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<ゲブラー編> 61.なんか変だ

61.なんか変だ



グレンは急遽組織された討伐隊300人を指揮して再度迷いの森ジーグリーテに赴く前に数人の諜報員を借り受け情報収集にあたっていた。

異形ゴブリンロードはミギタバの残したメモがあるため、あたりをつけることは可能だったが、ミギタバを拘束したことにより巣を変えている可能性があるためだ。

また、巣が変えられてしまっている場合闇雲に探し回っても討伐隊が疲弊するのみである上、そのような中でエヴァリオス家のはみ出し者と噂されているグレンが指揮したとこで成果が上がらないばかりか、兄ゼシアスから後でどのような嫌味を言われるか分からない、という理由もあった。


だが、グレンにとっての誤算は、既にクリアテの牢獄に遅れられたはずのミギタバはなぜか獄中で自ら命を経ったとの連絡を受けていたことだった。

評議会にミギタバを差し出してもニンゲンの戯言と受け取られる可能性があるため、今回異形ゴブリンロードの捜索という運びになっているのだが、その証拠を示した上でのミギタバへの事情聴取という形であればより信憑性が増すため、グレンはそれを計画していたがスタートから計画を変えざるを得なくなってしまった。


2日後、諜報員のうち2名が情報を持って帰ってきた。

どうやらミギタバの残したゴブリンの巣の地図から状況はさほど変わっていないようだった。

ゴブリンの巣の周辺にはゴブリンが彷徨いていたのを確認できたのだ。

一方でこの事実は、異形ゴブリンロードを仕向けている黒幕にとってミギタバは然程重要な存在ではなかったということも示していた。

注意しなければならないのは、この巣に異形ゴブリンロードがいるのかどうかと、仮に見つけた場合前回と同じ轍を踏んで自爆させないようにすることだった。


グレンは諜報員に見張りの継続を指示し、慎重に異形ゴブリンロードの存在を確認できるかどうかを観察させた。


さらに2日経った頃、一人の諜報員が戻ってきた。

ジーグリーテ内に8箇所あった巣の中で1箇所だけ異形ゴブリンロードらしき存在を確認できたというのだ。

当該の巣の場所は、迷いの森の北、首都クリアテに近い場所に位置したところだった。

その情報を聞いたグレンとゼーゼルヘンは状況を整理していた。


「うーん。なんか変だねぇ。他の街や村で討伐して数が減ったってことかなぁ」


「グレン様。そのような報告は少なくともネザレンについては入ってきておりません」


「そうか・・・。すると既に何んらかの目的を果たしたということで撤退したか、もしくは・・・」


「廃棄されたか、でしょうか」


「うん」


「そうなりますと、今回の討伐で確実にその対象を捕らえ、かつ自爆させないようにする必要があります」


「眠らせるか、気絶させるか、いずれにしても相手の意識を奪う必要があるね」


「エルフ固有の魔法で眠らせるのが良いかと思います」


「そうだね。使えるのは上流血統家のものだけだから僕がやるしかないか」


「そうなります」


・・・・・


・・・


翌日グレンは討伐隊を30名に絞って出発した。

人数が多すぎると警戒されてしまうためだった。

ただし、万が一ゴブリンが大群でクリアテやネザレンに襲い掛からないようにそちらへの警備に回している。


そして討伐は慎重に行われ、なんとか無事に異形ゴブリンロードを捕らえることに成功した。

捕らえられた異形ゴブリンロードに融着しているエルフの意識は既にゴブリンロード側に乗っ取られているようで、捕らえる直前に話しかけても反応がなかったため、話を聞こうにも前回の状況を考えると大した情報は得られない可能性が高く証拠の価値としてはその存在だけだった。


グレンは捕らえた異形ゴブリンロードをクリアテの牢獄内にある医療室の手術台の上に乗せて拘束した。

そして眠らせる薬を投与させて目覚めさせないようにした。


「さてと。あとは兄の動きを待つだけか。期待はできないけど」



・・・・・


・・・



―――1ヶ月後―――


ガキン!!!キン!キィィン!!!


「動きはいいのですが、単調なのです!それでは相手に次の攻撃を読まれてしまいますよ!」


グザァ!!


