表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/1100

<ゲブラー編> 141.挟みうち

141.挟みうち



―――レグリア王国―――



 レグリア王国軍はゼーガン帝国の領土に侵入していた。

 その数1万5千。

 本軍の中心を重装備兵に囲まれる形で銀色のフルフェイスの全身甲冑に赤いマントを纏った優雅で気品溢れるオーラを放つ男が自馬に跨って進んでいた。


 「ジムール王に伝令!」


 「どうしたのだ」


 「斥候より連絡!北西方向約5キロメートル地点に軍隊あり。兵達の鎧からゼーガン帝国軍と思われます!」


 「うむ。それで指揮官は誰だ?」


 「本陣と思われる場所の旗からワナーク皇子と推測!」


 すると側近の大男が笑いながら話に割って入ってきた。


 「がっはっは!臆病者のガーランド家自ら出向くとは!まぁ流石にガヌール皇帝自らは出て来ぬとは思っておったが、ワナークと言えば戦士というには程遠い若皇子!そんな者が指揮を取るとはよほど指揮官に乏しいのか、勝ち戦と高を括っているのか!」


 次ムールが答える。


 「いずれにせよ戦いは有利に越したことはない。そんな愚息が出向くのは幸運だが油断は禁物である」


 その言葉を受けて側近は、緩んだ表情を戦い前の凛々しいものに変え兵達に指示を出した。


 「は!‥‥皆に伝えよ!間も無く合戦が始まる。準備を整えよ。そして決して油断はするな。たとえ鼠であっても全力を尽くして戦えとな!」


 「は!」


 そういうと伝令係は各部隊長に伝令を伝えるため走り去った。



・・・・・


・・・



 そして1時間後―。


 レグリア王国軍はゼーガン帝国軍と向き合っていた。

 ゼーガン帝国軍は北に向かおうとしていたようだがレグリア軍の侵攻を察知し南東へ向きを変えていた。

 その数1万。


 「少ないですな」


 「うむ。あれをゼーガン全軍と見ては危険だ」


 王と側近はゼーガン帝国軍を分析していた。


 「援軍が来る前に叩き潰してやりましょう」


 「うむ。2千ずつ左右に振り分けて敵援軍に警戒させよ。前方帝国軍には1万1千で討つ。7千を鶴翼で前進させ、残り4千は長蛇で待機し、開いた穴から一気に本陣に向けて突き抜ける矢として攻撃、敵指揮官ワナーク皇子を捕らえよ。くれぐれも殺すなよ。王家の者は重要な交渉材料になるからな」


 「御意!」


 伝令によって王の指示が各部隊へと伝えられた。

 そして伝え終わった頃を見計らって王が自馬に跨ってレグリア王国全軍の前に出て兵の方を向いた。


 シャィィィン‥‥‥


 ジムール王は剣を空に向けて掲げた。


 「皆の者!我がレグリアの子らよ!いよいよ合戦の時だ!我らはこれよりゼーガンと交戦する!これは我が国一国の都合ではない。これはゲブラー全土の命運を握る戦いである!だがよいか!一人も死んではならんぞ!我がレグリアの戦士は一人も死なずに勝つ!ヘクトリオン・レティスの手によって我が国は多くの民を失った‥‥‥これ以上我が国から死者は出さん!死せずして勝つ!これを肝に銘じるのだ!」


 『おおおおおおおおおお!!』


 「開戦のラッパを鳴らせ!レグリア王国軍前進!」


 ブオオオオォォォォォォォォォォ‥‥‥‥


 『おおおおおおおおおおお!!』


 王の指示に従って左右に2千ずつ兵が動き、中央本体の前衛7千が鶴翼陣形で前進した。

 帝国軍もラッパを鳴らし、前進し始めた。

 レグリア軍の鶴翼に対抗するかのように魚鱗陣形をしき進軍してくる。


 両軍がぶつかろうとしたその時、王国軍のラッパが鳴り響く。

 そのラッパを合図にして鶴翼陣形は左右に分裂した。

 そして後衛の長蛇陣形で帝国軍の魚鱗陣形の先端から一気に切り崩していく。

 その勢いに押されて左右に分裂し始めた帝国軍の魚鱗陣形は鶴翼陣形から両サイドに分裂していた王国軍と挟まれる形となり、帝国軍は弓矢と炎魔法の応酬と共に徐々に数を減らしていった。



