<ゲブラー編> 123.グレン、メザナ悲しみの帰還
123.グレン、メザナ悲しみの帰還
ザラメスはメザナの遺体と父グレンの生きた腕をゼーゼルヘンに見せた。
そして、メザナが自分の命を犠牲にしてまで手に入れたマルトス卿とヘクトルの繋がりを示した手紙もゼーゼルヘンに見せた。
「・・・・・」
ゼーゼルヘンはしばし無言のままそれらを見ていた。
そして優しい顔でザラメスを見た。
「よくぞ戻られました。ザラメス様。あとはこのゼーゼルヘンにお任せください」
「そ、そうはいかないよ。これは私の責任だ。私の責任でディルさんに伝え、謝らなければならないし、父上のこの状況は私の口から叔父上に伝えなければならないから・・・」
「ザラメス様・・・」
・・・・・
・・・
2時間後、ディルやニーラ、ウーラ等メザナをよく知る者たちがグレン邸にやってきた。
「!!!・・・メ、メザナ・・・」
ディルはメザナの遺体に目をやると自身の髪を掻きむしるような動作をした後、突然ザラメスの襟首を掴んだ。
ガタタン!!
「ディル!」
ゼーゼルヘンが叫ぶもザラメスは手のひらをゼーゼルヘンの方へ向けて制した。
「あなたがいながらどうして娘がこんなことに!!!あんたは何をしていたんだザラメス!!!」
ボゴォォォン!!!
凄まじい勢いでディルはザラメスを殴り飛ばした。
「ディル!!!」
他の者たちが止めに入ろうとするが、ザラメスはそれを制した。
口元からは血が滴っている。
「説明しろ!!」
ボゴオォォォン!!!
再度ディルに殴られて吹き飛ぶザラメス。
ディルの悲しみの拳を顔色ひとつ変えずに受け続けるザラメス。
五発ほど喰らったところでディルはザラメスの胸に顔を埋めて泣いた。
「ディルさん・・・私のせいです。もっと殴ってください・・・」
「なぜだ・・なぜだ・・・くそぉ!!!」
ディルはそのままひれ伏すように額を床に押し付けて床を叩いている。
ニーラ、ウーラ、ジャーニ他皆涙している。
しばらく悲しみの声が部屋に響いた。
・・・・・
・・・
「これがザラメス様がメザナから預かった彼女の突き止めた情報です」
ゼーゼルヘンはマルトスがヘクトルに宛てた手紙をディルに見せた。
「・・・」
ディルは無言だった。
そしてゼーゼルヘンに一礼して外へ出て行った。
ディルは目線の先、湖畔のベンチに座っているザラメスを見つけてそちらへ歩いていく。
「ザラメス様、座っても?」
「ええ・・・」
ディルはザラメスの隣座り湖を眺めている。
しばしの沈黙のあとディルが口を開いた。
「ザラメス様・・・あんな風に綺麗な遺体で連れて帰ってきてくれてありがとう。知っての通り俺たち諜報員は、任務のたびに死を覚悟する。当然まともな死に方なんて期待しちゃいけないし、自分の遺体が五体満足に残るなんて思ってない。ましてや今回はヘクトルの秘密に迫ったて話じゃないか・・・。そんな中であんなに綺麗な姿で戻ってきてくれた・・・うぅぅ・・さっきはすまなかった・・・だが・・・」
「いいんです。ディルさん。ああするしかない。私があなたでも同じことをしましたよ」
「だが!この任務に送り出したのは俺だ!・・・殴られるべきは・・・俺なのに・・・」
「だからこそ・・・メザナの死を無駄にしないように必ず活かすんです。そしてスノウたちと共にこの世界をヘクトルの支配から解放する。確かにマルトス卿の悪巧みはヘクトルがいなければ成立しなかったことになる。まぁあの守銭奴はそれはそれで別のことを考えたかもしれないけど、少なくともゼシアス卿が愚かな研究に没頭し、父上が影響を受けることもなかったでしょうし、メザナもあのような死に方をすることはなかったでしょう・・・」
「成長したようだね・・・ザラメス様は。逆に何の成長もないのは俺の方だ・・・」
「・・・・」
「だが、その通りだ。娘の死を無駄にするようなことは許されない。ラガンデ総帥としても父親としても。必ずヘクトルを倒し、そしてマルトスやゼシアスのような排除すべき上流血統家も倒し、エルフが幸せに生きられる世の中を作る・・・。じゃないと死んでも追い返されてしまうな」
「ははは・・・メザナならそうするでしょうね・・・」
