<ゲブラー編> 80.ジオウガ王国へ
80.ジオウガ王国へ
―――翌朝―――
スノウたちは特にトラブルもなく翌朝を迎え、朝食を取り終え出発の準備を進めていた。
馬車の中を確認すると1週間分の食料が綺麗に仕分けらて隅に並べられていた。
食材毎に木箱にしまわれていた。
(ソニックか。流石に仕事早いし、きっちりしてるなぁ。でもこんな野菜とか生の食材どうするんだ・・・あ、そうか。あいつこれらを使って料理する気か・・・)
スノウは感心した。
最近ソニアとしか接点がなかったので新鮮であったし、改めてソニックの優秀さを認識したのだった。
しかも久しぶりにソニックの料理が食べられるとあって少しテンションが上がった。
「それでは出発しましょうか」
「え?!」
「はい?どうかしましたか?スノウ」
「あ、いや、なんでもないよ」
スノウはソニアに代わっていたのを見て、ちょっとがっかりしていた。
せっかくソニックの料理にありつけると思った矢先だっただけに。
(ま、まぁでも、あの食材を無駄にすることはないだろう。ってことはソニックに代わって料理するはずだ・・・と思いたい・・・)
1時間もするとジオウガ王国へ入る国境砦が見えて来た。
これまで3カ国を越境してきたが、特にチェックはなかった。
しかしここではチェックがあるようだ。
屈強そうなオーガが十人ほどおり、ジオウガに入国しようとしている者たちのチェックをしていた。
主に荷物のチェックのようだったが、おそらく武具を警戒しているのだろう。
若干の行列ができており、スノウの馬車は5組目の位置にいた。
先頭でチェックを受けている(おそらくゾルグあたりから来た者と思われるが)一行が揉めているようだったのだが、ちょっとした渋滞はそれが原因だとわかった。
何やら武具をいくつか没収されているようだった。
スノウたちは幸い荷馬車の中にはほとんど食材だったし、スノウはフラガラッハを封印しており拳闘で戦っているため武器はない。
エスカも盲目で杖を使っておりその中に細身の剣が入っているため見つかることなくやり過ごせる。
ソニアはそもそも武器を使っていない。
問題はエスカの持つ碧命剣だ。
見つかれば下手をすれば没収される危険があるが、碧命剣を没収されるわけにはいかない。
スノウはエスカに指示して、碧命剣を茂みに隠させた。
エスカは碧命剣、つまりグリーンドラゴンのザロンに砦から見えない場所に移動して飛んで越境して、ジオウガ王国に入国しているエスカのところへ戻るように指示をした。
ザロンは状況を理解して了解した。
スノウたちの馬車は問題なしとして、無事に通されジオウガ王国に入国した。
ウカの面や布で顔を覆っていることに対して怪しまれたが、例の如くスノウの顔に炎魔法で火傷を負わせてその火傷の様を見せて納得させた。
毎度のことだが、流石に火傷の痛みが嫌になりスノウは身分を隠した旅は今回限りとしようと心に決めた。
だが、砦で入国チェックをしていたオーガから、街道の両脇に3メートルほどの壁があるのだが、決して超えてはならないと釘を刺された。
なぜだと聞き返すと、知りたければ自分で試せと言われた。
(決して越えるなと言って、何があるのかと聞くと知りたければ越えてみろって矛盾していることに気づかないのか?)
スノウは少しイラついていたが、イラつけばイラつくほど好奇心から壁の向こう側に何があるのか知りたくなっていた。
しばらく進むと、先ほど渋滞を作り出していた一行が馬車を壁際に止めてなにやらゴタゴタとやっている。
「もしかして壁の向こうに何があるのか確認しようとしてるんじゃないか?」
「そのようですね。どうしますか?止めますか?」
スノウは少し考えた。
自ら壁の向こうに行くとなれば、自ら禁を破ることになりどこか気が引けるが、別の誰かが越えて何か問題が起こった時に助けに向かうため壁を越えるとなれば大義名分が生まれると悪知恵を働かせた。
「放っておこう。ただし、様子をみる」
「なかなか悪知恵が働くものだな」
(!・・・また心の内を読まれたか?)
