<ゲブラー編> 49. 迷いの森
49.迷いの森
―――迷いの森 ジーグリーテーーー
ゼネレスは北東に巨大な活火山ギヴェラザルノ山がそびえ、そこから連なる継ぎ目のない山脈は、神聖域ヴァジレスを覆う形で形成されている。
その玄関口となるのがヴァジレスの南にある首都クリアテだ。
その南南西に位置するのがネザレンという大都市である。
首都クリアテの東側には山脈の壁があり、西からネザレンを囲い込むように東にかけて覆っているのが迷いの森 ジーグリーテだった。
ネザレンには言わばジーグリーテを出る際の関所のような役割があった。
他国からゼネレスに入国する際、迷いの森ジーグリーテのその側にあるいくつかの村には立ち寄ることができる。
モウハンたちが立ち寄ったのもその村のひとつだった。
だが、普通は迷いの森には誰も入らない。
この森に許可なく、そしてガイドなく侵入しても決してネザレンには辿り着けない。
特殊な魔法なのか、ゲブラー有史前から伝わっているとされるカラクリによってエルフ以外が単独で入っても決して通過できないという森だったからだ。
そんな森の中をモウハンたちは馬車で北上していた。
「ディル!まだ礼を言っていなかったな。ありがとう!お前が来てくれなかったら俺たちの本来の目的も果たせなかっただろうし、このご婦人がどうなっていたかもわからないからな。お前は恩人だ!」
「ふん!気安く話しかけるな!埋められない種族の差があることをいい加減認識しろよ」
「そうか?そんなもんどうやって認識するんだ?」
「はぁ?!あんたにはわからないのか?俺はエルフであんたはニンゲンだ。この差をどうやって埋めるんだよ!」
「エルフと人間の違いって何だ?俺にはわからないぞ?!」
「そもそも生まれ持ったものが違うんだよ!」
「ん?この間、村でお前が言っていたことと矛盾してないか?」
「う、うるさい!あんたと話すのは嫌いだ!少し黙っててくれ」
「お前面白いやつだな!でも矛盾を抱えることは生きてる証拠だ!矛盾のない生活なんて何の刺激も成長もないからな。だから目一杯悩めばいいと思うぞ!わっはっは!」
「ちっ」
ディルは舌打ちしながら面倒くさそうな表情を浮かべて馬車を御すことに集中しようと前を向いていたが、モウハンの言った言葉が頭の中でぐるぐると回ってイライラが治らない状態が続いた。
それから1時間ほど進んだところでディルは馬車を止めた。
「どうしたのディル?何か問題でもあったの?」
エニーがディルに話しかけた。
「いや、問題じゃない」
荷馬車の前につけられたホロをあげて状況を確認するエニー。
すると前には舗装されてはいないが見えなくなるほど遠くま続く一本道が見えた。
木々が誰かの手によって手入れされているかのように開けてアーチを作っており、花咲くシーズンであればさぞ綺麗な景色を見せただろう。
エニーはなぜここで馬車を止めたの分からなかった。
モウハンはいびきをかいて寝ている。
「何でもないからホロを閉めろ。絶対に見るなよ?」
その言葉で察しがついたエニーはホロを下ろして前が見えないようにした。
絶対見るなと言われると診たくなるのが心情だが、ここは種族の垣根を越えたマナーのようなものであるため、エニーは見ないことにした。
ディルは馬車を降りた。
左右には高さ50センチほどの道祖神のような小さな石像があり、どうやらそれが何かの目印になっているようだった。
ディルはナイフを取り出し、自分の指を少しだけ切った。
そして滴る血を左側にある道祖神のような石像に1滴垂らす。
次に右側の石像にも同様に1滴血を垂らした。
その後、道の真ん中に立ち、何やら呪文のような言葉を小声で唱えている。
すると目の前の延々と続く木々のアーチがふにゃふにゃと歪んできて、まるで霧が晴れるような形で景色が変わっていく。
