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<ケブラー編> 140.戦いのテンポ

140.戦いのテンポ



 (‥‥?‥‥なんだ?‥‥水‥‥の中か?‥‥どこだここは?)


 ホプロマが目を覚ますと自身が何か液体の中に沈められているのを認識した。

もちろん、呼吸器はついている。


 (これは‥‥昔聞いたことがある。急速に傷を癒す液体に傷ついた体をつけることによって異常なスピードで傷が完治するというものだったか。たしかゲルグ博士の数少ない開発成功例だったな‥‥そうか‥‥私はあの忌々しいカムスに負けて‥‥傷を癒され‥‥)


 ホプロマはそこまで思考を巡らせた後に違和感を感じた。

 ヘクトリオンとして今回グランヘクサリオスに参加した理由は革命軍やそれに加担する輩を排除することだった が、排除できずに敗北した自分に治療を施すことなどあるのかという違和感だった。

 そして徐に手を動かそうと試みたがいっこうに自分の手のひらが視界に入ってこない。


 (なんだ?‥‥というより手足の感覚が無い‥‥)


 ホプロマは動きづらい状態の中でゆっくりと自分の首を動かし自身の体を見る。


 「!!」


 ない。

 あるはずの自分の手足がない。

 凄まじくトリッキーな動きを見せた自慢の足も、一度に10本以上の弓を同時に放ち全て的に当てることのできた高精度の動きができた強靭な腕もなくなっていたのだ。


 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 「おや、目覚めたのか?」


 「ゲ、ゲルグ!」


 呼吸器を通して話しているため、喋りづらいが何とか言葉を発することができる。


 「おいおい、気安く呼び捨てにしてくれるなよ」


 「貴様!私に何をした!たかだか怪しげな研究するだけの穀潰しのくせに!このヘクトリオンである私に一体何をしたのだ!答えろ!」


 「聞き捨てなら無いなぁ。色々と間違え過ぎだろこの脳筋ド低脳が!私は王直属の化学者だぞ?それにお前もうヘクトリオンじゃねぇんだよバーカ!」


 「!!」


 「本当はあの最も脳筋ド低脳のセクトからバラバラに切り刻んで色々と実験してやろうと思ったんだが、まぁいい。お前でもちょっとは気が晴れる」


 「切り刻む?お、おい!お前が私の手足を?!ゆ、許さんぞ!今すぐここから出せ!そして私の手足を返せ!すぐに縫合しろ!」


 「うるせぇなぁ!ド低脳が!お前は家で飼っている虫がキーキー言ってるのにいちいち反応するのか?黙らねぇと脳みそ弄って黙らせるぞ。まぁ私は虫なんぞ飼ったりはしないけどな!」


 「虫‥‥だとぉ?!」


 「まぁいい。とりあえずそこで吠えてろ。必要なパーツは入手したからな。じゃぁバイ!」


 そういうとゲルグ博士は部屋を出て行った。

 その日部屋には一晩中ホプロマの叫びが響いていたという。




・・・・・


・・・



―――ヒーンの控室―――



 第2戦の3時間前―。


 ヒーンの部屋にバルカンやスノウたちが集まっていた。

 誰に聞かれているかわからないため、小声で話している。


 「ヒーン。準備は万全なようだな」


 これからトーナメント・フェイター第2戦に臨むヒーンにスノウが話しかけた。


 「もちろんだね」


 「油断するなよ?相手はザロだからな」


 それにコウガが割って入った。


 「ルデアスとしては向こうの方がランクが上だが勝算はあるのか?」


 「勝算?勝利しかないのに勝算ってのはおかしな言い方だねぇ」


 ヒーンは余裕の表情で言葉を返した。

 その後に続いてマインが話始めた。


 「実は、ヒーンは正直バルカンでも勝てるかどうかというくらい戦闘力が高いんだ。グラディファイサーランクであの地位にいるのは単に試合をサボっているだけでな。こんなだらっとした様子だが根は真面目で優しいからそもそも戦うのも好きじゃないんだよ。だが、一度本気を出せば異常なほど強い。それは私が保証する」


