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<ゲブラー編> 104.地下施設

104.地下施設



ゆっくりと動くエレベーターは3分程で動きを止めた。

止まったがそこは四方が煉瓦で囲われた閉鎖空間だった。


「お、おい!!何とかしてくれ!おれは狭い場所が大嫌い何だよ!!」


「わかったよ。ちょっとまってくれるか?」


どこまでも面倒くさいファーゼルに少しため息をつきながらトウメイは周囲にスイッチがあるはずと推測し煉瓦を調べた。


(一応罠も警戒しておくか)


慎重に調べるためにトウメイは天技を発動した。

トウメイの天技はサイコキネシスだ。

意思の力で物体に影響を与える能力であるため、煉瓦を少しだけ振動させて動く場所を確認することができる。

天技サイコキネシスを発動した理由は、ドア形状のものとスイッチのようなものの二つを見つけるためだ。

もし、ドアだけでなく複数箇所動く煉瓦がある場合、罠の可能性が出てくる。

煉瓦が外れ矢が飛んできたり、毒ガスが吹き出てきたりするかもしれない。

だがドア形状と煉瓦1箇所だけの振動であれば、その煉瓦はスイッチである可能性が高くなる。

確認したところドアのような形状とスイッチと思われる煉瓦だけのようだ。


(どうやら罠ではなさそうだ)


トウメイはスイッチと思われる煉瓦を押してみる。


ズウウウウンン・・・


予想通り煉瓦の扉が開いた。


「おおお!トウメイあんた本当にすごいな!それだけの洞察力ってやつと判断力ってのがあったら一国の主になれるぜ?!いや一番が無理でも間違いなくナンバー2には絶対なれる!俺が保証するぜ!」


「あ、ありがとう」


(一応ナンバー2なんだけどな・・・ははは・・・)


トウメイたちは恐る恐る中へ入る。

中は真っ暗だったが、若干刺す光から徐々に慣れてうっすらと見えてきた。

どうやら学校の教室程度の大きさの空間のようだ。

なにか大きな塊がいくつかあるのが見えたが、流石にそれが何なのかは視認できなかった。


「お、おい・・何も見えないぞ・・・灯りつけられないのか?」


(鳥目か・・)


人の気配を感じないのでトウメイは壁に立てかけられている灯りに炎魔法で火を灯した。


ボッボッボッボ・・・


「な・・・なんだ・・?!ここは・・・」


そこには5つほどの大きなタンクが並んでいた。

先ほど暗闇でみた大きな塊はそのタンクだった。

人がまるまる入ってもあまるほどの大きさだ。

タンクの側面には小窓が付いており、中が見えるようになっている。

部屋の奥にはドアが付いている。

トウメイは奥のドアを開けて中を確かめた。


「お、おい!!トウメイ!」


ファーゼルは突然大声でトウメイを呼んだ。

急いでファーゼルの元に駆け寄る。


「どうした?」


「こ・・・これ、み、見てみろ・・・」


促されるままにタンクの小窓から中を見る。

上部には蓋が付いていない形状のようで中に光が入り込んでいるため中身がはっきりと見えた。


「!!!・・・これは・・・」


そこには不完全な体のいわゆる半魚人のようなものがなんらかの液体の中に沈められていた。

その顔はまるで生気がなく苦しんだような表情をしている。


「おい、こっちもだ!」


隣のタンクには上半身しかない魚人が何かの液体の中に沈められている。

この魚人も生気がなく苦しんだような表情をしている。


(実験施設・・・のようだ。スノウが言っていた異形ゴブリンロードというものと関連があるのだろうか。するとゾルグ王国のヘクトルとも繋がりがある施設・・・これはビンゴかもしれない。奥の部屋も調べる必要があるな。実験施設なら、実験計画や実験記録などがあるはず。それを見ればここで何をしようとしていたのかが分かるはずだ)


「ちょっと他のタンクも見ておいてくれるかい?」


「わ、わかった。あんたはどうするんだ?」


「奥の部屋を見てくる」


トウメイは奥の部屋に入る。

さまざま羊皮紙が不規則に束になって置いてある。

一枚一枚にざっと目を通す。

ほとんどが経過観察のデータのようで数字が羅列された表の羊皮紙だったが、その中に実験計画と思われる内容の羊皮紙が見つかった。

その中の数枚に目を通してトウメイは驚愕する。


「な・・・なんだこれは?!・・・ありえない・・・」


「おい!!トウメイ!!」


ファーゼルは先ほど以上の大声でトウメイを呼んだ。

羊皮紙をカバンに詰めてファーゼルの方へ向かう。


「何しをしている?!」


ファーゼルはタンクの上から何かを引き上げるような体勢をとっている。


バザァァァ・・・


ファーゼルが引き上げたのは幼い半魚人だった。

口にチューブのようなものが突っ込まれているのと、体のあちこちにも何らかの管がつけられている。

ファーゼルはそれを無造作に引き抜いた。


「ちょ!ちょっと待って!」


トウメイは慎重にと思って止めようとしたが遅かった。


「うげぇぇぇぁぁぁげっほっ・・・がっばぁぁぁ」


口からチューブを引き抜いたことで嗚咽した幼い半魚人は何かの液体を吐き出した。

おそらくは栄養を供給していたチューブだろう。

であれば吐き出したのは流動食のようなものと思われた。

その姿は、顔は人間のようだが体には鱗があり手には水掻きがある。

他のタンクの中にいるもののように不完全ではない状態に見えた。


(生きている・・・のか?!・・・まさか!!)


