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<ゲブラー編> 24.革命軍幹部

24.革命軍幹部



―――翌日 早朝―――


昨晩、スノウはバルカンと共に夜明けまで飲み明かし語り明かした。

そしてそのまま今後の連携について革命軍幹部たちと話すことになった。


「・・と言うわけだ」


「つまりそのグランヘクサリオスっていうグラディファイサーの頂点を決める一大イベントがヘクトルを倒すチャンスだということだな」


「ああ。そのために革命軍はグラディファイスにメンバーを送り込んでいる。ランクが上であればあるほどグランヘクサリオスの場でヘクトルとの接点が近づくからな」


マインの説明によってスノウは今回の革命軍との共闘でヘクトルを討つタイミングを理解した。


「だが、ヘクトルっていう王も馬鹿じゃないだろう?いくら距離が近づくからといって丸腰じゃないだろうし、こっちだって武器を持って近づけるかどうかもわからない。それにあのヘクトリオン5とかいうやつの1人セクトってのは相当強いぞ」


「まさか戦ったわけじゃないだろうなスノウ!」


バルカンが食い入るように割って入ってきた。


「そんなわけないだろう?ただおれが訓練している時にふらっとやってきて、自慢げに自分の強さを披露しておれに革命軍と接触しないよう釘をさしただけだよ」


「!!!」


「なんだって?!」


「いよいよ警戒が必要だな」


「何にだ?」


「俺たち革命軍が強いグラディファイサーたちを勧誘している動きにだ」


バルカンが答えた。

そこにヒーンが割って入る。


「だってそうでしょ。グランヘクサリオスの上位10名がヘクトルから直々に表彰されるんだからさ。その中に革命軍がいればいるほどあいつを倒す機会が増えるじゃない」


「だが、俺たちが勧誘したことでそいつらが殺されるとしたらそれは本意じゃない」


「だからだねぇ。今回レーザーシュートとスパッツ・カブラミオの2人がルデアス対ルーキー4のイベントに無理やり試合突っ込まれたのは」


ゼラがさらに会話に割って入ってきた。


「まさか・・・」


「あぁそのまさかだよ。あたしたちが声かけたからだねぇ。そのうちカブラミオは警戒して完全には接触できてないからイベントに突っ込まれはしたが殺される対象にはならなかったんだろうさ。あたしたちの誘い警戒するなんてねぇ、意気地のない剛槍だわさまったく。まぁそのヘタレが災いして生き延びたんだからそれもまた強さかもねえ。だがレーザーシュートはあたしたちの誘いに乗ってきた」


「そうなのか?」


驚くスノウ。


「ああそうだ」


バルカンが話を続ける。


「あいつは実は西のゼーガン帝国内の貧しい村出身でな。村の子供達を食わせるためにグラディファイサーになったんだ。グラディファイサーで上位者になれば村一つ養うのは可能だからな。あんな派手なポーズとって戦っていたのも単に早くのし上がるための人気取りでやってた作られたキャラクターだったわけだ」


「そうそう、根は真面目で優しい物静かなやつだったよね。まぁ戦いを続けていく内に精神も荒んで少しおかしくはなってたけどさ」


「だが、俺たちが話を持ちかけた時にあいつは二つ返事で協力すると言った。なにせ、ヘクトルはゼーガン帝国と繋がっていて、ゼーガン帝国の貧困層からも労働力を確保し続けていたからな。いずれレーザーシュートの村もヘクトルの手にかかって村人たちは奴隷のように働かされる運命だと知って怒りに震えてたよ」


「だから是が非でも勝ってルデアスに昇格したかったはずだ。ルデアスになれば数年間は村を維持できるだけの収入を得ることができるから。それにルデアスの加護がある村だとなれば奴隷化は当分避けられるはずだからな。だがやつは勝てなかった」


