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<ゲブラー編> 35.普通ならざる者

35.普通ならざる存在



「それではこちらの台座にお手をかざしてください」


クエストカウンターの女性はまずエスカに手をかざすように促す。


「いや、私は・・・」


「大丈夫ですよ!あなたのような精神的にも身体能力的にも素晴らしい方が変な天職や固有能力になるはずがあります!安心して手をかざしてください」


「いや、そういうことでは・・・」


「どうした?早くかざしたらいい」


スノウはカムスやアンと言った役を演じていることについては気にするなと目線を送る。

ここに出る内容は本人とフォックスだけの機密情報であり、対外的にアンと名乗ると言えばそれで冒険者登録ができるからだ。

気の進まないエスカの手をクエストカウンターの女性は強引に掴んで台座の上に置いた。

どうするか迷っている様子の中突然掴まれたので成す術なくエスカは手を金の台座の上に置いた。


「お、おい!」


すると台座が光出す。

そこから発せられる光は黒ずんだ紫色だった。


「こ・・・これは・・・?」


受付嬢は台座に浮き出た文字を見て驚く。


「どうした?」


スノウはエスカのステータスに興味津々で食い入るように台座に目を向けた。


「天職は・・・か・・神殺し・・・」


「!!」


「どういうことだ?」


「分かりません・・・。神を殺せるのは神だけ。堕天した魔王も神を殺せると聞きます。も・・もしかするとエスカさんは神様なのかも・・なんちゃって・・」


受付嬢は少しでも動揺していない様を見せようと聞き齧った知識を示すが、言った後それが本当なら恐ろしい人物が目の前にいるのだと理解し、言葉が尻窄みとなった。

エスカ本人も結果に驚いている。

驚いているというより、思った結果と違うといった困惑した表情だった。

スノウはエスカにしては珍しく表情が出ていると思った。


(しかし、只者じゃないとは思っていたが、こいつは本当に神なのか?いや性格的に悪魔も有り得るが、正義感は強いからな・・・。でも何だろう、こいつの思ってたのと違うって感じの困惑ぶりは・・・)


「あ、えっと。固有能力もあります!万物斬断・・」


「ほう、なるほど。天職は “神殺し” で固有能力はこの世に斬れないものはないってことか。すごいな。いよいよ本当に神様殺してしまうのかもな!ははは」


スノウは場の雰囲気を和まそうと冗談混じりにいじってみたものの、笑えない内容に返って場が白けてしまった。


「はぁ・・・えっと、あ!・・・天技もお持ちのようです。えっと、 “残酷に反する慈悲”・・・どういうことでしょうか」


「・・・」


スノウはエスカの微妙な表情の変化を見逃さなかった。

エスカの何かに納得したような表情を。

それはソニアも同様だった。

一方驚いていたと思った受付嬢はなぜか目をキラキラさせている。

どうやら日々退屈な冒険者登録で初めての衝撃的結果に刺激を受けたのか、好奇心を隠せないでいるようだった。

食い入るように台座に目を向けている。


「えっと、レベルはっと・・・185!!すごいです!ダイヤモンド級を大きく超えています!」


(すげぇな、やっぱ。この女侮れん!)


意外な結果にショックを受けたのか、エスカは黙ってしまった。

一般の冒険者なら喜んで帰るところだが、よほどの衝撃だったのだろう。



「それではこちれへ」


次はソニアの番だった。

受付嬢はソニアも常識外れの結果になるに違いないという期待感を隠せずに急かしている。


「さぁこちらの台座に手を乗せてください」


「これでよいですか?」


「はい」


すると、予想通りというべきか、緋と蒼の美しい光の帯が交差しながらあたりを包んだ。


「ええ?!こ・・こんな光初めてです!!通常はひとり一種類の光ですから・・まるであなたの中に2人いるかのような・・・すごい!なんて綺麗な!」


おっしゃる通りです、とスノウは思った。


「それで天職は?」


ソニアは自分のステータスに主人であるスノウが興味を持っていることに嬉しくなったのか、顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。

