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<ケブラー編> 92.帝都キョウ

92.帝都キョウ



帝都キョウ。

北と東西を山に囲まれた都。

街並みとしては明治・大正時代を思わせる作りの低い建物が広がっており、奥に堀に囲まれた広い区画エリアが見える。

その中に京都御所を思わせる立派な建物が見える。

おそらくそこに天帝がいるのだろう。


キョウの中は大きく3つの区画に分かれていた。

・天帝御所

・金剛の槍区

・商業・居住区



「あれはなんだ?」


キョウの街を三方囲んでいる山々の何箇所かに5重の塔のような建物が見える。


「わかりません。それも調べておきますね」


キョウでは一応攻撃されることを警戒してソニアが表に出る形をとることにした。

ソニックでは音冷魔法となるが、この世界で氷結系魔法は存在しないため、変に怪しまれることを避けるためだったが、スノウとしてはもうひとつ、少し過激になっているソニックの様子見をするにあたり、この地では難しいと判断したのもあった。


「さて、宿を探して情報収集だな。最近このパターンが多いが手慣れてきたしとっとと情報をまとめて天帝に近づく方法を見つけよう。もちろんザムザの行方も追わなければならないからな」


ソニアは早々に良さそうな宿屋を見つけて手続きを終えて戻ってきた。


「よし、ここからは個別に情報収集しよう。ちょっとおれはフォックスに行ってみる。このハーポネスにあるのかわからないが」


「わかりました。それでは私は人の集まりそうなレストランで情報収集しますね」


このハーポネスにきてまだ豪華な食事にありつけていないソニアが言い出しそうなことだった。


「私は金剛の槍について調べてみる」


「わかった。ふたりとも気をつけろよ?特にエスカ。金剛の槍には一度警告されているからな」


「わかっている。無茶はしない」


そう言って三人はそれぞれの情報集に向かった。


・・・・・


・・・


ソニアは目移りしていた。

蕎麦屋や丼屋、天ぷら、その他バラエティに飛んだ店々が並びどれも美味しそうで目移りしている。

ソニアはその中でも一番高そうなお店に入った。

情報収集というより料理で選んだのは言うまでもない。

店の中は個室になっていて周りの声がほとんど聞こえてこない状況で本来ならそこで店を出るのだが、お構いなしに案内されるままに個室に入った。

そして様々な料理を頼み、こちそうを所狭しと並べている。

一心不乱に食べるソニア。


しばらく食べて、空腹が一旦治ったのかゆっくりと味を堪能しながら食べることにした。

すると、隣の部屋の声が聞こえてきた。


「北軍の勢いが増しているらしいぞ?」

「そうなのか?南軍には金剛の槍がいるから大丈夫なんじゃないか?」

「何やら北軍に民兵が集まっているらしくってな。戦のたびに両軍とも兵を失っているんだが、民兵が常に集まってくるようで数が減っていないらしい」

「でも南軍も天帝様の指示で一般民から兵を募って戦ってるんだろ?」

「だが、勝率は南軍の方が低いそうだ。金剛の槍の大将たちはそれぞれ強者らしいが、軍の采配の能力には個人差があるしくてな、軍師としても優秀なのはホロマさまくらいらしい」

「摂政様はどうなんだ?」

「トウメイ様だな?あの方はもうしばらく戦には出てないな。摂政になられてから南軍の総司令官のようなことやってるからなぁ」

「それと最近マカム様の軍にとんでもなく強い武将が現れたって聞いたぞ」

「ああ、なんだかスピード出世で分隊長になったって聞いたな」

「なんでもいいが、早く北軍を倒して平和になってもらいたいもんだ」


(なるほどね・・・。天帝側で実権を握っているのはトウメイという名の摂政という職についている人物なのね。つまり、その人物に共闘を依頼しないとならなそうね、軍の総司令官ということは・・・。あと突然現れた強い武将・・・ザムザかな・・・?)