マインが会話に入ってきた。


「っていうか、僕たちとの接触がバレて殺されたってのが正解だよね」


「そうだねぇ。じゃなきゃあんなセクトみたいな国防長官がわざわざあんな場に来るはずもないからねぇ」


「見せしめか・・・」


「そうだ」


「僕たちと仲良くしたらこうなるぞって感じかね・・・」


「あとは俺たちに対して勝ち目はないぞとばかりに圧倒的な力を示しにきたってところか」


「一体何人グラディファイサーがいるんだ?革命軍に」


スノウが質問した。

それにバルカンが答える。


「全員で50名強だな。俺がエクサクロス、マインとヒーンがルデアスだ。そしてローラスに1人、グラッドには50人ほどいる。皆順調に勝ち進んでいる」


「だが、まだ足りないな」


「ああ。上位10名のうち7名は目的を同じにしている同志でなければならない」


「だろうな。仮に残り3名は中立の立場であっても5人いるヘクトリオンを相手にすることを想定したら7人のうち5人はヘクトリオンを抑えなければならない。そして残り2人のうち1人が切り込み、ヘクトルからの反撃を受けかわしたところをスイッチしてもう1人が切り込むくらいじゃないと打てないだろうし」


「流石だな。その通りだ。そしてあと3人というところまできている」


「誰だ?ルデアスに他にも革命軍がいるのか?」


「いや、革命軍じゃないが盟約で共闘してくれる者たちがいる。情報漏洩を防ぐために名前は明かせないがな」


そう言いながら机に手のひらを押し付けながら下を向くバルカン。


「だが、甘いんじゃないか?」


「どういう意味だ?」


スノウが釘をさし、バルカンが反応した。


「あんたらの作戦はグラディファイサーにヘクトル配下がいない前提になってるってことだよ」


「ああ、わかってる。俺たちが上位グラディファイサーを増やしている理由がもう一つある」


「ヘクトル配下を事前に試合で倒すためか」


「そうだ」


「だが、ヘクトル配下かどうか調べ切ることは難しいんじゃないか?」


「そのために死を覚悟して王宮に潜入しているものや協会に属している者、そして試合を企画している者なんかもいる」


「そう、例えば・・・」


「私のような者が情報収集しているってことです」


「!!・・・その声・・聞き覚えがある」


コツ・・コツ・・コツ


声のした方向から足音が聞こえてくる。

現れたのはレンスだった。


「すみませんね、こんな再会で。実は私、革命軍の幹部なんですよ。といってもバルカン副総帥やマイン、ヒーンみたいに戦うわけじゃないんですけどね。要は頭脳プレー専門ってやつです」


「なるほど、ルデアス対ルーキー4のイベント企画したのもおれたちを探るためか」


「まぁそんなところです。理由のひとつとしてはね」


「他にも理由があるのか?」


「ええ、まぁそれは追々。ですが最大の理由はもちろんあなた方ルーキー4に惚れ込んでるからですよ。あなた方を上手くイベントに巻き込めればエンターテイメントといしては最高のものが作れると確信していたからです」


「企画屋と革命軍幹部・・・いったいどっちがあんたの本当の顔なんだい?」


「顔・・ですか?そんなもの “全て” に決まっているじゃないですか。みな複数の仮面を持っているんですよ。それを使い分けている。その中で譲れないものがあり、革命軍は共通の譲れないものを持っているだけの話です」


