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<ゲブラー編> 139.一度戦っている

139.一度戦っている



 アムラセウム内の廊下―。


 コツ‥コツ‥コツ‥


 王または王政府の要人しか入れない超VIP席へ続く廊下にゆっくりとした足取りの靴音が響いている。


 コツ‥コツ‥コツ‥


 足音は豪華な扉の前で止まった。


 ギィィィィィィ‥‥‥


 扉が開く。

 中は豪華な装飾に彩られた広い部屋だった。

 奥には超強化ガラスで覆われたグラディファイスの観覧席がある超VIPルームであり、外からその席は見えるものの、このような豪華な部屋がついていると知る者はほとんどいない。


 「来たか」


 「なんじゃ、懐かしいシグナルが鳴ったから誘われて来てみればお前さんじゃったか、かつての熾天使よ」


 「そういう貴様はなんだその姿は。10万の天使どもを率いて神力の緋豹とまで言わしめた破壊の能天使長がなぜ痴呆のじじいを演じているのだカマエル?」


 カマエルと呼ばれた男は老剣士チャミュじいだった。

 そしてもう一人はゾルグ王国宰相のシファール・ヴェンシャーレだった。


 「ほっほっほ。今でも強いぞい?いっちょここで戦ってみるかの?」



 グゴォォォォォォォォ



 老剣士カマエルがそう言い終えた瞬間に全身を串刺しにされるような異常なオーラが部屋中をつつんだ。


 「冗談じゃよ。お前さんとやり合ったらエンブダイが一瞬で吹き飛ぶわな、ほっほっほ」


 そう言いながらカマエル老剣士はその場にあるソファに腰をおろした。


 「忘れたか?俺は冗談を言うのは好きだが、冗談を言われるのは嫌いなんだよ。まぁいい、昔の誼で今回は大目に見てやろう。ここに呼んだのも俺だからな」


 「お前さんも随分と丸くなったのう。まぁ最も賢く最も強く最も優しいお前さんがこれほどの外れクジを引かされておるのだから怒りもひとしおじゃったろうが、時と共にそれも薄れたか」


 「口が過ぎるな緋豹」


 「ほっほっほ。それで何ようじゃて。わざわざ呼んだのには訳があるんじゃろう?」


 「ふたつだ。ひとつは何故グランヘクサリオス最終ステージを降りた?」


 「簡単なことじゃて。気になるもんがおって、それを確かめたかったからじゃが、大体見えたんでな。邪魔者は退散したっていうわけじゃよ」


 「あれか‥。それでどうだったのだ?」


 「間違いないぞ。7千年前のそれとは違うまだ弱々しいもんじゃったがな」


 「そうか。まさか奴を起こそうなどと考えているのではないだろうな?」


 「有り得んよ。我が父にはまだ眠りが必要じゃからの。今起こしたところで骨に目玉がついた程度にしからんじゃろうて」


 「俺たち、いや貴様ら天使どもが何者かを分かっていない無知な者もいるようだからな。しっかりと教育しておくことだ。然もなくば俺が出向く。俺はお前らのように甘くはないからな。天界に還すようなことはしない。消滅させる」


 「わかっとるよ。安心せい。お前さんの力なぞ借りんでもわしが何とかするわい」


 「そうかそれを聞けて安心した」


 「まだきゃつらの存在は芋虫程度じゃが、直に力をつけていくに違いない。お前さん世界を飛び回っている‥‥いや分魂しているようじゃが、隕石には警戒した方がよかろうて。特にティフェレトとネツァクが危険じゃ。ティフェレトはアノマリーが隕石の衝突を一度は防いだようじゃが、ミカエルはどうにも頼りにならんでな」


 「ハニエルもだろう」


 「まぁのう。ふぅ‥‥‥それで二つ目はなんじゃて」


 「やつはツァバトの半身か?」


 「‥‥」


 カマエルはゆっくりと立ち上がった。


 「ふぅ‥‥そうじゃ」


 「食われるか?」


 「そうはならんよ。わしがそうはさせん。そのために色々と嗾けとるんじゃからの」


 「失敗すればお前たちは消えるぞ」


 「それは問題ではないよ。役目を果たすことこそが重要なのじゃらかな。そのためにわしらはいるんじゃからの‥‥。さて、少し喋りすぎた。もうすぐわしのお気に入りのスノウの試合の時間じゃて」


