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<ゲブラー編> 72.決行

72.決行



モウハンが6国同盟メンバーと示し合わせた作戦はこうだ。


・決行日はヘクトル王誕生10周年記念式典の日

・6国同盟は決行日にゾルグへ侵攻できるように秘密裏に軍を進める

・ハーポネスはゾルグ東側から侵攻し、状況不明だがゼネレス参戦の場合は遅れて東側から更に侵攻。

・一方ガザド公国とジオウガ王国はゾルグ西側から共闘侵攻する。

・当然ゾルグ王国の属国であるゼーガン帝国が侵攻を阻むことを想定し、ガザド、ジオウガ共闘軍がそれに応戦する。

・一方ゼーガンの足止めに成功し、背後を気にすることなく侵攻できるレグリア・ゲキ共闘軍はゾルグ西側から攻め入る。

・ゾルグが東西からの侵攻に対して軍を派遣するはずで、その戦いは東側はゾルグの東に位置する都市ミザナより少しジグヴァンテに入り込んだ平原で行われる。

・一方の西側の戦いの舞台はジグロテの少し北側の平原で行われる。

・東西ともに極力一般民を巻き込まないように戦闘を行うための配慮だったが、その東西でゾルグ軍を足止めすることによってジグヴァンテ内の警備を手薄にすることができる。

・その隙をついてモウハン率いる革命軍がヘクトルのいる王室まで行き、倒すという分担だ。

・おそらく、東西のゾルグ軍をそれぞれ率いるのはヘクトリオンとなるはずでモウハンもまた駆り出される可能性があるが、そこは影武者を出すことにしている。

・おそらく東側にモウハンまたはジガン、西側はフェイまたはウーレアという予測だった。

・ゼネレスが動かない場合、東側への軍投入規模が縮小される可能性があるため革命軍としてはヘクトリオンであるジルガンとジガンを相手にすることを想定してタイザン、ゴドウ、ゴッシ、アッシュの4名を対ヘクトリオンとして差し向ける計画とした。

・モウハンはあくまでヘクトルを討つ役割に徹する作戦だ。


決行の数日前には秘密裏に軍を進ませているジオウガがガザド公国に入っていた。



―――デューク邸―――


「おお!これはシャナゼン王子!久しぶりだ!道中ご無事でよかった!」


「デューク殿久しいな!しかしこのような形で再開できることを嬉しく思っている。今回は本当にありがとう!」


シャナゼン王子は自身が率いるジオウガ軍5万をガザド公国の首都ガザナドの郊外に駐屯させて、数人を連れてデューク・ガザナドの元へ挨拶にきていた。

当然、この後、ガザド軍と共同侵攻するためだ。


「シャナゼン王子!ご足労痛み入ります!」


「おお!フィンツ男爵、モウハンと我が妹の結婚式依頼だな。そなたもこの戦いへ参戦されるのか?」


シャナゼン王子が来たとあって、男爵のフィンツもデューク邸に訪れていた。


「いえ、私めはお恥ずかしながら自国の警備にあたります」


「どうしたのだ?」


「弊国では最近裏社会のザンダールという名の組織の動きが活発化しておりまして、人身売買や薬物売買など様々な凶悪犯罪が増加しているのと、それを取り仕切っている組織が強固に巨大化していることもあり、国を空けることができなくなっているのです。対等に戦える程度の軍を残しておかなかれば公国存亡の危機にまで発展する恐れのある事態となっておりまして・・・」


「それは大変だな。その組織の素性や拠点、規模などは把握されているのか?」


「それがほとんど謎なのです。クルーエルハートという人物がその組織を仕切っているという程度、そしてその組織の構成員は3万人はいるというくらいしか情報が入ってこないのです。以前壊滅したグルダロスという名の裏社会組織はモウハン殿のご助力もありレイトラル元伯爵が黒幕であったと突き止めたということもあり、今回貴族たちの素性を徹底的に確認したのですが、該当するものがおらず討つ手なしということで困っている状況なのです」


「なるほど。姿の見えない幽霊のような組織だな。しかし状況はわかった。軍を2分しなければならないのは痛いが、言うなれば我々はゼーガンを止めれば良いのだから十分だろう」


「申し訳ない・・・」


「デューク殿が謝る話ではない。国が違えばそれぞれ抱える事情も違う。それらが手を組もうというのだから、抱える事情を理解する包容力と対応力が必要なのは最初からわかっていることだ。それにデューク軍が倍の働きをすればハンデはないのだからな」


