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<ゲブラー編> 18.マニエ その②

18.マニエ その②



「サークルリング!」


「またその攻撃か!俺に何度も同じ技が通用すると思うな!」


「と見せかけてサルクスネーク!」


輪を描くように進んでいた炎レーザーは突如蛇のような動きでスパッツを襲う。

スパッツは逃げるように後方に距離を取る。

だがふたつの炎蛇レーザーがスパッツをどこまでも追いかける。


「激槍ジャバラ!」


スパッツはジャバラのように動かしている槍でそのスネークを拡散させ消滅させようとする。


「甘ぇんだよ!シャウト!」


拡散させようとした蛇の頭から突如別の炎レーザーがスパッツを襲う。


「それも見た」


スパッツは槍で細切れにした。


「シャウトセカンド!」


「それも見た!」


細切れにした炎からさらに炎レーザーが飛び出てくる。

炎レーザーに上下左右囲まれた状態で襲われる。


「激槍カガミ!ドーム!」


スパッツは槍を振り回しドーム状のカガミのようなバリアを張る。

炎レーザーはそれに反射するように方々に散らされる。


「今度はこちらから攻撃だ!激走!」


スパッツは凄まじい速さでレーザーシュートのところに詰め寄る。


「近距離攻撃には対処できまい!激槍ウズシオ!」


「ぬおおおお!ルビーリッチ!!」


レーザーシュートは目の前に握り拳程の大きさのルビーのような炎の玉を20個ほど、自身の全面に散らばらせた。

無数のルビーが宙に浮いている。

そこにスパッツの槍が円を描いてかき回すような攻撃のウズシオが繰り出される。

ルビーが数個、スパッツのウズシオによって破壊され、炎は渦を巻いて槍の突きの波動となってレーザーシュートに襲いかかる。


「連続シャウト!」


残ったルビー玉から炎のレーザーがスパッツ目掛けて発射される。


シャビビビビビイィィィィィィィィィ!!!!


「ぐおおおお!!!」


スパッツは無数の炎レーザーを受けてしまうが、攻撃をやめる事はなくウズシオがレーザーシュートに襲いかかる。


ジャジャジャジャジャジャジャァァァァ!!!


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


レーザーシュートの腹のあたりにスパッツの槍の突きの波動が当たり血を撒き散らしながら吹き飛んでしまう。


膝をつくスパッツと吹き飛ばされて仰向けで倒れているレーザーシュート。


「くそ!くそくそくそくそぉぉぉ!!」


レーザーシュートは手をつかず直立姿勢のまま立ち上がる。

立ち上がると同時に頭を垂れる。

腹からは血が噴き出て垂れている。


「やってくれたな腐れ外道が!この俺様の美しい肉体に傷つけやがって!」


膝をついていたスパッツは火傷を負っているのか全身から湯気のような煙を出しながら立ち上がる。


「ぬおおおお!!!」


スパッツはレーザーシュートの方に向かって走っていく。

槍を振り回しレーザーシュートに襲いかかる。


ガキィィィン!!!


レーザーシュートは両手を肩から背後に回し、振り下ろした。

その手には剣が握られており、思わずスパッツは槍でその剣を受けるが右手に持った剣しか避けられず、左手に持っていた剣に脇腹を切られてしまう。


「ぐはぁ!・・・何ぃ?!剣・・だとぉ!!」


続け様に切り込んでくるレーザーシュート。

スパッツはそれを槍で受け切る。


キンキンカカカキンキン!!!


槍と剣の攻防が繰り広げられている。

うまく間合いを取ればリーチが長い分スパッツの方が有利に見えるが、レーザーシュートは二刀流で片方の剣で槍を受けながら間合いを詰め、もう片方の剣で切り込む形で攻めてくるため、ほぼ互角の攻防だった。


「お前・・その剣さばきは・・?!」  


「驚いたかぁ?!俺様は何でもできるんだよ!派手にキマるから炎魔法を使ってるだけだぜ!」


「小賢しい!」


キンキンカカカキンキン!!!


互角と思われた攻防だったか、次第にレーザーシュートが押され始める。

出血がひどく動きが鈍ってきたからだ。


グショォォ!!


槍がレーザーシュートの肩に突き刺さる。


「ぐぁぁぁ!!」


「もらったぁ!」


「舐めるなよクソがぁ!」


レーザーシュートは剣をスパッツの方に投げた。

そして続け様にもう片方の剣をスパッツ目掛けて振り下ろす。


カン!カキィィン!!!


