<ゲブラー編> 60.モウハンの修行
60.モウハンの修行
3組5名が帰還してから半月が経った頃、一人の客人がジオウガ王国王宮を訪れた。
「王子、お待たせいたしました」
ギーザナが謁見の間にその客人ふたりを連れてやってきた。
その客人は種族は人間で、一人は長身で比較的ガタイもよく鍛え抜かれた体から戦闘力の高さがうかがえる男性だった。
もう一人は見た目は小柄だったが透き通る白い肌と凛々しい顔立ちの男性で、どちらの客人もモウハンやシャナゼンなどとは違った出立をしていた。
シャナゼンは玉座に座りながら身を乗り出し自分の膝に肘をつきながら前のめりに目の間に現れた客人を見ている。
「ほう。そなたがハーポネス天帝の槍にして最高の暗殺者か」
「お初にお目にかかる。ジオウガ王国シャナゼン王子兼王代行。私はヨシツネ・カグラミと申します。ご認識の通り、天帝様の手足となって天帝様に剣を向けるもの全てを滅する者にございます」
「なかなか礼儀正しいな。あ、まぁそれが普通なのだろうな。最近無作法なニンゲンとの付き合いで感覚が鈍ってしまったようだ。どうか楽にしてほしい。そしてまずは我らの要請を受け入れてくれた上に無茶な依頼に応えてくれたこと礼を言う」
「滅相もない。礼を申し上げるのはこちらの方です。本来であれば私のような下っ端ではなく、天帝もしくは華族の要職についている者にて御礼を申し上げに参るところ、なに分国のゴタゴタの後始末や帝政権を軌道に乗せるために日夜休まず取り組んでおりますゆえ、同席できておらず本当に申し訳なく思っております」
「よいよい。事情は十分に理解できるからな」
「ありがとうございます。先般は弊国のゴタゴタにギーザナ殿を巻き込んでしまった上、多大なる貢献と共に帝政権復権に至ることができましたが、本当にありがとうございました」
「よいと言っているのだ。して確認だが、後からお願いした件、つまり今回ご足労願った件なのだが、受けてもらえるということでよいのだな?」
「もちろんです。大恩あるギーザナ殿、そしてその君主たるシャナゼン王子のご依頼とあらば、お断りする理由などありましょうか」
「ありがたい!ではモウハンを呼べ」
「はっ!」
謁見の間で護衛にあたっている兵の一人がモウハンを呼びに行った。
そして5分ほどしてモウハンとエニーがやってきた。
「どうしたシャナゼン!」
「お前の依頼の通り来てもらったぞ」
「おお!そなただな!」
そういうとモウハンは小柄で色白の男の手を握って来訪を歓迎した。
「モ、モウハン!!」
小柄で色白な男性の手を握るモウハンに対して、エニーがツッコミを入れてきた。
そして耳元で小声で叫ぶ。
「ちょ、ちょっと違うでしょ!どう見ても背の高いガタイの言い方でしょうが!あなたふざけてるの?!」
「俺はふざけてない!」
せっかくのエニーの小声によるアドバイスも大声で返すモウハンによって徒労におわり、エニーは頭を抱えた。
「いやエンゴシャ。そのモウハンが手を握っている者でよいのだ。彼がヨシツネ・カグラミだ」
「へ?!」
「お初にお目にかかります。ヨシツネ・カグラミです。エンゴシャ姫ですね。今ご指摘いただいたこの者は私の弟子であり信頼できる部下のカイグ・ウルミダです。どうぞお見知り置きを」
「は、あは、あはは・・・そ、そうでしたか・・・これは失礼・・・しました・・はぁ・・・」
「そうだぞエニー!どう見てもこっちの白っちょい御人の方が強い!それも相当にな!いいか!強いものにはオーラがでるんだぞ?そしてそのオーラの大きさや濃さ、色でだいたいどれくらい強いのかわかるんだ」
「わ、わかったわよ!私が見る目なかっただけよね!はい、ごめんなさい!」
「違うぞ!見る目じゃない!感じとる目だ!オーラは見るんじゃなく感じとるものなんだぞ?」
「う、うるさいわね!お客様の前でそんなに堂々とダメ出しする?!」
「お、おい」
「モウハン!貴様!無礼が過ぎるぞ!」
シャナゼンもギーザナも恥ずかしいやら苛立つやらで、ギーザナに至ってはモウハンに掴みかかろうとしている。
すると、ヨシツネ・カグラミと名乗った人物がギーザナを遮って前にでてエニーに話しかけた。