「誰でもわかるぞ。オーガに壁を越えるなと言われた時に壁の向こう側を見たそうな顔をしていて、先ほどのコメントだ」
「・・・。お前は見たくないのか?あんな矛盾な言い方でもったいつけて言われたんだぞ?てかおれウカの面被っているのに向こう側見たそうな顔ってどうやって見たんだよ、全く・・・」
「わかったよ。お前の話に乗ろう」
スノウたちは壁の向こう側を見ようとしている一行に接触した。
「どうかされましたか?」
「!!!」
壁を越えようとしている一行はウカの面を見て驚いた。
「なんだ?大丈夫だ構わないでくれ・・・ん?あんたもしかしてレグリア王国を救った英雄カムスか?そっちの盲目の女性はアンだな?」
「そうです。救ったなどと・・・私たちはそのような大それたことをした認識はありません。困った人の手助けをするのは誰もがすることですから」
「へぇ謙遜すんだな。まぁいいや。さっきも言った通り構わないでくれ」
「もしかしてですが、この壁の向こう側に行こうとされてますか?」
「!!」
「いやぁ、わかりますよ。砦のオーガにあのように勿体ぶって言われれば逆に興味が湧くというものです」
「英雄カムスはなかなか話のわかるお人のようだ。実はな、壁の向こうにはお宝があるって噂なんだよ。このオーガの国の王がその宝を他の種族に渡さないように、幹線道路と街の全てにこのような壁を作って侵入を防ぐ措置をとったらしいんだわ」
「へぇ!そうなのですか!」
「ああ!と言うことで、これは見なかったことにしてくれ。この武器もな」
そう言って馬車の荷台の下に隠しておいたのだろう武器をチラつかせた。
「わかりました。ですが、もしあなたがに何かあれば手助けさせていただけませんか?もちろんあなたの言われる宝はいりません」
「おお、あんたどこまで話のわかるお人なんだよ!じゃぁ遠慮なく頼むよ」
スノウはうまく取り入った。
一旦馬車に戻る。
「どうでしたか?」
「壁の向こうにお宝があるからシャナゼン王があんなふうな壁を国内の道や街の周りに設置して侵入しないようにしているのだと」
「本当にそんなことを信じている人がいるのですね」
「ああ」
「噂に噂が重なって信憑性をもってしまったのだろうな。それでここに来て実際に壁があったとなれば、宝があるのは間違いないと疑う余地もなくなるということだ」
エスカが冷静に答えた。
いずれにしても彼らに壁の向こう側を見て貰えば自分たちの立場に傷がつくことはない。
「すまないがソニアはここで馬車の番をしていてもらっていいか?」
「はい!」
気立の良い返事が帰って来た。
この返事にスノウはいつもホッとする。
壁を乗り越えようとする一行は馬車の屋根に登りそこから壁にジャンプしてよじ登っていく作戦をとるようだ。
スノウやエスカであれば軽い跳躍で3メートルの壁を越えることは可能だが彼らはその程度の戦闘力ということだ。
「よし!登ったぞ!」
「おお!どうだ?!何が見える?」
「平原があり1キロくらい先から森が広がっているのが見える!」
「それで例のあれは?!」
「見えない!もしかすると森の中に入っていく必要があるのかもしれない!とにかくお前たちも登ってこい」
「オッケーわかった!」
この一行には五人いるようだ。
馬車の番で二人残るということで壁によじ登ったのは3人だけだった。
ロープを馬車に繋げて壁の向こう側に垂らしてそのロープを伝って降りていくようだ。
3人は無事に壁の向こう側に降り立った。
残った二人は周囲を警戒している。
3人は周りをキョロキョロと見回しながら武器を構えてゆっくりと森の方へ進んでいく。
「なんだ?何もねぇな」
「ガセネタだったんじゃねぇか?」
「まだだ!森の中を探してねぇだろ、結論づけるのはまだ早え」
そういってしばらく進んでいくと急に森から無数の鳥が飛び立った。
「何だ?!」
「鳥だ」
「んなもん見りゃわかるだろうが!なんで鳥が飛んでんだってことだ」
「鳥だからそりゃ飛ぶだろう?」
「そうじゃねぇ、鳥が一斉に飛ぶとなったら何かきっかけがあったからってなるだろう?魔物とか!」
「なるほどなぁ、お前やっぱり頭いいなぁ」
「そうじゃねぇ!警戒しろって言ってんだ!あれだけの鳥が警戒して飛び立ってるんだぞ?!どんな魔物かわからねぇだろうが!」
「そ、そうだな!気をつけろ!」
「お前がな!」
コントのようなやりとりしながら3人は警戒を続けて進んでいく。
ドン・・・・ドン・・・
「待て・・・」
ドン・・・・ドン・・・・
「何か聞こえないか?振動というか」
ドン・・ドン・・ドン・・
「き、聞こえる!どこからだ?!」
「森だ・・・森が揺れている」
ドン・・ドン・・ドン・・ドン
ヴァシャァァァァ!!!
