<ホド編> 11.亀
11.亀
ーーーダンジョン組ーーー
ダンジョン組はアレックス、ワサン、エスティの3人となった。
3人は、三足烏を警戒しているガルガンチュアのキュリアメンバーが安全と判断したルートを辿ってダンジョンに入る。
そしてまずは指蛇が到達していた66階層までたどり着く。
この3人、特にアレックスとワサンならこのレベルの階層にたどり着くのは造作もなかった。
アレックスは恐らくここからさらに深く潜った先に鍵があるに違いないと考えていた。
何なく66階層まで辿り着いた一行は、身を隠せる奥まった場所を待機場として世界蛇組からの連絡を待つことにした。
ーーー世界蛇組ーーーー
場面は変わって世界蛇組。
メンバーはエントワ、ロムロナ、ニンフィー、スノウの4人だ。
作戦会議の後すぐにヴィマナで潜行して移動を開始したのもあり、夜明け前にはかなりの距離を移動できた。
「よし、このまま海底神殿まで向かいます」
「エントワ、前方約10km先に海流の大きな乱れがあるようねぇ」
レーダーを見ながらロムロナが答える。
「これ何かしらね‥‥大きな影が見えるよ」
エントワはニンフィーが見つけた影を見てみるが、確かにレーダーの縮尺からいってもかなり大きな黒い影が少しずつ動いているように見える。
「ふむ。こいつは珍しい。この場に若がいなくてよかったですね。見つけようにもなかなか見つからない ”あれ” の登場のようです」
(まさか!四獣神の一角を担う例の亀か!)
「まずいわねぇ‥‥亀ボウヤ、こっちに気づいたみたい。‥‥漆市を壊滅させた破壊力だからこのボウヤのくしゃみ一つで海流がねじ曲がって海中が大惨事ね。‥‥巻き込まれたら如何にこのヴィマナが頑丈でも制御不能に陥ってダメージを受ける可能性があるわねぇ」
「ええ、回避ですね。浮上して迂回しましょう。制御を失って海底に激突する場合、船体破損で一気に海水が流れ込むと水圧で大きなダメージとなる。多少ダンジョン組を待たせることになるが、仕方ありませんね」
(潜水艦が水圧で船体が一気にひしゃげるやつだな。レアな亀らしいからこの目で見てみたかったけどまぁいいや。死ぬよりマシだ)
ヴィマナが広い上、安定的に潜航しているため潜水していないように感じるが、居る場所がもし潜水艦だったら浮上以外の選択肢は無い。
なぜなら閉所恐怖症でもあるスノウにとって水圧でひしゃげて押し潰されることほど恐ろしいことはないからだ。
そんな恐ろしい状況になることに比べたらレアな亀を見逃すなどどうでも良いことだった。
ヴィマナが一気に浮上を開始する。
「浮上後3時方向へ進行し、対象から10kmの間隔を維持」
「了解」
余裕の表情で操舵対応するロムロナ。
(たしかアレックス曰く一流の操舵手らしいから安心か‥)
ウォォーーン ウォォーーン ウォォーーン
突然船内に警報が鳴り響く。
「計器が全て正常に機能していない!」
何を表しているかわからないが、様々な計器が激しく振れている。
「電磁波のようなものを発したわね。ということは‥‥」
「そうですね、来る!奴のくしゃみが!」
(くしゃみ?!巨大亀のくしゃみ!映画で見た巨大亀ギャメラーレベルがくしゃみするのを想像したら、そりゃぁやばい!)
「ロムロナ!パワー全開で9時方向へ旋回!そのまま直進してください。ニンフィー光子砲を100%充填で待機、ガーズ!起動パワーを無限エンジンに回して120%で維持!」
「バカでガースか!エントワ!そんなことしたら焼き付いちまう!このエンジン壊れたら直す術がねぇんザマスガスぞ!」
スピーカーからガースの怒鳴り声が聞こえる。
「頼りにしてますよ!」
「クソッタレーー!高級エールおごるでガースよ!」
「大津波くるわよぉー!!」
「スクリーンへ!」
目の前にある巨大なスクリーンに映像が映し出される。
『!!!』
一同が絶句する。
東京タワーくらいの大津波がものすごいスピードで迫って来ていたからだ。
(こ、こんなのに飲み込まれたらいくらヴィマナとはいえ木っ端微塵では?!)
「だ、大丈夫なのか?!」
スノウの心配コメントに付き合っていられる余裕は他のクルー達には無かった。
「ニンフィー光子砲発射用意!」
「ええ!」
(光子砲‥‥なんかレーザービームみたいなやつか?しかしどこに撃つんだろう!)
何もできないスノウを余所に、大津波はあと数秒で到達しそうなところまで迫っている。
「用意‥‥」
一同の鼓動が高鳴る。
ブリッジ内に緊張が走る。
「発射‥‥」
落ち着いた声のエントワの合図とともにスクリーンが眩しく光る。
ヒュゥゥゥゥゥン‥‥‥‥ドヴァッシャー!!!!
