<ケブラー編> 105.波動の昇華
105.波動の昇華
―――ジオウガ王国―――
「そろそろだな」
道の両端が3メートルほどの壁に覆われており周囲の景色が見えないため、まるで迷路を歩いているような感覚で進んできたスノウとエルガドだったがやっと目の前が開ける地点まで来た。
「ここがガザンか」
そこそこの大きな街に見受けられた。
いや、閉鎖空間を歩いてきたために大きく見えているのかもしれない。
「さて、武闘の試練だったか?一体何をすればいいんだ?」
「ん?俺にもわからんぜ?」
「はぁ?!なんでだよ!」
「だってよ、俺は試練を受ける必要がないんだから内容だって知り得ないだろ?」
「・・・」
確かにそうだとスノウは思った。
だが、同時に肝心なところで役に立たないエルガドに苛ついてもいた。
「まぁとにかく話を聞いてみようぜ?その辺は俺に任せときな」
どーんと構えておけと言わんばかりのゼスチャーを見せてエルガドは周囲の聞き込みに向かった。
スノウは何か武具がないかを見て回ることにした。
やはり目の錯覚だったようで、街全体はさほど大きくない。
商店街や露天商はそこそこの規模があった。
おそらく試練を受ける者や、旅、観光で訪れる者、冒険者などが立ち寄れる窓口的な街であるため、交易はそれなりにあるためのようだ。
スノウはなんとなく引き込まれるようにとある武具屋に入った。
店内には客はおらず、自由に見られそうだとスノウは少し安心した。
「へぇ・・・。流石オーガ。パワーバトルが主流だから武具もシンプルだ。特に攻撃に特化する傾向があるんだな」
「その通りだ」
店主がスノウに話しかけてきた。
「ああ、すまない。あんたの独り言に割り込んじまったな」
「いや、いいですよ。色々と教えていただきたいこともありますから」
「そうかい。それはよかった。しかしあんた。変わった面つけてるな」
「まぁちょっと事情がありましてね」
「面を付ける理由とあれば二つか。何かを隠したいか、強く見せたいか・・・あんたは前者の方のようだな」
「どうして分かるのですか?」
「俺は武具屋の店主だぜ?何千という客を見てきた。何度も買いに来る強者や、一度しか来ないおそらくどこかでのたれ死んでしまっただろう弱者とか本当に色々見てきた。だから分かるんだよ。その人物をパッと見ただけで強さがな」
「へぇ、流石ですね」
「そりゃぁそうさ。相手の力量を見ずに最適な武具は進められないからな。ちなみにあんた、相当強いな。いや、相当なんてレベルじゃないかも・・・」
スノウは店主の言葉を聞いて一応警戒することにした。
おかしな狐面を被った人間をオーガが相当強いと見極めることは普通ならあり得ない。
(こいつ・・・何者だ?おれのどこを見て戦闘力を計った?)