突然森の木々が倒されて巨大な何かが現れた。
「トロールだーー!!!」
巨大な何かは体長5メートルはあろうトロールだった。
その後に2体3メートル級のトロールが走ってくるのが見える。
それらの手には岩を無造作に叩いて割った不恰好な棍棒が握られている。
「ぎやぁぁぁぁ!!!」
「逃げろ!!!」
3人は急いで壁の方へ戻ってくる。
「スノウ」
「ああ。トロールか。そろそろ行った方が良さそうだな」
スノウとエスカは馬車の近くに歩いていく。
「どうやら向こう側に強力な魔物が出たようですね。ちょっとお手伝いに向かいます」
「頼む!助けてやってくれ!」
無言で頷くと、スノウとエスカは大きく跳躍して壁を越えた。
「おお!!カムス!!それに盲目のアンだな!頼む助けてくれ!!!」
「承知した」
スノウはカンフーのような型を見せた。
エスカは杖から細身の剣を抜いた。
「エスカ後ろの小さい2体、頼めるか?」
「誰に言っている」
「はいはい」
スノウは、手前の5メートル級のトロールに向かって走っていく。
トロールは巨大な棍棒を振り上げる。
思いの外素早く且つ的確に棍棒を振り下ろしている。
スノウは直前で跳躍しその攻撃を受ける。
(思ったより賢い攻撃するな・・・イメージじゃぁデクの棒が無計画に暴れる感じだったんだが・・・)
スノウはそのままトロールの背後に周り着地するとすぐ地面を蹴り上げて振り向きざまに螺旋を込めた側頭蹴りを脛骨のあたりに向けて放つ。
ブウゥン・・・
「何?!」
トロールはそれを足を上げて避けるとそのままスノウの上に倒れ込むようにしてエルボーを食らわせてきた。
シャァン!!」
スノウは凄まじいスピードで地面を這うようにしてそれを避けて回り込み、倒れ込んだトロールの頭頂部に向けて螺旋を込めた正拳突きを放つ。
スアァァ!!
「え?!」
トロールは踵で地面を引っ掛けて膝を曲げる勢いでスノウの正拳突きを避けて、そのまま立ち上がる。
通常の人間でも難しい技を巨体のトロールがやってのけた。
「こいつ!」
「大丈夫か?!カムスが強い英雄だってのはただのガセネタか?!」
助けてもらった恩も忘れて攻撃が当たらないスノウに対して文句を言い始める宝探し組リーダー。
(ちっ!あいつら助けてもらっておいて好き勝手言いやがって。ってかこいつおかしい。こいつは明らかに訓練されている。知能の低いトロールをここまで鍛えるとは、一体誰が?!・・・まぁいい)
スノウはさらに素早く動き近寄って正拳突きを繰り出した後、さらに前に跳躍しそのまま二段蹴りを放つ。
そしてその後、空中で前転し踵落としをおみまいする。
しかしそれを悉く避けるトロール。
そして今度はトロールから攻撃が繰り出される。
凄まじい勢いで棍棒が振り下ろされる。
ドッゴアァァァァン!!!
スノウはそれをギリギリで避ける。
地面を思いっきり叩いたことで砂煙が舞う。
その煙で見えなくなったところを利用してスノウは股の下の死角に入り、右足のふくらはぎに螺旋を込めた正拳突きを放つ。
ドッシィィン!!!
