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<ゲブラー編> 131.グランヘクサリオス マニエその5

131.グランヘクサリオス マニエその5



「ぐあぁぁ!」


 闘技場内の迷路の至る所で叫び声が聞こえる。

 グラッド(一般剣士)たちの断末魔の叫び声だ。

 ローラスが好機とばかりにグラッドたちに襲いかかっているのだ。

 ルデアス以上の11名は外周でお互い距離をとり警戒しつつ動かずにいた。

 第一ステージで無駄な体力消費を避けるためだ。

 一方ローラスはルデアスたちが動かないのをいいことに弱い者いじめではないが、グラッドたちに襲いかかり100名枠に向けて数を削っていた。


 そのグラッドの中で健闘しているのが10名ほどいた。

 中でも3名が抜きん出ているようだった。

 戦いっぷりはそれぞれ全く違うものの、ローラスの動きを的確に捉えて防御や退避、カウンターなどを繰り出して数人のローラスを撃破している。


 一人はクアンタムだった。

 ピエロの面を被っているのかメイクしているのか定かではないが、ふざけた格好の男で攻撃を避ける際に転んだり、バランスを崩しながら倒れ込むどさくさに紛れて相手のパンツを脱がしたりと戦う相手を怒らせながら戦っているが、攻撃は彼に一度も当たっていない。


 もう一人はゼロだ。

 アクロバットな動きで相手の死角をついて致命傷を負わせる戦闘スタイルで、ローラスレベルですらその動きについていけていないように見えた。

 もちろんゼロも攻撃を一度もくらっていない。


 そして3人目は背の低い老戦士だ。

 目が隠れるタイプの兜を被り、細身の全身鎧に身を包んでいる。

 唯一確認できる口元には白い髭が見えている。

 立派な全身鎧に身を包んでいるにも関わらず、背の低さと体の細さから弱々しく見えるが、その戦闘ぶりは凄まじく強い。

 とにかく動きが早く、ローラスレベルですら捉えれられない動きで、相手はいつの間にかこの老戦士に背後を取られてしまい斬られている。


 「どう思う?あの3人」


 腕を組んで見ているバルカンがスノウに話しかけた。

 同じく腕を組んで戦況を見守っているスノウがそれに答える。


 「強いな。おそらくルデアスレベル以上と見ていいだろう。ピエロ顔のクアンタムという男・・。あれは異常だ。あのコメディアンのような動きは故意に行なっているものだが、ローラスはじめこの場に立っているグラディファイサー相手にあんな芸当は普通はできない。そんなことをすればその隙を突かれて致命傷を負うこと間違い無いからな。それをさせないあの動きは異常だよ」


 「そうだな。人の動きを超えている気がする。あのニンジャマスターのような男はどうだ?」


 「ニンジャマスターとはいい表現だ。ゼロ・・彼は強いがピュアな強さというより、極めた技でかなりの戦闘力を備えている男に見える。ルデアス下位止まり‥‥ってところか」


 「おお、そう読むか。オレは上位に食い込むと思ったが。それではあの老戦士はどうだ?」


 「彼も強い。彼もクアンタム同様にルデアス上位以上の実力者とみた。あの動きは相手の攻撃を予測しながら攻撃を避けて背後をとっている。異常な予見力とスピード‥‥あれはルデアスでも苦戦することは間違いないな」


 「そうだな」


 バルカンはスノウの状況把握力に感心していた。


 「だが、決定的に違うものがある」


 スノウが付け加えた。


 「なんだ?」


 「命の扱い方だ」


 「?‥‥というと?」


 「老剣士‥‥あれは命を尊んでいる。彼の攻撃に致命傷はないからな。だが、戦闘不能に近い状態で相手を倒している。療養すれば回復するレベルで腱を斬ったり、傷が塞がりやすいように出血させたり‥‥。一方、ゼロは違う。彼は相手を倒すことを目的としている‥‥いや、相手を如何に短時間で反撃できないように倒すか‥‥という感じだな」


 「なるほど。そう言われてみれば‥‥」


 「一番得体が知れないのはクアンタムだな。あれは人が死ぬことをなんとも思っていないように感じる。あの見た目のせいもあるが、自分の興味だけを優先していて、それ以外に価値はないといった感じだな‥‥」