「おっと、警戒しなくてもいいぜ?別に変な能力でもないし、あんたの素性探ってる者とかでもないからな。これは単純にプロとしての勘だよ。これでも俺は戦士としてもそこそこの強さでな。なんというか覇気のようなものを感じることができるんだよ。自分よりも圧倒的に強い相手には挑まないってのも強さの秘訣だからな。まぁそれなりに鍛錬を積んだご褒美ってやつだ」
「そうですか。でも私、あなたが言うほどの実力者ではありませんよ」
「そうか?まぁあんたがそう言うならそうしておこうか。それで何かお探しかい?」
「そうですね。オーガの武器とあらば相当な戦力アップにつながるかと思いついてなんとなく立ち寄ったのです」
「もしかしてあんた、試練受けるつもりか?」
「!・・、ええ、まぁ・・・」
「なるほど。だったらオススメはこれだな」
そう言って店主は何かのスイッチを押して壁を開き出した。
何かのスパイ映画に出てきそうな仕掛けだ。
ギイィィィィ・・・
壁が開くと3点の武具がショーケースの中に置かれていた。
店主はその中の一つを手に取ってスノウに示した。
「こいつはグンターンっていう名前のナックルだ。あんた波動使いだと思うが、波動を1.2倍に上げてくれる優れものだが、それ以上に耐久性が半端ない」
「耐久性?」
「ああ。武具は使っているうちに傷んだり、ヤイバ系なら刃こぼれしたりするだろう?防具なんて凹んだり、錆びて脆くなったりもする。武具屋はそういうのを直すメンテナンスで食ってるようなモンだからな。普通なら耐久度が100%の状態で戦闘力がどれだけ上がるかで武具を買っていく客がほとんどなんだが、武具も高いからな、そうそう買い替えられないとなればみんな修理して使い続けるんだよ」
「なるほど」
(確かにそうか。おれは神の剣フラガラッハを長く使っているけど刃こぼれひとつしないのはあれが神話級武器だからか・・・。普通の武具なら壊れるよな・・・。今更ながら気付くとは。そういえばエントワがよくメンバーの防具やブーツを修繕したり磨いたりしてたな・・・。おれもメンバーの武具のケアはしてあげないといかんな・・・)
スノウは改めての気づきの中でエントワの優しさを思い出し少し胸が苦しくなった。
店主はお構いなしに話を続ける。
「だが!このナックルはどんだけ使い倒しても放っておけば勝手に修復しちまうってやつだ!」
「ほう!すごいですね。一回の戦闘で耐久限界を越えなければずっと波動力が1.2倍で戦い続けることができるということですか」
「流石だな!理解が早い!そういうことだよ」
「でもこんなすごい武具をどうして私なんかに?」
「なんとなくそういう気分になったって感じか?いや、あんた絶対強いしな。金も持ってそうだし。それに何より波動は強い気を練ることができないと本当の力が出ないからな。いくら1.2倍といってもそこそこの練られた気で作られた波動への影響はたかが知れてる。単純な波動の強化にしかならない。だが、強い気を練ることができると、その波動は次のステージに昇華する。あんたにはそれができると見込んだんだ。ちゃんと使いこなせる者に使ってもらわないと武具も死んでるのと変わらないからな。まぁそういうことだ」
「波動の昇華・・・?」
「そうだ。波動は単なる気の流れを変換するだけじゃない。といっても上手く説明できないな。昇華させることができたらあんた自身でその瞬間を理解できるはずだ。だが、昇華した波動はそれなりに影響力が強くてな。並の武具じゃすぐにダメになっちまう。それに耐えられるのがこのグンターンってわけだ」
「わかった。いやわかったようでわかってないか・・でも、何か波動の強化に大きく影響しそうなのはわかりました。これをいただこう。お代は?」
「家一軒建つくらいだ」
「わかった。払うよ」
「おっと!さすがは強さも金も俺の見込んだとおりだ!」
グラディファイスで得た収入からすれば払えない額ではないためスノウは購入を決めた。
決めては波動が次のステージに昇華する、という店主の言葉だった。
うまく乗せられたのかもしれないが、不思議と店主が自分を騙している気がしなかったため購入した。
単なる戦闘力を上げる武具なら金を払う価値はないのだが、強さの根幹をステップアップさせるとあれば話が別だからだ。
はめてみるとその凄さが理解できた。
スノウは良い買い物をしたと思った。
「ありがとう。私はカムス。諸国を旅している地方貴族です。これも何かの縁でしょうか、名前をお聞かせ願えますか?」
「しがない武具屋のおやじだよ。俺はここにいるからいつでも来たらいい」
「ありがとう」
そういってスノウは店を出た。
窓からあるていくスノウを見ている店主。