トロールはそれをしゃがんで膝を折ることでその場に正座するようにして避けて、そのままの勢いでスノウに乗り掛かり圧死させようと試みる。
スノウはそれを後方に退いて避けて回り込み、今度は正座状態で手前に来ている左足の皿部分に螺旋を込めた正拳突きを放つ。
ダァァァン!!!
トロールは瞬時に立ち上がりそれを避けると、そのままの勢いで棍棒を力強く振り下ろす。
ドッゴァァァァン!!!
今回もスノウはギリギリで交わしたため、棍棒は地面に衝突し砂煙が舞う。
トロールは今回も同じ攻撃かと下を見るがスノウがいない。
すると背後に自身の首あたりまでジャンプして回転蹴りを放とうとしているスノウに気付いて急ぎ前にかがむ。
そして巨体にもかかわらず、でんぐり返しのように前に転がって立ち上がり、すぐさま振り返って棍棒を構える。
「おいおい。カムス弱!カムス弱!こりゃゾルグに戻ったら言いふらしてやらねぇとな。偽物英雄ってよ!」
宝探し組のリーダーは言いたい放題だ。
「さぁて、そろそろか」
スノウはそう呟くとトロールから少し距離をおいてたった。
そしてカンフーの型のような動きをとって構えた。
「は!見掛け倒しだな!最後の足掻きでカッコつけ始めたぞあいつ!結局人間があんな巨大なトロールに勝てっこねぇんだよ!おいお前ら!さっさと壁よじ登って逃げるぞ!」
宝探し組は壁をよじ登り始めた。
ドッゴォォォォンン!!!!
宝探し組のリーダーがロープを伝って登っているすぐ横の壁に巨大な腕が飛んできて壁に激突し、その衝撃で吹き飛んだ血のようなものがリーダーの全身に降りかかった。
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁ!!!」
宝探し組リーダーは情けない声で叫び声を上げた。
「な!なんだ?!」
「う・・・腕だ」
「誰のだ?!」
「こんなでかい腕、決まってんだろうが!!」
宝探し組の他の二人のうちの一人は驚きながらも冷静にものを確認する。
それはまさしくトロールの腕だった。
「ぐごがぁぁぁぁぁ!!!!」
トロールは耳をつんざくような悲鳴をあげた。
そしてスノウに向かってめちゃくちゃな攻撃をしてくるが先ほどまでのようにキレのある素早い動きではなく、イメージ通りの巨体を重そうに振り回すトロールの姿だった。
「どういうことだ?!いきなりカムスが優勢になりやがった」
スノウは軽々とトロールの攻撃を避けながら背後に周り頸椎に当身を当てて気絶させた。
「ふぅ・・・」
軽く息を吐いた後スノウは、壁の方へ向かって歩いてくる。
「カムスさん!あんたすごいな!さすがは英雄だ!でもどうしていきなり勝っちまったんだ?!さっきまでは負けそうなのを演出してたのか?」
「違います、簡単ですよ。あのトロールは動きが異常に早く、攻撃も強力だったのですがね、あの巨体でそれをやるには相当体力を消耗するんです。要は疲れて動きが遅くなったところを一撃で仕留めただけです」
「ほえぇ・・すげぇな!」
そして自らの攻撃で吹き飛ばしたトロールの腕を軽々と担ぎ上げた。
「お、おい!い、いや、カムスの旦那!その腕を一体どうするんで?」
スノウはその問いには答えずにトロールの方へ歩いて行った。
ドッゴォォォン!!!
その奥でエスカと3メートル級のトロール2体の戦いが繰り広げられており、凄まじい爆音が響いたため、宝探し組はそっちに意識が向いた。
「おい!盲目のアンは盲目だけあって苦戦してねぇか?!」
また劣勢に立ったように見える英雄には手厳しい毒を吐く宝探し組リーダーだった。
エスカは2体のトロールに挟まれて防戦一方になっていた。
スノウ同様に疲れるのを待つ作戦のようだったが、体が少し小さい分体力は意外に持続していた。
「ちっ!面倒だな」
エスカは杖から細身の剣を抜いた。
「ああ!あいつ汚ったねぇ!杖の中に剣を隠し持っていやがった!!」
自分たちは卑怯にも馬車の下に隠していたのを棚に上げてエスカの隠し剣を非難する宝探し組リーダーだった。
カキン!!ドゴン!!