「ザラメス様・・・ラガンデは何があっても共闘軍に参画するよ。既にソニアさんからスノウさんの手紙を貰っていてね。ゼーゼルヘンさんにも同様に・・・。そこには俺たちの果たすべき役割が書いてあった。俺はそれを全力でやり遂げるつもりだ。協力してくれるかい?」
「もちろんです」
「ありがとう!・・・でもあなたにはあなたにしかできない役割があるだろうから、その時が来たら遠慮なくその場に向かってくれて構わない」
「ありがとうございます」
・・・・・
・・・
―――翌々日―――
ザラメスとゼーゼルヘンは父グレンの生きた腕を持って首都クリアテに訪れていた。
目的は父グレンの死の報告のためだ。
報告する相手はザラメスの祖父であり、グレンの父のルグウェル・バーン・エヴァリオスだ。
そして今、巨大な屋敷の前にいる。
「待て。お前はザラメス。こちらはエヴァリオス家当主ルグウェル様のお屋敷だぞ。お前のような半端者が来て良い場所ではない。立ち去れ」
守衛と思われるエルフがザラメスとゼーゼルヘンを止めた。
ゼーゼルヘンが前にでようとするがザラメスはそれを制した。
「いかにも。私はザラメス・バーン・エヴァリオス。グレン卿の息子であり、この屋敷におられる叔父上と話せる立場にある者。此度は叔父上にどうしてもお伝えしなければならない話があり参った。通されよ」
「くどい!ここはお前の来る場所ではない!お前のような者がエヴァリオスを名乗るなど、不届き千万!立ち去れ!」
ザラメスから高貴なオーラが発せられる。
「通されよ」
守衛たちは硬直して汗を滴らせている。
目の前にいるザラメスから普段ルグウェル卿から発せられるものと似た高貴なオーラが出ており恐縮してしまったのだ。
「通してもらうよ」
ザラメスとゼーゼルヘンは屋敷に入って行った。
ゼーゼルヘンを玄関を入ったところで待たせてザラメスのみ歩いていく。
いくつかの階段と長い廊下を歩いて豪華な扉の前に立つふたり。
コンコン・・・
「誰だ」
「ザラメスにございます。大事なご報告があり無礼は承知の上で伺いました」
「帰れ」
予想通りの返答だ。
しかしザラメスは引かない。
「いえ、入らせて頂きます」
ザラメスは重く大きな扉を開けた。
広い部屋の奥、美しい机にこちらを向いて座って、ルグウェルはなにやら書類に目を通していたが、強引に入ったザラメスを見て刺すような荘厳なオーラを放つ。
「貴様のような混血がこの屋敷に入ることをなど私は許可していないぞ」
怒りが混じった重々しい声でルグウェルが言い放った。
「叔父上、お久しゅうございます」
「貴様にそのように呼ばれる筋合いはない。帰れ」
「いえ、帰りません」
ギロリ・・・
ザラメスの反抗的な言葉に怒りを露わにするルグウェル。
「死罪をも厭わぬ覚悟・・・でよいのだな?」
「死ぬ言われもございませんが、このことを伝えずに去ることはできません。そういう覚悟と受け取っていただけて結構です」
「ふん・・・用件はなんだ」
「はい。父グレン卿の帰還と今このゼネレスで起こっている状況、そしてゲブラー全体で起ころうとしていることについてです」
「グレン?・・・どこにいるのだ?」
「ここでございます」
ザラメスはグレンの生きた右腕の入ったビンを差し出した。
「私を揶揄っているのか?」
「いえ、これは我が父グレンの右腕にございます!」
「・・・・・」
ルグウェルは腕に記されたエヴァリオス家の紋章を見て、自分の腕にあるそれと見比べた。
「脈を打っているように見えるがなんだこれは」
「はい。どのような技術かはわかりませんが、腕だけでまだ生きております」
「説明しろ」
ザラメスはグレンの身に起こったであろうことを説明した。
おそらくヘクトルの体の一部と化しているであろうことや、マルトスがヘクトルと通じて、ゼシアスが利用され、ゼシアスによって記憶を失うこととなったグレンが、友人モウハンの死の真相を確かめるべくゾルグへ向かったことも、グムーン自治区とは名ばかりでマルトスが私腹を肥やすために作った街であり、ゼシアスの賛同もそのきっかけとなっていることも説明した。
しばらく無言だったルグウェルは重い口を開いた。
「我エヴァリオス家からこのような姿に成り果てた者が出るとは実に嘆かわし。恥ずべきことだ」