スパッツはその両方を槍で弾く。


「ぐあぁぁぁ!!!!」


スパッツの叫びが響く。

レーザーシュートは剣を投げた後に炎のレーザーを放っていた。

そのレーザーはスパッツの左目を直撃し焼いた。

その場にのたうち回るスパッツ。


レーザーシュートは這いずりながら外周壁の方に向かっている。


一方グレンとメザの戦いも続いている。

メザの鞭がグレンの鉄球棍を掴んだ。

それに対し、グレンは鞭を思いっきり引っ張る。


「私に力で勝とうというのかい?」


グレンはまるで引っ張ったゴムを離すかのように鉄球棍を離す。


「くっ!!小細工を!」


メザは飛んできた鉄球棍を軽々と掴む。


「な?!」


鉄球棍が飛んでくるスピードに合わせてグレンが目の前に迫ってきていた。

グレンの持つ鉄球棍が凄まじい勢いで振り下ろされる。


ガィィン!!!


メザはそれを鉄球棍で受ける。

そして素早くグレンの背後に回って鞭をグレンの首に引っ掛けて締め上げる。

グレンはバク宙するようにしてそれを外し、メザの両肩を台にして大きくジャンプする。

外周壁まで飛び新たな武器を手にする。

弓矢だった。

同様にメザも外周壁に向かって走り、弓矢を手にする。


『おおおおお!!!!』


弓矢同士の戦いはなかなか見られるものではないため、観衆が沸く。


グレンとメザは矢を撃ち合う。


シャバシャバシャバシャバ!!!!


射る矢全てがぶつかり弾かれる。



「スノウ!」


VIP席にいるソニアは思わずスノウに話しかける。


「ああ、グレンのやつどこか間抜けキャラ演じてるっぽいところあったからな。初めて会った時の印象とギャップがあったというか。何か抱えているようだな。そしてあのメザという人物。どうやらグレンと知り合いのようだな」


「そうなのですね、しかし・・・」


「ああ。あいつが不利な状況は変わらないな」



シュンシュンシュン!!!


バシュバシュバシュ!!!


放つ矢全てが矢で弾かれている。


埒が明かないため、お互い矢を剣持ち替えて接近戦に持ち込む


キンキンキン!!!


剣技も互角だった。

2人は走りながら剣を交えているが、お互いに隙はなくダメージは与えられない。

剣技に加えて炎魔法も繰り出されている。


シャバババン!!!


そしてアムラセウム闘技場の中央で凄まじい剣の攻防が続く。

次の瞬間、突如スパッツの叫び声が聞こえる。


「屈め!!!」


「!!」


グレンとメザは思わず声に反応し、剣の動きを止め屈んだ。


「!!」


屈んだ2人は地面にうつっている自分の影が日の角度と違う事に気づく。

そして上を見上げる。


シャワワワーーーーー



頭上に恐ろしい程の巨大な炎の鳥が燃え盛って回りながら飛んでいる。

そこに炎魔法が注がれている炎の線が見える。

その先に目をやるとレーザーシュートが手のひらを重ねて炎魔法を唱えている。


「お・・おい・・・」

「なんかやばくないか?!」

「あんなにでかい炎の鳥が攻撃したら俺たちまで焼かれちまうんじゃないか?」

「レーザーシュート様はそんなことするわけないでしょう!!」

「すごいわ!なんてすごい魔法なの!」


観衆は騒ついている。

闘技場のほぼ同等の大きさの燃え盛る鳥が巨大な翼を悠然とはためかせて飛んでおり、その火の粉が至る所に飛んできてアムラセウムの一部を焼いたり、観客の服に飛び火して燃え出したりしているからだ。


「フハハハハァ!!!面倒くせぇからお前ら3人まとめてぶっ倒して平伏させてやるぜ!ファイヤーバード!」


炎の鳥は喉を異常なまでに膨らませた。

闘技場ほどの大きさと思える膨らみ方で次の攻撃が尋常ではない事は容易に想像できた。

グレンとメザは一瞬顔を見合わせた後、外周壁を見回して何か使えるものはないか探している。


「フォトン!!!」


異常に膨らんだ喉から、炎の鳥の嘴が避けるような異形の状態で広がり炎の巨大な波動砲が放たれた。


ザッダァァァァーーーーーン!!!!!!!!


「く!!間に合わないか?!」


「防げるか?!メザナ!!」


「わからない!」


「くるぞ!!」


グレンとメザは手持ちの武器でなんとか防ごうと思案している。


「スノウ!」


「ああ!これはまずいぞ!下手をすれば観客まで巻き込まれる!」


「どうしますか!?」


(どうする?!ここで割って入ってもいいが、そうすると試合そのものが無効になってしまう!いやそんな事を言ってられる状況ではないかもしれない!)


