<ゲブラー編> 67.結婚
67.結婚
「え・・・」
「師匠・・・今何て?」
「俺は!エニーと結婚する!」
やっとその言葉が思考に入り込んできたエニーはその意味を理解し急に顔を赤らめ始めた。
「受け取ってくれ!この花束を!」
「これ・・」
「ゲキ王国に咲く綺麗な花を全種類摘んできた!」
「師匠、もしかしてそれで遅れたの?!」
「この国の綺麗なものに囲まれてお前と結婚したかったからな!」
「モウハン・・・」
「俺はお邪魔虫みたいだね」
ディルはその場から静かに立ち去った。
「俺はお前と結婚する!」
「だめ」
「え?!」
「そうじゃないでしょ」
「?」
「どうか、僕と、結婚、してください・・・だよ」
「・・・おお、そうか!」
そう言うとモウハンは膝をついて片手を差し出して言葉を発した。
「どうか俺と結婚してください!」
「はい。よろしくお願いします」
巨大な花束の優しい花の香りに包まれてモウハンとエニーは一生涯の愛を誓った。
城の上層階からその様子を微笑ましく見ているトツ王とキョウ王妃。
「おお!ゲキ家の戦闘力とオーガの力が合わさったらどんな剣士が生まれるのか!楽しみで仕方ないわい!こりゃあと100年は死ねんな!」
「あらあら、もういい歳なんですからいい加減喧嘩好きは卒業しましょうね。まずは二人を祝福しましょう。人間とオーガ。これがゲブラーの未来の平和につながる結びつきになりますように・・・」
「そうじゃな!」
「でもあんなに花を摘んできて・・・血は争えないわね」
時は戻って3ヶ月後。
モウハンとエニーの結婚式がささやかに厳かに行われた。
シャナゼンが変装してお忍びでお祝いにゲキ王国にやってきた。
謁見の間。
トツ王の前に王家の正装姿のモウハンが立っている。
後方の扉が開き、花嫁姿のエンゴシャ姫とジオウガ王国の正装姿のシャナゼンが歩いてくる。
エニーはシャナゼンと腕を組んで少しずつ前に進んでくる。
両脇にはゲキ王家と親睦の厚い貴族数名に加えて、ディルやジオウガ王国のグンタン宰相、そしてハーポネスのヨシツネ・カグラミ、ガザド公国のティム・フィンツ男爵、そしてレグリア王国の若き国王ゴムール王が参列していた。
ゴムール王は自身の後継である子、アムール王子を抱き抱えていた。
そしてエニーとシャナゼンはモウハンのすぐ後ろまで辿り着いた。
シャナゼンはモウハンに目で合図をした。
モウハンはそれに小さく頷いた。
“我妹をよろしく頼む” モウハンにはそう読み取れたのだ。
そしてエニーはシャナゼンと組んでいる腕を離し、モウハンと腕を組んだ。
二人は前を向き数歩前に進み立ち止まる。
トツ王は二人の顔を見ながら言葉を発した。
「新郎ゲキ王国王子にして第一王位継承者モウハン・ゲキ」
「は!」
「そして新婦ジオウガ王国第一王女エンゴシャ」
「はい」
「そなたら二人が交わした愛の契りはプロメテウスのエターナルハーベストに等しく燃えておる!それは未来永劫消えることのない灯火!片方が命を落とし冥府へ旅立とうとも、その灯火は消えることなく再び会う導となろう!」
モウハンは凛々しい顔で新たな旅立ちへの責任感で満ちていた。
そしてエニーはこの幸せが永遠に続くものと信じて涙を流していた。
「よって今日ここにその絶えることのない双方の誓いを持って二人の結婚を認める!」
『おおぉぉぉぉぉぉ!!!!』
参列者による歓喜の声が謁見の間にこだまする。
モウハンとエニーは晴れて夫婦となり、エニーはゲキ王国王太子妃となった。
・・・・・
・・・
その日はメンバーは少ないながらも立食形式で贅を尽くした宴が設けられた。
貴族たちはその場を遠慮して、参加したのはモウハン、エニー、トツ王、キョウ王妃に加え、シャナゼン、ディル、ジオウガ王国のグンタン宰相、ヨシツネ、ガザド公国のティム・フィンツ男爵、レグリア王国のゴムール王の10名だった。
「しかし此度は、儂の愚息の結婚式に参列してもろうて本当にありがとう。儂が言うのも親バカかもしれないが、モウハンは今の儂100倍は強い。また同時にそんな息子に似つかわしいのはやはり猛々しい戦士の血を持つジオウガの姫、エンゴシャ姫以外におらんとも思うておる。生きている内にこのような場に居合わせられるとは思うておらんかったし、こうしてささやかながらも親睦の深い皆さんに祝ってもらえとるのが何より儂・・・儂・・・」