 「マイン。君が弱すぎるんだって」


 「な!せっかく褒めてやっているのに!なんだその言い方は!」


 「ははははは!」


 照れ隠しで言ったヒーンの言葉を間に受けたマインの真っ赤な顔をみて笑いが起こる。



 「それはそうといよいよ始まったぞ」


 バルカンが別の話題に切り替えた。

 もちろんナラカでのヤマラージャ率いるナラカ軍とヘクトリオン・レティス率いるゾルグ軍との交戦のことだ。

 バルカンは話を続ける。


 「情報ではレティスの他にシルベルトってのとサルガタナスとかいう悪魔が加わっているらしい」


 「シルベルトにサルガタナスだって?!」


 スノウが驚く。


 「知っているのか?」


 「ああ。ジオウガに行った際にシャナゼン王の体を乗っ取っていたのがサルガタナスって悪魔だ。蹴散らしたはずだが懲りずに出てきたって事はディアボロスって大魔王も裏で繋がっている可能性があるな」


 「大魔王?!何だよそれは!これはゲブラーの問題だぞ!何でそんな奴らが関わってくる?!」


 「さぁな。だが、関わってきている以上、避けて通れない。編成を考え直す必要があるかもしれないな‥‥。それとシルベルト‥‥。やつはレグリアで知り合った冒険者だが、どうも普通じゃなかった。人というには異質な感じで全く信用できない存在だ。そんなやつがヘクトリオンに加担しているというのは何か裏がありそうだ」


 「そいつは強いのか?」


 「おそらくな。おれ達と行動していた際はさほどでもなかったが、おそらく本当の強さを隠していたと思う。エスカはどう思う?」


 スノウは、一緒に行動していたエスカに意見を求めた。


 「同意見だ。得意なのは炎魔法だったが、やつの実力それに止まらないだろう」


 「総長の采配にかかってるってかんじだねぇ。戦力に不足はないと思うけどねぇ。マッシュにゼラ、エミロクがいるわけだし」


 ヒーンが割って入ってきた。


 「まぁな。あの人めちゃくちゃ強いが、軍を指揮するのは二百年ぶりとかだろ?勘が鈍ってるかもな」


 「呑気だな。大丈夫なのか?」


 バルカンの言葉に不安を感じたスノウが思わずツッコミを入れる。


 「あ、ああ。すまん。大丈夫だ。勘が鈍っていても根は武神だからな。勘は取り戻すだろうし、あの人がいる限り負けることはないだろう」


 「信じていいんだな」


 「オレは信じていないことは言わない主義だ」



―――ナラカ第2層 コクジョウ―――


 ヤマラージャはナラカ軍を第2層まで後退させた。

 故意に退いたのだがそれには理由と作戦があった。


 理由は1層と2層の中間点にあるオアシス・シナノガワを守るために敵を一気に第2層まで引き入れることで、作戦は2層に降りる際にレティス軍の隊列が細くなるため、そこを叩くことによってレティス軍の数を減らすというものだった。


 「来たか?」


 ヤマラージャが状況を確認する。


 「は!間も無くです!」


 伝令係がそう言った直後にレティス軍が狭い崖を一気に降りてきた。


 「よし!一斉放射!」


 ナラカ軍の弓隊、炎魔法隊が一斉にレティス軍に向けて矢と炎魔法で攻撃した。


 ボボボバァァァン!!


 100名ほどのレティス兵が力なく崖から落ちていく。

 だが、その直後地震のような地響きが発生した後、突如天井に日々が入り崩れ始めた。


 「何ぃ!退避だ!全員退避!」


 ゴッシたちが叫ぶと同時に天井の一部分が崩壊した。


 ガガガガガガ!!ドッゴォォォォン!!


