<ゲブラー編> 80.稽古
90.稽古
食堂のような場所に通されたスノウたちはしばらくそこで待つように言われた。
見渡すと明らかに道場で、広さを考えると相当な人数の弟子がいるように思えたが何故か人影はイシルとザムザ以外なかった。
途中ザムザが面倒くさそうにお茶を持ってきた。
スノウはその姿がなぜか手のかかる弟のように見えて少し微笑ましい気持ちになった。
待たされて1時間後に料理が運ばれてきた。
大きな鍋が一つ、テーブルの中央にドン!と置かれた。
そして深い皿と箸が配られた。
「ご馳走しますと申し上げておきながら雑駁な料理で申し訳ありません」
「いえ、とても美味しそうな匂いなので早くいただきたい気持ちです」
「そう言っていただけると・・・さぁ食べましょう」
スノウ、エスカ、ソニア、そしてイシルとザムザの五人でテーブルを囲んで食事をした。
「ここは武術道場ですか?作りがそのように見えます」
「はい。おっしゃる通りです。ですが広い割に私とザムザの二人しかいないことを変に思われているでしょう?ご存知かと思いますが、今ハーポネスは天帝の南軍と将軍の北軍が争っています。しばらく平和が続いていましたので武術を得ている者の職はあまり待遇の良いものではなかったのですが、この戦が始まって以降、突如武術を嗜むものたちの需要が高まり、高額で召抱えられたことからここにいた弟子たちは皆、出て行きました。それぞれ南軍、北軍へ散った形で」
「そうでしたか。そうすると同じこの道場出身でありながら敵同士となって戦ったりすることに?」
「そうです。悲しいことですが本人たちが決めたことですから仕方のないことです」
「何言ってんだ姉上!力づくで止めりゃぁ良かったんだよ!」
「その時止めても戦争が続いている限り、誘いは続くのよ。戦争でまともな職につけない私たち武術者たちは、一般民の生活が苦しくなればなるほど、それよりももっとひもじい生活を送らなければならない。それを我慢しろと言い続けるのにも限界があるわ・・・」
「そんなだから皆出ていくんだよ・・・全く。姉上は甘すぎる!」
「まぁ、そう喧嘩せずに・・・。お互いの思いはわかりました。そして辛いご事情も。ところでこの道場の名前・・」
「ああ、神楽巳・・・カグラミと読みます。私たちの苗字でもあります。カグラミ一族に伝わる剣・拳・弓・槍・炎魔法といった武術や魔法を速さと相手の動きを読んで相手が対処しづらい急所を狙って戦う流儀が神楽巳流武術になります。この道場ではそれを教えていました。これでもかなりの強さを誇る流派なのですよ?うちで最も優れた使い手はリュウソウと言う者でその者は今将軍側の旋風隊の大将の一人になっているくらいなのですから」
「旋風隊。その大将はやはり強いのですか?」
「そうですね、かなり強いです」
「は!リュウソウが強いっていうならたかが知れてるだろ!」
「何言ってるのザムザ。あなた一度もリュウソウに稽古で勝ったことなかったでしょう?」
「わ、わざと負けていたんだよ。本気出せばあいつなんて瞬殺だ!」
「はいはい」
「それで先ほどの魔物の群れは?」
「ああ、あれはザムザが追い立てたのです。この屋敷の裏で育てている野菜や飼っている家畜が魔物に襲われているので、この辺り一帯の魔物を追い立てて倒そうとしていたのですが、そこへ通りかかったカムスさんたちによって一掃されてしまいました。ザムザは自分の鍛錬の成果をその魔物を倒して確かめようとしていたのですが、カムスさんにほとんど倒されてしまって拗ねているのです。ふふふ」
「な!そんなわけないだろう!あんな魔物たちで俺の鍛錬の成果がわかるものか!」
「いや、なんかすみませんね。そんな事情があったとは」
「だからないって!てかお前!あとで俺と勝負しろ!」
「いいでしょう。お手柔らかに願いますよ」
「カムスさん、お付き合い頂かなくても大丈夫ですよ。拗ねているだけですから」
「あの・・・イシル・・・」
「はい、どうされましたか?アンさん」