「なるほどね・・てか幹部って一体何人いるんだ?さっきから幹部だらけだが」


「スノウ、君ラッキーだぜ?幹部がこんなに集まることなんてほとんどないんだからな」


「ああ。このあと幹部会があるのもあってほとんどの顔が揃っている」


「こんな早朝にその幹部会ってのをやるのも警戒してのことだな?」


「そうだ」


スノウは ”おれは革命軍幹部のファンクラブじゃないぞ” とラッキーと指摘されたことに不満を抱いたがすぐに円卓に注意を向けた。

気づくといつの間にほとんどの席が埋まるほど人が円卓を囲んでいた。

なんとなく現れた際の気配は感じ取っていたが、会話に集中していた上、部屋も薄暗かったので我に返るように周りの状況を再認識した。


「よし、粗方そろったな。スノウ、改めて紹介しよう。革命軍幹部たちだ。まずはザイレン」


紹介された先にいたのはつなぎを着て筒状の拡大メガネをつけ、黒髪を後ろで束ねている男だ。


「彼は革命軍の技術長でもあり、蒸気機関で動く様々な機械を作ってくれている。成功作品は基本的に10回に1回の割合でしか出てこない」


「・・・」


「いで!!」


驚いてみてみると、なんとザイレンが小さなナイフをバルカンの腹に突き刺している。


「お・・おまぇ!別に貶しているわけじゃないんだからいちいち刺すんじゃない!」


「彼、基本しゃべらない大人しい男なんだけど、バカにされるとめっちゃ怒って黙って刺すんだよね。プライド高いんだな、きっと。でも腕はピカイチだよ」


ヒーンがヒソヒソとスノウに説明する。

ザイレンは刺したら気が晴れたのか、少し笑顔になってそのまま元居た席に座った。

一方刺されたバルカンは脇腹から出血しているが、手で押さながら説明を続けた。


「つ・・次は・・既に知っているな?マインとヒーンだ。彼らは既にルデアスだ。因みに革命軍内ではマインは戦闘長、ヒーンは魔術長だ。」


マインは手を挙げて挨拶した。

ヒーンは隣にいる。


「よろしく、スノウ」


「そして次はマシュとゼラ、ウォッチャーの2人だ。既に会ってるな」


「ああ。特にマシュとはあまり会いたくないけどな」


「わかるぜ」


ギロリ。


マシュの睨みが入った瞬間、スノウとバルカンの背中に汗が滴る。

匂いに敏感で特に臭いを嫌うマシュは、汗などの臭いを発しようものならすぐさま地獄のような洗浄の戦場に放り込まれるため、誰しもが恐る存在であり、彼の前では皆常に清潔にしていた。


「ん?」


クンクン


「・・・!!」


「気のせいか・・」


(ほっ・・・)


一瞬戦慄が走ったが、なんとかやり過ごせたようでスノウとバルカンはホッとした顔をしていた。

周りをみると、マインやヒーン、レンス、ザイレンまでも安堵の顔を浮かべていた。


(この中で最も警戒すべきはマシュだな・・・)


「そ・・そして続いてはレンス。彼は諜報長だ。知っての通り、表向きはグラディファイスの名プロモーターだからそれを活かして裏で情報収集を行なっている。彼の部下は彼しか把握できないほど、秘密にされている」


「改めてよろしくお願いしますね」


「最後がエミロクだ。彼女とは前回会っているな。彼女は戦略長。頭脳明晰で俺たちを勝利に導く作戦を与えてくれる」


「よろしく」


エミロクは2メートル近い細身の女性で常にローブを着ている。

今回もフードを外して笑みを浮かべながら挨拶をしてきた。

髪をカチューシャでとめ後ろにまとめており、その髪は見事に輝く黒髪で思わず見入ってしまう。

だがなによりその優しい顔に大概の男たちがうっとりとしてしまうらしい。

だがあまり喋らないようで口数すくなく、先ほどの挨拶も珍しいとのことだった。


「超恥ずかしがりでな。だが、エミロクがフードを取って顔を見せて、挨拶までしたってのは非常に珍しいことだ」


そう言われるとすぐにフードをかぶって黙ってしまった。


「そして今日この場にはいないが、俺たちのまとめ役の革命軍総帥のレンゴクが入って全部で9名。これが革命軍幹部だ」


スノウは何故か9という数字が気になったが、軽く会釈をして挨拶を終えた。


「とにかくグランヘクサクロスまで待つということだな」


「ああ」


「じゃぁそれまでは連絡不要だ」


「了解した」


ガシ!


