<ゲブラー編> 39.囚われのドラゴン
39.囚われのドラゴン
「よし先に進もう」
スノウの合図に立ち止まっている影があった。
シルベルトだ。
「カムス。ここは一旦フォックスへ戻ることを進言します」
「どうしてだい?」
「一度戻って報告し報酬を得るのはもちろんですが、この先先ほどと同じようなキメラが複数出てくるかもしれません」
このシルベルトの言葉に一瞬沈黙が走った。
(こいつ・・・この先に複数体のキメラがいると知っていて言っているのか?それともこの先に進ませたくないから言っているのか?)
「いえ、私はこのまま進むべきと思います」
ソニアが割って入ってきた。
「どうしてでしょうソニア?」
シルベルトが一瞬威圧的なオーラを放ち返答した。
「先ほどの失態を挽回するチャンスだからよ」
「?」
「分からない?どういう訳か分からないけど、なぜキメラと一体化しているか聞き出せなかったのに対してまたあのようなキメラが現れたら今度こそその理由や経緯など知っている事を聞き出す事ができるでしょう?それにもし複数体いるならそもそもクエスト完了にはならないでしょう?」
正論だった。
だがソニアの発言直後、一瞬指すようなオーラが充満する。
下を向いているシルベルトがゆっくりと顔を上げる。
そしてとびきりの笑顔を浮かべながら言う。
「失礼しましたぁ。その通りですね。私はまだまだだ。あなたたちと旅をすると私の実力が至らない事を痛感しますし、さらに学ばなければと向上心が芽生えますね」
その笑顔は不気味でスノウたちはゾッとした。
・・・・・
・・・
しばらく進むとこの先は一本道だと言う事がわかった。
シルベルトが持参している地図にもこの先が一本道であることが示されていたのだ。
スノウはロゴス系魔法エクステンドライフソナーを継続して発動していた。
半径100メートルの生命を探知できる魔法に引っかかったのは1体の魔物と思われる反応だった。
スノウはシルベルトに悟られないようにソニアへ目で合図を送った。
ソニアはほんの少しだけ頷いて戦闘に備えた。
「グルルルゥゥゥ・・・」
先ほどのキメラと同様の唸り声が聞こえた。
「キメラか?!」
アンは身構えた。
「そのようですね」
シルベルトが後方に下がって杖を構えた。
スノウは先ほどと同様の人面が融合していたキメラかどうかを確かめるべく先頭をきって慎重に足を進めた。
サイトオブダークネスで視界が開けているため、徐々にその姿が見え始めた。
スノウとソニア以外は炎魔法の松明のあかりを頼っているため、まだその姿は見えない。
(な・・なんだ?あれは?!)
スノウとソニアの目に映ったのは先ほどのキメラとは別物で、グリズリーのような大型の魔物の胸部と腹部に無数の別の魔物の頭部が埋め込まれており、背中にはコウモリのような翼、尾はサソリのような毒の針と思われる甲殻類のそれがついていた。
(なんという・・悍ましさ・・・)
(こいつを改造したやつはとんだサイコ野郎かマッドサイエンティストだな・・・)
恐らく先ほどのキメラ同様に治癒能力を備えているのだろうが、違う点は魔力の高い人間ではなく、魔物から吸い上げていると思われる点だった。
徐々に距離が縮まりアン、シルベルトにもその姿が確認できるようになった。
「なんだ?あの魔物は」
「みなさん、気をつけてください!あれもまたキメラでしょう!」
「そのようだ。行くぞアン」
「了解した」
エスカは、きちんとカムスを演じているスノウに満足したようでほんの少し笑みを浮かべてスノウと共に突進する。
シャバババ!!
エスカとスノウの攻撃は全て避けられてしまう。
「何?!」
「早い」
素早い動きをするキメラが動く度になぜか胸部と腹部に埋め込まれた数体の魔物の表情が苦痛に歪んでいる。
「あがががぁ!」
「ギヤァァァ!!」
「ガァラララ!!」
攻撃を受けたわけではないのにそれぞれが苦痛の表情と共にうめき声をあげている。
「なるほど、そういうことか・・アン!このまま攻撃を続けるぞ!」
シャバババ!!!
