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<ゲブラー編> 65.敗戦の代償

65.敗戦の代償



シャァァァヴァァァン!!!

ショヴァァァァヴァァァン!!!

シュリラララァァァァァァ!!!

シャァァァヴァァァン!!!



スパァ!・・・シャ!・・ジュ!・・・キン!・・・シャァ!!!


まるで8体の蛇が変則的に襲いかかってくる剣撃は逃げ場がなく、モウハンはそれを剣で受けるしかなかったが、剣で受けても首を曲げて襲いかかってくる蛇のようにからみつき、防ぎきれない状態にあった。

そのため、身体中に無数の切り傷がつけられ、そこから血が滴っており凄惨な状態になりつつあった。


「さぁ!そろそろトドメよ!!八岐大蛇肋骨粉砕!!」


8体の蛇が合わさりモウハンの肋骨に向かって突きつけられる。

剣で防ごうにも、全てすり抜けられる。

この一撃を喰らうと肋骨が粉砕され、内臓損傷及び肺や心臓に肋骨が刺さる場合、致命傷になってしまう。


ジャァァァァァァァァ!!!


《あぁぁっと!!いよいよ突進剣モウハンも終わりかァ!!!》


「え?!」


突如ボーメリアンの視界からモウハンが消えた。

次の瞬間、ボーメリアンの両足に激痛が走る。


「あああぁつ!!!」


叫びを上げるボーメリアンは、足から力が抜けてしまったかのようにそのままその場に座り込んでしまった。


シャキン・・・


ボーメリアンの首に背後から伸びる刃が触れている。


「お前の負けだボーメリアン!」


座り込んだボーメリアンの首元に背後から剣の刃を突きつけているのはモウハンだった。


「な!なにをした?!」


「お前の足の腱を切った!」


「!!!」


ボーメリアンの髪の毛が逆立ち始める。


「なぁにぃをしてくれぇてんだぁよぉぉぉ!!!」


キーーン!!


ボーメリアンは剣でモウハンの突きつけている剣を弾き、立ち上がろうとする。


「な!!」


だが、立ち上がれない。


「許さない!!!」


座り込みながら剣を振り回すボーメリアン。

その姿は惨めそのものだった。


「負けを認めろ!」


「認めるかバカ!お前の方がダメージが大きいんだよ!逆転できていると思うな?たかが腱を切っただけだろう?しばらくすれば立つことくらいはできるんだよ!!お前のような小国のボンボンにこの私がやられると思うのか?!」


「この傷か?ふんぬ!!!」


モウハンは体に力をいれた。

すると筋肉の膨張によって抑えられるようにして傷が塞がって血の吹き出しがとまった。


「このままにしていればすぐ傷は塞がる!お前を油断させるためにギリギリ浅めに切られていたんだが引っ掛かってくれたみたいだな!」


「な?!なんですって?!」


「お前の八岐大蛇は確かにすごい技だ!俺も避けるのが精一杯だったからな!だが、受けている時に気づいたんだ!踏ん張っている足が疎かになっているってな!だが、畝る剣撃のラッシュを受けている間は隙がないから反撃できなかった。そんな時にみせた俺への肋骨一点集中の打撃を繰り出した時に一瞬剣撃のラッシュが止まったんだな!その隙をついてしゃがんで背後に周りお前の腱を切った!」


「!!!・・・・・・な・・・」


「ん?」


「な・・・なに勝ち誇ったように解説してんのよ!!!このウスラボケがぁ!!!」


ボーメリアンは筋肉と気力で立ち上がった。

怒りが彼女を動かしている状態だった。


《おおおっと!!万事休すと思われたがさすが我らがヘクトリオンが一柱ボーメリアンだぁ!!!重傷を負いながらも立ち上がったぁ!!!》


シャーーン!!!


「重傷じゃねぇわよ!」


ボーメリアンは腰に巻いていた鎖を外し、鞭を操るようにモウハンに向かって放った。

鎖はモウハンの胴体に巻き付いて複雑に絡んで取れない状態となった。


「なるほど!その手があったか!」


ズン!!ズゴン!!


