<ゲブラー編> 62.王子の帰還
62.王子の帰還
ドーン!
勢いよくエニーの部屋の扉が開く。
「え?!なに?!どうしたのモウハンって鍵掛かってたのに壊したわね?!」
「え?あ、す、すまん!」
「え?あ、いえ、べ、別に直せばいいんだけど」
(何・・?珍しく謝ってきたわね。普通なら “こんな弱いドアにするのわ悪いんだぞ!” とか言うくせに。なんか気持ち悪いわね)
「そ、それで、何?」
「話がある!」
モウハンはグッと距離を詰めてエニーに顔を近づけた。
「!!な!なんなの?!」
「話がある!」
「だから何なの?!って顔近い!」
「話がある!」
「だから!早く言いなさいよ!」
「話が・・・あれ・・・なんか変だ!」
「変なのはあなたでしょ!」
「ああ。そうだな・・・」
「なんなの気持ち悪いわね・・・っていうか何で顔近づけるのよ・・ちょ、離れなさいよ」
エニーは離れようとするがモウハンに腕を掴まれて離れられない。
「ちょ、痛いって。離しなさいって!」
「だめだ!」
「はぁ?!」
「エニー!俺は!」
「何・・?!」
「エニー!俺は!」
「何なの?!」
「お前が好きだ!」
「だから何なの!?・・・えええええ?!!」
エニーは突然の告白に面食らった。
嬉しいというより狐につままれたような感覚だった。
「ちょ、な、なんて言ったの今」
「お前が好きだ!」
「!!!・・・ほほほ・・・ほんと・・・?」
エニーは狐につままれた状況から覚めて、突然の告白の意味を理解し急に顔を赤らめた。
だがこのモウハンの性格から愛の告白というのがまだ信じられなかったのか、聞き直した。
「お前が好きだ!」
「!!!・・・あ、ありがとう・・う、嬉しい!」
「お前が好きだ!」
「うん、わかった。嬉しい!モウハン」
「お前が好きだ!」
「わかったって!」
「お前が好きだ!」
「ちょ、しつこいわね。オウムみたいになってるじゃないの」
「お前が好きだ!」
「そこまで繰り返されるとなんか嘘っぽく聞こえてくるんだけど、もう伝わったから」
「お前が好きだ!」
「っておい!やっぱりからかってるのね!このバカ!!!」
ボゴーン!!!
モウハンはエニーに殴られて吹き飛んだ。
吹き飛んだモウハンは壁際に座り込んだ状態で俯いている。
「エニー・・・」
「な、何よ!」
「ディルに言われたんだ。昨日から何かここんところが変でスースーしてて。何か苦しい感じなんだが、エニーに好きだと言えば治ると聞いた。だから言ったんだが、言った途端にもっとスースーし始めた。俺は病気か?!」
「・・・・病気じゃない・・・よ・・・」
「どうしたら治る?」
モウハンの気持ちを理解したエニーは優しい顔になった。
そしてモウハンに近づく。
「こうしたら治るよ」
エニーはモウハンにキスをした。
・・・・・
・・・
―――翌朝―――
「何ぃぃぃ?!」
シャナゼン王子は今までにない驚きの表情を浮かべている。
謁見の間でエニーはモウハンと共にゲキ王国に旅立ちたいということと、ゆくゆくは結婚したいと言い出したのだ。
「だからどうか認めて欲しいの」
「いや・・・それはまぁ、我は歓迎するが・・・」
「許しません!許しませんよ!なぜモウハンなんだ!あなたは私のフィアンセのはずだ!私は許さない!認めない!」
「ギーザナ。何度も言っているけど貴方はもう私のフィアンセではないの。だからもう放っておいてほしいし、貴方は貴方の幸せを考えて欲しいの」
「私の幸せは貴方との結婚だ!エンゴシャ姫、貴方の幸せもまた私と結婚することだ!」
「私の幸せは私が決めるものなの!」
「お、おい・・やめぬか!ギーザナ。こういう話はお互いの気持ちが重要なのだ。わかってくれるな?」
「わかりません!・・・それではこうしましょう!私たちはオーガだ!オーガは決闘でこそ尊厳を得る。モウハンと一騎打ちをして私に勝つことができたら潔く諦めましょう!ただし、私が勝ったら姫は私のもです!」
「ギーザナ!そういうことではないのだぞ?」
「いや!かまわん!」
モウハンが入ってきた。
