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<ホド編> 10.作戦

10.作戦



 「おおおおおぉぉぉい!スノウぅ!!」


 3メートル近い身長の大男が子供のように狼狽えて、目覚めたスノウに心配してましたと言わんばかりに声を張り上げている。

 その後ろでなぜか心配そうにワサンがスノウを見つめている。


 (あいつこんなキャラだったか?)


 「どうしたんだぁよぉぉ!!」


 (アレックス‥耳元でうるさいっての‥‥)


 「あ、いや‥なんだろう、あの黒服の女に別の場所に連れて行かれたというか、夢を見ていたというか‥‥」


 「大丈夫?」


 ニンフィーが心配そうにスノウの体に異変が無いかを調べている。

 スノウはニンフィーの拘束が解けたのだと知り安心した。


 「なるほど、異形のゾス系と原初のアルケーを組み合わせて別次元の場所に精神だけ飛ばしたね‥‥あの子が例の存在ならそれも可能だわね」


 ロムロナが冷静に答える。


 (例の存在‥‥黒服の女のことだろうけど、どう言う意味なんだろう‥‥。しかしなんか気持ちのいい姿勢だなぁ‥‥)


「ってぬわ!!!」


 (な、な、なんでニンフィーの膝枕?!)


 「そんなに急に動いちゃだめだよ。何をされたのか分からないんだから」


 (嬉しいけど恥ずいわ!)


 刺すようなオーラを感じスノウが目を向けるとその先から鋭い光が発せられていた。

 エストレアが睨んでいたのだ。 


 (な、エストレアか‥‥なぜかこっちを睨んで見つめている‥‥おれ何かしたか?)


 ちょっと惜しいと思いつつスノウは、とりあえず恥ずかしいので起き上がった。

 

 (そ、そうだ!あの黒服女の言ってたことを伝えないと‥‥)


 「そうだ、実は‥‥」


 事の次第を説明しようとした瞬間にアレックスによって遮られる。


 (‥‥スノウボウヤ、誰が聞いているかわからないこの状況では話さない方がいいって事だわね‥‥)


 ロムロナが耳打ちする。


 (なるほど、おれたちの次の行動が元老院に伝わると何かと面倒だってことか‥‥)


 「さぁて、元老院のクソジジイの依頼は達成という事でいいな?副隊長さんよぉ。俺たちも結構なダメージを受けてるから宿屋に戻って休みたいんだが帰ってもいいよなぁ?」


 「ええ、構いません。元老院様への報告は私からしておきます。ご苦労でした」


 ボロボロになりながらもプライドがあるのか、毅然とした態度で答えるエストレア。

 一瞬こちらに目を向けて心配そうな表情を浮かべる。


 「さぁて、うめーもん食って酒飲んで休むかぁ」


 わざとらしいがこんな状況だ、疑う人もいないだろう。

 傷ついた体はニンフィーの回復魔法によって治療されたため、然程苦労なく地上に戻ることができた。



・・・・・


・・・



 一行は宿屋ではなく、ヴィマナに集合した。

 別行動だったエントワたちも戻ってきている。


 「色々とあったようですな、若」


 「んぁ、ちょっと小指とじゃれてただけだよ」


 「?‥‥小指?ははーん、女でガスな、全くこっちは大変だったってのに、うちの船頭ときたらろくなもんじゃないガスな」


 「船長だ!あ、間違えた、キャプテンだ!」


 (船頭って言葉に引っ張られたな。相変わらず単純だなアレックスは‥‥)


 「ヴィマナ内のこの部屋なら高クラスの魔法防御が働いているからクラス5のロゴス系魔法でも無効化できるのよ」


 なぜ宿屋じゃなくヴィマナに集まったのか不思議がっているスノウを察したのかニンフィーが説明した。

 

 (ロゴスとかウルソーとか、一度魔法の種類とかは聞いておいた方がいいな‥‥この間はリゾーマタとかいう種類の高クラス魔法を使ってしまったらしく死にかけたわけだから‥‥)