 「一気に畳み込め!間も無く本陣だ!」


 勇ましく先頭をきって進む側近の剛将はその勢いを殺すことなく突き進んでいく。


 ドッゴォォォォン!!


 すると突如先頭を突き進んでいる剛将とその後続100名程が宙に吹き飛ばされた。


 『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 雄叫びと共に宙を舞い、空中で弓矢と炎魔法攻撃を受けさらに地面に着地と同時に帝国槍兵からの集中攻撃を受けて100名ほどの兵が一瞬で殺された。


 「くっ!罠か!」


 ジムール王は長蛇陣形の軍を一旦後退させる。

 そしてその後退と共に両サイドからの攻撃を強める。

 徐々に魚鱗陣形の帝国軍の兵が減り帝国軍は退却を余儀なくされた。


 「このまま追うぞ!」からなずワナーク皇子を捕らえよ!」


 レグリア王国軍は後退する帝国軍を背後から攻撃する形で追う。

 1万ほどいた帝国軍はその数を半分にまで減らしていた。

 対する王国軍は1千ほど兵を失っているが、圧倒的有利な状況にあった。


 30分ほど帝国軍を追って前進を続けていると伝令が王のもとへとやってきた。


 「報告!前方帝国軍の2キロメートルほど先に新たな帝国軍を発見!その数2万!」


 「何ぃ?!」


 驚く側近たち。


 「撤退だ!」


 思わず叫ぶ側近の一人に対し、右手を大きく空に掲げるジムール王が叫ぶ。


 「ならん!このまま前進だ!」


 「な!次ムール王、我が軍1万4千に対し、帝国軍は合わせて2万5千!1万以上の兵力差は流石に無謀です!ここは一時撤退のご英断を!」


 「ならんと言っている!何度も言わせるでない!今は引くべき時ではない!」


 「くっ!ぎょ、御意!」


 不信感を抱きつつも王の指示に従いレグリア王国軍はワナーク皇子軍の後を追う形で前進を続けた。


 そしていよいよ王国軍は動きを止めた。


 帝国軍が合流し、2万5千の軍となり、左右に大きく展開したのだ。

 両軍睨み合っている。


 十数分の睨み合いで沈黙が続く中、強い風が両軍の間を吹き抜けている。

 そして徐々に風が弱まっていく。

 ついに風が止んだ。


 「放てーーー!!」


 ドボォォォォォォォォォォォォォン!!!


 王国軍から無数の炎魔法を宿した矢が一斉に放たれた。

 一方帝国軍からも同様に炎魔法を宿した矢が一斉に放たれた。

 そして両軍の中間上空でぶつかり合い爆発を生んでいる。

 煙が辺りを舞った。


 弓隊と炎魔法部隊の数は全軍の兵の差に比例しているのか、徐々に王国軍側が押され始め、帝国軍の炎魔法を宿した矢が王国軍兵士に飛んできてダメージを与え始めた。


 「くっ!一旦距離を取る!500メートル後退!」


 王国軍は後退し始めた。

 その際も炎の矢の撃ち合いは止まらず、その場で300名程の兵を失ってしまった。

 後退するも帝国軍はそれを読んでいたかのように距離を保ちながら前進してくる。

 しかしその間も帝国軍からの激しい攻撃が続いており、徐々に兵の数を減らしていく。


 「失策だ!」


 王国軍の側近の一人が叫び出す。


 「失策だ!私のご進言の通り一時撤退しておけばこのようなことにはならなかったはず!王よ!この失態どう責任を取られるのですか!」


 「‥‥‥」


 ジムール王は黙っている。


 「危ない!」


 そこへ流れてきた矢がジムール王へ飛んできた。

 それを衛兵が弾こうとするが、完全に弾くことができずに矢は微妙に方向を変えただけでジムール王の頭部スレスレに飛んでいく。


 カァン!