 「おいおい、それって犯罪者の類だぜ」


 「ああ。だが余計な正義感など振りかざすなよ?あいつの強さは正直読みきれない。下手に手を出せばこっちが深傷を負う可能性がある」


 「お前がそれほどまでに言うのならそうなんだろうな。わかった。やつが目の前で残虐な行為を行なったとしても感情に流されないようにしよう」


 スノウは軽く頷いた。

 そして対角の壁面の側で仁王立ちしている男に目線を向けた。

 その対象は闇虎だ。

 緋黒い獅子面の男は静かに戦況を見ている。


 (闇虎‥‥)


 「どうしたスノウ?」


 「ああ‥‥。闇虎だ‥‥。あいつは一体何者なんだ?」


 「オレも正直分からないんだ。一度も戦ったことがないからな。ただ単に上位ランクとの勝率差で暫定的にやつが1位、オレが2位ってだけなんだ。真に強いのは誰かを決めるのはやはりこのグランヘクサリオスなんだぜ」


 「そうか。だが、あいつの強さは本物だ。人知を越える何かを感じる」


 「そうだな」


 「強さは認めるが‥‥あいつの存在は認めない。人を自分の駒‥‥いや、それ以下に扱うあの考え方には賛同できない。‥‥まぁ種類は違うが、クアンタムと似たようなもんだな」


 「そう感じるか‥‥なるほど」


 バルカンはスノウの洞察力、分析力に改めて感心していた。


 一方闘技場内では苛烈なバトルが繰り広げられていた。

 グラッドたちは戦闘力の低い者からローラスの餌食となっていた。

 一方、亀の甲羅防御作戦が使えないグラッドも諦めて攻撃に転じており、機転を利かせている者たちは、4人ひと組となって協力してローラスと戦っていた。

 迷路の前後で挟み撃ちにする攻撃に加えて壁を乗り越えて逃げられないように左右の壁からも攻撃する戦術だ。


 1時間ほどこの戦術による戦闘が迷路のいくつかの場所で行われており、その激しい戦闘に観客たちは釘付けになっていて、レンスのアイデアは成功しているように見える。

 いつしかこの4人ひと組の戦術は “蟻地獄” と呼ばれるようになった。


 流石のローラスもグラッド4人を相手にする “蟻地獄” には苦労しており、肉弾戦タイプは4方向からの攻撃を受けながら前の相手に攻撃を集中する戦い方でなんとか突破口を開こうとしている。

 一方炎魔法タイプは広範囲の魔法攻撃で “蟻地獄” から早々に抜け出しており優位に立っているようだった。

 最も苦戦しているのが弓矢などの遠距離攻撃タイプで、距離を取りながら遠隔攻撃を行なっていたが、執拗に追い回せるうちに捕まり4方からの攻撃を受け、防戦一方となるまさに “蟻地獄” に嵌っていた。



・・・・・


・・・


 開始から3時間が経った頃、固まった人数の戦いが勃発した。


 カカキィィィン‼︎


 大勢のグラッドが一人を囲んでいる。

 “蟻地獄” 作戦で迷路戦闘になれたグラッドたちがクアンタムを囲んでいたのだった。

 前回は自分たちを助けておきながら今回は梯子を外すように切り捨てられたのに腹を立てた集団およそ15名が一斉にクアンタムを攻撃しようとしていたのだった。


 「おいピエロ!お前にはここで死んでもらうぜ」

 「ああ、見てれば意外とやるやつだってのはわかった。ここで消しておかなければ、後々厄介だってこともな!」

 「それに亀の甲羅作戦に対策が打たれることを知りながら、俺たちに協力するフリして盾代をせしめてるって聞いたからよ!俺たちを騙した落とし前をここできっちりとらせてもらうぜ!」


