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<ゲブラー編> 66.勝利のあと

66.勝利のあと



「なんなのだ!!!」


ボッゴォォォン!!!


重厚感あるソファがまるでサッカーボールかのように軽々と蹴り飛ばされて壁にぶつかり粉砕した。

ソファを蹴り飛ばしたのは、オールバックで後ろ髪がハリネズミのように経っている髪型でメガネをかけた男だった。

正面から見るとインテリに見え、横から見るとパンクスに見える。


「ギグレント様・・どうかお鎮まりください!!これ以上なされてはこの控室そのものが壊れてしまいます!!」


先程からこの控室で暴れていたのはゾルグ王国国防長官でありへクトリアンのギグレントその人だった。

彼はトルーが戦う前に負けを認めたことで不戦勝となったことに怒っていた。

全ての相手を完膚なきまでに叩きのめして再度あの栄光のエンカルジス(優勝者)に上り詰める筋書きが直前で崩れ去ったからだった。

しかも、トルーは “本当は自分の方が強いぞ” とでも言いたげな派手な去り方をしていたのがさらに癪に触ったようだ。


「それくらいにしておきなさいよ」


女性の声が聞こえたがその方向に机が飛んでいった。


シャヴァン!!!


机が真っ二つに切断された。


「なんだ、あなたか」


「随分な挨拶ね。でも癇癪起こすなんてみっともないわよ?いいじゃない、次であなたの強さを証明すれば」


ピタ・・・


「要はどのようなルートを通っても華々しくゴールに到達すればよい・・・そういうことか」


「そうね。あのトルーより派手にモウハンを叩きのめせばいいんじゃない?」


「妙案だ。ありがとうフェイ。別の控室を使わせてもらうぞ」


そう言ってギグレントは別の控室に向かって歩いていった。


「全く単純ね」


「いいのか?あんなふうに乗せてしまって」


「あら、聞いてたの?趣味悪いわね」


「お互い様だろう?」


現れたのはジルガンだった。


「そうかしら」


「しかしまぁこれでヘクトリオンは3人になるな」


「あらあら、ギグレントが負ける前提ね」


「違うのか?」


「あはは、相変わらず面白いわねあなた。まぁボーメリアンより劣るギグレントが勝てるはずもないわね。あのモウハン。ただのボンボンかと思ってたけど相当強いわ。是非戦ってみたいものね」


「今から飛び入りで参加してギグレントをぶちのめして代わりに戦うって手もあるがな」


「まさか!そんな恥ずかしい真似できるわけないでしょう?この私が。まぁでも元々物足りなかった今のへクトリアンですものね。入れ替えるにはいい時期かもしれないわ。ヘクトル様が二人を指名された時、あぁ見限られたのねって思ったもの」


「しかしゼーガンはどうされるのか」


「気にする必要ないでしょう?あれは対等じゃない。隷属国だし」


「相変わらずズバッとモノを言うねぇ。補充の当てはあるのか?」


「トルーを考えていたんだけど逃げちゃったし。モウハンはあなたが予約してるでしょ?」


「まぁな」


「じゃぁどこかから探してこないと」


「楽しそうだな。また強者探しと称してどこかの国に内乱を起こさせて殺戮できるってか?」


「人聞き悪いわね。私はヘクトル様の命に従って他国弱体化にも寄与しているのよ?」


「はっわかったよ」


そう言って二人は消えた。


ジルガンとフェイの会話の通り、ギグレント vs モウハンの決勝戦はモウハンの圧勝に終わった。

モウハンも認めていたがボーメリアンよりも実力が劣っていたため、試合内容も一方的で観客も反応に困っていたのか終始静かだった。


その後速やかに行われたエンカルジス授与式にヘクトルは現れず、また通常は上位10名は表彰式に参列し勲章授与されるのだが、ギグレントとボーメリアン、そして棄権したトルーの姿はなかった。