トウメイは驚愕していた。


「ゼェァーゼェァー・・・」


突如、幼い半魚人は急に苦しそうもがき始めた。

呼吸がうまくできないのか、窒息しそうなように見えた。

首元を手で引っ掻くような動作をしている。

よほど苦しいのか次第に全身でバタバタと暴れ出した。


「トウメイ!どうすればいい?!なんか死にそうだ!俺、なんかやっちまったか?!」


「エラ呼吸だから呼吸困難に陥っているんだ。すぐにタンクに戻さなくては」


「お、おう!」


ファーゼルは急いで半魚人を抱き抱えようとするが暴れてうまく抱き抱えられない。

トウメイも手伝おうと抱き抱えようとするがファーゼルが一緒になって暴れるため、ファーゼルの鋭い羽が振り回されてうまく抱き抱えられない。


「ファーゼル!ちょっとどいてくれ!君がいたら抱き抱えられない!」


「す、すまねぇ!」


ファーゼルはすぐさま後ろに退いた。

だが、その直後幼い半魚人はまるで死んでしまったかのようにぐったりして動かなくなった。


「!!!・・・あわわわわ」


ファーゼルは自分が殺してしまったと思い驚きと悲しみとが入り混じった複雑な表情でただただ慌てている。


「殺しちまった!!!俺はなんてことを!!」


「ファーゼル。落ち着くんだ」


「落ち着いてなんかいられない!!追放どころか俺は同族殺しの罪で処刑される!!」


「大丈夫だ!大丈夫だから落ち着いてくれないか!」


「何が大丈夫なんだ?!」


「呼吸だよ。息をしている」


「だってさっきエラ呼吸とか言っててぜーぜー言ってたじゃないか」


「この子はすごい・・・。エラを持っていながら肺呼吸も獲得した。水の中にいなくても呼吸ができるようになったんだよ」


「なんだって?!」


驚きはしたものの、エラ呼吸自体を知らないファーゼルはトウメイの説明を理解できていなかったのだが半魚人の子が確かに息をしているのを確認してほっとした。


「この子はもう大丈夫そうだ。だが、このままここにいるのはまずい。この施設は使われている。たまたま今は持ち主がいないだけのようだ。見つかったらこの子だけではなく私たちも危険に晒されてしまうかもしれない。早く出よう」


「他のタンクの中のやつらは?」


「おそらく生きてはいないよ。体が不完全な状態になっているから。さぁ急ごう」


ファーゼルは渋々頷いた。

トウメイたちはエレベーターで地上に戻り、そのまま街へ戻った。

魚人の子は眠っていたため中身を捨てたバックパックにいれて運び、無事にバレずに宿に到着できた。

幼い半魚人の子をベッドに寝かせてひと段落つく二人。


「すまないな、俺まであんたの部屋に来ちまった。俺がこの子を助けたばっかりにあんたにも迷惑かけちまうんじゃないか?」


「構わないよ、私はこの街の住人じゃないからね。それよりこれからどうするかだね」


「う・・・うう・・・」


「!!」


魚人の子は目を覚ました。


「う・・・」


「目ぇ覚ましたぞ!」


「大声をださないでくれ。見ればわかるから」


「す、すまない」


「大丈夫かい?怪しいものじゃない。君を助けたものだ。これが見えるかい?」


トウメイは人差し指を魚人の子の目の前で左右に振ってみた。

魚人の子の眼球は最初は生気がないように動かなかったがしばらくすると、指を目で追い始めた。


「よし、目は見えるようだね。言葉はわかるかい?分かったら一回瞬きしてくれるかな?」


瞬きはしたが、言葉に反応したような感じではなかった。


「あ・・う・・あ・・え・・」


パチン!


