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<ゲブラー編> 38.キメラ

38.キメラ



「な・・・なんだ?!」


キメラのグロテスクなほどにズタズタになった体がまるで逆再生のようにみるみるうちに治っていったのだ。

ボロボロになった羽は一枚一枚生え始めている。

傷はジッパーが閉まるように塞がっていく。

潰れていたはずの目は生まれ出るように再生された。

そして抉られた脇腹から出たはらわたは体の内部から引っ張られるように腹の中に戻っていき、先ほどと同様にジッパーがしまるように再生されていく。

その間、ライオンの顔の両脇についている人間の顔が苦痛に歪んでいる。

何かを言いたそうにしているが、両目と口が縫われて開かないため、まるで拷問のように見える。


「うぐぇ」


ソニアはあまりのグロさに思わず戻してしまっている。

流石のエスカも口を押さえて後退りしている。


ズザッ!!


ザッバァァァァ!!!


「きえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


スノウは間髪入れずに螺旋の連打をキメラにおみまいする。

再度はらわたが破裂するように飛び出る。

その度にライオンの顔の両脇にある人面が苦痛に歪む。


「むーー!むーーーー!」

「んーー!んーーーー!」


二つの人面は苦痛に顔を歪めながら何かを叫んでいるようだが、瞼と口を縫われている為に言葉を発することができない。

内臓が飛び出ているがしばらくするとその内臓は逆再生のように体に戻っていった。

どれほどのダメージを喰らってもものの数秒で完治してしまうほどの再生能力だった。


「スノウ、これは?!」


「ああ、凄まじい再生能力だ。これは骨が折れそうだ」


ソニアがスノウの側により小声で会話する。


「私たちの攻撃力が高い故あのように派手にダメージがあるようだが、それでも尚瞬時に再生する能力・・・あれは何者かによっていじられているようだ」


「どういうことだ?エス・・アン」


「んんっん!!」


エスカはカムスを演じきれていないスノウに苛立ち咳払いをした。

同様にすぐ役を忘れるソニアにも苛立ちを隠せないようだ。


「自然発生的に生存している生き物の治癒能力はここまで激しいものではない。これは人為的に改造または創作されたものの可能性があるということだ」


「改造?!」


「そうだ」


スノウはエスカの発した改造には素直に驚きを示したが、創作という言葉に想像が追いつかない感覚で違和感を覚えたが、すぐに戦闘に意識を戻した。


「どうすればいい?」


「分からないが、この自然の摂理に反する改造には負担があるはずだ。おそらく相当な魔力を有している生物を改造したか、何らかの魔力を封じたコアのようなものから魔力を供給しているはず」


「なるほど。魔力が尽きるまで攻撃し続けるか、そのコアのようなものを破壊するかのどちらかってことだな」


「そうだ」


「よし、ソニア、シルベルト、援護してくれ。私とアンで直接攻撃を繰り返して魔力を尽きさせる」


「はい!」

「承知しました」


スノウとエスカは構える。

対するキメラは傷のほとんどが回復しており、戦闘体制を整えていた。


「来るぞアン!」

「分かっている」


「がぁぁぁ!!!」


キメラは先ほどとは比べ物にならないほどのスピードで動く。


「何!?」


一瞬で間合いを詰めてスノウの目の前に現れ鋭い爪を振り下ろすと同時に尾のバイソンが強力な毒の牙を剥いて襲いかかってきた。


ズババン!!!


「油断するとは情けないぞ」


エスカが剣でバイソンをぶった斬った。

バイソンの頭部がくるくると回転しながら飛んでいく。


ガッシィィ!


スノウは螺旋で攻撃を受ける。


「何?!」


キメラの攻撃はさらに力を増し、スノウに爪を突き立てようとしている。


「ふん!」


急にキメラの攻撃に力がなくなり、スノウはその攻撃をいなして側方に飛びのいた。

流動でキメラの力を拡散させ、まるでキメラの攻撃の力を吸い取るように弱めてその隙に側方に避けたのだった。

螺旋は真っ向から力で受ける形であり、螺旋の強さが相手の攻撃を上回ればダメージはない。

一方の流動で相手の攻撃を受ける場合は相手の攻撃を自分の体全体に拡散させて地面に流していくことになる。

相手の攻撃の力はまるでスノウの体を流れて地面に拡散していく電流のように散っていくことで攻撃力そのものを奪う効果があるが、攻撃を体に流すということはダメージを体に拡散させながら受けるということである為、スノウはそれなりのダメージを負ってしまう。


「ぐは!」


だが、すぐさまウルソー系魔法レストレーションによって傷を回復した。

シルベルトに気づかれないように多少ダメージを残した形にした。


(おれも器用になったもんだな!)