ズガガガン!!
かろうじてエスカとスノウの攻撃を避けるキメラだが、次第に動きが鈍ってきている。
「なるほど。理解した」
さらに攻撃を加えるふたり。
「カムス!!来ます!」
突如ソニアが叫んだ。
と同時にキメラの胸腹部にある無数の顔から炎魔法が繰り出される。
ギリギリでそれをかわすスノウとエスカ。
その炎魔法はソニアとシルベルトの方に飛んできた。
ソニアは手で円を描くようにして炎の壁を作った。
炎魔法はその壁に当たってかき消えた。
ソニアの炎音魔法の威力の方が圧倒的に強く高いため、炎の威力を支配したのだ。
「魔法も使うのか」
スノウは冷静に対処しながらさらに攻撃を加える。
エスカも攻撃を加える。
「桜吹雪」
エスカの激しい舞いによってキメラの胸腹部に埋め込まれた魔物の顔が斬られていく。
そのうちの一つが最後の力を振り絞り炎魔法を吐く。
エスカは軽々と避ける。
その炎魔法はそのまま再度ソニアとシルベルトの方へ飛んでいく。
シルベルトは魔法を唱えた。
「群がるサラマンダー」
炎のトカゲが無数に現れ一直線に炎魔法の方へ向かって飛んで行き、魔物の炎魔法を貪り食い始めた。
さらにもう一つの魔物の顔が今度は雷魔法を吐いた。
「何?!」
エスカは驚きの表情を見せる。
なぜなら、この世界に雷の魔法は存在しないからだ。
エスカは一瞬動作が遅れてしまうがかろうじて避けた。
そしてその雷魔法は一直線にソニアとシルベルトの方へ飛んでいく。
「何?!」
シルベルトもまた驚きの表情を見せた。
ジャバババ!!!
凄まじいスピードでスノウが回り込み流動で雷魔法を周囲へ散らした。
「助かりましたカムス様!」
ソニアは至って冷静だった。
そしてエスカが止めの攻撃を加える。
「五芒星」
凄まじい剣の突きのラッシュにも関わらずその剣先は同じところを正確に捉え激しい傷を負わせている。
その連続突きによって刻まれた傷は星形になっており貫通していた。
そしてそこから大量の血が噴き出る。
キメラはその場に倒れて絶命した。
エスカは剣を振り血を吹き飛ばした後鞘に収めた。
「いったいあの見慣れぬ魔法はなんだったのだろうか」
何が起こったのか分からないといった表情のエスカだった。
「ありえない・・・そんなはずは・・・」
一方のシルベルトは小声で何かを呟きながら同様に困惑した表情を浮かべていた。
「なんだかよく分からない攻撃もあったが、キメラは改造された魔物。そういうのもあるのだろう。この先まだキメラが現れる可能性があるが、炎以外の魔法攻撃があることを想定して対処できるようにしよう」
スノウはそう言ってさらに奥に進むように促した。
シルベルトは困惑した表情のまま後について行った。
・・・・・
・・・
真っ直ぐな通路をさらに奥へ進むこと5分。
スノウのエクステンドライフソナーはもう一体の生命反応を捉えていた。
(なんだ・・・?!まるで動いていない生命反応だ・・・。それとこの臭い・・・いや臭いというよりまるで瘴気だ・・・)
スノウはソニアに目で合図をした。
ソニアも同様に何かよからぬものを感じていたらしく険しい表情を浮かべている。
エスカも同様に何か異様な空気を感じ取っているようで布で口元を押さえている。
「気をつけよう。この先に何かいる。この息苦しい空気は普通じゃない」
ゆっくりと進む一行。
しばらくするとソニアが膝をついてしまう。
「どうしたソニア」
「申し訳ありません。この異様な空気感なのか、全身が痺れ始めて足に力が入らなくなってしまいました。情けない限りです」
「気にするな。私が負ぶってやろう」
「そ・・・そんな・・・」
そういうとスノウはソニアを背負って進んだ。
ソニアは痺れて呼吸が苦しくなっているにも関わらず、スノウに負ぶさっている幸福感でいっぱいだった。
そういう自分にも体の痺れがで始めていることに気づくスノウ。
(これは・・・毒か?!)