「そうだな。我らの戦術とジオウガのパワー、ガザドの粘り強さ、これがあればゼーガンなど足止めではなく滅ぼすことすら容易に思える」


「まぁそうせくな。9国維持はミトラ神の盟約。それに逆らってはヘクトルと同罪となろう。我らは我らがなすべきことをすればいい。あとはモウハンがやってくれるはずだ」


「その通りだな」


ジオウガ軍、ガザド軍は翌日出発することとなった。



―――ハーポネス天帝宮殿―――



「リュウオウにございます」


「入れ」


「は!」


天帝への謁見の間に金剛の槍の頭領リュウオウが通された。

ヨシツネも同行している。


「首尾は?」


「準備整ってございます。いつでも出陣可能です」


「そうか」


「天帝、我が国の防衛にさける軍が1万ほどとなってしまいますが本当によろしいのでしょうか?」


「構わぬ。聞けばエルフは動かぬらしいが、それは静観するためであろう。きゃつらはそもそも自分たちの領域を侵されなければどうでもよいのだ。それよりも自分たちが血を流すくらいなら、人間同士で勝手に殺し合えばよいとさえ思っているだろう。今やオーガから山を奪い、森で外からの侵入を防いでいる臆病者でしかないきゃつらに朕の国を攻める理由も度量もなかろう。それに攻めるならジオウガが先であろうな。なにせ騙して聖なる火山を奪ったそうではないか。いつ攻められるかわからない相手を攻めずに対して害のない隣国を攻めるほど、きゃつらも馬鹿ではなかろう?」


「御意」


「して、いつ出発じゃ?」


「決行日の3日前が最適かと。あまり早すぎては、相手に考える隙を与えてしまいます故」


「あと2日か」



・・・・・


・・・



―――レグリア王都レグリアリアンテ王城内 王謁見の間―――



「おお、よくぞお越しくださいましたトツ王!」


「ゴムール王!此度の共闘改めて礼を申す!」


トツ王とゴムール王は手を握り合った。


「軍はどちらに?」


「まだ自国にとどめておるわい。早く動きすぎてはことをし損じるからな。合図とともに将軍が儂の軍を進めてくれる。儂はそなたと共に出発し途中で合流して自軍を指揮する予定じゃて」


「なるほど!では共に!シャナゼン王子から届いた鳩によれば、既にガザドに入ったとのこと。明日にはゼーガンに侵攻しますから、さすれば我らもゾルグへ侵攻となります」


「腕がなるのう!しかしこれは歴史に残る戦いぞ!」


「ええ!それも未来を作るための輝かしい歴史の1ページとして!」



―――ナラカ オアシス・シナノガワ―――



「モウハン。本当に我はここにいてよいのか?」


ヤマラージャはモウハンに確認した。


「もちろんです!ヘクトルはやけを起こしてナラカに軍を侵攻させ、あなたの大切な仲間のいるこのナラカで最後の大虐殺を行う可能性だってある!あなたにはそれを防いでもらわなければならない!」


「それはわかったが・・・」


「大丈夫です!ヘクトルは生かして捕らえます!そして審判はあなたが下すのです!ヤマラージャ殿、あなたにはその権利がある!それにあなたが先頭にたってヘクトルを討ったとあれば、それはヘクトルがあなたを貶めたと同じ行為。あなたはヘクトルが討伐された後に、この国を救う救世主として登場して再度王に返り咲けばよいのです!あなたは潔白でなければならない!恨みを連鎖させてはならないのです!」


「ありがとう・・・モウハン・・・」


「よし、じゃぁもう一度おさらいです」


ゴドウが革命軍の作戦を再確認している。


「私と、タイザン様、ゴッシ、アッシュの5名はそれぞれ10名を引き連れてモウハン殿についていき、王城に入ります。そこで必ずヘクトリオンが最低2名、多くて3名は現れる。それを我々で食い止める。モウハン殿にはその時に生きている威勢のいい者5名をつけてヘクトルの元へ向かってもらう」