ボーメリアンはシコを踏むように足を振り上げて、思い切り振り下ろした。

すると自分の足が地面にめり込んで固定された。


「さぁ!第2ラウンドよ!」


ボーメリアンは鎖を思い切り引っ張る。

その勢いでモウハンは前のめりに引っ張られた。


「八岐大蛇!!!」


シャァァァヴァァァン!!!

ショヴァァァァヴァァァン!!!

シュリラララァァァァァァ!!!

シャァァァヴァァァン!!!


「フハハハハ!!!どう?逃げられない剣撃はぁ!!今度はかすり傷じゃ済まさないわよ!!八岐大蛇人外魔境!!!」


シャァァァヴァァァン!!!

ショヴァァァァヴァァァン!!!

シュリラララァァァァァァ!!!

シャァァァヴァァァン!!!


剣に炎魔法が付与されて、炎と煙でボーメリアンが見えない状態になる。

つけられる剣の傷も切り傷だけではなく火傷も付与されていくため、激痛が増す恐ろしい技だった。

しかも炎と煙で剣の動きが見えないので深傷を負わないように剣で防いでいた対応も難しくなった。

後方に飛び退こうとしても鎖で繋がれており離れられない。


シャァァン・・・グザ!!!


「なに?!」


突如モウハンの脇腹にクナイのようなものが突き刺さる。


「魔境は恐ろしいわよねぇ!視界は閉ざされ、何が襲ってくるかわからないから・・・こんな風にね!!!」


シャババァァン・・・グザグザ!!!


さらにクナイと短刀がモウハンの腿と脇腹に突き刺さった。


「おおおおお!!!」


雄叫びを上げるモウハン。


「フハハハハァ!!!観念したか!!!ウジムシがぁ!!!」


グワン!!・・・ジャキン!!


「ひゃ!!」


突如ボーメリアンは後ろへ倒れてしまった。

見ると鎖が切られている。


「な!!!何をした!?」


「鎖を切ったのだ!」


「見りゃわかるわ!!どうやって切ったかって聞いてるんだよ!!」


「こんな風にのけぞって剣撃を避けながら鎖を切ったのだ!」


モウハンは腰のあたりを起点にして上半身を後ろにのけ反らせた。

異常なまでの柔軟性に場内が驚きの声を上げていた。


「こうすれば、鎖で引っ張られている状態のまま剣撃を避けられるだろう?避けられれば俺も剣が使えるからな!それで鎖を切ったのだ!」


シャシャ・・・


「ぎゃぁぁっ!!!」


そしてモウハンは素早く動き、ボーメリアンの手首の腱を切った。


「すまない!俺も次の試合に力を残しておかなければならないからな!再起不能にさせてもらった!」


「け・・剣が・・・剣が握れない!!!ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


場内は騒然としていたのもあり、ボーメリアンの怒りと悲痛の叫びがアムラセウム内にこだました。

観客たちはまさかヘクトリオンが負けるなどとは思いもよらず、この現状を受け入れることができずに呆然と見ているだけだったのだ。

ボーメリアンは怒りと痛みと叫びすぎた酸欠で気を失った。


「審判!」


慌てて審判が勝負の判定を行う。

審判は王室席と自分に指示を送ってくるVIP席の黒服男に目をやった。

結果は明らかだが、ボーメリアンの負け判定をしてよいのか判断できず不安な表情を向ける。

黒服男は王室席に目をやり、何かを確認した様子で審判に向かって軽く頷いた。


「しょ、勝し・・・・・」


ヘクトル王側近のヘクトリオンが負けた試合の判定とあって審判も自分の生死がかかっているのだろう。

間違えたら殺されるというプレッシャーから喉が閉まって声が出なくなっている。


トン・・・


モウハンが審判の背中にそっと手を当てた。

すると不思議としまっていた喉が開いた。


「しょ、勝者!突進剣モウハン!!!」


《な!なんという番狂わせか!!勝者はモウハンだぁ!》


しかし歓声はなかった。

ヘクトリオンの負けに対して歓喜に沸いているところを王室政府の誰かにチェックされてしまったら自分がどうなるかわからないといった恐怖からだった。

無歓声などお構いなしに片手を上げて勝ちを表現するモウハン。


「あ、そうだ。お前、俺のことウジムシって言ってたけどウジムシってのはこんなちっちゃな芋虫みたいなやつだから俺を表現する悪口にしてはあまりにも共通点がないんだぞ?そうだなぁ・・筋肉猿とかだったら俺も少しムッとしたな!って聞いてないか」