 50名程の弓兵と炎魔法兵が瓦礫の下敷きとなってしまった。


 スタ‥‥


 ゆっくりと優雅なポーズでレティスが着地した。


 「本当ゴキブリね。狭いところが大好きなようで。こんな姑息な手をあたしが読めないとでも思ったのならとっても心外。確実に細切れにしないと気が済まないじゃ無い」


 レティスはそう言うと、左手から炎魔法で無数の鞭のようにうねうねとしたレーザーを放った。

 そのレーザーは1本1本が生き物のようにナラカ兵たちを捉えて体を貫いていく。


 『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 方々から発せられるナラカ兵たちの悲痛の叫びが第2層の入り口付近にこだました。


 「許せん!レティス!」


 アッシュが鞭をレティスに向かって放ちながら突進していく。


 「貴様の相手は私だろう?」


 鞭を掴んでアッシュごと振り回し始めたのはサルガタナスだった。

 アッシュは鞭を自分に引きつけて一気にサルガタナスとの距離を詰めて剣を振り下ろすが、サルガタナスはそれを余裕の表情で避けた。


 「動きが単純だな。分霊というだけで所詮はニンゲンか。まぁいい。貴様が例の血筋ならその魂喰らってやろう」


 「何を言っているかわからん!」


 そう言うとアッシュは腰に付けられているもう一本鞭を外してサルガタナスに向けて鞭を放つ。


 ガシィ!


 胴体に巻き付いた鞭には無数の小さな針が飛び出ておりサルガタナスの胴体部に食い込んでいるが、アッシュはそれをうまく操って巻き付いていた鞭を外して戻した。

 すると鞭についていたであろう無数の小さな針がほとんど消えている。


 「なんだ?せっかく私を捕らえたというのにすぐ離してしまうとは。全く弱いやつの考えることは理解できんな」


 「そうか!ならば考えなくてもいいぞ!俺たちもお前のような悪魔には興味がない!」


 「あく‥‥貴様!私は魔王だ!この戦いで魔王に昇格するのだ!」


 「じゃぁやっぱり悪魔じゃないか」


 「フ!私がこの戦いで負けるとでも?勝ちが確定しているから魔王を名乗っているんじゃないか!貴様の脳みそは脂肪で出来ているのか?これだから弱々しいニンゲンなどと闘か‥‥がはぁ!な、何だ?!体が動かない‥‥それだけじゃなく、口から血を吐いているのか‥‥何をされた?‥‥!!ど、毒か!」


 「今頃気づいたか!お前がいかに悪魔であろうと、憑依している対象はオーガに過ぎない。オーガなら毒が効くわけだ。そして今のお前は体の自由が効かず内臓への損傷があるはずだ。大人しく降参し冥府へ還れ!俺には関係のない話だが魔王になるのも諦めろ」


 「な、舐めるなよぉぉぉぉ!!」


 ジャッバァァァ!!


 サルガタナスは両手を広げて腰を捻るように上半身を回転させた。

 その瞬間、身体中からまるで雑巾が絞られるように何か液体が飛散した。


 「ふぅ‥‥。それで、大人しく冥府へ何だって?」


 サルガタナスは平然としている。


 「あ、あり得ん‥‥。あの即効性の猛毒を毛穴から排出したとでもいうのか?!」


 「貴様の方が有り得んだろ!この魔王たるサルガタナス様に小賢しい毒が効くと思い上がっているのだからな!さぁ大人しく死ね!」


 ドッゴォォォォォン!!


 突如サルガタナスの頭部が地面にめり込んだ。

 背後にいたのはヤマラージャだった。


 「悪魔なんぞに遅れをとるなよメズ」


 「も、申し訳ありません!」


 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


 ヤマラージャは続け様にサルガタナスの頭部を踏みつけている。


 「悪魔は隙を与えるとすぐに小賢しい真似をしてくるからな。一撃を加えたら、そのまま粉微塵になるまで攻撃を止めるでないぞ」


 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


 ヒュゥゥゥン‥‥ガキン!


 背後から強烈な剣撃が飛んできたのをヤマラージャは錫杖で受けた。


 「浮気ものだな。ゴキブリのくせに」


 ブワン!


 ヤマラージャは錫杖を振り回した。


 「あとは頼んだぞメズ」


 「は!」


 アッシュは地面にめり込んだサルガタナスの頭部を蹄のような足で何度も踏みつける。


 ガン!ガン!ガン!‥‥ガシィッ!