スノウはすかさず蹴りを繰り出してキメラに螺旋を叩き込む。

キメラはそれを前足でガードするが強力な蹴りの威力で側方に飛ばされる。


「アン!」

「わかっている」


それをエスカが待ち構えているかのように攻撃を繰り出す。


「籠目」


ズババババン!!!!


日本舞踊のような美しい舞いが繰り出される。

しかしキメラには何もダメージが見受けられない。

だが、これはエスカの斬り込むスピードのあまりに速さによって傷から血が噴き出るのが数秒遅れているだけだった。

キメラは一瞬自分が斬られていることに気づかなかったが、数秒遅れて違ふ出した瞬間に悲鳴を上げた」


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


無数の切り傷はキメラの体だけではなく、ライオンの顔の両側にそれぞれついている左側の人面の片目と口の縫い糸を切ったようで、人面が片目を見開いてエスカを凝視していた。


「!」


あまりの表情にエスカは一瞬恐怖を覚えるがその目が何かを訴えていることに気づいた。


エスカは素早くジャンプしてスノウの横に着地した。


「カムス殿。異常な再生能力のカラクリがわかった」


「どういうことだ」


「聞いてみるがいい。本体に」


「え?」


スノウはエスカの指差す方向に目を向けた。


「もあぁぁぁぁ・・・」


見開いた目は充血しており、ほとんど視えていないようだったが、口は開かれて何か言葉を発しようとしている。


「ひ・・・人か・・・?!」


「ご・・・ろ・・」


「何か言おうとしているというのか?」

キメラが再度鋭い爪を突き立ててスノウに襲ってくる。


「は!」


スノウは螺旋を繰り出し力で受けた直後に流動でいなし、再度螺旋を繰り出してキメラを吹き飛ばした。


巨体が吹き飛び空中で一回転したかと思うと、翼を広げて空中に浮遊した。


「ご・・・ろ・・・」


「ぎぇぇぇぁぁぁぁぁ!!!」


キメラのライオンヘッドは喉を大きく膨らませた。


「うべぁぁぁぁあ!!!」


キメラは炎を吐いた。

更には爆発魔法まで発している。


スノウとエスカはそれを避けながら人面が何を言おうとしているのか聞こうとしている。


「動きを封じないと」


「そうだな。まずはあの厄介な羽だ」


「おれが動きを止める。その直後に羽を斬ってくれ」


「了解した」


スノウはキメラに向かって凄まじい跳躍を見せる。


「螺旋連打」


ズガガガガン!!


キメラは両前足で螺旋を弾く。

その直後、スノウの背後からエスカが跳躍し、スノウの肩を踏み台にしてさらに高く飛んだ。

その間、スノウはキメラの猛攻を螺旋では弾いている。

すかさずライオンヘッドが炎をスノウに向けて吐こうとしている。


シュウウウウ!!!


ソニアが援護射撃となる炎魔法を繰り出してライオンヘッドの炎を打ち消した。


「さすがソニアだ」


その間、十分な高さまで跳躍したエスカが凄まじい剣げ捌きで両翼を一瞬でき切り刻んだ。


ズバババババ!!!


「ぎがががぁぁぁぁぁぁ!!!」


ズドーーン!!


キメラは飛行能力を失い体勢を崩して地面に倒れ込んだ。


「ごろじでぐれ・・・」


人面がか細い声で訴えてきた。


「お前は人間か?!」


「ごろじで・・・ぐるじい・・」


「誰がお前をこんな目にあわせた!?」


「ごろじ・・・はぁぁぁ!!!!」


人面は充血した目を見開いて何かに驚いている


ドバァァァン!!!