・・・・・・


・・・


―――ゲキ王国 国王の部屋―――


「やった!!」


「流石は師匠!」


「まぁ当然の結果じゃな!なんと言っても儂の息子じゃから!」


炎魔法ホログラム装置で一部始終の試合を見ていたトツ王、キョウ王妃、エニー、ディルはモウハンの優勝を喜んでいた。

同時にこの優勝は、6国同盟作戦の次のステップへの移行を示していた。

この吉報は鳥を飛ばしてジオウガ、レグリア両国にも伝えられた。


「さぁて・・息子はかの国でどんな要職につくのだろうかの・・・」


「トツ王、心配は入りません。必ずうまくやります」


「あらあら、将来のお嫁さんにもう諭されているのね、あなた」


「ん?誰のことだ?」


ズコー!


エニーとそれに釣られたディルはズッコケた。


「ごめんなさいね。あの子も同じだと思うのだけど天然で喧嘩することしか頭にないの」


「ですね」


「師匠の脳筋っぷりは父親譲か・・・」


二人は苦笑いした。


・・・・・


・・・


ーーージオウガ王国ーーー


「おお!ついにやったぞ!」


「どうしました王子」


「グンタン!ギーザナを呼べ!」


シャナゼン王子の指示に従って即刻ギーザナが王城、謁見の間に現れた。


「なんと!」


「ああ!やりおった!」


「ま、まぁ当然でしょう!一体誰が稽古を付けたと思っているのですか?」


「それもそうだな!」


「ですが忙しくなりますね」


「ああ。ゾルグに気づかれないように軍力を増強せねばならないからな」


「私はハーポネスへ単独で出向き先方の天帝へ報告して参ります」


「頼んだぞ。我は今この場を離れることはできないからガザドへは鳥を飛ばしておこう」


・・・・・


・・・




―――とある一室―――


赤いローブを着て髭を蓄えた男と鉄仮面を被った男が大きなテーブルを挟んで向かい合ったソファに座っている。

テーブルにはティーカップが二つ置かれている。

鉄仮面の男は仮面を脱いでテーブルの上に置いた。

流れるような金髪が揺れた。

その顔には立派に蓄えられた金色の髭があり、男はその髭を触りながら話始めた。


「すまなかったな」


すると赤いローブの男が返答する。


「いや、謝る必要などない。我が頼んだようなものだ」


「話に乗ったのは我の判断だ。だがちとやりすぎたな。お前が止めてくれなかったらあのまま全員ぶっ飛ばしていたぞ!はっはっは」


「笑い事ではない」


「だからすまんと言っているだろう?」


「して、どう見る?」


「ヘクトル・・あいつは危険だな。神とも悪魔ともつかぬ不気味な力を感じた。何分姿を見せなかったからな。はっきりとは捉えられなかったが」


「人間ではないのか?」


「わからん。モウハンがボーメリアンに勝ってしばらく経った際に一瞬だけ感じたものだからな」


「少し様子を見ねばなるまい」


「トツ王の息子が何やら画策しているようだ。やつらに見せてもらうというのでもいいのではないか?」


「そうだな。それからでも遅くはない。ヤマが倒れた今、我の盟約を守る者がいないのであれば我が直々に歴史の流れを正さねばなるまい」


「あいつとの約束か・・・」


「無限エンジンを動かせるのはあやつのみ。今は眠っている余所者を排除するためには古の約束は守らねばならない」


「お前がそこまでこだわるやつとはな。まぁいい。付き合ってやろう」


・・・・・


・・・



―――エンブダイ内食堂―――



モウハンの優勝祝賀会が行われていた。

と言ってもヘクトリオンを二人も倒してしまったモウハンの勝利を素直に喜ぶ者などおらず、グラディファイサーの中でモウハンの強さに惚れた数人が有志で開いてくれているものだった。

