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<ゲブラー編> 82.ラガンデの総帥

82.ラガンデの総帥



―――ジャーニの食堂―――


スノウたちは昼食をとりがてらジャーニに話を聞くために彼女の食堂を訪れた。

話の仕方が難しい内容であったため、自分たちの素性を明かして話を聞くことにした。

ジムール王の話では、ジャーニはモウハン王子と親しかったし、仮に素性を明かしたところで口外することもないだろうと思ったからだ。

ジャーニは一瞬驚いた表情を浮かべたがその後何かに納得したような顔を浮かべ徐に外に出て看板をcloseに切り替えて戻ってきた。


「ちょっとこっちへ来てくれますか?」


そう言うとジャーニはスノウたちを奥へ通した。

奥には部屋がありジャーニが床に敷いてあるラグをめくるとそこには蓋があった。

重い蓋のようだったが、なんとか持ち上げると下り階段が現れた。

スノウたちは顔を見合わせて目でやりとりをした。

ジャーニは明らかに裏で何か特別な活動を行なっており、この食堂がその一つの拠点となっていると推測し、同じように考えているのを確認したやりとりだった。

階段を降りて行き、入り組んでいる地下通路を案内されるままに進むとそこには天井の低い30畳ほどの部屋が広がっていた。

壁にはさまざま事件の記事や人物の相関図、集められた情報などが貼られていた。


「ここは?」


「はい。実は私は諜報機関ラガンデの諜報員なのです」


「諜報機関・・・ラガンデ」


「今朝情報シェアした中にあった謎の組織ってやつだな」


エスカの補足にスノウは思い出したかのように納得した。


「カムスさん・・いえ、スノウさんと及びした方がよいですか?」


「ああ、素性の知れたものだけの場であればスノウで構わないよ」


「わかりました。なぜ、グムーンの地下にこのような施設があるのか?ラガンデとは何か?色々とご質問がありますね?」


「ああ。教えてくれるかい?」


「はい。まず、ラガンデとは先ほどスノウさんからお話しのあった、レグリア王国ジームル王からお話で登場したディル、ディルオーネ・ガリネスが作った組織なのです」


「ディル。モウハン王子やエンゴシャ太子妃と行動を共にしていたエルフのディルですね」


ソニアが確認した。


「そうです。彼はモウハン王子と共に見聞し、このゲブラー全土がヘクトルの支配に置かれている状況を憂えていました。そして、一方で上流血統家が全てを決めて、上流血統家以外はそれに従うしかないこのエルフ社会に対しても強い不満を持っていました」


「確か、元々ディルはグレン・エヴァリオスの元へ来る前ラガナレス家?にいたと聞きましたが、その時のことなのか上流血統家に対してかなり不満を持っていたような感じだったな」


「はい。子供の頃からラガナレス家に仕えていた彼はかなりひどい扱いを受けていたようです。ラガナレス家の当時の当主は公務は碌に行わず、いつも使用人たちにきつくあたっていたらしいのですが、ディルが幼かった当時は当主からだけでなく、他の使用人からも腹いせにいじめや嫌がらせを受けていたと聞きました。それ辛くて一時期死のうとも思ったようなのですが、それを思いとどまらせてくれたのが、ラガナレス家に出入りしていた商人の息子であるラング・リュウシャーだったのです」


「ラングって、自治区長の?」


「よくご存知ですね。その通りです。ラングはディルに弓矢を教えました。エルフの強さを示すひとつに弓矢の実力がありますから。みるみる上達していったディルの弓矢の腕を見て、グレン様がディルを召し抱えたのです」


「上流血統家の間にも上下関係があるのか?」


「あるようですね。私にはわかりませんが。ディルは、グレン様はディルの境遇を知って引き取ってくださったと言っていました。それでその後は皆さん聞かれている通りです。ですのでヘクトル支配への懸念と上流血統家支配からの脱却、これが彼がラガンデを作った理由であり、現在のラガンデの指針でありミッションでもあります」