「イデデ!」


ギーザナの思いパンチを受けながら剣でヨシツネの攻撃を受けていたが、ヨシツネの攻撃があまりにも素早く予測できない動きをするため、剣で防ぐのがギリギリになり、ヨシツネに集中しようとするとギーザナの攻撃に耐えられなくなるといったどっちつかずの状況の中、防戦一方だったが死角から飛んできたディルの矢を避けられず脇腹に矢が突き刺さったのだった。


「ほらね」


「ほらねって言ってもなぁ!ヨシツネの読めない動きと、ギーザナのパワフル攻撃が同時に来ている中で、ディルの正確な矢が死角から飛んでくるような場面ってグラディファイスで実際起こるのか?」


「モウハン・・・。何度も言うけど、あらゆることを想定して備えた方がよいのですよ。あなたの素性から、ヘクトルが最初から勝たせないように仕組んでくる可能性だってあるのですからね」


「なるほど!ヘクトリオンに任命されたギグレントはゾルグ同盟国だからすんなりと勝ち進み優勝して抜擢されたっていうことだな!」


「そういうことです」


「わかった!じゃぁ続けてくれ!」


モウハンの修行は毎日休みなく、日夜時間が許す限り続けられた。

本来オーガロードであるギーザナ一人を相手にできるだけでもかなりの実力と言える。

武技においても炎魔法においても耐久力はピカイチであり、生半可な者が切り込んでも傷はつけられないし、魔力の弱い炎魔法では産毛を焼く程度にしかならないからだ。

それに加えて素早い動きと特殊な動きを組み合わせて攻撃できるヨシツネの変則的な攻撃や防御への適用ができるようになれば、どのような相手に対しても不覚をとる可能性が激減する。

さらにディルの弓のような不意の攻撃などへの対処によって集中力も高められるため、認識仕切れない攻撃に対しても本能で体が反応するような動きを可能にするのだ。

いわゆる覚醒状態を意図的に作り出し持続させるというものだった。

それを体に染みつけせようとしている。


・・・・・


・・・


そして1ヶ月が経った。


モウハンの体は以前に比べて引き締まり方が変わった。

筋肉の質が変わったからだ。

力を込めるべき筋肉と瞬発力を発揮する筋肉が柔軟性を兼ね備えた形で修行の中で強化されたのだ。

そして何より集中力と判断力が格段に強化された。


カキキン!!ゴカン!キーン!


シュヴァ!


ギーザナ、ヨシツネそしてディルの攻撃を悉くかわして反撃を繰り出すモウハン。

当然それを3人は避けるのだが、モウハンの凄まじい瞬発力で逃げ切ることができず、木刀によって3人とも撃たれてしまった。

オーガには木刀など効かない。

そしてヨシツネはギリギリで受け流して致命傷を避けることができている。

ディルだけが脇腹に木刀がかすってしまい、肋が折れたのではというほどの痛みを数分味わって膝をついていた。


「いいでしょう。合格です」


「合格?」


「卒業ってことですよ。モウハン。貴方にはもう修行は入りません。あとは実戦のみですね」


「そうなのか?」


「おめでとうございます。よく耐えました」


「貴様これで私に勝ったと思うなよ?これでも手加減してやっているのだからな!」


(本当はしてないでしょうが!)


とディルは突っ込みながらヨシツネの言葉に頷いていた。

いよいよ厳しい修行が終了となった。


「ギーザナ!ヨシツネ!そしてディル!ありがとう!」


モウハンは礼儀正しく頭を下げて感謝の言葉を述べた。


・・・・・


・・・


ーーーモウハンの部屋ーーー


王宮内に与えられていた部屋の中でモウハンは荷物をまとめていた。

そこへエニーがやってきた。


ガザザ・・・。


「うわ・・・!なによこの荷物!その辺の人家族が引っ越しするくらいの荷物じゃない」


「ん?荷物じゃないぞ?荷物はこのショルダーバッグに入っている。このでっかいナップサックはほとんどが重りだ」


「はぁ・・・もはや貴方ニンゲンを止める気ね・・・」


「俺は人間だ!」


「はいはい。・・・そ、それで・・いつ、出発・・・するの?」


「明日の朝だ。歩いていくから時間もかかるがグランヘクサリオスが始まる1ヶ月前にはゲキ王国に着くだろう。そこからグラディファイサー登録していくつかの試合にも出られるはずだ。間に合わなそうなら走るけどな!わっはっは!」


「そっか」


「どうした?腹でもいたいのか?またなんか落ちてるものでも食ったか?」


バゴン!!


