表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/1110

<ケブラー編> 129.グランヘクサリオス マニエその3

129.グランヘクサリオス マニエその3



「!!」



「な、なんだよ・・これは?!」

「汚ねぇぞ!てめぇら!」

「お、俺も探すか!」


マニエ2日目始まっていきなり、ローラス下位のグラディファイサーたちが方々で文句を言い始めた。

なぜなら、初日を生き残ったグラッド(一般剣士)たちが各々得意な武器に加えて長方形の大型盾を持ち、10人ひと組で円形に固まって盾を構えているからだ。

まるで亀の甲羅状態で下手に攻撃すれば盾の隙間から攻撃が飛び致命傷を負いかねないという厄介な状態だった。


「おい!いい加減にしろーー!」

「こっちは賭けてんだぞ!ふざけんなー!」

「ヒーン!炎魔法で焼き尽くしちまえー!」

「亀になっているやつら、みんな失格にしろー!!」


至る所からブーイングが出ている。

それもそのはず、亀の甲羅が20個ほどあり、目立った動きがないからだ。

しばらくすると、闘技場内に物が投げられ始めた。

だが、ブーイングを受けても、物を投げられてもお構いなしに、亀の甲羅になっている者たちは守備体勢を続けている。


・・・・・


・・・


始まってから1時間―。

膠着状態が続いていた。

ルデアス以上の者たちは、亀の甲羅に攻撃を加えている隙を突かれるのを警戒して少し離れたところで様子をみており、ローラスたちは攻撃したくとも反撃をくらう可能性があるため迂闊に手を出せないという状態だったからだ。

少しでも深傷を負うと即リタイヤとなりかねない。


ルデアスにとって第一ステージは無理をする場ではなく、流す場だと思われている。

ほぼ確実に100名の枠に入ることができるし、第2ステージ、最終ステージで実力を発揮するためには体力を温存しておく必要があるからだ。

黙っていれば攻撃してくるローラス以下の者たちはほぼいないし、下手にルデアス同士で潰し会おうものならお互い致命傷を負う可能性も出てくるわけで、そのような状況下で無理をする者はいない。


一方ローラスにとって100名という枠に入るためには、グラッドと呼ばれる一般剣士を削っていくのが基本戦略となる。

自分たちより弱いものを先に淘汰した上で、同レベルのローラスたち数人で組んで、ルデアス同士でやり合って傷を負った者が出た場合に一斉に攻撃するという作戦がローラス仲間の中で立てられていたのだった。


今回、それに対抗し、亀の甲羅作戦にでたのがグラッド(一般剣士)だった。



・・・・・


・・・




―――3日前、マニエ初日が終わった後の酒場―――


「ちくしょう!ゲントウのやつおそらく勝手にルールを変えやがったんだ」


「間違い無いぜ。事務局に知り合いがいるんだが、元々はマニエは10人制だったらしい。運営が満遍なく振り分けた10人ひと組の組み合わせをそこそこ見ものカードを織り交ぜながら対戦させていくって聞いていたんだ」


「じゃぁなんであんな一斉に殺し合うような形になったんだよ!」


「だからさっきこいつが言った通り、ゲントウのやつが調子に乗って勝手にルールを変えたんだろ!」


「俺たちグラディファイサーは消耗品と言われているからな。今回みたいに一斉にドン!ってやると、それだけ駒が一斉に減るわけで運営側としちゃぁそんな勿体ないことたぁねぇんだろうぜ」


「だが、ゲントウがやらかしたってことか。まぁこんだけの大乱戦ってのはぁそうそうねぇからな。客もこれ以上ないってほど沸いてたしよ」


「だが、許せねぇ!ローラスのやつらも徒党を組んで有力グラッドを集中的に叩いてやがったからな!あんなのぁ卑怯者のすることだぜ!」


これはとあるテーブルでの会話だが、どこのテーブルでも同様の会話がなされていた。

ここはグラディファイサーが集う酒場であり、この日はマニエ初日を生き残った祝いで生き残ったグラディファイサーたちは半額で酒や料理を注文できたため、多くのグラッドたちが集まっていたのだ。