トウメイは耳元で指を鳴らした。

鳴った瞬間に体がピクッと反応した。


「あ・・えああああえああ」


「なるほど。この子は言葉をしらないようだ。目も見えているし耳も聞こえている。何か言葉を知っていれば私たちが知っている以外の言葉でも何らかの発言をしてくるはず。でもこの子が発しているのは単なる声だ。つまり言葉を知らないんだ。おそらくはあのタンクの中で生まれたために言葉を学んでいないんだろう」


「タンクの中で生まれた・・・そんなことあるのか?!しかしこいつ・・・そうか、子供ってことか。よし!」


そう言うと、ファーゼルは魚人の子の前になって自分を指さすポーズをとって語りかけた。


「いいか?俺は、ファーゼルだふぁ・あ・ぜ・る。言ってみろ」


「あああああ」


「違う違う!ふぁ・あ・ぜ・る!・・だぞ」


「まぁ焦ることはないよ。これからどうするかも考えなければならないし、言葉はゆっくり教えればいいから」


「・・・。そうか・・・」


なぜかファーゼルはしょんぼりした表情を浮かべている。


「ふぁ・・あ・・ぜ・・る」


「!!」


「言えた!言えたぞ!さぁもう一回言ってみろ!ファーゼルだ」


「ふぁーぜる」


「そうだ!すごいぞ!」


ファーゼルは嬉しさのあまり思わず半魚人の子を抱き抱えて高い高いをし始めた。


「お、おい!ファーゼル!まだその子は目覚めたばかりだぞ?!安静にしてなきゃだめだ」


「ファーゼル・・ファーゼル・・」


トウメイの言葉が聞こえないほど喜んでいるファーゼルと、高い高いをされて笑顔でファーゼルの名前を連呼する半魚人の子。


「いいか?この人は、トウメイだ。と・う・め・い。さぁ言ってみろ?」


「と・う・め・い」


「そうだ!俺はファーゼル!こっちはトウメイだ!」


ファーゼルはそれぞれ指を差しながら名前を教えている。


「トウメイ、ファーゼル、トウメイ、ファーゼル」


「よおおし!いいぞぉ!お前賢いな!そうだお前の名前は何だ?言ってみろ」


「おまえ・・・なまえ」


「違う違う、俺ファーゼル。こっちトウメイ。お前、なんだ?」


「なんだ」


「違う違う」


「ファーゼル。この子は名前を持っていないんだよ。だから答えられないんだ」


「なんだって?!そしたら守るのになんて言えばいいんだ。これじゃぁ迷子になったりしても探しようがなくなるじゃないか。どうやって守るか・・・」


「もるか・・・」


魚人の子はファーゼルの言葉をオウム返しのようにして言葉を発しいようだが最後の部分しか言えなかった。


「ん?もるか?・・・いいな!モルカって名前はどうだ?」


「まぁ名前をつけてあげる必要はあるからね。性別もわからないんだがその名ならどちらの性別でもおかしくはないだろう」


「よぉし!お前は今日からモルカだ!!」


「モルカ!モルカ!」



トウメイは楽しそうなファーゼルとモルカのやりとりを見ながらこれからどうするかを考えていた。


(しかし、賢い子だ。IQが高いのかもしれないな。それにしても羊皮紙に書かれていた内容・・・俄には信じ難い。あの内容をすんなり理解できる者はいないかもしれないが、少なくともスノウには伝えておく必要がある。ハーポネスに戻らなければならないが、ファーゼルは禁断エリアに侵入した罰で追放されるかもしれない。その時にこのモルカと一緒に街の外に放り出されてもこのファーゼルに養えるだけの器量は正直見込めないからな・・・。それにこの街では見られない魚人はもしかすると何かの実験対象にされかねない・・・。すると・・・これしかないか・・・)


「なぁファーゼル」


「なんだ?」


「君は禁断エリアに入った罰でこの街を追放される可能性があるよな?そしたらどうするつもりだ?」


「そりゃぁ決まってるさ。街から出るよ」


「いや、そうじゃなくて、このモルカ含めてこの街の外でどう生きていくかって話だよ」


「!!!・・・正直考えてなかった・・・モルカを食わせてやらないとならないしな・・・。子供は食べ盛りっていうからな」


「なんかちょっと誤解を招く怖い言い方になっているが、成長期の子供は食欲旺盛になるだろうからそれなりに食べさせてやらないとならない。それどころかこのモルカはこの街にいる獣人たちとは違う存在だ。もしかしたら捕まえられて実験台にされたり、殺されたりするかもしれないよ」


「!!!それはダメだ!俺が守ると決めた!」


「そうだな。そこで提案なんだが・・・私の故郷のハーポネスに来ないか?」


「ハーポネス・・・ここから南に行ったあの国か?確かあの国、戦争しているはずじゃなかったか?」


「いや、その戦争はついこの間終わった。色々と国は傷ついたが国民の心はひとつになって平和になりつつある。閉鎖的な国だが、私にはちょっとした知り合いがいてね。君とモルカを匿うことができるんだよ」


「よし!じゃぁそれで頼む!」


(か、軽いな・・・。相変わらず頭が悪いのか・・・。いや、楽天的だとしておこう)


・・・・・


・・・


善は急げということで翌朝、街が本格的に目を覚ます前に三人はハーポネスに向かって出発した。





次のアップは月曜日の予定です。

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