そんなソニアの表情などお構いなしに受付嬢は台座に浮き出た文字を食い入るように読んでいる。


「えっと、天職・・・ナインスワンダー?・・なんでしょう!これは!」


「さぁ」

「わかりませんね」


スノウもソニアも見当のつかない職業の登場にポカンとしている。


「聞いたことがありません!おそらくは選ばれし9人とかそういうやつですかね!!」


「さぁな」


「まぁよいです。きっとマスタースノウのお役に立つ職業に違いありませんから」


自分の一生を表していると言っても過言ではない天職に得体の知れないワードが飛び出したにも関わらず、ソニアはなぜか喜んでいる。

もはやフィーバー状態となった冒険者登録に好奇心を満たす快感が止まらなくなった受付嬢はさらに文字を読み取る。


「えっと固有能力がでました! “氷炎” って出ていますね!これはきっと最初に放たれた光を象徴しているのではないでしょうか!!」


(でしょうね)


スノウはわかりやすい結果に対してがっついている受付嬢に心の中でツッコミを入れた。


「天技もあります!えっと・・・“フォーシーズンズ” ?なんでしょうか」


「さぁ」

「わかりませんね」


さらに見当もつかない天技の登場にポカンとするスノウとソニア。


「まぁよいです。これもきっとマスタースノウのお役に立つギフトなのでしょう。それに何かオシャレな響きですし。いずれ分かることですから今はそれでよいです」


意外とさっぱりしているというか、前向きというか、炎のように熱くなる性格だと思っていたのにあっさりしていたためスノウは少し驚いた。


「レベルも・・すごい!ソニアさんも167!レベル100越えです!」


どれくらいのレベルがどうすごいのかはわからないが、エスカやソニアックの実力は申し分ないため、彼女らの実力では170〜180くらいのレベルなのだなとスノウは理解した。



「さぁ!それでは最後はあなたの番ですね!」


「ん?ああ、私はいいですよ」


「冒険者登録しないとクエストは受けられませんよ?」


「あ、いや既に登録しているだが、だめかな?」


「だめです!ここでの登録が絶対絶対に必要です!」


もはやこの怪しくも美しい狐の面をかぶった男が大トリで逃さないぞと言わんばかりのプレッシャーをかけてくる受付嬢だった。

スノウはどうなるものかと思いながらも手を台座の上に置いた。

前回は台座が割れて壊れてしまったからだ。

恐る恐る手を台座に置くとそこから七色の光が勢いよく発せられる。


ドン!!ガガガラ・・!


「え?!」


台座は前回とは比べ物にならないほど粉々に砕けてしまった。

まるでステータスを見せない意思が働いているようだった。

見ることができず残念がっていると思いきや一層目をキラキラさせている。


「あははは!すごい!これ、レベル10のマジックアイテムですよ!!第3階級悪魔ですら壊すことのできない高級アイテムですよ!!」


ワクワクを通り越して涙を流して感動している受付嬢。


「えっと、それで私たちは冒険者登録できたのかな?」


「もちろんです!ただし単独で動くわけではないなら自分たちで仲間を象徴するつながりを作るか、既に存在するキュリアなどに所属することをお勧めします。クエストを受ける際、どうしても単独より複数で依頼を受けていただく方が信頼度が増しますからね。どうしますか?」