そしてグラッドの誰しもが同じ不満を抱いていた。

ちなみに賞金ランクの高いローラス以上はもっと上等な酒場で祝杯を上げているので、この酒場にはグラッドしかいない。



「果たしてそれは卑怯者でしょうか?」



「ああん?誰だお前」


最も屈強そうに見える者たちが座っているテーブルに向かって喧嘩を売るような言葉を投げかけた者がいた。


「てか、こいつピエロみてぇな面をつけてるぜ!だっせぇの!」

「がはは!違ぇねぇ!おい!お前!ここはグランヘクサリオス初日を生き残った者たちの貸し切りだぁ!お前みてぇなアホ面が酒飲んでていい場所じゃねぇんだよ!」



「僕も生き残ったひとりですよ?」



『・・・・』



『ぎゃはははははは!!!!』



一同は一瞬目を合わせたあと大笑いし始めた。


「わ、笑わせんでくれー!腹いてぇ!お前おもしれぇな!」

「グランすっとぼけリオス優勝だぞ!」

「がははは!!」



「いえいえ、僕、本当に生き残ったんですって」


「ちょっと待て、俺、こいつ見たぞ!」

「どういうことだよ!どこで見た?!」

「いや、闘技場の中でだぜ!だけどこいつ攻撃くるたびに逃げ回ってたはずだぜ?」

「なんだよ、どっちにしても優勝じゃねぇか!この顔で攻撃避けまくりってよ!それで生き残ってんだからある意味すごいぜ?!しかもこの顔だ!」


『ぎゃはははは!』



「信じてくれましたか?僕が生き残った実力者だってこと」


「まぁ一応信じてやるがそれが何だってんだよ」

「はい、お前の武勇伝はもう終わり。俺たちゃ今日の功績を讃えあうことで忙しいんだよ。とっととどっかへ行った行った!」


男は犬を追い払うような動作でピエロを遠ざけようとするがピエロはそれに怯むことなく笑顔で話を続けた。


「いいでしょう。単刀直入に言いますね。3日後に予定されているマニエ2日目で生き残りたくはないですか?」


「はぁ?!そりゃ生き残りたいにきまってんだろうが!」

「生き残るイコール勝つ!だよな!そりゃ生き残りてーぜ。だがなぁ、残ってんのはローラス以上とそれ未満。徒党を組んだローラスに勝てるグラッドはほぼいねぇから、グラッドの中で殺し合うしかねぇんだよ」



「そうですね。でもそのローラスの数を減らして自分たちの席を空けることができるとしたら?」


「!!」


一同顔を見合わせている。


『ぶあははは!』


見合わせた後に同時に吹き出した。


「冗談はそれくれぇにしてそろそろどっか行けや。これ以上はしつこいぜ」


するとピエロ面の男は徐に少し離れた場所に置いてある小さな空きテーブルを持ち出した。

そしてテーブルの足を持ちながらグラッドのグループの方へ再度近寄った。


「それじゃぁ、ゲームをしましょうか」


「またおめぇか。しつけぇんだよ。いい加減殴るぜ」


「もちろんゲームに勝ったら賞金をお渡しするって感じですけどね」


「賞金?いくらだ?」


「10000ガルでどうでしょう?」


「い、10000ガル?!そんな大金貰ったら10日は働かずにここで好き放題飲み食いできるじゃねぇか!乗った!どんなゲームだ?」


「簡単ですよ。僕に攻撃を当てられればあなたの勝ち。逆に僕があなたに攻撃を当ててしまったら僕の勝ち。つまりあなたの負けで10000ガルは受け取れません」


「俺が負けたら10000ガル払うのか?」


「いいえ、いりません」


「は!バカにすんなよ。お前ぇみてぇなヒョロイやつに負ける俺様じゃねぇからな。俺が負けたら10000ガルお前ぇにきっちり払ってやるよ」


「いいでしょう。ビヤーン。じゃぁ準備はいいですか?」


「おうよ!」


「それじゃすみませんが、そこのあなた、スタートって言ってもらえますか?」


指名されたのは忍者着にマントをつけ長い黒髪をうしろで束ねた男だった。


「いいだろう。・・・・スタートだ」


「よっしゃぁ!!行くぜピエロ!」


ガタタン!


