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<ゲブラー編> 28.ジグヴァンテの本当の姿

28.ジグヴァンテの本当の姿



「なんでしょうか・・・あれは・・・」


ソニアの表情が固まった後、怒りの表情に変わった。

握っている拳からはあまりの強さで爪が食い込み血が滴り始めている。


「ああ」


静かに答えたスノウの拳もまた思い切り握られており、ソニア同様に食い込んだ爪のせいで血が滴っている。

更には溢れる魔力で拳から静電気のようのなものが発せられバチバチと音を立てている。

エスカも声にこそ出さないが同様だった。

条件反射的に細身の剣が収まっている盲目者用の杖から剣を抜きかけたが、スノウに抑えられた。


(なぜ止める?!)


その無言の問いにスノウは小さく首を横に振って応えた。


目の前の繰り広げられた光景は異常そのものだった。


煌びやかに鎧や衣装を着飾った貴族らしき人物が出鱈目に剣を振り回している。

問題はその相手だった。

目が潰れている状態の背の高い筋肉質の青年が木剣を持たされて、いいようにその貴族に切られていたのだ。

その青年の頭には小さな角が生えていた。


「オーガだ。あの下衆の餌食になっている青年は」


「それ以上喋るな。誰が聞いているかわからない」


恐らく奴隷商が捉えたオーガの青年で捕らえられた際に抵抗したことで攻撃され目を潰されたのだろう。

奴隷としての商品価値がなくなってしまったことによってこの闘技場で貴族のおもちゃにされたと思われた。

要はこの小規模のアムラセウムは首都ジグヴァンテの内壁の中でいかなる危険からも守られ貧しい人たちから搾取し続けている貴族連中が、娯楽として弱いものをいたぶって楽しむ場だったのだ。


(グラディファイサーにでもなったつもりかよ・・・)


目を潰された目の見えないオーガの青年は木剣を振り回しているがなかなか貴族には当たらない。

しかも木剣には錘が仕込まれているようでオーガほどの筋力があれば凄まじい勢いで振り回せるはずの木剣がいかにも人間の子供が木剣に振り回されているかのような動きになるような細工がなされていた。


「きぇぇぇぇ!!!」


着飾った貴族のグラディファイサー気取りは、叫び声をあげ剣を大袈裟に構えた。


「闇の剣ブラックホールゥゥ!!!」


『出たー!闇虎直伝!闇の剣ブラックホールだぁ!!』


本物のアムラセウムには生死をかけた戦いが陳腐なものになってしまうという理由で実況中継的なものは禁止されているが、この小型アムラセウムでは実況中継がなされていた。


「いけー!」

「やっちまえ!」

「切り刻めー!!」


観衆も聞くに耐えない暴言を投げかけている。

その表情は狂気じみたものになっている。

明らかに心の底からこの殺害ショーを楽しんでいる異常な集団だった。

そしてオーガの青年は木剣を振り回し少しでも相手に当てようと必死になるも虚しく、見るも無惨に貴族によって切り刻まれその場に倒れ込んだ。


『勝負あり!勝者は超槍神ダークタイガー!』


「うおおおおお!!!」


貴族は死闘の末になんとか勝ったと言わんばかりの歓喜の雄叫びをあげている。


(茶番だ・・・しかも下劣極まりないレベルの・・・。ありえねぇ・・・)


スノウたちは怒りを抑えるのに必死だった。

オーガの青年はまるでゴミでも片付けられるかのようにズルズルと引きずられていった。



『続いて第4試合!』


このような試合が既に3試合もなされていたのかとスノウたちは驚いた。

アナウンスを合図に登場してきたのは、先ほどの貴族同様に着飾った女性だった。

容姿は太っており、明らかにウィックであろう黒髪を靡かせて細身の剣を携えている女性だ。


『登場したのは20戦全勝の美流剣姫!ビューティーカグラミ!』


同時に剣を振り上げる。

それに合わせて観客が歓声を上げる。


ドン!