「ギーザナ!今は俺もお前の気持ちがわかる!だから辛さもわかる!だから受けてやる!さぁ中庭に出ろ!」
・・・・・
・・・
―――中庭―――
急遽モウハンとギーザナの一騎打ちが始まった。
ギーザナは最初からオーガロードの力を全開放して強力な攻撃をくりだす。
だが、モウハンはその攻撃を半身でかわす。
この1ヶ月強、ギーザナ、ヨシツネ、ディルの3人を相手に本気の戦闘修行を続けてきた。
そのため、ギーザナの戦闘スタイルは熟知していたし、モウハン自身の戦闘力も格段にあがっていたため、もはやギーザナの攻撃がモウハンに当たることはなかった。
「モウハン!!モウハン!!」
ギーザナの強烈な連撃がモウハンを襲うが悉くかわされてしまう。
「なぜ貴様なのだ!なぜだ!」
ギーザナの目には涙が滲んでいた。
そして攻撃はさらに速さを増し凄まじい連撃であたりの草木が吹き飛び始めるほどだった。
だが、攻撃は当たらない。
「なぜなのだぁ!!!」
凄まじい一撃がモウハンの顔面を捉えたが、冷静にギリギリでかわすモウハン。
そしてそれに合わせるようにカウンターの拳撃を繰り出した。
モウハンの拳はギーザナの鳩尾にヒットした。
「ぐはぁっ!!」
「モウハンの勝利だな・・・」
シャナゼンが見守るなか開始後数分で勝負はついた。
そのまま前に倒れ込むギーザナをモウハンは担ぎ、部屋に運んだ。
・・・・・
・・・
「気が付いたか?」
「王子・・・」
ギーザナはベッドに寝かされていた。
「あの二人は?」
「もう出発した」
「そうですか・・・」
「ギーザナ。わざとあのような一騎打ちを申し出たのだな。自分の気持ちにケジメをつけるため、そしてなんの後腐れなく我妹を送り出すため。既にモウハンの実力はお前をはるかに超えていると知りながら。あやつらを送り出すために・・・」
「王子・・・そんなかっこいいものではありませんよ・・・」
「だが、我にはお前が色男に見えるぞ」
「そ、そうでもあります・・・ははは・・」
シャナゼン王子は不器用ながら強く心優しき側近を誇りに感じていた。
・・・・・
・・・
―――ガルディオラとガザド公国の国境付近―――
「しかしこのガルディオラって国、なんかこう重苦しいというか荘厳な感じのする国ね。得体の知れない霧がかかっていて進めなさそうだし、その先に何があるのか全く解明されていないって、本当に不思議な国よね」
「そうだな!でもこの国には滞在しなからすぐに抜けるぞ」
「わかってるわよ。感想述べただけでしょ」
「ちょっとー!待ってくれよー!」
「あ!」
「お!」
ディルが大きな荷物を背負って後を追いかけてきた。
「あなた!」
「ディル!どうした?」
「どうしたもこうしたもないでしょ!俺は師匠の弟子!まだ学びきってないし、免許皆伝らってないんだからそりゃついていくでしょ!っていうか俺に内緒でこっそり出ていくのやめてくれないかね?!」
「あれ?ディル。お前出発の時いなかったか?」
「いねーでしょ!どんだけ存在感ないのか!ってそうじゃない!気づけっての!いやね、気はひけましたよ?何やらお二人さん急に仲良さそうな感じだし?なんか二人旅的なやつを想像していたとしたら俺はお邪魔虫なんじゃないかとかね・・・でもこっちも遊びで弟子やってるわけじゃないからなっておい!」
ディルが話をしている間にモウハンとエニーは先に進んでしまっていた。
「ちょっとまってくれよー!」
・・・・・
・・・
そうして約1ヶ月をかけて3人の珍道中は続いた。
その間も様々な出来事が起こった。
ガザド公国では、突如巻き込まれた裏組織による殺害現場で犯人扱いされたことで一時捕らえられてしまった。
だが、秘密結社アカツキと名乗る人物により救い出される。
殺害現場での立ち回りで戦闘力の高さを知り、協力を条件に釈放するという申し出だったが、時間が惜しいモウハンたちはその要求をのみ釈放された。
連れられたのはとある林の中にある隠された入り口でそこから中へ入り長い地下通路を抜けた先で見たのは秘密結社アカツキのアジトだった。
