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<ゲブラー編> 52.異形ゴブリンロードの最期

52.異形ゴブリンロードの最期



馬車は無事にネザレンのグレンの当主邸に到着した。

移動中も異形ゴブリンロードが目を覚ますことはなく、何事もなくとある部屋に運び込まれた。


モウハンとエニーもゴブリンロードが運び込まれた部屋に向かった。

途中でディルがモウハンを呼び止めた。


「モウハン、ちょっといいか?」


「おお、もちろんだ!」


ディルは中庭にモウハンを連れ出した。


「どうしたディル?」


「いや、俺の見間違いかもしれないんだが・・・」


「ん?」


「いや、ゴブリンとやり合っている最中俺が3本同時に放った矢のひとつが、お前がゴブリンのタックルを喰らって体勢崩した拍子にお前に当たりそうになったの覚えているか?」


「え?!そんなことあったか?」


「あったよ!何で覚えてないんだよ!」


「覚えてないものは覚えてない!覚えてないから思い出せない!」


「ああ!わかったよ!それはもういい。それでその時、お前を貫く軌道で飛んでいった矢がなぜかお前から逸れたんだ。なんかお前の周囲の空気が揺らいだように見えて矢が逸れたんだよ」


「ああ、そういうことか」


「思い出したか?!」


「思い出すわけないだろう!物覚え悪いのか?覚えていないものを思い出すわけがないんだぞ?」


「ああああ!お前イラつかせるのほんと得意だな!」


あまりに苛立ったディルが足元に転がっていた石を思いっきり蹴り飛ばした。

その石は建物の壁にあたり跳ね返ってモウハンに飛んでいく。


「あ!」


モウハンに当たる直前、ゴブリンとやり合っている際に見たものと同じように空気が揺らぎ石が逸れていく。


「そ、それだ!」


「ど、どれだ?!」


「それだよ」


「どれだよ!」


「おい、ちょっとそれやめろ!イライラがおさまらなくなるだろうが!今飛んで行った石をどうやって避けた?いや、石が勝手に逸れて行ったぞ!」


「ああ。そのことか」


モウハンは徐に足元に転がっている石を拾ってディルに渡した。


「この石、俺に投げてみろ!」


「よし!恨みを込めて思いっきり投げるぞ!」


そう言うとディルは3メートルほどの距離にもかかわらずモウハンに向かって渾身の力を込めて石を投げつけた。

凄まじい速さと正確さで間違いなくモウハンに当たる状態で飛んでいくが、一瞬でそれてモウハンの後方に飛んでいく。


「は?!なんでだよ!ってそれ!それをどうやったか聞きたいんだよ!何をした?どうやった?」


「何で聞きたいんだ?」


「キー!!!質問を質問で返すなよ!俺は弓使いだぞ?あんなふうに明らかに当たるように矢を射っても得体の知れない能力で避けられたら勝てないじゃないか!」


「ああ、そういうことか!それはそうだな!お前は俺のまでは弱々しいってことになるな!」


「・・・」


怒りが爆発しそうになったため、ディルは深呼吸した。


「ど、どうかそれを、どうやったか、教えてくれ」


歯をギリギリとさせながらゆっくりとお願いするディル。


「波動だ!」


「はどう?」


「ああ。内なる力を一点集中で放つ螺旋!」


そういうとモウハンは人差し指を少し大きめの石に軽く当てた。

すると石がパァンと破裂するように割れた。


「!!!」


「内なる力を拡散させるように流すのが流動!」


モウハンは落下して自分に当たるように石を真上に投げつけた。

石は明らかにモウハンに当たる軌道で落ちてくるが得前で逸れた。


「!!!それだ!」


「内なる力を物に伝えて意のままに操る共鳴!」


モウハンは地面を叩いた。

すると、転がっている無数の石がまるで波打つように跳ね上がって進んでいき、建物の庇を支える柱に到達したかと思うとその柱が粉々に崩れた。


「!!!」


「俺が使えるのはこの3つだ。これが波動。自分の内なる力の解放を行う技だな!」


「なんだそれは?!」


「お前たちオーガやエルフは確かに生まれながらに特別だ!オーガは誰よりも力を持ち強く、エルフは長寿で全てを見通す力で弓の名手が多い!人間はどれもオーガやエルフに及ばない!」