トツ王は泣き出した。
「あらあら、頭の中喧嘩しかないのに珍しいわね。あなた。ささ、せっかくの場が湿っぽくなってしまいます。モウハン、そしてエニーの結婚を祝して乾杯しましょう」
「がんばーい」
王妃の言葉には忠実なトツ王は間髪入れずに泣きながら乾杯の温度をとった。
泣き上戸となっているトツ王をモウハンは背中を叩きながら何やら話している。
そんな折、キョウ王妃がエニーに話しかけてきた。
「エニー。改めてお礼を言わせてね。モウハンと結婚してくれて本当にありがとう」
「そ、そんな!私こそ快く迎え入れていただいて本当にありがとうございます!王妃様」
「そんな畏まらないでね。正直言いますとね、父親に似てあんな性格の子だから結婚なんて一生無理と諦めていたのよ」
「た、確かに・・・。戦いにしか興味ないですものねお父上も。でも王妃様とは結婚なされましたよね?し、失礼を承知で伺うのですが馴れ初めは?」
「あはは、そうよねぇ。政略結婚のようにみえるわよね。でも実はこれでも大恋愛で結婚したのよ」
「そうなのですか?!」
「ええ。私元々は医者でずっとあの人の怪我の看病をしていたの。ううん、正確に言うとね、戦いや遠征に出ては常に怪我を負っているから、それについて回って治療や看病をしていたってことなの。だから一時期ずっと共に生活していたのよ。でも様々な遠征で私が過労で倒れてしまってね。王の看護の任を解いてもらうようお願いしたの。まぁ戦っている姿はカッコ良かったし、気持ちに裏表がないでしょう?それなりに好きだったけど、身分も違うから諦めて・・・。そうしてしばらく療養してレグリア王国で街医者をしていたらね、突然」
「はい」
「こぉぉんなおっきな花束を担いで私の病院まで来て・・・。あはは、今思い出しても笑っちゃうわ。こんな顔していうのよ?俺はキョウと結婚する!って。おかしいでしょう?結婚してくださいってお願いじゃなくて、結婚するって宣言したのよ」
「モウハンと同じ!」
「ははは、そうなのね。それでねぇ、この花束は?って聞いたら、金で買えるものを持ってきてもそれはお前を金で買うのと同じだ!だから俺が綺麗だと思うものを自分で集めていっぱいにしてそれをプレゼントにしてお前に結婚を申し込もうと思ったんだって」
「ははは、モウハンも同じことやってる・・・」
「そうねぇ。それで私言ったの。申し込むなら ”結婚する!” じゃだめよって。”キョウ、僕と結婚してください”って言うのよって」
「あはは、私も同じこと言いました!でもそう言っちゃいますよね!」
「ははは、そうなのね。それで教えた通り言い直して・・・それで結婚したのよ。あの人には私みたいな物好きがついて回ったから情が移ってどんな縁かわかりませんけど結婚ができたのかもしれないけれど、あの子にはそんな巡り合わせなんて来ないかもしれないって・・・それだけあの性格は厄介ですものね、うふふふ」
「まぁそこがいいんですけど」
「そうねぇ、ははは」
いわゆる嫁姑の関係であるが、仲の良さそうな会話がなされていた。
一方で少し離れたところでシャナゼン王子とゴムール王が話をしている。
「ゴムール王、お会いするのは初めてだな。エンゴシャの兄でジオウガ王国王子シャナゼンだ。そしてこれは我が国の政を任せている宰相のグンタン。我共々よろしく頼む」
するとゴムール王は丁寧に一礼して言葉を返した。
「これはご丁寧に。私はレムリア王国国王のゴムールです。オーガ最強と謳われる貴殿にお会いできるとは光栄です」
「まぁそう謙るな。しかし先の9国会議は本当に残念だったな。お互いに。もちろん貴公の方が何倍も辛く悔しい思いをしていると思う」
「いえ、状況が違うだけで悔しい思いは一緒でしょう。屈強であられたガッハド王の受けられた仕打ちがもし私の父に起こっていたとしたら、その辛そうな姿を見る度に胸が締め付けられていることでしょう。言えることはただ一つ。殺されようと、再起不能なまでに痛めつけられようとそれを行なったものを許す道義はないということです」