その後の会話では有益な情報が得られなかったのでソニアは食事に集中した。



・・・・・


・・・



スノウは街中を歩いていた。

大通り沿いには様々な店が並んでいる。

戦火にありながらこの帝都にはその影響は微塵も感じられなかった。


(呑気だな・・・この街の人々は。この戦争で南軍が負けたら自分たちの生活がどうなるかわからないっていうのにな)


街中を歩く人々には笑顔があふれている。

その中でちょっとした人だかりができている場所が見えた。

スノウはその場所へ行ってみることにした。


「ここは鬼の来るところじゃない!出ていけ!」

「そうだそうだ!」


「い、いや、俺はただ助けてもらった礼をしたくて」


「お前みたいな鬼に助けてもらっては高貴なるキョウ人の沽券に関わる!」

「そうだ!出ていけ!」

「そもそも我が天帝軍に助けなど不要だ!」

「とっとと帰れ!」


「うぅぅ・・・くそ・・」


何やら刀を持ったサムライのような者たちが一人のオーガを責め立てている。


「出て行かないなら斬るぞ!」

「いや、今すぐ斬ってしまえ!」

「そうだ!鬼を斬ったとあれば天帝に褒められるかもしれないぞ!」


「な・・・やめてくれ!俺はあんたたちと戦いたくない!」


サムライの一人が刀を抜いた。

オーガは丸腰な上、戦う意思もない。


「鬼退治と洒落込もうか!」

「よ!一刀両断でたのむぞ!」


「やめろぉー!」


ガキン!!!


「!!き・・・狐?!・・何者だ貴様!」


スノウはサムライの振り下ろした刀を左手の人差し指と中指で軽々と掴みオーガの方を向いて立っていた。


「貴様!!このようなことをしてタダで済むと思うのか?!我らは金剛の槍が一柱ウルミダ様の配下の精鋭だぞ!このことが知れてみろ!打首になるぞ!」


「穏やかではありませんね。この国では丸腰の者を斬るような卑怯者がいるようですね」


「何?!そのようなふざけた面をつけおって!さては貴様犯罪者だな?!顔を見せられない犯罪者だからそのような面をつけているのだろう!なら斬ってもかまわんな!お前らやれ!!」


五人のサムライが一斉に刀を抜き、同時にスノウに向かって斬りかかってきた。


バババババン!!!


一瞬にしてスノウはサムライたちから刀を右手の指の間に挟んで持ち上げた。

凄まじい力で持ち上げられているため刀を持っていられずサムライたちは途端に丸腰となってしまった。


「ば、バケモンだ・・」

「逃げろ!!」


「き、貴様!覚えておけよ!俺に逆らうってことは金剛の槍に逆らうってことだ!金剛の槍に逆らうってことは天帝様に牙をむいたも同然!この街で生きていけると思うな!」


サムライたちは全員逃げていった。


「あらあら、サムライが刀を置いていってどうするんでしょうかねぇ。刀はサムライの命ではないのでしょうか」


「お前!」


見物人の一人が発した感想かと思いきや、いつの間にかスノウの隣にいたヤガトが発した言葉だった。


「お久しぶりですねス・・・おっと危ない。カムスさん」


「お前は忍びみたいなやつだな。てか、なんでここにいるんだ?」


「なぜって?それは決まっているでしょう?ここ、フォックスですよ?」


「あ、そうなの?てかお前、またあの変な別の場所と繋がってるどこでも通路みたいなやつ使ったな?」


「もちろんですよ?フォックスは色々と繋がってますからね。どの時代も情報と時間が大事です。要はネットワークってやつですね」


「能書きはいい。それで何のようだ?偶然とか言うなよ?」


「あ、あんたは!」


スノウがヤガトと会話していると先ほどサムライに斬られそうになっていたオーガが話しかけてきた。

スノウは慌ててカムスの口調に変えて反応した。


「ああ、大丈夫でしたか?お怪我は?」


「怪我なんてあるはずがない!あんたに救われたのはこれで2度目だ。なんとお礼を申し上げればよいか・・・」


「??・・・どこかでお会いしましたか?」


「エルガドだ!ジグヴァンテで無理やり出場させられたグラディファイスで貴族の娯楽の一環で殺されそうになってたところをあんたに救ってもらったオーガだよ」


「ああ。ベルガーンを埋葬するために出たあの時の・・・無事でしたか。ですがどうしてまたハーポネスに?」


「あんたに助けてもらった後、東回りでジオウガに戻ろうとしたんだが、このハーポネスで戦に巻き込まれてしまって。その際にとある天帝軍に助けてもらったんでその恩を返そうと帝都まで来て軍に加わろうとしたんだが、どうやら俺みたいな異種族は受け入れてくれないらしい」