「いえ、姫。ありがとうございます。姫は私の見た目から、武術にのめり込んでいるようには見えないと思われたのですよね。私はその方が嬉しいのです。この私の弟子であり信頼できる部下のカイグは見た目の通り無骨で美しい女性や芸術などそういった美に対する感覚が乏しいのです。私はそうはなりたくないと思っています。ですので、見た目にも気をつけているのですが、貴方様のような美しい方にそのように評価頂いたのはこの上ない喜びなのです。ちなみに私もオーラは感じ取れません。代わりに相手の目を見るようにしております。相手の目を見てその動き、見ているもの、目の座り方などから相手の強さを測ります。相手の強さを見極める方法は人其々。そちらのモウハン殿は相当お強い方ですね。そして姫も。特に貴方様はお強い上にその美貌。なんとも私の目指す理想的なお姿と言えるでしょう。そしてそれを維持されている精神もまた美しいと言わざるを得ません」
「は・・・はいぃ・・・」
エニーは顔を赤らめているが、先ほどまでの恥ずかしさからの沸騰寸前だった状態から、嬉しさのあまりふわふわした状態になっている。
一方シャナゼンとギーザナはヨシツネの女性の扱いの上手さに呆気に取られていた。
「ギーザナ。ああいう男だと知っていたのか?」
「い、いえ・・・。私は無双な強さを見せている姿しか知りませんでした・・・」
一方のモウハンは。
「お前すごいな!目を見たら相手の強さがわかるのか!ぜひ俺に教えてくれ!」
「もちろんです。代わりにモウハン王子もオーラの感じ取り方を教えていただけると幸甚です」
「ああ、もちろんだ」
シャナゼンとギーザナはさらに呆気に取られている。
「女性だけじゃなく、単純脳筋男も手玉にとるのだな。しかも最初の話し方から変わっておるし・・」
「そうですね・・・っていけない!姫は私のフィアンセだ!ヨシツネに手を出さないようにせねば!」
「・・・と、話を戻そう。既に楽しく会話してくれているようだが、本題は貴殿たちにこのモウハンを鍛えてほしいというお願いだ。それも1ヶ月でゾルグ王国で行われるグラディファイサーのナンバー1を決める大会、グランヘクサリオスで優勝できるレベルにな」
「承知しました。モウハン王子は既に相当お強い。教えることはないかもしれませんが1ヶ月間精一杯お付き合いさせていただきます」
「ありがとう。この礼は鳥を飛ばして書簡で天帝殿にもお送りするようにしよう」
「恐れ入ります」
「おう!カグラミ殿頼んだ!」
「モウハン王子、ヨシツネで構いません。それに遠慮は入りません。私たちは同盟国でありいわば仲間でございます。それに貴方様は王家の方、私は一回の武人に過ぎません。」
「じゃぁ頼んだヨシツネ!俺のこともモウハンで構わない。遠慮されるのは好きじゃないからな!俺のことは王子とは思わず、鍛える弟子とでも思ってくれ!そしてエニーのこともエニーでいいぞ」
「ちょ、なんであんたが私の呼び方まで指定するのよバカ!あ、いえ、おほほ、わたくしエンゴシャでこの無礼な男からはエニーと呼ばれておりますが、そのように呼んでいただいても構いませんことです、ほほほ」
「なんだか我妹がおかしくなったぞ・・・」
「むむ!あの腐れボケのモウハンはさておき、ヨシツネまで姫をエニーとは呼ばせんぞ・・・ぐぬぬ」
とてもオーガの王子への謁見とは思えない会話が続いたが、ゾルグ討伐6カ国同盟として進むべき第一ステップである、モウハンをグランヘクサリオスで優勝させるための修行がスタートした。
相手をするのは、力技ではオーガロードに覚醒したギーザナ、素早い剣技や豊富な武技としてヨシツネ、トリッキーな攻撃をヨシツネの部下のカイグ、弓矢をディルで、実践さながらの戦闘をモウハン対4名で行うというものだった。
無茶に見えるこの修行もモウハンが言い出したことであり、本当はここにエルフのゼーゼルヘンも呼びたかったが流石にそれは叶わずということでこの4名となった。
ちなみにヨシツネを呼んだ理由は、モウハンがギーザナに自分に足りないのは何だと聞いたところ、柔軟な戦闘スタイルの切り替えだというアドバイスがあり、それを磨くために最も適した修行相手は誰だと聞き返したところヨシツネの名前が上がり、無理を言って来てもらったということだった。
・・・・・
・・・
―――ところ変わってゲキ王国―――
キン!ガキン!ゴカン!!
