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<ゲブラー編> 124.ザイレンとグンターン

124.ザイレンとグンターン



―――革命軍幹部会翌日―――



「どうだ?これ作れるか?」


防音対策が施されている小さな密室でバルカンがザイレンに図の描かれた羊皮紙を見せて質問している。

他に聞かれてはならないとスノウから手紙で念を押されているため、盗聴なのができない部屋にザイレンと二人きりで話をしているバルカン。


「・・・」


ザイレン・ギーズは無口な男だった。

つなぎを着て丸い筒状の拡大メガネをつけてとり髪は黒で長い。

細身の体で髪をいつも後ろで束ねているので繋ぎではなく普通の服装をしていると後ろ姿は女性と間違えられるほどだ。


彼は革命軍のメカニックであり発明家だった。

元々は腕のいい鍛冶屋で基本的には革命軍の戦士のために武器を作っていた。

中でもバルカンやマインには名剣を鍛えるなど頼られる存在として革命軍の幹部にまでなった男であり、彼なくして革命軍の現在の戦力はないと言ってよいほどだ。

一方で蒸気機関に衝撃を受けて発明家として目覚めて以降は、主に蒸気機関を使った便利な機器を作っている。

例えば、炎魔法で点火すると蒸気機関で色々と機械が動き自動でコーヒーを淹れてくれるものや、洗面台の前にある着火ボタンに炎魔法で点火すると自動で歯ブラシが出てきて歯を磨いてくれるもの、ナラカの第1層から第3層までをつなぐ蒸気機関で動く昇降機など様々な発明を行っている。


だが、残念なことに蒸気機関を使った発明機器の成功率は10%だった。

自動でコーヒーを淹れてくれる機器は10回中9回は異常に薄いコーヒーだったり、ドロドロのペースト状のものが出てきたりする。

それでマインはコーヒーが嫌いになった。

自動歯磨き機は凄まじい勢いで歯ブラシが飛んできたことでマインの前歯が欠けたこともあった。

ナラカ昇降機にいたっては、登りボタンを押したにもかかわらず急降下し第3層の地面を突き破って第4層まで落下した。

当然その大失敗の際もマインが餌食となったのだが、マインほど体を鍛えたものでなければどうなっていたか想像するだけでも恐ろしい。


そんな恐ろしい実験台にマインが名乗り出ているのはザイレンが自分の名剣を鍛えてくれたお礼と言っているが、さすがに失敗が続いているので最近は発明品が出来上がる頃になると寝れなくなるという。



「それでどうなんだ?」


「作れる」


ザイレンにとって 「作れない」 と言うものはなかった。

10%の成功率だが、なんでも作ってしまうのがザイレンだった。

だが、今回流石のザイレンもいつもの 「作れる」 という決め台詞が出るまでに時間がかかってしまう。


「そうか。じゃぁ助っ人が必要だな」


バルカンはザイレンの数秒の沈黙で彼が珍しく自信がないことを見抜いた。

ザイレンはそれを悔しがることなく、目の前に示された図を見てほんの少し笑みを浮かべている。

これは彼なりに興奮している姿だった。

それもそのはず、羊皮紙に描かれた図はスノウが描いたものだったのだが、そこに描かれていたのは戦車のようなものだったのだ。

見たこともないものであったが、その効果の凄まじさは見てすぐわかった。

そしてそれを作りたいと心の中から思ったのだ。

たとえ誰かの手を借りたとしても、作ってみせたいという欲求が彼の発明心を刺激した。


「助っ人は誰だ?」


ザイレンが質問した。


「なんだ、“自分一人で作れる 助っ人など不要” とか言うのかと思ったぜ」


「それなりの者でなければ不要だ」


「成功率10%の発明家のくせによくいうぜ。まぁいいよ。それくらいじゃなきゃな。実は心当たりがあるんだ。ついてきてくれ」


バルカンはザイレンを連れて早馬を走らせた。



・・・・・


・・・



バルカンが向かった先は、旧ゲキ王国領にあるミグという農村だった。

元々はゲキ王国の首都ゲキルがあった場所だが、100年前にゾルグに滅ぼされて以降廃れて、再興されることなく放置されたところにできた小さな農村だった。


そこからさらに10キロほどログル山の方へ進んだところにけたたましい音を立てている小屋に向かった。


ガコン!!ガコン!!