エスカは1体の棍棒攻撃を剣で受け、もう一体の棍棒攻撃を足で受けた。
「やっと動きが止まったか」
「ぐおぁぁぁ!!!」
2体のトロールは5メートル級が倒されたのを見て怒りの表情を見せ、エスカに止められた棍棒に力を込めて押し込んでくる。
「何?!」
バキィィン!!
あまりの棍棒の圧力によって細身の剣が折れてしまう。
そのまま両腕で棍棒を受ける。
「アン!助け必要か?」
「不要」
スノウの掛けた声に淡々と応えるエスカ。
エスカはそのまま流動を使って受け流す流れをつくって棍棒を地面に振り下ろさせる。
ドゴォォン!!!
その隙に距離を取るエスカ。
だが2体のトロールは凄まじいスピードでエスカの両サイドに挟むように詰め寄って棍棒を振り上げていた。
エスカは避けずになぜか片手を空高く掲げた。
「おい!アンのやつ降参か?!手を上げて助けてくださいポーズしてんじゃねぇか?!」
宝探し組リーダーのどこまでも腐った性格にスノウはやれやれと言った表情を浮かべていた。
当然ウカの面で彼らに知られることはなかったが。
2体のトロールが一斉に凄まじいパワーと共に棍棒を振り下ろす。
するとエスカが手を掲げている真上にキラリと光ものが見えた。
シュゥゥゥゥゥ・・・
まるで空からレーザーでも撃ち込まれたかのような緑色の光の線がエスカに向かって一直線に進んできた。
次の瞬間。
ドガガガン!!!!
トロールの振り下ろした棍棒が跡形もなく粉々に吹き飛んだ。
それによってあたりに細かい瓦礫や塵が舞う。
宝探し組一同は何が起こったのか分からず目を見張る。
風にひよって塵が吹き飛んでいき、エスカの姿見え始めた。
エスカは右足を前に伸ばして前屈みの姿勢でまるで鳥が翼を広げているように両腕を広げていた。
そして右手には透き通るように輝くエメラルドグリーンの薄手の剣が握られていた。
ドォォン・・・
次の瞬間2体のトロールはその場に倒れ込んだ。
エスカが手に持っていたのは碧命剣だった。
エスカが手を天に向かって掲げた時、彼女の呼ぶ心の声に呼応して上空を飛んでいたグリーンドラゴンのザロンが碧命剣に姿を変えて彼女の掲げる手元に凄まじい勢いで飛んできたのだった。
「す・・すげぇ!あんな剣を隠し持ってたとは!!やっぱり盲目のアンは英雄だぁ!!すげぇ強さだ!!!」
宝探し組リーダーの調子の良さに呆れるスノウだった。
「すげぇな!さすがは英雄のお二人さんだ!」
ドシンドシンドシン・・
トロール3体は意識を取り戻したのか、起き上がるそすぐに森へ逃げて行った。
「ぺっ!ザマァみろ!この雑魚トロールが!!2度と俺たちの前に現れんな!!次俺たちの前に現れてみろ!今度は八つ裂きだぁ!!」
宝探し組リーダーはどこまでもクズな性格で、逃げる魔物に強気に勝ち誇って見せた。
だが彼らは5メートル級のトロールのふき飛ばされていた腕が元通りになっていたことには気付いていなかった。
一行は壁の内側へ戻った。
「いやぁ流石だなぁ!どうだ?俺たちと一緒に来ないか?俺たちはこれからもう少し進んだところでまた宝探しをするつもりなんだが、あんたたちがいれば100人力だ。宝の報酬の5%で手を打たないか?」
どこまでもクズな性格だとスノウたちは思った。
「申し訳ありません。私たちは先を急ぐ用があるのでこれで失礼します」
「おお、そうか。じゃぁこうしよう。俺が持っているこの笛、これ結構な範囲にまで音が響く優れものなんだが、俺がこの笛を吹いてもしあんたらがこの音を聞いたら助けに来てくれ。そうすればあんたらは自分の用事のために進める上、俺たちを助ければ宝の5%が手に入る。もちろんそこまでに宝を見つけられていればの話だがな。どうだ?悪い話じゃないだろう?」
エスカが “こいつ斬っていいか?” という表情をみせたため、スノウは小さく首を横に振って制した。
「わかりました。笛聞こえたら伺いましょう」