直後、一筋の光が前方の大津波に直撃し、接触した部分の大津波を一瞬で蒸発させる。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!」
あまりの壮大且つ激しい映像にスノウは思わず叫んでしまった。
「ロムロナ!一気に抜けますよ!全員衝撃に備えてください!」
「わーかってるわよぉぉぉ!」
大津波と並行して移動していたヴィマナが90度急旋回し蒸発した大波の切れ目に突っ込む。
ものすごいGがかかり思わず転びそうになる。
「ロムロナー!エンジンが焼けちまうガース!!」
「ふぅーふぅーでもしてなさぁい!」
「わかったでガース!」
「わかったんかい!」
ドガガガがガガーーー!!!!
凄まじい衝撃がヴィマナを襲う。
ヴィマナ全体が揺さぶられているためブリッジがまるで回転するジェットコースターの様に激しく揺れる。
必死に掴めるところにしがみ付いているが、激しく続く振動で脳震盪を起こしそうだった。
大波がどんどん繋がっていく。
「ぬ、抜けられるのかぁぁぁヴィマナはぁぁぁぁ!」
スクリーンが大波に飲まれたような状態になり周囲の状況が掴めない。
ドガがガガーーー‥‥‥‥
・・・・・
・・・
「ふぅ‥‥」
ロムロナがぐったりしている。
椅子の背もたれに寄りかかり両手をだらんと力なく放り出している。
「抜けたようですね。報告願います」
「計器に異常なしねぇ‥‥」
「ヴィマナ船体、各区域ともに異常なし」
「無限エンジンもなんとか持ってくれたでガースよぉぉぉ、ガガガー!」
「みなさん、ご苦労でした。なんとか回避できたようです」
(す、凄い‥‥こいつらすごい!)
なんという判断力と連携力だろうかとスノウは思った。
サラリーマン時代にはもちろんこんな危機的状況はなかったが、先ほどの出来事に比べるべくもない仕事程度ですらここまでの判断や連携が即座にできるものだろうか。
スノウは、少なくとも自身の十数年のサラリーマン人生においては一度も見たことがなかった。
社長含めて。
スノウは無意味な比較を頭の中でやりながら感動にうち震えていた。
「後方をスクリーンへ」
大津波が連なってものすごいスピードで過ぎ去っていくのが見える。
スノウにとっては津波の後ろ側をみるのも初めてだったが、海面が盛り上がってうねっているようだった。
「エントワ!」
ロムロナが叫ぶ
「スクリーンを前方に変更」
『!』
(で‥‥でかい!)
映し出されたものを見て驚愕する。
日光に照らされて眩く輝く綺麗な緑色の巨大な亀がこちらを見て静止しているのだった。
「どうするエントワ?もう一度光子砲撃ち込む?」
「待って!撃ってはだめだ!」
思わずニンフィーを制止する。
黒服の女に四獣神を殺すなと言われたからだった。
光子砲が通用するのかわからないが、万が一巨大亀を破壊してしまった場合、とんでもなくまずいことになるはずとスノウは考えていた。
「そうですね、亀も動きがない。少し様子をみましょう」
キィィィィィィン
『空っぽの意識よ‥‥』
「うわ!」
突然頭の中に大音量ヘッドフォンのように甲高い声が響く。
「どうしましたか!スノウ殿!」
耳というより頭に大ボリュームで直接語りかけるような声と共に頭痛が発症するほどの耳鳴りが劈いた。
立っているのも辛くなるほどの痛みにも関わらず、スノウ以外は平然としていた。
エントワたちには聞こえていないようだった。
「だ‥‥誰だかわからないけど、少し小さな声で話してくれ!」
『空っぽの意識よ‥‥』
やっと普通に聞こえるボリュームになった。
『呪われた水の子は何処に‥‥‥‥』
(アレックスのことか?‥‥何て答えればいい?!)