 「よぉし、じゃぁスノウ、一体何があったか説明してくれぇ」


 スパイスエール片手に食事を囲みながらの報告会となった。



・・・・・


・・・



 「んぁ、なるほどなぁ。じゃぁあの世界蛇本体に会いに行かねーといけねーのかぁ。次は殺せるかわからねぇぞぉ?」


 『だから殺しちゃダメだっての!!』


 なぜかロムロナとニンフィーが一緒に突っ込む。


 「でもあの蛇ボウヤ、自分の小指?踏み潰したやつに加護なんて与えるかしらねぇ」


 「おそらく牢獄から出すことを条件に加護を与えると言ってくるのは明白」


 「牢獄といえぁ鍵が必要‥‥か」


 「しかし牢獄って誰が閉じ込めたんだろう‥‥」


 スノウの素朴な疑問に一同ハッとする。

 相手は世界竜だ。

 神に匹敵すると言われる四獣、いやあの黒服女の言い方では九獣だったか。

 そんな存在を閉じ込めることができるとすればそれなりの存在しか有り得ない。


 「鍵を探す必要があるってことね‥‥楽しそうウフフー」


 「騙サレナイヨウニ、鍵ヲ見ツケテ渡ス前ニ加護トヤラヲモラウ必要ガアルナ‥‥」


 「そうね、その交渉はエントワにお願いしてはどう?」


 「いやぁ、そこはキャプテンのお‥」


 『ダメ!』


 なぜか全員で否定する。


 「アレックスボウヤじゃぁ怒らせて殺されるか、殺しちゃうかどっちかじゃない」


 その通りだとスノウは思った。


 「という訳で次に俺たちが目指すのは海底神殿の牢獄だ。そこにいる世界蛇にあって四獣神の加護をもらいに行く。それでエントワ、そっちはどうだったぁ?」


 「ええ、元老院を中心とした組織はだいぶ変わってきたようです。聖騎士は表向き元老院の剣となっていますが、知っての通りウルズィー殿が隠居されて以降は事実上お飾りになっています。問題は、今は三足烏サンズウーと呼ばれる元老院直属の特殊部隊が組織され、他世界またがって元老院を守る鳥として存在し元老院に反抗する強者たちがことごとく消されているようです」


 「三足烏サンズウー?」


 「はい、正確には三足烏サンズウーれつという部隊のようです」


 「烈‥‥」


 「そして‥‥」


 エントワの表情が急に曇る。

 眉間に皺を寄せて悔しそうな表情を浮かべる。

 わずかな変化だったが、常に表情を変えずに何事にも冷静に対処するエントワだからこそ微妙な変化も感じられるものだった。


 「‥‥既にガルガンチュアに次ぐキュリアをまとめていた豪傑のダンカンが殺されたと‥‥」


 ガタタン!!


 凄まじい音がアレックス前のテーブルから聞こえた。

 テーブルには亀裂が入っていた。


 「なんだとぉ‥‥」


 ガチャバリン!!!


 驚きが大きかったのか、ロムロナは思わず持っていたエールのジョッキをテーブルに落として割ってしまった。


 「あのダンカンボウヤが‥‥アレックスボウヤとこれでもかと殴り合っても翌日にはケロっと治っちゃう異常なタフネスと回復力があったから死んでも死なない子かと思ったけど‥‥残念だわ‥‥というか信じられないわね‥‥」


 なにやらつながりのある人物らしい。

 アレックスはなんとも言えない顔をしている。

 それよりも驚くべき情報が何気なく飛び込んできている。

 

 他世界。


 (やっぱりこいつらは知っている。このヴォウルカシャ以外の世界が存在する事を!聞かねばならない!他の世界の存在とその行き方を!)