 「僕を殺すですって?おぉーーこわ!一体何をしてくれるんですかねぇ」


 「お前を八つ裂きにするって言ってんだよ!」



 それを少し離れている場所で見ているコウガとエスカ。


 「とんだ言いがかりだ」


 「自分の命をかけていない剣士ほど自分の弱さを誰かになすりつけたがるものだ」


 コウガのつぶやきにエスカがかぶせて言った。

 二人もまたローラス以下からは警戒されている位置付けで、始まってから一度も剣を抜いていない。


 「確かにその通りだ。だがあいつらあのピエロ顔には勝てないの分かっていないのか?」


 「弱いから分かっていない。分かっていないからああやって無謀な戦いを仕掛けて自らの死期を早めている」


 「相変わらず冷静だな。冷静すぎてその冷たい言葉でも斬られている気がするぞ」


 「お前も斬ってやってもいいが?」


 「遠慮しておく。だが、エスカ‥‥、お前とはいつか決着をつけないとならないと思っている」


 「決着?私と勝負でもしていたのか?そんな認識はなかったが」


 エスカの意地悪な言葉にコウガはイラッとしていたが怒りを収めていた。



 一方クアンタムとその他大勢の睨み合いはー。


 一人のグラッドが攻撃する。


 バシュゥ!


 簡単にかわされるが、その先には別のグラッドが剣を振り下ろす。


 ヒュウッ!


 それも更にかわすと、続け様にグラッドが避けた先のクアンタムを攻撃する。

 その攻防がなんどか繰り返されると次第に目立ち始めて観客たちの注目を浴び始めた。

 何度も攻撃を繰り出しているが全て避けられている。

 だが、グラッドたちも何度も戦闘を勝ち残ってきた強者であり、次第に連携が上手く機能し始めて、凄まじいスピードでの15人がかりの “蟻地獄” が完成していた。

 クアンタムも流石に全てをギリギリで躱すことも難しくなってきたため、持っているステッキで剣を受け流し始めた。


 カン!キャカン!コココン!


 上に逃げようとしても炎魔法と弓矢攻撃の餌食になる。

 かといってその場で受け切ろうにも、クアンタムの反撃を上手く退きながらかわしつつ、別のものが攻撃するという多段攻撃によって逃げることが難しい状況となっており、そんな凄まじい集中攻撃を超人的身体能力で全て受け流しきっていたクアンタムだが、ついに対応が追いつかなくなり一人のグラッドの剣がクアンタムの左腕をかすめた。


 「よし ‼︎」


 攻撃の通じる相手と確信した15名は更に勢いを増して攻撃を重ねていく。


 クネクネクネクネ‥‥


 クアンタムは異常な角度で曲がる体でクネクネと攻撃を受け、避けていたが、その表情は笑っている。


 「仕方ありませんねぇ!あなたたちはこんな今にも折れそうなステッキしか持っていない僕を寄ってたかって攻撃して‥‥!こう言うのを弱い者いじめって言うのですよぉ!でもねぇ、相手を間違えると、大変なんですよぉ〜!」


  キィン‥‥


 クアンタムは攻撃を受け流しながらステッキの柄の部分と棒の部分を持ち柄の部分を少し抜いた。

 するとそこから光るものがチラついてみえた。

 グラッドたちは剣が飛び出すと推測して一瞬身を退いた。

 クアンタムはその隙をついて一気に柄の部分を引き抜いて大きく振り回した。


 シュワン ‼︎


 「‥‥‥」


 一同は唖然とする。

 側から見ているルデアスたちや観客たちまでもが唖然としている。

 なぜなら引き抜かれたのは剣ではなく、花束だった。

 まさに手品でマジシャンがよくステッキから取り出して見せる数本の花の束だ。


 「あばばー!驚きましたぁ?」


 するとクアンタムはステッキの棒の部分の端を持って引き抜いた。

 すると両方の棒が肉眼では見えづらいほど細い糸のようなもので繋がれている状態になった。


 「ほほい!」


 クアンタムは短い方の棒を思いっきり投げると、長い方の棒でまるで何かを操るような動作をした。


 「それっと!」


 そう言うのと同時に上にジャンプして思いっきり棒を引っ張る動作をする。


 ギャギャギャン ‼︎ ギュワン!