「すると、このグムーンが100年前は村だったのに対して自治権を得るとともにここまで大きく成長したのは・・・」


「はい、ラングとディルの貢献が非常に大きです。彼らが上流血統家を説得して現在のような状態になっています」


「それでここがそのラガンデのアジトってことか」


「はい、そうです。そして皆さんをここへお連れした理由は、是非ともラガンデの総帥であるディルに会っていただきたいと思ったからです。彼は今、暴走しようとしています。不躾ですがそれをスノウさんたちで止めていただきたいいのです」


「いきなりお願いとは少し驚きだけど、ディルはどう暴走しようとしているのかな?」


「はい。ラガンデによる上流血統家の全滅・・・です」


「穏やかじゃないな。なぜそんなことになる?」


「詳しくは・・・ディルに会ってから・・・是非・・・」


「わかった」


スノウたちは一旦その部屋で待機することになった。

これからジャーニがディルに話をしてスノウたちと話す場を調整してくれるとのことだった。

その間、この部屋に貼られている様々な情報から、ジムール王に聞いたモウハン事変以降の出来事が粗方理解できた。


情報によると、グムーン自治区はラガナレス家がゼネレス評議会というものに上申して許可をもらったことで生まれたものらしい。

自治区とはいえ、実質はラガナレス家に金が流れている仕組みのようで、どうやら元々ラガナレス家は上流血統家以外に対して自治権を与え彼らの生活を尊重することを目的としていたわけではなく、迷いの森ジーグリーテの外側でゼネレス以外との貿易交流を含めた金の流れに着目し、そこでの利益を享受できるという旨みに食いついたものだとのことだった。


「ディルが上流血統家に苛立つのはこれらを見るとよくわかるな」


「そうですね。自治権とは名ばかりでかなりの税金を搾取しているようですね」


「貴族などにありがちなウジムシがここにもいたというだけだろう」


人物相関図として注目すべきは以下だった。


<上流血統家>

・グレン・バーン・エヴァリオス・・・グラディファイス出場後行方不明。

・ザラメス・バーン・エヴァリオス・・・グレンの息子。

・ゼシアス・バーン・エヴァリオス・・・グレンの兄で現エヴァリオス家当主。怪しい研究を行なっている。

・イーリス・バーン・ジャグレア・・・ジャグレア家当主であり、ゼネレス評議会議長。

・マルトス・レーン・ラガナレス・・・悪の文字が書かれている。グムーン自治区を評議会に認めさせた本人だが、自治区内に住む者たちに高額納税を貸した張本人でもあり。現在もラガナレス家当主

・ルシウス・レーン・ラガナレス・・・マルトスの息子で次期ラガナレス家当主。ラガンデの理解者。

・スレン・レーン・ラガナレス・・・ルシウスの弟。次期ラガナレス家当主を狙っている。

・フィーリ・レーン・ラガナレス・・・ルシウス、スレンの妹。グムーンからの税金で贅の限りをつくしている。



その他大勢のものが挙げられているが、頭に入りきらないので見るのをやめた。



・・・・・


・・・


―――1時間後―――


ジャーニが戻ってきた。


「大変お待たせしました。外出していたディルが戻ってきましたのでこれから会っていただきたいと思います」


「いや、待っている間ここにある情報からかなり理解が深まったよ。ありがとう」


そう言って、部屋を出て天井の低い迷路のような通路を進んでいくとある部屋についた。


コンコン・・・


「スノウさんたちをお連れしました」


「入れ」


「私はここで失礼します」


そう言ってジャーニはきた道を戻っていった。


ガチャ・・・


スノウがドアを開けると天井は低いが20畳程度の広い部屋が現れた。


「ようこそいらっしゃいました」


ディルが笑顔で迎えてくれた。

モウハン事変時代、100年前は若者だったが、現在は見た目40歳くらいの立派な組織の長とうかがえる容姿だった。


「突然すみません」


「いえ、まぁ座ってください」


ディルは快くスノウたちを部屋にいれ、据え付けてあるソファに座るよう促した。


「改めまして、ラガンデ総帥のディルオーネ・ガリネスです」


ディルは丁寧にお辞儀をして挨拶してきた。


「私はカムス・・・いえ、スノウ。そしてここにいるのはエスカとソニアです。私とエスカはゾルグでグラディファイサーでもありますが、訳あってこのバルカン・・いや、革命軍と共闘することになりまして、情報を得ることも含めて身分を隠してゲブラーを見聞してい回っています」