 スノウにとって別に是が非でも帰りたいという世界ではなかったが、一応元いた世界だからそこに帰るべきなんだろうくらいにしか思ってなかった。

 とはいえ、戻る手段があるなら聞いておきたいという思いからタイミングを見て聞くと決めた。


 「許さねぇ‥‥どこのどいつだ?ダンカンを殺したのは?」


 アレックスの怒りが収まらない様子だった。

 

 「若!‥‥現在調査しています。まずはお気を鎮められよ」 


 アレックスは無理やり落ち着こうとしている。

 スノウは今日聞ける状態ではないとして、明日誰かに聞く事にした。



 「えぇっと、話を戻して、その三足烏(サンズウー)という特殊部隊っていうのはやばそうだね。でもそれがおれたちの目的と何か関係あるの?」


 アレックスはスノウが暗くなった雰囲気を変えるために敢えて質問したのだと理解して、優しく微笑みながら答えた。


 「んぁ‥まぁな。実は元老院のジジババどもとは仲悪くてなぁ。俺たちがこの蒼市でどれだけの行動ができるかを探っていたんだが、そのサンズウーっていう部隊が見張ってるとなると、最重要危険人物の俺らとしちゃぁ居心地が悪ってこったなぁ」


 「そう、これまでは懇意にしているウルズィ殿の仕切るガルガンチュアとその娘のエストレアが聖騎士副隊長として元老院の剣を仕切っていたため、我々に表立って手出しはできない状況だったのです。しかし、元老院はいよいよ目障りな我々を消そうと本気を出し始めたようです」


 エントワが続ける。


 「仮にダンカンを殺したがその三足烏サンズウーだとすれば、その実力は相当なもの。正面切って挑んでくるならば策を持てるからさほど脅威ではないが、奇襲を受ければ場合によってはやられる可能性もあるということです」


 エントワが言うのだから警戒すべきなのだろう。


 「しかも他世界元老院を跨った組織化となればいよいよ我々も越界する必要が出てきたと言うこと‥‥」


 「そのためにはタガヴィマと呼ばれる飛翔石が必要‥‥」


 「んぁ、まぁそういうことだ。だが、その三足烏がだまっちゃいねーなぁ。おそらく蛇に会いに行って戻ってきたところを‥‥」


 首を掻っ切る仕草をしながらアレックスが苦い顔をしている。

 おそらくそうなのだろう。

 

 (でも元老院はどうしてアレックスをそこまで煙たがるのだろうか‥‥)


 「それはね、スノウ。アレックスがヴォウルカシャの王族の生き残りだからよ」


 (読んだ!間違いなくおれの心を読んだ!このニンフィー!)


 「誰でもわかるわよスノウボウヤ。あんたのその怪訝そうな顔を見ればね、ウフフゥー」


 (あまり周りに表情は見せないようにしていたのに、このメンバーの中では自分の心の内はすべて顔にでてしまうのか‥‥)


 なんだか不思議な感覚だなとスノウは思った。

 

 (周りから距離をとってなるべく目立たないようにしてきた自分が、今じゃぁ懐に入って感情のままにみんなと接している‥‥‥。これが仲間っていうやつなのかな‥‥)


 そう思いながら温かくもモヤモヤした気持ちを整理してみたが答えは出ない。


 (っていうか、王族?!このアレックスが王族?!この見るからに世捨て人的なアウトローな男が王族?!権力とか地位とか名誉とか全く興味なさそうな男が王族?!)


 スノウは疑問が止まらなかった。


 「ははは、そこまでひどい顔しなくてもいいのに!」


 ニンフィーが思わず吹き出している。

 アレックスはよく分かっていない怪訝そうな顔だが。


 (あぁ、もうどんだけ思ったことが顔に出ているんだ?おれは!)


