<ゲブラー編> 64.グランヘクサリオス
64.グランヘクサリオス
盛大な開会式が執り行われた。
現在のゾルグ王国の権力と発展を象徴するかのような盛大なもので、他国で同様の開会式を行えるかというと到底無理だろうと誰もが容易に想像できるほどであった。
開会宣言にはゾルグの宰相が言葉を述べており、ヘクトルは姿を見せなかった。
アムラセウムの王室席の上には大きなヘクトル像が聳えている。
王室の中には豪華な装飾が施された白いローブに身を包んだ男が手を振っている。
顔は見えないがおそらくその男がヘクトルであることは容易に想像ができた。
だが、影武者の可能性もあり、ヘクトルと思しき人物を攻撃することはあまりにもリスクが高いため今回の6国同盟の作戦には含まれていない。
グランヘクサリオスの日程は以下の通りだ。
①最初の1ヶ月: マニエ戦
②次の半月:予選トーナメント
③最後の半月:本選トーナメント
試合は当面グラディファイサークラス下位のグラッドを中心にマニエ(バトルロイヤル)形式で行われる。
おおよそ5名単位で行われるが、大体が10分〜20分で勝敗がつく。
下位のグラッドたちは、それなりに力があるが武器に耐えられるほどの身体的耐久性に乏しいため、1撃、多くても2〜3撃くらってしまうと致命傷となってしまうからだ。
仮に逃げ回っても、炎魔法や弓矢、投擲武具によって数分で餌食になってしまう。
20日も経つとそもそも上位に食い込めない実力の低い者等はほぼいなくなる。
また、現在モウハンのランクであるルデアスに至ってはシードになっているため、試合出場は残りの10日間となる。
当然、ヘクトリオンから出場しているギグレントとボーメリアンや他の優勝候補たちも最後の10日間からの出番となる。
モウハンは単独で初日からの試合を全て観戦していた。
どこにヘクトルの刺客が潜んでいるかわからないことと、6国同盟の中で出場しているグラディファイサーがいる場合、その実力に応じて事前にこの作戦を知らせる必要があったからだ。
1ヶ月が過ぎて半数の約500名が敗北しグランヘクサリオストーナメントの出場権を獲得できなかった。
一方そこを勝ち抜いた30名は本戦に進む。
その間、ゾルグ王国全体が異様な熱気に包まれていた。
もちろんレグリア王国、ゲキ王国、ゼーガン帝国など周辺国でも盛り上がっており、劇団による再現舞台や人形劇によるこじんまりとした語りなどによって少し遅れて状況を知っては酒を飲んで盛り上がるといった状況だった。
アムラセウムへの入場料、観戦料、グッズ販売、劇団舞台収入の一部など、莫大な収益がゾルグ王国に集まる。
その収益金がゾルグ軍拡大に使われているといったカラクリで、グランヘクサリオスが盛り上がれば盛り上がるほどヘクトル政権が力を増していくという構図だった。
・・・・・
・・・
―――ゲキ王国 王城内国王の部屋―――
エニー、ディルはゲキ王国にいた。
オーガ、エルフがモウハンと行動を共にしているとあれば、6国同盟の成立が作戦前から危うくなってしまうからだ。
エニーとディルは、炎魔法を活用した炎によるホログラム映像を映し出せるマジックアイテムでモウハン対ボーメリアンの試合を見ていた。
高額な最新魔法技術のため世界に数台しかなく、ゾルグの周辺諸国の王室または最高権力者のところには1台だけ置かれている状態で、ゲキ王国にもこのマジックアイテムがあったため二人はリアルタイムで試合を見ることができた。
ただし見られるのは、アムラセウムで試合を見てその状況を炎魔法で投影したものが伝わってマジックアイテム上でホログラムのように映し出されるだけであるため、ヘクトルの居場所などをみることはできなかった。
・・・・・
・・・
そしてグランヘクサリオス開催から45日目―――。
アムラセウム内にアナウンスが響き渡る。
《さぁ!ここまで繰り広げられてきた激闘・死闘、さまざまにドラマがあったことはみなさんもその目に焼き付け、肌で感じたことでしょう!そして今!本グランヘクサリオス開催までに名を馳せたエクサクロス(上位3名)、ルデアス(上位10名)に加えて、熾烈な戦いを勝ち抜いた精鋭7名を加えた合計20名による本選トーナメントがスタートします!》
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
鼓膜が破れんばかりの大声援が地響きのようにうねって広がっていく。