「あとはとにかくヘクトリオンを抑える、でいいんだよな?」


「そうです」


「ほっほっほ。腕がなるわい」


「タイザン様。本当にそのお体で大丈夫なんですか?」


ゴッシが老人のタイザンに問いかける。


「お前はわかっておらんな。だから牛頭とよばれるんじゃバカものが!我らはヤマ様の分霊ぞ!そう簡単に死ぬわけがなかろうが!見ろ、この肉体美を!」


そういうとタイザンは上半身だけ服を脱ぎヨボヨボでガリガリの体を見せた。


「どこが肉体美ですか・・・」


「ふむん!」


タイザンが気合を入れると体がいい気に膨れがり、筋肉質の体に変化した。


「うわ!きもちわる!それ以前も隠し芸的なやつでやってたのですよね?本当に戦えるんですか?見せかけだけではなくて?」


ゴッシは更に疑いの眼差しを向けた。


「ふぬん!」


ゴン!!ガラガラガラ!!」


タイザンがちょっと触れただけで壁が粉々に崩れ去った。


「これで少しは信用したかの?」


「は・・・はい。申し訳ありません・・・でした」


「わかればよい!」


『わっはっっは』


どう見ても緊張している場の雰囲気を崩そうというタイザンとゴッシの茶番だったが、皆その意向も汲み取って大いに笑った。



―――ゲキ王国――――



「モウハン・・・」


エニーは言い知れぬ不安に襲われていた。


一昨晩モウハンが帰ってきたのだが、会うのがこれで最後かもしれないと一瞬だけネガティブな思考に囚われて以降、そのイメージが払拭できていなかったからだ。

モウハンはいつもと変わらず、俺は負けない!と笑顔で言い切っていたのを何度も頭の中で繰り返し思い出し、その不安を取り除こうとしていた。


(こんなんじゃだめ・・・私はこれから母になるんだから・・・)


エニーは妊娠していた。

だが、モウハンにはそのことを伝えていなかった。

何かの迷いにつながってしまうことを恐れたためだ。

相手はヘクトル。

一瞬の気の迷いや意識の散漫が命取りになりかねない。

勝って再開した際に笑顔で伝えようとしていたのだが、本当に伝えなくてよかったのかという思いもまた払拭できずに、そのことが不安を助長していた。


(信じてる!モウハン!必ず生きて帰ってきて!)



エニーはただただ祈るばかりであった。


・・・・・


・・・




そして運命の日、6国同盟ヘクトル討伐作戦が決行された。





―――ジオウガ+ガザド共闘軍―――



「間も無くゼーガンとの国境に差し掛かります」


「よし!炎魔法の投擲砲を放て!」


デュークの指示に従って、燃え盛る巨大な岩石が多数ゼーガン帝国領内に放たれる。

無論、ゼーガン側に宣戦布告しジオウガ+ガザド共闘軍に目を向けさせるためだ。


攻撃に気づいたゼーガン帝国は3時間後、軍を出した。

さほど時間が経っていなかったが7万もの兵を出したのは予想外だったが、ゼーガンは基本的に軍事国家であり、常に軍の演習を行っていることでも知られているため、軍の機動力には定評があったことから指して疑うことなくジオウガ+ガザド共闘軍はゼーガン帝国帝都ゼーガンの北の平地で開戦した。


ゼーガンは強力な投擲武器で応戦した。


「我がジオウガ軍の精鋭たちよ!我らが強さとはなんだ!そう力だ!ゼーガンが放つあのようなチンケな岩石の攻撃など、貴様らの片腕で軽々と吹き飛ばしてやるがよい!さぁここが我らオーガの見せ場だぞ!」


『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』


シャナゼン王子の檄に奮い立つオーガ兵たち。

ゼーガン軍から巨大な岩が無数に飛んでくるが、屈強なオーガがそれらを巨大な斧を振り回して粉砕し、その隙をぬってガザドの騎馬隊が切り込んでいく。


徐々にその距離を詰めていく。

ゼーガンも負けじと騎馬隊を投入し、帝国軍にほど近い場所で騎馬隊同士の戦闘が始まった。

由緒正しき歴史を持つガザドの騎馬隊の機動力は凄まじく、縦横無尽に駆け巡っては相手を翻弄し、長い槍で相手の息の根を止めるという高い戦闘力を誇っていた。

一方ゼーガン軍の騎馬隊は装備と数で圧倒する手法で、ちょっとやそっとの攻撃では致命傷を与えられない重装備と何層にも組まれた編成によって、なかなか切り崩せない厚い壁となって立ちはだかっていた。