「わ、わかってるじゃないか」


「だが!人間は強くなるための努力によって後天的にオーガやエルフに負けない技を生み出す。それが螺旋、流動といったさっき見せた波動だ!これはエルフでもオーガでも使えるから、身につければお前たちは一段と強くなる!だが人間はその差を埋めるべくさらに技を磨いて強くなる!全てとは言わないが、人間がいることによってオーガやエルフもまた強くなることもあるということだ!」


「努力・・・」


ディルは頭の中で思考を巡らせていた。

努力なら自分だって行なっている。

だが、自分にはそのような技を閃くことも生み出すこともできていない。

目の前で起こったまるで手品のような芸当は紛れもない事実であり、自分より劣る種族ニンゲンが見せたものだ。

自分の矢はモウハンに当たらない。

ニンゲンより強いはずのエルフである自分の矢がこのニンゲンのモウハンには通じないのだ。

長く辛い鍛錬に鍛錬を重ねやっと辿り着いた弓矢の技術。

おそらくこのネザレンでダントツで1番の名手だろう。

それが当たらない。

ニンゲンとは何なのだ。


ディルはそう考えていた。


「教えてやる。ちょっと手を貸せ!」


そう言うとモウハンはディルの右腕を掴んだ。


「俺の波動を感じ取れ!その後にその感覚と似たものを自分の体の中で探すんだ!」


突如ディルの腕を握っているモウハンの手が振動で震えた。

するとその震えた箇所が熱くなりその熱が全身を駆け巡った。

眼球の黒目は一瞬離れた状態になり、髪の毛は逆立っている。


「なんだこれは・・・」


ディルは自分の体の中に何か熱を帯びたゴルフボール大の球体が道をなぞるように体の中を駆け巡っているのを感じた。


「さぁ、今度はお前の番だ!やってみろ!」


「やってみるって言っても・・・」


「頭で考えるな!体に自分の意識を集中させて心の目でみるんだ!」


ディルは心で体の中を想像し、自分の体の中を駆け巡る熱の粒を実際の動きに合わせた形で想像した。

その熱の粒が徐々に1箇所に集まってくるイメージが頭に浮かんできてぐるぐると回転し始める。

すると、その熱の粒の渦を自分の体の中にある何かが外に追い出すような感覚に陥った。


ディルはそれを何とか自分の手のひらに来るように意識を集中させた。

しばらくディルの体の中を彷徨っている状態の熱の球体を今度はモウハンに返すイメージを念じた。


「おおおおお!!!!」


モウハンが叫ぶ。

ディルの拳がモウハンに当たった瞬間にモウハンが後方へ異常なほど吹き飛んだ。


「え?!」


触れただけにも関わらずモウハンが吹き飛ぶ。


「な・・・なんだこれ・・・」


「ふぅ・・・お前素質あるな!びっくりしだぞ!すごいな!わっはっは!」


「いや、そうじゃなくてこれって!」


「それは螺旋だな!お前の体の中に生まれた波動の粒が集まって渦を巻いて放出された!粒が渦を巻いて強力な波動を作り出して俺にぶつけられたんだ!」


「螺旋・・・すごいな」


「これは使いこなすのが難しい!難しいだけあって威力もすごいんだ!例えばこうやって」


そう言うとモウハンは石を拾った。

その小石を徐にディルに放った。


「ほれ」


バチィ!!