「お前はもっと強くなれる。己を知れスノウ・・・」
店主はそう呟いた。
・・・・・
・・・
しばらくするとエルガドがスノウの元に戻ってきた。
「やぁ、待った?」
「彼女との待ち合わせにちょっと遅れました的に声かけるな、気持ち悪い」
「そう怒らないで?数分の遅刻じゃないか?」
「やめろ、ボコるぞ」
「ははは、冗談冗談」
「はぁ・・・それで?」
「ああ、ばっちりだ。といっても単純だったぜ。この先に街の出口があってな。そこに高い塀に囲まれた広い闘技場があるんだが、そこで試練が受けられるらしい」
「試練の内容は?」
「知らんの内容は」
「ダジャレみたいに言うなよ、マジでボコるぞ」
「すまんすまん。とにかく教えてくれないんだよ。それなりに準備とかされてしまうと試練がフェアじゃなくなるからだろうけどな」
「わかった。とにかく行ってみようか」
・・・・・
・・・
スノウたちは街の奥へ進んだ。
その先にはエルガドの言っていた試練を受けられる武闘場があった。
野球ドーム1個分程度の大きさの武闘場で外周は5メートルほどの高い塀で覆われている。
二人は入り口に到着した。
「ここから中に入るらしいな。俺は試練を受ける必要がないというか受けられないから、別のオーガ専用出口から先に出てるぜ。間違っても試練をクリアできないなんてことになるなよ?」
「誰に言っている?」
「ははは・・はいはい、じゃぁ後でな!」
エルガドはそう言って中には入らず外周沿いに歩いて行った。
「さて・・・。何が出ることやら・・・」
スノウは中に入った。
正面に受付と思われるオーガの女性がいる。
「試練を受けにきたのですがあなたにお願いをすれば良いのですか?」
スノウはあくまでカムスとして接触した。
「ようこそ。あなたは・・・ニンゲンか?まぁ種族なんてどうでもいい。もちろん名前も。試練を受けに来たと言う意思を確認できればね」
受付の女性のオーガがスノウに話しかけてきた。
「その面は取らないのか?」
「ああ。これは私の火傷の顔を隠すものでね。気持ち的な問題だけどつけておきたいので。問題はないでしょう?」
「もちろんだ」
「それでこの試練とは?私は何をすればいい?どうすれば試練に合格となるのですか?」
「何をすればいいか・・・。ルールは簡単。2時間、大勢のオーガがお前を攻撃してくる。その攻撃を受け切ること。ただし攻撃してはならない。クリア条件は2時間後の時点で生きていること」
「なるほど。仮に攻撃してしまったら?」
「構わないわよ。ただしその攻撃は当たることはないからね。この武闘の試練の場には特殊な魔法陣が縫われている。試練を受ける者だけに効力がある、攻撃の意思が働いた瞬間に発動する炎魔法、紅蓮の粛清が発動するのよ。これが発動すると攻撃しようとする体に凄まじい熱を帯びた炎の蔦が纏わり付いて動きを封じるとともに大火傷を負わせる。攻撃の意思を収めないと蔦はどんどん強力になっていくからさらに締め付けと火傷が悪化する。終いには腕や足が切断・・・なんてこともあるわね。というよりほぼ毎回そんな感じだ、ぐふふ」
どうやらこの受付女は度を越えたサディストのようだ。
「了解した。とにかく攻撃を受け切ればよいのですね。シンプルな試練だ」
「シンプルね。まぁ頑張って。その前に一応ここに署名を」
“私_______はこの試練によって命を落としたり、これまでど同様の生活が継続できない被害を受けても一切を自己責任として受け止めることを承諾します”
(・・・。よほど無謀なやつがいるのか、もしくはこの試練が過酷なのか、それとも脅しか・・・。いずれにしてもやらないと進まないわけだしな・・・)
スノウはカムス名でサインした。
「では武運を祈る。ぐふふ」
・・・・・
・・・
スノウは案内されるままに扉から武闘場へ入った。
中は殺風景で、地面は土、周囲は外壁に覆われた円形の単なる広場に見える。
ただ気になるのは外壁に無数のドアが見えることだ。
(この構造からなんとなく察しはつくな)
「さて、2時間耐えればいいのね」
スノウは体をポキポキ鳴らしながら柔軟する。
ファァァァァン・・・
ダンプカーのホーンを間近で聞くような、耳をつん裂くラッパ音が鳴る。
どうやら開始の合図のようだ。
『うおおおおおおお!!!!!』
突如外周の扉が一斉に開き、大勢の屈強な体つきのオーガが侵入してきた。
ざっと見渡す限り100人はいるだろう。
「やっぱりね。でもちょっとは数減ってもらうか」
スノウ目掛けて一斉に飛びかかるオーガ。
あらゆる方向から凄まじい速さと重さの鉄拳が降り注ぐ直前、スノウは思いっきり跳躍した。
そして外周付近に着地する。
ドゴゴゴン!!!