この期間のエンブダイの大歓声は、首都ジグヴァンテまで聞こえるという噂が立つほどだ。
アムラセウム中央に本選へ進む20名が横一列に並んでいる。
その中には優勝候補の5名はもちろん、ルデアスとして素晴らしい戦績を残している面々がそこにはいた。
もちろんモウハンもだ。
しばらく本選開始セレモニーが続いた。
ここでもヘクトルは王室席から手を振るのみで、宰相が本選開始宣言を行った。
これまでの戦いが幼稚園児の剣闘ごっこに見えるほど、第一試合から凄まじいハイレベルな戦いが繰り広げられた。
そして第3試合。
対戦はモウハンが一目置いている雷の鉄槌トルーが出場した。
闘技場中央に歩いてきたその姿は引き締まった巨体で、顔面が見えない大きな黄金の角が特徴的な仮面を被っている。
相手は予選トーナメントを勝ち抜いてきた、瞬風帝ジャグザスという矛使いだった。
「あんたがトルーだな。なにやらそのハンマーに触れただけで柔なやつは失神しちまうらしいな。だが、これまでのあんたの試合は全てみさせてもらっている。要は研究し尽くしたってことだ。そして一つの答えに行き着いた・・・何かわかるかァ?!」
トルーは黙っている。
「なんとか言えや!鉄仮面やろうが!」
「貴様には勝ち目がないという答えか?」
「ふっざけるな!なめるなよ!そんな答えになるわけないだろうが!」
「能書きはいいからかかってこい」
「そのいきった言葉!忘れるんじゃねぇぞ!負けて辱めを受けるためにな!」
ファーーーーーーン!!!
開始のラッパが鳴り響いた。
「いきなり決めてやる!ウインドワーム!!!」
ジャグザスは見るからに重そうな巨大な矛を片手で軽々と振り回し始めた。
そこで巻き起こる風と摩擦が渦を巻き巨大なかまいたちの刃を纏った竜巻が巻き起こる。
「デザートサンドバッグ!!」
ドッゴーーーーーーン!!!!
無数の真空の刃が飛び回る凄まじい勢いの竜巻は上昇し空中でUターンしたかと思うと恐ろしいほどのスピードでトルーに脳天から直撃した。
既に観客の中に吹き飛ばされている者もいたが、最後の直撃の衝撃によって席や階段から転げ落ちる者が続出するほどの大技だった。
《おおおっとーー!これはいきなり勝負がついたかぁ!!!トルーが颯爽と登場したの数ヶ月前!その肉体美が象徴するように凄まじいパワーによって相手を圧倒してきたが、ここまで凄まじい竜巻真空刃にはなすすべなしかぁぁぁぁ!!!》
アナウンスが盛り上げる。
「ヒャッハー!!!どうだ!!死体すら残らねぇかもしれないが、俺の勝ちはきっちり宣言してもらうぜ!!」
「誰の勝ちだって?」
「!!!」
ジャグザスは背後から聞こえた声に驚き振り向くが、トルーの仮面を見た瞬間に目の前が真っ暗になってしまった。
トルーのハンマーによる強烈な一撃で一瞬で意識を失いその場に崩れるように倒れてしまったのだった。
《な!な!な!なんとーーー!!!一体どういうことでしょうか!!!確かに瞬風帝の強烈極まりない竜巻の直撃にあったはずのトルーが!!!いつのまにかジャグザスの背後におり、決めの一撃をおみまいしたーーー!!!》
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
《勝者トルーーーーーーーー!!!!!》
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
「圧倒的な素早さの差だな!」
モウハンはトルーの動き一部始終を捉えていた。
竜巻が落下する直前に後方に凄まじい速さで飛び退きそのままのスピードでアムラセウム外周を回ってジャグザスの背後に立っていたのだった。
竜巻によって巻き起こされた煙や暴風で普通なら見えない動きであったが、モウハンは完全に捉えていた。
そこから少し離れた場所にいるギグレント、ボーメリアンも笑っていた。
おそらくトルーの動きに気づかなかったジャグザスを笑っていたのだろう。
同様に優勝候補のエルベントス、シルバリオも見えているようだった。
「やはり俺を入れた6名で実質優勝争いをすることになりそうだな!」
・・・・・
・・・
その後も優勝候補を中心としてトーナメントが進んだ。
そして準決勝。
残った候補は以下の4名の対戦となった。
<準決勝第1試合>
乱舞剣蛇ボーメリアン vs 突進剣モウハン
<準決勝第2試合>
豪槍神ギグレント vs 雷の鉄槌トルー
・・・・・
・・・
―――翌日―――