「観客に被害が及ぶ直前で何とかする!」


スノウとソニアはVIP席から立ち上がり、最悪の事態に備えて体勢を整えた。


ドッゴォォン!!!バシュァァァァァァァァ!!!!!!


「激槍ウズシオオオカガミ・・!!!」


「スパッツ・・・お前そのような体で・・・?!」


スパッツは槍を2本それぞれの手に持ち、バトンのような回し方で高速回転させて、反射鏡を作り出した。

そして口にもう一本の槍を加えて槍を円状にしならせて高速で回している。

その槍の動きで空気の渦が生じレーザーシュートの放った炎の波動砲は2分され、二つに別れた波動はそれぞれの手に持つ槍で繰り出されている鏡のような槍の盾に流れ反射し、アムラセウムの外に放出されている。


グレンとメザはその隙に外周壁へ向かい槍を手に取り、スパッツの技を見様見真似で繰り出し、さらに反射する鏡を増やして波動砲が観客席に及ぶのを防いだ。


スパッツはレーザーシュートに貫かれた脇腹から血を吹き出し、火傷部分からも血が吹き出し始めていた。


「スパッツ!」


グレンの声にスパッツは目で応えた。


「ぎゃぁぁぁ!!」

「熱い!!火が!火がぁ!!」

「髪が燃えてる!!」

「助けて!!!」

「逃げろ!!殺される!!」


観客はパニック状態に陥っている。


「ソニア!出るぞ!」

「はい!!」


スノウとソニアがVIP席から飛び出そうとする。

スノウのリゾーマタの絶対零度と一瞬ソニアからソニックに入れ替わって氷結音魔法でこの炎の波動砲を凍らせるしかないと考えたのだ。


「みなさん、落ち着いてください」


VIP席からひとりの男が颯爽と飛び出してきた。

黄色のラインが入った緑のローブを纏った長身の男がローブを脱ぎ放り投げた。

その背中には巨大な盾が見える。


そして血反吐を吐きながら必死に竜巻と槍鏡でレーザーシュートの炎の波動砲を防いでいるスパッツのところに立ち、巨大な盾を振り上げた。


「インビンシブルウォール」


盾は振り上げたと同時に発せられた衝撃はで盾の形状をした波動が徐々に大きくなり上昇していく。


バババババババババババ!!!!


盾の男が放った波動は上昇し続けついに炎の鳥を押しつぶして消し去った。


『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


大歓声が沸き起こる。


「よく頑張りましたね、あなた」


気を失って倒れ込んだスパッツを抱き抱える盾の男。


「担架をお願いします」


入退場口に方に歩いていく。


「くっ!て・・手前ぇ!いったい何者だ?!俺様のファイヤバードフォトンの破壊衝撃を消し去りやがって!許さねぇ!しねぇ!」


レーザーシュートは無数の炎レーザーを放った。


バババババババァァァァァン!!!


背中に背負っている巨大な盾にあたり炎レーザーは蒸発するように消えた。


「な!なぁにぃ?!」


盾の男はレーザーシュートの攻撃に何ら反応する事なく、気を失っているスパッツを救護人の持ってきた担架に乗せた。


ブゥゥゥゥン!!!


レーザーシュートは外周壁にぶら下がっている槍を手にし、炎魔法を纏わせて思いっきり盾男目掛けて投げつけた。


ガシィィィッ!!!


盾男は半身避けて片手でその槍を掴んだ。

槍は高温で燃え盛っているがその男には全くダメージがなかった。

盾男は無言でそのやりを手首を返しレーザーシュートへ投げ返した。

炎魔法をまとった槍は凄まじい勢いでレーザーシュートの方へ飛んでいく。

その勢いはレーザーシュートのそれと比べ物にならない程の威力とスピードだった。

さらに怪我を負っているレーザーシュートに避ける力は残っておらず、レーザーシュートは死を覚悟した。


ガシィィィッ!!!


槍はレーザーシュートの直前で止まった。

掴んでいたのはスノウだった。


「ん・・?」


レーザーシュートには目も暮れていなかった盾男はスノウが槍を止めた事で興味を持ったのか、目線をスノウに向けた。


「おや?癇癪起こして観客を巻き込んだ攻撃する輩はグラディファイサーとしての資格がないので消えてもらうつもりだったのだけれど、それを止めるというのはどういう理由ですか?」


「確かにこいつは最低できちんと裁かれるべきです。ただその裁きはこの場じゃなくていいと思っただけです。グラディファイサーなら試合で倒されるべきだ。乱入者のあなたがトドメをさしていい話じゃないと思いますが?」