 突然の出来事でジムール王も反応できなかったが、矢がうまく外れてフルフェイスの兜が弾き飛ばされただけで済んだ。

 だが、無傷で済んだことに安堵するはずが側近や周囲の兵たちは驚きの表情を浮かべている。


 「あ、あなたは!」


 「ゲムール公!」


 兵達がジムール王だと思っていたのは弟のゲムール公だったのだ。


 「なぜあなたが!こ、これは我らを欺いた謀反ではないのか?!」

 「謀反?!」

 「まさか!王の身に何かあったのでは?!」

 「これはもしやゾルグへの寝返りで王国軍をわざと全滅させてご自分だけ亡命し何か身分を保証されているとかではないのか?!」


「鎮まれい!」


 ゲムールは声を張り上げた。

 一同はその声で背筋を伸ばし緊張した。

 しばしの沈黙。

 そしてその緊張を破るかのように伝令が声を張り上げて近づいてきた。


 「報告!」


 「何事だ?!」


 「帝国軍の後方より新たな軍が接近中!」


 「何ぃ?!帝国軍か?!」


 「いえ、おそらくガザド公国軍です!」


 「!!!」



 「ふぅ‥‥‥やっと来たようだな」



―――ガザド軍―――



 「パラディン様。前方の帝国軍の先にレグリア王国軍と思われる約1万を確認」


 「予定通りだな。全軍このまま前進!」


 パラディン・スレイン率いるガザド軍は撤退してきた帝国軍2万を追ってきたのだが、レグリア王国軍と挟み込む形となっている。

 全て事前に示し合わされていた作戦のようだった。


 ゼーガン帝国軍2万5千をガザド軍3万、レグリア王国軍1万で挟みこむ形となっている。

 その状況で見れば、数で勝っているガザド軍と交戦するより、数の少ないレグリア王国軍に矛先を向けて突破し、退路を確保する策にでると踏んだパラディン・スレインは新たな指示を出す。


 「7千ずつ左右に兵を分けて左右からも挟み込む。左右で帝国軍を引きつけて、王国軍への攻撃の兵力を1万以下に減らす」


 「は!」


 ガザド軍はパラディンの指示通りに陣形を変えて帝国軍に襲いかかる。




・・・・・


・・・



――― 一方アムラセウム―――



 既にヒーンとザロの戦いである第2戦が始まっていた。


 バシュゥゥゥゥゥ・・・ザバン!!


 ザロの大鎌がヒーンを襲うが、それを余裕の表情で半身でかわすヒーンは同時に炎魔法を放つ。


 「煉獄の渦」


 超高音の炎の渦がザロを襲う。


 「死神銑鉄!」


 ザロは釜の刃を円形に回転させてヒーンの炎の渦をかき消した。


 タッ!


 二人は距離をとった。


 「中々やるではないか。だが火遊びはほどほどにしておくがよい」


 「あらそ、どーも。でもその話し方疲れないのかねぇ。今時そんな話し方するやつ、根っからの自尊心の塊の貴族か、役に浸ってるナルだけだと思うけど、あんたはどっちかねぇ」


 「口の減らない小僧であるな。その減らず口、冥府でもきけるものか試みるとしよう」


 「やってみろよ」


 バァァァァァァン!!


 激しい戦闘が続く。





多忙につき1日アップが遅れてしました。次は金曜日の予定です。

いつも読んでくださってありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 以前の質問で最高位神の力は大魔王のルシファー閣下よりも上である事が分かりましたが、高位神の中でも上位に位置すると思われるミトラ神やプロメテウス神、トール神などの力は閣下と同等くらいなの…
2022/06/03 09:16 中村慎太郎
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