「!!」


グラッドの男は動きを止めた。

なぜなら、ピエロはテーブルを盾にしていたからだ。


「き、汚ねぇぞピエロ」


「盾を使ってはいけませんなど一言も言ってませんよ。使いたければあなたも使えばいいんですから」


そう言うとピエロはテーブルで全身を隠して隙間からグラッドの男を見ている。


「ちぃっ!そんな弱っちい手を使うかいボケ!関係ねぇ!テーブルごと殴っちまえばな!」


ボゴン!!


「痛で!!」


男は殴った拳の皮が剥けたのを見て苛立っている。


「くそ!こいつでどうだ!」


ドゴン!!


男は蹴りを食らわせた。

しかし、ピエロの構えているテーブルはびくともしない。


「生意気なヤローだ!うりゃぁ!」


ボゴゴン!!


男は連続で殴った。


「ちぃっ!!痛いぇな!このテーブルこんな固くて頑丈か?!」


男は拳から血がで始めたのをみて痛がっている。


「隙あり」


ドン!


ピエロは椅子を持って、椅子の足で男の拗ねを叩いた。


「イテ!て、てめぇ何しやがんだよ!」


ピエロに掴みかかろうとするがテーブルが邪魔で掴めない。


「おい!」


仲間のグラッドが声をかけた。


「何だよ」


「お前負けたよ」


「・・・はぁ?!」



・・・・・


・・・


数分後―。


弱々しいピエロ仮面がグラッドの屈強な男にゲームで勝ったと言うことで皆興味を持ったようだ。

ピエロを囲んで彼の言おうとしていたローラスに勝つ秘策を聞こうとしている。


「そこのあなた。さっきスタートの合図を出してくれた髪を後ろで結んでるあなたですよ。さぁあなたもこちらへ」


呼ばれた男は少し面倒臭そうにピエロの方へ近寄った。


「それで、ローラスに勝つ方法とは、先ほどのテーブルの応用です」


グラッドたちは聞き入っている。


「つまり、頑丈で大きめの盾を持って防御に徹するんです」


「だけどよ、今回はフェイター(1対1)だろう?複数人と戦った場合、背後とか側面からの攻撃を受けたらあっさりやられちまうんじゃないか?」


「さすがですねぇ。ですが、同じような盾を持った方が四人いたらどうなりますか?」


「!!四方の防御が可能だな!」


「その通り!そして相手の隙をついて盾と盾の間から剣でグサリ・・・」


『おお!』


酔っているせいもあるのかみんな驚いている。


「ちなみにこの盾で構えてみてください」


ピエロは自分の荷物を置いてある場所から一つの盾を取り出した。

大きな長方形で厚さは分厚い割には軽い。

上から50センチくらいのところに小さな穴が空いている。


「さぁ、あなたも」


ピエロはなぜ二つ持っていたのか分からないが、もう一つ同じ盾を用意して、別のグラッドの男に手渡して構えるよう促した。


「こ、こうか?」

「こんな感じか?」


「いいですねぇ!ビヤーン!そしてあなた、こちらのお二人に攻撃してみてください」


ピエロは別の男に攻撃するよう促した。

男は攻撃しようにも目の前には盾しかないため、途方にくれている。


ササッ!


男は素早く回り込もうとする。


ササッ!