 「束縛から抜けられないとは哀れなことだな相変わらず。ここから共に見るか?酒くらい奢るぞ」


 「ほっほっほ。冗談はその馬鹿げた強さだけにしておけ。そろそろお暇するよ」


 そう言うとカマエルは部屋から出て行った。


 「さて。どう利用するか‥‥」


 宰相は超VIP席に座った。

 その視界の先には異常な盛り上がりを見せている闘技場がある。

 これからグランヘクサリオス第3ステージ トーナメント・フェイターの第一試合が行われてようとしていたのだ。

 中央にはレンスが炎魔法を拡声ブロックを浮遊させながら叫んでいる。


 「さぁ!みなさん!いよいよこのゲブラーで最も強いグラディファイサーを決める決勝トーナメントが始まります!その映えある第一試合は‥‥これだ!」


 ファンファーレと共に登場してきたのはスノウとホプロマだった。

 二人は闘技場の中央まで大声援を浴びながらゆっくりと歩いてきた後、向かい合った。


 「お前が雷帝か。お前の戦いは遠くで少し見たが、こうして目の前に立たれると‥‥小さく見えるな‥フハハ」


 ホプロマがスノウに向かって挑発してきた。


 「おれには元からお前が小さく見えていたよ」


 スノウは余裕の表情で言葉を返す。


 「ちっ!生意気なやつだ。私のそのような口を叩いたことを後悔することになるぞ」


 「いちいちうるさいなグランヘクサリオスは罵り合いの場か?さっさとかかって来い」


 ホプロマは怒りの表情を浮かべていきなり炎魔法の爆炎をスノウに放ち、思いっきり後方へ跳躍した。


 バゴォォォン!!


 ホプロマは闘技場の内壁に掛けられているいくつかの武器を手に取った。

 そして、左右に動きながら爆炎の中に矢を放つ。


 ピィィィィィィィィィィィ‥‥


 レンスは勝手に戦いが始まったのを見て急いで試合開始のホイッスルをならした。


 バシュバシュバシュ!


 障害物に隠れながら且つ、移動しながら一度に数本の矢を放つ上、上下左右どこへ避けてもそれを先読みして矢を放つため逃げ場がない。


 バシュバシュバシュ!


 どうやらホプロマは視力が異常に高いため、爆炎の中にいるスノウの影を捉えて的確に矢を放っているようだ。

 爆炎でのダメージに加えて矢の集中砲火。

 この戦術はホプロマの常套手段であり、これで無傷で済んだ相手はこれまで一人もいない。


 スゥゥゥゥゥゥ‥‥‥


 黒煙が風に流される。


 「!」


 そこにはスノウが10本ほどの矢を掴んで立っていた。


 「なんだもう終わりか?」


 「有り得ん!あの攻撃を受けて平然としていられるなど!しかも武器も持たずに!」


 スノウはそんなホプロマの言葉を無視するかのように、まるでハンマー投げのように体を回転させて、手に持っている10本ほどの矢を思いっきりホプロマの方へ投げつけた。


 ジャジャジャジャカカカカン!!


 ホプロマは腰に下げているグラディウスを抜き矢を弾く。


 「遅いよ」


 ホプロマの背後からスノウの声が聞こえ背筋を凍らせるホプロマはすぐさま裏拳を喰らわすが、それをしゃがんで避けるスノウは、ローキックを放ちホプロマのバランスを崩す。


 ズザ‥‥


 体勢を崩したホプロマの顔面を掴み思いっきり地面に叩きつける。

 その手には強力に練られた螺旋がこもっており、地面に叩きつけられると同時にホプロマの耳や鼻、口から血が噴き出る。


 ドゴン!! ブッファァ!!


 そしてスノウはダメ押しで螺旋を込めた蹴りを倒れているホプロマの腹部目掛けて思いっきりぶち込んだ。


 ドッゴォォォォォン!!


 ホプロマはそのまま内壁まで凄まじい勢いで弾き飛ばされて壁にめり込んでしまった。

 しばしの沈黙が流れる。

 ヘクトリオンであるホプロマがスノウに圧倒されている現実に観衆が声を失っているからだ。

 そして、十数秒経った後にようやく大歓声が沸き起こる。


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 「雷帝すごいぞ!」

 「なんて強さだ!」

 「こりゃぁ雷帝が優勝じゃないか?!」


 様々な声が上がるがヘクトリオンであるホプロマが中傷されることはない。

 そんな野次などが王政府の者に聞かれたら最後翌日には街の広場に首だけで晒されることになるからだ。


 パン‥‥パン‥


 スノウは汚れたパンツや上着の泥を払った。


 「!」


 次の瞬間、一本の凄まじい速さの矢がスノウ目掛けて飛んできたため、スノウは思わずそれを超高速の蹴りで弾いた。


 シャヴァン!


