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<ゲブラー編> 130.グランヘクサリオス マニエその4

130.グランヘクサリオス マニエその4



マニエ3日目の日、ゲブラー全土が動き始めた。




―――ジオウガ王国―――


「出陣!」


指揮をとっているのはシャナゼン王と旧知の仲にしてオーガで2番目に強い男。

戦闘の出立ちに身をつつみ、悠然とした姿で巨大馬に乗り5万の軍を率いている。


ギーザナだった。


「全軍!ゼネレスに向けて前進!昔年の恨みを晴らせ!愚かなエルフどもに怒りの鉄槌を振り下ろせ!そして我らが聖なる山ギヴェラザルノ山を取り戻す!」


ギーザナはあえてエルフを攻める目的を強調した号令を発した。

出陣がゾルグを攻めるものではないと示すためだ。

とは言え、モウハン事変と同様にどこにヘクトルのスパイがいるかわからない中で、どれほどの効果があるかは分からなかった。

だが、表向きゾルグと無関係と強調することでヘクトルたちを惑わせることが多少なりともできると踏んでいた。





―――ガザド公国―――


4万の兵が首都ガザナドから1kmほど離れた場所で整列して待機している。

貴族たちが急遽かき集めた騎士たちと一部一般兵を含めた大規模な軍勢だ。

それを指揮するのはパラディンであるスレイン・レイトラルである。

屈強な騎士たちが美しい模様のように整列している様は壮観だった。

その4万の兵を前に馬に跨ったパラディンが剣を高々と掲げた。

フルフェイスの兜を被り、美しい装飾の施された白地に金色の縁取りの入った全身鎧を纏って深い蒼のマントを身につけている。


「諸君!此度の出兵の指揮をとることとなったスレインだ!」


スレインは曾祖父の悪事によって伯爵家の称号を剥奪された身分だが、騎士たちの中でスレインを卑下する者は一人もいない。

圧倒的な戦闘力だけではなく、それに奢ることなく謙虚で誰にでも優しい人柄を全員が慕っているからだ。


「これから向かう先はゼーガン帝国である!我が国は国境付近でゼーガン帝国の攻撃を受けた!これは明らかに不可侵条約を反故にするものであり、帝国による我が公国への宣戦布告と受け取った!本格的な侵略行為に至る前に、先手を打ってゼーガンに我らの力を示す必要がある!」


『おおおおお!!!!』


「これの戦いは我が国の領土を守るだけではない!皆の命!家族の命を守る戦いでもある!よって負けは許されない戦いだ!血をたぎらせ、力を振り絞り、最後の最後まで諦めずに戦う!そして勝利をもぎ取るのだ!」


『おおおおお!!!!』


騎士たちは全員胸に手をあてて一斉に声を上げている。

その声はまるで地震のように周囲に響いている。


ゼーガン帝国の国境攻撃はガザドの自作自演だった。

帝国に侵入させている諜報員が入手したゼーガン兵の鎧の模倣品を作り、100名程度の兵を国境付近で暴れさせていざこざを演出したのだ。

もちろん、カムフラージュでありモウハン事変の二の舞にならないようにするための出兵理由を作った形だ。

当然、どこにスパイが潜んでいるか分からないためゾルグ+ゼーガンサイドにで情報漏洩している可能性は大いにあるが、表向き正当な理由があるとしているため、公式に制裁を受ける話ではないという計算が働いたスノウの作戦であった。


パラディン・スレイン率いるガザド公国軍はゼーガン帝国へ兵を進めた。




―――ハーポネス 天帝御所―――



「天帝様」


「マカムか」


「は!」


「どうしたのだ」


「はい。ご報告がございます」


「動き出したか」


「は!ジオウガ王国はギーザナ殿が指揮する軍が出陣致しましてございます」


「ガザドはどうだ?」


「同様に出陣した模様」


「そうか」


「我が軍も出ますか?」


「いや、まだだ。我が国はゾルグの隣国。タイミングが重要だ。ゾルグにとって他国間のいざこざではすまないからな。これもスノウ殿の配慮であるが、とにかく合図を待つしかあるまい」


「御意」





―――ところ変わってゾルグ王国 エンブダイ・アムラセウム―――




アムラセウムのVIP席の上に突如現れたレンス。

周囲に炎魔法の拡声ブロックを出現させている。

闘技場は一面布で覆われている。


「さぁ皆さん!いよいよマニエも3日目!マニエ2日目は膠着しており、311名のグラディファイサーの数はほぼ減らず!」


『ブゥゥゥゥ!!!!』


初日に対して8割ほどしかはいっていない観客からは大ブーイングだった。

2日目の失態を踏まえても8割動員しているのは、何かやってくれるのではという期待感と、やはりグランヘクサリオスであることが起因しているようだ。


「だが!今日は2日目のようにはいかないのです!」


「何をしてくれるんだー!」

「これで大した動きがなかったら本当に帰るぞー!」

「盛り上げてくれるんだろうなレンスー!!」


さまざまな野次が飛び交う中、レンスは声を張り上げる。


「本日マニエは!・・・・これだァ!!」


バババババ!!!!