「これは?!」


ザイレンは馬車から見えるその小屋を見るなり、止まる前に飛び降りて小屋の方へ走っていった。

バルカンはそれをみて叫ぶ。


「おいこら!ザイレン!」


後ろ姿は女性のように見えるのだが、その走りはまるでアスリートのようだった。

バルカンは急いで馬車を止めてザイレンを追いかける。

ザイレンが食いついた理由はその小屋の横にある大きな蒸気機関があったからだ。


「素晴らしい!」


ポン・・


バルカンがザイレンの肩に手を置く。


「助っ人ってのはこれを作ったやつだ」


ザイレンの目の色が輝き出す。

感情表現は豊かではないが、これは明らかに最高潮に喜んでいる。

バルカンは小屋の扉を開けた。


「セイバルじいさん!いるかい?」


ガタタン・・


奥の方から物音が聞こえた。


「ん・・誰じゃい、人の家に勝手に入ってきおって脳スカポンタンが!」


「相変わらずだなじいさん」


「ん・・・お、おお!!お前は・・・誰だったかいの」


ズコー!


「おい!じじい!」


「わっはっは!冗談じゃわい!なんじゃバルカン!久しいではないか!」


「ああ!じいさんも元気そうだ」


バルカンが訪ねたのは、かつて孫を失い啖呵を切ってジグロテを飛び出した発明一家の祖父セイバル・グンターンだった。

セイバルとその父が蒸気機関技術で治水器や食材加工器を発明してジグロテの街を発展させたのだ。


「お前さんがここに来たってことは・・・いよいよなのか?」


「ああ」


急にセイバルは真面目な顔でバルカンに問いかけ、バルカンもまた真面目な顔で答えた。


「じいさん。あんたの力が必要になった。力を貸してくれないか?」


セイバルはバルカンの目をしばらく見たあと、視線を外しタバコを加えて指で炎魔法で火をつけた。


「ふぅーーー」


タバコの煙が部屋に充満する。


「もちろんじゃ・・・と言いたいところだが・・・無理なんじゃ」


「な、なんでだよじいいさん!あんなにヘクトルを憎んでいたのに!・・・まさかしばらく会わないうちに心変わりでもしたかよ?!」


「んなわけあるかい脳スカポンタンが!」


「じゃぁなんでだよ!」


「無理なんじゃよ・・・こんな腕ではな」


そういってセイバルはポケットから腕を出した。

そこにはあるはずの手がなかった。


「!!・・・どうしたってんだ!その手!」


「鬼神に落とされた」


「鬼神?!」


「ああ。恐ろしい顔をした鬼神だ。鬼神シュテンとか言うたかの。その恐ろしさたるや、鬼神を見た者たちはみな小便ちびっとったな」


「なんだよ・・・そん鬼神シュテンて・・・オレがその罪を償わせてやろうか・・・」


「いらん!話は最後まで聞け、脳スカポンタンが!その鬼神は悪もんじゃねぇ。わしの孫を救ってくれた恩人じゃ。いってみりゃありゃ悲しみの怒りじゃな。まぁわしが無茶したせいでこの手は切り落とされたんじゃが、おかげで孫を救えた。わしは感謝しておるんじゃよ」


「聞けというわりには話が見えないが、まあじいさんがそういうならわかったよ。だが残念だ。このザイレンが作ろうとしているとある物の製作を手伝ってもらおうと思っていたんだが」