スノウとバルカンは何がきっかけになるわけでもなくお互いの腕を当て合った。

そして何やら言いようのない同志感を覚えた。


そうしてスノウはやっと革命軍と別れて戻るのだが、去り際にバルカンが詰め寄ってきた。


「スノウ、あと半年以上あるから可能であればこの国やその周辺を巡ってみてくれないか?お前の目でこの世界の現状を見てほしい。そして如何にこの国がおかしいかを直に見て認識してほしいんだ」


「・・・わかった。見てみよう」


「頼んだ」


なぜかスノウはバルカンの依頼を嬉しく思った。


・・・・・


・・・


―――自宅―――


「そんなことがあったのですね」


スノウは帰宅後、ソニアックに状況を報告していた。


「しかし、そのクンバヨーニという預言者ですが、スノウしか知らない情報を持っているということは信憑性ありますね。そして越界する未来に到達する条件として革命軍との共闘があると・・・」


「そうだ」


「一つ引っかかるのはスノウがヘクトルと戦われる事がひとつの条件ではあるものの、ヘクトルを倒すという未来を見たわけではないという事ですね」


「ああ」


「流石はスノウ。既に気付かれていたのですね」


(確かに!そう言われればそうだ!いやぁ、ソニックはいつも冷静で且つ頭がいいから頼もしいんだが、いつ見下されるか気が気じゃないな・・・マジでやべぇ・・・いい加減な相槌とか返事できないな・・・)


スノウは有能なソニックがいつまで自分を慕って行動を共にしてくれるか少し不安になった。

ティフェレト以降リーダー的役割を担ってきており、少しずつだが前進している状況にわずかながら自信を増してはいるものの、日々悩み間違いながらなんとかやってきている状況の方が重く、何かあると自分の判断や行動は正しいのか、足りないのではないかと不安になるのであった。


「最悪、いやこれは想定しておいた方がよいシナリオですが、革命軍と共にヘクトルと戦うことになってもスノウご自身の命を最優先にして場合によっては逃げることも必要かと思います」


すると、急に髪の色と様子が代わりソニアが出てくる。


「あんたね!スノウが誰かに負けることがあると思っているの?!スノウの命は何にも変えられない最優先すべき存在だというのはその通りだけど、スノウが負けて逃げるなどあり得ないのよ!」


「ねぇさん!そういう意味じゃないよ!あのね・・!」


スノウはソニアのこの “スノウ最強説” と “スノウ至上主義” に少しいい気分ではあるものの、その期待に応えられず負けてしまったりしたら、そして逃げ出したりしたら一気に愛想を尽かされるのではないかという不安を覚えていた。

ソニックにしてもソニアにしても有能で頼りになり、自分を支えてくれる拠り所であるが故に、ふたりの期待に沿えなくなった瞬間の手のひら返しがあるのではという不安が常によぎっていたのだ。


(今このふたりに愛想でもつかされたら立ち直るの大変だろうな・・・。それこそ日本にいた頃に逆戻りするような感覚だよ・・・)


そう思い、雪斗時代に戻ることを想像した瞬間、背筋が凍るような感覚になり、思いっきり首を振った。


「ほら見なさい!スノウだって負けるわけないだろ、逃げるわけないだろって首を振られているわよ!」


「!!し・・失礼しました!スノウ!そんな意図で申し上げたわけじゃないのですがご気分害されたのならここで命を経ちます!」


「そうしなさい!万死に値するわよ!」


「ちょちょ、ちょっと待て!おれの許可なしにそういうの絶対だめ!わかった?勝手に思い込んで早まるのもだめ、戦闘で死ぬのもだめ!おれの身代わりになって死ぬとかもだめ!わかった?」


「はい、申し訳ありません・・もったいないお言葉・・・深いご慈悲・・・僕たちは幸せ者です・・・」


ソニックは涙を流して感動している。

おそらくソニアも頭の中で泣いているのだろう。

スノウは自分がふたりに命を絶てと命じることは決してないので、言いつけを守ってどんな状況下でも生きながらえてもらえると思って少し安心したが、やはりふたりの期待は裏切れないと再認識した。


「こうしよう。恐らくはお前たちもおれと行動を共にする上で危険な状況になることが予想される。おれたちはこの世界で命を落とすわけにはいかないし、越界の機会を失うわけにもいかない。その目的を果たす上で無理な戦闘は避けるべきだし、誰かに危険が迫った時は守り、時には逃げることも視野に入れる。これは状況判断だ。勝つことが目的ではなく、無事に越界することが目的ということだ。そのためには手段を選ばない。お前たちの命と安全、おれたちの越界と天秤にもかけるものは他にはないということだ。いいね?」