 「!」


 しかし、蹴って払った矢の後にそれと同じ軌道ですぐ後を飛んできた矢がスノウの顔の目の前に迫る。


 バシュ!


 「!」


 その後も矢が何本も続いて同じ軌道で飛んでくる。

 避けると避けた先に軌道を変えて飛んでくる。

 どこへ避けてもまるでレーザービームのように途切れることなく矢が飛んでくる。


 (しまった!油断した!)


 「うおおおおおお!!!!」


 スノウは凄まじい速さの突きのラッシュを繰り出して連続で放たれる矢を一本一本弾き飛ばす。


 「うおおおおおおおおお!!!!」


 次第に矢はあらゆる方向から飛んでくるようになる。


 「!!」


 矢に気を取られていたスノウは上空に巨大な円柱状の炎魔法が浮遊しているのにやっと気づいたが、時すでに遅くその超高熱の炎の巨大柱はスノウ目掛けて凄まじい速さで突き刺さってきた。


 バゴオォォォォォン


 直撃だった。


 異常なほどの水蒸気が発生し、炎魔法を繰り出したホプロマですら、むせるほどの靄が周囲を包んだ。


 「燃やし尽くしてしまったか」


 ホプロマは異常に高い視力で水蒸気の靄の中を見ているが、そこに人影はなかった。


 「お前、どこかでおれと戦っているな?」


 ホプロマの背中に背筋が凍るような悪寒が走る。

 次の瞬間強烈な蹴りが横から飛んできたため、ホプロマはそれを受けようとして構えるが間に合わずに両腕の骨を折られながら凄まじい勢いで弾き飛ばされた。


 ドッゴォォォォン‥‥‥‥


 再度壁にめり込むホプロマは数秒白目になって意識を失ったが、すぐさま回復して凄まじい勢いでスノウに向かってグラディウスを振り下ろしてきた。


 ジャキン!


 ホプロマのグラディウスをスノウは流動で受け切っている。


 シュウシュウシュウシュウ‥‥


 「き、貴様‥‥この波動気の巧みな使い方とその威力‥‥まさか、カムスか?!」


 「そういうお前はホロマだな?」


 シュワキン!


 ホプロマは大きく後方へ飛び退いた。


 「雷帝‥‥貴様‥‥カムスと名乗って何をしていたのだがはぁ?!」


 ドゴム!!!!


 ホプロマが話終える前に凄まじい速さで彼の間合いに入ったスノウは大きく後ろから振りかぶった強力な螺旋を練った鉄拳を鳩尾に繰り出した。

 鈍い音と共にホプロマの目が白目に変わる。


 バゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴォォォォォン!!


 スノウの怒涛の正拳突きラッシュが繰り出されてホプロマ意識を失ったまま内壁へめり込んだ。

 壁にめり込むのはこれで3度目だが、今度はそこから起き上がることはなかった。


 「しょ、勝者!雷帝スノウ!」


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ヘクトリオンであるホプロマはスノウによって倒された。

 スノウがハーポネスでの南北の戦いに参加していた際に、最後の最後で天帝を裏切りトウメイに重傷を負わせたホロマはホプロマが偽名を名乗って潜入していた姿だった。

 各国に諜報員を潜ませて情報収集や暗殺などを行なってきたゾルグ王国の中で最も優秀な諜報員だったホプロマは ハーポネスで何らかのミッションを抱えていたのだろうが、スノウたちによって見事に阻止されて以降、ミッションを邪魔したスノウ扮するカムスに対して執拗なまでの恨みを抱いていたようだ。

 気絶しながらもホプロマはカムスの名を途切れそうな小声で連呼していた。


 「こ‥れ‥ほど‥の差は‥ ない‥だろう‥おのれ‥カム‥ス‥‥カムス‥カム‥ス‥‥カムス‥‥カム‥ス‥‥カムス‥‥」



これで反乱軍の1勝。

最低でもあと3人の勝者を確保すれば、表彰式でヘクトルを討てる可能性がかなり上がる。

今回のスノウの圧勝は革命軍幹部たちやスノウの仲間達に対して作戦成功への希望を持たせると同時に勢い付かせる結果となる。


そしてその日は終了した。






次は火曜日アップの予定ですが、日付を跨ぐ可能性あります。


いつも読んでくださってありがとうございます!

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