その場に現れたのはY字路だった。
ディルは馬車に乗り込んで馬車を動かし始めた。
「もう見てもいい?」
「ああ」
ディルに断ってエニーはホロを上げて外の景色を見た。
「!!!・・・なるほど・・エルフ以外が辿り着けないわけだ。ありがとうディル。君が一緒に来てくれなければ私たちは永遠にこの森を彷徨っていたのよね。面倒な役を買って出てくれて本当にありがとう」
「え?!あ、あぁ。いや、俺は・・・この間言っただろう?あんたらのためじゃないって。エルフの尊厳と自分の信念のためだって・・勘違いするなよ」
冷戦状態にあるオーガから素直に感謝の言葉が出てきたことにディルは少し戸惑いながら、まるで恥ずかしさを隠すように返答した。
「そう?でも理由なんて人それぞれだからね。要は相手がどう受け止めたか・・・。少なくとも私はあなたに感謝しているわ。あなたがどう思っていてもね。だからお礼を言ったの。本当にありがとう」
「くっ・・・。そ、そういうこと・・ならネザレンに着いてからにしろよ・・・全く調子狂うな・・・」
「ふふふ」
しばらく進むと小屋が見えてきた。
「少し休もうか」
「そうねって・・・この野生児はさっきからずっとイビキかいて休んでるけどね」
「ぷっ」
くちからヨダレを垂らしただらしない顔でいびきをかきながら寝ているモウハンの顔を見て思わず笑うふたり。
「この小屋にはキッチンがあるから暖かいティーも飲める。ここで昼食とするぞ」
「いいわね。木々に陽の光が遮られていて少し寒いから暖かい飲み物が飲めるのはありがたいわ」
エニーはモウハンのうるさいイビキが妊婦に影響ないか心配していたが、相変わらず意識が戻らないのでうるさいイビキも聞こえないだろうということで2人を馬車に残し、小屋へ入った。
ディルがお湯を沸かして紅茶を入れている。
本来ならオーガとエルフが同じ場所で紅茶を飲みながら食事をするなど過去の歴史から考えられないことだった。
ましてやエニーは王族の姫であり、その身分の差からこのような状況になり得ないのだが、不思議な光景がそこにはあった。
「一つ聞いていいか?」
「ん?ええ、いいわよ?」
「あんたらは何でゼネレスに来たんだ?それも北を目指しているって。新しい法で俺たち普通のエルフには許可なく他種族との交戦はできないことになっている。攻撃されない限りはな。だからあんたらを攻撃なんかしないし、どうこうするつもりもない。ただ、北に行けば行くほど、あんたら余所者に対して厳しい関門があるから余程の伝手と理由がないとネザレンで何もできずに帰ることになるぜ?」
「そうね、少しは話しておいた方がよいかもしれないわね。あなたたちはあまり他国と接点を持たないから情報が入ってきていないかもしれないけど、今このゲブラーではゾルグ王国の力が日に日に増しているのよ」
「ふん、確かに情報は入ってこないけど、たかがニンゲンの支配する国が力をつけてきたところで何だって言うんだい?」
「知らないの?ゾルグはこのゲブラーに100あった国々を9つに淘汰した国よ?」
「知ってるよ!戦争しまくって多くの罪もない人たちを殺しまくった天下の悪王のヤマが支配していた国だろう?あの悪王もここゼネレスには軍を送れなかった、つまり俺たちエルフには勝てないと最初から白旗上げていた弱王だって。今は別のやつが王になったって聞いているけど所詮はその程度の国だろ?」
「そうか。一般的にはそう伝わっているのね。でもヤマ王は天下の悪王なんかじゃないわ?彼は100ある国々で行われていた無数の戦争をこれ以上続けさせないためにあえて悪役を買って出た平定王なのよ?現に侵攻した国々では決して女子供は殺さなかったし、捕虜についても戦争後に解放しているの。ジオウガ王国とゼネレスは元々国として広い国土と種族としてまとまった統制の取れたものだったし戦争もしていなかったからヤマ王はそれを尊重したのよ。まぁ戦ってどうなったかはわからないけど、当時のヤマ王とその配下たちの強さは尋常じゃなかったと聞いているわ」