「若いのに立派なものだ。その通りだな。それと是非堅苦しい言葉はなしにしてくれ。我らは同盟国であり、貴公は一国の王だ。いやこれからは同じ目的を共有する友として接せられればと思う」
「ありがとうシャナゼン王子」
「おやおや私を忘れてもらっては困りますよ」
「おお、貴公はフィンツ殿ではないか」
「シャナゼン王。その際は弊国の長デューク・カザナドがお世話になりました」
「いや世話になったのは我の方だ。いや、逆に迷惑をかけた・・・かな。わっはっは」
「しかし、あれだけぶっ続けでチェスができるとは肉体はさることながら精神力も異常なほどのタフネス。感服いたします」
「戦いが好きなだけだ。それが生死をかけた剣闘であろうと盤上の攻防であろうとな」
「とは言え、あのねちっこいデュークにあそこまで付き合われるのはやはり敬服せざるをえませんな。それとお初にお目にかかります、ゴムール・レグリアントニー王」
「こちらこそ、フィンツ男爵。ガザナド公爵と共にそのお名前は離れたレグリアにも聞き及んでおります」
「お見知り置きいただき光栄です。遅ればせながら先の9国会議での出来事は誠に残念でございました。デュークもヘクトルを追求したかったようですが、そこまでの勇気は持ち得なかった。本人も申しておりましたが情けないことです。この汚名は必ずやこの5国同盟の中で晴らさせていただきますぞ」
「どうかお気になさらず。国を背負うものとして判断の難しい局面であったことは容易に想像がつきます。公爵殿のご判断もまた適切なものであったと私は思います。是非汚名などとは仰らず、このゲブラーの未来のために共闘致しましょう」
「なんとご立派な。この際種族など関係はないが、同じ人間として、一人の男として貴方様を尊敬致します」
「やめてください。先ほどシャナゼン王子が言われた通り、私たちは友だ。今日は是非その親睦を深めましょう」
「あのぉ」
ディルが割って入ってきた。
「おお、いつぞやの人質エルフではないか」
「シャナゼン王子!いい加減にその言い方はやめましょうよ!」
「ははは、すまんな。お前のことは嫌いではないが我の血に刻まれたエルフへの嫌悪感がそうさせるのだ。気にするな」
「気にするなってったって無理でしょうよ!」
「こちらの方は?」
「ああ、こやつは・・」
こやつはと言いながらも ”どうせ紹介できないでしょ” と言った表情を浮かべてディルが自己紹介を始めた。
「俺はディル・ガリネス。エルフであり、上流血統家バーン一族のエヴァリオス家グレン・バーン・エヴァリオス様に仕える者です。モウハン王子の強さに惚れ込み師と仰いでこの場におりますが、我が主人であるグレン様もまた、モウハン王子と同盟を結んでおります。俺はある意味その証としてこの場におります。皆さんのような高貴な身分ではないし、我主人のグレン様の代役が務まる家柄でもないですが、これから共に戦うものとしてどうかお見知り置きください」
「ありがとうディル殿。エルフの目と弓の力があれば我れが不意をつかれることは無くなるでしょう。すると6国同盟となりますね」
「まぁ怪しいがな」
「あのグレン様が信じろと仰ったんです」
「わかっておる。モウハンがそのグレンとか申すものを信じた。我はモウハンを信じている。だからモウハンの信じるグレンのことも信じると言っている。だがな、エルフという種族はそう単純ではないのだ。特に上流血統の輩はな。お前も知っておろう?」
「そ、それはそうですが・・・」
「まぁよい。我はここにいる者、ここにある事実だけを信じる。今ここにはお前がいる。それだけで今日は十分だ」
「そうですね。私もそう思います。ディル殿、このフィンツもまたモウハン王太子、シャナゼン王子を信ずる者。お二人が信ずるグレン殿のことも信じますが、確実に言えることはその証としてあなたがここにいらっしゃるという事実だけです。今日はそれで満足ですね」
「みなさん、ありがとうございます」
そこへヨシツネを連れてエニーがやってきた。
「すごい光景ですね。これだけの国の方が仲良く話をしているなんて滅多に見られることじゃないから」