「へぇ・・。確かにその通りですね、民主主義国家では・・・ですが。ここはゾルグ王国です。国王が全てを決めます。その男の生死もです。そして私は国防長官であり、国王直下の戦闘組織ヘクトリオン5のひとりで護衛隊長をも務めています。いわゆるこの場における国王の代弁者・・・という事です」


「!!!」


グレン、メザを始め周りにいる者たちが一斉に驚きの表情を見せる。


「これは大変失礼しました。私のような新参者には貴方様のような高貴な方とお会いする機会もないため、出過ぎた真似をしました。どうかお許しください」


スノウはこの国のヒエラルキーを理解しきっていないため、揉め事を起こさぬよう謙って挨拶しこの場をやり過ごす事にした。

絶対的な主人であるとスノウを慕っているソニアにしてみれば悔しさを隠しきれない状況だが、ぐっと堪えていた。


「いえいえ、分かって下さればいいのですよ。さて、それでは」


シュン!


一瞬でスノウの真横を過ぎ去る風が吹いた。


(何?!)


ドゴォォォン!!!!


スノウが振り向くと、盾の男がレーザーシュートの頭を地面に叩きつけている状態だった。

グレンもメザも驚いている。

ソニアも目を見開いている。


(速い!おそらくこの場でこの盾男の動きを追えたのはおれだけか・・。グレンやソニアは追えていないはずだ。相当な手練れだ・・・)


メリメリメリ・・・・


地面に押さえつけられたレーザーシュートの頭蓋骨が軋む音がする。


「あなたは・・・グラディファイス会訓を理解していないようだからここで罰することにします。頭に叩き込んでくださいね。 “グラディファイス会訓第3章第2節、グラディファイサーはその能力や魔法、技の威力の大小問わず、如何なる理由があろうとも闘技場外の観客、動物や設備などあらゆるものにも危害を加えたり、破壊行動による被害を与えてはならない。

万が一危害損害を与えた場合、死をもって償うことも辞さないものとする“ さぁ復唱してください」


メリメリメリ!!!


盾男はレーザーシュートの頭蓋骨をさらに押し付ける。

そしてそれと同時に頭蓋骨が軋む音がさらに響く。


「どうしましたか?言わないならば、反逆罪としてこのままこの頭を潰さなくてはなりません。私はそんなことはしたくないのですよ。さぁ復唱してください」


「んぐぐ・・・んががぁ・・・」


押しつぶされている状態で言いたくとも言えない状態になっている。


「なんでしょうか?そんなにまで頑なに拒むという事なのですね・・・。あなたには会訓を破らなけばならない程のプライドか信念がおありなのでしょうか?」


「んががぁ!んあいあいあ・・おののおおぐあぁぁ」


一生懸命復唱しようと試みるレーザーシュートの頭蓋骨をさらに地面に押し付ける盾男。


(喋らせないようにしてる・・・なんてサイコ野郎だよ・・・)


スノウはイライラを抑えるので必死だった。

善良な人物を演じているが建前で殺戮を好む者のオーラだった。

だが、観客席には盾男の声しか聞こえない。


グサァァァァ!!!


レーザーシュートは気を失う前に抜け出そうと、ブーツに仕込んでいた短剣で盾男の手を切った。

血が噴き出て周囲に飛び散る。


「ぐあー!いたいー!何をするのですー!」


下手な演技だった。

実際にはレーザーシュートの脇腹を切りその血飛沫を巻き上げているだけで、短剣の歯はボロボロになってとても何か切れる状態のものではなくなっていた。

それをさも自分はこのレーザーシュートに切られましたという下手な演技を民衆に向けて示していた。


「や・・やっちまえー!」

「そんなグラディファイサーの風上にもおけねぇやつは処刑だー!」

「国防長官様―!処刑ですー!」

「我ら国民に刃を向けるグラディファイサーは罰を受けろー!」


ヤジが飛び始めた。

レーザーシュートのファンたちは突如現れた上級役人に苦しい思いを抱きつつも黙るしかなかった。


メリメリメリメリメリメリ!!!


レーザーシュートの頭蓋は地面にめり込んだ。

瞬時に土を被せてうまく隠したため、グレンや民衆からは見えていないがスノウは全て見ていた。

地面にめり込んだのではなく、頭蓋が潰されていた。


ビグビグ!ビグビグ!