何とアカツキを率いていたのは男爵であるティム・フィンツという人物で彼に気に入られたモウハンたちは、約束通りガザドにはびこる裏社会の組織グルダロスの壊滅に協力した。
グルダロスは薬、売春、違法賭博、殺人などあらゆる悪事を秘密裏に働いていたが、そのトップはドン・ベルマンと呼ばれる人物で謎とされていた。
その名を口にするだけで、何かに狙われて命を落とすからだった。
必死の捜査の末、なんとか裏で手を引いていた正体を突き止めた。
黒幕はファルナンディス・レイトラル伯爵だった。
表の顔は由緒正しい家柄の伯爵、裏の顔は国の裏社会を牛耳る組織グルダロスの首領だった。
捕らえられたファルナンディスは裁判の際、驚くべきことを口にした。
自分を処刑したところで何も変わらない、なぜならこの国は既にかの国の支配下にあるからだと。
ことの真意はわからなかったが、国を裏から蝕んでいた組織の壊滅に多大な貢献をしたモウハンたちはデューク・ネザルグ・ガザナドと謁見し、先のシャナゼン王子との盟約と繋がっていることでさらに関係を強化し、共闘によって必ずゲブラー全土に迫る危機を回避することを誓ってガザド公国を後にした。
・・・・・
・・・
そしていよいよゲキ王国へ到着する。
「おお!懐かしの我が家だ!」
ゲキ王国に入るとまるで塔のように聳える活火山のログル山が見え始める。
かつて見慣れた山をみて懐かしむモウハン。
しばらく足を進めると首都であり王城が座するゲキ王国の中心、首都ゲキルが見えてきた。
「国は小さいけど、あのような立派な聖なる山にあの巨大な王都。モウハン本当にあなた、この国の王子なの?」
信じられないといった表情でエニーはモウハンに尋ねた。
「ん?何を言っているかわからんぞ?俺は王子だ!」
「いや、師匠。エニーはあんたがこんな立派な国の王子だとは想像できないっていってるの。だってほら、国王とか王子って言ったら、国を守らなきゃいけないわけだから、思慮深く多角的客観的に民衆にとって大切で国の繁栄につながるようなことを考えて沢山の人たちを動かしていくわけでしょ?シャナゼン王子みたいに。でも師匠みたいな直進しかできないような人にそんなの務まらないでしょっていう意味ね」
「ははは!なんだそういうことか!簡単だ!俺はそんな面倒なことはやらん!」
『でしょうね』
すると突然巨大な槍がモウハンに向かって凄まじい速さで飛んできた。
ガシイ!!!
モウハンはそれを最小限の動作で避けると同時に槍の持ち手を掴み、華麗に振り回して最後にポーズを取ってみせた。
エニーもディルも警戒し、武器を取る。
そしてポーズをとったモウハンは叫ぶ。
「ただいま戻りました!父上!」
すると遠くの王城の上層階から赤い炎の光が煌めいて消えた。
「よし行こう!」
『おーい!』
エニーとディルはツッコミを入れる。
「どういうことか説明しなさいよ!」
「ん?ああ、これはあの城から父上がこの槍を投げてきただけだ」
「はぁなるほど!ってなるか!槍が飛んできたのは見たからわかるわ!いったいどういう親子関係だわ!」
「なるほど!師匠のお父上はもっと強いのか!じゃあそっちに弟子入りするわ!」
「お!それもいいが、俺の方が父上より10倍強いぞ!・・・いやもう100倍は強いか。わっはっっは」
「あの遠くの城からここまであの槍投げてよこすって相当な強さだぜ?」
「でも昔聞いたことがあるわね。トツ王がジオウガにこられて当時最強と謳われたオーガロードと一騎討ちして互角に戦ったって。互角に戦うだけでも相当な戦闘力があるわけだからあの城から槍を投げてよこすのも頷けるわね」
「・・・」
「・・・」
エニーもディルも一瞬間を間を置いて叫び出す。
『いやなんか違う!』
「そう違う!なぜ久々の息子の帰還に対して槍投げてよこすって話!」
「ああ!俺の強さを見てるのだろう!」
「もしあれで死んだらどうするのって話でしょ!」
「どうしたエニー、ディル。俺は死なない!」
「・・・はいはい・・・まぁ気をつけたほうがいいわね。トツ王・・・とても気難しい人物かもしれない・・・」
「だな」
・・・・・
・・・
「おお!!我が息子よ!!」
ガシイィィィ!