「明日で構わないのだが私に神楽巳流の稽古をつけてくれないか?」
「は、はい・・・もちろん構いませんが・・・お見受けすると既にかなりお強いように見えますよ?」
「いや、そんなことははない。日々修行中の身だ。この流派に興味を持ったので修行の一環として体験してみたいのだ」
「わかりました。明日ですね。準備しておきましょう」
話の流れで翌日スノウとザムザ、エスカとイシルで稽古をつけることになった。
・・・・・
・・・
―――翌朝―――
「お、早いですねザムザ」
「お前が遅いだけだろ!」
(なんだかいじっぱりなやつだなぁ。だが裏表がない素直なやつってことなんだろう。負けたくないだけなんだな。わざと負けるか?・・・いや、それはそれであいつを傷つけることになりかねないからなぁ。かと言ってコテンパンにのしてしまうのもな・・・)
そんなことを考えながらスノウは食堂へ向かった。
「あら、おはようございます。カムスさん。よく眠れましたか?」
「ええ。このような時間までぐっすりと」
「とは言ってもまだ7時ですよ」
「そうですね。ははは・・・それよりザムザは朝稽古ですか」
「ええ。毎朝5時に起きて稽古しています。今日は3時から稽古していますから、あなたと試合をするので落ち着かなかったのだと思います。ふふふ」
「そうでしたか。でも彼は既に相当な強さを持っているのではないですか?」
「そうですね。今将軍側で旋風隊の大将を務めているリュウソウとは幼馴染なのですが、弟とかなり拮抗した戦闘力でしたからね。ですが、弟はあの通りよく言えば素直、悪く言えば融通がきかないというか、戦い方が単調なのです。技の速さや威力はリュウソウに引けを取らないのに策で負けるといった感じでしょうか」
「なるほど。であれば彼には師が必要ですね。イシル、あなたが現在の彼の師なのですか?」
「まさか!・・・彼の師は私たちの父でした」
「でした・・・もしかして・・・」
「ええ・・・」
「それは失礼しました。なんと申し上げたら良いか・・・」
「いえ、もう1年経ちましたから・・・。だいぶ気持ちは落ち着いてきています。ですがあの子はまだ吹っ切れていないようです。父こそこの世界の最強の男だと信じて疑わなかったのですが、ある日現れた天帝軍の一人が徴兵に応じろと迫ってきたのです。父は断りました。今の戦争も大事だが、これからの時代を担う若者の育成に自分の生涯を捧げたかったのでしょう。ですが代わりに弟子たちを徴兵させるという強行策に出られてしまったため已む無く徴兵に応じました」
「この道場の規模といい、弟子であるリュウソウが将軍側の大将だということといい、お父上はかなりの実力者だったのではないでしょうか?そのような方が亡くなるほどの激戦だった・・・ということでしょうか。あ、いえ、申し訳ありません。つい気遣いもできずに質問をしてしまいました。お話したくなければどうぞ仰ってください」
イシルは少し辛そうな表情をしながら話を続けた。
「いえ、よいのです。1年前、兵をあげた将軍側に対して天帝側はなるべく自分たちの武力を出さずにこの地にいる強者を召抱えて戦わせるという方法をとったのです。賢い戦略だと思います。将軍側も兵を集めるために国中の強者を仲間に引き入れて兵力を増強しようとしていましたから、それを防ぐ意味でも有効ですし、仮にその暫定軍が倒れても元々ある天帝軍の兵力は温存されますから。ですが、その暫定軍の組織構築の仕方が良くありませんでした」
「軍を率いる大将にその力量がない者が据えられた・・・というところでしょうか?」
「仰る通りです。天帝軍は次期金剛の槍を狙うものや今回の件で天帝に気に入られて領地拡大や褒美を得ようとする貴族たちが大将を名乗り出たのです。ですが、戦況を見ながら軍を臨機応変に動かして戦う戦術や統率力を持たない者ばかりでしたから結局数で勝っていても負け戦が続きました。その中で父は一兵長の立場で奮闘しました。父の勇姿と的確な指示に従う兵が徐々に増えていき、事実上父が一つの軍隊を仕切る状態になりましたが、大将はそれをよく思わなかったため、父に無茶な指示をだし単独で敵の大群に挑ませたのです」