レーザーシュートの体は死んでいるにもかかわらず痙攣し、さも生きているかのような動きをしている。


衣服についた埃を払う盾男。


「おお、そういえば自己紹介がまだでしたね。改めまして私の名はセクト・ゼン・ウーグ。国防長官であり、ヘクトリオン5の1人でもあります。以後お見知り置きを。ええっと?」


「スノウです」


「ああ、ありがとうスノウさんでしたね。ルーキー4の一員の。あなたには秘められた強さを感じます。上位に上がってくるのが楽しみですね。では精進してください」


そう言い終えるとセクトと名乗った盾男はVIP席に座った。


「さぁ、残ったお二人で続きをどうぞ。始めてください」


「いや、俺はここで棄権します。確か会訓でも棄権は認められていたはずです。あなた様の戦いぶりやレーザーシュートの攻撃を止められなかった自分の弱さを痛感しました。ローラスで基本からやり直します」


グレンは棄権を申し出た。


「いいでしょう。それもまた賢明な判断かもしれませんから。このグラディファイスは勝てば正義、負ければ死という過酷な戦いです。ご自身の力量を正確に把握することもまた、強さの秘訣であり、勝ち続けるための必要条件というわけです。さぁ審判」


「しょ・・・しょ、しょ、勝者!インビジブルアロー・メザ!!!」


『わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


結果には若干面白みに欠けるものがあったものの、レーザーシュートの超技やそれを華麗に止めた国防長官の乱入で大いに盛り上がった事から大歓声が沸き起こった。


「スノウ・・・」


VIP席に戻ったスノウを見つめるソニア。

スノウは冷静に状況を見ていた。


(この世界・・・越界した初日から異常な世界だと認識していたけどこれで確信できた。裏で何か複雑かつ暗い歴史があるようだ・・・。この世界でなすべき事は何だ?その複雑かつ暗い歴史に目を向けなければこの世界からホドへ・・・アレックスたちの元へ越界し戻る事はできない気がする・・・)


そこへ棄権したグレンがやってきた。


「いやぁ、参ったぜぇ!レベル高ぇしよ!ちょっと基礎から出直すわ、俺。まぁコウガのやつもいるしな。ははは。じゃぁちょっと控え室で休んでくるわ。手当てしたら戻ってくるからよ。スノウの試合観ないとな・・・」


そう言いながらグレンは少しふらつきながら控え室に向かって歩いて行った。


・・・・・


・・・


コツ・・コツ・・コツ


控え室に向かうグレンの前にメザが壁に寄りかかって立っていた。


「どうしてだ?棄権などお前らしくない」


「メザナ・・・」


「はみ出し者のお前がこんな場にいるというのは何か目的が有ったのだろう?」


「お前もだろう?おそらくはヘクトリオン5に関係している」


「・・・」


「図星か。それも風の噂で聞いたラガナレス家に関係しているのではないか?」


「・・・」


「あのセクトという男の実力・・・見た通り相当なものだ。それと同等以上の者を相手にするなら死を覚悟しなければならない」


「お前はいいのか?もしかして父親の・・」


「いや、私はただ自分の力を試したいだけだ。そして先程の試合で自分の実力を知った。今ルデアスに上がるだけの実力がないと自分で認識した・・・それだけだ。私に気を遣う必要はない」


「気など遣っていない。それにお前より私の方が強いからな」


「ふふ・・」


「今後あたらないとも限らない。それまで精進しておくといい。次はきちんと決着をつけさせてやるから。じゃぁそろそろ行かせてもらう。元同胞として、そして・・・いや元同胞としてこうして接するのは今回で最後だ。これからはインビジブルアロー・メザと荒くれ剣グレンという関係だ。じゃぁせいぜい頑張れ」


メザはそう言い終えると左手を上げて手を振りながら歩いていく。


「メザナ!」


メザは振り向かずに足を止めた。


「こんな事になってしまって申し訳ない。後悔はないが・・・どうか死ぬなよ・・・」


メザは何も言わずに少し肩を震わせたあと再び歩き出し奥の控室に消えた。



・・・・・


・・・


闘技場内は試合とは違った歓声で大いに沸いていた。

予定通り進んでいれば第2試合後にエキシビジョンをやるはずだったが、予定を変更し第3試合終了後の今エキシビジョンを行っていたからだ。

一度の打撃で重ねた鋼鉄の盾をどれだけの枚数破壊できるかというものだった。

優勝したのはスノウとも一度戦った事のある巨漢、タロスというグラディファイサーで5枚重ねた鋼鉄の盾を変形させたのだった。

しかし、その直後ヘクトリオン5でありながら国防長官のセクトが鋼鉄の盾を最も簡単に手で何度も折り込んで鉄の塊にしてしまった。

それを見てさらに観衆は沸いた。


そしていよいよ第4試合、剣と拳の激闘 豪剣神マイン vs 雷帝スノウ が始まる。


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