城に着くなり、凄まじい勢いで走ってきてまるでタックルするかのようにモウハンに抱きつく男。
モウハンより身長は低いが異常なまでに発達した筋肉で抱きしめられるモウハンは普通の人間ならすぐに胴体真っ二つになるのではと思われるほどの締め付けをうけた。
ギリギリとモウハンの装着している鎧がきしみ、ところどこにヒビが入り始めた。
「父上!おなつかしゅう!ただいま戻りました!」
モウハンに抱きついたのはこのゲキ王国の現王、トツ王その人だった。
「おお!してのこの体つき!お前儂の100倍は強くなりおったな!でかしたぞ!」
「ええ!俺は父上の100倍強い!」
「ああ!儂はお前より100倍弱い!」
『わっはっは!!!』
二人とも手を腰に当てて大声で会話して笑っている。
そしてモウハンの肩をガシッと掴んでトツ王は話を続けた。
「さぁ、こんなところで立ち話もなんだ。早速食事でもするか!来い!お前の好きなものを用意してあるのだ!」
「ありがとうございます!父上!」
そのまま二人は側近たちと城の奥へと進んでいった。
『・・・・・』
置いていかれるエニーとディル。
『って無視かい!』
思わず城の入り口の巨大なホールで大声でツッコミを入れる。
声が反響してよけいに虚しくなる二人であった。
「まったく・・・相変わらずひとつのことしか対応できないだよな師匠」
「気づいて迎えよこすか、戻ってくるまで待つしかないか・・・全く・・・」
コツ・・コツ・・コツ・・
「ごめんなさいね、おふたりさん」
横から美しい女性が着飾ったドレス姿で現れた。
「あ、すみません。この城の方・・・ですか?」
「これは御無礼を。私はあの肉団子の妻のキョウと申します」
「お、お母様?!いえ、お妃様ですね」
(肉団子・・・今あの王を肉団子って言ったわ・・・この人・・・一国の王を肉団子呼ばわり・・・流石は妻!)
「ええ。あなたが息子の許嫁のエンゴシャさんね。手紙の通り美しい顔ね。そしてあなたは息子と仲良くしてくれているエルフのディル・ガイネスさんね。息子と仲良くしてくれてありがとう」
「い、いえ、こちらこそ!俺はエルフの女性が一番美しいと思っていましたが今この瞬間その常識が覆りました。しかしお妃様のような美しい方からどうしてあんな師匠みたいなのが・・・っていえ、口が過ぎました」
「あはは。ありがとう。いいのですよ。そうやって気兼ねなく付き合って下さる方々いるからあの子はああして真っ直ぐ生きていけるのですから。さぁお二人とも一緒に帰還のお祝いの食事をしましょう。お二人は客人ではなく、それ以上の存在です。どうか遠慮なんてしないでね?」
『は、はい!』
「で、でもどうして俺たちのことご存知なんですか?」
「ああ、ああ見えて息子は意外と几帳面でして、定期的に手紙を横していたのよ。特にエンゴシャさんへの恋心を綴った手紙を見た時は興奮したわ」
「ひっ!」
エニーは思わず顔を赤らめて顔を隠した。
「あら、ごめんなさい!これでも祝福しているのよ。息子があなたみたいな心も外見も美しい方を好きになり、そして好いてもらえていることにね」
エニーはあまりの恥ずかしさで無言になってしまった。
ディルがうまくフォローしてくれたが、エニーは改めて将来を意識したのだった。
そうして案内された部屋には長テーブルに所狭しと様々な料理が置かれていた。
そして、王子の帰還を祝っての厳かな食事が行われた。
トツ王、キョウ王妃、モウハン、エニー、ディルの4人で。
食事の時間は楽しく過ぎていった。
次は日曜日のアップです