「あんたと違って落ちてるものなんて食べないわよバカ!」


「イデデ!」


エニーはその場から走ってどこかへ行ってしまった。


「変なやつだな。さて、準備だっと!というかもう完了だな!よし飯でも食いにいくか」


そこへディルがやってきた。


「師匠!こんなところにいたか!ってさっきエニーがすごい勢いで走っていったよ?」


「ああ」


「しかもちょっと泣いてたけど・・・ま!まさか!師匠が泣かしたのか?!」


「泣かすか!ていうかこのコブをみろ!いつもの強烈ゴリラパンチ食らったんだぞ!涙出たのは俺の方だ!」


「・・・ははーーん。なるほどね」


「なにがなるほどなのだ?」


「師匠。質問だけど、この国の飯って旨い?」


「うまいぞ!」


「たとえば?」


「そうだな!エニーの作った強烈スタミナ丼とか、エニーの作った海賊スパゲッティとか、エニーの作った電光石火鍋とかだな!エニーの作った地獄ステーキとかだな!」


「他には?」


「そうだなぁ。エニーの・・・・」


「それ!それだ!」


「どれだ?!」


「どれだじゃない!エニーのってやつ!なんで師匠はさ、城のコックが作る料理とか、街の食堂とかの料理が出てこないのってことだよ」


「そんなもの決まっている!エニーの作る料理の方が旨いからだ!」


「わかった。じゃあ師匠は明日国に帰っちまうけど、もうエニーの料理は食えないってことだな!」


「え?!」


「だってそういうことだろ?」


「そうだな・・・」


モウハンは珍しく何か考えているような顔をしている。


「エニーもさ、美味そうに師匠に食ってくれる師匠がいなくなるってので今の師匠と同じ気持ちになってるんじゃないのか?」


「エニーの料理を食いたくなったらどうするかって気持ちか?」


「はぁ?!なんでそうなるんだよ!・・・えっと、ないの?!なんかこうー胸が苦しくなるって言う感じっていうか、なんか焦るっていうか・・・いや焦るは違うか・・・なんかこう、ぞわぞわってする感じっていうか」


「ディル。お前頭大丈夫か?何を言っているか全く分からないぞ!」


「あ“あ”あ”あ”あ”!いらつくなぁ!師匠は脳筋単細胞か!って今に始まった話じゃない。えっと、エニーがいなくなったらやだなとか、側にいてほしいとかそういうのないの?!」


「だから何を言っているんだ?そりゃ側にいてくれれば嬉しいに決まっているだろう!」


「そう!それ!それは何でだ?」


「旨い飯を作ってくれるからだ!」


ガクッ


「だめだこりゃ・・・この人本当に脳みそ筋肉でできてるわ・・・」


「ディル。お前本当に大丈夫か?脳みそが筋肉でできているわけないだろう?脳みそが筋肉で出来ていたら、ほら!こんな風に脳みそも動くことになるんだぞ?」


そう言ってモウハンは胸筋を動かして見せた。


「そういうとこだわ・・・」


もはや常識の通じない男だということを再認識したディルだった。


「まぁ、エニーと話してみることだね」


「何をだ?」


「あ“あ”面倒くせぇなぁ!例えばエニー、お前の飯が食えなくて俺は寂しい!とか?」


「まぁ、そうだな!よし、腹も減ったし、何だか知らんが言ってみよう」


そういうとモウハンはエニー追いかけて歩いていった。


「エニーも苦労するよな・・・あんな天然記念物みたいな脳筋男に惚れちまって」


・・・・・


・・・


ドンドン


「!」


エニーは部屋に篭って泣いていたが、いつもの通りモウハンがドアをノックというより叩くようにして訪ねてきた。


(もう!何なのよ!)


「エニー!俺はお前の飯が食えなくて寂しいぞ!」


いきなりの告白に驚くエニー。


「え?!」


エニーは思わず顔を上げて起き上がりドアに近づく。


「どういう・・・意味?」


「どういう意味もないぞ。お前が作る料理が好きだし今すぐ食べたい。それが食べられなくなるのは寂しいってことだ」


「だからどういう意味?も・・・もしかして私と離れるのが寂しいってこと?」


「そうだ!」


「ほんと?」


「ああ!本当だ!」


ガタン!!