 「まぁ今度ゆっくり話しましょう。私も関わるとある事件があって若と私は今レヴルストラを結成しているのでね。今後スノウ殿が我らと行動を共にするなら知っておいてもらった方がよい」


 (そういやフォックスで騒ぎがあったときに回りがエントワを見てざわついていたな。なんだか上流貴族だとかなんとか‥‥まぁ、ヨルムンガンドの加護をもらって無事に飛翔石をゲットしたらゆっくり聞こう)


 

 「それでは作戦です」



 エントワが切り出す。


 「若とワサンはダンジョンに潜ってください。おそらくヨルムンガンドが指蛇を遣わした目的が牢獄の鍵がダンジョン内にあるからだと推測されます。元老院はヨルムンガンドがそれに気づいたと考え我々に指蛇退治を命じたのでしょう。あわよくば相打ちも期待して。‥‥我々が消えるかダメージを負えばそれで彼らにとっては十分なのでしょう。そのあとに三足烏・烈を放って我々に指蛇と共にトドメを刺せばいい」


 「なるほど、だけど仮に指蛇を使って鍵の在処を掴んだヨルムンガンドから鍵の場所を聞いても、アレックスとワサンにはどうやって伝える?」


 スノウが質問した。


 「ニンフィーから思念を送ってもらいます。彼女には特殊能力があり、広範囲に思念が届くテレパスなのです」


 「私から送ることしかできない一方通行だから必然的に私は世界蛇組ってことね」


 「あたしも世界蛇組ねぇ。海底神殿となれば舞台は海だからあたしの力が必要な時がきそうだしねぇ」


 「エントワはヨルムンガンドとの交渉役だから、数合わせ的におれはアレックス、ワサンチームに入るってことかな?」


 「いや、スノウ殿には世界蛇組です。例の存在があなたに事を伝えたと言う事は加護を得るのはスノウ殿の可能性が高い。加護が何かわからないがヨルムンガンドが何かしら人を選ぶとすれば例の存在から話を聞いたスノウ殿を選択するというのが論理的だからです」


 (いやいや、おれ困るんだけど!そんな加護とか人体に影響ないのかね。そもそも世界を覆い尽くすような大きさの蛇でしょ!どんな事されるか!)


 「い、いやぁ、それはないんじゃないでしょうかねぇ‥‥ははは、こんなついこの間この世界に来たばかりの存在のおれに‥‥」


 「スノウボウヤ、諦めなさいぃ、ウフフー」


 (やるしかないか。こいつらと一緒ならなんとかなる気もするしな‥‥)


 とスノウは自分に言い聞かせた。


 「それで鍵の在り処を蛇から聞き出してアレックスたちに伝えた後は?」


 「鍵を入手したらヴィマナの転送装置で鍵だけ転送します。我々が想像する鍵程度の質量ならヴィマナの転送装置でも十分に転送可能です」


 「‥‥もし想像超える大きさだったりしたら?」


 「その時はなんとか鍵を持ってダンジョンから脱出です」


 「でも三足烏の烈ってのが狙っているじゃ‥‥」


 「んぁ?そんなのおれらの手にかかりゃイチコロだってのなぁ?ワサン!」


 「はぁ。アレックスボウヤ。確かにあんたは強いけど鍵奪われたら飛翔石手に入れられずにヴィマナ飛ばせないんだよぉ?それでもいいのぉ?」


 「だぁーーーだめだぁ!エントワ!どうすりゃいい?!」


 (なんという単純というか何も考えてないというか‥‥これでキャプテンで王族‥‥?)


 「ええ、そのためにある助っ人を同行させます」


 「助っ人ぉ?」


 「ええ、私が同行させてもらう」


 そう言いながら部屋の奥から誰かが入ってくる。


 「!‥‥ナンデ部外者ノオマエガ?エントワ‥‥ナゼコイツヲ呼ンダ?」


 剣に手をかけてワサンが警戒する。


 入ってきたのはエストレアだった。


 「それは彼女が聖騎士隊の副隊長である前に、ヴォウルカシャ最大キュリア ガルガンチュアの総帥だからです。我々には三足烏・烈の動きを知るには情報網が乏しい。よって、ガルガンチュアの情報網と裏ルートを使って常に警戒しながら脱出できるようにするのです」