「はっ、どうだか。歴史ってのは常に争いの勝者が善良視されるってラングから聞いている。大方どこかで真実が捻じ曲げられてるんだろう?」
「どうだろうね。確かにその勝者が善良視されるっていうのも真実ね。あとは自分の目で観て、理解するしかないと思うわ。でも問題はそこじゃない。その後なのよ」
ディルは目の前で自分と会話しているのがオーガの女性だという状況をいまだに夢じゃないだろうかと感じていたが、その理由のひとつにオーガの印象がこれまで聞いていたものと全く違っていたというのがあった。
オーガは粗暴且つ交戦的で頭が悪く人の話を聞かないため、聡明なエルフとは相入れない存在だというのが物心ついたころから耳にタコができるほど聞かされていた話だった。
だが、目の前の初めて会うオーガの女は一体何なのだ、自分の話をきちんと聞くし、理解もする。
認めるところは認めるし、違う意見は違う意見として主張してくるではないか、と全く違う事実に困惑していた。
困惑だけではなく、初めて自分と言う存在を尊重してくれているという感覚も持ったのだった。
(自分の目で観て理解する・・・か。確かにこの女オーガの言う通りだ・・・。俺は何も知らない。ほとんどが聞かされてきた情報だ。俺にとっての真実って何なんだろう・・・小さな頃から聞かされてきたことなのか?自分で観たわけじゃないのに・・・?)
「ん?どうかした?」
「え?!あ、い、いや・・・何でもない。それでその後がどうしたって?」
「人格者だったヤマ王の側近だったヘクトルという宰相がヤマ王を殺して王になったの。ヤマ王は9つにまとまった国を維持し続けるために同盟や協定を結んで戦争をしないように努めていた。でもそのヤマ王を追い落として王になったヘクトルはその同盟や協定を破棄し始めた。そしてさっき言った通り、力を増強させている。つまり軍事力強化をやっているってことね」
「つまりそれって・・・」
「そう。ヘクトルはまた戦争を起こそうとしている」
「で、でもそんなのニンゲン社会でやればいい。俺たちには関係のないことだ」
「支配者の考えることはただ一つ。全てを手に入れて従わせ支配することだわ」
「まさか、ジオウガにもゼネレスにも戦争をしかけてくるってのか?」
「間違いないと思ってる」
「思ってるって!確証はないのか?!まさか、いや、その話がもし本当なら一大事だ!北へ登って上流血統家に伝えるべきだけど・・・確証のない話をしてあの方々の逆鱗に触れたら・・・あんたたちの命は保証できないぞ・・・」
「確証がないか・・・。今は言えないけどないとは言えない」
「ま、まぁあんたらにも事情があるんだろうが、でもそれなら尚更この迷いの森ジーグリーテを抜ける手段もないまま行き当たりばったり的によくゼネレスに入ってきたな・・・」
「だからお礼を言ったのよ。あなたには感謝しているわ」
「もしラングや俺がいなかったらあんたらどうしてたんだよ」
ディルはやっぱりオーガは頭が悪いのか?と思ったが、ふと浮かんだモウハンの顔を見て、頭が悪いのはニンゲンだなと頭の中で結論づけた。
すると突然ドーン!という音と共にドアが開いた。
「おい!魔物だ!おそらくはゴブリンだろう!妊婦を守ってくれ!」
「なんですって!?わ、わかった!ディル!妊婦を運んでくれる?私はモウハンと一緒に戦闘に出るわ!」
「いや、だめだ!あんたが妊婦を運んでくれ!ゴブリンなら数も多い可能性がある!その場合、あんたら近距離戦闘の2人より、モウハンと俺の近距離+遠距離で構えた方が効率的だ!」
「なるほど!わかったわ!」
(でもなんでゴブリンたちはこのジーグリーテの血の結界の中に入ってこれるんだ?!)