そう言うとモウハンはゆっくりと控室に戻っていった。


・・・・・


・・・


「・・・・」


遠のいていた意識が何かに引き戻されるようにボーメリアンは目を開けた。


「目を覚ましたようだな」


「お、お前は・・・ジルガン・・・こ・・ここはどこだ?」


「控室だよ」


「!!!し、試合は!!」


「手を動かしてみろ」


「う、動かせない・・・思ったように動かせない・・・剣を握る握力が・・・ない!」


「剣を握れないグラディファイサーは通常どうなるかわかるか?」


「!!!」


「そうそう。普通は死ぬんだよ。敗者としてその代償を払ってな」


「わ、私は生きているぞ!この腱も療養すれば繋がって治るはずだ!そ、そうだ!私はラッキーだ!あのウジムシにリベンジするチャンスがあるってことよね!」


「ラッキー?まぁある意味そうかもしれないな」


そう言うとジルガンはふたりの黒服男に合図した。


「知ってるか?このアムラセウムにはな。ヘクトル様しか入れない特別な部屋があるんだ。」


ジルガンはボーメリアンに耳打ちするようにささやいた。

ボーメリアンはどういう意味か分からずただ無言で背筋を凍らせていた。

ふたりの黒服男はボーメリアンを乗せた移動式ベッドを動かし始めた。


「な、なんだ?!おい!貴様ら!私をどうするつもりだ?!どこへいくのだ?!」


ボーメリアンは奥の方へ連れて行かれた。

真っ暗な通路が続いている。

どこをどう進んだかわからない状態だったが、突然ベッドの移動が止まった。

すると寝ているボーメリアンの足元の方から光が差し込む。

どこかの部屋の扉が開いたようだった。

黒服男たちはボーメリアンを部屋に入れたあと、ドアを閉めて出ていった。


「おい!ここはどこだ!なぜ置き去りにする?!おい!!」


コツ・・・コツ・・・コツ・・・


すると突如足音が聞こえ始める。


「だ、誰だ?!」


コツ・・・コツ・・・コツ・・・


「誰だと聞いている!!」


「私が誰か聞いているのか?」


「!!!」


「あぁこの声ではわからないか。じゃぁこれでどうだ?」


ボーメリアンの方へ歩いてきた人物は白いローブを纏っていた。

最初は若い声で話していたが、突然嗄れた老人の声に変わった。


「へ、ヘクトル様?!」


「あぁ気づいてくれたか、ボーメリアンよ」


「ヘクトル様・・・こ、このような場所でお会いするとは・・・ここは一体・・・?!」


「ここか?ここは私にとっての聖域だよ」


「聖域?」


「そうだ。ところで先程のグラディファイスの試合は実に残念だったな」


「!!!も、も、申し訳ありません」


「なぜ私の側近たちをヘクトリアンと呼ばせているかわかるか?」


「い、いえ・・・」


ボーメリアンはローブの男の心の落ち着くような口調にもかかわらず、凄まじい不安と恐怖に包まれていた。

それほどの威圧感あるオーラが感じられたのだ。


「私はね。あまり人前に顔を出したくないのだよ。私を暗殺したいと思っている輩も多いからな」


「そ、そんな者などい、い、いるはずがありません・・」


「・・・」


ローブの男の手がゆっくりと顔の目の前に現れた。

その手には布が丸まって握られていた。


「私が話しているのに途中で口を挟むな」


ローブの男はその布をボーメリアンの口の中に押し込んだ。


「んーーんーーー!!!」


「静かにせよ」


「!!!・・・」


死を覚悟するような刺されるオーラに黙らずにはいられないボーメリアン。


「だからこそ、私の手足となって私の権力の下、代弁者として行動する優秀な者を置くことにしたのだ。それがヘクトリアン。私の名、ヘクトルを冠した特別な存在。誰もが畏怖し敬いひれ伏す存在。なぜならそのヘクトリアンに手を出すことは私に手を出すも同じだからだ」