 「あれぇ、ガルガンチュアはウルズィボウヤが仕切ってたんじゃなぁい?」


 ロムロナが割り込んで質問した。

 エストレアのような若い女性が仕切れるほどガルガンチュアという巨大キュリアは小さく無いでしょと言わんばかりの半ば意地悪な質問だった。


 「ええ、父は引退して今は私が総帥をついているわ」


 「あっそう。でもこのエストレアちゃんは言ってみれば元老院側じゃなぁい?大丈夫なの?」


 「ええ、大丈夫、信じて。状況はエントワおじさまから聞いたわ。元老院は三足烏を使って勢力を伸ばしていくはず。そうなると、元老院の剣である聖騎士隊は用済み。それに密かに反元老院派に情報を流していたこともありいずれ事実上壊滅させられる事になる。そうなる前に行動を起こす必要があると思ったの。」


 「そっかぁ、エントワボウヤはウルズィボウヤと付き合い長いからねぇ。その子のことも知ってたって訳ねぇ」


 (なるほど‥‥そういう裏のカラクリもあってレヴルストラがこの元老院が支配しているエリアでもある程度堂々と行動ができていたわけか‥)


 「聖騎士隊隊長も長らく不在ですし、壊滅させられるのは時間の問題のはず。それがこの間の指蛇討伐の真意が見えた時に納得できたのよ。聖騎士隊の中には元ガルガンチュアの屈強な冒険者もいるのでその仲間を失うわけにもいかないの」


 「んぁまぁいいや。足手まといにならなきゃなぁ。まぁこの間みたいなえらそーな喋り方じゃなくなっただけましだしなぁ。はっははー」


 一気に顔を赤くするエストレア。


 「うるさいわね、木偶の坊のくせに!」


 明らかに怒っている。

 後ろを向いてベロだしているアレックス。


 (おちょくってるな・・)


 「あ、それと私のことはエスティでいいわ。ガルガンチュアのものたちは私のことをそう呼ぶの。だからその方が気が楽」


 「じゃぁ、、ええっとエスティ。君の部下たちがアレックス、ワサンに情報を送って三足烏の動きを逐一知らせてくれるってことだね」


 「!!え、ええ、そ、そうよ」


 (赤らめた顔がさらに赤くなったような‥‥)


 「ははーん。ざーんねんねぇエスティーちゃん。世界蛇組じゃなくてぇーウッフフ〜」


 「う!うるさい!イルカ女!」


 エスティの赤い顔から湯気が出てる。

 スノウが何気なくニンフィーの方を見るとイラついた顔になっていた。


 (大丈夫か?仲悪そうだが、うまくいくのだろうか‥‥)


 「それじゃぁ早速出発です」


 (まじか!こんな夜に出発?!)


 「そうよスノウボウヤ。遠足じゃぁないんだから、わざわざ御大層に攻撃してくださいとばかりに朝に出かけるわけないでしょう?ウフフ」


 (おれ、ちょっと感情を顔に出すの気をつけよう)


 「無駄よ、スノウ ンフフ」


 (ニンフィーまで!あーわかったよ。思う存分おれの心を俺の顔で読んでくれ!)