「ええ、もちろん存じ上げています」


「流石は諜報機関を名乗るだけのことはありますね」


スノウは少し警戒心を見せる意味も含めて牽制した。


「まぁ、そう構えないでください。あと、天井が低くて圧迫感があるかと思いますがご容赦ください。最初にバラしてしまいますが、実はラガンデは、上流血統家やグムディアンから目を付けられていることもあって、ダミーのアジトが地下1階にあるのです。ここの天井が低い理由はここが地下0.5階に当たる場所でいわばカムフラージュというやつです。地下1階に警戒させておいて実際の活動はこのフロアでやる。地下一階には大した情報は置かず脅威ではないと思わせる状態にしているのです」


「なるほど。まぁもっと低い天井の場所で生活したこともあるのでお気になさらず。問題ありません」


「そうですか、よかった。それで、グムーンへこられた理由は・・・おそらくグレン様のその後と今後ゼネレスはどう動くか?の調査・・・ということでしょうか」


「なかなか鋭いな・・・。ですが、まだお互いを知れていない中で話すのはどうかって感じでしょう?」


「実は、私たちラガンデは諜報活動がメインなので情報収集力はそれなりにありまして、あなた方のことは既に存じ上げているのです」


「!」


エスカとソニアは構えの体勢を取ったがスノウが右手を上げて問題ないといった仕草を見せた。


「大丈夫だ。おれたちに何かをする気なら自分たちの組織の根幹を担うアジトへ案内はしないだろう?ジャーニもおそらくディルさんから聞いていたんじゃないかな」


「そうですね。我々の組織ラガンデは革命軍とも繋がっています。ラガンデの掲げる理念は2つ。ゲブラーのヘクトル支配からの解放とエルフの上流血統支配からの脱却です。その前者については革命軍だけでなく、ジムール王とも繋がっているのです」


「なるほど。あなたがモウハン王子とともに戦ったディルさんであるからこそ、その繋がりは理解できる。あなたが師匠と慕ったモウハン王子が無惨にも殺されたのをあなたが何も感じないはずはないでしょうからね」


「はい。実はそれについてはグレン様の行方も関係してくるので後ほど話しましょう」


「わかりました」


「あと、先に二つ目のエルフの上流血統支配からの脱却から話は我々エルフの問題なので割愛しますね」


「そうですか。わかりました」


(エルフの問題か・・・確かにそうだが、暴走しているようには見えない落ち着きを持った男だけどな。さっきの表現も上流血統家の殲滅とかじゃなく上流血統支配からの脱却って言ってたし。ジャーニは止めて欲しそうだったが、まぁ追々だな・・・)


スノウは小声で頭の中で意識を切り替えた。


「それでゲブラーのヘクトル支配からの解放ですが、実はヘクトルの支配を容認しているものたちもエルフにはいます」


「!!・・・そうなんですか?」


「はい。それが上流血統家です。遡ること約100年前、師匠・・・モウハン王子が画策しゲブラー全土を動かした6国同盟はご存知ですよね?・・・あれは結果5国同盟に終わっているのですが、その原因はグレン様の兄であり、現在は首都クリアテの領主でもある、ゼシアス・バーン・エヴァリオス卿の仕業だったのです」


「どういうことですか?」


「これは後からグレン様の執事のゼーゼルヘンさんから聞いた話で一部推測も入っているのですが、あの時グレン様はゼシアス卿に評議会へ直談判しようと持ちかけているのです。それいに対しゼシアス卿は、その話に乗ったフリをしてグレン様に何か実験を行なったか魔法を施したかわかりませんが、記憶を奪い評議会への直談判が結果行われなかったのです。代わりに評議会へは5国同盟戦争が始まってから、5国同盟の動きとヘクトル軍の対応の状況だけが報告されていました。当初5国同盟サイドが優位に立っていた際は評議会の中でも、今らか形だけでも出兵すべきだと言った意見がありました。あの当時、ハーポネス北にゾルグ軍が現れた状況に対して形だけでもゼネレス軍が登場すればハーポネス軍は戻る必要がなく、東側からゾルグを崩す可能性だってあったわけですからね」