モウハンはアムラセウム内の控室でこれから始まる試合に備えて装備品をチェックしていた。
パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ
「なんだ!またお前か!」
「ははは、流石は名門ゲキ家の王子だ。予定通りここまできましたね。まずはおめでとうございます」
現れたのはゾルグ王国国王補佐長官でありヘクトリオンのジルガンだった。
「ボーメリアンに俺の状態を探れとでも言われたか?」
「はっはっはご冗談を!私たちヘクトリオンはお友達クラブではないのですよ。それぞれが強さで自分の地位を維持しているのです。誰かの手を借りないと今の地位を維持できないような者にヘクトリオンは務まりません。仮にボーメリアンが私にあなた様の状態を探れと言ってきたとしたら、その場で斬り捨ててますよ」
「そうか!それもそうだな!それで何しにきた?」
「随分冷たいですねぇ。まずはお祝いを申し上げに、そして・・・ヘクトル王、いやヘクトル閣下も見ておられます。私から先のあなた様のご意向もお伝えしております・・・ということをお伝えにあがったということです」
「ほう!どこかで俺を見ているということか!それは光栄だ!」
ガチャ・・・
ジルガンはドアを閉めた。
「私はね、是非あなた様に勝っていただきたいと思っているんですよ」
「なんだ?仲間じゃないのか?」
「皆、我が強いので正直好きじゃないんですよね・・・。特にボーメリアンとフェイは陰険でしてね。ギグレントに至ってはプライドが高過ぎて・・・。ですので、モウハン王子のような気持ちいいほどまっすぐな方に是非取って代わってもらいたいと思ってるのです」
「お前面白いな!会って2回目の俺に愚痴か!ヘクトリオンも大変だな!わっはっは!」
「ははは・・・まぁあなた様が実力をお持ちでなければ、あなた様への興味もなくなるのですがね」
「それはそうだ!」
「じゃぁ私はこれで。次にお会いするのは・・・順調に進めば、要職の任命式でしょうかね。では」
そういうとかき消えるようにいなくなった。
・・・・・
・・・
《さぁ!いよいよ準決勝第一試合が始まります!ここまで勝ち抜いたグラディファイサーの登ぅ場ぅです!!まずは!この男に後退の2文字は存在しない!どこまでも勝利に向かってまっすぐ進み続ける男!そして、ゲキ王国の王子でもある!天は二物を与えたのか!登場いただきましょう!突進剣!モウハン!!!》
『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』
モウハン片手を高らかに上げながら入場してきた。
(見た目通りあの王室席か、それとも別の場所か、いずれにしてもヘクトルが見ているということだからな!チャンスがあれば奴のオーラを確認しておきたいが!)
モウハンはそんなことを考えながら定位置についた。
《対して!これから入場するのは!我が国の至宝!王の剣の一角を成す存在!これまでの試合も華麗な剣舞で美しく相手を屠ってきた!強さとは何だと問えば間違いなく美しさ!と返ってくるだろう!登場いただきましょう!乱舞剣蛇!ボーメリアン!!!》
『うおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』
モウハン以上の歓声が沸き起こる。
これまでの試合を見たが一瞬で終わってしまったため、本来の強さは見えなかった謎の存在ではあるが、ここまでの歓声が沸き起こる理由は、ヘクトリアンであることに加えてその美貌だった。
ボーメリアンがゆっくりと入場口から歩いてきた。
と同時にアムラセウムの上空に花火が上がる。
観客たちは花火に目をやると、そのはるか上にボーメリアンの姿が登場する。
恐ろしいほどの跳躍をみせたと思うとそのまま回転し始めた。
まるで渦を巻くように空気がボーメリアンの方へと吸い寄せられ、花火の美しい火花も吸い寄せられていく。
そしてボーメリアンが両手を広げた瞬間、吸い寄せられた火花が一斉に方々へ散っていった。
まるで花火すら自分を引き立てるためのただの火花とでも言いたげな姿だった。
だが、それを見ている観客等は一瞬でメロメロになるほど見惚れてしまっている。
ボーメリアンは華麗に着した。
そして王室観客席に一礼し、モウハンのことは見向きもせずに前を向いた。
《それでは!準々決勝第一試合!はじめ!!!》
ファァァァァァァァァァァン!!!