人面は炎の爆発魔法によって吹き飛び跡形もなく吹き飛んだ。

スノウはその魔法を放った場所に振り向いた。

その先にはシルベルトが魔法を放った姿勢で立っていた。


「シルベルト!なぜ魔法を放った?!」


「カムス、あなたが危険かと思って・・・」


「くっ!エスカ頼む」


「承知した」


エスカはもう一つの人面の目と口を縫い付けている糸を切るべく再度技を繰り出す。


「籠目」


スザザザザザン!!!


美しい舞いによってそよ風がふいた。


シャババババン!!


数秒後に無数の傷が現れ血が噴き出る。

正確に斬られた数々の傷の中で、目と口の糸も斬られていた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


右側の人面は目を見開いて大声で叫んだ。


「もう終わらせてぇぇぇぇぇ!!!」


どうやら元女性のようで甲高い声ではっきりとした口調で叫んだ。


「アガァァァァ!!」


キメラがスノウとエスカに向けて爪を振り下ろす。

同時に回復した尾のバイソンが毒の牙で噛みに来る。


「カムス様!」


ソニアはすかさず炎魔法を繰り出しファイヤーボールをキメラのバイソンに向けて放つ。

凄まじい勢いでファイヤーボールがバイソンを焼き尽くした。

しかし、その火の粉がなぜか激しく燃え上がり、人面をも焼き尽くしてまう。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ソニア!!」


「え?!どうして?!」


ソニアもなぜ自分の放ったファイヤーボールが人面まで飛散し人面を焼き尽くしたのか訳がわからない状況のようで困惑している。

人面を焼いたことよりスノウを失望させてしまったのではないかという状況に動揺しているようだ。

両人面ともに焼け焦げて死んでしまったようだ。

それに合わせて再生能力が途絶えたのか、ズタズタに切り刻まれた羽は元に戻らなかった。


「仕方ない、一気に片付けよう」


「承知した」


その後は一瞬だった。

スノウとエスカによる凄まじい連撃・連斬で再生能力を失ったキメラはあっという間に倒されてしまった。



「あのキメラ・・・一体何だったんだ?」


「分からないが、ゾルグの使節団とやらが訪れた際に何かあったとみていいだろう」


「ゾルグの外交長官御一行か・・・」


(ヘクトリオン5のひとり・・・。一体ゾルグはこの国に何をしたんだ?・・・これは何かの実験なのか?!・・・しかしこのシルベルト・・・間違いなくあのキメラの人面が話そうとしていたのを阻止したな・・・。こいつもこの実験めいたものに関係しているっていうのか?)


「しかし、あの再生能力。2人の人間の魔力を使っていたようだな。だが、ただの人間にあれだけの治癒能力を維持するだけの魔力があったとは思えないが・・・」


「そういえば、ダイヤモンドクラスのマジックキャスターだった夫婦冒険者が数年前から行方知れずになっていました。この界隈ではこの地に稼げるクエストがなくなってきたので、別の地へ移ったのでは?と噂されていましたが、まさかあの夫婦が何者かに捕まってキメラに融合されてしまったのではないでしょうか?彼らには人並み外れた魔力がありましたから。まさかこんな酷いことが・・・」


(しらばっくれているのか・・・?)


スノウはシルベルトの説明は本当なのだろうが、シルベルト自身がその改造とやらに関わっているのではと思っていた。

怪しんでいる表情を勘違いしたのか、話を収めようとしたのかわからないが、シルベルトは謝罪し始める。


「私の力が足りないばかりにこのようなことになってしまい申し訳ない・・・」


「まぁ・・仕方ない。君のせいではないよ」


この場で追及したところで状況証拠すらないため、何も得られるものはないと考えスノウは一旦会話を終えた。

申し訳なさそうな表情を浮かべ、下を剥いているシルベルトの表情がソニアには一瞬笑ったように見えた。


(こ・・・こいつ・・・)


ソニアはスノウに目線を送る。

スノウはその目線の意味を理解した。

理解した上でスノウは一旦その場では納得した表情で収め、先へ進むことにした。

エスカとソニアへ目線を送り、シルベルトの動向から目を離すなと指示を送って。





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