だが、祝賀会とは名ばかりでモウハンが日頃飲み明かしていた仲間と変わらず飲み明かしていただけだった。


「さぁ、そろそろお開きにするかぁ」


「お開きって店から酒がなくなったからだろうがー」


そして店にモウハンだけとなった。


「さて!俺も帰るかな!」



パチ・・パチ・・パチ・・パチ・・  


「なんだまたお前か!」


「なんだとは相変わらずひどいですねぇ」


モウハンのところへ現れたのはジルガンだった。


「今日は重要なお話で伺ったのですよ」


「なんだ?!」


「ヘクトル様からのお誘いです」


「!」


「ヘクトル様があなた様の戦いっぷりを随分と気に入られたようで是非我々ヘクトリオンの空いた重責を担っていただけないかと。もちろんあなた様は一国の王子というお立場。まるで属国を進めるかのようなご提案で恐縮ですがね」


「いいだろう!」


「へ?!」


「いつからだ?」


「あ、い、いや・・・は、はっはっは!なんとも気持ちのいい方だ。いつでも構いませんよ。これでも私へクトリオン取り仕切っている者ですから。ヘクトル様には私からお伝えしておきます」


「ヘクトルにはいつ会えるんだ?」


「おっと!これはこれは・・・。もしへクトリオンをお受けされるなら、ヘクトル様とお呼び頂かないと!いくら私でもあなたの首が胴体から離れてしまうのを止めることはできませんよ」


「そうなのか!仕方ないなわかった!ヘクトル様だな!」


「その言い方もですよ。嫌々呼ばれて気分のいい人などいないでしょう?・・・まぁ追々ちゃんとしましょう。いずれにしましてもヘクトル様はとてもお忙しい方ですから当分お会いすることは叶いませんが」


「そうか!なら仕方ない!」


・・・・・


・・・


モウハンはグランヘクサリオスに出場しへクトリオン2名を倒してエンカルジスとなった。

そして自分でこじ開けたへクトリオンのポストにつくことが決まりモウハンは着実に計画を進めている状態にあった。

あとはヘクトルの行動とゾルグ王国軍の内情を探り、6国同盟による総攻撃の時を待つだけだった。




そして半年の月日が流れた。


ゲキ王国ではささやかなお祝いムード一色となっていた。

だがそれは他の国は一切知ることのないお祝いだった。


―――3ヶ月前―――


「師匠〜!」


久々に帰還したモウハンを出迎えるディル。

すっかりゲキ王国に馴染んでいる。


「遅かったじゃないかー!どこで道草食ってたんだよ師匠!って本当に道で草食いそうだから怖いわ!」


「そうか?」


「・・・」


(何か変だな)


「って師匠!なんで一時帰国なのにこんなでっかい馬車で帰ってきたの?!もしかして俺へのお土産?!」


ディルは荷馬車の中を覗き込もうとする。


「だめだ!」


ボゴォォォン!


脳天から殴られディルの顔は地面にめり込んだ。


「い、痛ってぇなぁ!!何すんだ!師匠とはいえ許さんぞ!」


「そうか?」


「はぁ?!」


(なんだ?へクトリオンになると頭いかれちまうのか?)


「モウハン!おかえり!」


エニーが王城の入り口から走ってきた。

その姿を見るなりモウハンは顔を赤らめた。


「師匠?」


モウハンのところまでやってきたエニーが話しかける。


「遅かったじゃないの!どこで道草食ってたのよ!って本当に道の草を食べてそうで怖いわ」


「エニー!」


「はい!って何よいきなり人の名前呼んで!びっくりするじゃない」


「エニー!」


ビクッ!


「だからなによ!目の前にいるでしょ!」


「エニー!」


「だから!」


モウハンは荷馬車に歩いていき何かを取り出した。


バギゴォォン・・・


馬車が壊れ中から取り出されたのは巨大な花束だった。


「エニー!」


「!!」


「受け取れ!俺はお前と結婚する!」


エニーとディルはその場で固まった。






体調優れず少し遅れました。次は土曜日アップの予定です。

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