 アッシュの足が掴まれた。


 「調子に‥‥のるんじゃ‥‥ねぇよ!」


 ブワァン!!


 アッシュは遠くへ放り投げられた。


 「さぁ!第2ラウンドだ!魔王の恐ろしさを教えてやろう!」



 一方ヤマラージャとレティスは錫杖と剣で打ち合っていた。


 「しぶといゴキブリじゃないの!斬っても斬っても生えてくるのいい加減キモいんだよ!」


 「斬られると一応痛いんだぞ。本来なら触れる事すらできないところをあえて斬らせてやっているんだ。ありがたく思え」


 「はぁ?!意味わかんない事いうんじゃないよ!」


 (そろそろ頃合いか)


 ヤマラージャはレティスに強烈な一撃を喰らわせたあと、大きく声をあげた。


 「第2陣!攻撃開始!」


 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 ヤマラージャの声を合図に第2層の奥から1千人の部隊が一斉にレティス軍約4千に攻撃を仕掛けた。

周りを囲まれており、レティス軍は逃げる場所もなく一斉攻撃ただ受け切るしかなかった。

 約4千の兵は次第に数を減らしていく。

 そしてナラカ軍1千5百に対し、レティス軍2千5百まで兵力差を縮めた。


 「一気に畳み込め!」


 「そうはさせないよ!フェイザートルネード!」


 レティスは剣を回しながら剣先から無数の炎のレーザーを繰り出し、まるで炎の糸が紡いだ竜巻のような攻撃を放つ。


 ゴォォォォォォォォォォォ!!


 炎の竜巻は生き物のように蠢きながら凄まじい勢いで周囲を取り囲んでいるナラカ軍を襲う。


 『ぎぃやぁぁぁぁ!!』


 「地獄の暴風火!」


 ヤマラージャは息を思いっきり吸い込んだ。

 まるで風船のように腹が膨らんだかと思うと一気に吐き出すが、その息は凄まじい炎の暴風となってレティスの放ったフェイザートルネードをかき消してしまった。


 「ち!どこまでもいらつかせるゴキブリだよ!」


 「我との戦いに集中しろという事だ!」


 「こっちのセリフだデクの棒!」


 凄まじい錫杖と剣の応酬が繰り広げられている。

 相変わらずヤマラージャはレティスに斬られながら攻撃している。


 「そろそろいいだろう」


 ガキィン!


 錫杖が二つに分割された。


 「!‥‥何の真似だ?二刀流きどり?ゴキブリのくせに!」


 「これでお前の勝ちはなくなったぞ!」


 「こざかしい!」


 ガカカカン!ドッゴォォォォォォン!!


 レティスが後方に凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

 混戦となっている兵たちの中に吹き飛んでいくレティス。


 「!‥‥一体何が起こった?!」


 ヤマラージャは両手にそれぞれ錫杖を持ち、まるで仁王のようなポーズで構えている。


 「お前に勝ち目はない」


 「ちぃ!デッドリーライン!」


 レティスは跳躍し凄まじいスピードでヤマラージャに突きを放つ。

 あまりの速さで巻き起こった風圧で周りの兵達は吹き飛んでしまった。


 カァン!ドゴン!!



 レティスは地面に頭部がめり込んでしまった。

 ヤマラージャが左手の錫杖で突きをいなし、右手の錫杖で思いっきりレティスの後頭部を叩きつけたのだ。

 それも肉眼で捉えることが困難なほどのスピードで。


 「がはぁ!」


 (い‥‥一体‥‥何‥が起こった‥‥?!)


 レティスはなぜ自分が顔面を地面に突っ込まされているのか把握できなかった。


 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


 ヤマラージャの錫杖による殴打のラッシュが止まらない。

 レティスは頭部だけでなく体全体が地面にめり込んでいる。


 「ダメ押しだ」


 ガン!!


