<ゲブラー編> 16.炎 対 槍
16.炎 対 槍
第2試合がなかなか始まらない。
敗れたバーマンを場外へ運ぶのにてこずっていたからだ。
本人を運ぶのも一苦労で、20人ほどが巨大なタンカを持って大きな荷馬車に乗せて運ぼうとしているのだが、タンカがバーマンの重さに耐えきれず幾度となく壊れてしまう始末で30分ほどかけてやっと運び出した。
加えてさらに時間がかかったのは超巨大斧で、重すぎる重量で誰も運ぶことができなかったため、急遽鎖を巻き付けて滑車で引き摺って場外へ運んだのだがこれに1時間かかった。
恐ろしいほどの重量の斧を軽々と振り回していたバーマンが只者ではないことが改めて証明されたわけだが、その攻撃を受けながらも勝ち、優雅にはけていったエスカもまた化け者級の強さであることが証明された。
そんな間延びしてしまっている中、次の試合を待つコウガは落ち着かないのか控室前の廊下で槍の型をゆっくりとした動作で行っていた。
カツカツカツ
「光槍のコウガ、そろそろ第2試合が始まります。闘技場までお願いします」
コウガの型の動きが止まり汗が飛び散った。
「いよいよか」
エスカを控室のベッドに寝かせ休ませるとして、コウガと共にスノウたちも闘技場に向かった。
スノウたちはVIP席で見守っている。
「長らくお待たせしたぁ!第2試合を開始するぅ!!」
観衆は2時間近く待たされたにも関わらず変わらず沸いていた。
それだけ第1試合が凄まじく、観衆もエキサイトしたということなのだが、試合を見にきていた他のローラス(上位20位)のグラディファイサーたちがサービスで観客席を周りサインや握手をして間を持たせてくれたのも観衆を飽きさせない要因となった。
そのローラスたちにしてみれば、この場に自分たちが立てていない屈辱と今後戦うことになるであろうルデアスの実力を視ることがこの場にいる主な目的であるが、何より話題の中心となっているルーキー4のせいで掠れてしまっている自分たちの存在をアピールする目的もあったので、この間延びした時間帯はラッキーだったと言える。
「それでは第2試合を始める!挑戦者光槍コウガ!そしてそれを迎え撃つ紅炎鬼ヒーン!前へ!」
ヒーンとコウガは前に出て向き合う。
(この身長150センチメートルほどの小柄な体格からあれほどの魔力・・・絶対に油断してはならない。むしろ魔法に加えて素早いフィジカルな動きも警戒すべきだろう・・・絶対に油断しないぞ!)
コウガは心の中でヒーンを分析していた。
(少し歯が痛いな。昨日食べたケーキのせいか?これは試合が終わったら速攻で歯医者に行こう。あと本の読みすぎか目も疲れているな。歯医者の後に目医者も行こう。うん、それがいい)
対するヒーンは試合が終わった後の事を考えていた。
「よぉし!始め!」
シュバババババ!!!
その掛け声と共にコウガは先手必勝とばかりに連続突きを放った。
ヒーンはそれを素早く全て避けて姿を消した。
「私からのプレゼントだよ」
「!!」
突然耳元で囁くような声が聞こえ、振り向き様に槍攻撃を放つコウガ。
しかしその槍攻撃は空を切った。
「後ろだよ」
またしても耳元での囁き声が聞こえ槍を向けるがそこには誰もいない。
「!!!」
よくよく見ると槍の剣先に炎が3つ、まるで串刺しにしたかのように灯っていた。
ザザッ!!
コウガは不利になると知りつつヒーンから距離を取って槍を構えた。
武技で炎魔法に対峙する時に重要なのは間合いだ。
炎魔法の射程距離は圧倒的に長いのに対し、武技は当たる距離まで近づく必要がある。
今コウガはせっかく詰められていた自分の攻撃が当てられる間合いから間合いを広げ自ら不利な状況に変えたのだが、そうせざるを得ない嫌な予感がしたのだ。
「へぇ、お前なかなかセンスいいね。流石はルデアスに挑戦する機会を得るだけのことはあるか」
「くっ・・・」
返す言葉が見つからないコウガ。
速さには自信があったが、ヒーンの動きを全く捉えられない状況だったからだ。
(あの者の速さの原因をつきとめないと負けるぞ・・・)
「はっ!!」
心の中で状況を整理しているほんの一瞬でヒーンは視界から消えた。
「こっちだ」
ブーーン!