「まぁお二人ともこんなところで立ち話も何ですから中へ入りましょう」


スノウとエルガドはヤガトに案内されフォックスの建物の中へ入った。

フォックスの中は作りは違うが、マジックアイテムの金の台座があり受付嬢がいる。

側面の壁にはクエストと思われる紙が多数貼られている。

ざっと目を通すがそのほとんどが南軍への参加クエストだった。

ヤガトは横にある小さな扉からスノウとエルガドを中に招き入れ奥の部屋へ通した。

客間のような部屋に案内された。


「さぁそこに座ってください。お茶でも飲みますか?」


「結構だ。それでエルガドさん」


「エルガドでいい」


「じゃぁエルガド。どうしてまた戦なんかに巻き込まれたのですか?」


「た、たまたま北に向かって歩いていたら30騎ほどの騎馬隊がすごい勢いで現れたんだ。北軍だった。俺はすぐさま囲まれた。その時一人の老剣士が現れて一瞬の内に斬り捨てた。俺を救ってくれたんだ。だから俺はその恩に報いるために南軍に入ろうと思った。その彼が南軍の者で金剛の槍の一人で大将であり、この国の大剣豪のマカムだったからだ。俺はマカムの軍に入りたくてこのフォックスへ来た。フォックスでは南軍への参加クエストが多数あるって聞いたからな」


「そうでしたか」


「だが、この国は俺のような異種族者には冷たいようだ」


「そうかもしれませんね。あなたはこの国に関わらない方がよさそうです。なんとか戦に出くわさないようにしてこの国を抜けるとよいでしょう」


「そうしたいんだが、どうしても恩を返したい。そうだ!救ってもらった上に厚かましいお願いなんだが、あんたがクエストを受けて南軍のマカム軍に参加してくれないか?俺を仲間にして!そうしたら俺は恩を返せる!」


(おいおいこのオーガ。いかに自分勝手なお願いしてるのわかってんのか?)


スノウは横で笑いを堪えているヤガトを見て腹が立ってきた。

だが、このオーガの申し出を受けることにした。


「いいでしょう。ただし、あなたが恩を返したら私たちは軍を抜けます。それでいいですね?」


「ああ!ありがとう!あんたにもさらに借りができた。この恩は必ず返す!」


「いえ、いいですよ。それより私はこの男と話があるので、外してもらって良いですか?ああ、そうですね。私が泊まっている宿に行って部屋を借りてくれますか?これから行動を共にするなら宿も一緒がいいでしょう?」


「ありがたいんだが・・・その」


「ああ、大丈夫です。カムスの連れと仰って頂ければ大丈夫です」


「ありがとう!」


エルガドは嬉しそうにフォックスを出ていった。


「いいんですか?あんな安請け合いして」


「気になっただけだ。あのオーガ何かあるってな。普通オーガは東回りでジオウガに戻ろうとはしない。ゼネレスを通ることになるからな。それと戦に巻き込まれたと言っているが、そんなことはない。騎馬隊が単独で動くなど普通はないからな。あれはおそらく嘘だ」


「流石はスノウさんだ。人を見る目がある。ついでに言うと、彼相当強いですね。なのにサムライにわざと斬られようとした。まるであなたに助けてもらうように誘導したかのように」


スノウはまんまと嵌められた間抜けと指摘されたようで一瞬ムッとした。


「それはそうと、スノウさん人探しでこのキョウにこられたのでは?」


相変わらずの情報通でスノウは見透かされているように思い嫌悪感からさらにムッとした。


「ああそうだが。なぜわかった」


「スノウさんの進まれるコースを考えたらこの国ではキョウより先にイードに行くはず。ですがイードにはほとんど足を踏み入れずにそのままキョウへ向かわれたので何か、もしくは誰かをお探しかと察したのです」