エニーは馬車から妊婦を急いで小屋へ運び鍵をかけて剣を構えた。
一方モウハンは前方で剣を構え、ディルは小屋の屋根に登り矢を構えている。
「ぎぃぃぃやぁぁ!!」
ひとりのゴブリンの掛け声に合わせて一斉に他のゴブリンたちが飛びかかってきた。
その数、25匹。
モウハンは素早い動きで小屋に近づくゴブリンから斬っていく。
その荒々しくも的確な剣捌きを横目で見ながら感心しつつディルは次々に遠方にいるゴブリンの眉間を正確に射抜いていく。
ものの数分でカタがついた。
だが、草陰の奥に一匹のゴブリンらしき影をみたがゴブリンが全滅する前に去っていったのを確認していた。
「ふぅ、終わったな!だがお前の弓の腕はすごいな!矢を一本も無駄にせず全て一発で仕留めてる!」
「だが逃した」
「ああ。まぁ仕方ない」
「それに見えたか?あの逃げた姿」
「ん?どんなだった?」
「そうか・・・。ニンゲンの視力はさほど高くないからな。あれはグムーン村付近にあったゴブリンの巣の洞穴に居た異形のゴブリンロードって呼んでた姿に似ていた・・・」
「何?!本当か?」
「ああ。間違いない。少し違う感じだったが、右上半身にエルフの体がくっ付けられていた」
「大丈夫?終わったの?」
モウハンとディルが会話しているところに小屋からエニーが出てきて会話に加わる。
「ああ、終わった。だが、一匹取り逃したんだがこいつが見たその姿ってのが、あの異形の姿をしたゴブリンロードだったって言うんだ!」
「なんですって?!」
「一体何が起こっているんだ・・・このゼネレスに・・・」
「ま、まさか・・・。ねぇディル。この森ってエルフじゃなきゃ抜けられないのよね?」
「ま、まぁそうだけど。お、教えないぞ?!教えたら終身刑だからな!」
「聞かないわよ!いやね、もしエルフしか入れないのならなぜゴブリンたちが入り込んでいるかってこと。あのゴブリンの巣で見た地図みたいなのに、この森の中や森の北側にも ”X“ の印があったのよ。でもゴブリンごときがこの森を抜けられるとは思えないのよね」
「当たり前だ!あんな下等な魔物如きが抜けられるジーグリーテじゃない!」
「まぁそう熱くならないで。それでね、あの異形の姿・・・」
「!!」
「!!」
モウハンとディルの2人は同時に同じ発想に至った。
「もしかして・・・あの体半分エルフになっている理由は・・・」
「そう、この森を抜けるためにエルフの力を得ようと、体に取り込んだってこと・・・」
「な・・・なんてこと・・・だ!!」
頭を抱え吐いてしまうディル。
この森が抜けられるという事実にも驚愕しているが、何より同胞が切り裂かれゴブリンと一体化されているというグロテスク且つ倫理的に受け止めきれない事実を理解して体が拒否反応をしめしたのだろう。
「でも一体そんな芸当、ゴブリンにできるのか?」
「モウハン!そこなのよ!こんなことをして得をするのは誰?」
「ヘクトル!」
「ちょ、そうなんだけどもう少し論理的に!レグリア王国もゲキ王国も、そしてジオウガ王国もゼネレスを攻撃しようとはしていない。なぜなら、今回共闘を申し出ようとしているくらいだから。ガザド公国もおそらく私たちと同じ立場よね。ガルディオラはよくわからないけど、エルフと揉めたことは一度もないし、国土を広げたいなら隣国のジオウガかガザドに仕掛ける。ゼネレスの東にあるハーポネスには侵略の目的があれば動機になり得るけど、過去ハーポネスとゼネレスが戦争をしたことはない。お互い鎖国的に干渉を嫌っているから」
「そうすると、ゾルグとゼーガン帝国か」
「そうね。ゼーガンはゾルグと繋がりがあるからこの2国は共闘していると見た時に、その指示を出しているのは誰かとなれば」
「やっぱりヘクトル!」
「なんだけど、彼にゼネレスを攻める動機があるのか・・・」