ソニアがスノウを見て微笑みながら軽く頷いた。


「それではまずはこの3人でトライブを作らせてもらうよ」


「かしこまりました!それでトライブ名は?」


「レヴルストラ」


「えっと・・はい!大丈夫です!この世界ではその名前で登録されているものはありません。それではトライブ・レヴルストラで登録させていただきますね。えっとー」


「私はとりあえずカムスという名で。この者はソニア。そしてあそこに座っている盲目の女性はアンで登録を頼みます」


「承知しました!」


スノウは相変わらず自分が何者かわからないままだったが、元々期待もしていなかったのでショックはなかった。

それに今更自分が何者かわかったところでホドに戻ってアレックスたちと合流するという目的は変わらない。

それよりも大切な仲間たちを失わずに引っ張っていくことの難しさの方が切実な悩みだった。


(天職がリーダーだったららくなんだろうか・・・まぁ考えても仕方ない。それにしてもソニアックに加えてエスカまで普通ならざる存在だな。こんな者たちに囲まれているのは偶然か、必然か・・・)


スノウは自分が最も普通ならざる者である事を忘れてソニアック、エスカの天職や天技に感心していた。


「ありがとう。早速で悪いんだが、クエストを受けさせて貰っていいかな?」


「もちろんです!」


「それではもしあれば何だが王宮絡みのクエスト中心に紹介願いたい」


「王宮絡みですか・・・。基本的にダイヤモンド級以上になりますが、みなさんなら問題ないですね!ちょっと待ってください」


受付嬢は掲示板をざっと確認すると、2枚ほどクエストが書かれた羊皮紙をひょいっと掴み、さらにカウンターの下にあるクエストの書かれた羊皮紙の束から2枚ほど抜き取った。


「えっとー、現在ですと4件ございますね。一つ目は土壌調査・・ですね・・。これは何か変なクエストですね。でも報酬はそこそこ高いです」


<王宮クエスト1005235>

・依頼内容:植物が育ちにくい土壌となってしまった原因を探り、解明してほしい。

・報酬100万ガル


「100万ガル!!なんと!こんな高額報酬みたことない!」


「ほう・・次は?」


「2件目はー」


<王宮クエスト1005197>

・依頼内容:最近スガレノ山の火山活動が活発になっているが、状況を調べてきて欲しい。王宮研究員に同行し、魔物や危険地帯での護衛が任務。

・報酬5000ガル


「なるほど。次は?」



<王宮クエスト1002775>

・依頼内容:地下迷宮で出ると噂されているライオンとも蛇ともわからない奇妙な見た目だが獰猛かつ恐ろしく強い魔物が出現した。いつ地上に現れるかわからない。退治してほしい

・報酬:18000ガル及び可能な限り希望に沿った報酬



<王宮クエスト1005248>

・王城の補修工事で必要となる木材調達及び調達部隊の護衛

・報酬:3000ガル



「といった感じです。王宮クエスト以外で高額報酬は・・・えっと、ひとつ良さそうなのがあります」


<通常クエスト>

・スガレノ山火口付近に巣食う凶鳥を退治してほしい。

 最近火口付近から農場へ飛んできて火を吹いているが、食料が軒並み燃やさ

 れてしまい困っている。

・報酬:1000ガル


「いかがしますか?」


「あの、王宮クエスト3つめの報酬が何やら普通にないものになっていますが、これは?」


「あ、えっとー、これは、この魔物があまりにも凶暴で手に負えずなかなか倒せる冒険者が現れないことから追加されたものなのですが、具体的には何かはわからないのです。クエスト達成時に王宮で直接伺う形になります」


「なるほど、ありがとうございます。いかがいたしましょうかムス様」


「そうだな、1つめと3つめの2クエストを受けたいのだが」


「いかがでしょう?」


ソニアはスノウの秘書のように受付嬢に確認した。


「もちろんですが、3人でよろしいのですか?かなり過酷なクエストになるのではと想像します。特に3つ目のクエストは恐ろしい魔物の退治ですのでもし他に仲間が必要でしたら、臨時で組むことも可能です。そういうフリー冒険者の方々も当フォックスに登録されていますから」


「いいだろう、酒場にでも行って誰か見つかれば連れていくとしよう」


「でしたらこのフォックスに併設されている酒場がいいと思います。あまり多くはありませんが、そこそこのクラスの冒険者やたまに旅をして資金調達のためにクエストを受けようとしているダイヤモンド級冒険者もいたります。他の酒場にはほとんど冒険者は行きませんので隣の酒場をお勧めします」