また耳元で囁く声がきこえたため、コウガは声のした方向に槍を振り回した。
今度は手に火がつけられていた。
急いで地面にその手を擦り付けて火をけすコウガ。
その間もやりは手放さない。
「やるじゃないか。普通はここで武器を手放して慌てて火を消そうとするんだけどな」
今度は右30メートルほど先からヒーンの声が聞こえた。
VIP席から見守っているグレンは怪訝そうな顔をしている。
「コウガのやつ、一体何やってんだ?さっきから何にもないところを焦ったかのように攻撃してるけどよ」
「声を追いかけているんだろう。いや追いかけさせられているって言った方がいいか。あのトリックを早めに破らないと早々に負けるな・・・」
「ええ、そうですね。彼は炎魔法の使い手とまともにやりあったことがないですから、初めての経験といってもよいですし」
「え?なになに?!どんなトリック?!教えて?ソニアちゃん!」
「グレンよぉ!ごちゃごちゃうるせぇんだよ!黙って見てろよぉ!」
ナージャがグレンを嗜める。
横でじっと黙ってアンジュロが自分の兄の戦況を見守っているのだが、一番心配であろうアンジュロが堪えて黙って見ているのに、煩く聞き回るグレンにナージャは苛立っていた。
尚も何もないところに槍攻撃を繰り返しているコウガ。
観衆も見飽きたようで、野次が飛び始めた。
「おーい!光槍とか言われてるくせにいつまでわけわかんねぇところ突っついてんだ?」
「コウガ!お前目が見えねぇのか?」
「いい加減攻撃あててくれよぉー。こっちは眠たくなってきたぜー」
心ない野次に食いしばって黙っているアンジュロ。
「何だぁあいつら!ムカつくなぁ!ガツンと一発お見舞いしてやろうか!」
「やめとけよグレン!お前馬鹿か!なんでアンジュロが我慢してんのにお前ぇがピーピー喚くんだよ」
「ぐぅ・・」
グレンは下を向いてだまりこんだ
(言い返せない正論言いやがってこのガキ・・・。しかしアンジュロのやつ成長したな)
(コウ兄・・・)
コウガはその場に立ち下を向いていた。
「ついに諦めたかぁ?!」
「やっぱり早すぎたんだよなぁ!いきなりルデアスなんてよぉ!」
「さっさと負けを認めて控室もどれや!」
「く!あいつら!」
グレンは思わず立ち上がって野次を飛ばすグループを睨みつけた。
それをみた野次を飛ばしたグループの者たちはすくんで座り込んだ。
「そうだそうだ!どんだけ退屈な試合やってんだよ!」
「お前の突きの練習見にきてんじゃねぇんだぞ!」
「落ち込むなら他でやれ!」
「あぁあ!眠てえ!これじゃぁグラッドの試合の方が100倍楽しめるぜ」
「か!えーれ! か!えーれ!」
『か!えーれ!か!えーれ!』
至る所から野次が飛び始め、グレンは困惑した。
そしてどこからともなく帰れコールが起き始め、それが大合唱となってアムラセウムないに響き始めた。
「こいつら一体なんなんだよ!ムカつくぜ!」
「まぁ人間性ってこんなもんだろ。こんな血みどろなショーを楽しみに見来たり、人の命で賭け事やったりするくらいのやつらだから、これくらいは当たり前だ。みんなおれたちを応援しているように見えるけど実際に期待されているのはおれたちが見せる血みどろショーだよ。それを派手に見せてくれんじゃないかってのが期待されてるところだ」
「そんなこといったらよ、負けた奴らうかばれねぇじゃねぇか」
「グレン、敗者に何かあるとでも思ってるのか?最初から負けても慰めてもらえるとか思ってるならこの戦いはやめた方がいい。現にさっき負けたバーマンを気に掛ける観客はひとりもいなかったろう?」
「くっ・・!!」
(言い返せねぇ正論を言う奴ばかりだぜ・・・くそ!なんなんだこのグラディファイスの胸糞わるい感じは!)