「はい!」


話はそこで終わった。


その後スノウは少し考えていた。

ソニアックにはそう言ったが、既にナージャ、グレンやエスカ、コウガ達には情がわいている。

バルカンと昨晩語り合い、何やら今までにない心のフィット感のようなものを感じたことから彼らとの接点を持ち続ければ同様の情がわくことも時間の問題だった。


(果たして、彼らを見捨ててまで越界を優先することができのか・・?また面倒な判断が必要な状況になったよ、全く。)


スノウ、いや雪斗時代において仕事はさほど難しくなかった。

数字事が関わるオペレーションでは利益を優先した判断が求められていたので迷うことはなかったし、結果のよく分からないアウトプットとなる企画やマーケティング部署にいても目的は明確だったので、データや調査結果に基づいた仮説を根拠と共に示しながら迷うことなく判断ができていた。

それは単に “人との関わり” を遠ざけてきた雪斗ならではの感覚かもしれない。

だが、越界しスノウ人生が始まって以降、信頼できる数字やビジョンは存在せず、他人の目的とそれを達成するための仲間しかなかった。

そして判断は自分と仲間がいかに危険に晒されないように目的を達成するかであり、仲間が増えれば増えるほど、優先順位をつけられない複雑な選択肢を突きつけられることになっていた。

だが、一方で仲間の信頼感や相乗効果による爆発的な難題に対する突破力も経験していた。

その心地よさから魅力ある者との接点が自然と生まれていく感情の動きも認識しており、スノウ自身その機会を逃したくない、待ち望んでいる感覚さえあったため、自分が関わりある人が増えていき充実した環境になる一方で、自分の力の無さ、判断力の弱さを突きつけられる現実にも悩まされていた。


( ・・まぁ大いに悩め。悩み続けることしかできないからな・・ )


ティフェレトのドワーフ国のエンキ王の言葉が思い出される。



・・・・・


・・・


スノウは1人バーに来ていた。

酒はさほど好きではなかったが、悩みを薄れさせる程度に嗜んでいた。


悩む時間が増えたのは、暇な時間が増えたこともあった。

時間ができた理由は、スノウ、エスカがルデアスに昇格して以降、試合の頻度はかなり少なくなっていたからだ。

グラディファイサーはピラミッド状の序列になっていたため、上位に行けば行くほど人数は激減し、対戦相手も狭まっていく。

エクサクロス(上位3名)にもなれば試合は年に1〜2度となる。

冷静に考えればすぐに想像つくことだが、スノウは少し拍子抜けしていた。


ルデアス以上のグラディファイサーたちは試合が少ない分1年のほとんど自主訓練に時間を費やす。

試合数は少ないのだが、一方でその盛り上がりは異常で国全体がお祭り騒ぎになるほどらしい。

以前行われたバルカンの試合は突如設定されたもので国全体で準備期間がなかったため、然程のお祭り騒ぎにはならなかったが、それでも今年で最も盛り上がった試合となったのは言うまでもない。

その頻度の少なさに不満を持ったレンスがルデアスvsルーキー4というイベントを企画したのは当然の成り行きだったが、そのイベントもまた異常な盛り上がりを見せた。


一方ローラスであるグレンとコウガはある程度定期的に試合に出ていた。

次期ルデアスを目指しローラス間での戦いもあったが、何より大勢いるグラッドからの挑戦を受ける機会がおおかったのが理由だ。

それらに加えてグレンとコウガは、自分をアピールし一刻も早くルデアスとの試合を組んでもらうため、精力的にみずから試合を組んでもらうように協会や他のローラスたちに持ちかけていたのもあった。