「なるほど、ありがとう。行ってみるよ」




・・・・・


・・・



―――フォックスに併設されている酒場 バンナミーーー


「へぇ・・・」


そこはいわゆる冒険者出会いの酒場と言われるところで通常の客はほぼいなかった。


(随分とまたむさ苦しいところだな・・・まぁイメージ通りだけど)


基本的に鎧やローブなどいつでも出発できるように武具を装備して食事をしたり酒を飲んでいる。

主に仲間探しとクエストの情報収集のためにこの場にいるようだ。


「私が見繕ってきてよろしいですか?」


「私たち3人で十分だと思うが?」


「それはもちろんです。目的は、この国にうまく溶け込むことと情報収集に決まっているでしょう?いきなり新参者が王宮クエストを次々にクリアしたら、怪しまれるに決まっていますし、クエストだけこなしていてもヘクトルに関する情報などが得られない可能性が高いから、できるだけ情報通の者を仲間にひきこむという話です。もちろん本当の意味での仲間ではないですが」


「ちっ」


ソニアは勝ち誇ったように話した後、スノウの意図を汲み取った自分を褒めて欲しいとばかりにスノウに目線を向けた。

スノウは不機嫌なエスカに気をつかう必要があると思いながらも軽く頷いて「よくやった」という表情を送った。

ソニアは満面の笑みになり、そのまま酒場のカウンターの方へ向かった。


「ここに3人は必要ないだろう。私は少し周りで情報収集してくる。よいですか?カムス殿」


「ん?え、あぁ、かまわない」


自分がカムスであることを忘れてしまいがちなスノウだった。


(おれに俳優は無理だな・・・ははは・・・)


エスカはイライラを鎮めるために外に出たのだと思ったため、スノウはエスカの情報収集という名の自由行動を許した。



「へぇ、ねぇちゃん美人だな。いっぱいエールを奢らせてくれ」


カウンター越しで何の飲み物を注文しようか迷っているソニアの横に来たのは2メートル以上もあろうかという巨体のいかにも強そうな戦士系の冒険者だった。

胸にはダイヤモンドを示すプレートが付けられている。

いかにも俺は強いぞというアピールなのか、やたらとダイヤモンド級プレートを全面にチラつかせてくる。

ソニアは面倒くさそうに一回ため息をついた後、返答した。


「あら、ありがとう。それじゃぁジグロテエールをお願いできるかしら」


「お安い御用だ」


そう言うと、自分の飲み物に加えてソニアへ奢る酒を注文する男。

マスターに出された酒をソニアに渡す。


「それじゃぁご馳走になるわね、ありがとう」


「いいてことよ。それじゃぁ乾杯だな」


2人は少しグラスを上にあげる動作で乾杯した。

男のグラスというより巨大なジョッキは1リットルはあろうかというもので最初の一口で一気に半分まで減ってしまった。

一方のソニアは軽く口を付けた程度だった。


「あら、貴方ダイヤモンド級なの?すごいわね」


男はやっと来たかという顔をして答える。


「いやぁ大したことたぁねえよ。色々クエストこなしてたらいつの間にかってやつだ」


「強いのね」


「まぁ、それほどでもあるがな。ところであんた名前は?」


「聞く方から名乗るものではなくて?」


「おっとすまねぇな。俺はダンガー。ソロで冒険者やってる。まぁクエスト受ける時に気の合うやつと組んで小金稼いでる程度だ。それでお嬢さん、名前は?」


「ソニア。私の名主に仕えています。この度ちょっとしたクエストを受けるのでそれを手伝っていただける方を探しているの」


「おおそうか!お嬢さん見た目は美人だが相当な手練れだな。あんた程の名主となればかなりの腕前か、もしくはあんたの強さに守られている腑抜けか。まぁいずれにしても俺を雇って損はないぜ?」