「だけどスノウ、お前意外と冷てぇんだな。なんかちょっと見損なったぜ」
「・・・」
相変わらず下を向いているコウガ。
ところどころに火傷が増えている。
「おーい!寝てんのかぁ?!」
「動けよ!お前にいくら掛けたと思ってんだよ!」
「紅炎鬼!とっとと燃やしちゃってー!!」
すると突如コウガが動き出す。
槍の型をやり始めたのだ。
鮮やかな動きではあるが、決して攻撃を与えるとか、防御するとかではなくただたんに槍技の型を行っているだけだった。
「もう見てらんねぇよ・・・どうしちまったコウガ・・・」
グレンは目を覆った。
しばらく型の演舞が続いた。
「ん?!」
グレンはコウガの周りに砂埃とは別に水蒸気が舞っているのに気づく。
「なんだ?!」
「やっと気づいたか」
「そうですね。少しだけ勝機が見えてきました」
「なんだよスノウ、ソニアちゃん!教えてくれ!」
「黙って見てろよ」
コウガの型は次第に広範囲に広がっていった。
それと共に水蒸気が立ち込める範囲も広がっている。
「わかった。そこか!」
コウガは槍を思いっきり3時方向に投げた。
「何ぃ?!槍を投げやがった!コウガのやつ!やけくそにでもなったか?!」
ブショォァァァァ!!!
槍が凄まじい勢いで飛んでいく。
ガキィィィン!!!
コウガの槍が外壁に突き刺さった。
「あらら、見つかってしまったか。だけど意外と時間かかったな。結構ボロボロになってるけど大丈夫かい?」
刺さったコウガの槍にはローブの端を串刺されて動きを封じられたヒーンがいた。
すぐ様コウガはヒーンの方に向かって突進した。
「おっとやばいな」
ヒーンはコウガの槍を引き抜くとコウガに投げ返し、その場から離れようと素早く動く。
コウガは投げ返された槍を掴むとヒーンに向かって方向を変え突進する。
「絶対に逃さない!流星光槍!」
コウガは無数の素早い突きの槍攻撃をヒーンに向けて繰り出す。
「この距離で放つって少し焦ったようだね。君の槍の間合いは把握しているよ!」
しかしコウガの槍の突きがヒーンに傷を与え始める。
「な!何でだ?!うわぁ!!」
バシューーー!!!
コウガの突きがヒーンにヒットした。
左肩にヒットしたらしく、伝って左手の先から血がポタポタと落ちている。
「なるほど、突きも極めると飛ぶ突き撃を生むってことね。ちょっと侮ってかな。非礼を詫びよう」
「そんなものに価値はない!詫びなど不要!覚悟!」
コウガはさらに間合いを詰めて攻撃を繰り出す。
「スクリューバレットォ!!」
コウガは自身の体ごと回転しスクリューを生み出し、そこから飛ぶ突き撃を放つ。
回転する突き撃はまるで弾丸のように正確かつ着実にヒーンのこめかみに向かって飛んでいく。
ヒーンはそれをかろうじてかわす。
だが、第2弾、第3弾と続き、かわしきれなくなる。
「チィッ!仕方ないね。煉獄の壁!」
ヒーンがそう叫ぶと、青い突如炎の壁が現れる。
コウガの放った突きの弾丸がその壁に衝突した瞬間、突きの弾丸は解けるように消滅した。
「何?!」
「煉獄の渦!」
ヒーンが呪文を唱えると炎の壁はうねり始め太い槍のような形になってコウガの方向へ飛んでいく。
「なんの!流砂流渦」
コウガは槍を地面に向けて高速に回し始めた。
すると砂を巻き上げ竜巻が発生する。
「ふん!」
その竜巻をヒーンの放った煉獄の渦にぶつける。
「スクリューバレットォ!!」
さらに槍の突き撃を放つ。
グワッシャー!!!
煉獄の渦はコウガの流砂流渦とスクリューバレットの合わせ技で相殺されてしまった。
「私がそんな短調な攻撃すると思ってる?」
相殺したと思われた煉獄の渦は複数様々な角度から不規則に飛んでくる。
「何?!」
コウガはその場からとびのいて避けるしか無かった。
だが、その動きをまるで読んでいたかのように煉獄の渦が襲いかかる。
「煉獄の波」
5つめを避けたところでヒーンの放った地を這う炎の波によって足場を失い体勢を崩してしまう。
バッシャーー!!!
ついにコウガは煉獄の渦を喰らってしまった。
黒焦げになった体が宙を舞う。
「コウガー!!!」
グレンは立ち上がって叫ぶ。
アンジュロは握る拳から血を滲ませてグッと堪えている。
勝ちを確信したのかヒーンはフードごしに頭をかきながら中心に向かって出てきた。
「うわー、やり過ぎちゃったかな。まぁ仕方ないよな。これはグラディファイス、試合に出るってことは死を覚悟してるってことで。じゃぁジャッジよろしく」
ヒーンは黒焦げになったコウガが生きているかを確認するためにコウガの方に歩いてくる。
「しょ・・・勝者ぁ・・」
シャヴァーーン!!!