「うわ!」


ディルがその小石を掴もうと触れた瞬間、何かに叩かれたような衝撃があり思わず手を引っ込めた。


「波動は物にも込めることができるんだ!」


「す・・すごい!それって矢にも込められるのか?」


「ああ!もちろんだ!」


「えっと、そのさっき避けて見せたえっと・・」


「流動か?」


「そう!それはどうやて?!」


「うーん。ぐーっとやってふわっとする感じなんだけどな」


「わかるか!」


「でもこれ以上は説明できない!とにかくさっき螺旋でやった波動の粒とのところからやってみろ!それでぐーっとやってふわっとさせてみろ!」


ディルは言われた通りにやってみる。

熱の粒をかき集めてそれを手のひらに集中させて、ぐっと凝縮させるイメージからふわっと発散させるイメージに変えてみた。


「ほれ」


モウハンは小石をディルの手のひらに投げてみると、小石はまるで磁石の反発のように横に逸れた。


「!!!」


「おお!すごいぞ!お前やっぱり素質があるな!」


「で・・・できた・・・できた!できた!」


「これはゆっくり時間をかけて集中すれば出来るかもしれないけど、戦闘においてはそんな余裕は与えてくれない!いつでもすぐに発動できるようにする鍛錬が必要だ。だがお前素質あるから努力すれば使いこなせるようになるはずだぞ!がんばれ!」


ディルは少し下を向いて考えていた。

そしてゆっくりと膝をついた。


「ん?どうした?うんこでもしたいのか?」


「モ、モウハン!ど、どうか!俺を弟子にしてくれ!」


「弟子?」


「そ、そうだ!俺は今までエルフが最も優れている、最も賢く強い種族だと思っていた。俺は強くなりたいってずっと思ってきたからエルフが最も得意とする目と正確な動きを活用できる弓矢の腕を磨いてきた。それでゼネレスでも5本の指に入るくらいの弓の腕はあるって自負している。それだけの鍛錬を積んできたからな。雨の日も風の日も関係なく、どんな状況下でも自分の放つ矢は必ず目標に当たるように指が引きちぎれそうになるまで鍛錬してきた」


下を向きながら話し続けるディル。


「でも!この間お前、いやあんたに矢を、見ることもなく避けられたのを見て、それまでの努力が全く無意味だったんじゃないかっていう喪失感を味わったんだ。これまで頑張ってきたのは一体何だったんだって。こ、言葉は悪いかもしれないけど、最も優れた種族のエルフが努力に努力を重ねてたどり着いた場所でいとも簡単に下等種族のニンゲンに追い抜かされた感覚・・・」


「・・・」


「その時気づいたんだ。いや、もっと前に気づいていたのかもしれない。初めてあんたに矢を放った時に避けられたあの瞬間から。自分の中に植え付けられているこのエルフ至上主義的な思想っていうのはエルフ社会だけの幻想で、世界に目を向けたらもっと優秀でもっと強いやつらがたくさんいるんじゃないかって」


「・・・」


「俺は!俺は強くなりたい!生まれや育った環境だけで偉ぶったり、権力を振るったりして弱者を虐げる、脅威が迫ったら逃げるような理不尽な支配社会の中で唯一信じられるのは自分の力!強さだけだから!強さだけは裏切らないし、自分の存在を高みに持っていってくれる。だからもっと強くなりたいんだ!いや、強くなりたいんです!」


「お前、すごいな!そんな若いのにしっかりとした信念持ってて!俺がお前くらいの年齢の時なんてそんなこと考えたこともないぞ!ひたすら稽古しまくってたけどな!わっはっは」