「ザイレン?ああ、お前さんが有名なあの名鍛冶屋ザイレンか。なんじゃい見せてみい!」


ザイレンは表の蒸気機関を作った老人に尊敬の念を抱いており軽くお辞儀をしたが、お構いなしに持っていた羊皮紙を奪い取られた。


「・・・・・・・」


セイバルはスノウの描いた図を見ながら無言になった。

ザイレンがこの図を見た時と同じような反応だった。


「納期は?」


「半月」


「・・・・・・・」


セイバルはさらに沈黙した。


「作れるぞい!」


「ザイレンと同じ反応だな。本当に作れるのかよ。しかもそんな手で」


「馬鹿者が。わしじゃない」


「じゃぁ誰だよ」


「もうすぐ帰ってくるころじゃな」


と言い終わった頃に扉が勢いよく開けられた。


「ただいまじいさま」

「ただいまじいちゃん」


「こやつらじゃよ!わしの可愛いクソ生意気な孫たちじゃ!」


『?』


セイバルが孫と表現した二人の若者はキョトンとした表情を浮かべている。


「わしの孫、エイジとテスレンじゃ!」


小屋に入ってきたのはセイバルの孫、エイジ・グンターンとテスレン・グンターン兄弟だった。

兄弟といってもの本当の兄弟ではない。

セイバルの本当の孫はエイジのみで、テスレンは養子だった。

元々はエイジの弟はグリエルと言う名の少年だったが、とある事件に巻き込まれ死亡している。

テスレンは衰退する前のグンターン家の使用人の子だったグリエルとは幼馴染で兄弟同然のように育ったが、グリエルと同様に殺されかけている。

身よりもないため、セイバルがテスレンを養子としたのだった。



それぞれ自己紹介をした後、スノウの描いた図を見ながらああでもない、こうでもないと色々と議論を交わし始めた。

普段は無口なザイレンが活発に意見している。

もちろんエイジやテスレンに触発されてのことだろう。


議論は半日続いた。


・・・・・


・・・



「うむむ・・・この図を描いたのは何者じゃ?」


「スノウと言ってな。まぁ会って間もないんだが、なんつーか親友だな。前世で親友だったみたいな感じだ」


「そうか」


「どうかしたのか?」


「どうもこうもねぇよ。これすげぇぜ。腕がなる!・・・だが!」


エイジがやる気を見せるが険しい表情を浮かべた。


「わしの孫のエイジとテスレンが蒸気機関で動力を作ることができる。そして名鍛冶屋ザイレンは装甲を作れる。じゃがなぁ」


「じゃがなんだよ」


「動力を実際に走らせるようにするための駆動力に変える技術者が足りんのじゃ。いや、時間さえあればわしらでも作れるが、短期間で作るのはちと厳しい」


「無理ってことか・・・」


「無理とは言っておらんじゃろうが、この脳スカポンタンが」


「その脳スカポンタンってのやめろ。なんかショックだ」


埒があかない会話に苛ついてきたのかガンを飛ばしているバルカン。

それを見かねてエイジが割って入ってきた。


「すまねぇ、バルカン。でも本当に厳しい。2ヶ月あれば作る自信はあるが」


「諦めるのは早いぞエイジ」


「まさか?!」


「そのまさかじゃ」


「なんだよそのまさかって」


バルカンの質問に目を瞑って答えるセイバル。


「わしの父が技術を学んだ師匠がおった。ある日忽然と消えてしまったがな。その師匠は蘇虎ストラという技術者集団を組織してこのゲブラーに様々な技術を伝えた。蒸気機関もその中のひとつじゃ」


「じゃぁその師匠・・・つっても消えちまったんだよな・・・」


「ああ。じゃがその師匠には孫がおってな。優秀なエンジニアじゃ。あの者なら半月で駆動系のカラクリを作ってのけるじゃろうな」


「だれだよ、もったいぶんなって」


「ジュウザじゃよ」


「!!・・・ジュウザってあのジグヴァンテの終わらない王城を作り続けているっていう有名なドワーフのジュウザか?」


「ああ、そうじゃ」


「あいつがいれば間違いねぇ!・・・だが問題は・・・」


「そうじゃな・・あやつが首を縦に振ってくれるかじゃ」


「た、確かに・・。王城作っているってことはゾルグ王政資金で食ってるようなもんだしな・・・。万事休すか・・・」


「案ずるな。今らかジュウザの元へ向かうぞい。エイジ、テスレン、そしてザイレン。お主らはそれぞれやるべきことを初めておけい。スノウとやらの発想力は異常じゃ。だが、実現できれば相当な軍事力になるだろうて。図は壊滅的に下手くそじゃがの。ほんでバルカン。お前さんはわしと一緒に来い」


「わ、わかった!」


セイバルとバルカンはジグヴァンテに向かった。






次は火曜日のアップですが日にちがずれ込む可能性あります。

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