飛びかかったオーガたちは突然消えたスノウに拳を引っ込めることができずに飛び込んだ者間で同士討ち状態となった。
そこに後方から突っ込んできたオーガにさらに殴られる形となり、おそらく20〜30名ほどは気絶したのではないだろうか。
「攻撃はだめだろうが、同士討ちは問題ないだろう。だが思ったより減らなかったな。ちょっと繰り返すか」
スノウは外周は超スピードで走り出し、オーガたちを分散させる。
シュワッ!!スタ・・・
そしてタイミングを見計らってジャンプし武闘場の中心に着地する。
最初と同じような構図となり、周囲から一斉にオーガがスノウ目掛けて飛びかかってくる。
それをまた瞬発力で一瞬にして後方へ飛び退くジャンプを見せて同士討ちさせる。
3−4回繰り返すと相手も学んだのか、不用意に飛び込んで来なくなった。
ヒュイ!フワ!シュワ!
オーガたちから繰り出される強烈な攻撃を軽々とかわすスノウ。
ガシィ!!
「あら、やべぇ・・」
油断したのか、背後から忍びよってきた一体のオーガに歯がいじめにされる。
そこへ間髪入れずに容赦のない鉄拳が飛んでくる。
バゴオォォン!!
スノウは冷静に首を横にふりその鉄拳を避けると歯がいじめにしているオーガの顔面にヒットし気絶したのか緊縛が解かれ大きくジャンプにして密集から逃れる。
だが、間髪入れずに四方八方からよしゃなく攻撃が襲ってくる。
体を捻りながらそれをギリギリでかわすが、そろそろかわし切れなくなってきたスノウは思わず流動を込めた手で相手の鉄拳を受ける。
バシイィィ!!!
(やべ!!)
だが、普通に動き続けられる。
パシ!パシ!ガッ!パパン!!
続け様に放たれる鉄拳をさらに流動を込めた手で払いのける。
(だ・・大丈夫・・だな!)
どうやら相手の攻撃を受ける防御なら縫われた魔法陣は作動しないようだ。
(ほほ!こりゃ楽勝だな!攻撃を受けるのはOKなら問題ない!)
パシ!パシ!ガッ!パパン!!
スノウは無数に飛んでくる鉄拳や凄まじい蹴りを悉く手で受け流した。
これまでのところダメージはほぼゼロで、若干息が上がってきた程度だ。
そして1時間が経過したタイミングで最初になったラッパ音が短く1回鳴り響いた。
「どうやら!・・1時間!・・経ったってことだな!」
ここまで攻撃を受け続けてスノウには気づいたことがあった。
攻撃してくるオーガは皆、目は虚ろでどこか操られているかのような状態だったのだ。
だが、解せないのはその攻撃力の生々しさだった。
操られているという一言では表せないほどの臨機応変さと力強さだったのだ。
その攻撃ひとつひとつは間違いなく本気の一撃であり、その鉄拳の重みには時には怒りがこもっていたり、時には戦いを楽しむような高揚感がこもっていたりといった具合だ。
確認のしようがない中でスノウが感覚で得たオーラというか覇気のようなものなので確証はないのだが、戦いそのものに本人の意思はあるのだが、それはスノウを相手にしているものでは無いような感覚だったのだ。
だが、深く考えようにも途切れることなく連続で凄まじい攻撃が飛んでくるため、それを避けたり受けたりすることに集中力を費やす必要がありそれ以上考える余裕はなかった。
(まぁ仕方ない・・。この試練が終わったら確認すればいいか・・・)
スノウはこのペースで進めば間違いなく試練はクリアできると計算していた。
そう思ったのも束の間、大きく計算を狂わされることになる。
ダダダダダダダダダ・・・
外周からさらにオーガ戦士が投入されたのだが、単なる拳闘士ではなく、弓使いやマジックキャスターたちが投入されたのだ。
「おいおいおい!」
(オーガが弓?!魔法?!マジどうなってる?!)