「いえ、俺これでも50歳超えてますから」


「げー!」


「エルフは長命ですからね。あんたより見た目的にも成長していくスピードが遅いんですよ。ちなみに当主様は100歳超えてるから」


「なんかすみません。おじいさんに偉そうな口聞いてました」


「誰がじいさんだ!」


「まぁ俺の知っていることは教えられるけどな!だけど弟子とかそういうのよくわかんないし、お前はもう俺の友人だ!友人に師弟関係とかないだろう?」


「いや、武技についてはあんたの方が圧倒的に強い。俺はあんたに学びたい。あんたは言ってみればおれの武技の先生だ。だから俺は師匠と呼ばせてもらう!」


「友人だよな?友人関係があるなら何でもいいぞ?」


「ああ、そうだ。あんたは俺の友人であり師匠だ」


「よくわかんないがまぁいいか!それよりあの異形ゴブリンロードを見に行かないのか?」


「ああ、そうだった。行こう師匠!」


「なんだか調子狂うな」


そう言うと2人は異形ゴブリンロードが運び込まれた部屋へ向かった。


・・・・・


・・・


その部屋は簡素なというより手術用に近いベッドがあり、壁際に設置したる棚には数々の薬のようなものや医療器具に見えるものが置いてある。

そのベッドには異形ゴブリンロードが手足を縛られた状態で寝かされていた。

部屋には白衣のようなもの着て布で口を覆っているゼーゼルヘンと少し離れた場所で座っているグレン、そしてエニー、モウハン、ディルがいる。


ゼーゼルヘンは異形ゴブリンロードの体をピンセットのような器具を使いながら体を調べている。


「なるほど。これはすごい。不謹慎ですが、このエルフの方は助かりませんね」


グレンはぐったりした姿勢でソファーに座っており、完全にゼーゼルヘンに任せている。



「どういうことだい?」


「ええ、心臓という血液を全身に巡らせて養分を行き渡らせる人体構造は我々エルフだけではなく、ニンゲンやオーガ、動物や魔物ほとんど生物が同じです。その心臓はゴブリンリードの体の方にしかなく、血を通わせる血管がエルフの体の血管とも縫合されていますので、ゴブリンロードが死ねばこのエルフも死んでしまうからです」


「やっぱりそうか。でどうにかならないの?ゴブリンロードの顔だけふっとばすとか?」


「難しいでしょう。心臓を動かしているのはゴブリンロードでございます。頭部を切断してエルフ側で心臓を動かすように神経接合をすることはできません。この体改造技術はエルフの医療技術を遥かに超えております。これを行なった者はこのゲブラーの常識以上の知識を持っていると思われます。相当な脅威になり得ますな」


「ヘクトル・・・!」


モウハンはこれをヘクトルの仕業と信じて疑っていないため、軍事力以外においても高度な技術を持っていると考え歯をギリギリとさせながら見えない敵の動きにどうすることもできない自分の不甲斐なさを感じた。