巨大な槍を振るう小柄だが筋肉が異様に発達した男と、両手剣をふるっている筋骨隆々な大男が手加減ないように見える稽古をつけていた。
ガガン!バゴン!ドッゴーン!
両手剣の男は巨大な槍によって吹き飛ばされてしまった。
相手の男が小柄にも関わらず巨大な槍を軽々と振り回せているのはその異様な筋肉によるものだった。
「ふむ。まぁこんなところか!お前も強くなったがもっと伸びるぞ!しっかりと精進せい!」
「は!」
そういって両手剣の男は奥へ下がっていった。
「誰か!」
「は!」
小柄な男の呼び声に応じて、奥から部下が素早くそばにやってきた。
「直進息子はうまくやっておるかのう」
「は!間者バクレンの連絡によると、どうやらシャナゼン王子との謁見を経て、その後ゼネレスへ入りエルフのエヴァリオス家と接触し、共闘の方向で関係作りができたらしいとのこと。またシャナゼン王子とその部下の動きによって、ガザドとハーポネスも共闘の意思を表明した様子」
「そうか。ご苦労だったな。バクレンはハンには見つかっておらんだろうな?」
「いえ・・・直接見つかってやりとりした等はございませんが、あの鼻の利く王子のこと、もうお気づきかと」
「まぁええわ。まぁ、シャナゼンのボウズに書簡も送っておるからジオウガにいるうちは大丈夫じゃろて。ゼネレスの動きは注意が必要じゃが、概ね順調じゃな。ではもうバクレンは引き戻せ。ハンに儂の助けは不要じゃて」
「かしこまりしまたトツ王」
異常な筋肉の小柄な男はゲキ王国現王のトツ王だった。
「さて・・・息子の描いた絵にどれだけの者たちが動くか・・・。このままではゲブラーは地獄と化し、民は永遠の苦しみを負うことになる・・・なんとかせねば・・・」
そういうとトツ王は持っている巨大な槍で素振りを始めた。
・・・・・
・・・
―――ところ変わってゼネレスーーー
「開門!」
ギィィィィィィ・・・・
ゼネレス中央より少し北に位置し、恩恵を授ける西のギヴェラザルノ山から東西に連なる山脈の谷間に作られた巨大な都市、首都クリアテ。
街の出入り口は南北に一つずつしか存在せず、高い壁で覆われているためこの首都への出入りは全て門番によって管理されている。
その厳重な管理によってエルフの秘密漏洩防止は担保されているのだ。
過去の歴史を振り返ってもこの首都クリアテにエルフ以外で足を踏み入れた種族はほぼいない。
そしてそのさらに北に位置する神聖域ヴァジレスに至っては、エルフですら限られた者しか入ることが許されない。
よって許可された者だけが使える特殊な呪文によってのみ開く門で、実質北門はほとんど使われることはない開かずの門と化していた。
そして今、南門を通過した者がエルフ上流血統エヴァリオス家の一員であり、ネザレンの当主でもあるグレン・バーン・エヴァリオスであった。
「久々のご帰郷ですね」
「そうだね、ゼーゼルヘン。・・・あの兄を説得するというのがどうにも気が重いよ・・・」
「しかしながら、モウハンさんとのお約束は守らねば・・・という板挟みということでございますね」
「ずばり言うねぇ。どちらもプレッシャーだよ、全く。まぁ仕方ないねぇ。兄との確執はモウハンたちには関係のないことだし、これは僕の役目だね・・・はぁ・・・でも気が重い」
「お察しします。リラックスできるハーブ茶などいかがでしょう?」
「流石はゼーゼルヘンこんな馬車の中でも熱々の茶を出してくれるとはね・・・」
首都クリアテは巨大な街だが、南半分は基本的に農場エリアになっている。幹線道路沿いにのみ、さまざまな店が立ち並んでいる。
店の裏手は農場エリアで働くエルフたちの住居になっているが、ネザレン以上に芸術的な形をした家々が並んでいる。