一斉に矢が放たれる。
シャシャシャシャシャ!!!
パシパシバババン!!
オーガたちの怒涛の鉄拳攻撃が続くが、弓がスノウに到達する瞬間に一斉にギリギリかわす位置に後退する。
そして間髪入れず無数の弓の雨が降り注ぐ。
(仕方ない!!!)
バオォォォォオ!!!
スノウはリゾーマタの暴風魔法ジオストームを上空に向けて放った。
一斉に矢が吹き飛ばされる。
ガガガガ!!!
「ぐわぁぁ!!!」
ジオストームを放った直後にスノウの全身に激痛が走る。
「な、なにぃ?!」
どうやら縫われた魔法陣が作動してしまったようだ。
ジオストームを攻撃と認識したようだった。
ほんの3〜4秒の激痛だった。
全身に見えない蔦が瞬時に巻きついて皮膚が焼けるような高熱を発する。
だが、数秒であるため大火傷は免れる程度だった。
問題は蔦の影響ではなく、動作を止められることだった。
オーガの容赦ない鉄拳がスノウにヒットする。
ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴーーーン!!!
スノウは最後の凄まじい打撃で外壁まで吹き飛んでしまった。
外壁は衝撃で破壊され、スノウは壁に埋まった状態になる。
「なるほどね。こいつはやばいな」
すぐさま目を覚ましたスノウは休む間も無く襲ってくるオーガたちを飛び越えて距離を取る。
(ウルソーのジノ・レストレーションで傷を回復させながら同時にエルウルソーのバイオニックソーマで強化して打撃のダメージを抑える高等技を使わなかったら一発でアウトだったな・・・。だが肉体強化系や回復系魔法は攻撃とは認識されないことはわかった。咄嗟にやってしまったがそれはラッキーだったな・・・)
「だが!あのヒットアンドアロー攻撃は厄介だ。逃げ場がない!」
スノウはとにかく動き続けながらオーガたちの攻撃を避け続ける。
(これは足止めされたらアウトだな・・)
そう思った矢先に地面からスノウ目掛けて凄まじい高音の熱風の火柱が襲いかかり思わず足を止めてしまう。
「何ぃ?!」
一斉に矢が放たれる。
シャシャシャシャシャ!!!
パシパシバババン!!
容赦のないオーガの鉄拳攻撃が降り注ぎそれを受け切るが、引き波のように拳闘士たちは一瞬で距離をとった直後に無数の矢が降り注ぐ。
ガガガがガン!!!
「ぐわぁぁ!!!」
バリアオブアースドームで土の壁を形成し矢を防ぐが、それも攻撃とみなされてしまったため、スノウの全身に高熱の蔦が這い激痛が走る。
バゴオン!!!ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴン!!!
一瞬でアースドームが破壊され、先ほどと同様に鉄拳のラッシュがスノウの体に叩き込まれる。
だが、今度は先ほどのように吹き飛ばされずに鉄拳ラッシュが続いている。
そしてオーガたちの隙間から後方の弓矢使いたちが弓を構え、マジックキャスターたちが詠唱しているのが見えた。
(ま、マジかこいつら・・・!!!)