「なるほど。それが?」


「評議会も保守派が多いため、もう少し情勢をみようとなり、ゾルグ軍が次第にコマをひっくり返し始めると途端に静観するという方向になったのです。ですが!仮にグレン様が評議会に直談判して受け入れられていたとしたら!6国同盟が実現出来ていたとしたら!・・・私は今のゲブラーの地図は変わっていたと思うのです」


「・・・・・」


「それ以来、上流血統家はヘクトル容認派がほとんどとなりました。なぜなら、あの戦争で静観していたゼネレスはなぜか九国序列二位の地位に置かれたからです。ですが実は裏でゼシアス卿がヘクトルと繋がっていたというのが我々の調べた結論です」


「ゼシアス卿にとってのメリットはゼネレスの九国序列二位の地位ですか?それは国としての見返りは大きいように見えるが個人としてはどうなんでしょう・・・?ゼネレスは評議会で動かしている国だとすれば、ゼシアス卿にとってあまりメリットが見えません。彼はそんなに愛国精神をもった人物なのですか?」


「流石はスノウさん。彼が見込んだ男だ」


「彼?」


「ああ、いえそのうちわかります。スノウさん。ジムール王から聞いた話の中で、獣人やドラコニアンは出てきましたか?」


「いや・・・」


「私はかれこれ150年ほど生きていますが獣人やドラコニアンが出てきたのはせいぜいここ50年なんです」


「そんな最近?!どういうこと?」


「ゼシアス卿は良心というネジが外れた人物で、且つ探究心が異常に強い性格でも知られているんです。ジムール王から異形ゴブリンロードの話は聞かれましたね?」


「ええ」


「実は5国連合戦争後に現れたんです。異形ゴブリンロード、いやもはやあれは異形エルフと言っていい」


「エルフの頭部にオークの体が融合されているものや、エルフに別のエルフの頭部が融合されている異形の者たちが目撃されていたのです」


「・・・」


スノウたちはその先を容易に想像することができた。

ソニアに至っては吐き気をもよおしている。


「そうです。獣人やドラコニアンはゼシアス卿が実験によって生み出した新たな種族、奇形種だと考えらているのです。先程申し上げた異形の者たちはその前段階の実験体・・・。そしてその技術を持ち込んだのがヘクトルの作り出した異形ゴブリンロードだと言うことです」


「なんだそれは・・・。ゼシアス卿の目的は?なぜそんな人体実験を?!」


「先程申し上げた通り、彼は異常者なんですよ。自分の欲求や探究心のためには何をしてもいいと思っている。ヘクトルは知ってか知らずかゼシアス卿の探究心を刺激するネタを提供したんです。そしてその技術を得たゼシアス卿は、心ゆくまで実験を繰り返して、融合は生体だけでなく種の配合まで始めた。その結果生まれたのが獣人です。その間、どれだけのエルフやニンゲンが犠牲になったことでしょう・・・。獣人の種類の数知っていますか?イヌ科、ネコ科、トリ科・・・おそらく20以上あるのです」


3人は絶句して背筋を凍らせた。

特にスノウにとっては、今までホドの元老院のような残忍な者や、ティフェレトのユーダ・マッカーバイのような冷たい人間は見たことがあるが、ここまでの異常者は見たことがなかったからだ。


「ゼシアスという人物は、そんな自分の好奇心というか探究心だけのためにヘクトルの餌に見事食いついて国を売ったっていうのですか?・・・つまり6国同盟なら勝てたとするならば、5国同盟となって敗戦した原因はゼシアスにあったってことじゃないですか」


ディルはため息をついて立ち上がった。


「ゼシアス卿だけでは出来ません。別の上流血統家も絡んでいるのです」


「それは?」


「ラガナレス家と呼ばれる元々私の支えていた上流血統家です」


ディルは悲しそうな顔で話を続けた。






次は水曜日のアップ予定です。

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