 「んぁ?どうした?腹でもいてーのかぁスノウ?うんこ行ってこい!どかーんとな! はっははー」


 その場にいた全員が諦めの顔になっていた。



・・・・・


・・・



ーーー翌朝ーーー



 ヴィマナは既にダンジョン組を蒼市に転送し、漆市へ向かっていた。


 一番に起きたスノウが朝食を摂っている最中、丁度目の前にロムロナがやって来たため、昨日聞きそびれた他世界についてそれとなく聞いてみることにした。


 「おはよう」


 「おはようスノウボウヤ。あら、何か聞きたそうな顔しているわね」


 相変わらず心の中がダダ漏れている感じらしく、スノウは心のシャッターを下す。


 「えぇっと、皆んなは他世界の事を知っているみたいなんだけど、それって常識なのかな‥‥?」


 一応記憶喪失という事になっているから怪しまれても誤魔化せるだろうとスノウは思った。


 「他世界のことか。まぁあたしもそれほど詳しい訳じゃ無いけど、教えてあげるわ。‥‥この世界はね、メノラーと呼ばれる7つの世界があってそれがカルパと呼ばれる光の川でつながっているのよ。生き物の中にはそのカルパを通って世界を行き来できる特殊な能力をもつ者や魔法で行き来できる者もいるのね」


 「カルパ‥‥7つ世界‥‥メノラー‥‥」


 (聞き慣れない言葉だな‥‥)


 「特殊な能力を持っていない場合でも、高度な科学という力で行き来する事も可能と聞いているわ。高度な科学というのはこのヴィマナみたいな古代文明の遺物ね。このヴィマナもかつては光の川を渡れる力を持っていたらしいわ。アレックスボウヤの受け売りだけどね。でもそれはまだ証明できていないわね。まぁ試す価値があるからあたしらは頑張ってるわけだけどね」


 なんとなくわかってきたとスノウは思った。

 

 (富良野紫亜はその特殊な能力を持っている子だったのだ!だからあんな空間を引き裂いてカルパ?とかいう光の川に乗ることができたのだ!)


 「そ、その7つの世界ってどんなのがあるんだい?」


 「そうね、ヴォウルカシャみたいに水に覆われた世界のように自然のエレメントが支配する世界ね。簡単にいうと、火の世界や風の世界、音の世界、中には匂いの世界なんてのもあるみたいよ。あたしはカルパを越える力はないから人から聞いた話でしかないけどねぇ」


 「そう、カルパを渡る力、つまり越界する力を持っているのは非常に限られた者なのですよ。我々には越界できる者はいない。故に越界するならヴィマナの本来の機能を復活させる必要があるのです」


 突如話に割り込んできたのはエントワだった。


 「あ、あぁおはようございます!」


 「おはようございます、スノウ殿、ロムロナ。面白そうな話だったのでつい割り込んでしまった。マナーがなっていませんでしたね。失礼」


 「い、いや是非知っていることを教えてください!そ、それで‥‥例えばその7つの世界の中には‥そのなんというか魔法とかがなくて、どっちかっていうとこのヴォウルカシャよりは科学は発達していて、地面や空を移動できる鉄の箱のようなものがあったり‥‥そういう世界は聞いたことありますか?」


 「何か思い出されたのか?」


 「!‥‥い、いえ‥そういう訳ではないけど‥」


 「そうですか。聞いた事ありませんね。そういった世界は自然のエレメントを示すものが想像できない。メノラーにはない別の世界なのでしょうか。私には分かりかねます」


 「そうねぇ、別の世界があってもおかしくはないわね。まぁ例のあの存在が沈黙しているからお告げとやらをもらう事もできないみたいだしねぇ。なんとも言えないけどねぇ、見たことないし‥‥」


 「そっか‥‥」


 エントワやロムロナが知らないとなれば他のメンバーは知らないのだろうとスノウは思った。

 

 (いや、ニンフィーが知っているかもしれないな‥‥でも、わかったようで結局自分が元の世界に戻れる確証はもてないままだな‥‥まぁ今考えても仕方ない‥‥別に戻りたい訳じゃ無いしな‥‥)


 「もしかしてスノウ殿のいた世界ですか?」


 「あ、いやいや、ごめん、まぁ考えても仕方ないから、何か進展のきっかけがあるまであまり深く考えないようにするよ。ありがとう」


 「スノウボウヤさえよければ、ずっとあたしたちと旅をしてくれてかまわないのよ?ウフフー」


 ありがたいが何故かスノウは複雑な気持ちだった。

 それが顔に出てしまったのか、ロムロナは少し寂しそうな顔をした。







8/29 修正

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