だが決して無機質な人工物という感じではなく、自然の岩を最小限削って作った家や、巨大な木を最小限削って住居を作っているものといった、どちらかと言うと自然と一体化したような感覚を持つ街並みになっていた。
1時間以上馬車を進めて北上していくと、より山脈の切れ目となる谷に近づいていくるが、少しずつ近代文明が見えは始める。
そして、より芸術的かつ高層の建物が増え始める。
ここは商業エリアのようで、よりこ綺麗な服装のエルフたちが多数忙しそうに仕事をしている。
そこからさらに1時間。
景色は一変し、広い庭園や湖といった自然に囲まれる中にポツン、ポツンと城のような建物が点在するエリアに入る。
ここが上流血統家の住む上級区域だ。
グレンの乗った馬車は、その中でも一際大きな建物に向かって走っている。
「グレン様。到着しました」
「はぁ・・・いよいよか」
「まずはお父上からですね」
「それもまた気が重いねぇ」
・・・・・
・・・
コンコン・・・
「グレンにございます。任期中ではございますが折り入ってお話があり一時的に戻ってまいりました」
「入れ」
グレンは重く大きな扉を開けた。
30畳ほどの広さの部屋の奥に大きく美しい机があり、こちらを向いて座ってなにやら書類に目を通しているエルフがいた。
グレンは部屋に入った瞬間に重苦しい雰囲気に包まれたのを感じたが、同時に苦しくも懐かしい感覚になっていた。
(変わらないねぇ・・・全く・・・)
「父上、お久しゅうございます」
「能書きはいい。用件を言え」
「はい。最近ゾルグが不穏な動きをとっているという情報を耳にしたもので、父上にもそのような情報が入っていないかと伺いに参ったのです。何かあれば、まずは私が任されているネザレンで食い止めなければなりませんので前もって防衛準備を整える必要があるかどうかを判断するのに必要なのものでして」
「政はゼシアスに任せているのは知っているだろう。以上だ」
「わかりました。失礼したしました」
バタン。
「ふぅー」
(疲れるねぇ。でもまぁこれで通過儀礼は済んだと・・・。問題は次か・・・)
グレンは怠そうに城を出た。
そしてそこから10分ほど離れた場所にある大きな城に到着した。
「これはこれはどなたと思ったらグレン様ではないですか。遠路はるばるお越しになられてどうなされたのですか?」
出迎えた執事らしき者が嫌味口調でグレンに話しかけた。
「兄に会いにだよ。事前に連絡しておいたんだけどねぇ。通じてなかったな?」
「さてぇ、ネザレンのような村からの書簡は届くしくみになっておりましたかねぇ。申し訳ございませんが、存じ上げません」
「まぁいいよ。とにかく兄に会いたいので通してもらえないかい?」
「はぁ、お通ししたいのは山々なのですがねぇ、わたくしにはその権限がぁ・・ひぃ!」
グレンの背後からゼーゼルヘンが睨みをきかせたのだが、それに反応してビクつく執事だった。
「君はどの権限でエヴァリオス家次男のグレン様をこのような軒先でお止めするのかね?それにもし先ほどの言い分の通り、グレン様からの書簡を見落としているとすれば、それは君の責任です。この責任は非常に重い。これはしっかりと報告し、然るべき措置をとっていただくとします」
「い、いえ、これは失礼いたしました。わたくしの勘違いでございました。きちんとゼシアス様にお伝え申してございます」
「そうですか。であればよろしい。すまないがどいていただけるかな?邪魔ですよ」
「ひっ!」
執事はゼーゼルヘンの睨みによって再度ビクついて飛びのいた。
(ちっ!落ちぶれたガキに威圧感だけは一丁前のじじいが!)