更にゼーガンは後方からマジックキャスター部隊が炎魔法攻撃を仕掛けてきた。

それを見透かしていたかのようにガザド軍は後方から同様にマジックキャスター部隊を進めて炎魔法で応戦する。


まさに一進一退の攻防を繰り広げていた。




―――ハーポネス軍―――




ハーポネス軍はすでにゾルグ王国内に侵攻していた。

東の都市ミザナを超えた平原に陣取っていた。

一方で異常なほど早く編成を組んで迎え撃ってきたゾルグ軍。

その時間、ハーポネス軍がゾルグ領に侵攻してわずか4時間だった。

ハーポネス軍5万対ゾルグ軍3万だった。


「ハーポネス全軍に次ぐ!この戦いは!我らが先の戦いにおいて天帝軍を勝利に導いたオーガの助太刀に報いるための戦である!我らハーポネスは受けた恩には必ず報いる義と武を重んじる民族だ!そしてその先にあるのは勝利の2文字のみ!我らは死なん!たとえ肉片になろうとも敵の首を取るまでは死なん!

さぁ!心を奮い立たせよ!そして刀を持つその手に己の魂を込めて全ての敵を滅せよ!突撃だー!!!」


金剛の槍率いるリュウオウがハーポネス軍総大将であった。

その檄は5万の兵全てに浸透し士気を高めた。

国こそ内乱で疲弊してはいるものの、9国の中で最も戦闘慣れしている軍と言っても過言ではないだろう。

しかも勝利を収めた軍だ。

勝ちを経験していて勢いづいている軍ほど厄介なものはない。


一方それに対するゾルグ軍を率いているのはヘクトリオンのウーレアとモウハンだった。

2万の差は大きいと思われた。

しかも相手は戦争慣れしているハーポネス軍だ。

しかし、ウーレア、モウハンはヘクトリオンだ。

2万の差を埋められるだけの部隊ということになる。

だが実際、モウハンは影武者でナラカ内で最もモウハンに体格がにている者が務めていたのだった。

これもモウハンの作戦だった。

自ら迎撃を名乗り出て自分を不在と思い込ませて王城に侵入する作戦だったのだ。


ハーポネス軍の投擲に対して、ゾルグ軍の投擲も炸裂する。

平地では衝撃にって開けれられた大きな穴がいくつもできている。

歩兵隊の戦場としては複雑に入り組んだ地形へと変貌した。

両歩兵部隊は投擲の嵐の中激突した。

両軍とも歩兵部隊と言いながらも炎魔法を駆使して戦うものが多く、投擲の嵐と、炎魔法の交戦によって至る所から黒い煙が出始め、戦いの状況が両大将からは見えない混沌としたものになっていた。

しかし、依然として距離は縮まらないものの、長引くに連れてその数の差が影響し始めている。



―――革命軍―――


「よし!これから王城へ攻め入る!今王宮内は突然の他国の侵攻に予定通り混乱しているが、ヘクトル王10周年式典を止める判断には至っていない!式典を止めることはつまり、他国に屈したと認めることになるからな!」


モウハンはタイザン、ゴドウ、ゴッシ、アッシュそれぞれひきつれる10名計50名の前で作戦開始を合図した。

混乱をきたすジグヴァンテ王城付近で紛れながら見つからないように王城へ侵入した。

既にこの状況を把握しつつあるジルガンは兵を組織して東にウーレアと(実は影武者の)モウハンを出兵させ、フェイ、ジガンを西へ軍を組織して出兵させた。


「ここまで来れば予定通りだ!今この王城内で警戒すべきはヘクトリオンのジルガンのみ!さすがのヘクトリオンと言えどもお前たち4名と配下50名を相手に戦って勝つのは不可能に近い!油断は禁物だがこの戦い、勝利は近いぞ!」


モウハンは仲間達を鼓舞し王城内を進んでいく。





―――レグリア王国―――



「よし我が軍も出陣だ!」


ゴムール王率いるレグリア王国軍と一部の側近を連れてレグリアを訪れていたトツ王は一緒にゾルグに向けて進軍を開始した。

同時にゲキ王国軍も進軍を開始している。


「頼むぞ!我が息子よ!」


・・・・・


・・・



ゾルグは後手後手に周り見事なまでにモウハン率いる革命軍がヘクトルまで辿り着く道のりが作られようとしていた。






後少しでモウハン編が終了し、スノウのストーリーに戻ります。次回は火曜日か水曜日のアップの予定です。

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