「か、彼はここにはいない!彼がどうかしたのか?!」
『その時が近づいている‥‥』
「その時ってなんだ?!」
ズザザザザァザァアァァー
スクリーンに映し出されている巨大亀が水中に潜り始めた。
「衝撃に備えてください!」
ズザザザァァァザァァァァザァァァァァ‥‥‥
巨大亀のくしゃみの大津波ほどではないが亀が潜水した際に起こした大波はそれなりの衝撃があった。
「スノウ殿、何かあったのですか?」
「あ‥‥うん、なんか声が聞こえたんだけど‥‥たぶんアレックスのことだと思うんだけど、呪われた水の子はどこだっていうのと、なんかよくわからないけど、その時が近づいているとかなんとか‥‥」
「うーん、それだけじゃぁわからないわね。確かに船長さんと巨大亀には因縁というかなんらかの繋がりがありそうだけど‥‥」
ニンフィーも分からないようだ。
「まぁ何れにしても若がこの場にいなくてよかったというべきですね」
「そぉれもそうねーウフフー。さっきはスノウボウヤが光子砲止めたけど、アレックスボウヤがいたら間違いなく、なんの躊躇もなく撃ってただろうしねぇ」
ロムロナが銃で狙いを定めて撃つ仕草をしながら答える。
(確かにそうだな‥‥親を殺されたアレックスなら躊躇なく撃っていただろうな‥‥)
「よし、それでは再度潜行、改めて海底神殿へ向けて発進」
潜行していくにつれて海中の衝撃の凄まじさが見えてきた。
濁っている中で大小問わず魚のような生き物やクジラみたいな哺乳類的ないきものがズタズタになっているのがスクリーンで見てとれた。
海底も大きく抉られたような跡がある。
その影響範囲もかなり広い。
恐らくあの大津波が来た衝撃を海中で受けていたら、さすがのヴィマナでもねじ切られて大破していただろう。
容易に想像がつくほどの有様だった。
「この先は緊急事態もないでしょうから交代で休みましょう」
・・・・・
・・・
スノウは、ロムロナに教わりレーダーとスクリーンを見ながら航行に問題がないかの見張りを続けた。
4時間見張りを続けた後、交代し眠ってから約5時間が経ったころに呼び起こされた。
「さぁてぇ、着いたみたいねぇ」
「巨大亀の時もそうだったけど、この海底神殿からももの凄い魔力を感知しているわ。恐らくスキャンは出来ない‥‥」
寝ぼけ眼でロムロナとニンフィーの会話を聞きながらスクリーンに目をやる。
「な、なんじゃぁありゃぁぁ!」
海底神殿というより蒼市のような巨大都市が沈んだものがスクリーンに映っている。
違いは蒼市のような立派な建物が壊滅的な状態になっているくらいだった。
「こ、これって‥‥」
「そうよ、これは今朝現れた巨大亀ロン・ギボールによって滅ぼされたホドカン、漆市の成れの果て。元老院はこともあろうにそこに世界蛇を閉じ込めたってわけ」
「だけど、確かにこの崩壊した漆市は巨大だけど、世界蛇というくらいだからこれに収まるのかな‥‥?」
「いい質問ね、スノウボウヤ。どうやって牢獄にいれたか、そしてその牢獄とやらに収まるほどの大きさなのか、元老院しかわからない話ねぇ。でももうすぐ見られるわよぉー。殺されちゃうかもしれないけどねぇ、ウフフー」
意地悪そうな顔しているロムロナが楽しそうに答える。
(イルカ女め‥)
「ソナーもレーダーもロゴス系で探ることも難しそうですね。ロゴスでもクラス6以上の魔法が使えれば別だが、今の我々にはそれも難しい。よって直に探る必要がある。行ってくれますか?ロムロナ」
「そのために世界蛇組できたんじゃなぁいー。じゃぁちょっと着替えてくるわねぇー。覗いてもいいわよぉー?スノウボウヤ」
「覗くかァ!エロババァ!」
嬉しそうに転送装置に向かうロムロナ。
20分ほど経ってからスピーカーから声が聞こえる。
「ザザ‥‥今から海底神殿に向かうわねぇ」
「くれぐれも無茶はしないようにね?ロムロナ」
相手は世界蛇だ。
何が起こるか分からない状況に、流石のニンフィーも心配そうにスクリーンを見ている。
しばらくするとスクリーンにロムロナがスクール水着のようなものを着て泳いでる姿が見えてきた。
「ロリババァか!」
発言がスノウ以外にとっては知らないワードだったらしく、皆一瞬スノウを見たが直ぐにスクリーンに目を向け直した。
(しかし、酸素ボンベとかは使わずにしかも水深も結構深い位置にいるのにスイスイ泳いでいくな)
「彼女はイルカと人の混血。少し古の神の血も混じっているみたいだけど。だから、肺呼吸とえら呼吸どちらもできるのよ」
「へぇー、便利だなぁ‥‥」
(ってまた心読まれた!)
スノウは何度も心の声を読まれているため諦めてはいたが、時間が経つと悔しさが込み上げるのだった。
・・・・・
・・・
30分ほど経ってからロムロナが無事に戻ってきた。
スピーカーから声が聞こえ出す。
「ザザ‥‥入り口を見つけたわぁ。‥‥ザザ‥‥魔力の波動から‥‥世界蛇ボウヤのところにつながる入り口だと思‥‥中は今だに水没していなくて‥‥ザザ‥‥酸素も‥‥潜水スーツじゃなく‥‥大丈夫そうねぇ」
「よし我々も海底神殿へ向かいましょう。ガース、留守中頼みましたよ」
潜水スーツを脱いで移動できると知り、一行は少し安心した。
潜水スーツは動きづらいため、仮に魔物等と戦闘になった際に不利に働く可能性があるからだ。
エントワたちはロムロナを追って牢獄へ続く回廊へと向かった。
8/29に修正