ヘクトルと思しきローブの男は指をボーメリアンの首の部分から体の中心部のラインに沿って臍に向かってゆっくりと動かし始めた。


「だが、ヘクトリアンはその高貴なる存在故に守らねばならない誓いも存在する。お前も覚えているだろう?その一つとして・・・誰かに負けてはならない」


「!!!」


ボーメリアンはあまりの恐怖で失禁した。


「へクトリアンの誓いを破っただけでなく、私のこの聖域を怪我した罪は重いなぁ。だが、安心しろ。お前は私の役に立つのだ。これからもな」


指が臍に到達した時点で指が止まる。

そして手のひらを臍を隠すように押し当てる。


ドグル・・・


「!!!」


ドルルルグルグル


「んんーー!!!んんーーー!!!!んんーーーーーーー!!!」


ボーメリアンに耐えがたい激痛が襲う。

口に突っ込まれた布によって言葉を発することはできないが、耐えがたい痛みから目が血走り、血の涙を流し叫び狂っっている。


「んんーーーいい響きだ。満たされるな」


ヘクトルと思しきローブの男は顔を上に上げて悦に浸っている。

だが、顔は見えない。



部屋の外のドアの両側に立っているふたりの黒服男はボーメリアンの悲痛の叫びを聞いていた。

そのうちの一人は、人間椅子にされたり、暇つぶしとしてサンドバックにされたり数えきれないボーメリアンによってぞんざいに扱われた過去を思い出していた。

そのボーメリアンが過去に聞いたこともない叫び声を上げているのを聞き、ほくそ笑んでいた。


だが、その叫びも数分後には止まった。


・・・・・


・・・



《さぁ!準決勝第二試合!!豪槍神ギグレントvs雷の鉄槌トルーの対戦です!》


『わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


大歓声が沸き起こる。

先程の試合は予想を覆す結果となったが次こそはと、ヘクトリオンの勝利を信じて疑わない観衆はそれを歓声で表現した。


《さぁ!!それではグラディファイサーの入場です!その振り下ろす鉄槌は雷の如く!敵を一瞬にして粉砕する衝撃で稲妻が走る!突如彗星のように現れてから私たちは幾度となくその凄まじい鉄槌の餌食になったグラディファイサーを見てきた!さぁ出てきてもらいましょう!!雷の鉄槌!トルー!!!》


入場口からトルーが鉄槌を持った手を上げて入場してきた。


キラン・・・


一瞬トルーの目に光が差し込んだ。

トルーは光を発した先を見た。

観客席の中に座る赤いローブに身を包んだ男だった。

立派な髭を蓄えた人物だったが顔はよく見えなかった。

その男は何か言葉を発したようだが、歓声にかき消されて当然トルーには聞こえるはずもなかった。

だが、何かを理解したようで急に振り上げた鉄槌を下に下ろし思い切り上にぶん投げた。


ヒュゥゥゥゥゥゥ!!!


そして観衆に向かって両腕を広げて話始めた。


「すまないが!我はここで棄権とさせてもらう!」


『!!!』


《と、突然の棄権ダァ!!!!》


「我がこの後勝利するのは無理だと悟ったからだ!だからギグレントに勝ちを譲る!さらばだ!!」


すると上空に投げられていた鉄槌が凄まじい勢いで落下した。


ドッゴォォォォォン!!!!!!


爆音と共に地面から無数の雷が放たれた。

その雷の数本は王室席に向かって伸びていったが、突如現れたヘクトリオンの一人フェイによって剣に吸い取られるように雷をかき消されてしまった。

砂埃が消えるころには闘技場内にトルーの姿はなくなっていた。


《!!!な、なんと凄まじい雷と共にトルーが姿を消したー!!!これは本人が棄権を宣言しているのもあるから結果は容易に想像つくが審判の判断を待ちましょう!!!》


「しょ、勝者!豪槍神ギグレント!!!」


またしても気持ちのやり場のない結果に観衆は無言のままだった。





体調崩してアップ少し遅れました。次は明日の予定です。

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