あまりの怒りで波動気が爆発しエスカの立っている地面にヒビがはいる。


「気をつけろ・・!」


スノウは小声でエスカに注意する。

だが、その怒りはもっともだった。

なぜなら明らかにエスカを真似た貴族だったからだ。


(どこまで下劣極まりないんだ。グラディファイサーどころかエクサクロスやルデアスにでもなったつもりのようだな・・・。恐らく先程の貴族もダークタイガー・・つまり闇虎・・・グラディファイスランクトップのエクサクロスを真似たんだろう・・・。真似るクオリティの低さは愛嬌としても、この下劣な行為は万死に値するな・・・)


『そして!対する挑戦者はこの男!かつてローラスまで上り詰めた強者ベルガーンその人だ!!』


その瞬間エスカの怒りが最高潮に達したのか波動気の影響で周囲の観客たちが倒れ出した。

すぐさまスノウがエスカの腕を掴み、気持ちを抑えるように促した。

理由は明白だった。


まだグラッドだったエスカが初めて戦ったローラスがベルガーンであり、その頑丈さからエスカの剣技がなかなかクリーンヒットせず死闘の末なんとか勝ったという印象深い試合だったが、試合後に深傷を負いながらもこれからもお互い切磋琢磨し高みを目指そうと言い合った仲だった。

だがそれはエスカに気負わせないためのベルガーンの配慮であり、その戦いで実質グラディファイサー生命を絶たれるほどのダメージを負っていたのだ。

しばらくしてベルガーンは姿を消したがまさかこのような場所に現れるとは夢にも思わなかった。

だが、登場した姿を見てエスカは愕然とする。


片足がなくなっており、義足のような木の棒をつけていた。

そして片腕もなくなっており申し訳ない程度の小型の盾が付けられていたのだ。


「な・・・なんなのだ・・あの姿は・・?!」


確かにエスカとの試合で受けた傷はグラディファイサー生命を断つほどのものだったが、それは腕の腱が切られたのが原因であり、グラディファイサー以外の職業であればいくらでも就けるものがあったはずだった。

だが目の前に現れたその姿はどうにも説明がつかない状態だったのだ。


「試合始め!」


「我が可憐な必殺技を見よ!高速の1点集中剣技!六芒星!」


ドン!!!


エスカの立っている地面がまたもやヒビが入る。

ベルガーンは太った女性貴族の攻撃を避けようと構えるが括り付けられた盾が前に出せずにいた。


(あれは・・・)


見えない細く頑丈なワイヤーが腕に括り付けられており実質攻撃を受けることも攻撃を繰り出すこともできない状態だったのだ。


グザグザグザグザグザグザ!!!


出鱈目な剣捌きはベルガーンの胸をバラバラに刺している。

その剣の攻撃によって深傷を負っているにもかかわらず、ベルガーンは声をあげるどころか表情ひとつ変えずに耐えている。

だが、最後の一撃が心臓に突き刺さりそれが致命傷となって動きを止めた。

生命を終えてなおグラディファイサーの誇りだと言わんばかりに立ったまま絶命していた。


「天晴れ・・・」


潔く逝ったかつてのライバルにエスカは小声で最後の言葉をかけた。


『勝負あり!勝者美流剣姫!ビューティーカグラミ!』


『わぁぁぁぁ!!!!』


大歓声が沸き起こる。


エスカは俯いたままだった。


そんなエスカをしばらく見ていたスノウはソニアを呼んだ。


しばらくの休憩を挟み次の試合が再開される。


『続いての試合は!この人です!』


奥から派手に登場してきたのは煌びやかな刺繍の入った拳法着を纏った青年だった。

これもまたどこぞの貴族なのだろう。


『現れたのはこの真グラディファイスにおいて彗星のごとく登場しあっという間にルデアスに上り詰めた男!超雷帝スノウサンダーだぁ!!!』


『わあぁぁぁぁぁぁ!!!』


スノウサンダーと呼ばれた派手な衣装に身を包んだ青年は右手を高らかに挙げた。

それに合わせて一斉沸く観客席。

青年の両手には魔力の込められたカイザーナックルが装着されており、打撃力を上げる効果に加えて恐らく炎魔法の派手な演出もできるものになっているようで、正拳突きを出すたびに炎が四方八方に飛び散る演出で人気を博していた。