だが、盾のふたりはほぼ同時に周りこんだ男の正面に盾を向けた。


「な、なんだ?!どうしてこっち向いた?まるで見えてるみたいだ」


「見えてんだよ!」


盾の男の一人が答える。


「この盾の穴からな。お前の行動が見えるんだって」


「汚ったねぇなぁ!」


間にピエロが立つ。


「そして、この盾。実はたくさんあるんです。ここにいる皆さん全員分くらいね」


「はぁ?!お前武具商人か?!」


「まぁそんなもんです。それでですね。この盾を持った人が10人。ドーム状に守りを固めたらどうなると思いますか?まるで亀の甲羅のようにね」


「鉄壁の守りだな・・・」


「そうですー。そして相手が疲れたり怯んだり、苛立ったり。とにかく動きを止めた瞬間にみなさんのその鋭利な剣で隙間からグサーリ!って具合にしたらどうですか?」


「き、汚ねぇ戦法だ」

「卑怯者だな」

「なんかダセぇな」


「なるほど。じゃぁこの盾と作戦。ローラスの皆さんに持っていくとしますね。多分ルデアスの皆さんから狙われるのを恐れて喜んで買ってくれる気がしますー。うんうん、それも高値でー」


男たちは顔を見合わせた。

ローラスたちならやりかねない、と思ったようだ。

そして彼らにこの作戦を奪われたらそれこそ、自分たちの勝機はほぼゼロになると言うことも同時に悟った。


「買う!いくらだ!ふっかけたら承知しねぇぞ!」

「採用だ!他に売るんじゃねぇぞ!」


「この盾・・・たったの100ガルです!」

 

「安いじゃねぇか!」


「薄利多売ですからー。僕、基本的に善人なので。慎ましやかに生きられればそれで満足なんですよ」


「よし買った!」


「ビヤーン!毎度あり!」



・・・・・


・・・



そうしてその酒場にいるグラッドたちはそのピエロから盾を購入し、こうして今10人ひと組となって亀の甲羅防御をとっている。

生き残ったグラッドの大半が酒場にいたため、ほとんどのグラッドは亀の甲羅作戦に参加しているという状態だ。


「てめぇら汚ねぇぞ!」


ローラスたちは方々で亀の甲羅作戦のグラッドたちを詰っている。


そうこうしている内に3時間が経過した。

観客たちは動きのない状況にブーイングを言い続けるのに疲れて、半分以上が帰ってしまっていた。


ピィィィィィィィィィ!!!


終了のホイッスルが鳴り響いた。


「本日のマニエは終了です。生き残った皆さんおめでとうございます。マニエ3日目は4日後になります」



・・・・・


・・・


―――グラディアートリアセンターオフィス内会議室―――



レンスを中央にして仕切っている運営メンバー20名が一同に介して議論している。

当然、本日の散々たる試合の状況をどう打破するかだった。


「こんなひどいグランヘクサリオス・・・いや通常のグラディファイスですらこれまでなかったぞ!」


「次に盾を使ったら失格にすべきだ!」


「それはいくら何でも無理だろう?」


「じゃぁまた今日の悲劇を繰り返すのか?最終的に客は5分の1まで減ってしまってたんだぞ!次回は観戦にこないかもしれないじゃないか!そうなれば収入が減り、王政府の逆鱗に触れるぞ。おそらくここにいる全員全て処刑だ」


「・・・・」


「黙ってても処刑に変わりはない。何か策を考えろ」


議論がかわされている中、総合プロデューサーのレンスは終始黙っていた。


(試合は酷かったがあまりに早い展開で作戦に支障が出るところだったから時間稼ぎができて逆にありがたかった。だが、次もこの状態はこの者たちが言う通りありえない。とすれば・・・。減る数を押さえながら盛り上げるためには・・・・)


パチン!!


レンスは指を鳴らした。

その音に一同が一斉に沈黙する。


「な、何か妙案が?!」


ひとりが口を開いた。


「ええ。要はマニエをフェイターにしてしまえばいいですよね」


「は??」


「私に考えがあります。羊皮紙とペンをここへ」


レンスは何かを書き始めた。


「ここでこうなって・・・と。こんな感じかね」


『!!!!』


「これは・・」

「面白い!」

「レンスさん、あんたやっぱり天才だ!」

「これなら客も喜ぶ!」

「これで行きましょう!」


「さぁみなさん!残すところ実質3日しかありませんよ!急いで準備に取りかかりますよ!」


レンスのヒラメキによってマニエ3日目の戦いのステージが変わろうとしていた。





あまりに忙しくまったく時間がとれずに遅れてしまいました。なんとか挽回したいと思います。

次は水曜日のアップ予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