「おお、我妹よ。まずは改めて言わせてもらおう。おめでとう」
『おめでとうございます』
他の者たちもエニーに対して祝いの言葉を述べた。
「みなさま、ありがとうございます。何よりお兄様からのお言葉が一番嬉しいわ。私の結婚を認めてくれる日が来るとは思ってもいませんでしたからね」
グンタン宰相とディルは無言で頷いている。
「ところでお兄様、ギーザナは?」
「あやつは留守番だ。このご時世だからな。何かあっては困るということであやつ自ら我の影武者を買って出て留守番というわけだ。まぁ大方気持ちの整理がまだついていないからそれを理由に残ったのだろう。落ち着いたら挨拶にでも行ってやってくれ」
「ギーザナらしいわね」
「そうですね」
「おお、ヨシツネ殿」
「大変ご無沙汰しております、王子」
「そちらの御仁は?」
「ヨシツネ・カグラミ殿だ。ハーポネスを治める天帝を守る “金剛の槍” の一人であり、モウハンを鍛えた友人でもある」
「ヨシツネ・カグラミと申します。以後お見知り置きを」
流暢なヨシツネの紹介に対して、ディルは ”自分のことは紹介できないのになんなんだこの差は?!” と思いぶすっとした表情をしていたが、誰も気づくことはなかった。
「ハーポネス天帝の“金剛の槍”と言えば様々な情報に精通し、どこからともなく姿を現したかと思うと影のように消え、表立っては鬼神のように戦い、裏では気付かぬ内に敵の命を奪う隠密集団と聞いたことがあります。小さい頃に読んだ本に出ていましたが、御伽噺かと思っていました。まさか本当に実在するとは・・・」
フィンツ男爵が食いついてきた。
「だいぶ尾鰭が付いているようだ。確かに役割は天帝の命に従って動くことには違いないのですが神出鬼没のような隠密集団ではありませんよ」
「しかしあまり他国との国交を開かなかったハーポネスがまたどうして今回の6国同盟に参加を?」
ゴムール王が問いかけた。
「ジオウガにおられるとある屈強な戦士に国を救われたのです。ご存知かどうかはわからないが、私の国はしばらく内戦状態が続いていたのです。圧政を敷く将軍側に反旗を翻した天帝側は最初こそ勢いがあったものの、中盤より押され気味となりました。それもそのはず、将軍側は元々の出が軍隊ですからね。長期戦になればなるほど個々人の戦力差が大きく効いてくる。その劣勢を強いられていたところに現れたのがジオウガのギーザナ殿だったのです」
「あ、先ほど王のご不在中を任されているという方ですか」
「そうです。彼は正に鬼神のごとく戦ってくれた。敵の最も強い武将を討ちとっていただきまして、そこから一気に形勢逆転したというわけです」
「なるほど。まさか鎖国状態のハーポネスの内戦に、種族を超えてジオウガから助っ人が現れ国に平定をもたらしたと・・・。これはジオウガ王国以外の参入では解決しなかったかもしれない。・・・でも不思議ですね。モウハン王子がこの6国同盟を提起されてから全てがつながったかのように連鎖して繋がっている」
「そう言われればそうですな」
「あやつには不思議な力があるのかもしれんな」
「師匠に?そうですかねぇ」
「あるわよ!私は最初から分かってたわ」
「ん?おんだあ?」
モウハンが口いっぱいに食べ物をほう張ってやってきた。
ハムスターを凌駕するほどのほっぺたの肉の伸び率で、その顔は人の領域を超えていた。
「なんという・・・」
「すごい・・・」
「アホ面だ・・・」
ゴムール王、フィンツ男爵、シャナゼンが心の声を思わず発してしまう。
呆れたディルはエニーに問いかける。
「前言撤回するかい?」
「ま、まぁこういうところもひっくるめての信頼と実行力よね・・・」
「嫁さんになると旦那には甘いんだな」
「はは」
「あはは」
「わっはっは!」
『わーっはっはっはっはっは!』
その場にいる者たちは大それたことを計画し実行し続けている英傑モウハンの化け物級ハムスター顔を見て思わず笑い出した。
当の本人であるモウハンはキョトン顔で、そんな顔を横目で見てエニーは恥ずかしそうにしていた。
そうしてモウハンとエニーの結婚を祝う席は和やかに進んだ。
だが、それは束の間の幸福だった。
次は日曜日のアップ予定です。