「!!!」
思いもよらぬ言葉にザラメスは驚く。
自分の息子がこのような仕打ちを受けたことに怒りを見せるどころか、自分の子を恥じているその神経を疑った。
「どうやら報告する方を間違えたようです。いえ、父にはもはや死を悼んでくれる人がいないこともわかりました。先ほどの話はどうぞ忘れてください。あなたには関係のないことだとわかりました。私を死罪にしたいのならどうぞお好きになさってください。ただ、私にはやり遂げなければならないことがあります。罰はそれ以降にしていただきたい。逃げもかくれもしません。私は誇り高きグレン・バーン・エヴァリオスの息子ですから」
そう言い放つとザラメスは父の腕の入ったビンを持って部屋を出ようとする。
「使用人の子風情がイキがるな。貴様は死罪だ。だが、真相を突き止めエヴァリオス家のものにそのようなことをした不届き者を連れてこい。それまでこのエヴァリオスの領地に入ることは許さん」
「!!!」
ザラメスは深々の頭を下げて部屋を後にした。
・・・・・
・・・
帰路に着く馬車の中でゼーゼルヘンはザラメスに状況を確認する。
「いかがでしたか?」
「何も期待はできないでしょう・・・。まぁ元々何かを期待していたわけではないから。でもあの人なりの息子の死への悼みを表現はしていました」
「そうでしたか」
「さて、これから忙しくなりますよ。私にしかできないことが山ほどありますから!」
「そうですね。このゼーゼルヘン、どこまでもお供いたします」
「ありがとう!」
ザラメスはディルが率いるラガンデと共にスノウや革命軍と共闘する準備入った。
・・・・・
・・・
―――ゾルグ王国 エンブダイ内アムラセウム―――
グラディファイス・プロモーターのレンス・ジャニーンによって組まれたプログラムの準備が着々と進んでいた。
開催まで1週間に迫り、出場者の締め切り間近となっている中、出場者数は過去最多の1157名となっていた。
「さぁラストスパートよろしくお願いしますよ!」
会場の設営や対戦表、トーナメント表などの準備、当日の出店などの設営などレンスの指示に基づき様々に分担し、準備が進んでいる。
「レンスさん、そろそろお時間です」
「わかりました」
これから重要な対戦カードを決める会議に出席する。
対戦カードといっても第1ステージのカードだ。
今回、以下のようなステージでエンカルジス(優勝者)を決める。
・第1ステージ
10人制マニエ(バトルロイヤル)
最後の一人となるまで戦い勝者が次のステージへ進める。
・第2ステージ
5人ひと組みのジャダ(チーム戦)
制限時間内でチーム戦を行い、終了時点で生き残っていて戦闘可能状態の者の人数が多い方が勝ち。
戦闘可能状態の者が次のステージへ進める。
・第3ステージ
トーナメント形式のフェイター(1対1の対戦)
ここで順位を決める。
グラディファイスに八百長やヤラセはない。
レンスが認めていないことと、それを許すとよからぬ組織が介入してヘクトルの逆鱗に触れる可能性があるからだ。
だが、対戦カードは運営サイドで調整できる。
もちろん王政からの要望も多々入ってくる。
貴族の誰々がこの対戦カードを見たいなどといった具合だ。
そここそ、プロモーターの腕の見せ所であるため、第1ステージの組み合わせが慎重に行われていた。
レンスは革命軍の幹部でもあるため、可能な限り革命軍側のメンバーを温存させることと、どこにも属さない強者をなるべくヘクトル陣営側に当てるような対戦をさりげなく組んでいた。
ヘクトル側で対戦させるのが良いように見えるが、それは事前のチェックで変更させられる上、レンス自身が怪しまれる可能性が高い。
そのため、ヘクトル陣営同士の対戦はなるべく避ける代わりに強者を当てるようなカードにしていた。
(ムルとホプロマが出るとはな・・・。向こうさんも必死ってことね。まぁ反乱共闘軍が半数以上占めればいいわけだから、第3ステージで実力見ながら上手く蹴散らすしかないねぇ)
レンスは思案を巡らせていた。
そしていよいよ、グランヘクサリオスが開催される。
次は少し空いてしまいます。火曜日のアップですが、wikiToFは更新したいと思います。