『そして挑戦者は今回2人だぁ!1人目は凶悪犯で知られる凶暴極まりないオーガ、エルガドォ!!!』


アナウンスと共に左目と右腕を失ったオーガが登場する。

左手に持っているのは木剣でもないただの棒切れだった。

恐らく剣や盾に当たっただけで折れてしまう程度のものだろう。


「くっ!ここは公開処刑場か・・・」


エスカは思わず心の声が漏れてしまう。


「2人目は!巨大な魔物との戦闘で見事勝利したが、深傷を負ってしまったという強者、サンジーンだぁ!」


登場したのは、小太りの男で両腕がなかった。

そして顔面は火傷で無惨な状態になった状態で木剣を口で咥えている。

その姿を見て観客は一斉に沸く。

どうやら健常ではない者が痛ぶられるのを見るのがとことん好きな者たちがこの小型闘技場には集まっているようだ。


「スノウサンダー!やっちまえぇ!!」

「今日も雷帝拳を頼むぜぇ!」

「ぶちかませー!!」


ここにいる観客には同情心すら持ち得ていないようだった。


「よし!試合始め!」


合図と共にスノウサンダーが怪しげな動きで構える。

素人がカンフーを見様見真似でやっているような見るに耐えない動きだったが、ここの観客にはすこぶるウケが良かった。

挑戦者にされてしまったエルガドと紹介されたオーガは今にも折れそうな木の棒を左手で持ち一応構える。

そこにもう1人の小太り火傷男のサンジーンがエルガドのもとに詰め寄り耳元で囁く。


「死にたくなければ何もしないことだ」


「なに?なんだって?」


するとサンジーンはスノウサンダーに向かって辿々しく向かっていく。

両手がないため口で加えた木剣を、上半身と首の動きで不器用に振り回す。


「ハハハァ!!遅い遅い遅い遅い遅い遅いぃぃぃ!!!」


明らかに遅いスピードにさすがの素人スノウサンダーも余裕の表情でかわしている。

そのやりとりを見て観客はさらに沸いている。

しばらくそのやりとりが続いたが、飽きてしまったのか少し距離をとった。

そしてスノウサンダーは右手を高らかに上に掲げた。


「そろそろ終わらせてやろう!この超雷帝様がなぁ!この試合も貴様の人生も!!」


どうやら一気に試合を終わらせるという合図らしい。


「うおおおおおおお!!!!!」


変な格好の構えのまま、わざとらしい掛け声で力み始めた。

すると両手のカイザーナックルから火花が複数飛び始める。

どうやらそれが雷帝の稲妻に見える溢れる波動気を表現しているらしい。


「さぁ、下郎!覚悟しろ!この超雷帝様が引導を渡してやる!きょえぇぇぇぇぇぇ!!!」


蝿がとまりそうなゆるい正拳突きが繰り出される。

それに連動しカイザーナックルから炎の渦が派手に飛び散る。

サンジーンはそれに打たれてその場に倒れてしまう。

炎の渦によってエルガドもその場に倒れてしまう。


「うおおおおおお!!!!」


スノウサンダーは自ら放った正拳突きで同時に2人を倒したことで歓喜のあまり雄叫びをあげた。


「勝負あり!勝者、超雷帝スノウサンダー!!!」


『うわぁぁぁぁ!!!!』


大歓声が沸き起こった。

そしてすぐさまリアカーのような荷台が登場し、それにサンジーンとエルガドが乗せられ回収される。

闘技場ではスノウサンダーが調子に乗って観客を巻き込んでウェーブが巻き起こる熱狂ぶりだった。



―――小型アムラセウム内死体安置所―――


小型アムラセウム内にはその日の試合の犠牲者たちが運ばれる部屋があった。

試合では挑戦者のほとんどが無惨に殺されてしまうため、ほぼ死体安置所として機能していた。

死体安置所とは言い過ぎで埋めるのも面倒であるため、すぐさま焼却炉で火葬する流れ作業となっており、この日の第一試合の敗者はすでに火葬されてしまっていた。

そこにサンジーンとエルガドも運ばれてきた。

隣ではその前の試合で見事な死に様を見せたかつてのローラス、ベルガーンの遺体も無造作に置かれていた。


「そろそろ宜しいかと」


サンジーンとエルガドを運んできた闘技場の職員がサンジーンの死体に話しかける。

するとゆっくりとサンジーンが起き上がる。


「ふぅー・・・」


起き上がると首を左右に揺らしてコキコキと鳴らしながら立ち上がる。

そして軽く力を込めるような動作をしたかと思うと、着ている服が破れて中から腕が飛び出す。

その体はサンジーンの太った体型ではなく、スリムなものだった。

さらに徐に右手を顔に当て出した。

するとみるみる内に火傷が治っていく。


「お疲れ様でした、カムス様」


そう、サンジーンはスノウが変装したものだったのだ。

顔がバレてはまずいということで痛みを承知でソニアの炎魔法で顔に火傷を作った。

すぐさまソニックの冷却魔法で痛みを和らげはしたものの、スノウは2度とやるまいと思った程だった。

そして健常者は出られない試合ということで両手を体にしばりその上から服を着込んで両腕のない小太り男を演じたのだった。

すかさずウルの仮面を被るスノウ。

そしてエルガドにウルソーの回復魔法をかける。


「う・・・う・・」


ゆっくりと目を覚ますエルガド。


「こ・・ここは?俺は一体・・どうなった・・?・・試合は・・」


「エルガドさんだったね、すまない、少し荒っぽいやり方だったが、あの場で貴殿を救うにはあれしか手がなかった」


「どういうこと・・だ?」


「あの偽グラディファイサーの貴族は相手を殺すまで攻撃をやめない、相手が死なないと試合が終わらない状況だと思ったから貴殿には気絶してもらったんだよ。私も気絶したふりをしてあの貴族が派手に勝ったことにしたんだ。そこで私の従者のこのものに私と貴殿を運ばせたというわけだ」


