治癒した。

 だが、スノウの鋭い眼光はゲントウに向けられていた。


 「あらら!せっかく楽しいショーが始まると思ったのにねぇ!」


 クアンタムが大声で発した。


 シルバファングはクアンタムに刺すような視線を向けている。

 闇虎はバルカンに興味を持ったようだが、バルカンはスノウのそばに行き、戦うのをやめるように肩に手を置いた。


 「スノウ‥ここは抑えてくれ」


 「ああ、わかっているよ」


 一触即発の状態であったが、なんとか収束されてその日の試合が終了した。



・・・・・


・・・




―――アディシェス軍―――



 「どうした?以前会った時とはだいぶ覇気が失われているように見えるが?」


 騎馬車にある豪華な椅子にもたれかかって座るディアボロスの前に立っているのはトゥラクスだった。

 トゥラクスはディアボロスを見上げている。

 握られた拳からは血が滴っており、屈辱を噛み殺しているのが見てとれた。


 「何はどうあれ援軍助かった。ご、ご苦労だな」


 「ご苦労?ニンゲンの分際で口の聞き方を知らないようだな」


 ネビロスがトゥラクスの前に立ちはだかり、胸ぐらを掴むと軽々とトゥラクスを持ち上げた。

 首が絞められている状態にトゥラクスは呼吸が困難な状態となりネビロスの手を掴み爪を立てて引き剥がそうとするが、ネビロスが痛がる様子は見られず、この抵抗に意味がないことを悟った。


 「離してやれ。ニンゲンは脆い」


 「仰せのままに」


 ネビロスは言われるままに手を離した。


 「ゲホッゲホッ‥‥」


 むせるトゥラクス。


 「それで?」


 「い、いや、私はこのままエンブダイに行き同胞レティスの援護に行くため、ここを任せると言いに‥来たのだ」


 「任せるだと?貴様はいちいち無礼なニンゲンだな。役目が終わったら真っ先に殺してやる。我は殺すと言ったら殺す。せいぜい逃げ回ることだ」


 ネビロスの鋭い目はそれが本気であることを悟らせるには十分なオーラを発していた。


 「好きにしろ。だが、アノマリーはもらうぞ。他にも狙っている不届き者がいるようだが、まぁそいつを殺すのはお前らに関係のない対象だからいいだろう。それより、お前の同胞レティスを心配しているなら問題はないはずだ。俺の忠実な僕のサルガタナス、そして俺の仲間もいるからな。いくらミトラの呪縛で不死となったヤマラージャであっても万にひとつの勝ち目はない。それでも行くと言うなら好きにすればいいが、サルガタナスたちに殺されないようにな。ククク」


 不気味な笑みを浮かべるディアボロスに恐怖する。

 ヘクトルや宰相のシファールから感じる刺すような脅迫オーラとはまた違う、底無し沼に沈められるような逃げ場のない根本的な恐怖を感じていた。


 「いいだろう。頭の片隅にでも留めておく」


 そう言ってトゥラクスは軍を西のエンブダイに向けて出発させた。



 「アノマリーとはいえ所詮はニンゲン。この我がすぐにでも捕らえて参りましょうぞ」


 「やめておけネビロス。それができるならとっくに俺がやっている」


 「あやつめがこの世界に来ているというのは本当のようですね」


 「口に気をつけろネビロス。どこで聞かれているかわからん。同じ立場とは言え我らとは起源が異なる存在だ。細心の注意を払え。この軍勢もあのゴミどもを始末するために呼び寄せたのんじゃねぇんだ。何かがあったときに退路を確保するための時間稼ぎに使うためだ。肝に銘じておけよ?頼りにしているぞネビロス」


 「は!ありがたき幸せにございます」


 ディアボロスのいるアディシェス軍本隊はハーポネスのマカムを追って南下していた。




・・・・・


・・・




―――ジオウガ軍本陣―――



 「ギーザナ様!流石です!もう一撃お願い致します!」


 「‥‥‥」


 ギーザナは腕を組んでいる。


 「何をしているのです!ギーザナ様早くもう一度、義炎剛嵐爆を撃つのです!あの異様な改造生物を皆殺しにするのです!」


 側近がわめている。


 「無理だ。あれは一度しか撃てん。先ほどの大剣を使った魔法攻撃だからな」


 「なんですと?!」


 慌てふためく側近。

 そんな中、爆風から抜けて襲ってくる改造生物軍団が押し寄せてくる。


 「ギーザナ様!」


 伝令兵がやってきた。


 「どうした!」


 「ネザレン軍がさらに進行中!いよいよ両軍と開戦することになります」


 「‥‥‥」


 ギーザナは黙っている。


 (だ、だめだ‥‥ギーザナじゃぁこの軍は‥‥我らは犬死になってしまう)


 戦闘力だけでなく有力な者たちに賄賂を贈ってのし上がってきた側近はギーザナの判断の遅さに自分の命を危険に晒されていると感じ警戒し始める。

 側近は戦闘から離脱するため、気づかれないように逃げ始めた。


 腕を組んだままのギーザナが前に出る。


 「全軍!東へ軍を進める!」


 ギーザナの合図で軍は東へ進んだ。


 「右舷より改造生物軍が攻撃を開始!ネザレンエルフ軍が左舷から攻撃を開始!挟まれております!」


 「ここで兵を失うわけにはいかん!しっかり受けとめよ!」


 だが、ギーザナの作戦は無謀に見えた。

 東へ逃げたところで時間稼ぎにしかならずしかも改造生物軍団とエルフ軍が両側より迫っている。


 「‥‥‥」


 ギーザナは無言で東の遠くを見ている。


 「!」


 ギーザナの目が見開いた。


 「前方より新たな軍が出現!」


 その声にギーザナが反応する。


 「全軍左舷へ展開!これより我らジオウガはエルフとの交戦に入る!」


 「で、ですが!前方より出現した軍勢への対処は?!」


 「前方より攻撃を確認!炎魔法攻撃が飛んできます!」


 伝令係が次々に状況を報告してくる。


 「ジオウガ軍!指示に従い進め!」


 ギーザナの地面を響かせるような声がこだまする。


 「くっ!ジ、ジオウガ軍!総司令の指示に従い左舷へ展開!」


 ジオウガ軍はやけくそ状態だった。


 炎魔法の攻撃がジオウガ軍に向けて飛んでくる。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥‥


 「だめだ!」

 「防御体制!」


 ジオウガ軍はまともな防御体勢を取れずにダメージを覚悟した。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥‥‥


 『!!』


 ジオウガ軍は驚愕した。

 炎魔法が向けられたのは自分たちにではなく、その先だった。


 ドッゴォォォォォォォォン!!


 改造生物軍の一部が吹き飛んだ。



 「なんだ?!あの軍勢は?!」



 東より突如出現した軍勢。

 先頭で馬にまたがってそれを指揮している人物が見え始めた。


 「全軍!西方火山寄りに展開している軍勢が我らの敵だ!これより殲滅作戦に入る!攻撃体制!」


 指揮をしているのはなんとトウメイだった。

 そして彼の後に続いて攻撃体制を取っている軍勢。

 それは獣人たちだった。



―――ジオウガ軍―――


 「間に合ったか」


 ギーザナは腕を組んで馬に跨って進みながらトウメイ率いる軍勢を見ていた。








次のアップは日曜日です。

いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

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