心の中で悪態をつく執事はドアを閉めて外に出ていってしまった。
「あまりいじめない方がいいよ?」
「いじめてなどおりませんよ。仕事をしたまでです」
「ゼーゼルヘンがいてくれなかったら僕は今頃どこかでのたれ死んでたね・・・ははは」
「もったいないお言葉。ですがそのような仮定の話は必要ございません。私は死ぬまでお側で役目を果たすのみ。グレン様は当たり前のようにご命令くださればよいのです」
「ありがとう」
そして中央の芸術的で規則性なく不思議な作りの階段を登り、2階の廊下をしばらく進むと大きな扉が見えてきた。
「さてと。第2ラウンドだね」
コンコン
「グレンです。兄上、入ってもよろしいでしょうか?」
「入れ」
ガタリ・・
グレンはドアを開けて室内に入る。
先ほどのグレンの父、ルグウェルのいた書斎と同じような作りの書斎に座っている男はグレンの顔を見るなり立ち上がって歩いてきた。
「おお、弟よ。よくぞ戻った!」
「急な訪問で申し訳ありませんねぇ、兄さん」
「いいのだ。まぁ座れ」
進められるままにソファに腰掛けるグレン。
そして斜め横にあるソファに腰掛けるグレンの兄。
このエルフの男性は名をゼシアス・バーン・エヴァリオスという。
見た目はグレンと同様に赤く美しい色の髪をしているが、艶やかに整えられた長い髪で金色に輝く美しい装飾がほどこされた髪留めでオールバックになっている。
肌は白く、顔は美しく一瞬女性とも見紛うような妖艶な雰囲気をかもしつつも、無数の剣で串刺されるような鋭いオーラも感じられた。
「手紙はよんだぞ。あの話は本当か?」
「ええ。本当です。我らエルフが何者かによって捉えられ、肉体の一部をゴブリンロードに縫い付けられた惨たらしい実験によって生み出されたエルフの呪文を使えるゴブリンロードを生み出し、鉄壁の守りであるジーグリーテ(迷いの森)をとぱっぱしているのです。しかもゴブリンを多数連れて」
「なんと・・・」
「兄上もごぞんじでしょうけど、ゴブリンは繁殖力が強いので、一度ジーグリーテを超えて巣でも作ろうものならいつネザレンやクリアテがゴブリンによって襲撃をうけるかわからない状況なんですよ・・・」
「由々しき事態だな。しかし一体誰がそのような惨たらしい真似を?まさかオーガではあるまいな?」
「オーガにそのようなことをやる技術はありませんよ。確実な情報ではありませんが、とある情報筋から入手した限りでは裏でゾルグが動いているということです・・・」
「ゾルグ・・だと?確か狂気に満ちたヘクトルが治める国だったな。だが、ヘクトルの年齢は80近いと聞いた。ニンゲンであるきゃつが何かをしでかすと言っても、あと数年もすればきゃつは老衰で死に、国力も弱まるのではないか?聞けばかなりの圧政を敷いており敵も多いそうではないか。そんな君主が亡くなったとなれば、大勢の不満を抱えた民衆や軍、貴族どもが黙っているわけもなかろう?」
「そうなんですがねぇ・・。衰えるどころかヘクトリオンと呼ばれる5人の将軍を従えて軍力増強しているのと、ゼーガン帝国と手を結んでゲブラー全土を手中に収めようと躍起になっていると聞きました」
「確かにな。父上が参加した先の9国会議においても不可侵条約を撤廃し、9国序列を新たに設定してゾルグを序列1位とするなどと世迷言を言い放ったと聞いた。そして反対意見を述べたレグリアの王が何者かによって殺され、それをゾルグの仕業だと追求した愚かなオーガが重傷を負い再起不能になったとも聞いているな」
「その序列1位を武力で知らしめようとし始めているのだと僕は認識しましたよ」
「納得性はあるが、肝心の情報源は?」
「はい・・・これは兄上へのお願いとセットで言うことなんですが、ゲキ王国の王子であるモウハンと、ジオウガ王国の第一王女のエンゴシャが僕のところへ来ましてね・・・情報源は彼らです。そして、この憂える事態への対処として、共闘を申し入れてきたんですよ」
「共闘だと?!しかもあのオーガがか?」