スノウサンダーがゆるい正拳突きを放った際に凄まじいスピードでエルガドの首に当身をして気絶させたのだった。


「な・・。そ・・そうか・・・。するとあんたたちは俺の命の恩人ってわけだな」


「まぁ気にしないでくれ。単なる気まぐれだ。もう一つやることがあってね。ソニア」


ソニアはベルガーンの遺体を布でつつみ台車に乗せた。


「彼はちょっとした知り合いでね。こんな形で終わっていい男じゃなかったんだが、残念な結果になってしまった。だからせめてきちんと埋葬したい。そして関わってしまった以上見過ごせなかったから貴殿も助けることにしたんだ。この服を着て、この帽子と布で顔を隠してこの闘技場を出るといい。そのあとは貴殿の自由だ。好きに生きてくれ」


するとエルガドは俯いて涙を流し始めた。


「ありがとう・・・。オーガは戦闘民族。こんな無様な死に方をしたとあっては家族がどんな目に遭っていたか・・・。感謝しても仕切れない大恩だ・・・」


「よしてくれ。人助けなんてそんなもんだ。恩義を感じるならそれは別の弱者を救う形でつなげてくれ」


「す・・すまない・・」


そういうとエルガドはゆっくりと周りを警戒しながらアムラセウムを後にした。

そしてスノウとソニアはベルガーンの遺体をアムラセウムの外に運び出す。

エスカと合流し、一旦ジグヴァンテの外に出た。

街から少し離れた場所に生えている比較的大きめの木の根本に彼を埋葬した。

3人は手を合わせ冥福を祈った。

エスカだけはしばらくその場に立っていた。


・・・・・


・・・


―――その日の夜、宿屋のスノウの部屋―――


今日1日の出来事を整理するため、3人はスノウの部屋に集まっていた。

誰かに聞かれないようにこの場を選んでいるのだが、万が一にも聞かれないようにライフソナーの魔法で周囲の警戒を怠らなかった。


「この国の縮図が見えましたね」


「そうだな」


「・・・」


エスカは黙っていた。


「少しこの国の歴史を知る必要があるかもしれない。現在のヘクトル政権になったのには段階があったはずだ。この政権になる前の状態と、この政権に至るまでに何を失ってきたのか」


「そうですね。今日仕入れた情報ではこの国には図書館なるものがあるようです。そこにはさまざまな書籍が保管されているようで誰でも閲覧できるエリアがあると聞いています。その中にこの国の歴史を知れる情報があるかもしれません」


「図書館か・・・。良い案だ。この国の人々に聞き回るとどこでどう情報が伝わるか危険だからな。まずはこちらがノーリスクで得られる情報を仕入れるには図書館はベストだな」


「私は明日別行動にさせてほしい」


「どうした?何か用事でもあるのか?もちろん構わないが」


「私は私なりにこの国を調べたいだけだ」


「・・・わかった。気をつけろよ?くれぐれも騒ぎは起こしてくれるな?それとヘクトリオンに出くわすことがあったら絶対に逃げろよ?あいつらの強さは未知数だ。何か秘密があるのだろう。それが明らかになるまでは絶対に戦うな。逃げることも勝つためには必要だからな」


「わかっている」


・・・・・


・・・


―――翌日―――


エスカは早朝に出かけていった。

スノウとソニアは図書館に向かった。


「ほう・・・これまた凄い建造物だな・・・」


王城や小型アムラセウムの装飾も目を見張るものがあったが、図書館もまた芸術的見地から相当な価値であることがうかがえるほどの立派な装飾を施した建物だった。

日本にいた頃と同じで、一般閲覧エリアと許可がないと入れないエリアとに分かれており、一般閲覧エリアには基本的に誰でも入ることができた。

唯一違うところは書籍が羊皮紙でできてることと貸し出しがないことだった。


「歴史に関する書籍、過去の新聞のようなもの、最近のトレンドを記した書籍等とにかく情報収集できるものは収集してみてくれ」


「承知しました」


スノウとソニアは手分けして情報収集にあたることにした。


・・・・・


・・・


(なになにゾルグ王国の歴史・・・これがまさに知りたい情報っぽいな・・)