審判が勝敗を告げようとしたその瞬間、地面から槍が突き出てヒーンをしたから串刺しにした。
「何?!何が起こった?!」
グレンは状況が見えず戸惑っている。
「な・・・なんだっ・・・て・・。まさか・・地面に隠れて・・・じゃぁあの黒焦げのものは・・・?」
槍で串刺された状態で状況がわからず倒れていくヒーン。
ガバババ・・
地面から手が出てくる。
そして上半身が出てくる。
出てきたのは上着を脱いだコウガだった。
そして串刺されたヒーンを槍ごと高らかに持ち上げ掲げる。
「まさか・・・!あの紅炎鬼の煉獄の渦とかいう炎の巨大な渦攻撃を受ける直前に地面に穴掘ってそこに隠れたってのか?!」
グレンは信じられないという表情で話す。
スノウは黙っていた。
「じゃぁあの燃えて宙に舞って飛んでいったのは?」
「地面を槍で掘った際の土の塊でしょう。うまく細長く固めて飛ばしたようですね」
ソニアがグレンの問いかけに答える。
「奢りだ!自分の炎から逃れられないと思い込んでいる奢りだ!それがヒーンの敗北の理由だ!」
コウガはヒーンを串刺した槍を高らかに掲げて叫んだ。
「コウガ!」
スノウは思わず叫んだ。
叫んだあとにしまったという表情を浮かべるスノウ。
すると突如串刺したヒーンの体から炎が吹き出した。
「断末魔ってやつか。流星光槍!」
コウガは光速の突きの連撃をヒーンの体目掛けて放つ。
ヒーンの体は粉々に砕け散り、先ほど吹き出した炎もコウガの槍でかき消された。
(ん?!妙な手応え・・・どういうことだ・・?)
「奢っているのは君の方だったねコウガくん」
「!!!」
コウガは思わず声のする方向に槍を振るがそこには何もなく空をきった。
「まさか?!」
いつの間にか闘技場の外周に等間隔で炎が灯っていた。
その炎が急に大きくなる。
ボワ!!
そしてその炎から柱が伸びるように炎がせり出てくる。
まるで生きた蛇のようにクネクネしながら素早い動きで一斉にコウガの方に向かってくる。
コウガは思いっきりジャンプしてかわそうと試みるが無数の炎の蛇はコウガの動きに追従するように迫ってくる。
「そうか・・・俺が突いたのはローブを被せたダミーだったのだな。土塊を炎で操って動かしていた。ローブとフードで体も顔も見えなかった状態を疑うべきだった。奢り未熟だったのは俺の方だった」
(夢半ばで倒れるのか・・・。これもまた運命か・・・。父上・・・)
コウガは潔く負けを認め観念し、槍の構えを時炎の攻撃を受けることを覚悟した。
無数の大蛇の炎がコウガに襲いかかる。
パチン!
指を鳴らす音と共に一瞬で炎が消える。
コウガはその光景を見て膝から崩れ落ちる。
「完敗だ・・・」
奥からヒーンが歩いてくる。
「なぜ炎の攻撃を止めたのですか?」
「無駄に死ぬことはないでしょってことだね。それに君、鍛えれば強くなるからさ。這い上がって来いよ。できるだろ?」
「もちろんです・・・」
「しょ・・勝者!紅炎鬼ヒーン!!!」
『ワァァァァァァァァ!!!』
大歓声が沸き起こる。
「なんと、ほとんど傷付かずに勝敗がつくグラディファイスなど何年ぶりだろうかぁ!!」
審判は歓喜に震えたのか叫ぶように観衆に訴えた。
『ワァァァァァァァァ!!!』
おそらくつまらない試合であれば観衆からはブーイングがあったことだろう。
怪我人や死亡者が出る生死ギリギリの戦いに皆興奮するため、今回のようなほとんど無傷の試合など盛り上がらないのがグラディファイスだからだ。
だが、無数の炎の大蛇がコウガに迫り来る派手な演出が観衆を魅了したことでヒーンの鮮やかな勝ち方に大いに沸いたようだ。
「あの男、なかなかの紳士であり、計算高い炎魔法の使い手のようだな」
「ええ、わざとあのように派手な炎魔法を使うために詠唱時間を稼ぐような戦い方をしていましたからね。始まる前からコウガの敗北は決まっていたようなものでした」
「ちょ、ちょっと待てよ、スノウにソニアちゃん!お前らちょっと冷たくねぇか?!わかってんならなぜ教えてやらねぇんだよ!」