「ひどいな・・・」
「はい。せめてもの救いは自分の立場が危うくなると知りながらも父を慕って一緒に戦った仲間が大勢いたことです。それでもう少しで父の勝利となったところでどこからともなく飛んできた矢で命を落としました」
「まさか・・・」
「はい。おそらくは天帝側の大将の配下が放った矢です。その戦は結局天帝側の勝利に終わりました。大将は天帝に自分の采配による勝利だと主張し、父の功績の話などひとつもしなかったことから至った確信です」
「その人物は今?」
「金剛の槍として軍を率いています。名はレイグ・ウルミダといいます」
「覚えておきましょう。嫌なことを聞いて申し訳ありませんでした」
「いえ、よいのです。今はこの道場をどうやって守っていくか・・・それが唯一父の供養になると思っていますので」
「そうですか・・・」
スノウは心が苦しくなる思いだった。
立派な父にして立派な娘が育ったのだと思った。
父親が生きていれば弟のザムザも真っ直ぐに育ったに違いない。
「おはようございます」
「おはよう」
ソニアとエスカも起きてきた。
どうやら美味しそうな匂いに誘われて起きてきたようだ。
朝食を取り終えて、五人は道場の屋敷の前にある石畳の訓練場にきた。
昨晩の話をうけて予定通り稽古をつけることになったためだ。
「ではカムスさんとザムザから」
「よろしく頼みますよ」
「ふん!全力で来い!」
スノウとザムザは構えた。
「武器は使わないのか?」
「ああ。素手で戦う流儀でしてね」
「ふん、気取りやがって!後で負けた理由にするなよ!」
「では・・始め!」
合図と共にザムザはスノウに向かって素早い動きで突進してきた。
ザムザは右手で持っている剣を左肩から背中に振りかぶるように回してスノウの目の前で剣を真横に振ってきた。
(早いな。でも動きが単調だ)
スノウはそれを背後に体を反らせて避けようとする。
「なに!?」
シュワワン!!
スノウは剣の右手の螺旋でヤイバを受けたあとすぐに左手の流動に寄せ、そのまま上に流した。
ザムザの剣は右上に振り上げるような軌道をとって空を切った。
驚いたザムザだったが、そのまま後方へジャンプして距離を取る。
スノウはその瞬間両足を開脚して地面に伏せるような体勢を取る。
シュルシュルシュル・・・・ガシィ!!
「ふぅ・・。なかなかトリッキーな攻撃をしますね」
「くっ!よく避けたな!なぜわかった?」
ザムザの左手には鎖鎌が握られている。
ザムザは右手の剣で攻撃しつつ、左手に持っていた鎖鎌の錘部分を半円を描くように飛ばし、スノウがザムザの剣を背後に体を反らして避けたところに当てようとしていたのだ。
仮に避けられたとしてもそのまま鎖を操って縛り上げたところを剣で止めを刺すという攻撃だった。
「策士策に溺れるべからずですよ。策は相手に悟られないように行って初めて実行できるのです。君のようにわざと後方にさそうような剣の振りになっていたり、左手の鎌を見せないように半身斜めに構えている姿が左手に何かありますよと示していたり、色々と改善すべき点が多いようですね」
「な!たまたま読めただけで調子に乗るな!これは避けられまい!」
シャシャシャ!!!
ザムザは素早く不規則に動き攻撃を読めないようにしている。
(子供騙しか?しかたない)
スノウは凄まじい速さで跳躍しザムザの目の前に移動した。
「!!」
驚くザムザは不規則な動きを続ける。
スノウはザムザの目の前に立つ形をキープして彼の不規則な動きに完璧合わせて移動した。
「な!!くそ!!」
ザムザはさらにスピードをあげて移動するが全てスノウに捉えられてしまう。
シャヴァヴァン
苛立つザムザは剣を振ってスノウから距離を取ろうとする。
それをスノウは後ろに反りながら避けつつザムザの動きを捉え続けている。
「くそ!火炎竜!!!」
ザムザは炎魔法を剣に宿らせて凄まじい速さの剣技を繰り出す。
(お、これはすごいな!)