そして、ふたりはスノウから波動を学んでおり螺旋だけは使えるようになっていた。

それを武器に流しながらの戦いを実戦の中で行っていたが、格段に戦闘力が上がっていた。


スノウがバーで酒を飲みながら1人であれこれ悩んでいる最中、突然グレンがスノウの横にやってきた。


「ようスノウ!なんだ?しけたツラして!試合がねぇとまるで死んだ魚みてぇな目ぇになるんだな!ってかそんなこたぁどうだっていい!どうだった今日の俺の闘いっぷりは!」


「おい・・おれ、1人で浸ってんだよ。少しは静かにしてくれよ」


「あ、す、すまねぇ。けどお前しかアドバイスもらいたいやついないんだよ」


「エスカがいるだろ?」


「あ・・あのポニーテールに聞いたらお前、まともなアドバイスどころか自信なくすだけだって容易に想像できるだろ?」


「わかったよ・・」


「すまねぇ。そんでどうだった?」


「えっとな」


(まったく相変わらずめげずに図々しやつだな。ま、それに救われてる部分もあるから、しかたない、構ってやるか・・・)


「お前の剣の振り方と同じで螺旋の込め方が荒すぎるんだよ。あれじゃせっかくの波動の渦が拡散して力が半減しちまうぞ?螺旋は本来中心に向かって力を凝縮するもんなんだからな」


「むむむ!」


(スノウのやつ、相変わらずズバズバ言うな・・)


「それと、剣の振り方も荒いのはいんだが、ロスが多いんだよ。エスカに剣技の基本を学べ」


「ぐぐ!あのポニーテールにか?」


「そうだ」


「ぐぐぐ・・・」


「螺旋はすでに教えたからな。あとは自分で学べ。剣技はエスカの専門領域だからな」


(スノウはこのゲブラーでは剣を封印しているため、剣に関することはエスカに任せていた)


「くっそ!仕方ねぇ。これも上がるためだ!あのポニーテールに教えを乞うてやるか・・」


グレンはあまり気のすすまない表情で出て行った。


ダッダッダッ!


「スノウ!」


入れ替わりでコウガがやってきた。


(また違った意味で面倒くさいやつがきたな・・・。ひとりでゆっくり考えることもできなそうだ・・・全く)


「今日の俺の試合はどうだった?」


「良かったんじゃないか?」


「そうか!で、どこが良かった?」


「お前は螺旋をちゃんと使いこなしている。槍の基本もきっちり身に付いているからな。実戦を積み重ねたらもっと強くなるだろう。あとは決め技を作ることじゃないか?」


「決め技?」


「そうだ。拮抗している相手ほど持久戦になる。持久戦になればなるほど、注意力や反応速度が鈍くなる。そうなれば一瞬の隙や気後が命取りになる。そんな時に必要になってくるのが決め手だ。持久戦になる前に相手を圧倒する必殺の攻撃があれば勝てる可能性が格段に上がる」


「だが、俺には流星光槍やスクリューバレットがあるぞ?」


「自分でもわかっているだろう?あれはお前の鍛え抜かれた体とその体に染み付いた基礎の技の延長でしかないんだよ。必殺の攻撃はそれを大きく超えた体力を絞り切った限界を越える攻撃なはずだ。それをまだお前は持っていない。そういうことだよ」


「くっ!」


コウガは悔しそうな表情を浮かべた。


「よし!お前の言う通りだスノウ!俺は自分の必殺の攻撃をあみ出す!ありがとう!」


そう言うと勢いよく出て行った。


(全く騒々しいな・・・だが、この騒々しさが悩みを紛らわせてくれる。まぁ紛らわせてくれるあいつらが悩みの種でもあるんだけど。いや、違うな。悩みの種となるほど、大切な仲間に囲まれているっていう幸せなことなんだな・・)



( ・・まぁ大いに悩め。悩み続けることしかできないからな・・ )



「悩んでやるよ、エンキ王。悩んで悩んで、たくさん間違えて、救えないやつなんていなくなるほど戦いも、精神も強くなってやるよ・・・」


スノウは少し吹っ切れたように笑みを浮かべながらエールを飲み干した。







最近忙しくてなかなか進まないのと、次の展開の整理で上手く書けてないのがあってなかなかアップ遅れていますが確実に進めます!あとなるべく早い内に絵も差し込みたいと思ってます。

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