 両手を揃えて高らかにあげて両方の錫杖を思いっきりレティスにぶち込む。

 レティスは動かなくなった。


 「戦いとはテンポだ。戦いのテンポが己のテンポに合った時、いつも通り、いやいつも以上の破壊力を発揮する。だが、それは双刃の剣。それに慣れてしまった事で突如変わったテンポに体が反応できなくなる。貴様の敗北は貴様が弱かったのではない。我の策にまんまと嵌ってしまった経験の乏しさだ」


 ヤマラージャはレティスとの戦いで故意に斬られながら戦っていた。

 それはレティスの戦いのペースに合わせて敢えて攻撃が当たると思わせるためだった。

 そのペースがレティス自身戦いやすいものだったため、勝てると慢心していたのだが、ヤマラージャはそのペースの倍のスピードで突如攻撃を繰り出した。

 自分のペースでの戦いに慣れてしまっていたレティスにはヤマラージャの突如スピードを倍にした攻撃のテンポを認識する事ができずに一瞬で倒されてしまったのだ。

 相手に斬らせながら相手のペースで戦わせ、突如全くペースを変えた攻撃で相手の虚を衝く先方は斬られても直ぐに再生するヤマラージャにしかできない戦い方だった。


 「大将レティスは倒れた!ナラカ軍よ!勝利は目前だ!内なる力を解放せよ!」


 『おおおおおおおおおお!!』


 レティスが敗れたことと、ヤマラージャの檄によってナラカ兵たちは一気にレティス軍を畳み込もうとしていた。




―――ハーポネス 天帝御所―――



 「天帝様」


 「マカムか」


 「は!」


 「いよいよか!」


 「はい。シャナゼン王からの合図が参りました」


 「そうか!して戦況は?」


 「ギーザナ殿率いるジオウガ軍はゼネレスに侵攻し、グムーン自治軍2万をほぼ撃退した模様にございます。後方にゼネレス第2陣のネザレン軍2万が迫ってきておりますのでここからが本番ではありますが、これによって我ハーポネスに対しての攻撃はなくなった模様」


 「わかった。トウメイはまだ戻らぬのか?」


 「はい。ですがあのトウメイ様のこと、何か大事があるようなことはないかと存じます」


 「わかった。それでは指揮をお前に任せよう。リュウソウ、サイゾウを連れてゾルグへ進軍せよ。キョウの守りはイシルに任せる。ボクデンは北へ向かわせよ。念の為だ」


 「御意」


 マカムは影に消えた。



 数時間後、既に準備されていたのであろう3万の軍が帝都キョウから出兵した。

 中央の1万の指揮をマカム。

 右翼1万の指揮をリュウソウ、そして左翼1万の指揮をサイゾウが担っている。


 「マカム様」


 「リュウソウか。お前には苦労をかける」


 「いえ、私が一番の若輩者ですから。ゾルグとの交戦で後退を余儀なくされた場合、プロメテウス大火山を背に左翼を軸に旋回して下がる際の敵の攻撃を受け切るのは栄誉に他なりません」


 「お前にしか頼めんのじゃ。金剛の旋風七聖で最も賢く、的確に指揮を取れるお主でないとな」


 「ありがたきお言葉」


 ハーポネス軍は間も無くゾルグ王国へ入ろうとしていた。




―――ジオウガ軍―――



 「弓と魔法の戦略ではエルフに勝てる軍はないとまで言われた奴らがこうも簡単に引き下がるとは!流石はギーザナ様です!各国を周り戦力を把握し、戦闘対策を練られていたのが早くも役に立ちましたな!」


 副官がギーザナに話しかけた。


 「当然だ。それに我らはオーガ。オーガに敗北はない」


 ゼネレスに侵攻し、早速グムーン自治軍と交戦状態となったジオウガ軍であったが、ギーザナが考案した大きめの長方形の硬質木盾を使い弓矢を敢えて盾に刺す対応で大量に矢を入手し、その矢を使って反撃したのだが、グムーン自治軍は脅威に感じたのかすぐさま軍を後方へ退いたのだった。

 そして今、ジオウガ軍は向きを北東に変えて迷いの森を目指していた。

 おそらく向かっている方向から第2陣のネザレン軍が現れるからだ。


 (ここからだ)


 ギーザナの視線は遠くクリアテに向けられていた。






次のアップは水曜日の予定ですが、日付跨ぐ可能性あります。


いつも読んでくださってありがとうございます!

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