「そうね。考えておくわね。今日はただ単にこの国にはどんな冒険者がいるのか見に来ただけだから」


「なるほどな。まぁ俺以外にも何人か強ぇやつはいるがな」


「たとえば?」


「そうだなぁー。俺以外で言えば、3人くらいか。1人目は、あの奥に座って飲んでるシルベルトってやつだ。俺ぁよく知らないんだが、炎魔法が得意だって聞いたことがあるぜ。かなり強いらしい。なんつったか、ハーフエルフだとか。物腰優しいがなんつーか、俺とは合わねぇタイプだな」


「へぇ。他のふたりは?」


「2人目はジーカっていう女剣士だ。相当強いぜ。俺は1度だけあいつのトライブに加えてもらったことがあるんだが、見事にグリフォンを一撃で仕留めていたな。今はクエストこなしている最中だろう、ここにはいねぇようだ。まぁ俺はもっと強ぇがな!そんで3人目だが、あの奥で1人で酒飲んでるザンコルドってやつだ。あいつは無口でな。俺もほとんど喋ったことがねぇんだが、冷酷なやつらしい。棍棒を使うって聞いたな」


「ありがとう」


「お安い御用だ。そんじゃぁ俺からも質問だ。情報交換のギブアンドテイクってやつだな。あの狐の面被ったやつがお嬢さんの名主ってやつだろ?あの異常な気は只もんじゃねぇ。だがどこか懐かしいんだよな。まさか元グラディファイサーじゃないよな?」


「いえ、違うわね。かのマスターは、名は明かせないけど、北部にある国の貴族の出の方・・・。グラディファイスに出たことはないし、今後も出ることはないわ。これ以上の詮索は無用よ。あなたの命が危険だから」


「おっとそりゃ怖えぇな、がはは!まぁ待ってるぜ!俺を仲間にして損はねぇからな!じゃぁそろそろ行くわ。これでも忙しい身でな、がっはは!」


そう言うと、ダンガーは一気にエールを流し込んで酒場から出て行った。

ソニアは一旦スノウのテーブルに戻り今の会話をヒソヒソ声で報告した。


「なるほど。ジーカってのはいないんだな。じゃぁここにいる2人と話をして後でさっきのお男含めた3人の中から1人選ぼうか」


「はい、承知しました」


そう言うとソニアはザンコルドの方へエールを持って歩いていく。


「ここ空いているかしら?」


「・・・」


ザンコルドは無言で微妙な頷きで答えた。


「ありがとう」


そう言いながら向いの椅子に座るソニア。


「何の用だ?」


「ここは冒険者の酒場でしょう?だったら二つ。仲間探しか情報収集ね」


「帰れ。俺は誰とも組まない。与えられる情報もない」


「あら、随分な返事ね。いつもひとりでクエストこなしてるの?」


「・・・」


「その棍棒・・・」


ソニアは横に立てかけてある棍棒に目を向けた。

古めかしいものであったが目利きある者ならそれが如何に素晴らしいものかはすぐにわかる。

ザンコルドは棍棒を自分の方へ引き寄せてソニアとの距離に壁を作り黙々と食事を再開した。


「高額の王宮クエストを受けたのだけど、少し人手が足りなくて。もしあなたさえ良かったらそのクエスト達成までの間だけメンバーに加わってもらえないかと思ったのだけど、どうやら無理そうね」