「動機?そんなもの簡単だろう?ゼネレスを支配下におければ、ハーポネスに睨みを聞かせられるから、ゾルグとして東側への脅威はなくなる。そうなれば、心置きなくレグリア、ゲキを滅ぼせる。そうなると今度は背後にゾルグが控えるゼーガンがガザドを滅ぼす。残ったジオウガとガルディオラはゾルグ・ゼーガン連合とゼネレスによって挟まれて滅亡。最後に残ったハーポネスなど簡単に滅ぼせる」
「エルフはそんなニンゲンどもの争いに加担はしない!バカにするな!なぜそのヘクトルとか言うやつの言いなりになるって決めつけるんだ?!」
「簡単だよ。このゼネレスの永久統治権をエルフに渡すとか言えばいいだろう?おまけに自分たちを恨んでいるジオウガを滅ぼしてやるとか言えばエルフにとってはメリットしかないじゃないか。それで最終的にはゼネレスも手中に収める・・・って感じか」
「くっ・・・」
「だったらなぜあんな酷いエルフを切り刻んでゴブリンに縫い付けるような残酷なことをする必要があるんだ?」
「さぁな。大方ジオウガがどうしても抜けられないこの森を抜ける手段を得るためにやったことだと言って共闘のきっかけにでもするつもりか、もしくは言うことを聞かない場合にこの森の秘密をバラすとかいうつもりなんじゃないか?正面きって一緒にジオウガや他の国を滅ぼそうって言いに行こうにもエルフのお偉いさんたちは人間ごときには会ってもくれないんだろう?」
「ま、まぁまだ仮説の域は出ないわね。とすればあの異形ゴブリンロードを生捕にして聞き出す他はないわ。そのためにも早く妊婦のニンゲンを安全なところへ送り届けて、グムーン村同様にネザレンでも討伐隊を組織して動くことね」
妙に説得力ある2人の仮説に反論できないディルは拭えない不安を抱えることになった。
村の野菜や家畜を盗んでいただけのゴブリンの集団はグムーン村だけの問題ではなく、もしかすると国を揺るがす大事のきっかけになるかもしれないと思った時、自分には抱えきれない問題だと尻込みしてしまった。
・・・・・
・・・
そこからは警戒のためディルが馬を御しながら、横でいつでもゴブリンに対処できるようにモウハンが座って待機し、馬車の後方からはエニーが様子を伺うという形で警戒しながら進んだ。
半日が過ぎた頃、ディルが再度森を抜ける儀式のようなものを行なった。
その後、先ほどと同様に設置されている休憩小屋でその日は夜を明かすこととした。
夜の移動は危険が大きいことと、妊婦にとって振動が続く移動が長く続くのはあまり良くないという判断からだった。
警戒しながら食事を取り、就寝後も交代で見張りを行なった。
幸運にもゴブリンが襲ってくることはなく、不気味なほど静かな夜が開けた。
そこから半日、再度エルフの儀式によって開かれた道を辿っていき、いよいよ迷いの森を抜けるところまで来た。
「もう少しでジーグリーテを抜けるぞ」
「一旦止めろ。開けた場所ほど危険だからな。俺がちょっくら見てくる!」
「ああ」
そういうとモウハンは凄まじい速さで周囲を警戒しながら前方へ進んでいった。
森を抜けると草原が広がっていて、遠くに霞んだ蜃気楼のように見える大きな町が見えた。
あたりを見回したがゴブリンが出てくる気配は感じられなかった。
「しかし、このネザレン。でかいけどぐるっと森に囲まれているんだな。森はエルフしか通れない前提だから森がこの街を守っているってことなんだろうが、この森が抜けられてしまうとなったら、逆に身を隠しやすいこの森こそが脅威になっちまうな」
モウハンはそう言った後、周囲に警戒しながら馬車へ戻った。
そして馬車は森を抜け出た。
「美しい景色・・・。エルフの国も素敵ね」
「首都クリアテは山と森に囲まれていてもっと美しいぜ。そしてさらにその奥にある神聖域ヴァジレスは例えようのない美しさらしい。俺は入れないからみたことないけどな」
「ジオウガにも美しい景色があるわ。そしてニンゲンの国にもきっとあるはず。それぞれが認め合ってお互いのいいところを示し会えたら素敵でしょうね・・・」
「・・・」
独り言のようなエニーの言葉に返す言葉が見つからなかったディルは黙っていた。
そうこうしているうちに馬車はネザレンの入り口に到着した。