スノウは直様、ウルソー系魔法ジノ・デトフィキシケーションを自分とソニアに唱えた。
すると一気に痺れが消えた。
そしてロゴス系魔法パーセルペインを発動し自分とソニアの周囲の瘴気を遮った。
スノウはソニアに小声で体が痺れて動かないふりをするように伝え、ソニアを背負ったまま足を進めた。
不思議とエスカは何もないようだ。
布で口元を押さえているからだろうか。
しばらく進むとその毒を発している正体らしきものが見えてきた。
「な・・なんだあれは?!」
スノウは思わず声に出してしまうほど驚きを隠せなかった。
それほどの光景が前方に広がっていた。
そこは少し開けた場所で半径50メートルほどの円錐状の部屋のような場所だった。
右の方向には階段があった。
どうやらここはあの緑色の毒素に塗れた城跡の真下に当たる場所で、階段は恐らく城があった当時、繋がっていたであろうものと思われた。
だが、その階段に驚いたのではない。
前方中央にあるそれにスノウだけでなく、エスカもソニアを驚きの表情を浮かべていた。
そこには床に両手足と首に杭を打たれて動けずにいた全長20メートルはあろうグリーンドラゴンがいたのだ。
「グォォォォォォォォォォ・・・・」
杭が打たれている場所からは緑色のドラゴンの血が流れ出ており、それがこの周囲の空気を毒の瘴気と化していたのだ。
そしてその毒の血液は浄水に混じって流れ出ていた。
まさにこれがこのレグリア王国の王城を生き物が住めない場所にし、レグリア王国内に作物が育たなくしている元凶だった。
その様を見て、最初は驚いていたスノウたちだったが、あまりの酷い有様に険しい表情に変わった。
「誰だ・・・。まだこの儂を苦しめようというのか・・・」
(しゃべった・・・。ま、まぁそうだよな。それなりの竜だってことか・・・。セリアだって喋っているし、ホドでワサンたちが出会ったヴァルンという赤竜も喋っていたというし・・しかしこれは一体誰が・・・?!)
「ん・・貴様ら・・・儂をこのような目にあわせた輩とは別のものか・・?!」
スノウたちは状況を飲み込めずに言葉を失っていた。
「儂を殺しに・・・きたか・・・。大方儂の毒の血がこのレグリアの大地を汚したとでもいうのだろう・・・いいだろう・・・貴様ら人間を呪って死んでやろうではないか・・・儂をこのような目に合わせた輩も人間・・・。呪ってやろう・・・死してこの・・・儂の偉大さを・・・指し示してやろう・・・ぞ・・・」
「ま・・待ってくれ。私たちはあなたを殺しに来たのではない」
とりあえずスノウは “呪ってやる” という言葉に反応し、思いとどまらせるような言葉を発した。
雪斗時代、若い頃に遊んだRPGで登場したドラゴンゾンビといったアンデッドと化して襲いかかる凶暴な魔物になっては困ると思ったのと、そもそも呪いを自分たちが受ける羽目になるのは筋違いだと思ったからだった。
「なんだ・・・殺しに来たのではないなら一体何用だ・・・」
「た・・確かにこの地で作物は育たなくなっている。王宮からもその原因を探るように言われている。そしてその原因が今この状況にあることも何となくわかった。かと言ってこの状況であなたを殺すような気持ちにもなれない」
「フファファファ・・・ふざけるな人間風情が・・・。儂に情けをかける気か・・・。命乞いなどせんぞ・・・さっさと殺すがいい・・・。5年の月日は儂らドラゴンにとっては数秒の出来事・・・だがな・・・この恨みは・・・忘れんぞ・・・」
「だから待ってくれ!」
そう言うとスノウは一か八かで首に刺さっていた杭を引き抜いた。
「グアォォォォォ!!!!!」