「・・・」


「私はソニア。数日この辺りを彷徨いている予定だからもし気が変わったら声かけて。じゃぁお邪魔したわね」


ソニアは席を立ちシルベルトの方へ歩いていく。


「ちょっといいかいお嬢さん」


「はい」


「さっきの会話小耳に挟んじまったんだけど、高額の王宮クエスト受けたんだって?」


「そうだけど」


「じゃぁ俺を加えなよ!役に立つぜ?」


「・・・」


「おーい!なんか疑ってんな?聞いて驚くなよ?俺ぁこの界隈じゃちょっとなの通ったエメラルド級冒険者グランディス・マードックとは俺様のことだ!」


まるで歌舞伎役者のようなポーズで厨二病さながらな自己紹介をする男が突然ソニアの前に現れた。

ソニアはそれをまるで空気のように無視している。

遠くでその様子を見ているスノウはウカの面の中で笑っていた。


「・・・」


「あれれぇ?もしかして耳が聞こえないのかなぁ?」


「おい、ポチ!まさかお前今日も飲み代踏み倒すんじゃないだろうな!」


マスターが怒り口調でソニアの目の前の青年に怒鳴った。


「ぷっ!」


青年の見た目は髪の毛の両サイドが逆立っていてまるで犬の耳のようになっており、その容姿に対して犬の名前でよく聞くポチと呼ばれたことで思わずソニアは吹き出してしまった。


「おい!マスター!何度言ったら分かんだよ!俺様の名前はポチじゃねぇ!ポッチだ!」


「ぷっ!」


「ま!間違えた!グ、グランディス・マードックだ!」


「そんなこたぁいいから今日こそは金払え!」


大勢の前で辱められたため、居づらくなったのか青年はそそくさと金を払って出て行ってしまった。


「一体なんだったの?」


(変なのが多いのねこの国・・・)

(たまたまに決まってるでしょ!てかねぇさんそろそろ変わってくれないかな!)


ソニアは頭の中の部屋でしきりに話しかけてくるソニックを無視してシルベルトという男の方へ歩いていく。


「ちょっといいかしら。ここ空いている?」


「空いていますよ。どうぞお座りください」


「ありがとう」


ソニアはシルベルトの前に座った。

シルベルトと呼ばれる男の見た目は細く色白で綺麗な顔立ちをしているいわゆる草食系イケメンのような感じで、喋り口調も穏やかかつ低くもなく高くもない心地よいものだった。


「どうしましたか?何か困りごとでも?」


「ええ。実は王宮クエストを受けているのだけど、現在うちのトライブには3人しか居なくて少し心細くて」


「仲間をお探しということですね?」


「ええそうなの」


「そしてもしかすると私をスカウトしにこの席に座られたのですか?」


「そうね。でも危険なクエストもあるから」


「私が信用にたる者かを確認してから・・ということですね」


「ええ」


「聞いていませんか?私の通り名を」


「いえ、聞いていないわ」


「私死神って言われているんです」


「どうして?」


「これまで私と行動を共にした冒険者のみなさん、皆亡くなってしまっているからです」


「全員?」


「全員ではありませんね。中には生き残った方もいます。ですがほとんどが強力な魔物によって殺されてしまった。私の責任です。こんな疫病神のような私です。誘わない方があなた方のためですよ」


「それはそれだけ難易度の高いクエストに挑んだ結果ではないのかしら?」


「まぁ、そうかもしれません。ですが事実は事実。そういうことです」


「でもあなた、かなり強いって聞いたわよ」


「炎魔法を少々。遠隔攻撃には優れているかも知れませんね。ですが前衛で戦ってくれる仲間がいてこその私の攻撃です。前衛の方々が息絶える前に私の魔法で魔物を倒せなければ私の強さなど無意味に等しい」


「わかったわ。他にも声をかけているけど、どうしてもあなたに同行してほしいとなったらお願いするかも知れないけどいいかしら?」


「お勧めはしませんが。因みにどのようなクエストを受けられたのですか?」


「王宮クエストをふたつね。そこそこの額の報酬があるから損はしないと思うわ」


「そうですか。わかりました。声をかけてくださってありがとう。ほんの少しの会話ですが、楽しかったですよ。いつも1人の食事だ。慣れているつもりでも誰かと話しながらの食事というのはいいなと改めて思い出しましたよ」


「そうね。それじゃぁ」


「ごきげんよう」


ソニアはスノウのテーブルに戻った。

そして会計を済ませ、宿に戻ることにした。






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