スノウは全て動きを捉えていたが、これまでの攻撃とは明らかに違うレベルの攻撃に嬉しくなった。
ザンザンザン!!!
スノウはザムザの攻撃を全て螺旋で受け切った。
そしてザムザの攻撃の一瞬の隙をついて側頭蹴りを彼の鳩尾におみまいした。
「ぐはぁぁ!!!」
ザムザは後方に吹き飛ばされる。
だが、うまく体勢を整えたため膝をつくことはなかった。
「き・・・貴様!」
「その言い方はあまり行儀がよくありませんね。稽古の相手には敬意を払うべきですよザムザ」
「う、うるさい!くらえ火炎竜乱舞!!」
炎魔法剣の凄まじい速さのラッシュを繰り出すザムザ。
ザンザンザンザンザンザンザンザン!!!
スノウはそれを全て螺旋を込めた片手で受け切った。
ガシッ!!!
スノウは剣を掴む。
「炎魔法はこう使うんですよ」
バッゴォォォォォン!!!
スノウはリゾーマタのジオエクスプロージョンを放った。
高熱の爆発が起こる。
その爆風でザムザは後方に吹き飛ばされる。
今回は流石に受け身は取れずに石畳の稽古場の台上から落ち吹き飛ばされた。
かなり抑えて繰り出したため、ザムザは軽い火傷で済んだ。
だが、爆風による衝撃でダメージを負ってしまった。
「ぐはぁ・・・」
イシルはザムザが台上から落ちたため勝負ありとして手を挙げようとしたが、スノウは軽く手をあげてそれを制した。
スノウは台上からザムザの側に行き話しかけた。
「まだ続けますか?」
「くっ・・・」
ザムザは悔しそうに立ち上がってそのまま立ち去ってしまった。
スノウはその後ろ姿を見て少し後悔した。
(ちょっとやりすぎたかな・・・。まぁあの性格だ。明日にはまた勝負だとかいってくるだろう)
「勝負ありですね。申し訳ありません。礼儀がなっていませんね」
「いいのですよ。この悔しさをバネにしてまた挑んできてくれたらよいのですけどね。それではイシルとアンの稽古試合を始めましょうか」
「はい。アンさんお手柔らかにお願いします」
「ああ。こちらこそ」
二人は構える。
二人の手には木剣が握られている。
真剣では危険すぎるとしてスノウが木剣での戦いを条件としたのだ。
因みに先ほどのザムザとの試合ではザムザは真剣を使っていた。
それはスノウが真剣で問題なしとしていたのだが、それもまたザムザにとっては気に入らなかったようだ。
スノウは手を挙げた。
「よし・・・始め!」
カァァァァン!!!
合図と共にいきなり木剣を打ち合う二人。
エスカの剣技は速さと性格さが持ち味であるのに対し、イシルの剣技は剛柔の使い分けだった。
シャァ、ザザン!!ガキィィン!!
エスカの凄まじい速さの剣撃をイシルは受け流しながら少しずつ間合いに入っていく。
「今だ!深紅!」
イシルは突きを繰り出すが、その手の動きはまるで軟体動物のような動きでエスカの剣撃をすり抜けるようにして木剣がエスカの喉元に迫る。
「ちっ!」
エスカはたまらず後方に飛び退く。
「やるじゃないか」
「アンさんこそ。隙がほとんどありません」
「嫌味なやつだな。隙などひとつも与えてないのに見事にかいくぐって一撃を放つとは」
「じゃぁ今度は私から!次は芯紅!ハァ!!!」
凄まじい速さの剣撃だが、その動きは少し奇妙だった。
ガキャ!サシャン!グキャン!!ファン!!ザガン!!