・・・強い気を練ることができると、その波動は次のステージに昇華する。あんたにはそれができると見込んだんだ・・・
なぜかこの試練に挑む前に出会った武具屋の店主の言葉が脳裏をよぎった。
(強い気を・・練る・・・)
スノウは手のひらに気を集め文字通り練るようなイメージとともに気をどんどん固めていった。
そしてそれを流動の波動に変えて、降り注ぐ矢に向けて手のひらを向けるように腕を振り上げた。
通常の流動なら攻撃の波動を流すため、威力は分散する。
弓矢も同様にその威力は衰えて簡単に受け流すことができる。
単発なら。
だがスノウの振り上げた手のひらに向かって飛んできた無数の矢はまるで急降下して地面スレスレで低空飛行をする戦闘機のようにスノウを避けて周囲のオーガの方へ飛んでいった。
ババババババババババ!!!
オーガたちは突如自分たちに飛んできた矢を必死に拳で払いのけている。
一方のスノウは何が起こったのかわからない状態だった。
(どうなってる?!)
続け様に放たれた炎魔法の竜巻のような渦も同様にスノウの手のひらを軸にして四方八方に拡散された。
オーガたちは流石に避け切れないとわかり、大きく後退した。
炎の津波のようだった。
その炎の津波が去った後、オーガたちはしばらく動きを止めた。
「なる・・ほど!」
炎の動きが気の流れを如実に示し、起こったことが何なのかが理解できたのだ。
(おれの練った気がこのグンターンによって増幅されて流動に変わった波動はおれの手のひらから空気を伝わってオーガたちへ流れていく海流のような流れを作ったんだ!螺旋を飛ばすことはできたが、あれは単に螺旋の塊を弾いて飛ばしただけ・・・。これは周囲の空気や物体、生き物にまで影響を与えるほどの波動・・・気を練る・・・咄嗟にやったことだが上手くいったようだ・・・けどまだ使いこなせていない!この場で会得してやる!)
昇華した気は周囲に伝染する。
そしてそれを意のままに操ることができる。
先ほど購入したグンターンの効果もあり、偶然にもスノウは昇華した波動を発動した。
攻撃の意思がある打撃や防御などの物理対応だけでなく、リゾーマタの魔法のように自分以外に放出される魔法においてもこの場に縫われた魔法陣は攻撃と認識して罠を発動させる。
だが、放たれた気は自分の体を流れる波動であり、周囲に伝染してもあくまでそれは自分の一部であるため魔法陣は発動しないのであった。
それ以降スノウは気を練る鍛錬を行うようにオーガたちの攻撃を悉くかわし続けた。
そしてあっという間に短いラッパ音が2回鳴った。
と同時にオーガたちはロボットのように一斉に動きをとめて外周の扉の中へ戻って行った。
魔法で傷を回復したのもあるが、スノウはほぼ無傷でこの武闘の試練を終えた。
武闘場の入り口から受付のオーガが入ってきた。
「おめでとう。お前はこの武闘の試練を耐え抜いた。この街を出て次に進む資格を得たのだ。さぁとっとと先へ進め。貴様のような奴は目障りだ」
そういうと建物の中へ戻って行った。
スノウは苦笑いをしながら出口向かった。
ふとグンターンを見ると、ボロボロになっており使えない状態になっていた。
「これはもう使えないのか?それともしばらく置いておいたら自己再生するんだろうか・・・もしかすると耐久限界を超えてしまったのかもしれないな・・・。一連の試練が終わったらさっきの武具屋の店主に見てもらおう」
スノウが出口から外へ出るとエルガドがベンチに座って待っていた。
「もう〜遅い〜!」
「遅れた彼氏に文句言っている彼女みないた言い方するな!マジでボコるぞ!」
ふたりはそのまま次の街ケイレンを目指し歩き始めた。
次は火曜日のアップです。