「コウ兄はそんなこと望まない!誰かにヒントもらって勝てたからといって喜ぶような男じゃないんだ!」
アンジュロが割って入る。
「その通りだな。コウガは勝ちに固執しているけど勝ち方にも拘っているんだよ。それがあいつの流儀だ。ただ勝てばいいってもんじゃない。あいつは自分の実力で勝ちたいんだよ。だから力を欲するし、訓練も誰よりもやってる。それくらい理解してやれよグレン」
「ぐぅ・・・。す・・・すまねぇ」
「おれに言うんじゃなくてアンジュロに言ってやれよ」
「そ・・そうだな。すまなかったアンジュロ。お前の兄貴に対して失礼なことは言っちまった。すまねぇ」
「いいんだグレン。コウ兄の事を思って言ってくれたってのもわかるしよ」
「アンジュロ、成長していますね」
「そうだな。1人だけグラッドになれなかったあの日からコウガと同様に相当な鍛錬を積んできたし、おれたちと一緒にいる中であいつなりに真摯に向き合ってきたからな。人は自分の弱さを知った瞬間から大きく成長する。アンジューローなりに信念を持ってるって事だな」
「そうですね。さすがはスノウ、よく見ていらっしゃる」
(やめてくれよソニア。ちょこちょこと照れくさい褒め言葉差し込むの・・・。会話がとまってしまうじゃないか・・・)
コウガは堂々と歩き、控室に戻っていった。
グレンが声をかけようと控室に向かおうとしていたが、スノウに止められた。
理由がわからず、少し拗ねているグレンだった。
控室から声を噛み殺す悔し泣きの声が微かに漏れていたが誰にも聞こえなかった。
・・・・・
・・・
「それでは第3試合を始める!グラディファイサー前へ!」
神レーザーの二つ名を持つレーザーシュートが手を高らかにあげて前へ出た。
続いて以前スノウとやり合ったローラスのスパッツ・カブラミオが前へ出た。
彼の二つ名は竜巻激槍だった。
スノウは何度かスパッツの戦いを見た事があったが、以前やり合って以降着実に力をつけており強くなっていることが見て取れた。
そして続いてグレンが前へ出た。
グレンは荒くれ剣の二つ名を持っている。
観衆がつけた名だが、まさにグレンの戦い方が荒ぶる鬼神のような剣捌きであることからついたものだった。
最後に前に出たのはインビジブルアローの二つ名を持つメザという小柄で細身の男だ。
髪は天然パーマのようにくるくると巻いている特徴的なもので頭にはゴーグルのようなものをつけている。
「さぁて、グレンのやつはどこまでいけるかな」
スノウはさほど心配していないようだった。
「勝てますか?グレンは」
「さぁな。他の者たちの実力が見えないからな。スパッツも以前戦った時よりは強くなっているし、弓使いメザの戦いっぷりは以前見た事があるけど、グレンもそれなりに成長しているからね。でも一番の強敵はレーザーシュートだろうな。お前はどう見る?」
「そうですね、しばらくは均衡状態が続き、何かのきっかけで2人脱落すると思います。残る2人で一騎打ちになるかと」
「その残る2人とは?」
「残念ながらレーザーシュートとメザかと」
「やっぱりそうなるか。グレンが勝つのは相当難しいよな・・・」
「リーチが短くて最も分が悪いですからね。真っ先に狙われるでしょう。不利な武器と、そしてこの試合の主役ですから。他の3人は早々に片付けたい対象のはずです」
「でも当の本人は自覚していないみたいだぜ?」
グレンは剣を高らかに天に掲げて勝利宣言している。
それに呼応し一斉に沸く観衆。
「グレンのやつバッカだなぁ!負けたら小っ恥ずかしいぜ?ああゆう “ぱほーまんす” っての?」
「パフォーマンスだな。ナージャの言う通りだが、まぁあれもまたグレンのいいところだよ。あいつはあいつなりに自分を鼓舞してるんだと思う」
「コブ?殴られたか?まぁいいや、負けて半べそかいてたらからかってやるから、くくく」
「よーし!それでは試合開始!!!!」
グレンとローラス3人のマニエと呼ばれるバトルロイヤルスタイルの戦いが今始まった。