エニーは思いっきりドアを開けた。


「モウハン!」


「エニー!さぁ飯作ってくれ!俺は腹が減った!」


「はぁ!?飯くいたいだけかー!このバカ!!」


ブオン!!!


エニーはいつもの勢いで拳を振り回しモウハンのいうゴリラパンチを繰り出すがモウハンが避けたため、よろけて前のめりに倒れそうになった。


「きゃ!」


ガシ!・・・ガタタン!!


それを思わず受け止めたが、エニーの勢いが強すぎてそのまま二人とも倒れ込んでしまった。

エニーの上にモウハンが乗っかる形で顔が近づいていた。


「モウ・・ハン?」


モウハンはエニーを見つめて黙っている。

あまりに近い距離で触れ合っているため、エニーは顔を赤らめている。

そしてそのまま動かないモウハンとの密着した体勢にドキドキが止まらなくなっている。


「ちょっと・・どうしたのよ・・・」


間近でモウハンはエニーの目を見つめている。

エニーは自分の心臓の音がモウハンに伝わってしまっているのではと恥ずかしくなっていた。


「モウハン?ね、ねぇ?」


モウハンじっとエニーを見つめたまま動かない。


「モウハン?」


顔を赤らめているエニーはだんだん自分はからかわれているのだと思ってきたのか、顔色が徐々に普通に戻ってきた。


「ちょ、ち、近い!」


モウハンは黙っている。

そして、そのまま無言でムクっと起き上がりそのまま歩いてどこかへ行ってしまった。


「ちょ、モウハン!ご飯は食べないの?!な・・なんなのよ、全く・・・」


・・・・・


・・・



その日の夜。

モウハンは王宮内の中庭で芝生に大の字で寝っ転がり星を見ていた。

虫が音色を奏でている。


「師匠。どうしたの?」


そこへディルがやってきた。


「明日出発するっていうので少しの寂しくなってるんだな?師匠らしくない」


「・・・・」


「俺は寂しくない!ってかァ?!って言わないのかい!」


「・・・・」


「おい、師匠!どうしたの?なんか変だぞ?」


「ああ・・・」


「熱でもあるのか?って、師匠はなにがあっても絶対に病気しない体だもんね・・・。どうしたの?」


「いや、なんか変なんだよ」


「そりゃ変でしょ、師匠は。普通じゃないもん。脳みそ筋肉でできているし。あ、でも動かせないやつね。動かせない筋肉だから胸筋みたいにならないから」


「なんか・・・変な気持ちなんだよ」


「!・・・何かあったの?」


「なんかな・・・この辺がスースーするんだ」


モウハンは鳩尾あたりを手のひらでぐるぐるしながらスースーするところを表現した。


「!・・・それで?」


「それで、なんか変なんだよ」


「いや、変なのわかったから!会話できないくらい変になっちゃった?ただでさえ変なのに?」


「いやな・・・お前に言われてエニーに飯食えなくなるのは寂しいって言ったあと、あいつ俺に殴りかかってきてな」


「何その展開!端折ったでしょ、いや端折ってなかったら異常だわ!」


「それであいつのパンチは簡単に避けられるから避けたら倒れて俺が乗っかって顔がこのくらいまで近くになってな・・・」


「!!!」


「その時、何だかよく分からないんだが、胸のあたりがスースーし始めて、心臓が1キロを全力疾走したくらいの心拍数になったんだ・・・走ってもいないのに・・・」


「それだ!師匠!あんたの脳みそには、いやハートには一応普通の感情ってのがあったんだね・・・うぅ・・」


ディルは涙ぐみ始めた。


「なぁディル・・俺は病気なのか?」


「師匠、あんたは病気じゃない!」


「じゃぁなんだ?」


「エニーに向かってこう言ってやるんだよ。お前が好きだ!って」


「そう言ったらこのモヤモヤスースーした感じが消えるのか?」


「ああ、消えるよ!だから必ず言ってやりなよ?」


「わかった。今から行ってくる」


そう言ってモウハンは力なく立ち上がりぼーっとしながらゆっくりと歩いていった。


「師匠・・・うぅ!何だろうこの手塩にかけた子供を送り出す感じ・・・子供いないけど・・・師匠がんばれ!・・・ってもうこんな時間か。早く寝ないとな」


ディルは部屋に戻っていった。







ちょっとアップが間に合わなかったです・・・。次は土曜日夕方アップです。

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