「そんな・・・。ゼーゼルヘンさん、エルフの方だけ起こして話を聞くことはできますか?」


モウハンの表情を読み取ったエニーが少しでも情報を得たいという思いでゼーゼルヘンに問いかけた。


「やってみましょう。ゴブリンロードが寝ている間、生かされている別の脳で意識を持っているエルフ側だけ活動するというのは有り得ると思われますから」


モウハンとエニーは何かヘクトルに関する情報が得られると期待して身を乗り出した。


「グレン様。起こしますがよろしいですか?」


ゼーゼルヘンは小さな小瓶を手に持っている。


「ああー頼むよ」


ゼーゼルヘンが持っている小瓶は気付け薬のようで匂いをかがせることで刺激を与えて覚醒させる薬品のようだ。

どうやらエルフの国では薬の技術も進んでいるようだ。

数秒気付薬をエルフの方の頭部の鼻の近くで動かしていると体がピクッと動き出した。


「う、うう・・・」


ゴブリンロード側の頭部は気絶したままだが、エルフ側の頭部は目を覚ましたようだ。


「が!あがぁ!!」


急に暴れ出した。

手足が拘束されているため、ベッドの上で暴れている状態だ。


「落ち着いてください。私の声が聞こえますか?」


ゼーゼルヘンはエルフの頭部に話しかける。


「あがが!あがが!」


「どうだい?何かききだせそうかい?」


少し離れた場所で面倒臭そうに眺めているグレンがゼーゼルヘンに聞いた。


「ふむ。グレン様。どうやら話をするのは難しいかもしれません。舌が切られていますね。この融合手術をした者は残虐且つ狡猾な者のようです」


グレンは怠そうに立ち上がって紙とペンを取り出した。

そして紙に何か書き出した。


「ねぇ君、これ読めるかい?理解できたら瞬き1回して?」


「あがが!」


エルフは瞬きを1回してみせた。


「おお、ありがとう。君はすごいねぇ。じゃぁ君字は書けるかい?書けるならまた瞬き1回だよ?」


「あがが!」


エルフは先ほどと同様に瞬きを1回してみせた。


「よぉし、さてと。じゃぁこれから質問するからもし分かることがあったらこの紙に書いてごらん」


そういうとエルフの頭部と繋がっている方の手の拘束を解いた。

そしてペンを持たせる。

ゼーゼルヘンに紙を渡しエルフ頭部が書きやすい位置に持たせる。


「あが・・・」


エルフ頭部は何かを書き始めた。


「ふむふむ」


そこにはこう書かれていた。


“ころして”


「これは君を殺してほしいってことかい?」


エルフは瞬きを1回だけした。


その姿を見てエニーは口を押さえて苦しそうな表情を浮かべた。

ディルもまた、拳を強く握り下を向いている。

同胞がこのような酷い仕打ちを受けていることに怒りが押さえられないようだった。

モウハンもまた、首の血管が異様なほど浮き上がっており、表情には見せないが異常なほどの怒りを抑え込んでいるように見えた。


「わかったよ。君の望み通りにしてあげよう。その前にふたつみっつ教えてくれないか?」


エルフの頭部は涙を流して瞬きを1回してみせた。


「ありがとう。君はどこの出身かな?家族はいるかい?」


エルフ頭部はベンで書き出す。


“ナ ザ ロ ラ ム ゼ ン”


「ありがとう。君は・・・ナザロ村のラムゼンさんの家の者ということだね?」


エルフ頭部は瞬きを1回した。


「どれでは君はいつこんなことになったんだい?」


“1 ね ん ま え”


「ありがとう。次で最後だ。苦しいだろうからね。君をこんな風にした者のことを教えてくれるかい?」


“ぞ る ”


ガブゥ!!!


「あがががぁ!!!」


エルフの頭部が何かを書こうとした瞬間にゴブリンロードの頭部が目を覚ましこともあろうか、エルフ頭部の左耳あたりに噛み付いたのだ。

エルフの耳は噛みちぎられてぶら下がっている。


「ギザマラ・・・!何かを ギギダゾウトしても 無駄だ。我は何もジャベらない。教えない。はがぁ!!!」


すると急にゴブリンロードの体が熱を帯びてくる。


「いけませんね。みなさん離れてください」


ゼーゼルセンはグレンを抱き抱えて壁際に避けて、グレンの座っていたソファーを盾にした。

モウハン、エニーも状況を察したらしく、ディルの首根っこを掴んで部屋の隅に飛びのいた。

次の瞬間、ゴブリンロードの体が爆発するように吹き飛んだ。


パァァァン!!


肉片が方々に飛び散る。


「な・・・なんてこと!!」


「くそう!!!」


エニーとディルは悔しそうにしている。

モウハンはその光景をじっと見つめていた。


「自分に炎魔法の爆裂呪文でもかけたかねぇ」


「ええ。もしくは、予めそのような魔法が体に仕込まれていて、ゴブリンロードの意思で発動するか、死んだら発動するかでいずれにしても証拠が残らないようになっているのでしょう。やはり狡猾な者のようです」


「でも、グムーン村にある異形ゴブリンロードの死体は爆発していないですが?!」


「それも確認してみよう。時間差はあるかもしれないけど、おそらくは既に跡形もなく爆ぜちゃってるんじゃないかな・・・」


ディルは悔しそうな表情をしながら俯いている。

徐に立ち上がるグレン。

そして肉片や血塗れとなっているところから何かを手に取った。

グレンが手にしているのは血塗れになった腕だった。

その手にはペンが握られている。


「さてと。彼をきちんと故郷に帰してあげて眠らせてあげないとね」


沈黙が流れた。








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