「お前、おれたちを尾けてるのか?」


「いえいえ、そんな。ただサポートさせて頂きたいだけですよ」


「サポートとは聞こえがいいがそれじゃぁ単なるストーカーだ」


「ひどい言われようですね。まぁいいでしょう。それでお探しの方とは?」


「ちっ・・・ここにザムザという男がこなかったか?例えば南軍に加わるためにクエストを受けたとか、冒険者登録したとか?」


「はて・・」


「知ってるんだろう!さっさと言え」


「流石はスノウさん。ごまかしは効きませんね。確かに来ましたよ。ですがその者への関わりはお勧めしません」


「なせだ?」


「フォックス支局長の勘というやつです。何か異様な気の流れを感じましたからね」


「ふん。それでザムザはどのクエストを受けたんだ?」


「私の忠告は無視ですか。流石はスノウさんだ。確か金剛の槍マカム軍に参加の天帝勅命クエストですね」


「そのクエストはまだ受けられるのか?」


「ええ。お勧めはしませんが受けられるのですね?」


「ああ」


「承知しました。スノウさんは色々と困りごとを引き寄せる何かがおありのようだ。くれぐれもお気をつけて。そのザムザも危険ですが、先ほどのオーガも訳ありのようですからね。あなたに限って罠にハマることなどないかと思いますが、彼には何か裏がある」


スノウは何も言わずに部屋を出ていくつかのクエストを受けた。


・・・・・


・・・


この街には所々に天帝の銅像が設置されていた。

街の人々は天帝像に毎日挨拶をしているようだ。

おそらくは天帝に対する忠誠心を維持するために根付かせた決まりなのだろう。

エスカは少し人通りの少ないところにある銅像の隣に立っていた。

多くの人々の往来がある通りだが丁度店と店の間が離れている場所にある天帝像であったため、そこだけポツンと人通りがすくない状態になっていたのだ。


「ジジ・・久・・ぶりだ・・」


突然エスカの隣にある銅像からノイズが混じったような声が聞こえる。

かろうじて聞こえるのは低く太い男性の声だ。

その声に応えるようにエスカが言葉を返す。


「ご無沙汰しております。一つお聞きしたいのですが、ニンゲンがたった一夜で戦闘力を数倍に引き上げるばかりか波動気の無動を使いこなすようなことはあるのでしょうか?」


「ジジ・ないな・・ジジ・・・」


ノイズ混じりの声が応える。


「あるとしたら可能性は?」


「ジジ・・無動・・闇の波・・だ・ジジ・・邪神・・堕天使・・ろう・・」


「わかりました。ありがとうございます」


「何を・・気だ?・・ジジ」


「ご心配には及びません。私には私の命があります。それを果たすためにここにいるのですから」


「ジジ・・俺・・方・・ジジ・・・プツン・・」


「切れたか」


エスカは言葉を発しなくなった天帝像を後にし金剛の槍の区域へ足を向けた。

金剛の槍区の目の前にある茶屋に入り、お喋りそうな店主に話しかけて情報収集することにした。


金剛の槍区域ではさらに3つの区域がある。

中央に摂政であり金剛の槍頭領でもあるトウメイの領地、東側に同じく金剛の槍剣豪マカムの領地、そして西側には同様に金剛の槍で弓の名手であるホロマの領地だ。

1年前にイシルとザムザの父を利用して武功をあげたレイグ・ウルミダの領地は天帝御所の西側に少し離れて置かれていた。

どうやら元々金剛の槍は頭領の右強ウキョウ左強サキョウという二人の副官の計3名にのみ領地が与えられていたようだ。

他の金剛の槍の精鋭たちはそれぞれ3強の統率する組織のどれかに属する形でその領地内に住まわせてもらっているとのことだった。


その茶屋で得られる情報はここまでと判断しエスカは宿に戻ることにした。


・・・・・


・・・



スノウたちはその夜夕食を取りながら仕入れた情報を共有することにした。








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