「はい・・・」
「にわかには信じられん・・・。因みに共闘に賛同させようとしている対象国は我がゼネレス以外にあるのか?」
「まず、レグリア、ゲキ、ジオウガ・・この3国は元々同盟を組んでいるのが知ってますよね?それに加えてここゼネレスへ話をもちかけ、同時にガザド公国と東のハーポネスにも使者をだしたとか」
「なんと・・・最もうまくいけば6国同盟か・・・。話には納得性があるし、もし共闘に参加しなければ、我がゼネレスは愚かなオーガどもと東のハーポネスに挟まれることになるな・・・。そこにゾルグでも攻め込んで来ようものなら、この美しい自然や民たちがどうなることか・・・」
「流石は兄上。すぐさま先々を読んでのご理解。その通りと僕も思います」
「わかった。私も情報収集するとしよう。オーガと手を組むのは気が進まないが、この話が事実だとするとこのゼネレスに先ほどの我らの民を愚弄したゴブリン風情を放ち、この神聖なる領域にあのような下衆な魔物の巣を作らせる理由はただ一つ。このクリアテ、そしてさらにヴァジレスへの侵攻経路の確保・・・。これは由々しき事態だな。情報収集している間にもその下衆な魔物がこの美しい国に土足で足を踏み入れているとなれば討伐隊を組織せねばなるまい。その指揮をとってくれるか?弟よ」
「え?!ぼ、僕ですか?」
「もちろんだ。お前が任されているネザレンへの脅威でもある以上、この状況を一番よく知っているお前が指揮をとり、討伐隊を動かして魔物共を殲滅するのが効率的であろう?」
「は、はぁ・・・わかりました」
「何か不満か?」
「あ、いえ、もし証拠が必要とあらばその異形ゴブリンロードを捉えてきますし、情報源であるモウハン王子やエンゴシャ王女の書面でも取り寄せることはできますよ」
「わかった。必要あれば取り寄せてくれ。だが、これはゼネレスとしての決定になるわけだ。私もそれなりのルートで独自に情報を収集する必要がある。評議会に持っていくのはそれからだ。だが、その決定を待っているわけにもいかないだろう?」
「わかりました」
しばらく話をした後、グレンは兄であるゼシアスの部屋を出た。
そして、そこから少し離れたグレンのクリアテの別宅へとやってきた。
いくらエヴァリオス家の次男とはいえ、本宅はネザレンであるため父や兄のような立派な城ではなく、少し大きめの屋敷程度の別宅だった。
「ふぅーー」
「お疲れ様でございました。紅茶にございます」
「ありがとう、ゼーゼルヘン」
「それでいかがでしたか?」
「いつも通りだよ。理解を示すような言葉を並べながら、あの僕を嘲笑うような目、僕が話をしている時の眼球は僕の方を向いていながら僕を見ていない感じの目、そして冷たい笑顔。変わらないよね・・・」
「それでは共闘の話は?」
「分からない。流石に異形ゴブリンロードを捕らえて実物を見せれば事態を重く受け止めるだろうけどね。少なくともあのゴブリン事件はエルフに突き付けられた問題だからさ・・・」
「なるほど。いくらゼシアス様が裏表ある方とはいえ、今回に限っては対処せざるを得ないと言うことでしょうか」
「うん。いや、そうなると信じたいって感じだよね・・・。じゃないと下手をすればこの国も滅んでしまうかもしれないからさ・・・」
「わかりました。まずは異形ゴブリンロードの捕獲ですね」
「そうだね。めでたく討伐隊を指揮しろって言われたからね。まぁちょうどよかったかな。元々は兄上が評議会に話を持っていく際に一緒に出向こうと思ってたしそれをお願いしようと思ってたんだけどね。僕みたいな変わり者と評議会には行きたくないんだろうねぇきっとさ」
「なんとも嘆かわしい限りです」
「ここだけの言葉にしておきなよ?ゼーゼルヘン。外じゃ誰に聞かれてるかしれたもんじゃないからさ。今日の話じゃないけど、僕は君がいないとのたれ死んでしまうからさ、ははは・・・」
「グレン様・・・」
そうして夜は更けていった。
次は金曜日アップの予定です。