開始の合図が鳴った。
すかさずモウハンは剣を構える。
そしてボーメリアンに話しかけた。
「俺はモウハンだ!よろしく!しかしやるなぁお前!ジャンプであそこまで飛ぶとはな!だがあの火花熱くなかったか?あそこでクルクル回転して火花を集めて何をやっていたんだ?ってまぁいいか!とにかく試合だな!」
美しいボーメリアンの顔が一瞬で鬼のような形相に変わった。
「き、き、きぃぃぃぃぃぃぃ!!!!貴様!貴様!男の分際で私の美貌を理解できないとは!!このウジムシが!!」
「ウジムシ?俺はモウハンだ!ウジムシってのはな!こんな感じの・・・」
「きぃぃぃぃ!!うるさいウジムシが!!」
モウハンがウジムシを表現しようとしたのか指で大きさを示したのを見て、いきなり怒りが最高潮に達したボーメリアンは凄まじい勢いで突進し剣の突きを放ってきた。
おそらく準々決勝以下のグラディファイサーであればこの時点で串刺しとなり試合が終了していただろう。
だが、モウハンはそれを半身でかわし、そのままボーメリアンの間合いに入って彼女の剣を握る手を掴んでそのまま一本背負いのように放り投げた。
空中で呆気にとられたような表情のボーメリアンだったが、途中で我に返ったようで前宙を繰り返して綺麗に着地した。
そしてすぐさま突進して、今度は無数の突きの連撃を繰り出してきた。
キンキンキンキンカンカンカン!!!
このスピードも異常なほど早く普通なら2秒と持たない攻撃であったが、モウハンは一つ一つ確実且つ丁寧にその突きを剣でいなしながら少しずつボーメリアンとの距離を近づけていく。
「きぃぃぃぃぃ!!何なのだ貴様は!なぜ私の剣撃で串刺しにならない!!!」
「なるわけないだろう!遅いから!」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
さらにスピードを増す突きの連撃だったが、全てかわしてまた先ほどと同様にボーメリアンの腕を掴み、今度は後ろ側に捻り上げて折にかかった。
「な!!!」
グワン!!!
ボーメリアンは咄嗟に腕が折られることを察知して反応し、バク転するようにしてそれを回避し、剣を横に振ってモウハンを攻撃して、モウハンに掴まれている状態から逃れた。
ボーメリアンはこめかみから汗を滴らせる。
そして王室観覧席をチラッと見て目を瞑った。
剣を構え、呼吸を整えている。
シャァァァヴァァァン!!!
「!」
スパァ・・・ドクン・・・
突然、モウハンの肩が斬られ血が吹き出した。
モウハンは黙っている。
シャァァァヴァァァン!!!
スパァ・・・ズシュゥ・・
またもやモウハンの腕に切り傷が刻まれた。
鎧でダメージが軽減されたはずだが、少し深めに入ってしまった。
「ふふふ。ごめんなさいね。お前を見くびっていたわ。そうよね、これは準決勝。それなりの強者が上り詰める場所だわね。お前の私を怒らせる作戦にまんまと引っ掛かったわけだけどもうその手は通用しないわ。ここからが本領発揮。万にひとつもお前に勝ち目はなくなった。私が怒りでおかしくなっている最中にとどめを刺しておくべきだったわね。まぁそれもできなかったのでしょうけど」
ボーメリアンは剣の構えを変え野球のバットを構えるようなポーズをとった。
「汗をかくのも嫌だからそろそろ終わりにするわね。さようなら。八岐大蛇!」
シャァァァヴァァァン!!!
ショヴァァァァヴァァァン!!!
シュリラララァァァァァァ!!!
シャァァァヴァァァン!!!
スパァ!・・・シャ!・・ジュ!・・・キン!・・・シャァ!!!
剣が振り上げる動作が見えないにもかかわらずまるで無数の蛇が鋭く攻撃してくるかのように剣がうねりながら方々から飛んでくる。
あまりの速さと変則的な動きからモウハンは動けずに傷を負っていく。
体からは血が滴り始め、ダメージが蓄積されている。
《おおっと!!!でました!!!八岐大蛇!!!これに捕まったらもう間違いなく八つ裂きになります!!まるで無数の蛇が同時に攻撃を繰り出し噛みつき、徐々に相手の生命を貪っていく!美しくも残虐な技!!だが何より逃れらないのがこの技の恐ろしさでもある!!そして最後の残るのはボロ雑巾のように斬り刻まれ出血多量で息絶える死体だけだぁぁぁぁ!!モウハンの突進劇もここまでかぁぁ!!》
『わあぁぁぁぁぁぁぁ』
観客が盛り上がる。
モウハンは黙って攻撃を受けているだけだった。
「モウハン・・・しっかり!・・・」
祈るような気持ちでエニーは炎ホログラムのモウハンを見ていた。
次は水曜日アップの予定です