 「うぐぇ ‼︎」


 一斉に15人のグラッドたちがまるで磁石に吸い寄せられるように縛られている。


 「あららぁ?どうしちゃったんですかぁ?みんなで寄せ集まっちゃってぇ。もしかして、寒くて温め合ってるとか?虫みたいに」


 観客からは細い強靭な繊維の糸で15人のグラッドたちを縛っているのが分からないため、マジックのように見える。

 炎魔法しか存在しないゲブラーでは、明らかに不思議な技を使っているものと捉えられるし、ピエロの容姿がまるで大道芸を見せているかのように演出されているので、観客たちの興奮は最高潮に達して大歓声が湧いた。


 だが、それも一瞬でその大歓声は大きな悲鳴に変わる。


 「さぁて。弱い者いじめをする人って僕大嫌いなんですよねぇ。だからお祈りしちゃおう!どうかこの悪―い人たちに罰を与えてくださいーって」


 そういうとクアンタムは両手を組んで何やらむにゃむにゃと出鱈目な祈りを始めた。


 「おお!神よ!この者たちに罰をお与えください〜!」


 「あがががががぁぁぁ!」


 糸でがんじがらめになっているグラッドたちは言葉も発せられないほど締め付けられている。


 バッ ‼︎


 クアンタムが両手を広げた瞬間、その場に惨劇が訪れる。


 ジョッバァァァァ ‼︎‼︎‼︎


 糸が引っ張られて15名のグラッドたちの体をバラバラに切断した。

 辺りに血飛沫が舞い、肉片とかしたグラッドたちの体がボトボトと地面に落ちていく。


 『‥‥‥』


 観客は言葉を失っていた。

 それに対してクアンタムは両手を広げて声高に叫んだ。


 「おお!神の祈りが通じた!僕には神がついてくれている!なんと幸運なことか!感謝します!」



 「う、うおおーーー!」

 「すげーぞピエロー!」

 「神に好かれた男―!」

 「クアンタム様――!」


 大歓声が沸き起こった。



 「倒すべきクソ野郎が増えたってことか‥‥」


 バルカンがスノウに言った。


 「ああ。種類は違うがどちらも人を虫けら同然に見ているのには違いない。ああいうのをのさばらせておくほどおれも腐っちゃいないからな。あれじゃぁヘクトルと変わらない」


 「そうだが、滅多な事言うもんじゃないぜ?既に要注意人物にはなっているだろうが、一応警戒はしておけよスノウ」


 「ああ、分かっている」



 ピィィィィィィィィィィィ‥‥‥


 終了を知らせるホイッスルが鳴った。


 「皆さん!この熾烈を極めたメイズバトルですが、終了の時間となりました!残っているグラディファイサーは112名!100名まであと少しではありますが、ほとんど100名に近いところまで来ているので、これを持って第一ステージ、人数無制限マニエを終了し、次の第2ステージに進みたいと思います!」


 『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !! !! !!』


 大歓声が地震のように響く。

 それにかき消されているが、残ったグラッドたちもまた勝利の雄叫びをあげていた。


 「そして!次の第2ステージは ‥‥‥‥5人ひと組のジャダ(チーム戦)だぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」



 『うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !! !! !!』


 更に大歓声が沸き起こる。


 「第2ステージは4日後!待ちきれないでしょうが、観客の皆さんも体調を万全にして臨んでください!では!」



 こうして盛り上がりを見せた第1ステージは終わった。

 エクサクロス3名、ルデアスは全員残っているのはもちろん、カブラミオなどのローラス上位者も残っている。

 もちろん、先ほどの残虐な攻撃で15人ものグラッドたちを一瞬にして屠ったクアンタム、ニンジャマスターのゼロ、老剣士も残っている。

 それ以外のグラッドたちもまた、第1ステージを勝ち残っただけあり、それなりの強さを持った者たちであった。





次は土曜日のアップ予定です。

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― 新着の感想 ―
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2022/05/21 11:50 中村慎太郎
[気になる点] 階級図では、高位神と熾天使、大魔王の最高位が並列した階級となっていますが、元熾天使の閣下は大魔王の最高位だと思うんですけど、大魔王の中でも別格扱いのディアボロス、ベルゼブブ、サタン、ア…
2022/05/21 10:59 中村慎太郎
[気になる点] 観察者達を除けば、唯一神の力が一番上だと以前に返答をいただきましたが、今度登場する予定の最高位神の中で唯一神に匹敵する、もしくは同等の存在もいるとの事だったので、物語の中で今のところ一…
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