あまりの激痛からグリーンドラゴンは叫び声を上げた。
緑色の血が吹き出しあたりに毒を撒き散らしている。
スノウは素早く首の背後に回ってエスカたちに見えないようにして治癒魔法をかけた。
「な・・・何をするか・・・」
スノウはあえて完治はさせずに痛みを和らげる程度で回復をとどめた。
エスカやシルベルトに怪しまれないようにするためだった。
「これでわかったろう。私たちに敵意はない。だからどうか頼む。落ち着いてくれ。人間を呪うなどと自暴自棄になってくれるな!」
スノウがそう叫ぶと、グリーンドラゴンは顔をスノウの目の前に近づけた。
「・・・そなた・・・何者だ・・・。世界竜と日の鳥の加護を持っているとは・・・そして・・・その妙な仮面の中に見えるその顔・・・その魂の器は・・・。いいだろう・・・そなたは儂にこのようなことをした人間とは違うと・・・理解した・・・ふうう・・・」
グリーンドラゴンの鼻からため息のような爆風が放たれた。
スノウはその爆風を受けたが瞬き一つせずにその場に立っていた。
「理解ありがとう。それであなたはなぜこのような目に?」
「わからぬ・・・。元々は大地にある毒素を吸い込んで浄化するのが・・・儂の役割だった・・・。だが・・・突然現れた2人の人間が我を・・・捕まえ・・・このような姿に・・・。儂の血は毒素を持っている・・・だからこの地は・・・突然作物が育たなくなったであろう?・・・だがな・・・これは儂の本意ではない」
「なるほど、話はわかった」
「おお・・・良識ある人間のようだな・・・。すまないが・・・残りの杭をぬいてくれないか・・・?・・・見ればかなりの強者の・・・ようだ・・・そなたら3人なら杭を抜くのは容易かろう・・・」
「それは構わないが・・・抜いても暴れるようなことはないだろうな・・・?」
スノウは慎重にならざるを得なかった。
このグリーンドラゴンは凶暴なためここに幽閉されている可能性も捨てきれなかったからだ。
「ちょっと待ってくれ!」
スノウは突然振り向いた。
「どうしたカムス殿?」
「カムス様?」
エスカとソニアはあわてているスノウを見て驚いた。
だが、すぐにその理由に気づいた。
このグリーンドラゴンが自分たちを見て3人と言ったからだ。
つまり、シルベルトがいないということに気づいたからだった。
「どこへ行ったあいつは?!」
「まさか毒の瘴気にやられた?!」
「毒の瘴気にやられるほどの男じゃないだろう・・・」
スノウたち3人は小声で会話した。
「杭はおれが抜く。お前たちふたりはシルベルトを警戒してくれ」
「はい」
「了解した」
そう小声で指示するとスノウはドラゴンの方を向いた。
「私が杭を抜こう」
そう言うとスノウは素早く全ての杭を抜いた。
と同時に7割程度魔法で傷を癒した。
「礼を言う・・・儂は危うく闇に囚われ呪われたドラゴンに身を落とすところだった・・・」
グリーンドラゴンは地面に這いつくばっていた状態から解放され、立ち上がる。
体勢を起こしたその姿は悠然としていて、見惚れるほどの美しさと思わず首を垂れてしまうほどの尊厳さが感じられた。
そしてスノウの治癒魔法により血は止まり毒の血液が流れ出ることは無くなった。
スノウは直様エクステンドライフソナーを発動しシルベルトの位置を確認する。
しかし、生命反応は感じられなかった。
クラス3のワールドライフソナーを発動しても良かったが範囲が広すぎるため生命反応を拾いすぎて逆にシルベルトの存在を特定できなくなるためにスノウは探知することを諦めた。
そして、改めて何が起こったのかを問うことにした。