スノウが手にとったのはこの国の歴史書をまとめたコーナーにあるとある歴史書だった。

そこに書かれていた内容を要約すると以下のだった。


・ゲブラーの起こりは古代神プロメテウスによってもたらされたエターナルハーベスト(永遠の灯火)によって火を与えられたことから始まった。


・その後、別の神ミトラが現れこの地に知恵を授けた。

それによって火を使った技術、蒸気機関が栄え人々の生活は一気に豊かになった。


・100以上あった国はそれぞれ豊かな生活を手に入れたが次第に欲を持ち始め領土を拡大するために戦争を始めた。


・当時のゾルグ王国のヤマラージャ王は支配欲にかられ数々の国を滅ぼし100以上あった国を9つにまで減らす大虐殺を行なった。


・それを憂えたミトラ神は空から巨大隕石を落としヤマラージャ王政を破壊し、救世主として生まれ落ちたヘクトル・イリオースという青年に長寿の力を与えゾルグ王国の新たな王とした。


・ヘクトル王はヤマラージャ王と同様に暴君で圧政をしいていた隣国のゲキル王国を滅ぼし、虐げられていた同国民を圧政から解放しゾルグ王国民として暖かく迎えいれた。


・そして現在のゾルグ王国はゲブラー各国の代表的存在として連携を保つ重要な役割も担っており、全ては長寿の力を与えられた救世主ヘクトル王の政治力、統率力、外交力によって素晴らしい繁栄を続けている


この歴史書によると、ヘクトルは300年生きているとのことだ。


(300年も生きられる人間がいるのか?いや、人間ではないのかも。人間ではないとすれば、神か悪魔か。でも神や悪魔がいるなら、この歴史書の通り、神が人間に長寿の力を与えているという説もありうる。つまりこの中で重要なのはミトラ神がいるのかどうか、ということか・・・情報収集するには、革命軍に聞くのと・・・ゲキル王国が滅ぼされたのは約30年前とあるな・・・ゲキル王国の生き残りを探せればヘクトルについて何かわかるかもしれないな・・・)


スノウはティフェレトで既に遭遇している悪魔の存在があったため、悪魔がいるなら神もまたいるだろうと思い、この国の歴史の真意を知る方法のひとつの鍵はミトラ神にあると考えた。

300年も経っているため、他の登場人物である前王のヤマラージャは既にこの世にはいないだろうし、これだけの長い年月の正しい歴史を語ることのできる存在はこの国にはいないだろうとも考えた結果だった。


その後もさまざまな書籍をあさったが、得られた情報はヘクトルのさまざまな武勇伝がほとんどだった。


夕方になりスノウとソニアは一旦宿に戻ることにした。


―――とある路地裏―――



目隠しをしたアンに扮したエスカがいた。

エスカは路地裏の壁に何やら梵字のようなものを指できって描いた。

すると不思議な光が現れる。

エスカその光の前に跪いた。


「何事か」


光からなのか、光の奥なのか、それとも光以外からなのか、なんとも掴み取れないところから心がざわつくような落ち着くような低い声が響いた。


「申し訳ありません。我が師よ」


エスカはその光を師と表現し畏まった表情で話を続ける。


「私はこの国を滅ぼすべきだと確信しました。本日はその許可を頂きたくお願いにあがりました」


「ならぬ」


「なぜなのですか?師の盟約を踏み躙り、この世界を我が物にしようとする現王は師のお考えに反する存在ではないのですか?」


「ならぬと言っている。お前に下した命を確実に遂行せよ。それ以外はならぬ」


「なぜでしょうか!私はこの下劣な世界に我慢なりません!善良な罪なき者たちが搾取され、怠惰で私欲にまみれた利己的な者どもはのうのうと生きております。そして日々尊い命がそのような存在価値のない者どもによって失われているのです!」


「立場を弁えよ。感傷的になるな。命を完うせよ。守れぬならお前を追放せねばならん」


「も・・・申し訳ございません・・・」


「命を果たせ。きゃつはこの世界の命運を握る鍵だ。どの選択をするかによって結果が変わる。選択の時を見極めるのだ」


「は・・」


エスカが片膝ついて俯いている姿勢から顔を上げると光は消えていた。


(命を完うする・・・。それでこの国の善民が救われるのか・・?この世界を救う?目の前の善民を救えずして一体何を救うのか・・・)


片膝ついたままエスカは苦悩の表情を浮かべていた。





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