「おお、物分かりがいいな。いい心がけだ!じゃぁな!必ず助けに来いよ!」
そう言ってスノウたちは宝探し組と別れて先へ進み始めた。
「よかったのか?」
馬車の中でエスカがスノウに話しかけた。
「かまわんよ。ああいう輩はイラつくだけこっちが損をするからな。さっさと関わりを断つのが得策だ。それよりあのトロールどう思った?」
「あれは何か役割を持ってあの場にいるように思えた」
「お前もか」
「ああ。なぜあんなのを・・・」
「どうされたのですか?」
壁の向こう側で起こった出来事が見えていなかったソニアは会話に入ってきた。
「いやな、壁の向こう側に3体のトロールが出たんだが、その動きが異常に早く攻撃が的確だったんだ。まるで格闘技を習ったかのようなかんじだ。相当訓練されたトロールって感じだな」
「そんなことが・・・トロールといえば知能は低く、なんでも叩いて殺して食べることしか頭になく、その巨体から動きも遅いはずですが・・・」
「ふん・・・だからおかしいと言ったのだ。聞いてなかったのか?」
「む!・・・あなたには言ってないけど」
スノウはエスカとソニアがまた喧嘩を始めそうな雰囲気になり、ウカの面をとって睨み始めた。
それを見た二人は大人しくなる。
(ジェリーがいないとまたこれか・・・)
スノウは気を取り直して話を続ける。
「理由はなんだと思う?」
「わからないな。トロールをあのように仕込むのは容易じゃない。そんな手間をかけてやることなど想像もつかない」
「スノウには検討がついているのですね?」
「うーん。おそらくだが、壁が関係していると思う。モウハン事変時代にはなかった壁だ。考えられるのは二つ。あの壁の向こうに何かがあって行かせないようにしているか、あるいは・・・」
「壁の内側を進ませようとしているか・・・でしょうか?」
「そうだ。しかもおれは後者のほうだと睨んでいる」
「なぜだ?」
「あのトロールを相手に勝てるのは相当な戦闘力を持ったものだけだ。だが、逆にいえば相当な戦闘力を持ったものであればいくらでも壁を越えられるわけで、何かがあって行かせたくないのであればあんな回りくどいことはせずに、もっと厳重に囲って罠を作り警備する方が安全だ」
「なるほど。だがそれだけで後者であると言い切れるのか?」
「ああ。あれは弱いものを淘汰するために置かれたんじゃないかと思う。あれらに勝てる戦闘力の高いものはその先に進んだところで何もないと気づく。すると面倒と感じるから壁の内側の道を進むことになる。そうすると、強者だけが、壁の内側に導かれるまま進むことになる」
「とすればこの壁を作った目的は強者を選別しどこかへ誘導するため・・・となりますね?」
「そうだ。まぁ想像だ。確証はない。それにおれたちの目的はまずはゼネレスとハーポネスだ。この謎を解くのはその後だな」
「了解した」
「はい!」
ピュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ
と会話の終わったところで笛のような音が聞こえてきた。
「彼らか、どうするのだ?スノウ」
「ん?どうもしないぞ?」
「嘘をついたのか?」
「いいや。笛が鳴ったら駆けつけるとは言ったがどの笛の音かは聞いていない。彼らの吹いている笛かどうかもわからないからな」
「ははは!ずる賢いな!」
珍しく大笑いし始めるエスカ。
その直後、笛の音よりも大きな叫び声が聞こえてきた。
「ぎょえぇぇぇぇぇ!!!ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『・・・』
「気の毒だが、仕方ないな。仮に駆けつけようと向かってもこうもやられる直前で笛吹かれちゃぁどうしようもない」
「しかし、笛より声の方が大きなら笛などいらないだろうに・・・」
スノウたちは両端を壁の覆われた広い一本道を進んで行った。
次は土曜日のアップです。スノウたちはいよいよゼネレスに入ります。