「ちぃ!!」
エスカは受けるのに必死だった。
なぜならイシルの剣撃を剣で受ける際にそのあまりの強力な一撃に弾き返されそうになるのに対し、次の剣撃で力んで構えると弱々しくも鋭い剣撃で肩透かしを喰らうような感覚になり、次の攻撃ではまた強力な一撃で弾かれそうになり、その次の剣撃では軟体動物のような動きで突きが飛んでくるのだが、強力な一撃に備えて力んでいたため受けるのが遅れ後方に下がらざるを得なかった。
エスカはこめかみから汗を滴らせていた。
(強いな・・・これが神楽巳流・・・ヨシツネ・カグラミが使いこなしたという・・・)
だが対処を考える余裕を与えずにイシルは先ほどと同様の攻撃を繰り出す。
「ちぃ!籠目・・・」
エスカはまるで舞を舞うように木剣を振り始めた。
ジャジャジャジャジャジャ!!
「くっ!!ぐはぁ!!」
イシルは思わず膝をついた。
腕に籠目模様の跡がついている。
「こ・・これは・・・?!・・・わ・・・私の負けです・・」
イシルはこれが真剣だった場合、籠目模様に斬り刻まれ大きなダメージを負っていたと理解したからだった。
エスカはイシルの強力な剣技の連続に思わず自身の技を繰り出してしまったが、しまったという表情を浮かべていた。
スノウも少し怒りのオーラを発している。
今アンとして行動しているにもかかわらずグラディファイサーのエスカ自身の剣技を出してしまったからだ。
「アンさん・・・、完敗です」
「いや、負けたのは私の方だ。是非その神楽巳流を教えてほしいのだが・・・」
「どうしてアンさんが負け・・・でも神楽巳流をお教えするのは構いませんよ。大歓迎です」
「ありがとう」
・・・・・
・・・
エスカに頼み込まれ、この神楽巳流道場に住まわせてもらい神楽巳流武術を学ぶことになった。
スノウたちはこの道場を根城にしてイードの街へ出向いて情報収集することした。
それから毎日のようにエスカはイシルと稽古を通して彼女から神楽巳流武術を学び始めた。
一方ザムザは毎日のようにスノウに向かって行っては負けるを繰り返していた。
ある日の夜―――。
「くそ・・・なんであんな狐面野郎に勝てないんだ・・・」
ザムザは一人で稽古用の重量剣を振っていた。
「クソ!」
悪態をつきながら剣を振っている。
「クソ!」
ブン!・・・ブン!!
「どうした?何をそんなにイラついているのだ?」
「誰だ?!」
ザムザは突如背後から聞こえた声に反応して振り向いて剣を構えた。
「私に剣を向けるのではない」
「そ・・・その声・・・その声は!!」
「そうだ・・久しぶりだなザムザ」
「ち・・・父上!」
ザムザは驚愕のあまり動けないでいる。
死んだはずの父の声が今目の前の茂みから聞こえてきたからだ。
「父上!死んでおられなかったのですか?!どちらですか!姿が見えません!」
「ここだ」
ザムザが声のする方へ目を向けるとそこには茂みの葉の上に捕まっている一匹のカマキリが見える。
「ち・・父上・・・ですか?
「そうだ。このような姿ですまない。今は体がなくこのようなものに宿るしか術がないのだ」
「父上!父上なのですね!うぅぅ・・・」
カマキリに魂を宿したザムザの父と名乗る存在にザムザは涙を流した。
「ザムザ・・・我が息子よ。強くなりたいか?」
「は、はい!父上のように!リュウソウやあの狐面よりももっと強くなりたいです!」
「わかった。お前に力をやろう。指を出せ」
「指・・・ですか?」
「そうだ」
「はい・・・こうですか?」
ザムザはカマキリに言われるままに人差し指を目の前に差し出した。
ザグッ!!!
「いて!!・・・父上・・・何を・・・」
カマキリは鎌の手で指を挟んだ。
通常なら傷などつかないのだが、そのカマキリの力は異常なほど強くザムザの人差し指の肉をえぐった。
そしてそのカマキリは何かを呟いている。
「よし。これでお前には力が宿った。これでお前はリュウソウやその狐面の男にも負けることはないだろう。戦え・・・己の感情を昂らせ目の前に立ちはだかる者を蹴散らせ・・・ではさらばだ。可愛い息子よ・・・」
ザムザは急激な眠気に襲われその場に倒れ込んだ。