闘技場内に敷き詰められていた布が一斉に壁の方へ取り除かれていく。


『うおおおおおお!!!!』


大歓声が沸き起こる。

観客から大歓声が沸き起こった理由。

それは、闘技場に巨大な迷路が形成されていたからだ。

壁は高さ3メートル。

この高さであればグラディファイサーたちであれば簡単に飛び越えられる。

この迷路はゴールに辿り着くのが勝利条件ではない。

道幅の狭い迷路を形成することで亀の甲羅作戦が使えないということと、狭い通路で戦う以上、マニエと言いながらも1対1のフェイターにならざるをえないということだ。

そして容易に飛び越えられるこの3メートルという高さが戦闘を回避できる条件にもなっている。

レンスは、こう着状態を作らず且つ第1ステージが短期間で終わらない策としてこの案を実行したのだった。


「さぁ!それではグラディファイサーたちの入場です!」


外周の出入り口から迷路の中へ入っていくグラディファイサーたち。

皆、数日前から様変わりした闘技場に驚きつつも興味津々といった感じで、迷路の壁の上に登って全体を見渡している。

ルデアスたちは外周付近で壁の上に立っていたり座ってたりとあまり興味がない様子だが、ローラスは迷路の構造を確認していた。

グラッドたちは亀の甲羅作戦が使えないと理解し、慌てふためいている。

その中の一人がピエロ顔の男に突っかかっていた。


「お、おい!ピエロ!何とかしろよ!亀作戦使えねぇじゃねぇか!これじゃローラスたちの餌食になっちまう!」


「そう言われましてもねぇ。こんなのをいきなり見せられてすぐに対処するってのはいくら天才の僕でも難しいですよー」


ピエロは小馬鹿にしたような表情で言葉を返した。


「て、てめぇ!」


ピエロ顔の男の胸ぐらを掴んでいる男が殴りかかろうとしている。


スファ!


胸ぐらを掴んでいるにも関わらず、パンチが空をきった。


スファ!ヒュウン!


何度も殴りかかるが、ひとつも当たらない。


「気が済みましたかねぇ」


ピエロ顔の男は目の前の大男の顔を覗き込むようにイラつかせる言い方で話かけた。


「こ、ころしてやる!このピエロが!」


男は剣を抜いた。


「コラァァ!!」


剣を振り上げると、その直後に悲鳴がこだました。


「うがぁぁぁ!!!!」


悲鳴を上げているのは大男の方だった。

ピエロが相手の剣を振り上げた肘を振り下ろす前に抑えて止めた直後に、持っていたステッキのハテナ型に曲がった柄を剣を持っている手首に引っ掛けて引っ張った拍子に剣が自分の背中に突き刺さったからだ。

大男は倒れ込んで悶えている。

ピエロ顔の男はそれを覗き込むようにして見ている。


「痛そうですねぇー。大丈夫ですかぁ?」


そういって背筋を伸ばして去ろうとするが、再度振り向いて顔を近づけた。


「あ、それと、僕の名前・・ピエロじゃありませんから。クアンタム。ピエロの顔は偶々見た大道芸の人がやってた格好が面白かったからやってるだけですからねぇ。次にピエロって呼んだら・・」


クアンタムと名乗った男は大男の耳元に顔を近づけた。


「殺すよ。原型留めないぐちゃぐちゃにして」


耳元でそう囁くと姿勢を戻して立ち去ろうとする。


「それじゃぁまたー」


そう言って手を振りながら壁の上に助走もなく登って歩いて行った。



一方反対側ではバルカンとスノウが壁の上にたち全体を見渡していた。

バルカンはスノウに目で合図した。

スノウは軽く頷いた。

レンスがうまくやったという会話だった。

これによってスノウの立てた反乱共闘作戦への影響が少しでも抑えられると理解したからだ。


レンスが手をあげた。


「それではぁぁぁ!マニエ3日目!スタートです!」


戦いの幕が切って落とされた。







次のアップは木曜日の予定です。

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